はじめに 心臓突然死とは「急性の症候が始まって 1 時間以 内に,突然の意識喪失をきたす心臓に起因した内因 死」と定義されている.心臓突然死は,事態が予測で きず急激に起こるため対応が難しい.そのため昨今, 色々な心臓突然死を予知する指標が臨床応用されて いる.そのうちの 1 つが TWA:T-wave alternans である. 具体的に TWA とは図 1 に示したように,形態の 異 な る T 波 (A と B) が 1 拍 ご と に 交 互 に (ABA-BAB・・・)出現する現象のことである.この TWA という現象は,今から約 100 年前に心室細動など致 死的不整脈の前兆としてみられる現象として Her-ing らをはじめ多数報告されている1) .現在臨床応用 されている TWA はこれら肉眼的な T 波の変化と 違い,心電学的に微小レベルにて測定し評価し得ら れ る TWA で あ る.区 別 の た め マ イ ク ロ ボ ル ト TWA(Microvolt-TWA;M-TWA)とも呼び,再分 極異常を反映し致死的不整脈の発現予知指標として 臨床応用がされている. TWA 発現機序 Qu Z らによると2) 心筋細動における活動持続時間 (action potential duraton;APD)の交互現象で説明 されている.心筋内での APD が逆位相を呈した際 に心室内で伝導障害が生じ,心室細動を生じる回帰 性興奮を起こすとされている. 測定方法 TWA 測定方法としては,周波数領域解析・時間 領域解析の 2 つの方法がある.
前者は fast Fourier transform(FFT)法によるス ペ ク ト ル 法,後 者 は Modified Moving Average (MMA)法によるタイムドメイン法である. ) スペクトル法 まず,スペクトル法について簡単に解説する.ま ず心拍を 128 拍記録する.T 波が ABAB・・・パター ンで交互に出現するということは,A 波,B 波それ ぞれが 2 拍に 1 回(0.5 周期/拍)出現するというこ とであり,周波数解析を行って,0.5 周期/拍のとこ ろを Altanans とする. 現 在 一 般 的 な TWA 測 定 方 法 は Cambridge Heart 社(HearTwave Ⅱ)を用いてのスペクトル法 による M-TWA 測定である(図 2A).検査の際には, 東邦大学医学部 内科学講座 循環器内科学分野
T 波オルタナンス(T-wave alternans;TWA)の
活用
福永俊二
池田隆徳
非侵襲的検査で心臓突然死は予知できるのか?
A B A B A B A B A B 図 1 T 波交互現象微細な電位を測定するため電極装着前に入念な皮膚 の下処理が重要であり,また特殊電極(図 2B)を用 いる.解析の際には標準 12 誘導だけでなく Frank 誘導(X,Y,Z 誘導)も用いて M-TWA を測定する ため,Z 誘導(前後方向)測定のため背部への電極を 付ける必要がある.またトレッドミルやエルゴメー タなどによる運動負荷やペーシングなどで心拍数を 115 拍/分前後まで上昇し,M-TWA 出現閾値を下 げる必要がある.具体的なプロトコールとしては心 拍 数 が 100〜110 拍/分 を 2 分 30 秒 維 持 し,次 に 110〜120 拍/分を 1 分 30 秒維持するように負荷を 調節する. これらの結果から得られた,T 波を自動解析し陽 性,陰性,判定不能の結果が報告される(M-TWA 電位の値は具体的な数字では表示されない).陽性 基準は,X,Y,Z 誘導あるいは隣り合う胸部誘導に おいて交互電位(TWA の程度を反映する指標)が 1.9 mV 以上,かつ交互比(交互電位とノイズとの比, データの信憑性を表す指標)が 3.0 以上あり,これ が心拍数 110 拍/分以下で出現し,かつ 1 分以上持 続した場合である.陰性基準は交互電位と交互比が 心拍数 105 拍/分以上で陽性基準を満たさないか, 仮に満たしても 1 分以上持続しない場合である.判 定不能は陽性・陰性基準のいずれにも該当しない場 合である.陽性例,陰性例を図 3 に示す.丸印 1 が X,Y,Z 誘導を示している(一番上の VM はベクト ルマグニチュード誘導の略で X,Y,Z 誘導の合成 波である).丸印 2 が各誘導のオルタナンスレベル のトレンドを表示している.網掛け部はオルタナン スレベルがノイズ標準偏差の 3 倍以上の領域,薄い A B 図 2 HearTwave Ⅱ
A:Cambridge Heart 社 HearTwave Ⅱ B:HearTwave Ⅱ専用電極
点線はノイズレベル,下の黒線はオルタナンス出現 領域を示している.陽性例と陰性例では,明らかに オルタナンスレベルが違っているのは明らかであ る. スペクトル法の欠点としては運動負荷が必要な点 であり,それゆえに①運動負荷を行う機材が必要で あること,②負荷中筋電図ノイズ混入の可能性があ り,運動負荷中はノイズの状況を確認しながら患者 へ肩の力を入れすぎないようになどリラックスを維 持しながら行うように働きかけが必要であること, 最後に一番大事な点であるが③本来不整脈リスク評 価の必要な心機能が低下している患者には行いづら いという欠点がある. ) タイムドメイン法 スペクトル法の後に新しく開発されたのがタイム ドメイン法(Modified Moving Average Method)で ある.スペクトル法により測定された M-TWA と の区別のため TD-TWA(time domain の略)と呼ば れることもある. 原理を簡単に解説するとタイムドメイン法では, まず心電図波形を奇数拍(A 波グループ),偶数拍(B 波グループ)と 1 拍おきにグループ化する.15 秒間 自動解析し,A 波グループと B 波グループの心電図 波形を各々加算し A 波と B 波グループの T 波部分 の差を測定して TWA の有無を判定する方法であ る.スペクトル法と違い決められたビート数を取り 込まなければならないという訳ではなく,15 秒ごと に解析を出すことが可能であり短時間持続の TWA の検出が可能である.そして,専用電極でなく通常 の電極で測定が可能であり,運動負荷法だけでなく Holter 心電計での解析が可能である.またタイムド メイン法による TWA 電位の基準値としては 65mV という基準がNieminen らにより報告されている3). 図 4 に示した通りカットポイントを 65 mV で分け た場合に総死亡(心臓突然死+心血管死亡)において 生存率に差を認めた.同様に心臓突然死,心血管死 各々についても 65mV で差を認めた.(本邦ではタ イムドメイン法を用いての TD-TWA 測定は,GE A B 丸印1 各誘導 HR (BPM) % Bad VM X Z Resp 0.51 60 30 0 0 60 20 100 120 80 2 1 0 0 RR Alternans Exer 0 2 4 6 8 10 12 Recov Min. 2ms 2uV Max 115 Onset HR 97 Max Neg HR 97 HR Delta Y Noise (uv) 心拍数トレンド 丸印2 オルタナンス レベル HR (BPM) % Bad VM X Z Resp 0.51 60 30 0 0 80 20 120 100 2 1 0 0 RR Alternans Exer 0 2 4 6 8 10 12 Recov Min. 2ms 2uV Max 111 Max Neg HR 111 HR Delta Y Noise (uv) 図 3 TWA 結果 A:陽性例 B:陰性例
Healthcare 社から販売されている Holter 心電計に よる解析が可能であった.しかし本邦では,新たな 販売は現在終了している). Hostetler らによると4) スペクトル法(M-TWA)と タイムドメイン法(TD-TWA)両測定方法による TWA 電位値の相関は図 5 に示したように相関係数 R=0.98 と非常に一致している(この報告からは TD-TWA 電位は M-TWA の 3.23 倍になると報告 されている).つまり,どちらの測定方法を用いても 同じ結果が得られるということである.対象患者の 状態(運動負荷が可能かどうかなど)で使い分けが可 能であるということである. 本邦では,フクダ電子株式会社より開発された Holter 心電計でスペクトル法での TWA 測定も現 在可能となっている.タイムドメイン法と同様に, Holter 心電計によるスペクトル法測定でのいろい ろな疾患についての TWA 電位値の陽性基準を Ja-pan-Noninvasive Electrocardiographic Risk Strati-fication (JANIES) study for Prediction of Sudden Cardiac Death において研究が現在進行中であり, 結果が待たれる. TWA 修飾因子 TWA は次に示すようにいろいろな要素で増強し たり減弱したりし TWA 電位が修飾される. TWA が増強する要因として ・冠動脈疾患(心筋虚血) ・自律神経(交感神経系の亢進) ・ペーシング(速いレートでのペーシング) ・低体温 などが挙げられ,逆に TWA が減弱する要因として は, ・薬剤(b 遮断薬,レニンアンジオテンシン系遮断 薬,カルシウム拮抗薬など) ・自律神経(交感神経の切断,迷走神経の亢進) などが挙げられる. 病状が不安定で変化があれば,TWA 電位の状態 もそのつど変わるため再評価が必要である.特に注 意が必要な事例を次に示す. ①急性心筋梗塞患者では発症直後は病態が不安定で あり TWA 測定時期も重要となってくる.発症 2 週間以内の測定は有 用でないと報告5)されてお り,状態が落ち着いた発症 2 週間以降の測定が望 ましい. ②上述の薬物内容を変更した場合には,再評価が必 TWA <65μV TWA >65μV 0 10 20 30 40 50 0.88 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 0.90 総死亡(心突然死+心血管死) 経過期間(月) P=0.001 生存率 ( % ) 図 4 TWA 65 mV で分けた場合の生存率 (文献 3 より改変・引用) 0 0 2 4 6 5 30 10 12 20 10 25 35 8 15 40 M-TWA(μV) TD-TWA (μ V) 図 5 スペクトル法 M-TWA とタイムドメイン 法 TD-TWA との比較 (文献 6 より改変・引用)
要 と な る.つ ま り 薬 物 療 法 の 内 容 が 確 定 後 に TWA 測定は行うべきである. ③不整脈(心房細動や期外収縮が多発する患者)では 評価が不能である.実例を図 6 に示す.丸印の心 拍数トレンドが示すように,心室期外収縮が運動 負荷中に多発したため判定不能となってしまった 症例である. ④心膜液が多量に貯留した場合(心タンポナーデな ど)には,心膜液に囲まれた心臓が振り子様の運 動をするために,心電図の振幅が 1〜数心拍毎に 増加したり減少したりする電気的交互脈がみられ るため正確な TWA 測定が困難となる. これらの点に注意して,TWA 測定や評価をしな ければならない. TWA 活用方法 現在,心臓突然死を高率で予測できる予知指標は 残念ながら存在しない.しかし逆に TWA は予知指 標としては感度と陰性的中率が高いことが特徴とさ れている.日本心電学会/体表微小電位基準小委員 会報告Ⅰにて池田らが日本で行った心筋梗塞患者に お け る 致 死 的 不 整 脈 イ ベ ン ト 評 価 に お け る M-TWA の有用性を研究した前向き研究によると,M-TWA 陽性例では陰性例より致死的不整脈イベント が多いこと,また M-TWA の感度 92%,陰性 99% と報告している6). 逆に陽性的中率を上げたい(高リスク患者の検出) のであれば,他の予知指標と組み合わせることによ り精度を上げる方法もある.左室駆出率(ejection fraction;EF),脱分極異常を反映する心室遅発電位 (late potentials;LP)などの併用が陽性的中率を高 くすることが報告されている6,7). しかし,繰り返すが,TWA の臨床的な立ち位置 は,あくまで高リスク患者を検出するよりもリスク の低い患者(陰性適中率が高い)を検出するのに有効 な検査である. 各疾患における臨床応用 基本的に現在 TWA において一番エビデンスが あるのは,心臓突然死の原因疾患で一番多い心筋梗 塞に関してである.日本循環器学会から発刊されて いる 2010 年改訂版 心臓突然死の予知と予防法の ガイドラインではクラスⅡa と最もエビデンスが高 く評価されている.その根拠になった代表的な研究 を解説する. ・日本心電学会/体表微小電位基準小委員会報告Ⅰ 日 本 の 心 筋 梗 塞 後 患 者 850 例 に お い て の M-TWA を含めた 11 個の予知指標の有用性について 前向き研究を行った.多変量解析の結果,M-TWA と EF が有意な指標であり,図 7 に示したように心 筋梗塞後患者の致死的不整脈イベントの予測に M-TWA は有用であると結論した6) .
・MASTER (Microvolt T Wave Alternans Testing for Risk Stratification of Post-Myocardial Infarc-tion Patients)trial ICD 植 込 み 後 の 低 心 機 能 心 筋 梗 塞 患 者 (EFC 30%)575 例についてのイベント予測において M-TWA の有用性の評価を行った研究である.結論は HR (BPM) % Bad VM X Z Resp 0.51 60 30 0 0 60 20 100 120 140 80 2 1 0 0 RR Alternans Exer 0 2 4 6 8 10 12 14Min. Recov 2ms 2uV Max 111 Max Neg HR 98 HR Delta Y Noise (uv) 心拍数トレンド 図 6 判定不能例
ICD 植込み後の低心機能心筋梗塞患者において, M-TWA は不整脈イベントの予測に有用ではな かったが,総死亡予測に関して有用であった8). ・ABCD(Alternans Before Cardioverter
Defibrilla-tor)Trial
虚血性心筋症患者(EFC40%)566 例においての ICD 選択方法として M-TWA と EPS の有用性を評 価した研究である.M-TWA あるいは EPS のどち ら か が 陽 性 の 場 合 ICD 植 込 み 行 い 前 向 き 観 察 を 行った.その結果両方の指標とも不整脈イベントと 突然死と有意な関連性が示された9). など,いずれも症例数が多くまた前向き観察研究に おいてエビデンスが報告されている. 拡張型心筋症については,日本循環器学会ガイド ラインでクラスⅡb と評価され,心筋梗塞に準じた 評価がされている.
・ALPHER (T-Wave Alternans in Patients With Heart Failure)study 非虚血性心筋症患者 446 例においての心臓死と不 整脈イベント予測における M-TWA の有用性を評 価した.結論は心臓死と不整脈イベント予測に関し て M-TWA は有用であったと報告されている10). 他の疾患(肥大型心筋症,Brugada 症候群,QT 延 長症候群,失神患者)などに関しては有用とする報 告などもあるが,前向き研究ではなく症例数も少な いためエビデンスレベルとしては不十分であり,上 述した通り現時点では本邦では日本循環器学会での ガイドラインについては有効性の評価はされていな い. 結果的には,TWA の有効性がある証明されてい るのは心筋梗塞,虚血性心筋症,拡張型心筋症とい うこととなる.他の疾患に関してはさらなる研究が 待たれる. おわりに 以上,TWA についての測定方法から解釈の仕方 などについて概説した.基本的なことを再度まとめ ると,TWA は非侵襲的な検査であり,患者の状態 によって測定方法,運動負荷法や Holter 心電計な どの評価など使い分けが可能であること.陰性的中 率が高く,低リスク患者検出に向いていることであ る.また疾患によってはエビデンスが不十分である. これらのことを踏まえて臨床の場で活用してほし い. 文 献
1) Hering HE:Das Wesen des Herzalternanas. Munchen Med Wchenshr 1908;4:1417-1421
2) Qu Z, Garfinkel A, Chen PS, et al:Mechanisms of discordant alternans and induction of reentry in simulated cardiac tissue. Circulation 2000;102 (14): 1664-1670
3) Nieminen T, Lehtimäki T, Viik J, et al:T-wave alternans predicts mortality in a population undergoing a clinically indicated exercise test. Eur Heart J 2007;28 (19):2332-2337
4) Hostetler B, Xue J, Young B, et al:Detect short run of TWA event with time-domain algorithm. Computers in Cardiology 2005;483-486
5) Tapanainen JM, Still AM, Airaksinen KE, Huikuri HV: Prognostic significance of risk stratifiers of mortality, including T wave alternans, after acute myocardial infarction:results of a prospective follow-up study. J Cardiovasc Electrophysiol 2001;12(6):645-652 6) Ikeda T, Saito H, Tanno K, et al:T-wave alternans as a
predictor for sudden cardiac death after myocardial infarction. Am J Cardiol 2002;89(1):79-82
7) Ikeda T, Sakata T, Takami M, et al:Combined assessment of T-wave alternans and late potentials
経過期間(月) 0 8 60 16 4 12 20 70 80 90 24 M-TWA陽性 M-TWA陰性 P<0.0001(log-rank test) 100 非不整脈イベント率 ( % ) 図 7 心筋梗塞後患者においての M-TWA の評 価 (文献 6 より改変・引用)
used to predict arrhythmic events after myocardial infarction. A prospective study. J Am Coll Cardiol 2000;35(3):722-730
8) Chow T, Kereiakes DJ, Onufer J, et al:Does microvolt T-wave alternans testing predict ventricular tachyar-rhythmias in patients with ischemic cardiomyopathy and prophylactic defibrillators? The MASTER(Micro-volt T Wave Alternans Testing for Risk Stratification of Post-Myocardial Infarction Patients) trial. J Am Coll Cardiol 2008;52(20):1607-1615
9) Costantini O, Hohnloser SH, Kirk MM, et al:The ABCD (Alternans Before Cardioverter Defibrillator) Trial: strategies using T-wave alternans to improve efficiency of sudden cardiac death prevention. J Am Coll Cardiol 2009;53(6):471-479
10) De Ferrari GM, Klersy C, Ferrero P, et al:Atrial fibrillation in heart failure patients:prevalence in daily practice and effect on the severity of symptoms. Data from the ALPHA study registry. Eur J Heart Fail 2007;