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日本語と中国語字幕に見られるヘッジ表現 ―ポライトネスの観点から―

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日本語と中国語字幕に見られるヘッジ表現

―ポライトネスの観点から―

袁 青

(東北大学国際文化研究科博士後期課程)

Abstract

This paper aims to explain how hedges in Japanese are translated into Chinese in subtitling. Hedges usually are used in dialogues as a strategy to avoid potential threats to cooperative interaction and to keep harmonious communication. This study collected 163 sentences with typical hedges from Japanese drama scripts and compared differences between original lines and their corresponding Chinese subtitles from the viewpoint of politeness. Result shows, only 104 sentences (63.80%) with hedges are translated as they are, and 36.20% of collected data are translated without hedges. This suggests that target text politeness phenomena are different from those in source texts.

1. はじめに

我 々 の 日 常 生 活 に お い て 、(1)の 発 話 の よ う に 断 定 を 避 け 、聞 き 手 へ の 負 担 を 減 ら す 気 持 ち を 表 す 表 現 が よ く 見 ら れ る 。

(1) think…

I believe… 私 は … だ と 思 う 。 assume…

(B&L:164、 田 中 ( 監 訳 )2011: 228)

こ の よ う な 発 話 行 為 遂 行 の 度 合 い と 発 話 内 効 力 を 調 整 す る 機 能 を 持 つ 表 現 を

「 ヘ ッ ジ (hedge)」 と 呼 ぶ 。 聞 き 手 の 気 持 ち に 配 慮 し た う え で 、 自 分 の 考 え を は っ き り と 伝 達 す る の が 困 難 で あ る 場 合 や 、 は っ き り と 自 分 の 考 え を 表 す 必 要 が な い 場 合 に 多 々 使 用 さ れ て い る 。そ う す る と 、相 手 の メ ン ツ(face)に 気 を 配 っ て 、 円 滑 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 維 持 さ せ る 役 目 を 果 た す こ と が で き る 。このような聞 き手に対する配慮を、ポライトネスという。本稿はBrown & Levinson (1987)(以下B&L)

のポライトネス理論に基づいて、日本語のヘッジの配慮が、中国語字幕でどのように表現 されるのかを明らかにすることを目的とする。

2. ポライトネス及びヘッジ

YUAN Qing, “Hedges in Chinese subtitling,” Invitation to Interpreting and Translation Studies, No. 19, 2018. pages 109-125. ©by the Japan Association for Interpreting and Translation Studies

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110 2.1 B&L のポライトネス理論

ポライトネスとは、話し手の言葉が聞き手の気持ちを損害することを避けられないとき に、相手に配慮したストラテジーの使用を通じて、攻撃性を和らげ、スムーズに意図を伝 えるようにすることである。例文 (2) では、話し手は括弧内の行為を望んでいるが、相手 の気持ちを傷つける可能性に配慮し、依頼を間接的にすることで、円滑な人間関係を維持 しようとしている。

(2) It’s cold in here. (c.i. Shut the window) (B&L: 215)

B&L のポライトネス理論の中心となるのは、フェイス(face)の概念である。フェイス

は「すべての構成員が自分のために要求したいと願う公的な自己イメージ the public self-image that every member wants to claim for himself」と定義され、二つの側面を持つ。ひと つは「自分の領域・自由を侵害されたくない」というネガティブ・フェイス(negative face)

であり、もう一つは「他者に賞賛されたい、仲間に入れてほしい」というポジティブ・フ ェイス(positive face)である。フェイスを脅かす行為(Face Threatening Acts、以下FTA)

を行わざるを得ない場合、以下の五つのポライトネス・ストラテジーが適用される。補償 行為をせず、あからさまにFTAを行うボールド・オン・レコード(bald on record、以下BoR)、

聞き手のポジティブ・フェイスに配慮するポジティブ・ポライトネス・ストラテジー(positive

politeness strategy、以下PPS)、聞き手のネガティブ・フェイスに配慮するネガティブ・ポラ

イトネス・ストラテジー(negative politeness strategy、以下NPS)、FTAを間接的に行うオフ・

レコード(off record、以下Off-R)、そしてFTAを行わないストラテジーである。

どのストラテジーを用いるのかはFTAの「重さ」(Weightiness)によって決まる。この重 さは話し手と聞き手間の社会的距離(Distance, D)、聞き手が話し手に及ぼす力(Power, P)、

当該文化におけるFTAの負担度(Rank of imposition, Rx)によって算出される。

Wx = D(S,H) + P(H,S) + Rx (B&L: 76)

どのストラテジーを用いるかはFTA の侵害度すなわちWxによって決まる。Wxが小さ ければ小さいほどフェイスに配慮する必要が無く、BoR を使用することができ、逆に値が 大きければFTAを行わないか、Off-Rが選択される。PPSはWxが比較的小さいとき、NPS は比較的大きいときに選ばれる。

2.2 ヘッジ(Hedge)

B&L に よ る と 、ヘ ッ ジ(hedge)と は 、「 述 部 や 名 詞 句 が 表 す そ の も の ら し さ の 度 合 い を 修 正 す る よ う な 、 小 辞 、 語 、 慣 用 句 (“hedge” is a particle, word or phrase that modifies the degree of membership of a predicate or a noun phrase in a set)」

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(B&L:145、 田 中 ( 監 訳 )2011: 199) で あ り 、 発 話 行 為 遂 行 の 度 合 い と 発 語 内 効 力 を 調 整 す る こ と を 通 し て 、 発 話 態 度 を 緩 和 す る こ と に 役 に 立 ち 、FTA を 緩 和 す る た め の 一 番 手 近 な ツ ー ル で あ る と 言 え る 。B&LはGrice(1967)の 四 つ のMaxim、

す な わ ち 、「 質( 発 話 が 真 実 で あ る こ と )」「 量( 発 話 が 必 要 以 上 で も 以 下 で も な い こ と )」「 関 係 ( 発 話 が 文 脈 に 関 連 す る 内 容 で あ る こ と )」「 様 式 ( 順 序 よ く 整 理 さ れ た 発 話 で あ る こ と )」の そ れ ぞ れ に 関 わ る ヘ ッ ジ が あ る と い い 、ヘ ッ ジ を 四 種 類 に 分 け て い る 。

a. 質 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ b. 量 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ c. 関 係 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ d. 様 式 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ

な お 、B&L が 述 べ て い る よ う に 、ヘ ッ ジ は 必 ず し も ポ ラ イ ト ネ ス の た め だ け に 使 用 さ れ る わ け で は な く 、様 々 な 機 能 を 持 つ 。つ ま り 、NPSだ け で は な く PPS と し て も 用 い ら れ る こ と が あ る 。 さ ら に 、 日 本 語 の 台 詞 で は 見 ら れ る 関 係 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ が ご く 少 な い の で 、 本 稿 で は 、 特 に c タ イ プ を 除 き 、NPS と し て の ヘ ッ ジ に 重 点 を 置 い て 考 察 を 行 う 。

3. 研究方法

本稿では、日本のドラマ『ナオミとカナコ』1、『お義父さんと呼ばせて』2、『戦う!書店 ガール』3、『結婚しない』4および『家族ノカタチ』5を研究資料として、FTA場面で現れる NPS に向けられるヘッジを持つ用例163 例を収集した。これらに対応するファンによるウ ェブ上の非公式の中国語字幕(いわゆるファンサブ)の訳文と比較することによって、ヘ ッジの翻訳特徴を考察する。ファンサブを選んだ理由は以下のとおりである。日本のドラ マは中国でテレビ放送されることはほとんどない。一部の作品には公式字幕は存在すると は言え、公式に公開された映画やドラマなどは審査によって不適切なシーンや発言を削除 されることがあるため、公式字幕の忠実度が下がっていることが多い。それに対して、フ ァンサブは外部審査を受けないから、一切の削除なしですべてのシーンが見られ、オリジ ナルに対する忠誠度が高い。字幕のポライトネス表現は、ファンサブのレベルによっても 影響を受ける。本稿では、人々からの評価が高い「人人字幕」というファンサブから、デ ータを収集して考察する。なお、上記のドラマを選んだのは、第一に日常的な会話である こと、第二に様々な人間関係が見られると同時に、力関係が明らかであること、第三に登 場人物がぶつかり合うプ ロ ッ ト が 豊 富 だ か ら で あ る 。

例文を挙げる際に、まず台詞の場面を説明し、話し手と聞き手の間の距離および関係を 示したうえで、日本語の台詞と中国語字幕の訳文を提示する。中国語字幕には筆者による

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日本語の直訳を付加する。日本語の台詞は「 」、中国語字幕は“ ”で囲んだうえで、中国 語字幕の直訳日本語は( )でくくる。最後にそれぞれの例文の出典を、発話が現れる時 間とともに記す。

・「原文」:日本語の台詞。

・「訳文」:中国語の字幕。

・「話し手」:台詞を言っている登場人物。

・「聞き手」:その台詞が向けられている登場人物。

・P:会話参加者の力。話し手の力はPs、聞き手の力はPhと表記する。

・“>”“<”“=”: 話し手と聞き手の力関係を示す。

・D:話し手と聞き手間の社会的・心理的距離。“大” “中”“小”によって親疎を表す。

4. 日中字幕翻訳におけるNPSに向けられるヘッジの表現

本章では、日本語の台詞に見られるそれぞれのNPSに向けられるヘッジの表現とその対 応する中国語字幕を見ていく。4.1 節では質の「行動指針に対する」ヘッジを、4.2 節では 量の「行動指針に対する」ヘッジを、4.3節では様式の「行動指針に対する」ヘッジを考察 する。

4.1 質 の「行 動 指 針 に対 する」ヘッジ

B&L は 、 質 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ は 、「 話 し 手 が 自 分 の 発 話 の 真 実 性 に つ い て 完 全 な 責 任 に 負 わ な い こ と を 示 唆 す る も の で あ る 」(B&L:164、 田 中

( 監 訳 )2011: 228) と 定 義 す る 。 日 本 語 の 台 詞 で は 、 典 型 的 な 質 の 「 行 動 指 針 に 対 す る 」 ヘ ッ ジ は「と思う」と「とか」を全部で 36例収集した。4.1.1 項では「と思う」

「かなと思う」を含む文を、4.1.2項では「とか」を伴う文を考察する。

4.1.1 「と思 う」「かなと思 う」

横 田 (1998:105) に よ れ ば 、「 と 思 う 」 は 「 意 見 や 主 張 が 個 人 的 な も の で あ る こ と を 明 示 し 、 そ れ に よ っ て 意 見 や 主 張 を 和 ら げ て 表 現 す る 機 能 」 を 果 た し て い る 。 ま た 、 鈴 木 (2015:70) は 「 か な と 思 う 」 が 意 見 表 明 ・ コ メ ン ト の 場 合 に 使 わ れ 、「 聞 き 手 と の 対 立・コ ン フ リ ク ト の 生 じ る 可 能 性 を 避 け る 」機 能 を 持 つ と す る 。 ど ち ら も 、 相 手 に 踏 み 込 ま れ た く な い と い う ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス に 配 慮 し た NPSで あ る 。

ま ず 、「と思う」に対応する訳語がない字幕から見ていこう。

(3) の 忠 告 と い う 発 話 行 為 は 相 手 の ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス に 対 す る FTA で あ る か ら 、「 と 思 う 」 で 、 押 し つ け の 度 合 い を 和 ら げ て い る 。 し か し 訳 文 で は 、「 と 思 う 」表 現 が 訳 出 さ れ ず 、話 し 手 が BoRで 、そ の ま ま 自 分 の 意 見 を 伝 え る こ と に

(5)

113 な っ て い る 。

(3) 春 子 が 千 春 に 忠 告 を す る (Ps>Ph, D 小 )

原 文 :「 寂 し さ か ら 昔 の 約 束 に す が る の は や め た ほ う が い い と 思 う 。」

訳 文 :“ 劝 你 不 要 因 为 寂 寞 就 依 靠 以 前 的 约 定 。”

( 寂 し い か ら 昔 の 約 束 に す が る の は や め る よ う 勧 め る )

(『 結 婚 し な い 』 第 1話 36:12)

(4)は 、話 し 手 が 聞 き 手 に 仕 事 を 頼 む 会 話 場 面 で あ る 。原 文 は 、話 し 手 が ヘ ッ ジ の 「 と 思 っ て い ま す 」 に よ っ て 、 依 頼 を 間 接 的 に し 、 聞 き 手 の ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス へ の 配 慮 を 表 す 。 し か し 訳 文 に は 「 と 思 う 」 に 対 応 す る 表 現 が な く 、 依 頼 は 直 接 的 な BoRで あ る 。

(4) 直 美 と 加 奈 子 は 達 郎 に 似 て い る 男 に 仕 事 を 依 頼 す る (Ps=Ph, D 大 ) 原 文 :「 私 た ち は あ な た に 仕 事 を 頼 み た い と 思 っ て い ま す 。」

訳 文 :“ 我 们 有 工 作 想 要 拜 托 你 。”

( 私 た ち は あ な た に 頼 み た い 仕 事 が あ る 。)

(『 ナ オ ミ と カ ナ コ 』 第 1話 04:26)

(5)は 、こ ど も の 日 の イ ベ ン ト に つ い て 、ア イ デ ア を 募 っ て い る シ ー ン で あ る 。 原 文 で は 、 話 し 手 が ヘ ッ ジ の 「 と 思 う 」 を 言 い さ し に し て 、 提 案 の 発 話 行 為 を さ ら に 間 接 的 に し て い る 。訳 文 で も 語 気 を 和 ら げ る 機 能 が あ る“吧”が NPSと し て 機 能 し て い る が 、FTAが 緩 和 さ れ る 度 合 い は 原 文 に 比 べ る と わ ず か で あ る 。

(5) 理 子 は 店 員 た ち に ア イ デ ア を 出 す よ う に い う (Ps>Ph, D 中 )

原 文 :「 そ れ も い い と 思 う ん で す が せ っ か く だ か ら い ろ い ろ 考 え ら れ た ら い い な と 思 っ て ま す 。」

訳 文 :“ 我 觉 得 这 个 也 不 错 , 难 得 的 机 会 , 还 是 多 想 点 应 对 方 案 吧 。”

( そ れ は い い と 思 う 。せ っ か く だ か ら 対 策 案 を も っ と 考 え る +“ 吧 ”)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 4話 8:50)

一方、原文の「と思う」が中 国 語 の“ 我 觉 得 ”で訳出される例も少なくない。

(6)で は 、自 分 の 両 親 に も う 一 度 会 い た い と い う 依 頼 を 断 る 場 面 で あ る 。話 し 手 は「 今 は ま だ 会 わ な い 方 が い い 」と い う 意 見 を 、「 と 思 う 」で 間 接 的 に 伝 え て い る 。 訳 文 で も 、「 と 思 う 」 に 対 応 す る“ 我 觉 得 ”が 使 用 さ れ て い る 。

(6)

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(6) 大 道 寺 に 美 蘭 の 両 親 に も う 一 度 会 い た い と 言 わ れ て 、断 る (Ps=Ph, D小 ) 原 文 :「 そ れ は 一 拍 置 い た ほ う が い い と 思 う な 。」

訳 文 :“我 觉 得 最 好 还 是 不 要 急 于 一 时 。”

( し ば ら く あ せ ら な い ほ う が い い と 思 う 。)

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 2話 08:21)

(7)で は 、聞 き 手 と 付 き 合 っ て い る 男 が 既 婚 者 で あ る と い う こ と を 知 り 、話 し 手 が そ の 男 と 別 れ る よ う に 説 得 す る シ ー ン で あ る 。 原 文 で も 字 幕 で も 、「 と 思 う 」

“ 我 觉 得 ”を 使 用 し て 、 説 得 の 発 話 行 為 を 緩 和 し て い る 。

(7) 大 道 寺 は 美 蘭 の 妹 を 説 得 す る (Ps>Ph, D 中 )

原 文 :「 こ こ は 一 旦 距 離 を 置 い て さ ど う い う つ も り な の か 確 認 し た ほ う が い い と 思 う ん だ よ ね 。」

訳 文 :“ 我 觉 得 你 应 该 跟 他 保 持 距 离 , 再 好 好 摸 清 楚 他 的 心 思 比 较 好 。”

( 距 離 を 置 い て 彼 の 腹 の う ち を 探 っ た ほ う が い い と 思 う 。)

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 7話 25:07)

(8) も 同 様 に 「 と 思 う 」“ 我 觉 得 ”で 忠 告 の 発 話 行 為 を 緩 和 し て い る 。

(8) 春 子 は 千 春 に 忠 告 を す る (Ps>Ph, D 小 ) 原 文 :「 変 に 期 待 し な い ほ う が い い と 思 う な 。」

訳 文 :“ 我 觉 得 你 还 是 不 要 做 无 所 谓 的 期 待 。”

( む な し い 期 待 は や め た 方 が い い と 思 う 。)

(『 結 婚 し な い 』 第 1話 35:50)

以 上 の よ う に 、「 と 思 う 」 を 訳 さ ず 、 代 わ り に 語 気 助 詞 (“ 吧 ”な ど ) で 発 話 行 為 を 軽 く 緩 和 す る 場 合 も あ れ ば 、 対 応 す る“ 我 觉 得 ”で 訳 出 さ れ る 場 合 も 多 い 。 で は そ の 違 い は 何 で あ ろ う か 。 下 の 表 1を 見 る と 、FTA の 値 が 訳 出 の 有 無 に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 分 か っ た 。

「 訳 さ な い 」と い う 発 話 行 為 を 見 る と 、そ の ほ と ん ど が 自 分 の 希 望 を 述 べ る「 た い と 思 う 」で 、(5)の 部 下 へ の 提 案 の よ う な 発 話 行 為 が 若 干 見 ら れ た だ け で あ る 。

「 た い と 思 う 」 に つ い て は 、 中 国 語 で 希 望 を 表 す “想” や “希 望” が“ 我 觉 得 ” と 共 起 で き な い と い う 事 情 が 大 き い 。 そ の 一 方 で 、 話 し 手 が 聞 き 手 よ り 力 が 強 い 場 合 で は 訳 出 さ れ な い 傾 向 が あ る

訳 出 さ れ る 場 合 の 発 話 行 為 を 見 る と 、 社 会 的 な 距 離 が 小 さ く な る と 、 つ ま り 親 疎 関 係 が 親 し い 方 に 動 く ほ ど 、「 と 思 う 」が 訳 出 さ れ る 可 能 性 が 高 く な る 一 方 、力 関 係 の 側 面 か ら 見 る と 、「 と 思 う 」は 話 し 手 が 聞 き 手 よ り も 力 が 弱 い 場 合 に 訳 さ れ

(7)

115

や す い 。さ ら に 、説 得 や 忠 告 の 場 面 で は 、「 と 思 う 」が 訳 出 さ れ る こ と が 多 い 。こ れ で は 相 手 の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス に 対 す る FTA で あ る と い う だ け で な く 、聞 き 手 の 現 状 を 否 定 す る よ う な 、ポ ジ テ ィ ブ・フ ェ イ ス に 対 す る FTA で も あ る 。こ の よ う な 場 合 に は 、中 国 語 で も“ 我 觉 得 ”で FTAを 緩 和 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。

D 大 D中 D 小 合 計

訳 出 さ れ る 場 合 0(0%) 9(60.0%) 6(66.7%) 15 訳 出 さ れ な い 場 合 4(100.0%) 6(40.0%) 3(33.3%) 13

合 計 4(100.0%) 15(100.0%) 9(100.0%) 28

Ps>Ph Ps=Ph Ps<Ph 合 計

訳 出 さ れ る 場 合 1(12.5%) 9 (64.3%) 5(83.3%) 15 訳 出 さ れ な い 場 合 7(87.5%) 5(35.7%) 1(16.7%) 13

合 計 8(100.0%) 14(100.0%) 6(100.0%) 28

表 1 中 国 語 字 幕 における「と思 う」訳 出 の有 無

4.1.2 「とか」

「 と か 」 の 機 能 に 関 し て 、 辻 (1999: 21) は 、「 相 手 と 正 面 か ら 向 き 合 っ て 衝 突 す る こ と を 避 け 、 相 手 を 傷 つ け な い ・ 相 手 に 傷 つ け ら れ な い よ う に 距 離 を 置 い た 人 間 関 係 を 志 向 す る 心 理 の あ ら わ れ 」と 述 べ て い る 。ま た 、劉(2011)は 、「 断 定 回 避 」 お よ び 「 直 示 軽 減 」 な ど の 用 法 に 当 た り 、 直 示 す る こ と を 避 け 、 発 話 を 緩 和 す る こ と で 、 円 滑 な 会 話 を 促 進 さ せ る 役 に 立 つ ぼ か し 表 現 で あ る と い う 。 こ の よ う な 機 能 は 、 果 た し て 中 国 語 字 幕 に ど の よ う に 現 れ て い る で あ ろ う か 。

ま ず 、「とか」に対応する訳語がない字幕から見ていこう。

(9)で は 、「 と か 」の 使 用 に よ り 、「 必 ず し も 甘 い も の で な く て も よ い 」と 伝 え 、 相 手 の 負 担 を 下 げ る こ と に よ り 、 依 頼 の 度 合 い を 緩 和 し て い る 。 と こ ろ が 、 訳 文 で は 、話 し 手 は は っ き り 自 分 の 希 望 を 述 べ て お り 、FTA の 度 合 い が 原 文 よ り 強 い 。

(9) 理 子 は 部 下 を 見 舞 い 、食 べ た い 物 が な い か 尋 ね る 。(Ps (B)<Ph (A), D中 ) 原 文 : A「 何 か 食 べ た い も の が あ る ? 」

B「 そ う で す ね 。 何 か 甘 い も の と か 。」

訳 文 :“ 这 个 嘛 , 想 吃 甜 食 。”

( こ れ だ ね 、 甘 い も の を 食 べ た い 。)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 4話 2:50)

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(10)は 、常 連 客 の 依 頼 に 対 し て 、そ の 理 由 を 推 測 す る 場 面 で あ る 。原 文 で は 、 話 し 手 が 聞 き 手 の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス( プ ラ イ ベ ー ト な 気 持 ち )に 配 慮 し 、「 と か 」 に よ っ て 断 定 を 回 避 す る こ と で 、FTA の 度 合 い を 和 ら げ て い る 。 訳 文 で は 、 は っ き り と 質 問 す る 形 に な っ て お り 、FTAの 度 合 い は 原 文 よ り 強 く な っ て し ま う 。

(10) 買 っ た 花 を 見 え な い よ う に 包 装 し て ほ し い と い う 客 の 依 頼 に (Ps<Ph, D 大 ) 原 文 :「 あ の う 差 し 出 が ま し い よ う で す が も し か し て 花 束 を 持 つ の

が 恥 ず か し い と か ? 」

訳 文 :“ 那 个 恕 我 多 言 , 难 道 您 是 觉 得 拿 着 花 不 好 意 思 吗 ? ”

( あ の う 、 余 計 な こ と を 言 っ て 申 し 訳 あ り ま せ ん が 、 ま さ か 花 束 を 持 つ の が 恥 ず か し い の で す か ? )

(『 結 婚 し な い 』 第 4話 14:42)

一方、「とか」が中 国 語 の“ 什 么 的 ”で訳出される例も1例だけ見つかった。

(11)で は 、「 と か 」を 二 回 使 用 す る こ と に よ っ て 、限 定 を 避 け 、ほ か の 選 択 肢 が あ る こ と を 仄 め か す こ と で 、 聞 き 手 の ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス へ の 配 慮 を し 、 主 張 の 度 合 い を 和 ら げ て い る 。 訳 文 で は 、FTA を 弱 め る 機 能 を 持 つ 語 気 助 詞“ 吧 ” と 、「 と か 」 に 対 応 す る“ 什 么 的 ”が 使 用 さ れ 、「 ま だ は っ き り 決 め て お ら ず 、 あ な た の 意 見 も 聞 き た い 」 と い う よ う な 話 し 手 の 気 持 ち が 伝 達 さ れ る 。

(11) 美 蘭 が 大 道 寺 に 週 末 の 予 定 を 提 案 す る 。(Ps=Ph, D 小 )

原 文:「 た ま に は さ 車 借 り て ド ラ イ ブ と か 行 か な い 。日 帰 り 温 泉 と か 。」

訳 文 :“ 偶 尔 借 个 车 去 兜 风 吧 。 当 天 来 回 的 温 泉 游 什 么 的 。”

( た ま に は 車 を 借 り て ド ラ イ ブ に 行 く +“ 吧 ”。 日 帰 り 温 泉 と か 。)

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 3話 03:39)

以 上 の よ う に 、 中 国 語 の 字 幕 で は 日 本 語 の 台 詞 に 現 れ る 「 と か 」 は ほ と ん ど 訳 出 さ れ ず 、FTA の 度 合 い が 強 く な る 場 合 が 多 い 。

4.2 量 の「行 動 指 針 に対 する」ヘッジ

次 に 、日 本 語 で 頻 繁 に 用 い ら れ る「 ち ょ っ と 」「 一 つ だ け 」「 少 し 」「 単 な る・た だ 」な ど の ヘ ッ ジ(120例 )を 考 察 す る 。こ れ ら の ヘ ッ ジ は 、「 そ の 情 報 が 期 待 さ れ て い る か も し れ な い 量 に は 満 た な か っ た り 合 わ な か っ た り す る こ と に 注 意 を 促 す(…give notice that not as much or not as precise information is provided as might be expected)」(B&L:166、田 中( 監 訳 )2011: 231)量 の ヘ ッ ジ で 、不 平 や 依 頼 を 和 ら げ る 役 目 を 果 た す 。 そ の 中 で も 、 特 に 「 ち ょ っ と 」 の 用 例 が 最 も 多 い (81 例 )。

(9)

117 4.2.1 「ちょっと」

木 村 (1987) は 、 日 本 語 の 「 ち ょ っ と 」 と 中 国 語 の“ 一 下 ”が 「 相 手 に 依 頼 す る 動 作 を 短 く 少 な め な 形 、 言 わ ば 「 軽 減 化 」 を し た 形 で 提 示 す る こ と で 、 こ ち ら の 控 え 目 な 要 求 の 姿 勢 を 示 し 、 こ れ に よ っ て よ り 円 滑 な 依 頼 行 為 の 遂 行 を 促 す 働 き を 担 っ て い る 」と 述 べ て い る 。ま た 、岡 本・斉 藤(2004)は 、「 ち ょ っ と 」が 依 頼 や 、 希 求 、 指 示 行 為 へ の 負 担 を 減 ら す 、 断 り を 受 け や す く す る な ど 六 つ の 用 法 を 持 ち 、お 互 い の フ ェ イ ス を 守 る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 機 能 が あ る と 主 張 し て い る 。 以 下 、 日 本 語 の ヘ ッ ジ 「 ち ょ っ と 」 が ど の よ う に 中 国 語 に 翻 訳 さ れ て い る か を 見 て み よ う 。

ま ず 、 ヘ ッ ジ の 「ちょっと」に対応する訳語がない字幕から見ていこう。

(12) は 、 プ ロ ジ ェ ク ト の 仲 間 に 聞 き 手 を 誘 お う と 呼 び 止 め る 場 面 で あ る 。 原 文 の 「 ち ょ っ と 」 は 、 相 手 の 時 間 を そ れ ほ ど 奪 わ な い と い う ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス へ の 配 慮 を 示 し て 、 聞 き 手 の 負 担 度 を 弱 く し て い る 。 し か し 、 訳 文 に そ う し た 配 慮 は 見 ら れ な い 。

(12) 会 議 後 、 陽 子 が 直 美 に 尋 ね る (Ps>Ph, D大 ) 原 文 :「 小 田 さ ん ち ょ っ と 時 間 あ る ? 」

訳 文 :“小 田 小 姐 , 有 时 间 吗 ?”

( 小 田 さ ん 、 時 間 あ る ? )

(『 ナ オ ミ と カ ナ コ 』 第 2 話 27:47)

(13) の 「 ち ょ っ と 」 も 量 の ヘ ッ ジ と し て 機 能 し て い る が 、 訳 文 に は 、 尊 敬 呼 称 の“ 您 ”が 用 い ら れ て い る も の の 、ヘ ッ ジ が な く 、負 担 の 軽 減 が 含 意 さ れ な い 。

(13) 大 道 寺 は 花 澤 に 依 頼 す る (Ps<Ph, D中 ) 原 文 : A「 お 義 父 さ ん … 」

B「 呼 ぶ な 。 絶 対 に 呼 ぶ な 。 言 っ て お く が ダ デ ィ ー も だ め だ 。」

A「 あ の ち ょ っ と 聞 い て く だ さ い 。」

訳 文 :“ 那 个 , 请 您 听 我 说 。”

( あ の 聞 い て く だ さ い 。)

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 3話 13:32)

(14) で は 、 依 頼 の 負 担 を 緩 和 す る 「 ち ょ っ と 」 が 訳 文 に な く 、FTAが 原 文 よ り 大 き い 。

(14) 大 道 寺 が 恋 人 美 蘭 の 祖 父 に (Ps<Ph, D中 )

(10)

118

原 文 :「 あ の お じ い ち ゃ ん ち ょ っ と 黙 っ て て も ら え ま す か 。」

訳 文 :“ 那 个 , 爷 爷 您 能 别 说 话 了 吗 ? ”

( あ の お じ い ち ゃ ん 話 さ な い で も ら え ま す か 。)

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 4話 24:33)

一方、訳出される例もしばしば見られる。

(15) の 「 ち ょ っ と 」 は 控 え 目 な 要 求 の 姿 勢 を 示 し て お り 、 依 頼 の 度 合 い が 和 ら げ ら れ て い る 。字 幕 で は 、「 ち ょ っ と 」に 対 応 す る 程 度 副 詞 の“ 一 下 ”に 訳 出 さ れ て 、 原 文 と 同 じ よ う に 、FTA を 緩 和 し て い る 。

(15) 大 道 寺 は 美 蘭 の 母 に 頼 む (Ps<Ph, D中 )

原 文 :「 あ の す い ま せ ん あ の ち ょ っ と ト イ レ お 借 り で き ま す か ? 」 訳 文 :“ 那 个 不 好 意 思 。 请 问 能 借 用 一 下 洗 手 间 吗 ? ”

( あ の す み ま せ ん 。 ち ょ っ と お 手 洗 い お 借 り で き ま す か ? )

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 1話 33:52)

(16) で は 、 量 の ヘ ッ ジ が 相 手 に そ れ ほ ど 時 間 を と ら せ な い こ と を 示 唆 し て お り 、聞 き 手 へ の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス が 配 慮 さ れ て い る 。訳 文 で は 、“ 有 点( 少 し )” を 使 い 、 原 文 と 同 じ よ う に 、FTA を 緩 和 し て い る 。

(16) 陽 子 は 達 郎 を 誘 う (Ps<Ph, D中 )

原 文 :「 ち ょ っ と 聞 き た い こ と が あ る ん だ け ど 軽 く 飲 ま な い 。」

訳 文 :“ 那 个 我 有 点 事 情 想 问 你 , 出 来 喝 两 杯 吗 ? ”

( ち ょ っ と 聞 き た い こ と が あ る か ら 、 飲 み に 行 き ま せ ん か )

(『 ナ オ ミ と カ ナ コ 』 第 2 話 18:53)

(17)の「 ち ょ っ と 」も 上 と 同 様 で あ る が 、中 国 語 で は「 動 詞 +“ 一 ”+ 動 詞 」 と い う 動 詞 の 重 ね 型 ( 動 作 の 量 が 少 な か っ た り 、 動 作 の 時 間 が 短 か っ た り す る こ と を 表 す 文 法 形 式 ) を 用 い て 、 行 為 の 軽 さ を 表 現 し て い る 。

(17) 取 引 先 が 理 子 に 相 談 し よ う と す る (Ps=Ph, D大 )

原 文 :「 副 店 長 今 度 出 る 新 刊 の 件 で ち ょ っ と 打 ち 合 わ せ が 。」

訳 文 :“副 店 长 这 次 新 出 的 刊 物 , 我 想 跟 您 谈 一 谈 。”

( 副 店 長 今 度 出 る 新 刊 あ な た と ち ょ っ と 打 ち 合 わ せ し た い の で す 。)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 1話 11:13)

(11)

119

以 上 の よ う に 、日 本 語 の 量 の ヘ ッ ジ「 ち ょ っ と 」は 、訳 出 さ れ な い 場 合(30例 ) と 、 程 度 副 詞 ( 例 え ば 、“一 下”な ど ) や 動 詞 の 重 ね 型 ( 例 え ば 、“谈 一 谈”“说 说”

な ど )で 訳 出 さ れ る 場 合(51 例 )が あ る 。で は そ の 違 い は ど こ に あ る の か 。文 脈 を 詳 細 に 検 討 す る と 、 訳 出 の 有 無 は FTA の 値 に あ る こ と が 分 か る 。

下 の 表 2を 見 る と 、 社 会 的 な 距 離 が 大 き く な る と 、 つ ま り 親 疎 関 係 が 疎 に 傾 く ほ ど 、「 ち ょ っ と 」が 訳 さ れ や す い 。し か し 、上 下 関 係 で 見 る と 、話 し 手 が 聞 き 手 よ り も 力 が 強 い と き の 方 が 訳 出 さ れ る 傾 向 が あ る 。 つ ま り 、 よ く 知 ら な い 相 手 だ が 、 自 分 の 方 が 下 で は な い と き に 用 い ら れ る と い う こ と に な る 。

日 本 語 で す べ て の 場 合 で 「 ち ょ っ と 」 が 使 用 さ れ て い る こ と を 考 え る と 、 日 本 語 は 中 国 語 に 比 べ て FTA の 値 が 大 き く な り が ち で 、 そ の た め 、 ヘ ッ ジ に よ っ て FTAを 緩 和 し よ う と す る 場 面 が 増 え る も の と 考 え ら れ る 。逆 に 中 国 語 は 日 本 語 よ り FTA の 値 が 小 さ く な り が ち で 、特 に 話 し 手 の 方 が 下 位 で 、親 し け れ ば ヘ ッ ジ の 出 現 頻 度 も 下 が る と 考 え ら れ る 。

D 大 D中 D 小 合 計

訳 出 さ れ る 場 合 5 (41.7%) 20 (37.0%) 5 (33.3%) 30 訳 出 さ れ な い 場 合 7 (58.3%) 34 (63.0%) 10 (66.7%) 51

合 計 12 (100.0%) 54 (100.0%) 15 (100.0%) 81

Ps>Ph Ps=Ph Ps<Ph 合 計

訳 出 さ れ る 場 合 12 (41.4%) 9 (39.1%) 9 (31.0%) 30 訳 出 さ れ な い 場 合 17 (58.6%) 14 (60.9%) 20 (69.0%) 51

合 計 29 (100.0%) 23 (100.0%) 29 (100.0%) 81

表 2 中 国 語 字 幕 における「ちょっと」訳 出 の有 無

日 本 語 で も 中 国 語 で も 、 話 し 手 と 聞 き 手 に 距 離 が あ る 場 合 、 量 の ヘ ッ ジ が 現 れ や す い の は 共 通 し て い る が 、 そ の 傾 向 は 中 国 語 で 特 に 顕 著 で あ る こ と が 分 か る 。

4.2.2 「少 し」「だけ」「ただ・単 なる」「少 々」「しばらく」など

そ の ほ か の 量 の ヘ ッ ジ に つ い て も 、 対応する訳語がない字幕から見ていくことにす る。

(18)は 、客 の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス に 配 慮 し て 、ヘ ッ ジ の「 少 し 」と「 だ け 」 を 重 ね る こ と に よ り 、負 担 を 軽 減 し て FTA を 和 ら げ て い る 。訳 文 に は そ の よ う な 量 の ヘ ッ ジ は 見 当 た ら ず 、 語 気 が 強 く な っ て し ま っ て い る 。

(18) 書 店 の ス タ ッ フ が 並 ん で い る 客 た ち に 指 示 す る (Ps<Ph, D大 )

(12)

120

原 文 : 「 ご 通 行 の 皆 さ ん の 邪 魔 に な ら な い よ う に も う 少 し だ け 壁 側 に お 願 い し ま す 。 あ り が と う ご ざ い ま す 。」

訳 文 :“ 为 了 不 妨 碍 正 常 通 行 , 请 贴 近 墙 壁 排 队 , 谢 谢 配 合。”

( 通 行 を 邪 魔 し な い よ う 、 壁 側 に 近 づ い て 並 ん で く だ さ い 。 ご 協 力 あ り が と う ご ざ い ま す 。)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 1話 39:28)

(19) は 、 ゲ ス ト に 依 頼 を す る シ ー ン で あ る 。 原 文 で は 負 担 軽 減 の ヘ ッ ジ 「 だ け 」 が 使 わ れ て い る が 、 訳 文 で は 、「 一 分 」 が 少 な い こ と が 強 調 さ れ て お ら ず 、 FTA緩 和 の 度 合 い が 低 い 。

(19) 理 子 は イ ベ ン ト の ゲ ス ト に 時 間 を も ら う こ と を 頼 む (Ps<Ph, D大 ) 原 文 :「 一 分 だ け 私 に 時 間 を く だ さ い 。 お 願 い し ま す 。」

訳 文 :“ 能 给 我 一 分 钟 吗 ? 拜 托 您 了 ”

( 私 に 一 分 を く れ ま す か ? お 願 い し ま す 。)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 1話 43:07)

そ れ に 対 し て (20) は 、 息 子 が 問 題 に ぶ つ か っ て い る こ と に 気 を 付 か な い 夫 に 対 す る 台 詞 で あ る が 、原 文 の「 少 し ぐ ら い 」が “ 稍 微 ”で 訳 さ れ て お り 、両 方 も

「 そ の 程 度 の 」 と か 「 そ れ ば っ か り の 」 と い っ た 軽 く 見 る 気 持 ち を 表 す 。 こ こ で は む し ろ 「 ぐ ら い 」 の あ る 原 文 の 方 が FTA の 度 合 い が 強 い と 言 え る 。

(20) 妻 が 花 澤 に 愚 痴 を こ ぼ す (Ps<Ph, D小 )

原 文 :「 少 し ぐ ら い あ の 子 が 何 を 考 え て る か 気 に か け た ら ど う で す か ? 」

訳 文 :“ 你 能 不 能 稍 微 关 心 一 下 他 的 真 实 想 法 啊 。”

( 彼 は 本 当 に 何 を 考 え て る か 少 し 関 心 を 持 つ こ と が で き ま せ ん か ? )

(『 お 義 父 さ ん と 呼 ば せ て 』 第 5話 13:10)

(21)は 、弟 の 失 踪 に 疑 念 を 抱 い た 姉 が 弟 の 上 司 に 質 問 を し て い る 場 面 で あ る 。 話 し 手 は 数 量 を 軽 減 す る 表 現「 一 つ 」お よ び ヘ ッ ジ の「 だ け 」を 並 べ て 、「 質 問 は 多 く な い 」 こ と を 示 唆 す る こ と で 、 依 頼 の FTA を 軽 減 し て い る 。 そ れ に 対 し て 、 訳 文 で は 、「 一 つ 」と 指 示 詞 の“ 这 ”を 組 み 合 わ せ る こ と で 、質 問 の 数 量 や 範 囲 が 制 限 さ れ て い る こ と を 表 現 し て お り 、 原 文 と 同 様 の 効 果 が 得 ら れ る 。

(13)

121

(21) 陽 子 は 弟 の 達 郎 の 上 司 に 尋 ね る (Ps<Ph, D大 ) 原 文 :「 で は 一 つ だ け 教 え て く だ さ い 。」

訳 文 :“ 那 请 您 回 答 我 这 一 个 问 题 吧 。”

( で は こ の 一 つ 質 問 を 答 え て く だ さ い +“ 吧 ”)

(『 ナ オ ミ と カ ナ コ 』 第 6 話 07:25)

(22) の ヘ ッ ジ 「 少 々 」“ 稍 ”は ど ち ら も 負 担 が 軽 い こ と を 示 唆 し て い る 。

(22) 電 話 の 相 手 に (Ps<Ph, D大 )

原 文 :「 担 当 者 に 代 わ り ま す 。 少 々 お 待 ち く だ さ い 。」

訳 文 :“ 我 马 上 为 你 转 接 负 责 人 呢 请 您 稍 等 。”

( す ぐ に 担 当 者 に 代 わ り ま す 少 々 お 待 ち く だ さ い 。)

(『 家 族 ノ カ タ チ 』 第 1 話 04:15)

(23)で は 、ヘ ッ ジ の「 た だ 」と「 だ け 」が“ 说 句 话( 一 言 )”お よ び“ 只 是( た だ 、 だ け )”で 訳 さ れ 、 原 文 と 字 幕 の ど ち ら も 同 様 に 、FTA の 度 合 い が 弱 め ら れ て い る 。

(23) 理 子 が 昔 の 恋 人 に (Ps=Ph, D大 )

原 文 :「 待 っ て な ん で 逃 げ る の ? 私 は た だ 話 が し た い だ け 。」

訳 文 :“ 为 什 么 要 跑 ? 我 只 是 想 和 你 说 句 话 。”

( な ん で 逃 げ る の ? 私 は 一 つ の 話 を し た い だ け 。)

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 2話 29:17)

(24)の「 し ば ら く 」が 表 す 時 間 は 決 し て 短 い と は 言 え な い が 、「 ず っ と で は な い 」「 一 時 的 で あ る 」と い う こ と は 含 意 さ れ て い る 。訳 文 で は“ 一 阵 子 ”が 使 用 さ れ 、 原 文 と 同 じ 意 味 を 表 し て い る 。

(24) 千 春 が 家 族 に 尋 ね る (Ps<Ph, D小 )

原 文 :「 私 し ば ら く こ っ ち に 戻 っ て き て も い い か な ? 」 訳 文 :“ 我 能 搬 回 来 住 一 阵 子 吗 ? ”

( 私 一 時 期 に 引 っ 越 し 戻 っ て こ ら れ ま す か ? )

(『 結 婚 し な い 』 第 10話 07:19)

以 上 見 て き た よ う に 、字 幕 で は 行 為 を 軽 減 す る こ と を 示 す 程 度 副 詞( 例 え ば 、“一 下”“ 稍 微 ”“ 只 是 ”な ど ) な ど に 訳 さ れ 、FTA を 緩 和 す る 場 合 (30 例 ) が 多 い 。

(14)

122

「 だ け 」 は 訳 出 さ れ な い 場 合 が 多 い (7 例 ) が 、 共 起 し て い る 「 一 分 」 や 「 ひ と つ 」 は 訳 さ れ て い る の で 、 必 ず し も FTA が 緩 和 さ れ て い な い わ け で は な い 。

4.3 様 式 の「行 動 指 針 に対 する」ヘッジ

様 式 の ヘ ッ ジ と は 、Grice (1967)の「 曖 昧 で あ っ た り 多 義 的 で あ っ た り せ ず 、明 快 で あ る こ と 」 と い う 様 式 の Maxim に 向 け ら れ た ヘ ッ ジ で あ り 、「 こ う 申 し て は 失 礼 で す が 」な ど の よ う に 、自 分 の 行 為 が FTA で あ る こ と を 認 め 、謝 罪 す る こ と に よ っ て 、フ ェ イ ス へ の 配 慮 と す る ス ト ラ テ ジ ー で あ る 。日 本 語 の 台 詞 で は 、「 は っ き り お 聞 き し ま す が 」「 差 し 出 が ま し い よ う で す が 」 な ど 11 例 見 つ か っ た 。 そ の う ち 、 ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス に 向 け ら れ る ヘ ッ ジ は 7例 で あ っ た 。 以 下 、 日 本 語 の 台 詞 に お け る 見 ら れ る 様 式 の 「 ヘ ッ ジ が 中 国 語 の 字 幕 に お い て ど の よ う に 扱 わ れ て い る か に つ い て 考 察 す る 。

(25)で は 、 話 し 手 が 聞 き 手 の プ ラ イ バ シ ー に つ い て 尋 ね る 場 面 で あ る 。 原 文 で は 、 聞 き 手 の プ ラ イ バ シ ー に 踏 み 込 む こ と を 認 め 、 ヘ ッ ジ の 「 は っ き り お 聞 き し ま す が 」で FTA を 予 告 す る こ と で 、聞 き 手 の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス へ の 配 慮 と し て い る 。 訳 文 で も 、 ヘ ッ ジ が そ の ま ま 訳 出 さ れ て い る 。

(25) 亜 紀 は 理 子 に 詰 問 す る (Ps<Ph, D 大 )

原 文:「 は っ き り お 聞 き し ま す が 理 子 さ ん は 柴 田 さ ん と 付 き 合 っ て い た ん で す か ? 」

訳 文 :“ 我 直 截 了 当 地 问 你 吧 , 理 子 姐 和 柴 田 先 生 交 往 过 吗 ? ”

( は っ き り あ な た に 聞 き ま す +“ 吧 ”、 理 子 さ ん は 柴 田 さ ん と 付 き 合 っ て い た ん で す か ? )

(『 戦 う ! 書 店 ガ ー ル 』 第 3話 09:16)

(26) で も 、 話 し 手 が ヘ ッ ジ の 「 差 し 出 が ま し い よ う で す が 」 で プ ラ イ バ シ ー の 侵 害 を 予 告 す る こ と で 、 聞 き 手 の ネ ガ テ ィ ブ ・ フ ェ イ ス に 配 慮 し て い る 。 訳 文 で は 、 “ 多 言( 余 計 な 言 葉 )”と 、許 し を 求 め る 表 現“ 恕 我 ”で 訳 出 さ れ て い る 。

(26) 春 子 は 客 の こ と に つ い て 推 量 す る (Ps<Ph, D大 )

原 文 :「 あ の う 差 し 出 が ま し い よ う で す が も し か し て 花 束 を 持 つ の が 恥 ず か し い と か ? 」

訳 文 :“ 那 个 恕 我 多 言 , 难 道 您 是 觉 得 拿 着 花 不 好 意 思 吗 ? ”

( あ の う 余 計 な 言 葉 を お 許 し く だ さ い 。 も し か し て 花 束 を 持 つ の が 恥 ず か し い で す か ? )

(『 結 婚 し な い 』 第 4話 14:42)

(15)

123

以上のように、様式のヘッジは、ほとんどそのまま中国語の字幕に訳出されている。

5.まとめ

本論文では、日本のドラマに見られたNPSに向けられるヘッジ表現と、その対応する中 国語字幕を分析することによって、ヘッジの翻訳の特徴を考察した。以下、表とともにま とめる。

まず、NPS に向けられるヘッジはドラマでも頻繫に用いられ、特に量の「行動指針に対 する」ヘッジの「ちょっと」を含む文が多い。

また、日 本 語 の ヘ ッ ジ の 翻 訳 に は 、語 気 を 和 ら げ る 語 気 助 詞(“ 吧 ”“ 呢 ”な ど )、

動 作 の 量 が 少 な か っ た り 、 動 作 の 時 間 が 短 か っ た り す る こ と を 表 す 動 詞 の 重 ね 型 や 程 度 副 詞 (“ 一 下 ”“ 一 会 儿 ”“ 谈 一 谈 ”) を 使 用 す る の が 普 通 で あ る 。

日本語のNPSに向けられるヘッジを、「ちょっと」と「と思う」を除いて、ほとんど中国 語に訳出されている。中 国 語 の 字 幕 で は 、 ヘ ッ ジ の 訳 出 は デ ー タ ベ ー ス 全 体 の 6 割 程 度 し か な い 。

さらに、訳 出 さ れ な か っ た ヘ ッ ジ と し て は 、「 と 思 う 」と「 ち ょ っ と 」が 目 立 つ 。 こ ら れ は 相 手 の ネ ガ テ ィ ブ・フ ェ イ ス と ポ ジ テ ィ ブ・フ ェ イ ス の 両 方 に 対 す る FTA の 場 合 や 、FTA が 大 き い 場 合 に は 、 訳 さ れ る こ と が 少 な く な い 。 逆 に 言 え ば 、 そ う で な い と き に は 訳 出 さ れ な い こ と が 多 い の で あ る 。 ヘ ッ ジ の 出 現 回 数 が 日 本 語 よ り も 少 な い と い う こ と は 、中 国 語 は 日 本 語 よ り も FTAを 低 め に 計 算 す る こ と を 示 唆 し て い る 。

本稿では、ポライトネスの観点に基づいて、ファンサブの中国語字幕に見られる特徴の ごく一部を明らかにした。NPS に向けられるヘッジの翻訳特徴は、日本と中国社会におけ るFTA の重さの計算の相違に従っていると考えられているが、この点は今後より明確に検 証していきたい。

(16)

124

ヘ ッ ジ 表 現 訳 出 数 非 訳 出 数 合 計

1

合 計

2

質 の 「 行 動 指 針 を す る 」 ヘ ッ ジ

「 と 思 う 」

15 13 28

「 と か 」

1 7 8 36

量 の「行 動 指 針 を する」ヘッジ

「 ち ょ っ と 」

51 30 81

120

「 一 つ だ け 」 な ど

5 7 12

「 単 な る ・ た だ 」

10 0 10

「 少 々 」

4 0 4

「 し ば ら く 」

4 0 4

「 少 し 」

7 2 9

様 式 の 「 行 動 指 針 を す る 」 ヘ ッ ジ

「 は っ き り お 聞 き

し ま す が 」 な ど

7 0 7 7

合 計

104 59 163 163

割 合

63.80% 36.20% 100.00

%

100.00

%

表 3 中 国 語 の 字 幕 に お け る ヘ ッ ジ の 翻 訳 表 現

...

【 筆 者 紹 介 】

袁 青(エン セイ/YUAN Qing)。東北大学国際文化研究科国際文化交流専攻言語コミュニケー ション論講座博士後期課程在学中。(イン)ポライトネスの視点を中心に、日本のドラマにおけ る中国語字幕の翻訳戦略研究に取り込んでいる。連絡先:[email protected]

...

【 註 】

1. DVD版『ナオミとカナコ』(フジテレビジョン、2016、収録時間は会計558分)

2. DVD版『お義父さんと呼ばせて』(関西テレビ放送、2016、収録時間は会計423分)

3. DVD版『戦う!書店ガール』(関西テレビ放送、2015、収録時間は会計415分)

4. DVD版『結婚しない』(フジテレビジョン、2013、収録時間は会計516分)

5. DVD版『家族ノカタチ』(TBS、2016、収録時間は会計492分)

【参考文献】

Brown, P and Levinson, S. (1987) Politeness. Some Universals in Language Usage, Cambridge:

Cambridge University Press.

Grice, H. P. (1967). Logic and conversation. Unpublished MS, from the William James Lectures 1967.

岡 本 佐 智 子 ・ 斎 藤 シ ゲ ミ (2004)「 日 本 語 副 詞 「 ち ょ っ と 」 に お け る 多 義 性 と 機 能 」

(17)

125

『 北 海 道 文 教 大 学 論 集 』5:65-76.

木 村 英 樹 (1987)「 依 頼 表 現 の 日 中 対 照 」『 日 本 語 学 』10:58-66.

辻 大 介 (1999)「「 と か 」 弁 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 心 理 」『 第 3 回 社 会 言 語 科 学 会 研 究 大 会 予 稿 集 』19-24.

横 田 淳 子 (1998)「「 ~ と 思 う 」 お よ び そ の 引 用 節 内 の 動 詞 の 主 体 に つ い て 」『 東 京 外 国 語 大 学 留 学 生 日 本 語 教 育 セ ン タ ー 論 集 』24:101-117.

劉 暁 傑(2011)「 ぼ か し 表 現「 と か 」に つ い て の 考 察 」『 相 愛 大 学 人 文 科 学 研 究 所 年 報 』 5:48-35.

(18)

126

参照

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評価方法

国    語

Uehara (2012) “A contrastive case study of pronominal forms in English, Japanese and Thai: A parallel corpus approach” in Miyamoto, Ono,

[r]

フランス語の“Il a bu dans un

[r]

36.放送法第 52 条の 28 の規定により適用される同法第 6 条の 2 参照。. 37.インターネット接続サービスを提供しているケーブルテレビ事