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学校教育におけるレジリエンス育成 原 美 香

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学校教育におけるレジリエンス育成 

原    美  香 

はじめに 

  家庭の経済状況、両親の深刻なけんか、家族 の病気や死、自分自身の入院、先生とのトラブ ル、友だち関係の悪化など、日常に起こりうる ネガティブなライフイベントから、虐待、戦争、

災害と誰もが厳しいと思う耐え難い出来事まで、

人生には思いもかけない災難に出くわすことが ある。 

  欧米では 1970 年代から注目されているレジ リエンスという概念がある。貧困、親の精神疾 患、虐待など、養育環境の不安定さの中で生き る子どもたちの中に、リスクの高い環境で育ち ながらも予想されるような精神疾患や問題行動 を起こさず、良好な適応をしている子どもたち がいるという報告があった。レジリエンスの概 念は、このような子どもたちの良好な結果から 生まれた。レジリエンスとは、深刻な社会、健 康問題の広がりという重大なリクスにさらされ ているにもかかわらず、正常あるいは極めて良 好な発達結果が認められることを言う(Fraser,  Kirby, & Smokowski, 2004)。しかし、そのとら え方には幅があり、レジリエンスを困難な環境 の中でも、良好な発達をとげる個人の能力とと らえるのか、一次的には厳しい環境にうちひし がれても、その後には回復するような力動的な 適応プロセスとみなすのかなど、レジリエンス のどの側面に注目するかは、 研究者によって異 なり、統一された見解が得られていない。アメ リカでは、2001 年のテロを契機にレジリエンス

研究が盛んになった。2011 年に東日本大震災に あった日本でも、これからますます注目される 分野となるであろう。レジリエンス研究の意図 は、予防的な観点でとらえ、レジリエンスを促 進するためにどのような関わりが必要か、また 心理的危機に陥った際にどのようなフォローを すべきかの手がかりを示すことにあった。本稿 は、日本で行なわれた研究を主として、中学高 校生を中心とした学校段階に関するレジリエン ス研究を概観し、学校教育活動の中でレジリエ ンスを促進する働きを検討することを目的とす る。 

1.レジリエンス尺度研究 

  日本では、研究者が独自の考えでレジリエン ス尺度を作成し、それらが並立している状況で ある。まずは学校段階でレジリエンス尺度研究 の一部をとりあげる。 

  幼児を対象としたレジリエンス尺度で、長尾 ら(2008)はレジリエンスを「困難な出来事を 経験しても個人を精神的健康へと導く心理的特 性」(石毛・無藤,  2005)と定義した。そして、

生涯にわたり作用するレジリエンスは、個人内 要因であるとの見解(Grotberg,  1995)に基づ き、レジリエンスを個人のほぼ一貫した内的特 性であるとし、レジリエンス尺度作成を行なっ た。幼児用のレジリエンス尺度項目を選定する ために、小花和(1999)と高辻(2002)の尺度 立教大学教職課程 2013 年 4 月 

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を KJ 法で分類、精査し、大学生 305 名を対象 に、大学生用に一部改変した項目で予備調査を 実施した。本調査では、幼稚園児 32 名、5 歳 8 ヵ月〜6 歳 6 ヶ月と担当教諭1名を評定者とし た。この尺度は、保育者評定用のレジリエンス 尺度である。調査の結果、「気質」「傷つきにく さ」「自己調整」3つの因子が抽出されている。

「気質」とは、初めての活動や初めて会う人に 対して肯定的な態度を示す力、「傷つきにくさ」

とは、ストレスフルな出来事に遭遇した時にネ ガティブにならない力、「自己調整」は適応的で あるために要求される力である。 

  石毛・無藤(2006)は、中学1〜3年生まで 1,218 名の中学生への面接調査で収集された項 目、質問紙による調査から中学生を対象とした レジリエンス尺度を作成し、その分析結果から

「意欲的活動性」「楽観性」「内面共有性」の3 因子が見出された。難しいことでも解決するた めに多様な方法を考え出すような、自ら問題を 解決しようとする自立的な傾向である「意欲的 活動性」、つらいときや悩んでいるときは自分の 気持ちを人に聞いてもらいたいと思うなど、他 者との内面的共有を求める傾向をあらわす項目 である「内面共有性」、なにごとも良い方に考え るなどの「楽観性」の 3 因子であった。この3 因子は他のレジリエンス尺度と比較すると、自 分の問題に主体的に関わっていこうとする姿勢 が「意欲的活動性」因子に、他人との内面的な 関わりを求める意識が「内面共有性」因子に各々 まとまった特徴が見られる。これについては、

中学生という年齢が発達的に独立意識が高まり、

他者との関係性が表面的なものからより親密性

へと深まる青年期の特徴が尺度に反映されたと 述べている。 

  大石・岡本(2009)は、石毛・無藤が作成し た中学生用レジリエンス尺度を使用し大学生を 対象に調査した。レジリエンス尺度から「内面 共有性」「内省性」「楽観性」「遂行性」の4因子 が抽出された。中学生用尺度(石毛・無藤, 2006)

の構成因子と比較すると、中学生用尺度「意欲 的活動性」が、大学生では、自分の判断や行動 を見直そうとする「内省性」、困難に対して音を 上げず自ら取り組もうとする態度である「遂行 性」に分化している。「意欲活動性」が「内省性」

と「遂行性」に分化したことについて、年齢が あがり精神的に発達していく中で自我が確立し 自立的傾向になったためと解釈している。レジ リエンス構造は発達にともに変化していくこと が明らかにされている。 

  小塩ら(2002)は、大学生を対象としてレジ リエンスの状態にある者に特徴的な心理特性を 精神的回復力とみなし、精神的回復力尺度を作 成した。大学生 207 名を対象に調査を行なった 結果、精神的回復力尺度として「新奇性追求」

「感情調節」「肯定的な未来志向」の3因子が抽 出された。「新奇性追求」は、新たな出来事に興 味や関心をもち、さまざまなことにチャレンジ していこうとする傾向、「感情調節」とは自分の 感情を上手く制御することができること、「肯定 的な未来志向」では、明るくポジティブな未来 を予想し、将来に向けて努力することで構成さ れている。 

日本でのレジリエンス尺度研究は、日常的な

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ストレスを想定し作成されている。石原・中丸

(2007)も指摘するように、国々のかかえるそ れぞれの社会問題がレジリエンス研究のリスク 場面として焦点化されている。最近のリスク場 面は、戦争のような誰でもが厳しい環境といえ る状況から、日常的なストレスの場面の研究に 移行してきている。リスク場面が日常的なスト レスになると、人によって感じかたの差が大き くなる。皆が厳しい逆境であると、必ずしも感 じられない状況をリスク場面とみなしていいも のかどうかという問題もあがっている。 

2.レジリエンスとの関連研究 

  日本では、レジリエンス尺度研究とレジリエ ンスとの関連を調べた量的研究に集中している。

レジリエンスと特に関連が深いと思われる対象 についての研究と稀少な質的研究について取り 上げる。 

1)自尊心・抑うつ・コーピング 

田中・兒玉(2010)は、大学生 277 名を対象に レジリエンスと関係のある自尊感情、抑うつ症 状、コーピング方略の関連要因についての調査 研究を行なった。レジリエンス尺度は、森ら

(2002)のレジリエンス尺度を参考に作成し、

「自己受容」「自己能力信頼感」「他者信頼感」

「楽観的思考」の 4 因子が見出された。分析結 果からレジリエンスが高い人は、レジリエンス が低い人よりも自尊感情が高かった。自尊感情 はレジリエンス尺度の妥当性の検討として使用 されることが多く、他の調査研究でもレジリエ ンスと自尊感情との関連は指摘されている。 

  自尊感情とレジリエンスとの研究では、ネガ ティブライフイベントの経験数で比較した調査 もある。小塩ら(2002)は、自尊心とネガティ ヴライフイベント経験数・苦痛ライフイベント の経験数でレジリエンスの心理特性の1つであ る精神回復力との関連を研究した。分析の結果、

苦痛ライフイベントの経験数が少なく、自尊心 高群と低群では精神回復力の違いは少ないが、

苦痛ライフイベントの経験数が多い人たちでは、

自尊心高群と低群では、精神回復力に大きな差 があった。苦痛なライフイベントの数が増える ということは、累積するストレスと、それぞれ のストレス間での絡み合いが生じ、より一層個 人の危機につながる(菅原, 2004)。また、ネガ ティブライフイベントとは、両親の離婚が経済 的な困窮をもたらすように、同時に発生する特 徴があり、苦痛な事柄がつぎつぎと起こる。レ ジリエンスは、個人の危機的状況で発動すると 考えられている。苦痛ライフイベント経験数が 多いという危機的状況に対して、レジリエンス の重要な心理特性の1つである精神回復力が働 き、自尊心の高さを保つことにつながったと考 えられる。 

  レジリエンスと抑うつ症状との関連は、負の 相関であった。レジリエンス高群が低群より抑 うつ得点が低い結果は、同じストレスを受けて もレジリエンス高群は低群にくらべレジリエン スの働きによりストレス反応が軽減されるか、

もしくはストレスから回復しやすいからではな いかと解釈している(田中・兒玉, 2010)。    レジリエンスとストレスの対処法であるコー ピングとの関連については、コーピング全体と レジリエンスに相関関係はなかったものの、コ

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ーピングの一部の下位尺度と相関が見られた。

コーピング全体得点はコーピングの頻度をあら わし、コーピングの下位尺度はコーピングの種 類をあらわすため、それぞれの状況に対する心 理的適応のために、必要なコーピングの種類を 適切に用いることが、レジリエンスの高さと関 連していると解釈している(田中・兒玉, 2010)。 

  また、目久田ら(2004)は、精神的回復力高 低群とコーピング方略得点で有意差があること を明らかにし、さらにコーピングの種類につい て言及した。精神的回復力の高群は、低群より も「肯定的解釈と気そらし」のコーピングを使 い、「問題回避」のコーピングの使用は少ないこ とが示された。「肯定的解釈と気そらし」は、楽 観的に考えたり、嫌なことを頭に浮かべないよ うにしたり、買いもの、食事、おしゃべりなど で時間をつぶしストレスに対処する方略であり、

「問題回避」は、対処できない問題であると諦 める、責任を他の人に押し付ける、自分では手 に負えないと考えを放棄するなどのコーピング である。そして、コーピング方略と落ち込みの 相関では、「肯定的解釈と気そらし」のコーピン グは落ち込みと負の相関であるのに対し、「問題 回避」のコーピングは落ち込みと正の相関が見 られた。精神回復力の高群は落ち込みを低減さ せる「肯定的解釈と気そらし」のコーピングを 使いやすいことと、一方、精神的回復力の低群 は、落ち込みを増大させる「問題回避」のコー ピングを使いやすいことを明らかにした。 

2)パーソナリティとの関連 

  パーソナリティは、個人がもともと持ってい た、生得的な気質に加え、養育行動、周囲との

相互交流により形作られる。さらに青年期に入 ると、多様な経験を通して自身の内面に目がむ かう。この自己の内面にむかう視点を媒介に、

行動される個人の主体的な努力も性格形成に関 与していくことになる。このようにパーソナリ ティーとは、時間が経過する中で様々な要因が 関与しあって、変化していくものである。適応 を維持するための支援や教育的なあり方の示唆 を得るために、レジリエンスとパーソナリティ との関連の調査が行なわれている。 

  石毛・無藤(2006)は、パーソナリティとレ ジリエンスの関連を調べる研究でパーソナリテ ィを気質と性格の2つの構造体としてとらえる 7 次元モデルを基にしている。7 次元モデルの気 質は、情動反応の個人差であり、遺伝的に規定 され、生涯安定したものである。7 次元モデル の性格は、気質を基盤とし、自己概念の洞察を 通して形成されていく。気質は「新奇性追求」

「損害回避」「報酬依存」「固執」の4次元から なり、性格は「自己志向」「協調」「自己超越」

の3次元から構成されている。レジリエンスは 中学生を対象としたレジリエンス尺度(石毛,  2002,  2004)を使用した。気質・性格特性の関 連から、自ら問題を解決しようとする自立的な 傾向である「意欲的活動性」とつらさや悲しみ などの情動を体験することをきっかけに他者と の内面的なつながりを求める「内面共有性」は、

気質特性よりも性格特性と関連が強いことから、

個人の努力で高めることができると述べた。 

  同様に、レジリエンスを導く個人内要因の中 で、持って生まれた気質と関連の強い要因を「資 質的レジリエンス要因」、後天的に身につけてい きやすい要因を「獲得的レジリエンス要因」と

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分けてとらえた研究がある(平野,  2010)。「資 質的レジリエンス要因」と「獲得的レジリエン ス要因」を分けることによって、その個人のレ ジリエンス要因について多元的に理解したり、

後天的にレジリエンスを高める方法を検討する ことを目的として作成された。 さらには中高生 の双生児法を用い遺伝的な影響を検討している

(平野, 2011)。双生児法から「資質的レジリエ ンス要因」は、楽観性、統御力、社交性、行動 力の4因子と「獲得的レジリエンス要因」は、

問題解決思考、自己理解、他者心理の理解の3 因子の妥当性を明らかにした。石毛・無藤(2006)

の研究結果である「意欲的活動性」と「内面共 有性」は、どちらも平野(2011)の「獲得レジ リエンスの要因」と重なり、後天的に高めるこ とができる要因と考えられる。 

  石毛・無藤(2006)は、レジリエンスとパー ソナリティの分析結果から、レジリエンスがど のように発達するかを述べている。「意欲的活動 性」と性格特性の自己決定および意志の力であ る「自己志向」とで正の相関が示された。加え て男子は、「意欲的活動性」と性格特性の「協調」

に強い正の相関が見られている。このことから 自ら問題を解決しようとする自立的な傾向であ る「意欲的活動性」は、自己決定していこうと する個人の経験と周囲との協調的な関係を通し て発達していくと述べた。そして「内面共有性」

は性差による違いが示されている。つらさや悲 しみなどの情動を体験することをきっかけに他 者との内面的なつながりを求める「内面共有性」 

は、男子では性格特性の「報酬依存」とは弱く、

「協調」とは強い相関があった。これに対し女 子は「報酬依存」と相関が強く、「協調」とは相

関が弱く、男子とは異なる結果がみられた。「報 酬依存」とは他者との温かな情緒交流をもとめ る態度であり、「協調」は周りと調和していこう とする特性である。つまり、男子は周囲と調和 していこうとする特性が、女子は人との温かな 関わりを求めて周りとかかわろうとする特性が 

「内面共有性」を発達させていく。レジリエン スの性差については、田中・兒玉(2010)の大 学生を対象とした調査でも確認されている。 石 毛・無藤(2006)で性差が示された「内面共有 性」と同じ概念である「他者信頼感」に性差が 見られた。ここでも女性の場合は内面的なつな がりを求める傾向とレジリエンスとの間に関連 がみられ、同様の結果となっている。 

3)時間的展望との関連 

  精神回復力尺度(小塩ら,2002)の構成因子 には、「肯定的な未来志向」があり、明るくポジ ティブな未来を予想し、将来に向けて努力する ことがレジリエンスを導く一要因であると考え られる。 

  個人が持つ未来についての想いということで は、時間的展望の概念と重なる。大石・岡本

(2009)は、レジリエンスと時間的展望がどの ように関連しているかを大学生 123 名を対象に 調査を行なった。レジリエンス尺度は、石毛・

無藤(2005)が作成したものを使用した。時間 的展望とは、「ある一定の時点における個人の心 理 的 過 去 及 び 未 来 に つ い て の 見 解 の 総 体

(Lewin,1951 猪俣訳, 1979)」と定義した。分析 結果から、時間的展望は、現在の評価が過去、

未来への評価に影響すること、または過去の評 価、未来の評価が現在の評価に影響することが

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示され、現在が基点となっていることが明らか にされた。そして、時間的展望とは、過去、現 在、未来がそれぞれ独立しているのではなく、

現在を中心に相補的関係であると述べた。レジ リエンスと時間的展望の関連では、「未来志向 性」とすべてのレジリエンス構成因子で正の相 関がみられ、「未来志向性」とレジリエンスとの 関連が強いことが明らかになった。「未来志向 性」とは、未来に希望を持ち、将来の目標を持 つという未来をポジティブに評価することであ る。これは、精神的回復力の「肯定的な未来志 向」と重なる。 

  そして、各被験者がそれぞれ過去、現在、未 来についてどのような時間的展望を持っている かを「展望高群」「過去高群」「未来高群」の3 群から分析している。対象者が一番多い「展望 高群」は、過去現在未来の全てに対して、肯定 的な時間的展望を持つ人たちであり、他群より もレジリエンス得点、動機づけ、楽観性におい て高かった。次に対象者が多かった「過去高群」

は、過去に肯定的な時間的展望を持ってはいる が、現在、未来に否定的な人たちである。過去 を肯定的に評価することができても、それが現 実の評価につながらず、現実に対しての充実感 を抱けないために,未来に希望も目標も持てな い。肯定的な未来への希望が持てないため、動 機づけも高まらず、楽観的にもなれない。そし て「未来高群」は、未来に対しては肯定的な時 間的展望を持っているが、現在、過去に対して は否定的な時間的展望をもつ人たちである。過 去と現在を否定し、現実には充実感を抱けてい ないにも関わらず、未来に希望や目標を持って いる。この人たちが持つ希望や目標は、現実と

は切り離されたものであり、現実的な未来を展 望をすることを回避していると述べた。レジリ エンスと時間的展望のつながりは、現実を基点 とした未来志向性にあることが明確になった。 

4)心理的居場所感との関連 

  則定(2007)は、心理的居場所感からレジリ エンスに至る過程の検討を中学生 542 名、高校 生 201 名、大学・専門学校生 450 名を対象に行 なった。心理的居場所感とは「心の拠り所とな る関係性、および安心感があり、ありのままの 自分を受容される場があるという感情」と定義 している。レジリエンス尺度は、精神回復力(小 塩ら,  2002)を使用した。分析結果から、心理 的居場所感が自己受容を高め、自己受容がレジ リエンスを高めることが示された。このことか ら、レジリエンスが高まるには、単に心理的居 場所感を保障することだけではなく、心理的居 場所感に支えられながら、自分の良い面も悪い 面もありのままの自分をみつめ受容していくこ とが必要であることが述べられている。 

  分析結果では、性差と発達による変化も見ら れている。中学生から大学・専門学校生まで一 貫して、親友に対する心理的居場所感は自己受 容に影響をおよぼすことが示された。しかし、

中学生では、親友に対する心理的居場所感がレ ジリエンスに直接影響をおよぼすことが明らか になった。それ以外の学校段階では、心理的居 場所感が自己受容をうながし、自己受容がレジ リエンスを導く過程をたどっている。中学生に とっての親友の存在は、第2次性徴をきっかけ として出会う、新しい自分の獲得とともにある 葛藤や悩みを共有する特別な存在になる。 

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5)レジリエンスの質的研究 

  質的研究は、レジリエンスの特徴をさらに明 白にし、多くの示唆を与える。三宅(2010)は、

「I AM」「I HAVE」「I CAN」「I WILL」の4 因子で構成されるレジリエンス尺度(森,2002)

を使用し、独自に開発した SCT をもとに半構造 化面接による質的な検討を行なっている。レジ リエンスの特徴を把握するために、レジリエン ス高低群で分け比較した。自分の良いところも 悪いところも含めて自分を知る「I AM」因子で は、低群は、気分や感情の変動が激しく、それ を統制するのが難しい。自信がないと語る者も 多く、自分に対して否定的な回答をしている。

それに対し高群は、自分の短所や失敗に固執す ることなく、自分自身を肯定的にとらえる特徴 があった。他者との信頼関係を築く「I HAVE」

因子を参考にした項目では、両群とも友だちイ メージは肯定的であったが、困難に直面した時 に高群は他者にサポートを求めるのに対して、

低群は、自分で抱え込む、混乱すると言う回答 が多かった。高群は、他者を基本的に信頼して いる者が多く、自分から積極的に信頼感を構築 していくことによって、他者からも信頼されて いると感じることができている。このような他 者との関係性から、信頼関係を広げていくこと に、不安やためらいが少ない。一方低群は、他 者をじっくりと観察して、他者がどういう態度 を取るかによって、判断するものが多い。低群 は他者を信頼しにくいために、自分の内面を他 者に打ち明けることも少なく、他者の態度を過 剰に気にすることも加わり、信頼関係を築きに くいのではないかと述べている。問題を解決し ていく「I CAN」因子を参考にした項目では、 

日々の課題や目標に対して高群は、積極的にと らえ取り組む姿勢が見えたのに対して、低群は、

諦めたり、挫折したりすると回答している。  困 難な問題を解決しようとするときは、高低群と も他者のサポートを希求し、受け入れている。

しかし、低群は高群にくらべると、悩みを打ち あけることが少なく、1人で抱え込む傾向があ ることが明らかになった。問題に対する対処の 仕方も、時間の経過を待つという対処の仕方を しているのは、低群しかみられず、低群より多 くの高群が「これがあったらどうしようってい うのが、こういうのがあってもいいんだってい うふうに思えるようになった」と発想の転換か ら、前向きに進み困難を乗り超える方略を使っ ていた。自分自身で目標を定め、目標に向かっ て伸びていく力や自分の意志で自己形成する力

「I  WILL」因子を参考した項目では、高群は、

今まで努力し目標を達成したしてきた経験が自 信となって、今後も目標達成していくことに自 信を持っている。その上高群は、努力して目標 を達成することで、自分がより成長することに 期待をしている。低群も自分を変えたい、自分 を磨きたいと努力しているが、高群との違いが あった。高群は「自分の行動範囲や視野が広が るのが楽しくて目標にしている」などのように 物事を楽観的にとらえている。他者の優れてい るところを認めるとともに、それを取り入れて 自己形成に役立てようとする傾向を持つ者が多 い。一方、低群は、物事に対して悲観的だった り、高すぎる目標であると諦めたり、投げやり である傾向がある。他者の優れているところと 自分を比べ自己卑下したり、嫉妬したりすると いう回答が得られている。 

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  日本のレジリエンス研究は、尺度作成や尺度 を使った量的研究がほとんどであり、質的研究 は僅少である。アメリカの研究で、10 代前半を 精神科閉鎖病棟に入院しなければならなかった 子どもたちのレジリエンスのナラティヴ研究が ある。Hauser ら(2006)が、重い症状からどう して回復できたかを研究するためにインタビュ ーを行なった。67 人のうち 9 人のレジリエンス の高い子どもたちの語りに一貫してみられ、他 の子どもたちには明らかに欠けているものは、

「環境に影響を与えうる信念」、「自分の考えや 感情を扱う能力」、「親密な人間関係を築く能力」

であると言う。「環境に影響を与えうる信念」と は、目的をもって主体性を発揮し行動すること である。その行動とは、皆から賞賛されるよう なものから、大人が仰天し諦めるようにとプレ ッシャーをかけるような、向こう見ずな行動の 場合もある。しかし子どもたちの行動の背景に は目的がある。たとえ計画した通りに物事が進 まなくても、その行動やプロセスからさまざま なことを学び取る。経験から多くを得ることも 対照群子どもたちと異なる点である。「自分の考 えや感情を扱う能力」とは、感情から脱して、

意識化する努力である。思考のプロセスについ て考える能力であり、内省である。内省は時間 と共により深く変化していく。レジリエンスは、

危機的状況で発動されるため、情緒混乱と「自 分の考えや感情を扱う能力」は共存して現れる が、レジリエンスの兆候は子どもたちの語りの 中に確認されている。そして、ここでの研究対 象の子どもたちは、育児拒否、虐待など凄まじ い経験を積み重ねてきた子どもたちである。し かし人間関係を持つことに関心を保ち続けると

述べている。「親身な人間関係を築く能力」を持 ち相手をよく観察し、よく聞きながら、良好な 人間関係の中で、試行錯誤しながら多くを学ん でいる特徴がある。 

  レジリエンス尺度、レジリエンスとの関連研 究、半構造化面接やナラティヴで語られた内容 を整理し、レジリエンスの高い人たちの特徴を 再考すると、肯定的な自己感、主体性、他者と の温かな情緒交流をともなった関係性、楽観性 が相互作用的に働いていることが理解できる。 

3.学校教育でのレジリエンス育成 

  中学・高校生と近い年代の人たちを対象とし た、レジリエンス研究の一部を概観してきた。

レジリエンスにつながる支援や教育はどのよう なあり方になるのだろうか。 

  日本では、学校教育で生徒の人格の形成、そ してその成長に対しての支援や援助を行なう機 能は、生徒指導・教育相談にある。生徒指導は、

生徒の問題行動の対応に終始せざる得ないこと もあるが、本来は一人一人の児童生徒の人格を 尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質 や行動力を高めるように指導援助を行なう活動 である。そして、生徒指導の一部で、中心的働 きでもある教育相談は、特定の教員が行なうも のでも、相談室だけで行なわれるものでもなく、

生徒の発達にそくして、好ましい人間関係を育 て、生活によく適応させ、自己理解を深めさせ、

人格の成長への援助を図るものである(文科省 2002)。生徒指導・教育相談は、学校のさまざま な場面で教師が生徒へおこなう働きかけである。

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登下校、授業時、道徳教育、特別活動、キャリ ア教育、特別支援教育、教育相談の場で、教師 と生徒との交流の中で、教師が促し、指導し、

問いかけ、示唆し、配慮し、生徒の思いを受容 し支え、生徒が主体的に活動する場を提供し、

機会を与える働きかけになる。学校では、レジ リエンスを促進させる働きは、この生徒指導・

教育相談活動の中で実践されることになる。 

レジリエンスとスポーツ活動経験の関連を調 べた研究がある。葛西ら(2010)は、スポーツ 活動体験で得ることができると考えられている、

時間的展望、身体的自己知覚とレジリエンスを 取り上げ、大学生を対象に調査をした。時間的 展望とは、将来に希望を持ち、現在の生活に充 実感を抱き、過去を受容するという感覚である。

スポーツでは、目標設定のスキル、トレーニン グ周期の管理、身体や精神に負荷がかかる苦し いトレーニングの達成感とトレーニングがパフ ォーマンスに有益であることを学習し、スポー ツ活動のなかで時間的展望を身につけていく。

身体的自己知覚は、自分の体や体の強さに対す る自信や信頼感であり、スポーツ経験で高まり、

自尊感情に大きく影響していると言う。分析の 結果、レジリエンスの全ての因子は,時間的展 望体験の全ての因子、身体的自己知覚の全ての 因子と有意な正の相関を示した。この結果をふ まえ、レジリエンスを育むために有効である指 導とは、選手が成長感を得られるように、スポ ーツ活動の意義を考える機会を与え、フィード バックを行う。そして自尊感情を高められるよ うに、パフォーマンスを賞賛し、時間的展望力 を身につけられるように、目標設定の仕方を指 導することをあげた。これらはスポーツ指導法

のみならず、学習、芸術、学級活動や学校行事 など多くの活動の指導で行なわれていることで ある。極めて斬新な指導法ではなく、日常でお こなわれるごく普通の指導方法である。池田

(2008)がまとめた欧米のレジリエンス育成方 法の中で、同様の結論に至った実践モデルが紹 介されている。Benaed(1984)は、学校でのポ ジティブな体験がレジリエンスを生み出す1つ の要因であるとした。レジリエンスを引き出す ポジティブな体験は学習、スポーツ、音楽など の主体的な活動、学校での責任ある仕事への従 事、教師との良い関係にあると述べた。教師が 行なうレジリエンス育成の実践的な内容は、ご く普通ではあるが、簡単ではないレジリエンス 育成方法であるとしている。生徒が意欲的に活 動する中で、人間関係や主体的な活動を通し、

さまざまな体験をしながらレジリエンスは展開 されていく。 

  レジリエンスは、生徒のストレス場面へどの ように働き、ストレスに対しソーシャルサポー トはどのような効果があるだろうか。石毛・無 藤(2006)は、中学3年生を対象として、レジ リエンスとソーシャルサポートが、高校受験期 のストレスにどう関連しているかを調査してい る。レジリエンス尺度は、中学生用レジリエン ス尺度(石毛,    2004)を使用した。「自己志向 性」「楽観性」「関係志向性」の3因子からなり、

自分の判断や行動を見直して自ら問題解決をし ようとする自立的な傾向である「自己志向性」、

物事をポジティブに考える傾向の「楽観性」、ネ ガティブな心理状態を立て直すために他者との 関係を基盤にしようとする心性をあらわす「関 係志向性」である。分析の結果「自己志向性」

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「楽観性」が高校受験期のストレスを抑制し、

健康維持の役割をとっていたことが示された。

ソーシャルサポートは、特に身近な人のサポー トを調査した。調査の結果、ソーシャルサポー トを活用することが、レジリエンスの一部にな ることが示唆され、母親、友だち、先生のサポ ートが高校受験期の健康の維持に働きかけてい ることが明らかになった。友人や教師のサポー トは、不安や無気力などの精神面を支え、受験 勉強への意欲をうながすだけでなく、頭痛のよ うな体の不調も和らげる。くわえて母親の支え を感じることによって、受験生の抑うつ的な気 分やいらだちが低減した。母親、友だち、先生 のソーシャルサポートが、意欲を高め、情緒の 不安定さを軽減し、健康維持への働きかけるこ とが明らかになったが、ソーシャルサポートの 整った環境があってもそれを充分に活用できる とは限らない。不安や困難を1人で抱え込んで しまう場合もある。また、中学生では、まだ自 らの困難さを言葉で表現することが難しかった り、中高校生では大人にサポートを求めるたり、

頼ることに抵抗を感じたり、気恥ずかしさや諦 めが人に援助を求めることを抑制してしまうこ ともある。中高校生は、思春期特有の困難さを かかえる年代でもある。 

  学校教育現場でのソーシャルサポートには、

臨床心理士が行うスクールカウンセリング活動 もある。スクールカウンセリング活動でのレジ リエンス育成への取り組みを検討したい。レジ リエンスとの関連研究からコーピング、ソーシ ャルスキルがレジリエンスと関連することを見 てきたが、生徒指導・教育相談の活動の中で、

教師が生徒集団に向けて行なうソーシャルスキ

ルトレ−ニング、アサーショントレーニング、

ストレスマネージメント教育、ピアサポート、

アセスメントのための心理検査などの予防的な 取り組みがある。この活動が、体験授業にとど まらず、習得したスキルが日常の中で生かされ るようになることが望ましい。当然のことでは あるが、生徒の状況は1人1人様々であるため、 

個人の性格、能力、発達の状況、環境、学校で の活動状況など個人に応じた活動になり、生活 の中で実践とフィードバックが繰り返されれば、

集団指導をより効果的に個人に生かせることに なる。 これらの活動にスクールカウンセラーが 参加することで、臨床心理学的視点が取り入れ られることから、より効果的になると考えられ る。同時に教師がスクールカウンセラーに関わ って欲しいニーズの1つに、先ほどあげた  ソー シャルスキルトレ−ニング、ストレスマネージ メント教育などの心理教育への参加があげられ ている(荒木・中澤,2008)。 

  また、レジリエンス尺度因子「内面共有性」

とは、つらいときや悩んでいるときは自分の気 持ちを人に聞いてもらいたいと言う、他者との 内面的共有を求める傾向をあらわす項目であっ た。カウンセリングは、まさにレジリエンス育 成の一部の役割を担う活動と言える。カウンセ リングルームを訪れる生徒の話す内容や抱えた 状況は様々である。まさに厳しく困難な環境に 立たされている生徒もいれば、学校生活での些 細なつまづきや戸惑いを話しにくる生徒もいる。

カウンセリングに求めることは明確ではないが、

日常生活を語り帰って行く生徒もめずらしくは ない。子供と大人の間を揺れ動く年代の子供た ちには、親には話せず、友達に話すにはためら

(11)

う話題があったり、それでも誰かに自分のこと をじっくり聞いてほしいときもある。または、

自分のことを聞いてもらいたい気持ちはあるが、

それを言葉にするのが難しく、曖昧な気持ちを 表現できずに抱えている場合もある。何を相談 するでもなく、友だちのこと、趣味のこと、先 生のこと、家のこと、今日あったことの話しを することは、心理的居心地感を体験し、人に自 分の気持ちを打ち明け相談することへの練習に つながる。ここでのコミュニケーションの意図 は、今何が起こっているのかを言葉にすること を導き、人に話すという体験を通して、自己受 容や内省を促し、 生徒の主体性を育む作業にな るだろう。今を言葉にする生徒の取り組みは、

最終的にはレジリエンスを育む活動へとつなが ると考える。 

4.まとめ 

  本稿では、学校教育活動でのレジリエンス教 育を検討をすることを目的として、日本でのレ ジリエンス尺度研究、レジリエンス尺度を使っ た関連研究の一部を概観してきた。レジリエン スは、肯定的な自己感、主体性、他者との温か な情緒交流をともなった関係性、楽観性が相互 作用的に働き、日常生活で育まれることが判っ た。学校が、多くの生徒にとって、主体的な活 動の経験と友だち、教師との人間関係の体験を 学び、 レジリエンスを育成する場となるように、

実践活動でのレジリエンス研究が今後の課題と なる。 

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(12)

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参照

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