I C S I D 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 の 法 構 造
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(2) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一七四. 題の解決にとって不可欠の存在である︒したがって︑協定当事者問の投資紛争の回避・解決手段の模索とその制度化. は現代国際法学が取り組む課題の一つである︒世界銀行は︑このような認識にもとづき︑一九六五年に﹁国家と他の. 国家の国民との問の投資紛争の解決に関する条約﹂︵一九六六年発効︑以下ワシントン条約と略す︶を採択し︑投資. 紛争を解決する調停及び仲裁のための施設を提供することをその目的とする国際機関として投資紛争解決国際センタ ︵1︶. ー︵以下ICSIDまたはセンターと略す︶を設立した︒センターへの事件の付託は入手しえた資料によると仲裁が ︵2︶. 二七件︑調停が二件報告されている︒条約の発効が一九六六年であったことを考えると事件の付託件数はけっして多 ︵3︶. くはないが︑一九八○年を境にしてそれ以前は九件しか付託されなかったが︑八○年以降は二〇件と急増している︒. 条約の締約国もすでに一一〇ヵ国となりまた二国問投資条約や国内投資立法におけるセンターへの紛争付託︵ICS ︵4︶ ID仲裁条項︶の増大など︑ICSIDは今後主要な投資紛争解決フォーラムとなることが予想される︒ ︵5︶. 条約付属の世銀理事会報告によると︑ICSIDの設立目的は﹁国家と外国人投資家との紛争の解決を促す﹂こと ︵6︶. である︒すなわち︑投資紛争を紛争当事国と外国人投資家の母国との国家間の紛争に変質させないなど︑紛争を脱政 ︵7︶. 治化する︵号唇臣︒幕︶ことによって︑国家と外国人との相互信頼を譲成し︑最終的に受入国への民間国際投資の一. 層の増大を計ることがワシントン条約の目的である︒このため︑条約起草者は︑紛争当事者の属する法領域の相違に. 考慮し︑国際法と国内法の適用を通じて当事国の国家利益と外国人投資家の私的利益との均衡を保つことによって︑ ︵8︶ 条約の実効性を確保することに専心しなければならなかったのである︒. さて︑ワシントン条約は﹁仲裁判断の承認及び執行﹂という表題をつけられた第六節︵第五三条〜第五五条︶にお. いて︑締約国の国内裁判所におけるICSID仲裁判断の承認・執行について規定するが︑条約によって設立された. 裁判所の判決の国内的実施・執行を規定することはまさしく︑ワシントン条約が両当事者の利益の均衡をいかに維持.
(3) ︵9︶. しようとしているかを物語るものである︒この承認・執行規定は︑内容的にはICSID仲裁判断の効力︵第五三条︶︑. 紛争当事者のICSID仲裁判断遵守・履行義務︵第五三条︶︑締約国のICSID仲裁判断承認・執行義務︵第五. 四条︑第五五条︶に三分され︑条約はこれによりICSID仲裁判断を執行するメカニズムを設定した︒ところが︑. 締約国はICSID仲裁判断の承認・執行を義務づけられるにしても︵第五四条一項︶︑執行の方法は締約国の国内. 法令に委ねられ︵第五四条三項︶︑さらに締約国の主権免除法令が承認・執行義務によって影響をうけないために︵第. ︵10︶. 五五条︶︑執行を求められた締約国の国内法令次第で︑実際には仲裁判断の執行が行われず︑締約国の承認・執行義 務が履行されないことが危惧されるのである︒. 本稿は︑このような問題意識を出発点にして︑﹁仲裁判断の強制執行が国際仲裁の実効性の基準である﹂と述べら. れるように︑ICSID仲裁判断の実効性が最終的に各締約国での承認・執行によって担保されることを考慮して︑. 締約国の承認・執行義務に焦点をあて︑ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造を分析するものである︒締約国の. 承認・執行義務については二つの論点に分けて考察することが可能である︒第一の論点は︑締約国が仲裁判断の﹁承. 認及び執行﹂について一定の措置をとる約束をしたとしても︑それは締約国を拘束する規定を国際法上設定しただけ. 1︶. であり︑﹁承認及び執行﹂という条約義務の具体的な実施はすべて各締約国に委ねられているのか︑それともワシン ︵1 トン条約は条約義務の具体的実施・方法についても締約国を義務づけているのか︑という見解のいずれを選択するの. かということである︒第二の論点は︑第一の論点を解明した後に︑﹁承認及び執行﹂といった場合の﹁執行﹂という. 言葉の意味が何であるかということ︑要するに承認・執行義務の範囲に強制執行のそれが含まれるのかということで. ある︒もつとも︑この問題の検討にはいる前にまず問われなければならないことは︑ICSID仲裁判断の効力がど. 一七五. のようなものなのかということである︒たとえばその性格についていえば︑後に論及するように︑仲裁判断を真の国 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(4) 早稲田法学会 誌 第 四 十 四 巻 ︵ 一 九 九 四 ︶. 一七六. 際判決であると論証することが︑ICSID仲裁判断の承認・執行を国際裁判たるICSID仲裁の最終過程として. 認識できるかどうかの前提となる︒つまり︑ICSID仲裁手続が国際︵投資V紛争の解決手段として国際社会に固 ︵12︶. 有のものであるとの論証を前提として︑そこから︑−第一の論点についての議論︑すなわち各締約国がワシントン条約. の︑いわば国際法・国際社会の執行機関としてICSID仲裁判断の承認・執行義務を負ったかどうかについてのそ. れが始まるのである︒仮にICSID仲裁判断の国際性についての論証がないとしたら︑ICSID仲裁判断の承認. ・執行義務は締約国が条約によって外国判決・外国仲裁判断の承認・執行を義務づけられた場合と何らかわりのない. ものとなってしまうであろう︒このようにICSID仲裁判断の承認・執行の法構造を分析するにあたって︑ICS. ID仲裁判断の国際性の有無の検討は不可欠である︒また前述したように︑第六節は締約国の義務のほかに︑ICS. ︵13︶. ID仲裁判断の効力と当事者のICSID仲裁判断の遵守義務を規定しており︑第六節の規定内容は判決の言渡しか. ら執行に至るまでの問題として︑﹁それぞれ相互に密接な関連があり︑時には相互補完的である﹂といえよう︒した. がって︑ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造を解明するためには︑まずICSID仲裁判断の効力がどのよう. なものであるかについて検討を加えなければならない︒こうした作業を行った後に︑締約国の承認・執行義務の範囲. ICSID仲裁判断の効力. ︵14︶. について︑学説・判例等の分析を通じて︑明らかにするつもりである︒. 第二章. 一 ICSID仲裁判断の性格. ICSIDレジームの国際性について︑多くの論者ば疑問を抱いていない︒たとえば︑ダヴイツド︵即評≦q︶は︑. ICSID仲裁手続がコ切の国内法秩序から完全に切り離され﹂︑ICSID仲裁合意が﹁国際公法上の拘束力を.
(5) ︵15︶. ︵お︶. 付与されている﹂と述べる︒デローム︵ρO魯§の︶によれば︑﹁ICSID仲裁は国内法制度から完全に独立して ︵17︶. 機能する自足的マシーナリーを構成する﹂とされ︑またカルボノー︵∂93︒暮Φ弩︶は﹁ICSID仲裁が真に自. 律的かつ﹃超国家的﹄である﹂と主張する︒彼らによると︑ICSIDレジームの国際性を主張する根拠として︑︵一︶. ICSIDレジームが多数国問条約によって形成されている︑︵二︶ICSID仲裁手続が完全に脱地域化︵︒Φ一︒邑幕︶. されている︵第四四条︶︑︵三︶実体的準拠法として国際法適用の可能性がある︵第四二条︶︑︵四︶公序などの伝統的. 執行拒否事由が否認される︑ということがあげられる︒ICSIDレジームがそなえるこのような特徴は︑確かに従. 来の商事仲裁と比較して︑極めて画期的であることは問違いない︒ただし︑ICSID仲裁の国際性がこれだけで論 証しえたのかといえば︑疑問とするところも多い︒. もっとも誤解をうみやすい点はICSIDレジームという言葉の意味であって︑すなわちセンターとICSID仲 ︵18︶. ︵19︶. 裁裁判所とが別個の存在であるということを見逃してはならないのである︒センターはワシントン条約によって設立. された﹁自律的国際機関﹂として﹁完全な国際法人格を有する︒﹂他方︑ワシントン条約はICSID仲裁裁判所が. 国際裁判所であるとの規定をおかず︑また第五三条においてICSID仲裁判断の当事者に対する拘束力を認めるが︑. それが国際判決としての効力を認めたものであるかについては全く言及していない︒ICSIDレジームの国際性を. 肯定する主張のように︑ワシントン条約の存在を過大視し︑それだけでICSID仲裁判断が国際判決であるとみる. わけにはいかないのである︒ICSID仲裁判断の国際性の有無については︑前述したその国際性を裏づける根拠を. 参照しながら︑ICSID仲裁と国家問の通常の国際裁判との比較検討を通じて結論を導くようにしなければならな い︒. 一七七. 一般に国際裁判とは第三者が原則として国際法にもとづき国際紛争を処理し︑その決定が当事者を拘束する手続で ICSID仲裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 の 法 構 造 ︵ 黒 田 秀 治 ︶.
(6) ︵20︶. 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一七八. ある︒また﹁国内裁判管轄権によって解決できない法的問題について管轄権を有する裁判所は︑いずれも国際裁判所 ︵21︶. とみなされる﹂といわないまでも︑特定の裁判所が国際裁判所であるかどうかは︑﹁その組織と管轄の双方の問題﹂. を考慮して決定されなければならない問題である︒したがってICSID仲裁裁判所とICSID仲裁判断の国際性. は︑︵一︶仲裁手続に適用される法︑すなわち手続的準拠法は国際法か︑︵二︶仲裁の裁判基準︑すなわち実体的準拠 ︵22︶ 法は国際法の可能性があるか︑︵三︶国際法上︑ICSID仲裁判断履行義務の相等性を期待することができるのか︑. 換言すれば仲裁判断不履行に対する救済措置が国際法上当事者双方に平等に保証されているか︑という三つの点を判 断基準として考察することができると思われる︒. まず手続的準拠法についてであるが︑この判断基準は要するにICSID仲裁手続が国内法や国内裁判所の介入を. うけずに全く独立して実施されるのかという問題である︒これについて規定しているワシントン条約第四四条による. ︵24︶. と︑当事者が別段の合意をしない限り︑仲裁手続は条約とICSID仲裁規則に従って実施される︒ワシントン条約 ︵23︶ とICSID仲裁規則は﹁自足的仲裁法規集として機能するのに十分なほど包括的かつ詳細に作成されている﹂ので︑ ︵25︶. ︵26︶. ほとんどの仲裁手続はICSIDの規則に従って実施されるのが予想される︒結局︑ICSID仲裁は﹁国内法制度. から完全に独立して機能する自足的マシーナリーを構成﹂し︑﹁すべて国際法としての手続法によって規律される﹂. ことになる︒このように︑手続的準拠法という判断基準については︑国際法の適用を否定することはできない︒. 次に実体的準拠法についていえば︑ワシントン条約は第四二条においてそれを規定する︒序論でふれたように︑I. CSIDレジームは全体的に当事者自治の原則によって貫かれているが︑実体的準拠法についても当事者の合意を基. 本としている︒したがって︑国際法が準拠法として選択されることは十分に予想される︒他方︑実体的準拠法につい. ての合意がない場合には︑第四二条一項は紛争当事国の国内法とともに国際法の適用を認めているので︑いずれにし.
(7) ても実体的準拠法として国際法の適用は排除されていない︒しかし︑このような条約のテキストとは別に︑仲裁や契. 約の実務において国際法が準拠法としての役割を果すかどうかは︑国家と外国企業との投資紛争が国際法の適用によ. って真に解決可能なのか︑すなわち国際法は経済開発協定の解釈・履行のために準拠することができる規則をそなえ. ているのかという問題の解決次第である︒さらに︑国際法がこの問題を克服できたとしても︑国際法の他の規則︑た. 7︶. とえば主権や自決権のようないわば政治的な規則が紛争当事国によって援用され︑当事国によるICSID仲裁への ︵2 不参加または無視が助長されるのではないか︑ということも危惧されている︒. この問題については︑ワシントン条約第四二条は何らの説明も行っていないが︑理事会報告は第四〇節で﹁国際法﹂ の意昧について次のように説明している︒. ﹁この文脈で用いられる﹃国際法﹄という表現は︑国際司法裁判所規程第三八条一項が国際紛争に適用されるためのものであ ︵28︶. るという事実を考慮にいれたうえで︑第三八条一項によって与えられた意味において理解されるべきである︒﹂. 理事会報告の説明よれば︑国際法は本来国家問関係に適用されるもので投資紛争には適用されないが︑国際法の発展. は投資紛争に適用可能な国際法規の形成を促し︑また少なくとも現行国際法規のあるものが開発協定に準用可能であ. ることが示唆されている︒そして︑当事者の合意がないかそれが不分明な場合に適用される国際法の発見またはその. 内容について問題が生じた際に︑その解決をICSID仲裁裁判所に委ねるというのが条約起草者の意思であるとみ ︵29︶. ることができる︒いずれにせよ︑国際法が投資紛争解決のための裁判基準として適用される実体法規を準備しつつあ. ることは十分予想することができる︒他方︑投資紛争への国際法の適用が紛争を解決するどころか︑自決権や主権に. 一七九. 関する規則の援用を促し︑かえって投資紛争を政治化させるのではないかという危惧についていえば︑これを解消す る手がかりは投資紛争の性格とワシントン条約の目的である︒ ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(8) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. ︸八○. さて︑投資紛争は︑経済開発協定という契約の解釈・履行に関するものと︑契約条件自体の適切性の継続︵8&目a ︵30︶. ω葺畳一ξ︶に関するもの︑すなわち当事者の一方が契約の遵守を求め︑他方がその変更を求めることから生じるも. のとに大別される︒当事者が国有化・収用によって協定の︸方的改廃をもとめる場合は後者の紛争に該当する︒この ︵3. 1︶. ような紛争の場合には経済開発協定はすでに当事者の利益や交渉力を反映せず︑協定に定められた仲裁手続によって. 紛争を解決することは一般に不可能とされている︒ところが︑ICSID仲裁の実務においては︑当事国による国有 ︵32︶. 化・収用によって生じた紛争も﹁投資から直接生ずる法律上の紛争﹂として﹁センターの管轄﹂のもとにあると認定. されている︵第二五条一項参照︶︒そのことは何を意昧するであろうか︒前述したように︑ワシントン条約の目的の. 一つは投資紛争の脱政治化である︒すなわち条約は︑ICSID仲裁裁判所という中立的フォーラムを提供すること ︵33︶. によって︑投資紛争が当事国と外国人投資家の母国との国際紛争に転化することを防止するなど︑投資紛争が本来有. する政治性を払拭するのである︒見方をかえれば︑投資紛争は︑ICSID仲裁に付託されることによって︑脱政治. 化され私的な紛争となり︑私的ないわば商事紛争に適用可能な国際法のみが裁判基準として選択されることになる︒. したがって︑国際法の適用はけっしてワシントン条約の目的である紛争の脱政治化を挫折させることにはならないの である︒以上のように実体的準拠法という判断基準も満たされているとみることができる︒. ICSID仲裁判断の国際性の有無についてもっとも議論が対立する判断基準は︑ICSID仲裁判断履行義務の. 相等性︑すなわち仲裁判断不履行に対する救済措置が国際法上当事者双方に等しく保証されているのかということで. ある︒ICSID仲裁判断の国際性を肯定する主張はこの点についてどのように論じているであろうか︒先に言及し. たように︑ICSID仲裁判断の国際性肯定論者は︑自らの主張を自明なものとして詳細な分析を行わない︒その上. で︑彼らはICSIDレジームが有するさまざまな意義を強調する︒たとえば︑ブローチーズ︵>●牢・9①ω︶は次の.
(9) ように述べている︒. ︵3. 4︶. ﹁法的観点からは︹ワシントン︺条約のもっとも際立った特徴は︑条約が国際フ牙ーラムにおいて国家を相手にした直接の私. 人または私企業の提訴権を確立し︑国際法主体としての個人の承認に寄与している︑ということである︒﹂. その一方で︑彼は︑紛争の一方の当事者が国家でなくまた条約の当事者でもないのに︑ワシントン条約はそうした. 資格の外国人投資家に対して︑ICSID仲裁判断履行という国際法上の義務を課することができるのか︑と疑問を. なげかける︒続けて彼は︑ICSID仲裁裁判所という国際フォーラムにおける外国人投資家の提訴権の確立が必ず ︵35︶ しも当該フォーラムの決定遵守という国際法上の義務を投資家に課することにはならないのではないのか︑と問う︒. ブローチーズによれば︑ICSID仲裁裁判所が国際裁判所であることに疑問の余地はなく︑投資家はそこでの提訴. 権を与えられることにより国際法主体となる︒他方︑投資家側によるICSID仲裁判断という国際判決の履行義務. については︑ワシントン条約がそれを明定するだけでは十分でなく︑判決執行手続または判決不履行に対する救済措. 置を国際法上設定しなければ︑それは国際法上の義務とはいえないかもしれないとして︑彼はこの点について明確な. 態度を示していない︒確かにワシントン条約によると︑当事国によるICSID仲裁判断の不履行については︑外国. 人投資家に対して二種類の救済措置が用意されている︒まず︑第二七条一項に従って︑投資家の母国は外交保護権を. 行使して仲裁判断不履行国に国際請求を提起することが可能となる︒次に︑締約国問の紛争の国際司法裁判所への付. 託を命じた第六四条に従って︑ICSID仲裁判断の不履行がワシントン条約の解釈・適用の問題に関わる限り︑投. 資家の母国は国際司法裁判所に紛争を付託することができる︒他方︑外国人投資家がICSID仲裁判断を遵守しな. 一八一. い場合には︑紛争当事国はその責任を国際法上追及する手段をもたない︒ブローチーズがその態度を明らかにしなか. ったのは︑ICSID仲裁判断の不履行に対する救済措置の非相等性を重視したからであろう︒ ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(10) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一八二. これに対して︑トゥーペ︵ψ↓・︒需︶はICSID仲裁の国際性を明確に否定する︒トゥーペは︑条約上紛争当. 事国に対する救済措置が用意されていないことを重視して︑外国人投資家がICSID仲裁判断を履行しない場合に. は︑当事国は第五四条が規定する締約国の国内裁判所での承認・執行に期待するほかなく︑国際法上の救済措置を援 ︵36︶. 用できない︑と主張する︒彼によれば︑ICSID仲裁判断履行義務の国際性は紛争当事国にとってあてはまるにす. ぎず︑﹁各当事者の義務の性格は厳密にいえば同じでない︒﹂結局︑彼は﹁当事国は実際には︑仲裁判断の執行を国際 ︵37︶. 的に拘束されるが︑外国人投資家は紛争をICSID仲裁に付託する合意によって契約的にそれに拘束されるにすぎ ない﹂と結論づける︒. 以上︑第三の判断基準に関して︑ICSID仲裁の国際性肯定論と否定論の双方をみてきたわけであるが︑ブロー. チーズの見解についていえば︑彼は根本的な誤謬をおかしている︒彼はICSID仲裁判断の国際性を断言しながら︑. 投資家側のICSID仲裁判断履行義務についてはその国際性をはっきりとは肯定していないのであり︑彼の見解に. 従えば︑判決履行という国際義務を伴わない国際判決が言渡されうることになってしまうのである︒おそらく︑彼の. ︵38︶. 誤謬は国際裁判の意味と範囲についての問違った認識に起因していると思われる︒そこで国際裁判とはどのようなも のであるかについて確認しておくことが必要となる︒ ︵3. 9︶. 一般国際法上︑国際裁判所は判決の言渡しによって任務終了となり︑判決の執行には関与しない︒判決の実施を監. ︵41︶. 視するという国際裁判所の任務は存在せず︑裁判所は判決を言渡した後には当事者が紛争を終局的に解決し︑特定の ︵鯉 遵守義務を負い︑判決を誠実に実施するのを期待するほかないのである︒要するに︑国際裁判手続は判決の言渡しに. よって終了するのであり︑判決の執行はこれとは全く別個の手続とされるのである︒したがって︑国際裁判条約が判. 決執行手続や判決不履行責任についての規定を有していないにしても︑それが判決の国際性の有無のための判断基準.
(11) とはならないのである︒ブローチーズが投資家側のICSID仲裁判断履行義務の国際性に疑問を抱いたのは︑仲裁. 手続と仲裁判断の執行手続とを混同したからであると思われる︒トゥーペは︑ブローチーズと比較すれば︑仲裁判断. の承認・執行が国内法上の手続であるという理由で︑投資家に対するICSID仲裁判断の国際性を否定している点. で︑その主張には一貫性があるといえよう︒確かに彼がいうように︑ワシントン条約上︑ICSID仲裁判断の不履. 行に対する救済措置が投資家についてのみ用意されているのは︑仲裁判断履行義務の性格そのものに由来すると考え. られなくもない︒しかしながらワシントン条約は︑この問題を棚上げにし︑第五四条において国内裁判所でのICS a︶ ID仲裁判断の承認・執行を規定することによって︑執行問題の実際的解決を採用したとされている︒したがって救. 済措置の非相等性を否定することはできないが︑国内裁判所でのICSID仲裁判断の承認・執行が国際判決の執行. 手続として認められるなら︑少なくとも当事者はICSID仲裁判断の執行を国際法上等しく保証されているといえ ︵43︶. よう︒解決されるべき問題は︑国内裁判所をとおしての国際判決の執行が可能なのかということである︒ ︵44︶. 国内裁判所をとおして国際判決の執行が可能なことは従来から学説上指摘され︑また少なくとも敗訴国の国内裁判. 所が判決履行義務を負うことについては︑学説上強力に支持されている︒たとえばロゼンヌ︵ω見8窪需︶は︑﹁︹国 ︵45︶. 際︺判決の履行または遵守義務は国際裁判の当事国の裁判所およびその他の機関に課せられ︑国内裁判所がそれを怠. る場合には︑当該国の国際責任が惹起されるであろう﹂と断言する︒シャクター︵ρ曽ざ9§︶は︑国内裁判所が ︵4. 6︶. 付加的な要件を課することなく判決の真正性の適切な確認にもとづくだけで国際仲裁判決を承認する十分な理由が存. 在すると指摘する︒ジェンクス︵O﹂Φ爵の︶もロゼンヌやシャクターと同意見であるが︑私人が国際判決の受益者と ︵9. ︻八三. して国内裁判所に判決の執行を申立てる場合には︑当該国内裁判所の執行義務の範囲について明確な態度を示さなか った︒. ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(12) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一八四. ︵48︶ 先例に注目すると︑国際判決の執行そのものが国内裁判所で明確に申立てられたのは一件であるとされている︒こ ︵49︶ れは︑一九三九年のベルギー商事会社︵以下o︒︒8匿と略す︶事件常設国際司法裁判所︵以下PCIJと略す︶判決 ︵50︶ の執行を求めて︑oっ︒8匿が一九五〇年にブラッセル民事裁判所にギリシア政府資産の差押えを申立てた事件である︒. この事件でω︒8匿は一九三九年のPCIJ判決がベルギーを拘束し︑執行認許︵賃8轟9﹃︶を獲得することなく︑. ギリシア政府資産の強制執行が可能であると主張した︒民事裁判所は執行認許の事前の獲得を要求し︑国内裁判所に よる国際判決の執行については次のように判示した︒. ﹁原告企業は︑︹PCIJ︺が﹃外国裁判所﹄でなく︹PCIJ︺規定を承認したすべての国家に共通の﹃上級裁判所﹄であり︑. そのような裁判所の判決として執行認許を必要としない︑と申立てた︒しかしながら︑訴訟当事者が判決の強制執行を即決的. に可能とする独立した執行権が︹PCIJ︺には属していないので︑︹PCIJの︺判決はベルギー以外の判決がベルギー領 土内で課せられた隷従を免れない︒﹂. 判決の一節が意味することは︑国際判決の効力が外国判決のそれを越えるものではなく国際判決の強制執行は︑ベ. ルギー法が規定する執行許可のための条件に服さなければならない︑ということである︒もっとも︑ブラッセル民事. 裁判所は国内裁判所による国際判決の執行が法廷地国法に従って行われることを判示しただけで︑国内裁判所が国際 パを 判決の執行機関としての役割を果すことを否認したわけではなかった︒学説上も︑また先例の分析によっても︑国際. 判決の執行が国内裁判所を通じて行われる可能性は否定されてはいないのである︒したがって︑ICSID仲裁判断. の執行がワシントン条約第五四条二項に従って国内﹁管轄裁判所その権限ある当局﹂を通じて確保されるにすぎない. にしても︑そのことはICSID仲裁判断の国際性を否定する根拠とはならないのである︒ただ︑国際判決の執行機. 関としての国内裁判所の権限と義務について注意をしなければならないことは︑国内裁判所は国際判決の執行を行う.
(13) ︵52︶. ことが可能であるが︑その具体的執行方法については︑﹁それぞれの国家の憲法秩序にかかる問題であって︑その範. 囲内において各国は国際判決の国内的効力の程度を自由に定めうるということ﹂である︒そして︑このことは敗訴国. の国内裁判所についても該当するのであって︑敗訴国の国内裁判所といえども具体的な判決執行方法についてまで拘. 束されることはないのである︒したがって︑ワシントン条約という特別法の解釈は別におくとして︑一般国際法上の. 議論として国際判決たるICSID仲裁判断を検討すれば︑ICSID仲裁判断債務国の国内裁判所は当該国の国家. 機関として仲裁判断の遵守義務を負うが︑仲裁判断遵守の方法まで拘束されることにはならないのである︒いずれに しても︑国際判決の執行を国内裁判所を通じて行うことは可能である︒. 以上みてきたように︑ICSID伸裁判断は手続的準拠法︑実体的準拠法︑さらに仲裁判断の執行手段のそれぞれ. ICSID仲裁判断の効力範囲. に照して︑まさしく国際判決であることを疑うことはできないのである︒. 二. ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造を分析するにあたって︑次に確認しておくべきことは︑ICSID仲裁. 判断の効力が意味するものは何かということである︒前述したように︑ICSID仲裁判断が国際判決であることか. ら︑ICSID仲裁判断が有する効力範囲を一般国際法とワシントン条約のそれぞれに照らして検討していくことに しよ・つQ. さて︑ICSID仲裁判断が国際判決として有する効力は︑いうまでもなく︑それが当事者を拘束するということ. である︒ワシントン条約は第五三条一項においてそのことを規定しているが︑これは何も条約によってはじめて認め. 一八五. られるものではない︒条約規定の有無にかかわらず︑ICSID仲裁判断が国際判決である以上︑それが当事者を拘 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(14) 早稲田法学会誌 第 四 十 四 巻 ︵ 一 九 九 四 ︶. 一八六. ︵53︶ 束するのは当然である︒いいかえれば︑ワシントン条約第五三条一項は慣習国際法を述べているにすぎないのである︒ ︵54︶. ︵55︶. 国際判決が当事者を拘束するということは︑国際判決が既判力をもつことを意昧し︑このことは疑うことのできない. 一般国際法の原則である︒既判力とは一般に﹁︹国際︺判決の条項が終局的かつ義務的であるという事実を承認﹂さ ︵56︶. せることであり︑すなわち紛争当事者に対して紛争を解決済みとし︑それに対する通常の不服申立てを許さない判決. の効力である︒ICSID仲裁判断も国際判決としてこのような既判力が認められるわけであるが︑ワシントン条約. は︑第五四条一項によってICSID伸裁判断の既判力をすべての締約国の国内にまで拡大し︑承認・執行の段階で. の国内裁判所による仲裁判断の審査を認めず︑不服申立てはすべてICSIDレジームの枠内でのみ行われることを. 規定した︵第四九条二項︑五〇条︑五一条︑五二条参照︶︒これに対して︑通常の国際判決は国内裁判所においてこ. れとは異なる取扱いをうける︒PCIJはたとえば一九二八年のホルジョウ工場事件判決﹇本案﹈において国内裁判 衝︶ 所の判決が国際裁判所の判決を無効にする権限はないと語ったが︑国際判決が当事国国内でどのように遵守されるか. 8︶. については当事国に委ねられた問題であり︑したがって国際裁判所の判決が実質的に国内裁判所と同一の争点を扱っ ︵5 たとしても︑国際裁判所の判決が当該国内裁判所において自動的に既判事項となることはない︒要するに︑紛争当事. 国の国内裁判所が国際判決を既判事項として扱わなければならない義務は存在しないのである︒ところが︑ワシント. 9﹀. ン条約は第五四条一項において仲裁判断承認義務を締約国に課することによって︑ICSID仲裁判断の既判力を締 ︵5 約国の国内裁判所にも拡大したのである︒承認とは仲裁判断が有する効力を法廷地国法が認めることであるが︑通常. の国際判決と異なりICSID仲裁判断の場合には︑紛争当事国の国内裁判所が第五四条一項の存在によって仲裁判. 断の承認義務を課せられることで︑当事国はその国内においても仲裁判断の既判力を認めるように義務づけられたの である︒.
(15) ︵60︶. ICSID仲裁判断の既判力はこのように紛争当事国を含むすべての締約国の国内においても認められるわけであ. るが︑その執行力についてはどうであろうか︒ところで︑国際判決が執行力を有するかという問題は︑従来は国際法. 上重大視されてきたとはいえない︒それは︑第一に︑当事国は判決を遵守するという覚悟のうえで紛争を裁判に付託. したのであって︑裁判の実務において判決が履行されないといった事例がほとんどないこと︑第二に︑国際裁判所の. ︵61︶. 任務が判決の言渡しによって終了すること︑すなわち裁判と判決の執行とは概念上区別されていることによるといわ. れる︒しかしながら︑もっとも重要な理由は︑国際判決の執行を最終的に担保する集権的執行機関が国際社会には存 ︵6. 2︶. 在しないということである︒したがって︑国際判決の執行は勝訴国の自助の問題に還元され︑いわば国際政治学の研. 3︶. 究対象であったのである︒ただ︑国際法学の領域に戻ってこの問題を考えれば︑少なくとも勝訴国には判決執行権が ︵6 与えられ︑敗訴国には判決履行義務が課せられるという権利・義務の関係が存在することに疑問の余地はなく︑国際. 判決が当事者に対して判決の履行を義務づけていることは否定できないのである︒もっとも︑当事国による判決の任. 意の履行がなく︑国内裁判所による執行が予想される場合には︑判決の既判力について前に行った議論が執行力につ ︵御︶. いてもあてはまることになる︒すなわち︑執行力付与の当否を含め︑国際判決の実施・適用はすべて当事国の国内法 や国内裁判所に委ねられるのである︒. これに対して︑ICSID仲裁判断についていえば︑ワシントン条約の起草者は条約中にICSID仲裁判断とい. う国際判決の執行に関する規定をわざわざ挿入したとみることができるであろう︒つまりICSIDのレジームにお. いては︑通常の国際裁判と異なり︑判決の執行がまったく別個の手続として扱われているのではない︒いいかえれば︑. ICSID仲裁手続は仲裁判断の言渡しをもって終了するのではなく︑﹁承認及び執行﹂によって終了するのである︒. 一八七. このように解釈するならば︑ワシントン条約は第五四条において締約国に仲裁判断の﹁承認及び執行﹂のための一定 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(16) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一八八. の措置をとる義務を課したというより︑締約国の国内裁判所等の国家機関を仲裁判断執行機関とするなど﹁承認及び. 執行﹂のために特別の手続を設定したとみなければならない︒この問題は次章において繰り返し検討することになる. が︑通常の国際裁判にはみられないICSIDレジームのこうした特徴を考慮すると︑条約第五四条二項によって︑. 締約国は仲裁判断の﹁承認及び執行﹂の方法についても拘束されていると認めるほかはない︒そこで︑仮に第五四条. 一項と二項の﹁承認及び執行﹂が強制執行を含む概念であるならば︑ICSID仲裁は仲裁合意の締結から仲裁判断. の強制執行までまったく国内法秩序の影響をうけない画期的な制度となり︑ICSID仲裁判断は締約国の国内にお. いても執行力を具備し︑また国内執行機関はICSID仲裁判断という国際判決の︑つまり国際法の執行機関となる. のである︒結局︑締約国の国内においてICSID仲裁判断が執行力を有するかどうかは︑ワシントン条約における. ﹁承認及び執行﹂の意味︑すなわち締約国の承認・執行義務の範囲に強制執行のそれが含まれるのかという問題を明 らかにすることによって解決されることになる︒ ︵65︶. ICSID仲裁判断が紛争当事国に対して主権免除の放棄を義務づけたのかどうかということについても論及して ︵66︶. おく必要があろう︒主権免除に関する国家実行については︑いわゆる制限免除主義に向かう世界的な傾向は認められ ︵67︶. るが︑免除の範囲等についていまだ一元的な慣行が存在するに至っていない︒ただ免除は義務的でないので︑外国が ︵68︶. ︵69︶. 免除放棄をすることは可能であり︑その場合に法廷地国は裁判権を行使することができる︒外国の免除放棄と解釈さ ︵70︶. れる事由の例として主張されるのが仲裁合意の存在である︒たとえば︑一九七八年のイギリス国家免除法第九条はそ ︵71︶. のことを規定し︑また一九七六年のアメリカ外国主権免除法第一六〇五条a項︵1︶では︑仲裁条項の存在が黙示的免. 除放棄を構成すると解釈される︒当事国は外国人投資家と仲裁付託を合意するにあたって仲裁判断を遵守する約束を. したのであるから︑仲裁合意の存在︑すなわち仲裁判断遵守義務と裁判権免除の主張との矛盾・抵触は明らかである︒.
(17) とりわけICS王Dのレジームにおいては︑紛争当事国は︑第五四条に従ってICSID仲裁判断が承認されるのを. 覚悟のうえで︑ワシントン条約を締結しさらに紛争をICSID仲裁に付託したのであり︑このことを考慮すれば︑. 裁判権免除抗弁の提起はICSID仲裁判断遵守義務に反すると認めざるをえないのである︒このようにICSID ︵72︶. 仲裁判断は︑当事国に裁判権免除の放棄を命じ︑さらに承認・執行段階で当事国が裁判権免除抗弁を提起するのを禁 じたとみることができる︒ ︵73︶. ICSID仲裁判断が裁判権免除抗弁の提起を禁じたとしても︑それが強制執行免除の放棄をも命じるものである. かについては︑議論の分かれるところである︒肯定論によれば︑締約国は第五四条によってICSID仲裁判断の執. 行義務を課せられているのであって︑紛争当事国は仲裁判断が執行される可能性を了知したうえで条約を締結し︑さ. らに紛争を仲裁に付託したのであるから︑仲裁判断の効力は強制執行免除の放棄にも及ぶ︑と主張されるのである︒. 肯定論の論旨から明らかなように︑ICSID仲裁判断が強制執行免除の放棄を命じているかどうかは︑結局︑第五. 四条に規定された締約国の承認・執行義務の範囲・程度をどのように解釈するか︑要するに承認・執行義務とは強制. 執行措置をとる義務をも含むのかという問題の解明次第であることが理解されるのである︒そこで︑次章ではこの問. 締約国によるICSID仲裁判断承認・執行義務. 条約文と起草過程. 第三章. 題の解決も念頭におきながら︑ICSID仲裁判断の承認・執行義務の検討に論を進めることにしよう︒. 一. 前章までの分析によって︑ICSID仲裁判断は︑国際判決として当事者を拘束しまた当事国に裁判権免除抗弁の. 一八九. 放棄を命じているのが明らかになった︒ワシントン条約はこれに加えて︑ICSID仲裁判断の実効性をさらに確実 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(18) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一九〇. にするために︑第五四条において締約国に対して仲裁判断の承認・執行を義務づけている︒これについては︑序論に. おいて問題解決の手がかりとして二つの論点に分けて考察することを提唱した︒第一の論点は︑締約国の承認・執行. 義務が締約国に対して﹁承認及び執行﹂の実施・方法をも拘束するものであるのか︑それとも︑﹁承認及び執行﹂の. ために一定の措置をとることを命じているにすぎないのかということである︒第一の論点についていえば︑前章にお. いて指摘したように︑第五四条の存在によって︑仲裁︵裁判︶と仲裁判断︵判決︶の執行が別個の手続として分離さ. れず︑また国内裁判所は仲裁判断︵判決︶の執行機関として取り扱われている︑との条約解釈を行わざるをえない︒ ︵径︶ すなわち︑第五四条は締約国に対して仲裁判断の﹁承認及び執行﹂の実施・方法を義務づけたとみることができる︒. したがって︑残された課題は︑第二の論点である締約国に課せられた﹁承認及び執行﹂とはどのようなものであるか. ということの解明である︒そういうわけで︑以下では︑まず︑条約付属の世銀理事会報告と条約の起草過程の検討か ら着手することにしよう︒. 理事会報告については︑これは第四三節で主権免除について次のように述べている︒. ﹁主権免除の理論は︑国家が執行を求められている場合に︑当該国または外国を相手にした判決の強制執行を防止することも. ある︒第五四条は締約国が本条約に従って言渡された仲裁判断を自国の裁判所と等しく扱うことを要求している︒第五四条は︑. 確定判決を執行することができない場合に︑締約国がそれをこえ︑本条約に従って言渡された仲裁判断の強制執行を約束する. ことを求めていない︒この点についての疑問を残さないために︑第五五条は︑第五四条のいかなる規定も︑いずれかの締約国. ︵75︶. の現行法令でその締約国又は外国を執行から免除することに関するものに影響を及ぼすものと解してはならない︑と規定して いる︒﹂. この説明によれば︑締約国は︑第五四条の存在にもかかわらず︑判決の執行に関する自国法令を変更する義務を負わ.
(19) ず︑したがって外国財産に対する強制執行を免除する法令がある場合には︑ICSID仲裁判断を特別に扱い︑それ. を強制執行することを求められていない︒要するに︑締約国は当事国による裁判権免除の主張については否認しなけ. ればならないが︑当事国財産への強制執行措置の行使は義務づけられていないとの条約解釈がなされているのである︒. ︵76︶. ワシントン条約の作成は一九六一年九月の第一六回世銀総会における世銀総裁ブラック︵国望曽鼻︶の提案に始ま. り︑三年半の審議を経て︑一九六五年三月一八日に条約草案が世銀理事会で採択されることによって終了する︒仲裁. 判断の承認・執行の問題は一九六二年︼二月に﹁第一次準備草案﹂を審議した全体委員会でクリシュナ・ムーシー ︵77︶. ︵囚奨蓉きζ8酵7インド︶によってはじめて提起された︒彼は当事国が勝訴した場合に投資家の母国が仲裁判断. を執行するために可能な限りの援助を与えるべきであると主張した︒当時︑世銀法律顧問として条約の作成の主導権 ︵78︶. をとったブローチーズは︑このインド代表の発言に対して仲裁判断がすべての締約国で執行可能となることが確保さ. れるべきである︑と答えている︒全体委員会は﹁第一次準備草案﹂を作成し︑その一節はこれについて次のように述 べている︒. ﹁各締約国は︹仲裁︺裁判所の仲裁判断を拘束力があるものとして承認し︑またその仲裁判断を自国の裁判所の確定判決とみ ︵79︶ なしてそれをその領域において執行︵窪寄8Vするものとする︒﹂. ︵8 0︶. 因みに︑この条項は﹁準備草案﹂においても変更されず︑法律専門家地域諮問会議のワーキンペーパーとして使用さ れた︒. 1︶. 2︶. 一九一. サンチャゴ地域諮問会議では︑ブローチーズ︵議長︶は︑仲裁判断を確定判決と同︸視することが執行を求められ ︵8 た締約国の執行免除法令に影響を与えない︑と述べている︒ラトレイ︵︻評葺塁・ジャマイカ︶も条約が執行免除 ︵8 の理論に影響を及ぼさないことを明確にすべきであると主張している︒こうした主張に対して︑ロ!ウェンフェルド ーCSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(20) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一九二. ︵︾甲ぴ・毒氏畳・アメリカ代表︶は紛争当事国での執行と第三国でのそれとを区別し︑前者の場合には主権免除の規. ︵83︶. 則は適用されるべき︐でない︑と提言する︒さらに彼は︑締約国は条約に署名することで仲裁判断の執行に同意したと 述べる︒. 4︶. ジュネーブ地域諮問会議においてモナコ︵即ζ・き8・イタリア︶は強制執行手続が各締約国の国内法に従って実 ︵8 施されるべきであり︑条約が主権免除の規則を扱うのは危険であるとの意見を表明した︒トロール︵一ギ︒幕・デン ︵85︶. マーク︶は︑投資家による仲裁付託のほうが可能性が高いので︑条約が強制執行の問題に関わらないことが政治的に. 6︶. 必要とされている︑と述べている︒バンコク地域諮問会議でブローチーズは︑条約が国家に対する強制執行を規定す ︵8 べきでなく︑未解決の問題は国内法に委ねるべきである︑と発言している︒. 四ヵ所での法律専門家地域諮問会議での審議を経て作成された﹁準備草案﹂は法律委員会のワーキング・ぺーパー. 7︶. となり︑その審議を通じて前述の条項は変更されずに生き残った︒法律委員会での審議では︑公序を承認・執行の拒 ︵8 否事由として条約に挿入するかどうかが議論の焦点であった︒その後︑条約の審議は全体委員会として活動を再開し. た世銀理事会の場に移される︒ブローチーズは全体委員会で︑いかなる国家も自国裁判所の判決について認められて. いないある種の執行を国内立法化するように要求されないと繰り返し︑執行可能性︵9a言$窪尋︶と強制執行 ︵88︶ ︵Φ莞︒言8︶との区別を主張する︒. 条約の起草過程を簡単に振り返ってきたわけであるが︑執行を求められた締約国の公序を承認・執行の拒否事由と. して認めるかどうかが議論の焦点で︑締約国の執行義務の範囲に強制執行を含めるべきかどうかについてはほとんど パ. レ. 審議されていない︒締約国の強制執行義務を当然とする発言は︑締約国は条約に署名することで仲裁判断の執行に同. 意したと述べたローウエンフェルドのほかに見出だすことはできない︒こうした発言が起草過程においてほとんどみ.
(21) ︵90︶. られないのは︑そもそも条約に強制執行義務を規定しないことに議論の余地のないほどの支持があったからである︑. と主張されている︒確かに条約の起草会議が開かれた一九六二年から一九六五年にかけては︑まだ絶対免除主義の採 ︵91︶ 用が支配的であり︑この時期に多数国間条約で外国財産に対する強制執行を義務づけることは困難であったであろう︒. いずれにせよ︑条約の起草過程を概観する限り︑ワシントン条約の起草者は︑締約国の執行義務の範囲に強制執行を. 学説の検討. 含むつもりはなかったようである︒. 二. 学説において見解が一致しているのは︑締約国の承認・執行義務の範囲にICSID仲裁判断の承認のそれが含ま. れることについてである︒前述したように︑ICSID仲裁判断の効力は締約国の国内においても既判事項として認. められ︑締約国は自国法に照してICSID仲裁判断を審査したり︑その承認を拒否したりすることは許されないの. である︒またワシントン条約第五四条二項において規定された﹁承認及び執行﹂手続についても︑締約国が当該手続. ︵92︶. に従ってICSID仲裁判断の承認・執行を実施しなければならないとみる点で︑学説上異論はない︒学説において. 大きく見解が分かれるのは︑強制執行が承認・執行義務の範囲に含まれるかどうかということである︒. 締約国の執行義務に強制執行が含まれないとする見解についてであるが︑これは圧倒的な支持をうける多数説であ. る︒この見解は︑執行義務に強制執行が含まれないとするものの︑締約国は国内法に従って強制執行を行うことも行. わないことも可能であると主張する点で︑ここでは執行権限説と命名することにしよう︒この執行権限説は︑主に第. 五五条の存在を根拠にして︑自らの主張を次のように展開する︒すなわち︑締約国が紛争当事国財産に対して強制執. 一九三. 行措置をとるかどうかは︑全く締約国国内法に委ねられた問題であり︑何よりも第五五条はそのことを明言している︒ ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(22) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一九四. ICSID仲裁判断は国際法上の効力をそなえ︑また締約国の国内においても第五三条一項および第五四条一項によ. り既判力のみならず︑執行可能性をもそなえている︒とりわけ金銭上の義務は締約国国内で執行可能であり︑その手. 続は第五四条二項に明定されている︒ところがワシントン条約が設定した手続はそこまでであり︑実際に締約国の執. 行機関を働かせ締約国に強制執行措置をとらせるためには︑あくまで締約国国内法に従ってICSID仲裁判断にあ. らためて執行力が付与されなければならない︒要するに︑ワシントン条約は執行可能性と強制執行とを区別し︑執行. 可能性の付与または承認をICSID仲裁手続の最終段階としたのである︒結局︑ワシントン条約が締約国に課した. 承認・執行義務とは各締約国の国内でICSID仲裁判断を執行可能であると認める義務であり︑実際に強制執行を. 行うかどうかは締約国の国内法次第ということになる︒執行権限説を概観すれば以上のようになる︒執行権限説は条. 約のテキストとりわけ第五五条の存在や条約の起草過程に忠実であり︑条約起草者の意思を正確に探りあてたもので ある︒. 他方︑条約は締約国に強制執行までも義務づけていると主張する見解についてであるが︑これは文字どおり執行義 ︵鴨︶. 務説とでも名づけることが可能である︒執行義務説を支持する論者は極めて少数であるが︑執行義務説を比較的明確. に支持するコル︵罰95の主張を検討することでこの見解の妥当性を考えてみることにしよう︒彼は︑主権免除. が申立てられる国内訴訟に注目し︑そうした訴訟が司法判断の対象ではなく︑国務省が責任をもって解決にあたる外. 交的・政治的問題であると指摘する︒他方︑彼はICSID仲裁判断の承認・執行はそうした国内訴訟と全く次元が. 異なると述べる︒ワシントン条約の目的は投資紛争を脱政治化することにあるから︑脱政治化されたICSID仲裁. 判断の承認・執行訴訟の論点は一国の外交問題と関わりをもたず︑条約上の執行義務によって確立された強制執行手. 続の実現に関わる︑とコルは主張するのである︒このように彼は︑紛争の脱政治化という条約の目的に注目し︑IC.
(23) SID仲裁判断の承認・執行の段階で提起される問題がすでに脱政治化されて法律問題として司法判断の対象になる. ということを理由に︑ICSID仲裁判断の執行が免除されるべきでない︑と結論づけるのである︒. コルの見解は︑ワシントン条約の目的を重視するあまり︑第五五条の存在を軽視しすぎている︒さらに︑彼の見解. は純粋に条約の解釈論というより立法論的意味あいが強いので︑条約の解釈論として締約国が強制執行義務を負って. いるかどうかについては︑彼の立場は幾分曖昧である︒もっとも︑コルの主張を発展させたソリー︵∪あ︒一塁︶は︑ ︵製︶. 強制執行義務は明定されていないにしても︑紛争当事国が第五三条によって執行免除の放棄を義務づけられることに. よって︑実際には締約国は仲裁判断を強制執行することになる︑と示唆している︒ただ︑いずれにしても︑執行義務 説は第五五条の存在を克服した解釈論を展開しているとはいえないであろう︒. 学説を簡単に概観してきたわけであるが︑執行義務説は立法論的には極めて魅力のある主張を展開している︒ただ︑. 条約の起草者意思の確定という面では︑執行権限説に説得力があるといわなければならない︒執行権限説が有力とす. ると︑前章で論及したICSID仲裁判断の執行力についても︑当然︑締約国の国内裁判所において認められないこ. とになる︒もっとも︑執行権限説をとる論者のなかには︑ICSID仲裁判断は紛争当事国に強制執行免除の放棄を. 命じ︑また当事国の国内裁判所は仲裁判断遵守義務によって仲裁判断の強制執行を義務づけられている︑と主張する ︵95. ︶ ものも いる︒しかしながら︑強制執行義務が締約国に課せられていないならば︑紛争当事国は仲裁判断が常に国内で. 執行されると認識して紛争をICSID仲裁に付託しなかったことになる︒したがって︑ICSID仲裁判断の執行. 力は︑通常の国際判決の場合と同様に︑当事国の国内裁判所においてさえあらためて付与されなければならない︒換. 言すれば︑ICSID仲裁判断の執行力が締約国の国内裁判所に自動的に及ぶことにはならないのである︒. 一九五. ワシントン条約の起草過程と学説の検討を通じていえるのは︑条約の起草者が締約国の﹁承認及び執行﹂義務の範 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(24) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一九六. 囲に強制執行を含める意思はなかった︑ということである︒すなわち︑締約国の国内裁判所はワシントン条約の機関. としてICSID伸裁判断の﹁承認及び執行﹂を義務づけられるが︑﹁承認及び執行﹂とはICSID仲裁判断の執. 行可能性の付与または承認を意味することに限定され︑仲裁判断の強制執行については︑同一または別個の締約国国. 内裁判所が国内法上の機関として強制執行の当否を含めその一切を委ねられた︑との条約解釈をとらざるをえない︒. それでは最後に︑ICSID仲裁判断の承認・執行訴訟においてこの問題がどのように扱われているかを考察し論を. 先例の検討. 閉じることにしよう︒. 三. ICSID仲裁判断の承認・執行がはじめて国内裁判所に申立てられたのは︑一九八○年八月八日の¢卜毎い. ︵96︶ ︒︒Z9︾器\ミ蕊︶事件. §oe§ミ弊毒oo§誉ミ︵以下B&Bと略す︶§O§§§§ごぽミ諄︒薯︑恥寒誉ミε喬ミO§讐︵9︒ b. の承認・執行訴訟である︒一九八○年八月八日の仲裁判断によって命じられた約四億フランの損害賠償がコンゴ政府 ︵97︶. によって無視されたことによって︑B&Bはまずパリ大審裁判所に仲裁判断の承認を申立てた︒パリ大審裁判所の裁. 判長は︑一九八O年一二月二一二日の命令において︑仲裁判断の執行可能性について次のように述べた︒. ﹁当該仲裁判断は法律および国際公序に反するものを何ら含んでいないので︑当該判断はその形式および内容において執行され るものとする︒﹂. しかしこれには以下のような留保が付されていた︒. ﹁しかしながら︑いかなる強制執行措置もまた単なる保全措置さえも︑事前の許可なしには︹一九八○年八月八日の︺仲裁判断 に従って︑フランスに所在するいかなる財産に対してもとることができない︑と決定する︒﹂.
(25) ︵98︶. B&Bはこの文言の修正・削除を要求したが認められず︑この留保の文言の削除を求めて︑パリ控訴院に控訴した︒. 控訴院は一九八一年六月二六日の判決のなかで︑まずワシントン条約第五四条を引用し︑そこに規定された手続につ いて次のように述べる︒. ﹁︹第五四条の︺規定は︑執行認許のための単純化された手続︵舞8轟9;ぎ暑臣ひ︶を提供し︑またこの条約の適用上各締約. 国によって指定された裁判所の任務を投資紛争解決国際センターの事務局長によって証明された仲裁判断の真正性︵程些窪馨獣︶ の確認に限定する︒﹂. 次に︑控訴院は第五五条の規定を引用して︑﹁仲裁判断に承認・執行を与える命令が強制執行措置を構成せず︑おこ. りうる強制執行措置に先立つ決定にすぎない﹂と述べる︒最後に控訴院は大審裁判所の命令について言及し︑﹁ワシ. ントン条約第五四条の適用を要請された第一審の判事は⁝自らの権限を鍮越することなく︑第二段階︑すなわち外国. の執行免除の問題が関わる強制執行の段階を扱うことができなかった﹂と述べ︑前述の留保の部分を削除した︒. この判決で控訴院は︑まず締約国に課された承認・執行義務の範囲をICSID仲裁判断の真正性の確認に限定し. た︒したがって︑ワシントン条約の執行機関としての国内裁判所は強制執行の問題を扱うことができないことになる︒. そして控訴院は第五四条二項に定められた手続がこの真正性を確認する手続であると判示する︒要するに︑控訴院判. 決によれば︑ICSID仲裁判断は第五四条二項に従って﹁承認及び執行﹂されるが︑締約国の承認・執行義務の範. 囲に強制執行は含まれず︑それは執行可能性を認めることに限定される︒このように︑控訴院は前述の執行可能性と 強制執行とを区別する執行権限説を採用してワシントン条約の解釈を行ったのである︒. 工CSID仲裁判断の承認・執行が求められたもう一つの事例は︑一九八六年三月=二日に言渡されたい誉&§. 一九七. ︵99︶ 肉禽§ミ↓ミ守ミO§ミ§§︵以下LETCOと略す︶§O§§§ミ︒\§寒ミミき鳶&ミミ︵9器Z9>寄\○︒ω\N︶事件 ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(26) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. 一九八. の承認・執行訴訟である︒この事件もB&B事件と同様に︑ICSID仲裁裁判所で命じられた損害賠償のリベリア. による不払いに対して︑LETCOがニューヨーク甫部地区連邦地方裁判所に強制執行を求めたことから生じる︒連 ︵鵬︶. 邦地方裁判所は一九八六年九月五日にLETCOの申立てを認め︑ニューヨーク南部地区連邦執行官に執行令状を発. 給した︒これに対してリベリアは︑執行の対象となった財産が一九七六年の外国主権免除法上執行免除を亨有すると ︵皿︶. 主張し︑九月五日の判決全体の取消しまたは執行令状発給の取消しを求めて再度提訴した︒連邦地方裁判所によって. 一九八六年︸二月一二日に言渡された判決において争点は二つあった︒第一の争点は︑アメリカが外国主権免除法第. 一六〇四条および一六〇五条上︑仲裁判断にもとづく判決の登録のために事物管轄もつのかということである︒これ. について裁判所は︑外国が免除放棄した場合に︑それは外国主権免除法上の免除例外事項に該当すると述べる︒続い. て裁判所は︑リベリアがワシントン条約とICSID仲裁を規定したコンセッションに署名したことで︑アメリカに おける裁判権免除を放棄したと判示し︑九月五日の判決の取消しを認めなかった︒. 第二の争点は︑裁判権免除が否認されたうえで︑外国主権免除法第一六〇九条および一六一〇条上︑強制執行令状. がリベリア資産に対して発給できるかということである︒裁判所はワシントン条約第五五条を引用したのちに︑執行. の対象となるリベリア資産が外国主権免除法第一六一〇条a項に執行免除例外として規定された﹁米国内で商業活動﹂. に使用されたものかどうかについて検討する︒裁判所は︑結局当該資産を主権的であるとみなし︑連邦執行官に対し て資産の差押えの解除を命じた︒. 一二月一二日の判決は︑リベリアがICSID仲裁に同意したことで裁判権免除を放棄したと述べている︒そこで︑. このことが外国主権免除法の免除例外に該当し︑裁判所の管轄権が設定されることになる︒しかし︑リベリア資産に. 対する強制執行は︑外国主権免除法第一六一〇条a項に従ってその資産が商業用と特定できないために否認された︒.
(27) このように判決は主に外国主権免除法上の論点を扱い︑ワシントン条約の解釈には直接取り組んでいない︒ただこの. 判決も︑リベリアに対する執行許可判決を取消さず︑強制執行令状の発給だけを否認することによって︑結果的には. 締約国の承認・執行義務が執行可能性を認めることに限定され︑強制執行がそれには含まれないことが示唆されてい る︒. フランスとアメリカにおけるICSID仲裁判断の承認・執行訴訟を手短かに考察してきたわけであるが︑二件の. 事例とも国内裁判所は︑締約国の国内裁判所が条約によって設定された﹁承認及び執行﹂手続に従って強制執行を義 務づけられることはない︑とする条約の解釈を行ったのである︒. 第四章終論. 本稿は︑締約国がICSID仲裁判断の承認・執行を義務づけられながら︑その執行の方法が締約国に委ねられ︑. さらに締約国が主権免除法令の変更を求められていないということ︑要するに一見するとワシントン条約第五四条一. 項および二項と︑第五四条三項および第五五条の規定に齪鵡があるのではないか︑翻齪がないとしたらどのように矛. 盾なく解釈したらよいのか︑という問題意識を出発点としている︒したがって︑締約国の承認・執行義務の範囲を探. ることが本稿の主たる目的である︒もっとも︑ICSID仲裁判断の承認・執行の全体的法構造の理解なくしてその. 目的にかなうことはできないことは容易に理解される︒そこで︑まず第二章において︑ICSID仲裁判断の効力と. はどのようなものであるかについて検討を行なった︒重要な点をあげれば︑ICSID仲裁判断が国際裁判所の判決. であること︑また当事国に裁判権免除放棄を命じていることが論証された︒第三章では︑締約国の承認・執行義務に. 一九九. ついて︑条約のテキストと起草過程︑学説︑さらに承認・執行が求められた事例に検討を加えることによって︑ワシ ーCSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
(28) 早稲田法学会誌第四十四巻︵一九九四︶. ントン条約の解釈を行なうことを試みた︒そのなかで︑明らかになったのは次の点である︒ ︵一︶締約国はICSID仲裁判断を﹁承認及び執行﹂しなければならない︒. 二〇〇. ︵二︶﹁承認及び執行﹂の手続については︑条約自体が設定し︑締約国はそれに従って仲裁判断の﹁承認及び執行﹂ を行わなければならない︒. ︵三︶少なくとも条約起草時には︑締約国は仲裁判断の強制執行を義務づけられていない︒強制執行はあくまで締約. 国の国内法に従って実施されればよく︑条約は国内法次第で仲裁判断が実現されないことを認める︒. このように︑締約国の承認・執行義務についていえば︑単に締約国が承認・執行に必要な一定の措置をとるように. 国際法上拘束されるのでなく︑ワシントン条約がその実現方法を規定することにより締約国は承認・執行の具体的実. 現を約束したことになる︒その一方で条約起草者は承認・執行義務のなかに強制執行のそれを含めることを意図しな. かった︒つまり︑条約起草者はワシントン条約によって規律される仲裁手続を第五三条一項および二項が規定する﹁承 ︵m︶. 認及び執行﹂段階までとし︑第五四条一項および二項の執行︵Φ亀霞8幕簿︶と第五四条三項および第五五条の執行. ︵Φ蓉︒登8︶とが全く別個の手続であるとしたのである︒第五四条一項および二項の﹁承認及び執行﹂が執行可能 ︵鵬︶. 性︵窪838窪身︶の付与または承認を意味しているのに対して︑第五五条の﹁執行﹂は物理的な執行権の行使︑す. なわち強制執行であるとみることができる︒したがって︑ICSID仲裁判断の執行にあたる締約国国内裁判所は︑. 第五四条一項と二項での﹁承認及び執行﹂段階ではワシントン条約の機関︑いわば国際判決の執行機関として行動す. るが︑第五四条三項と第五五条の﹁執行﹂段階では︑同一のまたは別個の裁判所は︑国内法に従って執行権の行使を ︵巡︶ 決定し︑行政機関にICSID仲裁判断の強制執行を命じる国内法上の機関となるのである︒執行可能性と強制執行. との区別は︑条約が起草された一九六〇年代にワシントン条約への多数の国家の参加を促すためには︑避けることが.
(29) ︵踊︶. できないものであったであろう︒また︑強制執行の対象となる外国財産の範囲について︑商業活動に関連するものを. 特定するのが困難であることがこうした区別をやむをえないものにした原因になったかもしれない︒ただ︑注意しな. ければいけないのは︑このような解釈はあくまで起草者意思を探求した結果であるということである︒ICSIDレ. ジームの目的が紛争を脱政治化することにあるのを考慮すれば︑本来︑外交的・政治的配慮にもとづいてその適用が. 正当化される主権免除の規則が︑脱政治化した紛争を解決した結果であるICSID仲裁判断の強制執行の段階で︑. 登場しなければならない理由はないであろう︒強制執行に関する制限免除主義の拡大を背景にながら︑ワシントン条. 約の目的を重視することによって︑雪算8幕暮が突9&8の先行行為ではなく︑の器︒巨8が窪す8塞導の一部を. 構成する手続であるとの解釈が締約国の国内裁判所において提示される可能性を否定することはできないのである︒. 概観したように︑ICS王D仲裁判断の承認・執行訴訟の事例は極めて少ない︒したがって今後も︑締約国の国内裁 判所がどのようにワシントン条約の解釈を行うかを注目していかなければならない︒. 付託件数については再付託・取消手続を含んでいない︒留琶8日O器$署一歯一も8﹂86\お\窓<﹄︵一8一︶口8ω8のε身琶き閃閻. 勇↓もP?o︒忌国壽男︒三8一P<〇一一ρZoNも﹄︵一8ω︶. ︵1︶. 資紛争発生の予防︑すなわち有効な紛争回避機能をそなえていることを物語る︒ω墨じo§試−↓§穿魯睾§竃︑寒旺壽§§︒§8§ミずの§嗣. ︵2︶事件の付託件数の少なさは何もICSIDレジームのこの分野における重要性の低さを示すものではなく︑ICSID仲裁条項の存在が投. ≦︒召もマN雪﹄08G︒N一−ω爲︵一8一y. ↓も℃﹂6. §ミ︒\ミミ恥§§肺b昌誉§言ぎ舅藁︒z>二z<弩蕎z↓O一の署塁︐︾<︒票蕎>召の国ヨ望窪も︒︒︒ω︵一⑩o︒㎝︶︸一あヨエ翁>㍉爵項︒閃ε野美塑>9髪9乙. 最近のICSIDの活動については︑宅鴨郵些一8ω一8e>z≡>r葬8. ︵3︶2国藷冤・琶8β<︒=P之︒甲卜︒も一︵一8も︒︶甲. 二〇一. ︵5︶幻8︒辞・⇒訂野①︒5一<Φ9§8諺99①○︒毫︒注8︒葺ぎの①洋一の幕算︒=薯婁幕暮9の℃箒のげ︒ヨ①窪のけ壁釜&許け凶︒器一ω︒胤○些醇の舜のω層. ︵4︶. ICSID仲裁判断の承認・執行の法構造︵黒田秀治︶.
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