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本稿は共同研究「三宅島噴火災害後の生活再建過程に関する研究

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全文

(1)

噴火災害によるストレスと住民の適応

石 原 邦 雄

1

目 的

本稿は共同研究「三宅島噴火災害後の生活再建過程に関する研究

J

の一環と して,噴火災害に対する住民の対処と適応について,家族ストレス論の観点か ら記述し,分析することを目的とする

O

共同研究としての全体のねらいや 研 究 チ ー ム の 編 成 現 地 調 査 の 進 行 過 程 について, また,

1983

年1

0

3

日の三宅島噴火とそれにともなう被害状況,復 興への行政過程などについては 共同研究者が別稿にまとめており,本稿では 省略するので,そちらを参照願いたい

1)

本稿では主として

1985

6

月末から

7

月初めにかけて実施した「災害後の生 活再建に関する調査

J

のデータを使用して標題のテーマに接近しようとする

O

この調査は阿古地区自治会のご協力を得て,調査票を自治会経由で全世帯に配 布し,世帯主に記入を依頼した後,我々の調査チームと支援学生が各戸を回っ

て回収したものである(有効票

384

,回収率

79.5%)0

時期的にいうと,被災後

1

8

カ月あまりを経て,住宅再建が進行中で,住宅埋没世帯のうちまだ半数 が応、急仮設住宅に残っている段階で実施された調査である

2)

この調査の結果は現地へのフィードバックを兼ねて「三宅島阿古地区生活再 建調査結果」として

86

1

月に概要がまとめられている

O

本稿ではこれを踏ま

えつつ,火山噴火が住民に与えた影響とこれへの対処と適応についてストレス 論の観点から整理分析しようとするものである

O

分析の枠組

災害などによる外部からの衝撃を受けて,行動(反応)主体がこれに適応し

ていく過程としてストレスを捉える際に,行動(反応)主体としてのシステム

(2)

はいくつかの次元のものが考えられる

o

ひとつは個人(パーソナリティ)シス テムであり,第 2は家族(世帯)システム,そして第 3にはコミュニティのシ ステムが措定されうる

3)

。本稿ではこのうち,家族(世帯)レベルでストレス 論の適用を試みている

D

自然災害を受けた家族にストレス論のモデルを適用す る先行研究は必ずしも多くはない

4)

。本稿では家族ストレス論の現在の到達点 を示している,

H.  1.

マッカバンの

2

A B C X

モデル

5)

に依拠しつつ,図 l に示すような要因(変数)群を抽出し,それらの相互関連を捉える分析枠組 を用意した。ただし今回の調査では,当初から明確にモデルを立てて調査票を

対 処 過 程

家族適応、度

京\~ ~\~ー~

資 源 要 因

1

噴火災害と住民の適応度を捉える分析枠組

設計したものではなく,実態調査的な性格の強いものであり,かつ調査方法も 留置きによる簡単なアンケート方式によるものなので 後にも触れられるよう に,操作化された指標や尺度構成に不充分な点を多く残していることは否めな

¥0

(3)

災害ストレスの諸要素

( 1 )   世帯レベルでの被害の種類と程度

火山の噴火によって地域住民が被る災害はとりあえずその被害が生活のどの 側面に及ぼされたかによって,人身被害,住居被害,不動産被害,生業・生計 被害,精神的・心理的被害に区分されるだろう

O

このほかに水道,道路,通信,

学校等公共施設,商業その他の共同生活手段の機能停止や機能不全もあるが,

これらは住民の共通条件になるので,ここでは各世帯側での直接被害に限った

O

このうち,最も直接的で家族生活に大きな打撃を与えるのは,家族員の死傷と いう人身被害である

O

今回の三宅島噴火では速やかな避難行動によって,人身 被害が皆無であったことは,熔岩流が密集集落を直撃し,大半の住居を埋没さ せるという大規模な災害としては,稀にみる事態であったといえよう

O

このこ とはその後の復興・生活再建過程の深刻さを相対的に柔らげる面をもったと思 われる

D

その上での住民の被害の第 1のものは住宅の埋没(あるいは焼失)である

O

村の復興課のまとめでは

512

世帯中

330

世帯が住宅を喪失した。我々の分析サン プル

384

戸中では

255

世帯

(66

.4%)がこれに当たる

O

住居は生活の拠点であり,

各世帯の最も緊急な再建課題となる。このため,行政側の復興計画においても,

個々の住民世帯との対応上最重要課題として取組まれた。住宅の埋没は当然に 家財の類の喪失をもともなう

O

そしてそこには金銭に換算しえないような家族 の有形無形の資産が含まれることを忘れてはならない。その点からしても,先 にあげた精神的・心理的被害は他の被害にもすべて重なってくるので本稿では 精神的・心理的被害は,他の被害と区別して扱うことはしていない。

ともあれ,埋没世帯・残存世帯という区分は住民に対応する復興行政の基本

的枠組となり,それは前例を見ない大規模な防災集団移転促進事業として具体

化したのである

6)

。我々が阿古地区住民の全戸調査を実施した

85

6

月末の時

点までの住民と行政の双方にとって,住宅再建は最大の課題であったから,こ

の間の住民の災害後の適応過程を捉える上で 住宅埋没被害を受けたか否かは

基本的な区分のポイントであることはまちがいない。

(4)

1

被害の種類と該当世帯数

住 宅 埋 没 群 住 宅 残 存 群 被

E

項 目

9

実 数

P

実 数 住 宅 埋 没

100. 0  255 

居 舗 を 失 う

1

1 .  

30 

民 宿 .  旅 館 を 失 う

13.  3  34 

工 場 .  倉 庫 を 失 つ

10.  2  26  3.  9 

( 上 記 以 外 の ) 建 物 被 害

14.  1  36  10.  1  13 

( 住 宅 以 外 の ) 土 地 埋 没

25.  9  66  9.3  12 

職 を 失 つ

1

1 .  

28  2.  3 

(庖舗等残ったが)客足途絶える 1 .  

3  10.  9  14 

収 入 が 半 分 か そ れ 以 下 に 減

18.  0  45  18.  6  24 

注検定結果の有意性(危険率)

=5%

,  *  * 

=1%

,  *  *  * 

:0.1%

,ム

=10%

NS =

有意性なし。

この表示法は他の表にも共通。

全 世 帯

x

2

検定

9

実 数

66.4  255 

* * *  

7.  8  30 

* * *  

8.9  34 

* * *  

8.  1  31 

12. 8  49 

NS 

20.3  78 

* * *  

8.  1  31 

* *  

4.4  17 

* * *  

18.  2 

NS 

住民の受けた被害はしかし住宅の埋没にとどまるものではない。今回の我々 の調査と噴火の年の

12

月(噴火の

3

カ月後)に実施した復興課の住民意向調査 結果の一部を接合して得られた各世帯の被害状況は表 1 にまとめたごとくであ る

O

一見して分かるように,住宅埋没被害にあった世帯において,その他の被 害も合わせて被っている割合が高い。しかし他方,住宅埋没を免れた世帯の中 にもその他の直接被害を受けた世帯が含まれており,被災世帯を住宅埋没世帯 だけに限定することは一面的であることが知られる。住宅以外の被害としては,

居宅敷地以外の土地埋没

(20.3%)

,世帯収入の半分以下への減少(1

8.2%)

などが目立つ

O

とりわけ後者は,住宅の埋没・残存による区分の間で有意差が ない。つまり残存世帯にあっても比較的高率に出現している被害である点でも 注意されるのである

O

被害の種類と程度を災害前の世帯の主な生業のタイプ別に見たものが表

2

で ある

O

住宅が埋没したのは無職世帯が比較的多いこと,各種の被害項目のいず れをみても非農自営世帯で最も被害が多いこと,次いで農漁自営世帯となり,

この 2 者と被用者世帯及び無職世帯との聞に一線が画されることが判る

O

表の

(5)

農漁自営世帯 住 宅 埋 設

64.2  (4 2) 

不動産被害

庖 舗 を 失 う

3.0  ( 2) 

民 宿 ・ 旅 館 を 失 う

7.5  ( 5) 

工 場 倉 庫 を 失 う

1 .  

9 ( 8) 

それ以外の建物被害

7.9 

( 1  

2) 

自宅以外の土地埋設

23.9 

c 1  

6) 

生計・生業被害

職 を 失 つ

9.0  ( 6) 

客(庖は残途 ったが)

足 絶 え た

5.9  ( 

1 )   収 入 半 減 以 下

30.3  (20) 

平 均 被 害 得 点

1.7 2(68) 

2

生業別被害程度

該当する世帯の割合。( )内は実数

非農自営世帯 被 用 世 帯 無 職 世 帯 全 体

XZ

検 定

60.4  (58)  7.9 

(1

25)  78.4  (29)  66.4 (255)  NS 

8.8 

( 1  

8)  4.3  ( 8)  5.4  ( 2)  7.8  (30) 

*市*

20.8  (20)  4.3  ( 8)  2.7  ( 

1) 

8.9  (34) 

車場*

14.6 

( 1  

4)  3.8  ( 7)  54 ( 2)  8.1  (3

1)  事*

25.0  (24)  6.0 

(11) 

5.4  ( 2)  12.8  (49) 

* * *  

25.0  (24)  6.8  (3 

1) 

18.9 

(7) 

20.3  (78)  NS 

12.5 

c 1  

2)  4.9  ( 9)  0.8  ( 4)  9.6  c7 7)  NS  3.5 

c 1  

3) 

1 .  

6 ( 3)  4.4  ( 

7)  *キ*

30.2  (29)  0.3 

( 1  

9)  2.8  ( 

1) 

7.2  (6 9)  2.2 1(96) 

1 .

20

( 1

84)  1.14(39) 

1 .

54(384) 

* * *  

最下欄に示した被害項目を加算した被害得点の平均値によって上記の傾向を集 約的に読みとることができる

O

以下の分析では世帯の被害程度として,住宅埋 没,不動産被害あり,生業・生計上の被害ありを加算した O~3 点のレンジを

もっ尺度値によって被害程度を識別することにする

O

( 2 )   適応の指標とその水準

ストレス論の考え方では ストレス刺激(ストレッサー)となるインパクト (本研究では噴火災害)によって行動主体のシステムがどの程度ダメージを受 けるか,それに対して各行動主体はどれだけ耐え,また対処行動をとることに よってどの程度適応・回復しうるか,という点が焦点となる。阿古地区住民の 場合,噴火の発生により,まず生命・身体の危険を避ける対応を迫られるとこ ろで全住民が一律に危機状況に置かれたといってよい。危機とは従前の行動様 式で、生活パターンが維持できない場面にさらされることと定義される

O

不自由

な避難所生活,集落を放棄するか否かの決断,仮設住宅暮らし,住宅再建の方 途の模索,自宅の再建とコミュニティ再配置への対応,生業の再開や転業等々

といった様々な問題に直面しつづける中で,東京都をはじめとする行政側の強

力な支援,村役場,特に復興課の働きに先導されながら,短期間のうちに誰も

が想像した以上の速さで全体としての生活再建が進められてきたのである。そ

うした中で,個々の世帯にあって住民は如何なる適応を示したであろうか。今

(6)

回の調査は,回答者を世帯主に指定したから,世帯を代表する個人を通して世 帯の生活再建状況を,とくに住宅再建に注目しながら捉えたといえる

O

理論的 枠組からいえば,家族のストレス状況からの回復・適応を捉えるということは,

組織体(あるいはシステム)としての家族がどの程度有効に機能を発揮してい るかを測定することにほかならない。この機能の水準を捉えるのに

3

つのレベ ルを考える 7 ) 。第 1 は家族の集団(組織)としての十全さである

O

これには成 員の間での価値や規範あるいは,具体的生活目標についての一致,役割配分の 適正さ,円滑な役割遂行,それらのための物的条件(資源)の整備,成員同士 のモラールや団結,などが指標となるが,今回の調査では世帯主による総合判 定として, r 全体として,お宅の生活再建は順調にいっていると思いますか」

という設問に対する回答によって代表させることにした

O

適応の第

2

のレベル は,成員個々人に関するものである

O

家族が生活を共同するのは,成員となる 諸個人の成長と福祉について利害を共有し合うところにその根拠があるとすれ

ば,家族の機能遂行が順調にいっているとしても,そのなかで個々の成員の成 長や福祉が阻害されるのは望ましくない

D

この点からして,個々の家族メンバー の側から見て個人の状態が家族生活の中で充分成長,福祉を支援されているか が適応を測る一つのポイントになる

O

今回の調査では 東京都精神医学総合研 究所のスタッフが共同研究メンバーに加わっている利点もあって,この側面を,

世帯主の心身健康状態から捉えた

8)

。具体的には噴火の 1 年前,噴火の 1 カ月

後,および

1

9

カ月後の調査時点という

3

つの時点について,同じ

21

項目(胃

が痛む,イライラしやすい,血圧が高い,など)のチェック方式で,心理的な

ストレスによる心身健康悪化を検出する方法をとった 9 ) 。家族適応の第

3

のレ

ベルとされるのは,家族と地域社会(コミュニティ)との適合的関係である

O

家族システムは自給自足で周囲から全く孤立した状態で存続するということは

不可能であり,必ず何らかの機能的な交渉関係を外部社会と保つことが求めら

れる。収入獲得や消費の面での経済関係において,子の教育,病弱者の医療そ

の他専門化されたサービスの利用において,政治・行政の制度にもとづく関係

において,親族や友人・知人といったインフォーマルな友誼関係やそれにもと

づく情緒的,サービス的な援助関係を通して,家族生活が成立しており,それ

(7)

は時代や文化,地域社会,社会的階層などによっておおよその標準が出来あがっ ている

O

そうした基準からみて,個々の家族が外部社会(コミュニティ)と適 合的な関係にあるか否かが,家族適応を測る 1つの側面となるのである

O

しか し,今回の調査ではコミュニティの再建およびそれと個々の家族との対応関係 については捉え切れていないので,このレベルでの判定は次回以後の調査の課 題として残された

b

以上の結果,本稿では集団レベルの適応としての「世帯再 建の順調さ

J

およぴ成員個人レベルとしての「世帯主の心身健康度j を災害ス

トレスからの適応の指標として以下の分析を進めることとした

O

3

住宅被害別世帯の生活再建の順調さ

大い ζ t 順調 まあ順調 あまり 順調でない 思わしくない 全く わからない 計 埋没世帯

4.7 

( 1

2)  60.2 

( 1

53)  23.6 (60)  3.9 (3.9)  7.5 

( 1

9)  100.0 

( 2

54) 

残存世帯

6.5 (8)  53.7 ( 66)  2

1 .

(26)  5.7 ( 7)  13.0 

( 1

6)  100.0(123) 

5.3 (20)  58.1 (219)  22.8 (86)  4.5 ( 17)  9.3 (35)  100.0 (377) 

一 一 一 一

x

2

検定 N S  

そこで世帯レベルの総合判定としての再建の順調さの結果をみると表

3

のご とくである。合計欄でみると,噴火から

1

9

カ月を経た時点で「大いに順調」

(5.3%)

と「まあ順調

J(58.1

拓)を合わせて

6

割以上の世帯が世帯の再建が 順調に進んでいると判断している

O

残り

4

割ほどのうち

1

割足らずが「わから

ない」と答えており,その意味するところは掴みきれないが,他の社会調査で の傾向を合わせ考えて,これも順調だとはいい切れない, という意味で,大き

く分ければ順調でない方に含めて考えてよいだろう。以上の結果を住宅被害の

埋没・残存に分けて捉えてみた場合,とり敢えず予想されるような,被害の相

対的に多かった埋没世帯で再建が順調でなく,残存世帯は順調である割合が高

くなるといった傾向は全く認められないのである

O

先に述べたように「分から

ない j も不順の方に加えれば,残存世帯で順調でない世帯の割合が若干高いこ

とになる(但し検定で有意差はない)。つまり残存世帯も含めて全体の

3

割か

(8)

4

割程度で生活再建が順調でない世帯があるということであり,この点が後 の分析の一つの焦点になるだろう

O

なお,この世帯再建の順調さについては,

以下の分析では他の尺度値と相関分析をするために,順調,順調でないの

2

区 分にまとめたダミー変数として扱っている

O

成員個人レベルの適応指標としての心身健康度は先に述べたように

21

項目に ついてチェックされた数を得点として使用した

O

時期別の心身不調の訴えの分 布は,噴火前

1

年が平均

0.98

,噴火後

1

カ月で平均

1.79

,調査時点平均

2.08

で ある(標準偏差はそれぞれ

1.54

2.38

, 

2.08)0

明らかに噴火直後に住民の心 身不調は増加している

O

さらに注目されることは噴火後 1 年半以上を経た調査 時点、において訴えの得点が上昇している点である

O

ここから我々は,噴火災害 のインパクトによるストレスの存在を確認するとともに,それが長期に継続す るか,あるいはその後の過程で増幅されるメカニズムが働いていることを捉え る必要がある

O

そしてこれは,我々がストレス論のモデルで考える際に,スト レス源の累積現象

(pileup)

と呼ぶ仮説の適合性を予想させるものである

10)

なお,健康不調の訴えは通常年令によって影響を受けるし,噴火前から訴え の多かった層では噴火後も当然高いであろうから,噴火災害の心身健康への 影響を捉えるには,時点聞の変化(悪化)の程度で測るのがより適切であると 考えられる

O

そこで調査時点と噴火前 1 年との訴え数の差を心身健康変化の指 標としてとった。同様に噴火後 1カ月の得点と噴火前 1年の得点の差も,噴火 によるストレスの短期的影響の指標として立てた。この指標で住宅埋没群と残 存群を比較してみると,噴火直後の変化は埋没群平均

0.90 (SD 2.08)

に対し 残存群

0.64 (SD 2.25)

で,埋没群で悪化の訴えが高いが,統計的に有意な差

とはいえない。噴火前から調査時点までの長期変化で比較すると,埋没世帯の 平均が1.

25 (SD 2.18)

,残存世帯

0.82 (SD 

1 .

67)

で両群聞には大きいとはい えないが有意な差が認められる(危険率

P=0.0526

の水準)

0

つまり噴火直後 のストレスのみならず,再建過程まで含めたプロセスの中で心身健康に差が明 確化していることが判る。

適応の指標としてとった世帯レベルの順調さと世帯主個人レベルの心身健康

変化の相互の聞の関連性をみると, r 

=‑0.101

で有意な相関

(2.5%

水準)を

(9)

示している

O

必ずしも高い相関とはいえないが,世帯レベルの順調さは個人レ ベルの心身健康変化と連動していることが確認されるのである

O

( 3 ) 対処行動

噴火災害からの生活再建過程は,ストレスへの適応過程と呼んでもよいが,

適応の程度をある時点での結果変数と考えるなら,ストレス源からのインパク トと一定の期間後の適応状態への経過は,そのインパクトによって生じた困難

(危機)を解決・解消すべく主体的に(意識的でない場合も含めて)行動する 過程であるといえる

O

そこにみられる行動を総称して,ストレスへの対処行動

(coping behavior)

と呼ぶ。噴火後の住民の行動はすべて災害ストレスへの対 処行動だといっても過言ではないが,ここでは,明示的に把握され易い行動で,

しかも世帯間で何らかの差異を識別しうるような行動を抜き出して対処行動と 表

4

対処行動の種類と該当世帯数

全 世 帯 埋 没 世 帯 残 存 世 帯

x2

検 定

対 処 行 動

実 数

実 数

実 数 I 住 居 の 確 保

11) 

避難所長期利用(

1

力局以上)

4

1 .

8  153  60.0  147  5.0  *** 

12) 

仮設住宅利用

53.1  204 

7 1 .

8  183  16.3  21 

**ホ

13) 

仮設住宅長期利用(調査時まで)

34.9  134  52.2  133  *** 

日常生計の維持

141 

日雇労務従事

17.0  65  20.1  51  10.9  14 

151 

生活費として貯金とり崩し

20.1  77  24.7  63  10.8  14  ** 

161 

見舞金充当

34.6  133  42.8  109  18. 24  *** 

17) 

r

保険金充当

3.9  15  5.1  13 

1 .

18) 

不動産収入充当

2.1  2.4 

1 .

NS 

191 

也から借金

7 27  8.2  21  4.7 

NS  日 団 主な収入源の転換

15.4  59  18.0  46  10.1  13 

ム E  家 族 員 の 配 置

1)

避難段階で分離行動

30.2  116  30.6  78  29.5  38 

日 目 仮設住宅で世帯分離

12.8  49  19

. 4  

49 

)3

世帯構造異動ありキ

10.2  39  10.6  27  9.3  12 

NS 

ω 

就業バターンの大幅変化

1

1 .

42  13

. 4  

31  8.9  11  W

資 金 の 調 達

日 目 住宅資金に日常財源充当

30.7  118  46.3  118  1

1

r

臨時財源投入

3

1 .

8  122  47.8  122 

日 明 " 

H

43.0  165  64.7  165 

日 目 事業資金に日常財源投入

2

1 .

82  2

1 .

55  20.9  27 

日 明

臨時財源投入

9.6  37  12.5  32  3.9 

グ 借

16.7  64  2

1 .

54  7.8  10 

V 不 動 産 処 理

cm

土地移動あり

38.3  147  45.5  116  24.0  31 

キ*ネ

l22l仮底舗仮倉庫など利用

13.8  53  18. 47  4.7  *** 

世帯構造異動とは「世帯主の交替

Jr

仮設住宅での世帯分離」を指す。

(10)

みなした。それが表

4

に盛られた

22

項目である

o

対処行動を整理しまとめてい くにはいくつかの考え方があろう。その行動がとられる時間の前後関係や,そ の行動に動員される資源の種類や源泉によって整理する考え方なども可能であ るが,ここではその行動がどのような目標に志向してとられたかに着目して下 位区分して掲げてある

D

すなわち. (1)住居の確保. ( 2 ) 日常生計の維持. ( 3 ) 家族 構成の転換に結びつく家族成員の再配置. ( 4 ) 各種資金の調達. ( 5 ) 不動産処理,

以上

5

つの下位区分である

o

以下の分析に当たっては,全体の

22

項目中で該当 するアイテムの数を加算したものを総合的な対処行動量として扱うとともに,

らつの下位区分をそれぞれ干位尺度として使用する

O

4

では各アイテムの該 当世帯数とその埋没・残存両群の分布を示し,表

5

には下位尺度およぴ総合尺 度の平均得点、を示した。いずれの尺度でも住宅埋没世帯において対処行動が多

くとられたことが明瞭である

o

以上,この分析の中心的な変数となる,被害程度,対処行動,家族適応につ いて,調査票の制約の中から操作的に捉えた結果を示した

O

以下ではこれら

3

変数の間の関連を,先の図 1 に含まれる他の変数との関連をも合わせて,明ら かにしていくことにする

O

5

埋没残存別対処行動得点

埋 没 世 帯 残 存 世 帯

( 分 F 散検分定析)  住 居 確 保 1 .

82  0.2 0 

1 .

28 

* * *  

生 計 維 持 1 .

0.5 9 

1 .

00 

*本*

家族員配置 0.73  0

. 4  

0.64 

* *  

資 金 調 達

2.1 4  0.3 3 

1 .

*本*

不動産処理

0.64  0.29  0.52 

* * *  

対 処 行 動 総 合

6.5 4 

1 .

88  4.97 

* * *  

(11)

要因間の関連分析

( 1 )   被害程度と適応度

この両者の関連については,

I

噴火によって引き起こされた被害の程度が大 きいほど, (その後の回復に時間を要するので)一定期間後の適応の水準は低い

J

という関連性が仮説として考えられる。表 6 にこの関連を見る相関表を示した

O

我々の設定した各世帯の総合的な被害程度の指標は,世帯再建の順調さとマイ

ナス方向で有意な相関を示す

(r=‑0.163)0

すなわち,被害程度が大きいほ ど世帯再建は順調と言えない関係にある。もうひとつの個人レベルで、の適応指 標とした噴火前と調査時点での心身健康の落差についても,被害程度が増すと 健康悪化を呈しやすいという関連性が有意に認められる

(r=0.174)

。以上の 結果上記の仮説は三宅島噴火災害においても一応確認できたといえよう

O

6

被害程度と適応指標との相関(ピアソン相関係数) 世帯再建の順調さ 世帯主の健康変化

E

‑0.163***  0.174** 

(1) 

住宅被害(埋没・残存)

0.058  0.099* 

(2)

産 被 害

‑0.051  0.038  (3)

生 業 ・ 生 計 被 害

‑0.29***  0.1 54** 

同じ表

6

において,被害の種類を下位区分した上で適応指標との関連をみる

と,世帯レベル,個人レベルの双方において適応度に阻害的に作用しているの

は生業・生計上の被害であることが判る

D

不動産被害は適応を阻害する方向に

あるが,その関連性は弱い。住宅被害は,個人の健康レベルには有意な関連性

を示すが,世帯レベルの順調さとは仮説と反対方向の関連性を示している

O

まり,埋没世帯でむしろ順調だと判断している傾向がみられるということであ

O

但し,有意なものではない。この点は本稿の前の部分(表

3

)でも触れた

とおりである

O

(12)

7

被害程度と対処行動(ピアソン相関数)

下 位

対 処 総 合 点 1 .   住居確保

生計維持

3.

家族員配置

資金調達

5

不動産処理 被 害 総 合 得 点

o. 625 * 柿 0.465本** O.  354 * 柿 O.  173** 0.518***  O.  313帥 *

(11 

住宅被害(埋没・残存)

0.673* O.  647紳 * O.  272 * 紳 O.  448 * 柿 O.  565 * 輔 0.258*** 

(21

不 動 産 被 害

O.  413 * 神 O.  194輔 * O.  161 **  O.  165キ * O.  388 * 紳 0.362*** 

(31

生 計 ・ 生 業 被 害

O.  117  *  ‑0.003  O.  244キ 柿 O.  039  ‑0.004  ‑0.052 

(2) 

被害程度と対処行動

この両者については「被害の程度が大きいほど 多様な対処行動が必要とさ れ,また遂行される

J

という命題が仮説となるだろう

O

7

によってみれば,

被害の総合得点と対処行動の総合得点の間では r

=0.625

の高い相関が認めら れ,上記の命題が確認される

O

対処行動の

5

つの下位尺度はいずれも被害程度

と有意な関連をもつが,中では資金調達が相対的に高い相関を示している

O

被 害の内容の方も細分してみると,住宅被害と不動産被害は,各領域での対処行 動とそれぞれ関連性をもっているが 生計・生業被害ではもっぱら生計維持の 対処行動と関連するだけで,他の対処領域とは関連していない。

( 3 )   被害程度と対処段階の認知・評価

発生した客観的・物理的インパクトが対処行動や適応の水準を規定すること はこれまで見てきたとおりであるが ストレス論の観点ではそれに留らず,事 態への認識や意味づけによってその後の行動過程が違ってくることに注目す る

O

これは個人のパーソナリティ特性による側面 その家族の価値観やライフ スタイルによる面が考えられるほかに 地域社会の特性,とりわけそこでの文 化的背景も規定要因になると考えられる

O

災害研究で「災害下位文化j に注目

しているのも共通するポイントである

11)

。たとえば三宅島の場合,住民は足

下からの噴火の直撃を受けるのでない限り,噴火があっても必ず逃げられると

いう過去からの経験にもとづく信念を共有しており,これによって噴火当時の

混乱は大幅に緩和されたと住民たちも語っている

O

また噴火災害に応じた他部

落や村行政の対応のパターンもある程度できているという面があったわけであ

O

我々の今回の調査ではこうした被害に対する地域での共通した見方や,各

(13)

戸の受けとめ方について質問する項目が入れられていない。そこでこの分析で は認知要因を捉えるひとつの指標として対処段階での主観的困難さの程度を採 用することにした。これには避難所生活,仮設住宅暮らし,仕事の再開等の

9

項目について 1 2 ) それぞれ

4

段階評定で答えを求めたものを加算する方式が 考えられる

O

しかし,この方法では項目に該当する世帯としない世帯の別が困 難感の程度に直結してしま,うので 本稿では加算得点を該当項目数で討った値 を

(10

倍して),対処過程におけるその世帯(主)の平均的な困難感として指 標化した。

8

被害程度と対処過程の困難感の関連

(ピアソン

r)  対処過程困難感 総 合 被 害 度 O .   239  * 料

( 1 ) 住 宅 被 害 O .   205 林 *

( 2 ) 不 動 産 被 害 O .   154  * *  

( 3 )   生業・信十被害 O .   147 ホ*

8

によって被害程度との関連をみると,被害程度が大きいほど対処過程で の困難感が強まることが確認される

O

また,下位尺度である住宅被害,不動産 被害,生業・生計被害もそれぞれ困難感と有意に関連しているが,中では住宅 被害との関連がやはり強いといえる。

( 4 )   対処行動と認知・評価

「インパクトの受け止め方,意味づけ方によって,とられる対処行動に違い が生じる」というのがここで提出される仮説になるのだが,今回の調査ではこ の点を直接捉える設聞がない。そこで,先にあげた対処過程の困難感との関連 をみるにとどまる

O

9

にみるように,対処行動を多くとる世帯(主)ほど困 難感が強いことが示されている

O

対処行動の内容としては資金調達に関わる行 動において,困難感との相関が最も高くなっている

O

( 5 )   対処行動および対処段階の認知

対処行動というのはストレス源のインパクトによるダメージあるいは不適応

(14)

9

対処行動と困難感の関連

(ピアソン r)

対処段階の困難感

対 処 行 動 総 合

0.294 *** 

(1) 

住 居 確 保

0.160 ** 

(2) 

生 計 維 持

0.148 ** 

(3)  家 族 員 配 置 0.175 *** 

(4) 

資 金 調 達

0.247*** 

(5) 

不 動 産 処 理

0.173

本**

を解消するためにとられる行動であるから,

I

対処行動をとった世帯(主)は とらない世帯(主)よりも適応の回復が良い

J

という見方ができる

D

そこで対 処行動と適応指標との相関をみたものが表1

0

である

o

世帯再建の順調さと対処

表 1 0 対処行動と適応指標の相関表

(ピアソン

r)  世帯再建の順調さ 世 健 帯 康 変 主 の

対 処 行 動 総 合

‑0.008  O.  170 

* 綿

(1)

住 居 確 保

‑0.002  O.  114 *  (2)

生 計 維 持

‑O.  193柿 割 0.212 ***  (3)  家 族 員 配 置 0.064  0.009  (4)

資 金 調 達

0.084

O.  105 *  (5)

不動産処理

0.058 

O.004 

行動の総得点は

r=0.008

と無相関で仮説は支持されない。内容別にみると,

生計維持に関わる対処行動では有意な逆相関

(r=‑0.193)

,つまり対処行動

が多いほど順調ではないという関連を示し,逆に資金調達は弱いながらプラス

相 関 (

=0.084)

で順調さに寄与する方向の関連を示す。このように対処行

動に両面が含まれることは注意されるところである

O

次に成員個人レベルの適

応の指標としての健康変化との関連をみれば,全体として対処行動が多くとら

(15)

れるほど健康悪化に結びついているということが有意に示されている

(r

0.170

, 

0.1 

%有意)。先の場合と同じく生計維持に関わる対処行動の量が世帯 主の心身変調にも最も強く関連しており,他に資金調達や住居確保の対処行動 でも有意な相関がみられる

O

対処行動は困難解決のためにとられる行動であるが,こうしてみると,その 対処行動をとること自体が更なるストレス源として追加される形が考えられる のである

O

本研究の重要な参照枠であるマッカバンの

2

ABCX

モデルでは,

危機発生後の適応過程でストレス源の累積

(pileup)

現象に注目してこれをモ デルに組込んでいる

O

その現象の生じるパターンは

3

つあるとされ,そのうち の一つが対処行動自体が第

2

次的負荷として累積される場合である

O

ここで捉 えられた結果もこれに対応すると考えることができょう

O

ちなみに,累積現象 が生じる他の

2

つの場合というのは,当初のストレッサーによる困難が未解決 のまま持続される中で,その困難性

(hardnhip)

が増大していく場合(病気の 増悪など),第

3

の形は,当初のストレス源(となる出来事)とは別個の出来 事(ライフサイクルの展開によって生じる変化など)が生じて第

2

次的負荷が 追加される場合である

13)

。今回の調査では第 2第 3の累積のタイプについて 捉える用意が十分でなかったので,対処行動が第 2 次的負荷になるという点の みを確認したことで満足せねばならない。

次に対処段階での認知要因としての困難感と適応度との関連をみよう。世帯 レベルでの再建の順調さとは r ー

0.042

で相関が認められない。これに対し て,世帯主の健康変化とは r

=0.177

で有意

(0.1%

水準)な関連の程度を示し ている

o

こうした関連性は,先にみた対処行動量と適応変数との関連のパター ンと類似的である

O

このことは,困難感と対処量とが r

=0.294

で有意に関連 していることからも納得できるところである

O

まとめていえば,対処過程では,

対処行動量も主観的困難感もともに結果変数としての世帯レベルでの生活再建 の順調さには相関を示さず,世帯主個人のレベルでの健康悪化と関連している,

ということである

O

(  6 )   ストレスへの対処資源

次にストレス論における資源要因を考えよう

O

ストレス対処資源として,マ

v

(16)

カバンは個人的,家族的,コミュニティ的の

3

つのレベルを識別することを提 案し,松岡英子は,資源の帰属についてマッカバンを越えて,個人資源,家族 資源,親族資源,インフォーマルな準社会資源(近隣,友人・知人など),よ

りフォーマルな社会的資源(公的サービスなど)を識別するとともに,資源の もつ機能の面から,経済的,身辺介護的,情緒的という

3

区分を立て,両者を 組合せた資源の識別と評価を寝たきり老人の家族に関する実証研究で試みてい る

O

今回の我々の調査ではそうした系統立った分析のためのデザインがされて いなかったので,ここでは「再建にあたって品物や現金を送ってくれた人」に ついて,その関係をカテゴリー化

14)

したものを複数回答で求めた質問から,

チェックされたカテゴリー数をもって,その世帯の支持的ネットワークの多様 性と捉え,その得点の高いほど資源動員が多いものと考えた。勿論ひとつのカ

テゴリーたとえば友人・知人の中に何人の人が実際の金品援助をしてくれた か,また,援助の額はどの程度かを問うていないから,対象世帯が得た援助の 量を測定したことにはならないが,関係カテゴリーの多様さは,その世帯のネッ

トワークの広さをかなりの程度反映していると考えたのである

O

ネットワーク の多様さを示す尺度値とストレス諸変数との相関をみたものが表

11

である

o

11

支持的ネットワークの多様性と他の 変数との関連(ピアソン r) 

支持的ネットワーク 被

z

コ 程 度

0.235* * 

文 す 処 行 動 E

0.301 * 

困 難 感

0.079

生 活 再 建 の 順 調 さ

0.117* 

健 康 λ

IJζ

0.057 

被害程度とネットワークが正の相関を示しているのは,被害の結果としてそ

うなのか,ネットワークを広くもっている世帯の方が被害程度が大きくなりや

すいということか,ここでは判定しきれない。対処行動量とも明確な相関がみ

られるのは,ネットワークを多様にもって,そこから援助が得られるような世

表 1 被害の種類と該当世帯数 住 宅 埋 没 群 住 宅 残 存 群 被 宝E コ 島 E  項 目 9 ち 実 数 P ち 実 数 住 宅 埋 没 1 0 0 .  0  2 5 5  一 居 舗 を 失 う 1 1 .  8  3 0  民 宿 .  旅 館 を 失 う 1 3
表 7 被害程度と対処行動(ピアソン相関数) 下 位 尺 度 対 処 総 合 点 1 .  住居確保 2  生計維持 3 . 家族員配置 4  資金調達 5 不動産処理 被 害 総 合 得 点 o.  625  * 柿 0.465 本** O
表 9 対処行動と困難感の関連 (ピアソン r) 対処段階の困難感 対 処 行 動 総 合 0.294 ***  ( 1 )  住 居 確 保 0.160 **  ( 2 )  生 計 維 持 0.148 **  ( 3 )  家 族 員 配 置 0.175 ***  ( 4 )  資 金 調 達 0.247***  ( 5 )  不 動 産 処 理 0.173 本** を解消するためにとられる行動であるから, I 対処行動をとった世帯(主)は とらない世帯(主)よりも適応の回復が良い J という見方ができ
図 2 家族適応の二重 ABCXモデル McCubbin  &  P a t t e r s o n ,  1 9 8 1 ,  p .  9  マッカバンの 2 重 ABCX モデルについては以下の文献を参照されたい。

参照

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