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一部認容判決について : いわゆる質的一部認容の 構造

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一部認容判決について : いわゆる質的一部認容の 構造

著者 名津井 吉裕

雑誌名 同志社法學

巻 62

号 6

ページ 1843‑1896

発行年 2011‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013565

(2)

一部認容判決について 二〇五同志社法学六二巻

一部認容判決について

いわゆる質的一部認容の構造

名 津 井  吉  裕

︵一八四三︶ 一 はじめに

  民事訴訟においては︑原告の請求︵訴訟物︶に対して裁判所がその一部のみを認容し︑その余の請求を棄却する︑一

部認容︵・一部棄却︶判決がされることがある︒裁判所は原告の請求の当否を判断すべきとの見地からは︑原告が審判

を求めた事項につき︑裁判所は請求認容︵全面肯定︶もしくは請求棄却︵全面否定︶をもってのみ応答すべきところだ

ろう︒しかしこの場合︑裁判所が請求の一部を認容し︑その余の請求を棄却したとしても︑裁判所の民事審判権の範囲

を超えず︑被告の防御の利益を害しないのであれば︑訴訟を開始した原告の便宜を図る余地があるところ︑原告が拒ま

ない限り︑一部認容︵・一部棄却︶の判決をしても何ら問題はないはずである︒民訴法二四六条は︑当事者︵特に原告︶

の申し立てない事項につき裁判所が判決をすることを禁ずるが︑一般に︑上記のような一部認容︵・一部棄却︶判決は

(3)

一部認容判決について 二〇六同志社法学六二巻六号

同条に違反しないと解されている

︒こうした叙述は︑金銭給付訴訟の事例︵たとえば︑一〇〇〇万円の給付請求に対し 1

て︑三〇〇万円の限度で請求を認容し︑その余を棄却する場合等︶を想定すれば︑特に違和感はないものと思われる︒

  しかし︑民事訴訟の審判事項は︑金銭給付請求のみではない︒特定物の引渡請求のように︑一部認容︵・一部棄却︶

の観念を容れる余地が疑われる場合もあれば︑金銭給付請求の場合でも︑右のように原告の訴求額の範囲内かどうかが

問題となる事例ばかりとは限らない︒このような場合でも︑一部認容︵・一部棄却︶判決をすることが許されるか︑ま

た許容されるとしても金銭給付訴訟の事例と同様に説明できるのか︑といった点が問題になろう︒講学上︑右のような

場合は﹁質的一部認容﹂と呼ばれ︑後述二

3

で検討する具体例のいくつかは︑実務上も古くから許容されている︵たと

えば︑引換給付判決︑立退料判決等︶︒

  このように︑﹁質的一部認容﹂については先駆的な実務がある一方で︑若干の例外を除けば

︑従来この実務に対して 2

立ち入った検討はされていないように思われる︒実際︑金銭給付請求に対する数量的な一部認容との対比から︑異質な

ものとして﹁質的一部認容﹂の個別事例に言及されることはあっても︑この種の判決がどのような事情から必要とされ︑

またどのような場合に許容され︑あるいは許容されないのか︵限界はどこにあるのか︶についての一般的な考察は不十

分である

3

  本稿は︑こうした問題意識の下︑﹁質﹂の面での一部認容︵・一部棄却︶判決について︑その構造を分析し︑﹁質的一

部認容﹂の許容範囲︵特にその限界︶を探ることを目的とする︒この目的のために検討すべき事項ないし事例は多岐に

わたるが︑本稿はそのすべてを網羅するものではない︒むしろ︑前述した問題意識の下︑今後筆者が研究を進める際の

序論的な考察と位置づけられるものである︒

  以下では︑まず二において︑一部認容︵・一部棄却︶判決の基本的な構造について分析を加え︑そこで得られた視座 ︵一八四四︶

(4)

一部認容判決について 二〇七同志社法学六二巻 から︑﹁質﹂の面での一部認容判決をいくつかの類型に整理しつつ︑個々の判決がいかなる意味で一部認容判決である

のかを検討する︒その後︑三において﹁質的一部認容﹂の問題点を整理した上で︑その規制の必要性および規制の方法

について若干の試論を用意する︒

二 申立事項と一部認容判決

1

.民訴法二四六条の規律が及ぶ範囲   前述したように︑民訴法二四六条は申立事項を超えた又はそれと異なる内容の本案判決︵判決事項︶を禁止するが︑

申立ての範囲内で一部を認容することは適法である︒若干敷衍すると︑民訴法二四六条は︑訴状の請求の趣旨および原

因︵民訴一三三条二項︶に基づき特定識別される申立事項が︑判決書の主文および事実︵同二五三条一項︶に基づいて

特定識別されるべき判決事項と符合すること

を求める規律と解される︒つまり︑判決事項は申立事項に対する応答でな 4︶

ければならないから︑一部認容判決の場合も︑原告が審判を求めた請求について︑その一部を認容し︑かつ︑その余の

請求を棄却した判決事項の全体こそが申立事項に対する応答をなすのである︒それ故︑一部認容判決である限り︑判決

の主文には﹁その余の請求を棄却する﹂の文言を記載するのが原則である︒さもないと︑裁判の脱漏︵民訴二五八条︶︑

一部判決︵同二四三条二項︶の疑いが生ずる︒この意味の一部認容判決について︑﹁数量﹂と﹁質﹂の区別が観念される︒

  この点︑従来の一部認容判決をめぐる議論では︑﹁量﹂と﹁質﹂が対比されることが多かった

︑金︒しかし本稿では 5︶

銭を目的とした給付訴訟における﹁数量﹂的一部認容と︑その他の場合を区別し︑後者をまとめて﹁質﹂的一部認容︵一

部認容の一種︶と扱う︒というのは︑これまで﹁量﹂的一部認容として分類されることがあった︑家屋の一部明渡しな

︵一八四五︶

(5)

一部認容判決について 二〇八同志社法学六二巻六号

どの一部認容は︑後述する﹁数量﹂的一部認容とは構造が異なるため︑区別した方がよいと思われるからである︒

  さて︑一部認容判決の典型的な態様は︑﹁数量﹂に関するそれとみるのが一般的である︒そこで︑まずは﹁数量的一

部認容﹂の構造を検討し︑一部認容判決の基本的な特徴を考えてみることとする︒

2

.﹁数量的一部認容﹂の構造   申立事項の中核を占めるのは請求であるが︑以下では論旨を明確にする必要上︑一〇〇〇万円の給付訴訟が提起され︑

三〇〇万円の一部認容判決︵その余︹七〇〇万円︺の棄却判決︶がされた設例を使って考察を進める︵なお︑債務不存

在確認訴訟は︑本稿では考慮の外に置く

︶ ︒ 6︶

  右の設例における一部認容判決は︑どのように説明すべきか︒一般には漠然と︑かかる一部認容判決も︑原告が審判

を求めた請求の範囲内の判決であって︑ただ認容額が訴求額を下回ったものと受け止められているのではなかろうか︒

だがこうした受け止め方自体が︑一つの前提に立っていることに留意する必要がある︒つまり︑審判の対象とされた請

求本体︵訴訟物たる原告の被告に対する権利主張にいう﹁権利﹂のうち︑金額を除いたものの存在または不存在︶と︑

その範囲︵金銭給付請求にあっては︑給付目的としての﹁金額﹂︹=金銭の価値を数値化したもの︺の多寡︶を区別す

るという前提がそれである︒

  ただしこの前提は︑金銭債権︵以下︑いわゆる﹁金額債権﹂の意味で用いる

︶の概念に変更を求めるものではない︒ 7

訴訟物として主張される﹁権利﹂は︑それが金銭給付請求権︵ないし金銭債権︶である場合でも︑金額を含めた全体を

﹁権利﹂と観念すべきものである︒つまり︑金銭給付請求権の存在は︑﹁金額﹂から離れて観念されず︑﹁金額﹂がその﹁権

利﹂としての内容を規定する関係にあることを認めるのが基本である

︵ただしここでは︑違約金等に関する附帯請求︹支 8︶ ︵一八四六︶

(6)

一部認容判決について 二〇九同志社法学六二巻 払済みまで︺や不法占拠に基づく損害賠償請求︹明渡済みまで︺のように︑請求において具体的な金額を明示しない場合は︑さしあたり考慮の外に置く

9

︶ ︒   では︑右に述べたように︑請求として主張される金銭給付請求権は︑具体的な金額から離れて存在し得ないという考

え方を徹底し︑請求についても︑原告が主張した金額によって特定識別される﹁権利﹂の主張の当否と構成すべきだろ

うか︒設例で言えば︑請求は︑一〇〇〇万円の金銭給付請求︵一〇〇〇万円の金銭給付請求権の主張の当否︶となるか

ら︑これに対応する判決も二者択一︑すなわち︑請求認容︵全面肯定︶または請求棄却︵全面否定︶のどちらかでしか

ないとみるわけである︒どちらの判決も︑民訴法二四六条の関係では申立事項と判決事項が符合し︑適法である︒

  しかし︑このような考え方によって︑果たして一部認容判決を適切に説明できるだろうか︒設例のように︑一〇〇〇

万円の金銭給付請求に対して︑裁判所が三〇〇万円の限度で請求を認容し︑その余の請求を棄却する場合︑判決事項は︑

三〇〇万円の金銭給付請求権の存在であって︑確定すれば︑その旨の既判力が生ずる︒七〇〇万円の金銭給付請求権の

不存在についても同様である︒とすると︑右の判決事項の中には︑一〇〇〇万円の金銭給付請求権︵の存在または不存

在︶が見当たらない以上︑一部認容︵・一部棄却︶判決は︑民訴法二四六条に照らし︑申立事項とは﹁別物﹂を判断し

た違法な判決とみなければならないのだろうか︒この点︑たしかに判決事項に含まれた二つの金銭給付請求権について

の判断︵三〇〇万円の請求権の存在/七〇〇万円の請求権の不存在︶の基礎には︑原告が審判を求めた一〇〇〇万円の

金銭給付請求権と同一の事実関係があることは明らかである︒しかし理論的には︑申立事項ないし請求として主張され

る﹁権利﹂について﹁金額﹂を不可欠の要素とするという前提を請求の関係においても貫く限り︑判決事項で示された

﹁権利﹂が︑申立事項のそれと同一と解することは困難である

10

  とは言っても︑前述

1

で確認したように︑一部認容判決が民訴法二四六条に照らして適法と解されることには異論が

︵一八四七︶

(7)

一部認容判決について 二一〇同志社法学六二巻六号

ないのである︒設例の場合も︑裁判所の判決は︑同一の請求について判断したものと受け止めるのが普通だろう︒とい

うことは︑請求として主張される権利が金銭給付請求権である場合︑たとえ﹁権利﹂には﹁金額﹂が含まれるのが基本

であるとしても︑この観念を請求のレベルにまで貫徹し︑原告が主張した﹁金額﹂︵訴求額︶の当否を基準として︑申

立事項と判決事項の符合の有無を判断すること自体に問題があるのである︒ここではむしろ︑金銭給付訴訟における請

求は︑請求本体︵﹁権利﹂の存在面の主張︶と︑それに基づく救済の範囲︵﹁権利﹂の数量面の主張︶に区分して考える

べきである

︒こうすることで︑申立事項と判決事項の符合を判断する際︑請求の同一性については︑﹁請求本体﹂のみ 11

を基準として判断すればよく︑また﹁救済の範囲﹂については︑そもそも﹁訴求額=認容額+棄却額﹂の関係︵申立事

項と判決事項の符合︶が必要なところ︑一部認容・一部棄却︵認容額または棄却額のどちらも零でない︶の場合は︑﹁訴

求額

> 認容額﹂でさえあればよい︑と説明することができる︒

  右のような考え方を設例に即して確認してみよう︒一〇〇〇万円の給付請求に対して︑裁判所が三〇〇万円の一部認

容判決をする場合︑原告が審判を求める請求は︑請求本体である金銭給付請求権の主張と救済を求める範囲である一〇

〇〇万円の訴求によって構成される︒設例の判決は︑三〇〇万円の一部認容︑七〇〇万円の一部棄却であるところ︑請

求本体である金銭給付請求権が申立てと同一である限り︑判決事項と申立事項は符合する︒他方︑救済の範囲に関して

は︑判決においては︑三〇〇万円の限度で認容︵救済︶されており︑原告が訴求した一〇〇〇万円を下回る︒訴求額と

認容額の不一致は︑請求の同一を左右せず︑むしろ︑認容額たる三〇〇万円︵棄却額たる七〇〇万円︶が︑訴求額たる

一〇〇〇万円の範囲内である限り︑救済の範囲についても申立事項と判決事項は符合すると解される︒既判力の範囲に

関しては︑請求として原告が救済を求めた範囲︵訴求額である一〇〇〇万円︶が基準となるから︑請求本体に基づいて

救済された部分︵三〇〇万円︶の存在︑及び︑救済されなかった部分︵七〇〇万円︶の不存在の両方について︑既判力 ︵一八四八︶

(8)

一部認容判決について 二一一同志社法学六二巻 が生ずると解することができる︒  さて︑﹁数量的一部認容﹂は右のような構造を有するとして︑このような一部認容判決が適法と解されるのは︑なぜ

だろうか︒この点は︑設例のように原告が部分的に勝訴できる見込みがあるとき︑原告は全部棄却を望まないとの意思

解釈に求められるのが通常である

︒たしかに全部棄却判決がされた場合︑既判力制度によって原告の再訴は阻止される 12

以上︑原告が敢えて全部棄却判決を選択する可能性はないだろう︒よって︑かかる意思解釈には合理性があると解され︑

民訴法二四六条の趣旨に照らし適法とされるのである︒

  これに対して︑﹁権利﹂と﹁金額﹂を不即不離と捉え︑それをそのまま請求に据える前述の考え方からは︑別の結論

に至る余地がある︒設例の場合︑一〇〇〇万円の給付請求を全部棄却した判決が確定した後︑この訴訟を通じて適正額

は三〇〇万円であると察知した原告が︑三〇〇万円の請求を立てて再訴した場合でも︑前訴判決の既判力は一〇〇〇万

円の給付請求権の不存在にしか生じず︑再訴の請求とは別物と解する限り︑再訴は既判力によって阻止されないという

結論になろう︒かかる解釈を採用し得ないことは前述したが︑仮にこのように解する場合でも︑一〇〇〇万円の給付請

求権と三〇〇万円の給付請求権の発生原因等が共通する以上︑全部棄却の前訴判決の既判力が︑三〇〇万円の再訴に対

して無力であるのは訴訟政策的に不当と判断し︑再訴の禁止を考える余地はある︒しかしここで再訴を禁止すれば︑実

質的には三〇〇万円の勝訴判決を得ることができた原告の地位が︑訴訟手続を通じて保護される途もまた封じられ︑大

いに疑問である︒このように考えると︑金銭給付請求権︵金銭債権︶が︑社会通念上︑金銭の価値という高度に抽象化

された内容を目的とする権利

であることに十分に配慮した理論構成が必要と言うべきであろう︒それがまさに︑請求に 13

関する﹁請求本体とその範囲﹂の区分なのである︒

  以上のように解析された﹁数量的一部認容﹂を一部認容判決の﹁基本型﹂と位置づけるとき︑これと対比することで

︵一八四九︶

(9)

一部認容判決について 二一二同志社法学六二巻六号

﹁質的一部認容﹂の姿が浮び上るように思われる︒

3

.﹁質的一部認容﹂の構造とその具体例   前述した﹁数量的一部認容﹂においては︑給付訴訟の目的は金銭︵の支払︶であるところ︑金銭は物としての個性を

欠いた価値的存在にすぎない︒それ故︑申立てと判決の符合については︑請求本体の同一性が認められる限り︑請求本

体と区分された範囲にかかる﹁数量﹂のみが問題となる︒このときの適法な﹁一部認容判決﹂とは︑﹁訴求額を上限︵=

全部認容︶としてこれを下回り︑かつ︑零を下限︵=全部棄却︶としてこれを超える範囲に含まれる任意の数額の支払

を命ずる判決﹂を意味するため︑特定の金額の支払を命じた判決が﹁一部認容﹂であるかどうかの判断自体は容易であ

る︒  しかしながら︑﹁一部認容﹂の判決は︑右のような場合に限られない︒﹁数量﹂とは区別された﹁質﹂にかかる﹁一部

認容﹂であることもある︒つまり︑判決において認容された内容が︑申立てに対する﹁数量的一部﹂ではないとしても︑

当該判決の内容を民訴法二四六条の趣旨に照らして検討した結果︑﹁申立ての範囲内﹂あるいは﹁申立てに含まれる︵申

立てが判決を包含する関係にある︶﹂と扱うことが許される場合もあるとの見方が一般的である︒

  このように︑判決が﹁質﹂の面で申立ての一部に当たる場合があるとしても︑具体的にどのような事例がこれに該当

するかは︑一つの問題である︒この点︑従来﹁質的一部認容﹂の具体例とされてきた若干の事例︵後述の①以下︶を通

観すると︑これらの事例は極めて雑多で︑また個性的である︒そのため︑個々の事例の間に共通点を見出し︑一定の類

型を抽出することは︑一見困難である︒

  しかしながら︑前述した﹁数量的一部認容﹂には一部認容の﹁基本型﹂としての地位が与えられてよいのだとすれば︑ ︵一八五〇︶

(10)

一部認容判決について 二一三同志社法学六二巻 従来﹁質的一部認容﹂とされてきた個々の事例が︑これとどのような点で共通し︑またどのような点で異なるのかを検討するという視座が得られる︒筆者は︑かかる検討の結果として︑﹁質的一部認容﹂の事例を類型化することは︑必ず

しも不可能ではないと考えるに至った︒結論として︑右の事例群からは︑少なくとも次の

の類型を抽出すること

ができると考える︒各類型の内容や根拠については︑該当箇所の考察に譲ることとし︑ここではその前提として︑﹁数

量的一部認容﹂︵基本型︶と対比される﹁質的一部認容﹂の基本的な特徴を明示しておきたい︒

  ﹁質的一部認容﹂の特徴として筆者が重要と考えたのは︑次の二点である︒すなわち︑第一に︑申立てに対する判決

において︑﹁請求それ自体﹂︵以下︑請求本体とその範囲を含めた意味でこの表現を用いる︶につき︑どのような判断が

されたかという点である︒特に判決に含まれる﹁請求それ自体﹂に対する判断が︑その実質において全部認容︵ないし

全部棄却︶かどうかが重要である︒というのも︑この点が肯定できる限り︑その﹁一部認容﹂は﹁数量的一部認容﹂と

は全く異なる構造を有すると評価できるからである︒換言すれば︑その﹁一部認容﹂は︑﹁請求それ自体﹂以外の要素

に関して申立てよりも劣る内容であるが故に︑﹁一部認容﹂となる場合であると言える︒

  第二に︑右の点とも関連するが︑﹁数量的一部認容﹂の構造が示す通り︑判決が申立てに対する﹁一部認容﹂である

以上︑これと対をなすべき﹁一部棄却﹂の判断は︑本来不可欠であると解される︒ところが︑﹁数量﹂以外の面で申立

てを﹁一部認容﹂した判決をみると︑﹁一部棄却﹂の判断が明示されない︑あるいは︑明示されてもその内容が必ずし

も判然としない事例があり︑そしてこのこと自体が﹁質的一部認容﹂の特徴をなしているものと解される︒とすれば︑

このような﹁一部認容﹂を検討する際には︑判決において申立ての中の何が排斥されたのかを解明するという視点が極

めて重要である︒換言すれば︑この視点は︑申立てと判決がどのように符合するかを﹁一部棄却﹂の側面から検証する

ものと言える︒

︵一八五一︶

(11)

一部認容判決について 二一四同志社法学六二巻六号

  以上のように︑﹁質的一部認容﹂を﹁数量的一部認容﹂と対比した場合︑前者の基本的な特徴は︑右の二つの視点に

よってかなり鮮明になるように思われる︒以下では︑このことを踏まえて︑﹁質的一部認容﹂が次の

の三つの類

型に分かれる理由を︑各類型に属する具体的な事例の分析とともに検討していくこととする︒その際の基本的な問題意

識は︑各類型に含まれる事例が︑どのような意味で申立てに対する﹁一部認容﹂であるのかという点であるが︑﹁質的

一部認容﹂の特徴を析出させた前述の二つの視点は︑以下の考察においても基層的な分析視角となる︒なお︑以下で検

討する事例は︑決して網羅的ではない︒たとえば︑差止請求については︑給付目的︵差止めの内容としての作為・不作

為︶につき特別の考慮を要する点にかんがみ︑本稿の考察対象からは外してある

14

⑴  請求を認容しつつ原告に負担を課す場合

  原告の請求に対して裁判所が応答する際︑請求を認容しつつ︑原告に対して請求とは別の一定の﹁負担﹂を課すこと

がある︒原告が﹁負担﹂のない判決を求めたのに対して︑﹁負担﹂の付いた請求認容判決がされるのであるから︑一部

認容の一種と解される︒以下では︑このような一部認容を﹁負担型﹂︵の一部認容︶と言う︒

  では︑そもそも﹁負担型﹂の一部認容は許されるだろうか︒申立てと判決を比較してみると︑請求は同一であって︑

原告の請求それ自体に対する裁判所の判断は︑全部認容の実質を有している︵前述した﹁数量的一部認容﹂とは異なる

構造を有する︶︒しかし判決の中に︑請求とは別個の原告に不利な内容︵=負担︶が含まれた結果として︑請求に対す

る裁判所の応答は申立てより劣っている︵この限りで敗訴している︶︒原告がこのような判決を望まず︑むしろ︑請求

棄却を求める意思が明らかな場合︑﹁負担型﹂の一部認容は︑民訴法二四六条に違反しよう︒一方︑判決に含まれた﹁負

担﹂が︑原告において想定可能な内容であり︑それを原告に甘受させても酷ではないと解される限り︑請求を棄却すべ ︵一八五二︶

(12)

一部認容判決について 二一五同志社法学六二巻 きではないだろう︒この﹁負担型﹂の具体例として︑次のものがある︒

 

  単純な給付請求に対して︑引換給付判決︵または︑反対給付の履行にかかる条件付給付判決︶をする場合   原告の給付請求に対して被告が同時履行の抗弁を提出し︑裁判所がこれを容れた場合︑請求に対する裁判所の応答と して引換給付判決をすべきとされている

︒我が国にはこの旨を定めた規定はない 15

が︑判例は古くからこれを認めている 16

17

判決の主文には︑引換給付の文言

︵﹁⁝⁝の履行と引換えに﹂︶が掲記され︑かつ︑﹁その余の請求を棄却する﹂の一部棄 18

却の文言も併せて記載される

︒このように︑単純給付請求に対して同時履行の抗弁を容れたとき︑一部認容︵・一部棄 19

却︶判決の一種として引換給付判決をする実務が確立している︒これはたとえば︑売主の代金支払請求に対して目的物

との引換給付判決ができることを意味する︒ここでは申立てと判決の間で請求は同一であり︑請求それ自体に対する裁

判所の応答は全部認容の実質を有する︒そして︑これと引換えに目的物の引渡しという反対給付の履行・提供が原告に

課される︵﹁数量﹂的な縮減ではなく︑請求とは別に﹁負担﹂が課される︶点において︑一部認容の一種︵﹁負担型﹂︶

と解することができよう︒なお︑右の﹁一部棄却﹂の文言は︑原告の請求の一部を排斥したものではなく︑反対給付を

履行・提供しなければ強制執行を開始できない︵民執三一条一項︶という意味で︑原告の執行段階における地位を制約

したものと解することができる︒

  このように︑同時履行の抗弁に基づく引換給付判決は︑﹁負担型﹂の特徴をよく示している︒もっとも︑請求それ自

体を認容しつつ︑これとは別に原告に﹁負担﹂を課すのは︑これに限られない︒すなわち︑単純な給付請求に対して反

対給付の履行を内容とする条件を付して請求を認容する場合も︑執行段階において原告に﹁負担﹂を課すものであるか

ら︑﹁負担型﹂の一種と考えられる︒

︵一八五三︶

(13)

一部認容判決について 二一六同志社法学六二巻六号

  もっとも︑ここでの条件は︑事実審の口頭弁論終結時︵基準時︶以降に生ずる事象︵将来における反対給付の履行︶

であるから︑引換給付判決の場合︵現在の反対給付の履行・提供︶とは異なる面がある︒すなわち︑後述する他の一部

認容の類型を先取りして敷衍すれば︑現在の給付請求に対して将来の事象︵条件・期限︶にかかる給付判決をする扱い

︵⑨参照︶について︑これを肯定する場合には︑この扱いは﹁借用型﹂の一部認容に分類すべきものと解される︵二

3

⑶参照︶︒このことを踏まえると︑将来の反対給付の履行を内容とする条件付給付判決は︑たしかに﹁負担型﹂ではあ

るものの︑﹁借用型﹂の要素をも有する﹁複合型﹂と言わざるを得ない︒

  しかしながら︑単純な給付請求に対して右のような条件付給付判決をする扱いを﹁質的一部認容﹂と評するのは︑﹁請

求それ自体﹂について全部認容の実質を有しながら︑原告に対して将来の反対給付の履行という﹁負担﹂を課す構造を

重視するからである︒そうである以上︑この扱いが複合的な類型だとしても︑﹁負担型﹂の要素の方がより本質的とみ

るべきであろう︵しかも︑⑨の扱いをそもそも否定する立場では︑⑨は﹁借用型﹂の一例ですらないのだから︑これと

の﹁複合型﹂を観念する余地はない︒後注︵

55

︶参照︶︒となると︑﹁負担型﹂の典型と目される引換給付判決を適法と

する実務が確立していることとの均衡からして︑反対給付の履行を内容とする条件を付した一部認容についても︑引換

給付判決に準じて整理するのが合理的である︵この一部認容の適否の検討は︑別の機会に譲る︶︒なお︑﹁一部棄却﹂の

文言は︑右のような条件付給付判決においても不可欠であるが︑この﹁一部棄却﹂は︑将来において反対給付を履行し

たことを証明しなければ︵当該給付の履行を証する文書を提出しなければ︶執行文が付与されない︵民執二七条一項︶

という意味で︑原告の執行段階における地位を制約したものと解することができる︒ ︵一八五四︶

(14)

一部認容判決について 二一七同志社法学六二巻 ② 一定額の立退料と引換えの建物明渡請求において立退料を増額する場合   この場合︑請求それ自体に対する裁判所の応答は全部認容の実質を有するが︑請求に付随して反対給付︵立退料︶の 提供が当初から申し出られている

︒よって︑立退料の提供を伴う請求に対する裁判所の応答が引換給付判決であった点 20

は︑﹁一部認容﹂と関係がない︒むしろここでは︑原告の提供した立退料の金額︵申出額︶が︑建物明渡しを求める原

告に必要な正当事由︵借地借家六条︶の補完として相当かどうかに焦点がある︒そして︑立退料をめぐる裁判に関して

は︑そもそも民訴法二四六条を適用すべきか否かが問題とされる︒端的にこれを肯定すれば︑金銭的価値を指標とする

立退料にも﹁申出額

≦ 認定額﹂の準則が適用され︑増額は可能と解される︒このように正当事由の判断を立退料の額の

問題と割り切ってしまえば︑②は﹁数量的一部認容﹂︵﹁基本型﹂︶の一種として分類できる︵肯定説︶︒

  しかし他方で︑立退料は正当事由の判断資料の一つであるから︑他の事情から建物明渡しを求める正当性が認められ るならば︑減額もあり得ると解する余地がある︒この方向では︑民訴法二四六条の適用が否定される︵否定説

︶︒それ故︑ 21

訴訟の基層部分が建物明渡請求の当否であっても︑立退料の額の判定としては︑増額・減額ともに許されるが故に非訟

化し︑一部認容の観念を容れる余地は消失する︒換言すれば︑立退料の増額・減額を問わず︑申立ては全部認容された

ものと解することになる

22

  もっとも︑立退料の額が具体的にいくらになるかは原告にとって重大な関心事であり︑これに意を用いない理論には︑

やはり問題があろう︒とすると︑立退料は本来︑他の事情と併せて正当事由の有無の総合的な判断に資するべきもので

ある

から︑その判断が裁判所の合目的的裁量に委ねられる面は否定できないとしても︑立退料の額が原告の﹁負担﹂を 23

測る上で重要な要素であることを立退料裁判の全体的な性格付けに反映させるという折衷的な方向も考えられる︒この

方向では︑増額は単に﹁数量的一部認容﹂ではなく︑裁判所が正当事由の水準を原告が想定した水準よりも高く設定し

︵一八五五︶

(15)

一部認容判決について 二一八同志社法学六二巻六号

た結果として原告に加重される﹁負担﹂と解することができ︑ここに﹁質的一部認容﹂の契機を見出すことができる︒

このように考えると︑②は﹁負担型﹂の一部認容に分類できるだろう

︒なお︑﹁一部棄却﹂の文言は申出額と同額の立 24

退料との引換給付判決である場合は不要と解されるが︑増額によって﹁負担﹂が加重された場合は︑その分の申立てを

排斥した旨を示す﹁一部棄却﹂の文言は不可欠である︒ただしこの場合でも︑増額分を含めた反対給付の提供が執行段

階に現れる制約である点については︑①の引換給付判決と同様である︒

⑵   給付の目的が実質的に可分で︑その一部の給付を命ずる場合

  給付の目的が特定物の引渡し等の特定性の高い事象である場合︑﹁負担型﹂の一部認容を別とすれば︑本来は︑一部

認容の余地はない︒しかしそれでも︑一定の措置を講じれば︑当該特定物を分割することができる場合には︑裁判所は︑

当該特定物を全部と考えたとき︑その一部に当たる特定の部分のみの給付を命ずることができないかが問題となること

がある︒  ここに潜む訴訟法上の問題点を析出するべく︑仮想事例を使った説明をしてみたい︒まず︑特定性の高い金銭以外の

事象を甲とし︑これを目的とする給付請求権を︑請求権︵甲︶とする︒同様の性質を有する甲以外の事象を乙とし︑更

に同様の性質を有し︑甲と乙から構成される独立の事象を丙とする︒乙を目的とする給付請求権を請求権︵乙︶︑丙を

目的とする給付請求権を請求権︵丙︶とする︒この場合︑丙が独立した事象として扱われるときは︑甲と乙はともに丙

の一部を構成する結果︑請求権︵甲︶および請求権︵乙︶は成立しないものとする︒

  さて︑原告が請求として請求権︵丙︶の主張の当否の審判を申し立てた場合︑裁判所は︑甲の給付を命ずる判決をし

てはならない︵民訴二四六条︶︒しかし︑甲が丙の一部を構成し︑かつ︑一定の措置を講じれば丙を甲と乙に分割でき ︵一八五六︶

(16)

一部認容判決について 二一九同志社法学六二巻 る場合︑裁判所は︑このことを見込んで︑一部認容として甲の給付を命ずる判決をすることができるだろうか︒これを肯定するとき︑甲の給付判決は一部認容判決である︒たしかに︑原告は丙の給付判決を求めたのに対して︑裁判所が甲の給付判決をすれば︑丙と甲が﹁別物﹂であり︑また法的にも請求権︵丙︶︑請求権︵甲︶によって各別に基礎づけら

れる以上︑民訴法二四六条に違反することは明白である︒にもかかわらず甲の給付判決をするためには︑丙が甲を包含

する︵甲が丙の一部を構成する︶とみなければならない︒しかしこれは︑民訴法二四六条に違反しないように理論構成

をした結果であって︑実質的には︑請求権︵丙︶を主張しつつも︑請求権︵甲︶によってしか基礎づけられない甲の給

付判決をする点で本来の一部認容判決︵前述二

2

の﹁基本型﹂︶とは異質である︒以下では︑このような一部認容を﹁可

分型﹂︵の一部認容︶と言い︑また︑仮想事例にかかる甲・乙・丙の設定を﹁可分型の定式﹂と言う︒

  では︑﹁可分型﹂の一部認容判決は︑民訴法二四六条に照らして適法だろうか︒給付の目的に着眼すれば︑丙が甲を

包含すると評価できる限り︑申立ての範囲内として適法と解することができる︒しかし︑丙は特定物として個性が強い

ため︑原告は甲の給付では満足できず︑むしろ請求棄却を求めるとの意思が明確ならば︑かかる一部認容判決は民訴法

二四六条に違反する︒実際︑丙が甲を包含する︵甲は丙の一部︶と言っても︑かかる比喩的説明だけでは︑﹁別物﹂と

しての側面を完全に払しょくできるには至らない︒この意味で︑裁判所が﹁可分型﹂の一部認容判決をする際は︑原告

の意思に特に配慮する必要がある︒

  ただし︑この点は裁判所が原告の意思を確認する釈明義務を負うことに直結しない︒一部認容のための釈明は︑全部

認容できない旨の心証開示を伴うため︑この釈明を機に被告が攻勢に転じ︑原告を釈明前よりも不利な状況に追い込む

おそれも懸念される︒とすると︑裁判所は︑訴訟に顕出された裁判資料から原告の意思を慎重に判断することに尽き︑

そこで原告が請求棄却を望まないと認められる限り︑﹁可分型﹂の一部認容は適法と解することになろう︒

︵一八五七︶

(17)

一部認容判決について 二二〇同志社法学六二巻六号

  右のような一般論を踏まえ︑﹁可分型﹂の一部認容の具体例を検討しよう︒

③ 家屋︵ないし土地︶の明渡請求に対して︑その一部の明渡しを命ずる場合

  まずは事案を示そう︒これは︑家屋

G

の所有者

X

が︑それを占有する

Y

に対して家屋

G

の全部の明渡請求をしたのに

対して︑裁判所が家屋

G

を構成する一部のみの明渡しを命ずる判決をすることが︑一部認容判決の一種として民訴法二 四六条に違反しないかどうかが問われた事案である

︒本件では︑家屋 25

G

は︑南北二戸建ての一棟であり︑各戸は全く同

一の間取りの二階建て住戸である︒所有権の客体となるのは家屋

G

一棟であるが︑その北側部分と南側部分は︑単独で

住居の用に供し得るほど独立性を備えた建物であった︒このように家屋

G

一棟は︑南北の二戸から構成されるにせよ︑

登記上は一棟の建物とされている以上︑その一部の給付を︵家屋番号ではなく︑﹁⁝⁝建物の南側﹂と特定して︶命ず

ることができるか︑たとえできるとしても同旨の確定判決に基づく強制執行の段階では︑執行対象となる財産は特定性

を欠き︑不適法とされないかといった点が懸念される︒にもかかわらず︑家屋

G

の一部︵南側部分︶のみの明渡しを命 ずる判決が適法とされたのは︑結局のところ︑社会通念

上︑判決で命じられた給付内容と請求の内容を比較して︑前者 26

が後者の﹁可分な全体の一部︵包含関係︶﹂に当たると判断されたからである︒

  ではこれを︑前述した﹁可分型の定式﹂に当てはめてみたい︵それぞれ︑﹁甲=南側部分﹂︑﹁乙=北側部分﹂︑﹁丙=

家屋

G

﹂に対応する︶︒原告が審判を求めたのは請求権︵丙=家屋

G

︶の主張の当否であるところ︑裁判所が判決した

のは︑請求権︵甲=南側部分︶に基づく南側部分の明渡しであるから︑両者は﹁別物﹂と判定されよう︒これは︑家屋

G

の一部たる南側住戸が︑家屋

G

から分離されて一個の所有権の客体となったときは︑当該客体のために一個の所有権

が成立するため︑その侵害等に対しては︑請求権︵丙︶から独立した物権的請求権である請求権︵甲︶が成立するから ︵一八五八︶

(18)

一部認容判決について 二二一同志社法学六二巻 である︒しかも︑家屋

G

の一部に対する所有権が成立したとき︑家屋

G

に対する所有権は分割等の措置

により消滅する︒ 27

それ故︑請求権︵丙=家屋

G

︶と︑請求権︵甲=南側住戸︶および請求権︵乙=北側住戸︶との間には︑両立し得ない

関係がある

︒このとき︑請求権︵丙=家屋 28

G

︶が家屋

G

の所有権の消滅に伴って消滅すれば︑その代わりに︑南北の各

住戸に各別の所有権が成立し︑これらに基づく請求権︵甲=南側住戸︶および請求権︵乙=北側住戸︶も各別に発生し

得る状態になる

29

  右の考察を踏まえると︑③における家屋

G

の一部明渡しを命ずる判決は︑次のように解釈する余地がある︒すなわち︑

原告が請求権︵丙=家屋

G

︶の審判を申し立てた場合でも︑これと同時に︑請求権︵甲=南側住戸︶と請求権︵乙=北

側住戸︶を単純に併合した審判要求︵黙示の予備的訴え︶も定立されており︑裁判所が主位的請求︵丙︶を認容できな

いときは︑予備的請求︵甲︶を認容する一方で︑予備的請求︵乙︶を棄却することができる︒以上の三つの請求が併合

された全体を一つの申立てとみなして分析するならば︑請求︵丙︶は全部棄却の実質を有する点で﹁数量的一部請求﹂

とは異なる構造を有し︵前述した﹁質的一部認容﹂の基本的特徴︶︑また請求︵乙︶の棄却は﹁一部認容﹂と対をなす﹁一

部棄却﹂に相当すると解することができる︒このことを︑本件を離れて一般化すると︑﹁可分型﹂の一部認容︵・一部

棄却︶判決は︑実質的には︑可分な一部を目的とした数個の請求の単純併合において︑各請求の給付目的のすべてを合

わせたものを﹁全部﹂とみなすとき︑その一部の請求を認容し︑その余の請求を棄却した判決に相当するものと解され

る︵判旨参照

30

︶ ︒

④ 一筆の土地の移転登記請求に対して︑その一部を分筆して移転登記を命ずる場合

  これは︑原告が審判を求めた一筆の土地の移転登記請求に対して︑分筆した上その一部の移転登記を命ずる判決がさ

︵一八五九︶

(19)

一部認容判決について 二二二同志社法学六二巻六号

れた場合

であって︑③と同様の構造を有する︒④について特筆すべきは︑③では自覚的に言及されなかった点︑つまり︑ 31

一部認容の前提となる給付目的の分割に配慮が示され︑一筆の土地の一部であっても︑それを当事者間で特定できる限

りは分筆前でも処分でき︑相手方はその所有権を取得できる旨を説示した点である

32

  ところで︑﹁可分型﹂の一部認容には留意すべき点がある︒③で述べたように︑﹁可分型﹂の実相は︑数個の請求が単

純併合されたときの一部の請求を認容し︑他の請求を棄却した場合に相当する︒申し立てられた事項︵全体にかかる一

個の請求︶と判決された事項︵一部にかかる請求の認容︑および︑残部にかかる請求の棄却︶は︑給付目的の特定性を

捨象する限り︑符合する︒法的には両者は﹁別物﹂であっても︑社会通念上は同一物であるため︑そこに予備的併合の

関係を擬制する契機がある

︒しかし︑民訴法二四六条の適用上は︑申立事項を構成する請求の違いから︑同条違反が疑 33

われる︒そこで本来は︑原告が当初の請求を撤回し︑認容されるべき請求︵単純併合された数個の予備的請求︶を追加

する︑といった訴えの交換的変更が要請されることになる︒

  もっとも︑原告が当初の請求に拘るときは︑訴え変更の見込みがない︒原告が裁判所の釈明にも応じないとすれば

34

やはり同じことである︒だからこそ裁判所は︑当事者間にあるべき権利関係に即して一部認容判決をするか︑現実の権

利関係を認定して請求を全部棄却するかの岐路に立たされるのである

︒前者の判決は︑事件限りの処理としては妥当な 35

判断に違いないが︑物権法・不動産登記法の想定を超える面がある︒時折︑質的一部認容判決が﹁救済的判決﹂などと

評される理由もここにあると言えよう

︒ともあれ︑この問題の詳細は後述の三に譲り︑ここでは﹁可分型﹂の一部認容 36

に潜む問題点を指摘するにとどめる︒ ︵一八六〇︶

(20)

一部認容判決について 二二三同志社法学六二巻

⑶   申し立てられた給付目的の実現方法を修正して認容する場合

  請求それ自体は認容してよいと判断できても︑そのために申し立てられた実現方法が違法・不当である場合︑裁判所

は︑申立てと異なる実現方法を採用して請求を認容することができるか︒原告の求めた実現方法は難があるにせよ︑請

求それ自体には問題がない場合︑他の実現方法を採用して請求認容判決をしても︑民訴法二四六条違反を問われないと

解することができるだろうか︒

  右のような申立ての一部を修正する判決︵修正的判決︶の特質を示すため︑他の類型と比較してみよう︒まず︑修正

的判決は申立てと判決の間で請求が同一であって全部認容の実質を有する︵前述した﹁数量的一部認容﹂とは異なる構

造を有する︶点では﹁負担型﹂と共通するが︑採用された実現方法が原告に﹁負担﹂を課さない点で﹁負担型﹂とは区

別される︒他方︑﹁可分型﹂は申立てと判決の間で請求が異なる以上︑修正的判決とは無縁とも思える︒しかし︑請求

が同一であっても︑請求の目的を実現する方法について申立てと判決が相違するときは︑被告の利害を無視できない︒

この状況は﹁可分型﹂と類似している︒そこで︑修正的判決と﹁可分型﹂の関係を検討する必要がある︒

  判決が民訴法二四六条に照らして適法とされるには︑一般に︑当該判決が﹁申立ての範囲内﹂である︵申立てに包含

される︶ことが必要である︒この点につき︑﹁可分型﹂は︑申立てにおける給付目的の可分的一部の給付を命ずる場合

であるから﹁包含関係﹂の一面を有する︵これは社会通念上のもの︹一個の特定物の物理的な全体とその一部の関係︺

であって︑﹁可分型の定式﹂による分析からは︑主位的訴えにおける請求と予備的訴えにおける認容された方の請求と

が別物である点に留意されたい︶︒これに対して︑修正的判決では︑給付目的の実現方法に関して﹁包含関係﹂の成立

が求められると言える︒ところが︑一つの請求に対して複数の実現方法が観念できるとき︑申立てと判決がそれぞれ別

の実現方法を採用した場合には︑両者の間に﹁包含関係﹂を肯定することには無理があろう︒むしろ︑どちらの実現方

︵一八六一︶

(21)

一部認容判決について 二二四同志社法学六二巻六号

法によっても同等の給付目的が実現できる場合には︑﹁択一関係﹂の成立を認めるべきである︒こうした見地から︑同

一の請求についてそれを実現する複数の方法が非両立の﹁択一関係﹂にある場合には︑請求の実現方法も申立事項の構

成要素である以上︑原告が一方の実現方法を選択することによって︑他の実現方法を選択しない旨の意思が表明された

のだから︑判決において裁判所が後者を選択して請求を認容することは﹁申立ての範囲﹂を超えており︑違法と解され

る︒  しかしながら︑原告の選択した実現方法が違法・不当である場合にも︑右のような原則論を貫徹すべきかどうかは問

題である︒というのは︑この場合でも︑請求それ自体は認容してよいとの心証を裁判所が得ているならば︑請求棄却判

決をすることに疑問が生ずるからである︒したがって︑このような事情があるときは︑裁判所は︑原告が誤って選択し

た実現方法ではなく︑裁判所が相当と認める方の実現方法を採用して修正的判決をする途を検討すべきであり︑かかる

裁判所の応答は通常は原告の意思にも合致するものと推察される︒換言すれば︑裁判所は︑原告が申立てにおいて選択

した実現方法を修正して請求を認容する目的で︑﹁一部認容﹂の体裁を借用することができる︒

  右のような考え方を民訴法二四六条に照らして敷衍すれば︑﹁択一関係﹂にある実現方法のうち原告が選択しなかっ

た方法を採用するときの修正的判決は︑形式論としては﹁申立ての範囲︵包含関係︶﹂を超えていると解される︒しかし︑

原告の選択した実現方法が違法・不当であり︑かつ︑請求それ自体を認容できる場合には︑裁判所が︑﹁一部認容﹂の

体裁を借用し︑原告の請求を認容する修正的判決をしても︑民訴法二四六条には違反しないと解する余地がある︒以下︑

このような一部認容を﹁借用型﹂︵の一部認容︶と言う︒ ︵一八六二︶

(22)

一部認容判決について 二二五同志社法学六二巻 ⑤ 現実の引渡請求に対して︑指図による占有移転を命ずる場合   この事案は︑所有権に基づく建物収去土地明渡請求訴訟で被告が建物買取請求権を行使し︑建物所有権が原告に移転

した場合︑当該建物には賃借人がいるため︑従前の建物所有者たる被告が︑現在の建物所有者たる原告に対して当該建

物の現実の引渡しができないため︑指図による占有移転を一部認容として命じたものである

︒判旨によれば︑現実の引 37

渡しは指図による占有移転を包含するとされるが︑この説明は適切ではない

︒むしろ複数の実現方法を前提とした﹁択 38

一関係﹂があると解すべきであって︑この場合には︑原告がその一つの実現方法を選んで申し立てたのに対し︑裁判所

は︑他の実現方法を相当として採用し︑請求を認容したもの︵﹁借用型﹂︶と考えられる︒

  なお︑申立て以外の実現方法による給付が命じられると︑申し立てた実現方法︵による給付︶が論理的に否定される

関係にある場合︑﹁その余の請求を棄却する﹂旨の文言は不要とも思えよう︒しかし︑﹁一部棄却﹂の文言を主文に掲記

すれば︑裁判所の応答の趣旨が﹁一部認容﹂である旨︵つまり︑申立てにかかる実現方法を排斥した旨︶を明確に示す

ことができる点において︑なお意義があると解すべきだろう︒

⑥ 共同相続人の一人がした単独登記の全部抹消請求に対して︑一部抹消︵更正登記︶を命ずる場合

  これは︑共有物が共有者の一人の単独名義で登記されている場合において︑無名義共有者が単独の登記名義人に対し

て求めた抹消登記手続請求に対して︑無名義共有者はその持分の限度で妨害排除請求権を有するところ︑これを登記関

係に反映させるのは一部抹消︵更正︶登記手続であって︑全部抹消登記手続ではないとされた事案である

︒判旨では︑ 39

原告による全部抹消登記手続の申立ては一部抹消のそれを包含すると構成され︑一部抹消の限度では請求が認容された

のに対し︑その余の請求は棄却されている︒しかしここでも︑包含関係による説明は適切とは言えない︒というのは︑

︵一八六三︶

(23)

一部認容判決について 二二六同志社法学六二巻六号

給付内容としての全部抹消と一部抹消︵更正︶は︑特定の不動産に関する登記情報︵ここでは所有者︶の抹消を含むも

のではあるが︑抹消の結果たる登記情報を比較しても︑一方が他方を包含する関係にない以上︑各実現方法は﹁別物﹂

と解されるからである︵なお︑前注︵

39

︶参照︶︒よって⑥の扱いは︑共有持分権に基づく妨害排除請求権の実現方法

として︑抹消登記を求めるのか︑それとも一部抹消︵更正︶登記を求めるのかという﹁択一関係﹂の下で︑原告が全部

抹消を選択して申し立てたのに対し︑裁判所がこれを不当と判断し︑更正登記の方を選択したものと解すべきだろう︵一

部棄却については︑⑤と同様︶︒

⑦ 否認権に基づく抹消登記請求に対して︑否認の登記を命ずる場合

  事案は︑原告︵破産管財人︶が︑破産者から受益者への所有権譲渡行為を否認して︑これを原因とする抹消登記手続

を請求したのに対し︑否認制度とそのために用意された否認の登記および同登記の職権による抹消の制度趣旨から︑原

告の抹消登記請求は相当でないとしつつ︑その請求には否認の登記の手続請求が含まれるとして︑否認の登記を命じた

ものである

︒このように︑判旨は一般の抹消登記が否認の登記を包含するといった趣旨の説示をしているが︑むしろ厳 40

密には︑当時すでに支配的な考え方︵特殊登記説︶に基づき︑抹消登記︵各種登記説︶と否認の登記︵特殊登記説︶の

間に﹁択一関係﹂の成立を観念して︑前者を選んだ申立てを後者に修正して請求を認容したのが⑦の扱いと解される

41

め︑﹁借用型﹂に分類することができる︵一部棄却については︑⑤と同様︶︒

⑧ 一時金の給付請求に対して︑定期金賠償判決をする場合

  定期金賠償については︑旧法下ではその適法性が問題視されていたところ︑この賠償方式に適した請求権は少なく︑ ︵一八六四︶

(24)

一部認容判決について 二二七同志社法学六二巻 また定期金賠償判決を獲得した原告が被る不利益の重さ︵特に被告の無資力のリスク︶などから︑一般には不適法と解されていた︒この前提の下で︑判例も⑧の扱いにつき否定説であった

︒定期金賠償を一般に不適法としない見解も︑⑧ 42

の扱いには否定的であり︑定期金賠償が相当と認められる事案では︑裁判所の釈明を経て賠償方式の申立てを変更させ

る方向が考えられていたようである

43

  しかし現行法では︑定期金賠償が条文上の手がかり︵民訴一一七条︶を得たことを契機として一般的な不適法説は後 退し︑介護費用に限って言えば︑⑧の扱いを肯定する裁判例も現れている

︒この点︑原告の請求それ自体は認容し得る 44

場合において︑二つの方式が︑賠償すべき損害との適合性につき全く等価であれば︑裁判所は原告の申立てに拘束され

よう︒しかし現在でも︑定期金賠償に懐疑的な見解も多いことにかんがみると︑一時金方式と定期金方式のいずれが賠

償すべき損害に適合するかを慎重に吟味した上で判断すべきである

︒介護費用については︑かねてから定期金賠償との 45

適合性を認める見解が多い︒これによる限り︑同一の請求にかかる賠償方式が二つあるとき︑一時金方式を原告が選択

したとしても︑裁判所が賠償すべき損害との適合性から定期金方式を相当と認めたときは︑定期金方式による賠償を命

ずることが許される︒このとき︑一時金方式は必ずしも違法・不当ではないものの︑右の適合性審査に基づいて︑定期

金方式の方がより相応しいと解される場合に限って︑一部認容として定期金賠償を命ずるのであるから︑﹁借用型﹂に

分類して差し支えない

︵一部棄却については︑⑤と同様︶︒なお︑逸失利益などについては︑一時金賠償が適合するとの 46

見方が一般的であり︑実務もそのようである以上

︑⑧の扱いは困難であって︑一時金方式で賠償が命じられることにな 47

ろう︒

︵一八六五︶

(25)

一部認容判決について 二二八同志社法学六二巻六号

⑨ 単純な給付請求に対して︑条件・期限付の給付判決をする場合

  条件付給付判決は︑事実審の口頭弁論終結時︵基準時︶に条件付給付請求権が存在すると判断した判決である︒しか

し︑基準時には条件たる事象︵以下では︑条件たる事象の内容が反対給付の履行である場合︹①参照︺を除く︶が存在

しないことから︑厳密には︑将来において条件が成就した時に当該請求権が存在することの蓋然性を認めた判決と言え

る︒もっとも︑このような判決は︑事実を認定して法を適用する民事訴訟の建前に反する面があるため︑法はかかる判

決のために特別な訴訟要件を加重して歯止めを利かせている︵民訴一三五条︶︒すなわち︑﹁あらかじめその請求をする

必要﹂がなければ︑将来給付判決は許されない︵訴えの利益の判断は︑請求適格および将来給付の訴えの利益︵狭義︶

から構成される

︶︒もっとも一般には︑停止条件付請求権の請求適格は肯定され︑被告が現に争う限り︑将来給付の利 48

益︵狭義︶にも問題はない︒以上は︑期限︵さしあたり不確定期限︶にも︑基本的には妥当する︒期限は︑概念として

は条件と区別されるが︑将来の事象にかかる点は同様だからである

49

  問題は︑現在の給付請求に対して︑条件・期限付の給付判決をすることができるかどうかである

︒この判決も将来給 50

付判決の一種であるから︑民訴法一三五条が適用される︒とすると︑本問は︑将来給付判決の訴訟要件が具備された前

提で検討する必要がある︒この問題については従来︑肯定説と否定説が対立してきた︒肯定説は︑申立てと判決の間に

請求の同一性が認められ︑将来給付判決の訴訟要件が具備される限り︑申立ての変更を要せずに︑条件・期限付の給付

判決ができるとする

︒ここでは︑将来給付判決は︑現在給付判決に比べて特別な訴訟要件が加重される点のみが異なり︑ 51

請求それ自体は実質的には認容できる状況にあると解釈されている︵ただし︑条件・期限が本案要件であることは否定

されない︶︒これに対して否定説は︑原告が申立てを将来給付請求に変更しない限り︑請求棄却判決

をすべきと解して 52

いる

︒つまり︑将来給付判決の訴訟要件が具備されていても︑請求の趣旨を変更しなければ条件・期限付の給付判決を 53 ︵一八六六︶

(26)

一部認容判決について 二二九同志社法学六二巻 することはできない︒ここでは︑条件・期限が本案要件であることの端的な帰結が採用されている︒  さて︑否定説からすると︑肯定説は︑条件成就・期限到来がない請求に対し︑請求棄却判決をしないこと︑請

求の趣旨を現在給付にしたままで︑条件・期限付の給付を命ずる判決を裁判所に要求すること︑の二点で無理をしてい

ると映るだろう︒もっとも︑肯定説は︑将来給付判決の要件を具備する限り︑現在給付判決と将来給付判決を等価的に

位置づけるため︑の批判は当たらないと反論するかもしれない︒この反論は︑判決主文で条件・期限を付しても︑

その点に既判力は生じないとする考え︵通説︶にも馴染みやすい︒しかし︑この方向を徹底し︑条件・期限といった附

款を除いた請求︵訴訟物︶に絞って現在給付判決と将来給付判決を対比すると︑そこに﹁包含関係﹂は成立しないはず

である︒  もっとも︑肯定説は︑現在給付判決が将来給付判決を包含すると考えるものと思われる︒つまり︑現在給付請求に対

してその通りの判決をすれば︑単純執行文を得て原告は直ちに執行に着手できるのに対して︑将来給付判決の場合は︑

条件・期限たる事象の発生まで執行の着手は阻止される︵執行力の現実化時期が先送りされる︶︒しかも先送りの後︑

しかるべき条件成就・期限到来があったとき︑債権者は︑その旨を証明して執行文の付与を求めなければならない︵民

執二七条一項︒前注︵

49

︶参照︶︒肯定説は︑条件・期限付の給付判決は︑このような意味で原告にとって不利な判決

であるから︑将来給付判決の訴訟要件を具備する限り︑現在給付請求に対する﹁一部認容﹂として可能と解するのであ

ろう︒  しかし︑将来給付判決を受けた原告は︑条件が成就し︑期限が到来したとき︵つまり︑現在給付判決と同様の状況に

至れば︶︑その旨を執行文付与の手続で証明して︑当初の狙い通り︑執行に着手することができる︒この意味では︑請

求それ自体については︑原告にとって何ら不利な判断はされていない︒執行の着手時期が遅れたことは︑事実上の不利

︵一八六七︶

参照

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