• 検索結果がありません。

2 すでに結婚した者とこれからする予定の者たち

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "2 すでに結婚した者とこれからする予定の者たち"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

第5章 現代の若者たちにとっての結婚

1 はじめに

杉田 真衣

 若者の〈学校から仕事へ〉の移行が困難となっている 現在、親元を離れて新しく家族をつくることもまた難し くなっている1。本章では、結婚をめぐる若者たちの状 況を、高校卒業後に結婚・出産という進路を選択したケー スおよび3回目調査時点で結婚を予定しているケース と、結婚を強く望みながらも予定はしていないケースの 二つに分けて検討する。そのことによって、新たに家族 をつくる展望をもつことを可能にしている条件は何であ るかを、彼ら彼女らの経験に即して具体的に明らかにし たい。あわせて、結婚を望むに至る背景にはどのような 状況があるかについてみていきたい。

2 すでに結婚した者とこれからする予定の者たち

 本節では、高校を卒業してすぐ結婚したケース、それ から特定の相手とこれから結婚することを考えている ケースについてみていく。

1)高校卒業後に結婚・出産した堀実香(A高校出身)

 堀実香は、2回目調査時は出産で忙しく、高卒3年目 の2月に約3年ぶりにインタビューをおこなうことがで きた。彼女は高校3年生の10月の時点で、介護福祉士 の資格を取得できる専門学校への進学が決定していた。

しかし1月に妊娠が判明し、アルバイト先で出会ったと いう当時大学4年生の相手と話し合い、結婚・出産する ことを決めた。専門学校には通いたかったが、学校側か ら体が危険だと言われて入学を取りやめた2。4月に婚 姻届を出し、身内だけで挙式した。パートナーは大学卒 業後に量販店での販売のアルバイトを始め、5月にふた りとも実家を出てパートナーの親戚が所有するアパート で暮らしはじめた。実家の近くにある病院で出産し、そ の前後2週間は実家で過ごした。出産時にはパートナー、

双方の両親と中学の友人たちが駆けつけたという。

 子どもは生まれて半年ほどは手がかからず、動き回る ようになってから大変になったという。靴を履いて歩け るようになったころから、新聞の折り込みチラシで知っ た市の無料の幼児教室(リトミック)に月2、3回通う

ようになった。そこに来る母親には自分より年上の人が 多いが、しだいに打ち解け、家に遊びにいく関係になっ た人もいる。堀と近い時期に出産した高校の同級生とも、

在学時はそれほど親しくはなかったが、妊娠をきっかけ に話すようになったという。「あっちの親とはどういう 関係?」「だんなとは?」「家事の中で何が好き?」といっ た他愛もないことを話しながら、お互い初めての結婚生 活・子育てにかんする情報を共有しようとしている。

 堀は、1、2か月に一度親に子どもを預けてパートナー とふたりだけの時間をもつなどして、気晴らしをしてい る。子どもと3人で、車で買い物に出かけたり公園や動 物園に行ったりするのもよい気分転換になるという。妊 娠中は進学した友人たちがうらやましかったが、出産後 は悩まなくなった。自分が教えたことを子どもがそのま まやってくれると達成感があるなど、子育てはおもしろ

く、産んでよかったと思っているとのことである。

 パートナーはアルバイトを1年ほど続けたのちに転職 し、正社員となった。正規雇用にこだわったわけではな く、収入面でよりよい職を選んだという。子どもの衣類 は人からもらったり、食費を極力抑えるなどして、パー

トナーの収入だけで生活できている。子どもの幼稚園入 園後は、以前経験したレジ打ちの仕事をパートでしたい

と考えている。

2)「プチ同棲」生活を送る岸田さやかと相良健3(と もにB高校出身)

 岸田さやかと相良健は高校の同級生で、高2で交際を 始め、高3で結婚を考えるようになった。在学時から、

双方の両親公認のもとに、曜日を決めて互いの家に泊ま り合う「プチ同棲」生活を始めた。親は20歳まではふ たりの生活について多少の面倒をみると言ったという。

岸田は保育士を志望していたが、家庭の経済的な状況か ら専門学校に進学することができず、高校卒業後ズー パーでのアルバイトを始めた。高3の1回目調査時には、

1年働いて貯金してから保育の専門学校に通うことを考 えていたが、20歳になったら結婚したいとも考えてい た。資格がなくてもパートで保育の仕事ができればよい、

子どもができたら働かない、とも話していた。岸田は高 卒2年目の春までスーパーで、その後はホームセンター でアルバイトをしており、収入は多くて月7、8万円で ある4。一方相良は、高卒後に就職した建設会社を約3ヶ 月後に辞めたのち、数ヶ月の失業期間を経て就職し、配 管工の仕事を始めた。3回目調査時まで約2年間続けて おり、日給は9千円、月収は20万円ほどである5。

 ふたりは在学時から家計を援助しつづけている6。岸

(2)

 田の場合、彼女の収入は祖母の借金の返済に使われてい  た。一方、両親や親戚の側も、ふたりのことを温かく見  守っているようである。たとえば母親たちは在学時から  二人分の弁当を作っており、相良が失業中のときは、岸  田の母親だけでなく近所に住む叔母も「タケー、まだ仕  事していないのかよ一」などと優しく声をかけてきたと  いう。

  こうしてふたりは「プチ同棲」生活を続けていたが、

 相良が配管工の仕事を始めて1年ほど経ったころに転機  が訪れた。仕事を辞めたくなった彼にたいし、岸田が「辞   めるんなら籍入れる」ぐらい覚悟して辞めてほしいと不  満をぶつけたのだ。最終的に相良は退職しなかったが、

 それがきっかけとなってふたりは挙式にむけて動き出し  た。まず、式場を見て回るバスツアーに参加して、高卒  4年目の4月に挙式することを決めた。親に挨拶にいく  と、相良の父親は「そんな挨拶いいから、とっとと結婚  しろ」と言ったが、岸田の父親は「月何万もらってるん  だ?」「保険にはちゃんと会社が入ってるのか?」など  とたずねてきたという。結婚式にかんしても、相良の親  は身内だけで挙式と食事をして終わるものだと考えてい  たのに対し、岸田の親は式だけでなく披露宴もかならず  おこなうと考えていたというように、両者の考えはかな  り違っていたが、50人ほどの規模で披露宴をおこなう  こととなった。在学時から貯めていた結婚資金は、具体  的な額は不明だが「金額が大きくなった」とのことであ  る。

  結婚後の生活については、1年間ほど「プチ同棲」生  活を続け、貯金が貯まったら車を買い、実家を出てふた  りで暮らし、若いうちに子どもをつくりたいと考えてい  る。10年後はどうしているかという質問にたいし、岸  田は「前は生きてればいいなって思ってたけど、今は夫  婦円満ならいいな」、相良は「親みたいにお金のことで  苦労はしたくない。(岸田の親だけでなく)うちの親も  借金とか抱えたりしてて、そういうことで喧嘩したりし  てるんで」と答えている。

3)休日はふたりで家で過ごす小林俊介と松村恵理子(と もにB高校出身)

 小林俊介は、高3の1回目調査のときに、同じ高校の 1年下の松村恵理子と交際しはじめて約3ヶ月が経って おり、離家について「彼女が早く家を出たいらしくて、

できれば、すぐ出たいんですけど(中略)整備士って給 料安いんですよ(中略)それを考えたりすると、1、2 年でもいいからお金貯めようかなって思ったんすけど、

まだ決まってないかな」と話していた。専門学校1年生

の2回目調査のときには、松村と別れて誰とも交際して いなかったが、「20代のうちあたりに自分の人生の先の ことを考えて、プランっていうか、結婚して家出てみた いな、そういうのはあるんですけど、まだ理想を追って る段階」と話していた。就職後の3回目調査のときには、

ふたたび交際していた松村とともにやってきた。

 小林は、専門学校を卒業して車検整備の会社に就職し た。給料は手取りで17万円とボーナスで、毎月3万円 を家に入れている。休みは月に5、6日で、朝は8時に は会社に着き、夜は0時を過ぎる日もある7。松村は高 校を卒業して美容室に就職したが、人間関係が原因で約

7ケ月後に退職した。そのあとはいくつかアルバイトを し、調査時は求職中だった。

 小林は親が離婚しており、居酒屋を経営する母親と二 人で暮らしている。松村は、母親は別居中で(両親とも に「愛人」がいるという)、生活保護を受給しながら的 屋の父親と4人の妹弟たち(高3、高2だが不登校、高1、

中1)と暮らしている。小林の休みの日はいつも、松村 が前の晩から小林の家に二泊してふたりで過ごしている と。小林の母親はふたりの交際を「あんまよく思ってな

かった」が、母親の店の10周年パー一・一一ティーのときに松

村が手伝ったころから、態度が変わってきたという。小 林が家で使っていた箸が古くなったので捨てたところ、

母親が松村用の箸も一緒に買ってきて「これ恵理子ちゃ んの箸だからね」と渡してくれたときに、小林は「認め られてるって実感が沸いた」と話している8。

 小林は、バイクと車を買って専門学校の学費を親に返 したら、家を出てふたりで暮らし、結婚することを考え ている。松村は「とりあえず早く家を出たい」といい、

その後は結婚して子どもをつくり、「子どもがちっちゃ いうちはやっぱそばにいてあげたい」が「あとは働いて たほうが」よいと考えている。

4)職場で出会った社員との結婚を予定している大野千 冬(A高校出身)

 大野千冬は高校卒業後スーパーに就職した。店舗でレ ジを担当していたが、入社2年目の2月からは本部で事 務を担当するようになった。給料は手取りで15、6万 円とボーナスで、月2、3万円を家に入れている。休み は週二日で、残業は多くて月5、6時間である9。大野 は2回目調査時に「このまま働いていくのもなんかやな 感じ」であると話し、20代前半で結婚して1年ほど働 いたあとに辞めるという将来展望を描いていた。

 大野は入社して4ケ月が経ったころから、同期の大卒

正社員の男性と交際している。2回目調査の時点で双方

(3)

の両親公認の関係となっており、職場の人たちにも交際 が知られていた10。3回目調査時には、その翌年に彼と の結婚を予定しており、式の準備を始めていた。大野の 母親はひとりっ子の大野が家を出るのは寂しいようなの で、ふたりの実家(いずれも首都圏)の中間あたりでふ たり暮らしを始めたいと考えている。結婚後は、家事・

育児のことを考えると1日8時間働くのは難しいので、

パートで働きたいと考えている。「家にずっといるのも なんか違うかな、と。いちおう家事を中心にしといて、

空いてる時間は働いて、ってやっていきたい」という。

スーパーは退職し、別の場所でレジか事務の仕事をした いと話している。

5)就職後に結婚を予定している神崎晶子(A高校出身)

 神崎晶子は、短大保育科1年生の2回目調査時には、

就職して数年働いたあと、20代半ばぐらいに結婚した いと考えていた。仕事と結婚の両立は難しいのでどちら かに専念したいとも考えていた。

 3年生の3回目調査時には、就職が内定していたとと もに、アルバイト先で調理の仕事をする同い年の高卒正 社員との結婚を予定していた。会社が大きいので彼の仕 事は安定しているとのことである。結婚のきっかけは、

同棲する計画を立てたところ、親戚の目があるので結婚 したほうがよいと彼の親から言われたことである。最近 は晩婚の傾向があり、自分たちはまだ若いので、そのと きはふたりとも驚いたという。神崎はまだ仕事をしたい という気持ちがあり、彼も「結婚する前にちゃんと1年 でも社会人として働いてほしい」と考えているうえ、結 婚資金も無いので、さしあたり同棲しながら働いて貯金 をしたいと彼の親に話したところ、理解を得た。神崎は、

卒業前の2月に実家を出て(彼は社員寮を出て)、職場 の近くで同棲を始め、その年の秋に結婚する計画を立て ており、すでに彼を両親に紹介していた。彼女の親は自 分の好きにしたらよいという考えで、「見守ってくれて る感じ」だという。なお彼女は、就職直後に新しいこと を同時に二つすることはできないと思い、同棲は始めて も結婚は秋より遅くすることを考えていた。

 実は神崎は、卒業後に就職するか、結婚するか、海外 に留学するか迷い、悩んだすえに留学をあきらめて、就 職後に結婚するという選択をした11。しかし、彼女は結 婚について「あの(2回目調査の)ときは結婚したいなっ て思ってたんですよ。親が早いし、まわりも、高校の友 だちとかも、すごい仲いい子とかもどんどん結婚してて、

(結婚って)いいのかな一って思ったけど、最近まだ遊 びたいなっていう気持ちもあ」ると話しており、進路決

定後も気持ちが揺れ動いていることがうかがえる12。

6)小括

 以上みてきたケースにおいては、結婚を考えるに至っ たきっかけは、妊娠(堀)や同棲を認めない相手の親の 意向(神崎)などさまざまであるが、総じて、結婚を通 じて将来を展望しているといえる。それが可能となって 一いるのは、ほぼすべてのケースにおいて男性側が学校卒

業後に正規雇用で就職していることなどから、経済的な 状況が比較的安定しているためであると考えられる。交 際が親、親戚や職場の人たちに認められ、見守られてい ることが、ふたりの関係を安定させている側面もあるだ

ろう。

 しかしながら、上述した経済的な安定性は、現在の若 年労働市場の厳しい状況にあって、あくまで相対的なも のでしかない。たとえば高校在学中に妊娠した堀の場合、

親戚が所有するアパートに住むことができなければ、住 居費が負担となって実家を出て子どもと3人で生活する

ことは難しかったはずである。またフリーターの岸田と 建設会社を退職後数ヶ月の失業期間を経て配管工となっ た相良の場合、離家が難しい状況においてふたりで家族 をつくるという夢を実現させるために、双方の親から支 援を得ながら「プチ同棲」という独自の生活様式をつく

り出していた。自動車整備士の小林とフリーターの松村 の、休日は小林の家で過ごすという生活は、この岸田と 相良の「プチ同棲」生活に近いといえるかもしれない。

3 結婚願望を抱きながらも結婚を予定していない者たち

 本節では、前節でみたケースのように結婚を具体的に 予定しているわけではないが、結婚願望を強く抱いてい るケースについてみていきたい。

1)美容室を退職してから専業主婦願望を強めている浜 野美帆(B高校出身)

 浜野美帆は高校卒業後、美容室に就職した。在職時の 2回目調査では、結婚したいかという質問にたいして「今 はまず一人前になることしか頭にない」と答えた。

 人間関係などが原因で美容室を退職したあとは、いく つかアルバイトをし、3回目調査時はテレフォンアポイ ンターのアルバイトをしていた13。浜野の家は母子家庭 で母親は病弱で働けないため、収入はすべて家に入れて いる。母親はその金額を姉や弟と比べて「お姉さんと弟 は一生懸命やっているのに、なんでおまえだけそうなの」

などと言ってくるが、母親よりも姉のほうが「こわい」

(4)

という。そのため浜野は、受注が取れなければ給料が下 がる制度のもとで、1日に電話を数百件かけながら必死 に働いているものの、肩身の狭い思いをしていた。その うえ、彼女は家族の申で唯一健康保険に入っていないた め、身体が弱いにもかかわらず医療費は全額自己負担で、

給料を一度親に渡したあとにそのつど親から病院代をも らわなくてはならない状況にあった。このようにストレ スの多い生活を送っていた浜野は、今やりたいことはあ るかという質問にたいして「専業主婦。もう専業主婦」

と答えた。そのとき頻繁に会ってふたりで過ごしていた 男性は、「付き合っているか微妙」「友達以上恋人未満」

とのことだった。

2)専業主婦願望を抱きつづけている吉川綾(B高校出身)

 吉川綾は、保育士を志望して専門学校に入学したが、

教育内容が医療中心であることが判明して退学した。そ の後におこなった2回目調査では、結婚は「20代前半

とかちょうどいいかな」といい、「結婚したらぜったい 働きたくない」と話していた。彼女は退学後、いくつ かアルバイトをしたり、キャバクラで働いたりしてい た14。将来展望としては、短期的には2回目調査時から の希望としてファッションビルでの販売のアルバイトを 望んでいるが、5年後(26歳)は「結婚してると思う」

と話している。「結婚したら働きたくない人だからね。

家庭に尽くすよ。ちゃんと料理も勉強して」と、引き続 き専業主婦願望を抱いている。

 2回目調査時には吉川に交際相手はいなかったが、3

回目調査のときには26歳の男性と交際して4ヶ月が

経っていた。キャバクラに勤めていたとき、吉川はイン ターネット上で源氏名だけでなく本名を出されて中傷さ れたり、脅迫的な内容の電子メールを送られたりしたこ とがあり、それがきっかけで「うつ」になったが、彼は rr殺す』みたいな」メールが送られたときに来店して長 時間居つづけてくれた客だという。「スミ(入れ墨)入っ ててかっこいい」という彼の仕事は鳶職で、「どんな仕 事だかよくわかんないけど、何か建物を作って」おり、

「ちゃんとお給料もいいのもらってる」とのことだった。

吉川は彼と結婚することを考えていたが、彼とは「ちらっ と」話す程度で具体的な話はしていないという。親には 照れくさいのでまだ交際について話していないとのこと

だった。

3)彼との結婚を望みつつ「幸せになれるかわからない」

という庄山真紀(B高校出身)

 庄山真紀は、専門学校への進学を希望していたが資金

が工面できず、2回目調査時は弁当屋でアルバイトをし

ていた15。週6日、1日12時間以上立ちつづけて働い

て得た収入(多くて手取りで月18万円)の中から、光 熱費などを払っていた。ビジュアル系インディーズバン

ドの音楽が好きな庄山は、当時バンドマンの男性と交際 して1ヶ月で、「(彼は)お金がないから、デート代も私 持ち」であり、「今はそいつにお金がかかる」と話して いた。彼がコンビニエンスストアでアルバイトをしてい るのは知っているが、詳しいことは訊けずにいた。将来 については「パートしながら専業主婦」と話していた。

 その後庄山は、弁当屋と並行して水商売やカラオケ店 でも働き、3回目調査時にはカラオケ店でのみアルバイ トをしていた。庄山は「ホステス」の仕事をする母親と の二人家族であるが、母親は高卒3年目の春に交通事故 に遭い、入院中に糖尿病や腫瘍などが見つかったものの 金が無いという理由で治療しておらず、さらにアルコー ル依存の傾向もあるという。

 3回目調査時には、庄山は上述した男性とは別のバン ドマンの男性と交際して約5ケ月が経っていた。バンド にかんするインターネットの掲示板を介して、ライブを 観たことがあるバンドのメンバー一・とやりとりし、一度ふ たりで遊びにいったのちに交際が始まった。1歳下の彼 は、バンドの解散後は「派遣の仕事でテント建ててる」

「肉体労働してます」とのことで、彼も母子家庭だという。

庄山は「(彼は)すごいいい人で。普通の恋愛で。でき れば私はこの人しかいないとは思ってるんですけど、す ごいホントに気を遣わないっていうか。あっちもそうで」

と話す。彼の母親とも仲が良く、彼が母親と暮らす家に 遊びにいくと「すごいよくしてくれ」るという。

 庄山は将来について、「お嫁さんになれたらいいかなっ て。引き取ってくれる人がいれば」と思っている。しか

し、「ホントにつくづくうちの家系って男運がないんで すよね。うちのお祖母ちゃんも(結婚を)3、4回してて、

うちのお母さんもたぶん1回離婚して」、「(親を)見て

るから、幸せになれるかっていったらわからないし」と

いう。そのため彼とは「失敗したくないから」結婚した

くないという思いを抱きつつ、「でも今の彼とは結婚で

きたらいいなとは思ってる」と話す。彼との結婚は、「彼

がまたバンド始めたいとか言ってるから、そのあいだは

無理」だといい、「一番の問題」は母親のことをどうす

るかだと話している。ただし、2回目調査時には「お母

さんには(男性と交際していることは)言えない。嫉妬

する」、「一生一緒にいてほしいみたい」、「あたしの一番

のス、トーカーなの」と話し、その後も男性との交際につ

いては隠していたというが、「この人は紹介してもいい

(5)

かな」と思い、彼については話したとのことだった。

4)まだ結婚は早いと思いはじめている西澤奈穂子(B

高校出身)

 西澤菜穂子は、2回目調査時には縁故で就職した会社 を退職していくつかアルバイトをしていた。庄山と同様 にビジュアル系インディーズバンドの音楽が好きな西澤 は、年上のバンドマンと交際していた。彼は出会い系サ イトのサクラのアルバイト(時給3千円)で収入を得な がら、一軒家をバンドマン3人で借りて生活していた。

結婚について西澤は、「昔は16歳で結婚する予定だっ たんだけど、23とかで子どもは欲しかったんだけど、

ぜったい自分まだ未熟だな、23じゃちょろと育てられ ない気がするから(中略)27とかには子どもは欲しい かな」といい、将来は彼とライブハウスを経営して子ど

もをっくりたいと話していた。

 西澤はその後、アルバイトや水商売の仕事をし、3回目 調査のときにはキャバクラで働いていた16。上述の男性と の交際は、彼から「四股」をかけられていたことがわかっ て終わらせていた。西澤は彼に「貢いだ」といい、「(彼 は)お金がないんですよ。家とかけっこう行ってたから、

見て、米がないとか薬がないとか思うと、もうワーッと 買って行」く生活だったと話している。西澤はキャバク ラで働いているときに、彼には居酒屋で働いていると話 していたが、彼はおそらく嘘に気づきながら何も言って

こなかったという。

 3回目調査時に交際して1年以上経っていた別の男性 は、知り合った当時はライブハウスの店員だったが、そ の後別の人と二人で会社を立ち上げたという。仕事は音 楽のプログラミングで、収入は「まだ駆け出しだから」「不 安定」とのことで、首都圏の実家で生活している。西澤は、

親が19歳で自分を出産していることもあって自分が結 婚を考える年齢になったと感じているうえ、彼も26歳 と結婚を考えだす年齢で、実際そのようでもあると感じ ている。しかし「まだ遊びたいんですよね。まだ結婚阜 いかな」と話している。西澤は男性との交際について両 親に話さずにきたが、20歳を過ぎてからは話すように なったという。彼は「すっげ一坊ちゃんなんですよ。ぼ んぼんで。だから、絶対お母さんに会いたくない」ので、

彼の家には遊びにいかないとのことだった。また、親だ けでなく彼にもキャバクラで働いていることは隠してい

るという。

5)小括

 以上、結婚願望を抱きながらも、結婚する見通しを具

体的にはもっていないケースをみてきた。これらのケー スにみられたのは、第一に、経済的に不安定な傾向であ る。みなフリーター女性のケースであり、たとえば美容 室に就職した浜野は、在職時には仕事ができるように なることを第一に考えて結婚は考えていなかったが、退 職してフリーターとなったのちのインタビューにおいて は、とにかく結婚して専業主婦になりたいという願望を 抱いていた。フリーターの女性たちにとって、今の不安 定な状況を抜け出す契機として結婚が強く意識されてい ることがうかがえる17。また、相手の男性の収入も不安 定な傾向がある。今はカラオケ屋で働く庄山とキャバク ラで働く西澤は、以前も今も恋人は音楽活動をする男性 であるが、彼らの収入は不安定であり、二人とも過去に 自分よりも収入が低い(と思われた)恋人に「貢いだ」

経験がある。

 第二に、カップルの関係自体が不安定な傾向にある。

というのも、ふたりの交際が、家族、親戚、それ以外の 身近な大人や友人との関係といった日常的なネットワー

クの中に煙め込まれていないからである。たとえば、彼 を自分の親に会わせたり、自分が彼の親に会ったりする ことがほとんどないというように、交際が親たちから認 知されがたい、あるいは本人たち自身が認知させること を躊躇している状況がある。庄山と西澤は、自分の親に 彼のことを話してはいるが会わせておらず、吉川は話し てもいない。彼の親についていえば、会ったことがある のは庄山のみである。庄山は、2回目調査のときは結婚 願望と実際の恋愛とがむすびついていなかったが、3回 目調査のときには、彼の親に会って受け入れられたこと で彼との結婚を強く望むようになっているのではないだ ろうか。さらには、交際している者どうしが互いのこと をよく知らないケースもある。たとえば西澤は、キャパ

・クラで働いていることを彼に隠している。彼女が結婚は まだ早いと思うようになった背景には、このこともある

かもしれない。

4.まとめ

 これまでの検討をとおして確認されたのは、第一に、

若者が家を出て新しく家族をつくることができるかどう

かは、経済的な安定性に大きく左右されるということで

ある。本章でみてきた結婚を望む若者たちの多くは、経

済的に不安定な生活を強いられているため、すぐにはそ

の望みを実現させることができない状況にあった。それ

でも、親や親戚が経済的に支援していたり、ふたりの交

際を受け入れ見守っていたケースでは、結婚が具体的に

(6)

構想される傾向があった。また、ふたりの交際が家族な どの日常的なネットワークに埋め込まれているかどうか も、ふたりの関係の安定性に影響していることがうかが

えた。

 第二に確認されたのは、経済的に不安定な生活におい ては結婚することが難しいにもかかわらず、とりわけ不 安定な状況に置かれている若年フリーター女性に、結婚 願望を強く抱く傾向がみられることである。この傾向は

3節であつかったケースだけでなく、2節であつかった ケース(岸田や松村)においてもみられた。女性たちの 結婚願望には、「男は外で働き、女は家事・育児をする」

というジェンダー−eeが少なからず影響していることが考 えられるが、同時に、不安定な状況を抜け出したいと願 う彼女たちにとって、主婦は今の生活のしんどさから解 放された憧れの像として映っていることがうかがえる18。

 今後は大学に進学した者たちが卒業していくが、その 中には新しく家族をつくろうとする者も出てくるだろ う。本章でみてきた若者たちとは異なった家庭背景をも つ彼ら彼女らのケースも検討しながら19、より広く結婚 をめぐる若者の状況を考察することをこれからの課題と

したい。

1)杉田真衣「家族をつくる」(『18歳の今を生きぬく』

  第7章)参照6

2)休学しても専門学校に在籍しつづけることは可能で   あったと思われる。堀の進学断念には、教職員のジェ   ンダーTenが影響しているといえるかもしれない。

3)2回目調査までのふたりの生活の詳細については

  『18歳の今を生きぬく』162−170頁参照。

4)岸田の労働などの状況については第1章2節参照。

5)相良の労働の状況については第2章3節参照。

6)相良が失業していた2回目調査時には、岸田が実家

  に2万円、相良の家に1万円を入れていた。相良

  が配管工の仕事を始めてからは、相良が実家に5万   円、岸田の家に1万円を、岸田が実家に3万円、相   良の家に1万円を入れていた。ただし岸田がアルバ   イト先をホームセンターに替えて収入が減ってから   は、岸田は給料全額を家に入れ、相良は岸田の家に   入れない代わりに岸田の洋服代などを出していた。

7)小林の労働の状況については第2章2・,3節を参照。

8)他方で、松村の母親は、小林によれば「もともとr恵   理子は早く家出なさいよ』って感じだったもんね。

  勝手にやれよぐらいじゃね?親が勝手だもんね」と   のことだった。

9)大野の労働の状況については第2章2節、2回目調

  査までの結婚観などについては『18歳の今を生き   ぬく』170−172頁を参照。

10)なお、大野が勤めるスーパーでは職場結婚が多いと

  いう。

11)詳細は第3章2節を参照。

12)実際、短大卒業後の4月に連絡をとったところ、同   棲はせず実家にいた(詳細は不明)。

13)浜野の労働などの状況については第1章を参照。

14)吉川の労働などの状況については第1章2節を参

  照。

15)当時の詳細については『18歳の今を生きぬく』

  155−159頁を、その後の庄山の労働などの状況に   ついては本稿第1章を参照。

16)西澤の労働などの状況については第1章2・5節参

  照。

17)このことについては第1章6節でも論じている。

18)一方、男性たちには、収入が少なければ結婚できな   いと考える傾向がみられた。たとえば家業(自営業)

  を継こうとしている石津和義(第2章1節参照)は、

  彼女から早く結婚したいと言われているが「もうあ   と2年待って、仕事がちょっとできてないから」と   伝えているとのことだった。彼は「(収入が)そん   なやっていける額じゃないですから、まだ。自分ひ   とりだったらぜんぜんいいんですけど、もっとちゃ   んとできるようになってから」と話している。また、

  社員食堂で働く深川陽一郎(第2章2節参照)は、

  もともと結婚願望が弱いが、「今、食わしていけな   いんで、そんなにお金もらってないんで」結婚する   ことはあまり考えていないと話していた。

19)本章であつかったケースの中で唯一短大に進学して

  いる神崎は、卒業後に結婚を予定しながらも、その

  選択には迷いがみられた。その理由は明らかでない

  が、彼女の比較的安定した家庭背景が影響している

  かもしれない。また、彼女は本章で追った他の女性

  よりもジェンダー規範に縛られていないという可能

  性もある。

参照

関連したドキュメント

今回、新たな制度ができることをきっかけに、ステークホルダー別に寄せられている声を分析

となってしまうが故に︑

これからはしっかりかもうと 思います。かむことは、そこ まで大事じゃないと思って いたけど、毒消し効果があ

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場

園内で開催される夏祭りには 地域の方たちや卒園した子ど もたちにも参加してもらってい