教員養成課程の学生による
教育問題のグループ共同研究 についての実践 と考察
鈴木 匡
は じめに
本稿 の 目的は、筆者 が担 当す る 教育原論 口 の授 業実践につ いて簡潔 に報告す るとともに、
若干 の考察 を加 えることである。 これ まで5回 にわたって試行錯誤 しなが ら実践 してきた授業 につ いて改めて検討す ることで、今後の授業改 善の契機 と したい。
教 育原論 Ⅱでの授業方法
これ まで数年 にわた り、教育原論 口では、教 育 と社会 とのかかわ りとい う視点か ら 「現在の 教育問題」 を研 究課題 として学生に取 り組 んで もらってきた。 具体的には、受講生は4人程度 のグループに分 かれ、各 グループ ごとに現在の 日本における教育問題 について話 し合 った上で、
具体的なグルー プ研究の トピックを決定す る。
そ して、グルー プの各 メンバーが収集 した先行 研 究 を各 自概観 した上で、グループ全体 で研究 の主張 を決定す る。 さらに、その主張に沿って できるだけ詳細 なア ウ トライ ンを作成す る。以 上の手続 きを終 えた後 、ア ウ トライ ンを各 メン バーで分担 して一人 当た り2000字程度 の論文 を 執筆 し、全体 と して一つの研究論文を作成す る。
また、各 グルー プは研 究の要点 を全体に発表す る。 以上が大まかな流れだが、本来、 グループ 研究の論文が完成 してか ら発表 して もらいたい のだが、実際には、授業 日程の都合でやむ を得 ず早い時期 に発表 して もらうグループがあ り、
そ うしたグルー プでは発表時点では研究論文が 完成 していない こともある。 なお、グループ発 表の際、聞 き手の学生たちは各発表 についての 感想 を書いて提 出す ることになっている。
グルー プ研究課題 と しての教育 問題
教育 と社会 とのかかわ りを学ぶにあた って、
教育問題 はきわめて社会的な ものであ り、また 多様 な項 目が考 え られ 、興味 ・関心が多様 な学 生に も積極的 に取 り組 める トピックが選べ る と い う利点がある。教育問題 は、社会問題 の うち、
教育にかんす る問題 として捉 えれ ることがで き る。 そ こで社会問題 の研 究 を援用すれば、教育 問題 についての認識 を客観 主義 と主観主義の二 つの観 点に分 けることができる (Best 2007)0 客観主義 では、教育問題 とは、教育にかんす る ことが らの うちで社会の人々に害悪 をもた らす 事象 を指 し、客観 的 に計測可能 な特徴 か ら教育 問題 を定義づける。例 えば、い じめ られた経験 を遺書に書 き残 して 自殺 した子 どもの数 、児童 生徒の欠席 日数 、経済協力開発機構 (OECD) によるP ISAでの 日本人児童生徒 の点数の低 下な どが当てはまるだろ う。 一方、主観主義で は、教育問題 は、教育にかんす る事項の うちで、
ある状態や事象 を問題 である と見なす人々の主 観 に注 目して定義 づけ られ る。例 えば、子 ども たちの関係 の うちあ る状況 を 「い じめ」 と して 認識す ることで、解決すべ きい じめが教育問題 と して存在す るよ うにな った と考 える (北滞
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神泉川大7:心理 ・教育研 究論災 節 31号 (2012年 3月 31日)
1999)。 客観 主義 、主観 主義 どち らにせ よ、教 育問題 を、社会成員 に害悪 をもた らす、 も しく は害悪 をもた らすので解決すべ きであると社会 成員が訴 えることによって成立 しているとす る 点で、社会的な事項であることに変わ りはな く、
それ だけに様 々な項 目を研究対象 と して扱 うこ とが可能 である。
教育問題への社会学 的観点
教育原論 口の授業の前半では、グループ研究 の作業 とは別に、教育問題 を捉 えるための参考 と して社会学の 3つの観 点一構造機 能主義 、葛 藤理論 、象徴的相互作用主義 を紹介 してい る。
この うち、前述 の客観 主義 ・主観 主義の分類 で いえば、構造機 能主義 と葛藤理論は客観 主義 、 象徴的相互作用主義は主観 主義 と分類で きよ う。
グルー プによる共同作業
授業 では前述 の よ うにグループに よる共同作 業 を課 しているが、大学の教員養成課程の授業 での共同作業については、すでに有効性 を示す 研究がある (塚本 ・赤堀 2007)0
グループ研 究の利点 としてまず挙 げ られ るこ とは、一人ではなかなか達成 できないよ うな研 究で も学生た ちが協力 し合いなが ら、よ り完成 度の高い研 究ができることであろ う。近年は 日 本の大学で も一般 に広 く実施 されている授業形 態だ と思われ るが、筆者 は 日本 の大学在籍時に はグルー プ研究 を経験 した ことが無かった。後 の米 国留学時には、学部 で も大学院 で も授 業の 多 くでグループ研究が採用 され てお り、授 業方 法 と しての有効性 を実感 していた ことか ら、 自 分の授業で も採 用す ることに した。
グルー プ研究 トピックの傾 向
学生によるグループ研究で取 り上げ られ る ト ピックを見 ると、その うちい くつかは毎年選 ば
れ てお り、継続 的に学生の関心を引いている項 目があることがわか る。例 えば、 ここ数年、継 続 的 に選 ばれ る トピックは、 「い じめ」、 「不登 校」、「ゆ とり教育」、「学力低 下」、 「モ ンスター ペ ア レン ト」 である。 特 に、 「い じめ」や 「不 登校」は、決 して喜 ば しい ことではないが教育 問題 として定着 しているといってもよいだろ う。
因みに、本年度 (平成23年) の トピックを見 る と、 「い じめ」、 「ゆ と り教育」、 「モ ンス ターペ ア レン ト」な どは複数の グループで採 用 され て いる。但 し、 トピックが同 じでもグループによっ て議論 の内容にはかな り違 いがある。本年度の その他 の トピックを挙げ ると、学校生活 に関す る トピック
(
「校則」、 「体罰 」、 「不登校」)、諸外 国 との比較 に注 目す る トピック
(
「諸外 国 と比較 した 日本の学校教育」、 「学力低下」)、学生 たちのそれぞれ の専攻科 目と関係 してい ると考 え られ る個別の科 目にかんす る トピック
(
「英語教育における外国人講師の問題」、「英語教育」、
「理科離れ」、「総合的な学習の時間」、「教育史」) があ るっ また、今 回な らではの トピック
(
「麓災後の子 どもに対す る心のケア」)も見 られた。
なお、2008年 の世界同時不 況で、派遣労働者 の失 業 が急増 した頃 、 メデ ィアな どを通 じて
「教育 の格差 問題 」 が注 目され 、学生 の研 究 で も 「格差」を取 り上げ られ るグループが複数 あっ たが、本年度 は一つ もなか ったO この問題 につ いては、震 災に よって更に悪化 している側面 も あるはずだが、実感 と しては メデ ィアで話是劉こ なる機会 も減少 してお り、教育問題 のメデ ィア 露出の頻度 と学生の関心の相 関性 が指摘 できる か も しれ ない。
グループ研究における教育問題の原因 ・背景
学生の グループ研 究で、対象 とす る教育問題 の原 因 ・背景 についての議論 は、構造 ・機能主 義、それ と心理主義 を関連付 けた説 明が多い。
例 えば、伝統的 に見 られ る議 論 と して、 日本の 学校教育の特徴 として、管理 主義や競争主義が
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教 Ll亜 h文挟程 のp7:/tに よる教 育 間越 の ブル ‑ フ井 同 研 究 に つ い ての 実 践 と考察
もた らす ス トレスを指摘す るもの もあれ ば、逆 に 「ゆ とり教育」の よ うな学校教育 の関与減少 をもた ら した教育政策 を指摘す る議論 もある。
また、モ ンスターペ ア レン トの問題 では、保護 者 の学校や教師 に対す る意識構造の変化 (教師
‑の尊敬の念の低下、消費者意識 の増大) に注 目す る議論 もある。 しか しなが ら、象徴的相互 作用主義 、 とりわけ構築主義的な観 点か らの研 究は皆無 といってよい。 また、差別や格差 に注 目す る葛藤理論 の立場 といえる議論 も中にはあ る。
かつて藤 田 (1997) は、 「い じめ」 「不登 校
」
「校 内暴力」 な どの 「教育病理現象 」 をめ ぐる主要な原因論 を3つ指摘 した。それは、 1.学校 教育 の特徴 、2.人間関係 の歪みや他者 関係 の未熟 さ、3.理念 主義 ・当為論 であ る。
これ らの原 因論 は、現在 の教育問題 をめ ぐる議 論 で も主要なものであ り、その意味 では、先行 研究 をもとに進 め られ る学生の グループ研 究 で こ うした一般的 に流布 している原 因論に基づ く 議論が 目立つの も当然だ ろ う。
まとめ と考察
教員養成課程 の教育原論 Ⅲの授業 において、
教育 と社会 とのかかわ りを学生が よ り主体的に 積極的に取 り組 む方策のひ とつ と して、教育問 題 についての学生に よるグルー プ共同研究の実 践 を紹介 してきた。 ここで教育問題 に注 目す る のは,社会的な ものである教育問題 は多様 な項 目が考 え られ、専攻科 目も興味 ・関心 もそれぞ れ違 う多様な学生にも積極的に取 り組める トピッ クが選べ るとい う利点があるか らである。
グループ研究 を実施す ることによ り、グルー プの論文 1本 あた り8,000‑10,000字程度 の長 さになる。 一人一人単独 で取 り組 んだ場合 は、
同 じ トピックの場合、用語の定義の説明な ど、
重複す る箇所が出てきて しまい、 どの学生の研 究 も多 くの部分 が同 じ内容 になって しまいが ち だが、グループ研究では、そ うした重複 を避 け
ることができ、 よ り深い議論 をす ることができ る。 また、 グループ全体 と しての主張 を明確 に し、論文ア ウ トライ ン作成 に もグループで時間 をかけて取 り組 む ことで、その後の個別作業で も論文全体 と してのバ ランスは維持 できている と考 える。
授業では、教育問題 を考 える一助 と して、社 会学の観 点一構 造機 能主義 、葛藤理論 、象徴 的 相互作用主義 を紹介 している。 しか し、実際に は学生のグループ研 究では、象徴的相互作用主 義、 と りわけ構 築主義的な観 点か らの研 究が見 られず改善すべ き点である。他 の観 点による研 究 と比較 して構 築主義的な研 究の丑が少 な く、
それだけ研 究 トピックか ら資料 を検索す る学生 の 目に留ま りに くい こともあるか も しれ ない。
また、 これか ら教師になろ うとす る学生に とっ ては、教育問題 は現実に学校教育の現場 に存在 してい る問題 と して、 ど うすれ ば解 決できるか が一番の関心であることが多い。例 えば、い じ め問題 では、教員志望の学生 に とっては、 自分 が受 け持つ学級 で起 きた場合 には ど うすれ ばよ いのか、被害者 、加害者 とも自分の児童生徒 で あれば どの よ うに対応すべ きか とい うことに関 心が集 中す るのは当然 の ことともいえる。
その一方 、 日常生活 では、主にメデ ィアを通 じて教育にかんす る様 々な事象 が極端 な事例 と ともに繰 り返 し紹介 され、放置 してお けない、
何 とか して解決 しなければいけない問題 と して 取 り上げ られ ことが しば しばある。 子 どもの保 護者 に限 らず我 々は、メデ ィアの意 図にかかわ らず、実際に事実 として知 りうることとは別 の 認識 をもって しま うことがある。例えば、中学 ・ 高校生のい じめ 自殺 がメデ ィアで盛 んに報道 さ れ大きな教育問題 とされ ることがあるが、中学 ・ 高校生の 自殺 の うち、い じめを原 因 ・動機 とす る割合 は、他 の原 因 ・動機 よ り特に高 いわけで はない (広 軌 伊藤 .2010)。 また 、 ここ数年 い じめ 自殺 のメデ ィア報道 は沈静化 してい ると いえそ うだが、例 えば2010年 の中学 ・高校生 に よる 自殺 の原 因 ・動機 の中で、 「い じめ」 は、
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神奈川大乍心理 ・教育研究論姓 節 31号 (2012年 3ノ」31日)
男女 とも 2件 であ り、「失恋」(男子22、女子 8)、
「入試 に関す る悩 み」 (男子13、女子 4)、 「学業 不振 」 (男子32、女子11)な どよ りも少 ない。
さらに、確 かに暗数 の問題 がある とはい え、女 子 に至 って は、 「い じめ」 を原 因 ・動機 とす る 自殺 よ りも、 「教 師 との人 間関係 」 (男子 0、女 子 5) を原 因 ・動機 とす る 自殺 の方 が多い。 し か し、教師 との人間関係 に よる 自殺 が メデ ィア によって教 育問題化 した こ とは これ までない と いって よいだ ろ う (警 察庁 2011)。
つ ま り、 「い じめ 自殺 」 は確 か に重大 な問題 ではあるが、実 際には子 どもの 自殺 の中では ど ち らか といえば少数の項 目といわ ざるをえない。
ごく一部 の問題 ばか りに集 中す るこ とで、子 ど もの 自殺 ‑の対応全体 と しては不十分 な、 とも すれ ば誤 った もの とな って しま うことに もな り かねない。
現場 の教師 に なる学生た ちには、 メデ ィアや 社会一般 で問題 とされ る事項 について冷静 な 目 を持 って考 えて も ら うために も構築主義的 な見 方 も身 につ ける必要があ るのではないか。授業 にお いて限 られ た時間の中で、いかに して学生 に構造機 能 主義 的、葛藤理論的 な観 点だけでな く、象徴的相互作用 主義、 とくに構築主義 的な 観 点 も身 につ けて もらい グルー プ研 究に活用 し て も ら うよ うに できるかが今後 の課題 であ る。
参照文献
Best,Joel,2007,SocialProblems.NY:W.
lV.Norton
&
Company.北滞 毅, 1999
,
「フ ィクシ ョン と しての 「い じ め問題」一 言説の呪縛 か らの解放 を求めて ‑」, 古賀正 義編 『<子 ども問題 >か らみ た学 校世界』,教育 出版,89‑106.
警 察庁,2011, 「平成22年 中にお け る 自殺 の概 要 資料 」,警察庁生活安全局生活安全企 画課.
塚本 柴 一 ・赤 堀 侃 司,2007
,
「教員養成課程 の総合演習 にお け る学生 による共同作業 と相 互評価 の効果 と問題 点」
『日本教科教育学会誌』 30(1),1‑7.
広 田照幸 ・伊藤 茂樹,2010,『教育 問題 はなぜ まちが って語 られ るのか ?‑ 「わか ったっ も り」か らの脱 却 (ど う考 え る ?ニ ッポ ンの教 育問題
)
』, 日本 図書セ ンター.藤 田英 典, 1997, 「学校 と社 会 」, 藤 田英 典 , 田中孝 彦 , 寺 崎 弘 昭編 , 『教 育 学入 門』,岩 波 書店.1‑86
間 山広朗,2002
,
「概 念分析 と して の言説分析「い じめ 自殺 」 の <根 絶 ‑解 消 >‑ 向 け て」『教 育社会学研 究』70, 145‑163.
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