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中国人学習者の漢字語彙使用に 見られる問題点

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(1)

1.はじめに

従来の中国人学習者を対象とした漢字教育に関する研究は表記や音韻に焦点を当てたも のが多い。しかし、筆者が中国で教育にあたった際に見た中国人学習者の日本語文には、

表記や音韻のみならず、意味・用法にも問題を持つものも多く見られた。

漢字には表意性があるため、認知の段階では理解の大きな助けとなるであろう。しかし 運用の段階では、品詞性や造語法、意味、ニュアンス上のズレから、文としてみると不適 切な表現となる可能性がある。したがって、中国人学習者を対象とした漢字教育の中で、

日本語と中国語の間にある漢字語彙の意味・用法のズレは、重要な指導項目の一つである と言えよう。

本稿では、今まであまり指摘されてこなかった漢字語彙の意味・用法の問題に関して、

現状における問題の所在を明らかにするために、中国人学習者による漢字語彙使用の誤用 分析を行う。そしてその成果を、今後の漢字教育のための基礎研究としたい。

2.調査対象と分析方法

〔調査対象〕

誤用を含むセンテンス1028例を以下の通り採集した。誤用例提供者の学習歴に開きが あるが、本調査の目的は誤用の可能性を明らかにすることであり、習得過程を探るための ものではないため学習歴は問わないこととする。

天津科技大学国際学院(学習歴3か月〜3年) 2001年9月〜2004年7月 830例:週に一度、主教材で学習した内容に沿ったテーマで作文したものより 天津師範大学日本語専業(学習歴2年〜3年) 2003年9月〜2004年7月

34例:卒業前に「大学4年間を振り返って」というテーマで作文したものより 杏林大学日本語別科(学習歴半年〜2年)   2004年4月〜12月

164例:テーマに沿ったプレタスクを行い作文したものより

見られる問題点

河住 有希子

キーワード

中国人学習者・漢字・語彙・日中同形異義語・母語の干渉

(2)

〔分析方法〕

本稿では三喜田(1986)を参考に作成した下記の分類に従って誤用の傾向を明らかにす る。三喜田の分析基準は「の」の使い方、な形容詞語幹とサ変動詞を中心とした品詞の使 い方、名詞と動詞の共起の問題を中心に7タイプ11項目に分類したものである。本稿の 分析基準はそれに、誤用調査から助数詞・接辞・省略方法・語種の問題などいくつかの分 析項目を加え再分類して作成した。なお誤用を分類するにあたって、一文に複数の誤用が ある場合はそれぞれ別に取り上げ、「日本語の 能力 が 上手 です」のように複数の漢字語 彙が関係する誤用の場合は述語にあたる部分を見出し語とした。

【誤用分析の枠組み】

3 漢字語彙使用の問題点

3−1 1類:文法に関わる問題を含むもの

1類A  複合語の語構成に問題を含むもの 74例/1028例

1類Aには複合語に問題を含むものを分類した。誤用例を見ると、「*公共場所」「公共 の場所」のように、「の」で接続すべきところでそれを省略した例が多い。中国語におい

1類:文法に関わる問題を含むもの(選択した語彙は正しいが文法的用法が正しくないもの)

  1類A −複合語の語構成に問題を含むもの   1類B −品詞の選択に問題を含むもの

  1類C −文法的共起関係において問題を含むもの

  1類D −派生語において問題を含むもの、助数詞の問題を含むもの   1類E −省略形式に問題を含むもの

2類:文体に関わる問題を含むもの(誤用とは言いきれないが、文体的に違和感を与えるもの)

  2類A −美化語に問題を含むもの   2類B −外来語を使用したほうがよいもの

  2類C −漢語から和語に(もしくは和語から漢語に)変えたほうがよいもの   2類D −類義の別の語に言い換えたほうがよいもの

3類:意味に関わる問題を含むもの(選択した語彙が正しくないもの)

  3類A −意味的共起関係において問題を含むもの     3−A−1 意味的または文体的に共起しないもの

    3−A−2 意味が重複しているもの、語が欠落しているもの   3類B −日中同形異義語の問題を含むもの

    3−B−1 全く違う意味となるもの

    3−B−2 類義の正しくない語彙を使用したもの

4類:中国語語彙をそのまま使用したもの(日本語に存在しない語を使用したもの)

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

公共場所 政府はよく公共場所の安全施設を検査していま

す。合格できない会社は営業できない。 公共の場所 日本人先生 日本人先生と相談すると日本語を上手になりま

す。 日本人の先生、日本人教師

△「先生」は複合語をつくりにくい 努力勉強 わたしは日本が行きたいですから、私は日本語

が努力勉強します。 一生懸命勉強します

(3)

て名詞と名詞を接続する機能をもつ「的」と日本語の「の」を同一のものと考えたために 発生した誤用であろう。複合語の問題には構成要素間の関係が強く影響している。たとえ ば「*安全知識」と「安全に関する知識」について考えてみると、「知識」を構成要素と する複合語には「基礎知識」「豆知識」などがある。これらは自然な日本語であるが「*

安全知識」は不自然であろう。そこでそれぞれの構成要素間の意味関係を見ると、「基礎:

知識」「豆:知識」は「知識」と「量、程度」を組み合わせたものである。そして「*安全:

知識」は「知識」と「内容」を組み合わせたものである。「知識」と「内容」の組み合わ せで他の例を挙げるなら「*数学知識」「*歴史知識」「*日本知識」などが考えられるが、

これらはどれも不自然な表現である。したがって、複合語を構成する際には構成要素間の 関係に注意する必要があることがわかる。

さらに「*日本人先生」と「日本人の先生/日本人教師」の「先生」のように、複合語 を作りにくい熟語を複合語の構成要素として用いたために生じる問題もある。この場合は

「の」を用いて名詞+名詞の形に直すか、もしくは「教師」など、複合語の構成要素とし て適切な別の語に置きかえる必要があるだろう。複合語の構成要素としての適切さへの注 意も必要である。

そして、「*努力勉強」と「一生懸命勉強する」のように、構成要素となる語が持つ作 用の違いによって生じる問題もある。中国語の「努力勉強」における「努力」は連用修飾 の作用を持つ語であるが、日本語の「努力」はその作用を持たない。したがってこの場合 は、中国語の「努力」がここで表す内容である「一生懸命」という語を用いて「一生懸命 勉強する」という表現をとった方が適切であろう。

中国語漢字語彙の複合語における規則と、日本語における規則は必ずしも一致するもの ではない。したがって、それぞれの漢字語彙がどのような規則を持って複合語を形成して いるかを常に意識し、確認していかなければならない。

1類B  品詞の選択に問題を含むもの 113例/1028例

1類Bには、ある概念を表現する際に、選択した語彙は正しいが違う品詞で使用したも のを分類した。中国語の語彙は、一つの語形がいくつもの品詞性を備えているという点で 日本語の語彙と異なっている。例えば日本語の「発達」は、動詞性を備えてはいるが「発 達」の形では名詞としてしか働かない。したがって文中で動詞として用いる場合には「す る」をつけて「発達する」に語形を変える必要がある。しかし中国語では「発達」という 1つの語形が形容詞・動詞の役割を果たすため、文中の役割によって語形を変える必要は

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

関心 みんな友達になったから、互いに助けて関心すべき

だ。 関心する(動詞)→関心を持つ(名詞)

快適 もし私はストレスをしていたら、いくら晴れていて

も快適を感じられない。 快適(な形語幹)→快適さ(名詞)

発達 日本はせまいです。でもとても発達です。 発達(名詞)→発達した(動詞)

 :発達しています 最後 最後、屈原が国難の時、暗愚な君主を勧告するため

に川にとびこむことにした。 最後(名)→最後に(副)

(4)

ない。そのため中国語語彙をそのまま使用すると、日本語としては品詞の誤用となること が少なくない。本調査に見られた品詞の誤りの例は以下の通りである。

ⅰ:名詞を用いるところに動詞(11例)/な形容詞(12例)/副詞(3例)を用いた

ⅱ:動詞を用いるところに名詞(46例)/な形容詞(8例)を用いた

ⅲ: な形容詞を用いるところに名詞(5例)/動詞(7例)/い形容詞(1例)を用いた

ⅳ:副詞を用いるところに名詞(16例)/動詞(1例)/な形容詞(3例)を用いた 誤用例の中では、動詞を用いるところに名詞を用いたものが多く、特に「緊張」「不便」

「発達」「不足」を名詞として用い、「緊張があります」などとした例が多く見られた。漢 字語彙を述語として用いる際には、「する」をつけて動詞化するのか、その他の品詞とし て用いるのかをよく検討する必要があると言えるだろう。さらに述語が状態を表す場合に は「〜ている」の形に直す必要もあるため、その点への注意も必要である。

次に多かったのは、副詞を用いるところに名詞を用いた例である。ここで出現頻度が高 かったのは「最後に」「特に」を「最後」「特別」という名詞で代用した例で、多くは文頭 に用いられていた。この「特別」「最後」を副詞に変える場合、「特に」「ついに」のよう に語種を変えることもあるが、この二つに「一般」を加えた三つの副詞的な語が、中国語 そのまま(日本語においては名詞用法に見える)の形で用いられる誤用の頻度が高く、限 定的な誤用であるためここに分類した。

他には名詞を用いるところに、な形容詞を用いた例も多く見られた。「快適を感じられ ない」のように、な形容詞の語幹を名詞的に用いているが、実際には接尾辞「さ」をつけ て名詞化し「快適さ」とすべき類の誤用例である。な形容詞の語幹は「元気がない」のよ うにそのまま名詞として使用できる場合もあるが、上記の例をはじめ、多くの場合は接尾 辞「さ」を伴って名詞として用いられるため注意が必要である。さらに名詞を用いるとこ ろに、動詞を用いた例も見られた。ここでは「関心を持つ」とすべきところを「関心する」

とした例が多かったが、日本語の「関心」は動詞性を持たないため誤用である。

この他のものは用例が少なく、な形容詞をい形容詞で代用した例、副詞を動詞で代用し た例などは、それぞれ用例が1例と、偶発的に発生した誤用である可能性もあるが、これ だけのバリエーションを持って品詞の取り違いが起きているという点を明らかにしたこと は、品詞性への注意の喚起に役立つものであると考える。

1類C  文法的共起関係において問題を含むもの 15例/1028例

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

見学 日曜日は清華大学に見学しました に見学する(自動)→を見学する(他動)

構成 多くの時にある町のさわやかな夜景はいろいろで

きらびやかで美しい広告で構成しています。 構成する(能動)→構成される(受動)

充実 卓球をして、テニスをして、パスケットボールを

しています。生活は充実になっているのです。 充実になっている→充実している 憂鬱 夜寮は電気を消したから憂鬱して、試験はパスし

ないから憂鬱して、失恋して憂鬱する。 憂鬱する→憂鬱になる

(5)

この1類Cに分類される問題も、1類Bと同様に、中国語と日本語の言語構造の違いに よって引き起こされる文法的な問題であると言えよう。1類Bでは品詞性を論点としたが、

ここでは動詞性漢字語彙の用法が論点となる。

一つめに自動詞と他動詞の取り違いが挙げられる。「日曜日は清華大学に見学しました」

がその例にあたり、正しくは「清華大学を見学しました(他動詞)」となる。これらは助 詞の問題として捉えることもできるが、動詞性漢字語彙の一つ一つの根源的な機能を理解 し、文中でどのような役割を持つかを考えれば必然的に適切な助詞が選択できるはずであ る。中国語の動詞には形式上の自他の区別がないため、意識化の必要な項目であろう。

二つめには、「〜なる」と「〜する」の問題が挙げられる。「1949年から中国が発達に なりました。」がその例にあたり、「発達しました(してきました)」とするところを 名 詞+になる の形で動詞として使用している。たしかに形の上では動詞となっているが、

「〜なる」には人為的ではなく自然に何かの形が発生するニュアンスが込められ、「〜する」

には自分の意志である動作、行為を行うといったニュアンスが込められる。そのため、上 記の例においては「〜になる」の表現を用いると、意味の上で不自然な印象を与えてしま う。したがって日本語文中にこの種類の漢字語彙を使用する際には、どちらを使用するべ きか、文全体の意味内容と各語間の関係をよく検討したうえで判断しなければならない。

三つめには、能動態と受動態の取り違いが挙げられる。「毎日何百人が感染されていま す。」などがその例にあたり、正しくは「毎日数百人が感染しています(能動態)」となる。

述語が能動態をとるか受動態をとるかは、その文の主語と述語の文中における関係に支配 される。したがって自動詞・他動詞の問題と同様、日本語文の構成に関する文法的な知識 を問うものであり、漢字語彙の意味内容に直接的に支配されるものではない。しかし、漢 字語彙を述語として用いる際には、主語との関係を意識して能動態を用いるか受動態を用 いるかを選択する必要もあることは明らかであるため、その点に注意を向けるよう示唆す る目的を込めてこの項目を三つめとして取り上げた。

1類D 派生語において問題を含むもの、助数詞の問題を含むもの 83例/1028例

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

個 私は夢がたくさんあります。でも今 私は网站を一個作り

たいです。 インターネットサイトを数える

助数詞は「つ」など 感動 <幻城>は友情や愛情について。心を打つ物語り、感動な

話、ずばぬけている会話やすてきな修辞でいっぱいだ。 「的」を補ってな形容詞化する

:感動的な話 的 今の私は高中時代の私と完全的に同じ人ではないらしい。 「的」は不要 家 子供のころ私は中国の古い文化が好きでしたから、私の将

来の夢は考古学家になりたいです。 「家」→「者」

考古学者 不 古代では、医学の技術が不発達だから、だれかが病気とな

ると、死亡率が高かった。 「不」→「未」

未発達 不 自然は人間が生活するために、食品と土地をあげました

が、人間は今の様子に不満足するので、地球の資源を取り すぎます。

「不」→動詞の否定形 満足しない(できない)

毎 私たちは毎人毎日にもたくさんの人と交流しています。 毎……それぞれの

×毎人、毎家、毎日曜日、毎夕方

(6)

1類Dには、接頭辞・接尾辞などを伴う派生語や助数詞の使用に問題を含むものを分類 した。本調査において、接頭辞では「大」「全」「毎」「不」、接尾辞では「家」「員」「者」「後」

「的」「化」「法」「上」「中」、助数詞では「位」「座」「回」「個」に誤用が見られた。これ らの日本語と中国語における異同には特に注意が必要であろう。

中でも誤用数が多かったものは「毎」である。「毎」には結びつくものと結びつかない ものがあり、中国政府が作成した高等教育機関の初級日本語シラバスである『教学大綱』

(2001)には{毎朝、毎週、毎月、毎年、毎晩}が収録されている。それに対して誤用例 に「毎人」「毎家」などの語が見られたのは、学習者が「毎」の規則を過剰一般化して、

中国語的に用いたためであろう。

「不」は「未」に置き換えるべきものと語彙全体を否定形に変えるべきものがあるが、「不 自由する」などいくつかの例外を除くと、日本語において「不○○する」という合成語は 形成されにくいことへの注意が必要であろう。

接尾語「家」「員」「者」の日本語と中国語の異同による誤用例も多く見られた。それぞ れの対応は三喜田(2000)が詳しいためここでは省略する。「的」の誤用も多く、「的」を 補う必要がある誤用も見られたがほとんどは「的」の過剰使用であった。日本語において 名詞やサ変動詞は「的」を伴うことができるが、な形容詞は原則として「的」を伴わない。

それに対して中国語では、形容詞も「的」を伴って名詞を修飾するため「的」の過剰使用 が起こると考えられる。『教学大綱』(2001)に収録されている「的」を伴う語彙は〈圧倒 的、具体的、合理的、消極的、積極的、全面的、知的、抽象的、典型的、比較的、論理的〉

の11語で決して多くはない。したがって「的」を用いる際にも、それが適切であるかど うかの判断が必要である。

「上」「中」などは、方位詞としての機能だけでなく分野・方面・範囲も表現するが、日 本語と中国語では組み合わせることのできる名詞に違いがあることを知っておかなければ ならない。

助数詞については、中国語の助数詞と日本語の助数詞の取り違えの問題と、過剰使用の 問題が見られた。日本語では数量が「1」の場合、特別にその「1」について述べる必要が ない限りは省略されることが多い。しかし中国語では数量を表す表現が厳密に要求される ため、その影響を受けて助数詞を伴う語の過剰使用が起こるものと思われる。この点も日 中漢字の違いに対する意識化が必要な項目であろう。

1類E  省略形式に問題を含むもの 6例/1028例

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

栄養品 例ば、わたしたちは毎日食べている食料品や栄養品な

どです。栄養品が科学技術的な性質が強いです。 「栄養品」−「栄養食品」

会社長 それから私は歌手や会社長などになりたかったです。 「会社長」−「社長」

科技 中国の留学生もいろいろな国にあります。彼たちはそ

こその文化と科技を習らっています。 「科技」−「科学技術」

競技大会 でも2008年北京はオリンピック競技大会を開きます

から、交通は便利になります。 「オリンピック競技大会」−「オ リンピック、オリンピック競技 会」

(7)

1類Eには、省略しすぎているもの、省略が必要なものを分類した。ここに分類される 誤用は、日本語と中国語の間で省略の方法に違いがあり、中国語の方法に従って漢字語彙 を使用した結果が誤用となったものが多い。日本語では文章表現で字数に制限がある場 合などによく省略が用いられるが、中国語では日常語にも多くの省略形式が用いられてい る。日本語と中国語の省略形式の違いについては三喜田(2000)で多くの具体例と共に整 理されているためここでは詳細には触れないが、中国人学習者が漢字語彙の省略形を用い る場合には、それが日本語として認識されるものであるかを考える必要がある。

3−2 2類:文体に関わる問題を含むもの

2類A  美化語に問題を含むもの 7例/1028例

2類Aには、美化語に関わる問題を分類した。誤用例は合計7例で「茶」「医者」の誤 用が各2例あった。ここには2通りの誤用が見られ、1つは「質問」「茶」「年玉」など、

事物に美化の接頭辞をつけたグループで、もう1つは「医者」「夫婦」などの人物を美化 したグループである。

美化語は文体や内容に応じて適宜使用するものであり過剰使用することは好ましくない が、美化語の形で既に日本語として定着しているものもある。『教学大綱』(2001)では{お 陰、お辞儀、お世辞、お茶、お腹、お前、ご馳走、ご飯}が美化語の形で収録されており、

少なくとも、これらの語彙については、美化の接頭辞がつく可能性が高いことを意識して おく必要があるであろう。これらの他にも、「お菓子」「お風呂」「お尻」など、美化語の 表現が日本語として定着しているものも多いため、その都度注意が必要である。

2つめの人物につける接頭辞では、『教学大綱』内に{お母さん、お祖父さん、お嬢さん、

お父さん、お祖母さん}が収録されていた。美化の接頭辞の有無や正確さは、意味理解に 直接影響を及ぼすものではないが、文体的特徴からみると印象を大きく左右するものであ る。したがって、日本語表現を行うにあたって、まず美化語を使用するか否か、そして使 用する場合にはどの接辞を付加するかを考えなければならない。

小学校生 例えば小学校生は夜10時に寝ます。 「小学校生」−「小学生」

電器 人々はおおくていい電器を使えます。 「電器」−「電器製品」

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

医者 その患者は「あの医者さんはとてもうかつですよ。」と言っ

た。 お医者さん、または医者

質問 お質問に直接ことわるはずがないけど、それを回避して答え

る。 この場合は美化語不要

美化語をつける場合は「ご」

茶 午後2時ごろ、近所の喫茶店で茶を飲んでいました お茶 年玉 子供達は結婚した長輩から「利是」(年玉にあたる)をもら

えるから大変喜ばれる。 お年玉

夫婦 ある夏、お夫婦さんが船に乗って旅行に行った。 この場合は美化語不要 美化語をつける場合は「ご」

(8)

2類B  外来語を使用したほうがよいもの 23例/1028例

2類Bには、表現された漢字語彙が日本語内に存在し、意味の上では適切な語が用いら れているが、文体としては外来語を使用した方が良いものを分類した。誤用例を見てみる と、上記の5例のうち、『教学大綱』(2001)に収録されているものは「ベッド」のみであっ た。しかしながら、「商人」「素描」などの表現は古めかしく、「背嚢」という言葉から思 い浮かべるものは、デイパックのようなカバンとは違うものであろう。これらのことから、

外来語の使用例などを参照し、どのような表現が適切かを考える習慣をつける必要がある ことがわかる。備考欄の外来語は必ずしも学習者が意図したものと一致するとは限らない が、書き換えの例として挙げた。

ITの発達や環境問題の顕在化などにより近年多くの外来語が日本語に採り入れられて きた。今後、海外との交流が更に活発になると、漢字語彙を使用するよりも外来語を使用 した方が自然でわかりやすい語が増える可能性も十分に考えられるため、状況に応じた語 彙の使用を心がける必要があると言えよう。

2類C 漢語から和語に(和語から漢語に)変えたほうがよいもの 54例/1028例

2類Cには別の語種を用いたほうがよいもの及び、二つの語に分解したほうがよいと思 われるものを分類した。同義の違う語種を用いて、表現力を和らげる(もしくは強める)

という点で、2類のB・C・Dは、ほぼ同類の問題といえる。

誤用例を見ると、いずれも文体としては文章的で重々しい印象を受け、日常的なことを 話題としたこれらのセンテンスの中では、やはり和語の方がふさわしい場合が多い。そこ で言い換えの方法を検討したところいくつかのパターンが見られた。

漢字語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

商人 (SARS予防で酢や塩の価格が急騰し)多くの商人は、たちまち百万長

者になりました。 ビジネスマン

素描 復試験の内容はとても多く難しい。英語とか、素描とか、姉はまっす

ぐ頑張いるそうです スケッチ

背嚢 皆 懐中電灯を持って、背嚢を背負って歩き始めました。 リュック

病毒 SARSは新しい病毒です。 ウィルス

床 机の下で身を置いたり、部屋の門の後ろに身を置いたり、床の下で身

を置きました。 ベッド

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

出現 友達とスーパーマーケットでいろいろな種類の品物を選ん でいる時、突然一固体は私の前に出現しました。また彼が でした。

漢語動詞を和語動詞にする  :現れました

古国 中国は一つの文明な古国である。 漢語名詞の構成要素を分解する  :古い国

才知 人間は北京と言うと中国と思います。中国の古い都市で、

代代の人間は才知でいろいろな偉建物を建てます。 漢語名詞の構成要素を分解する  :才能と知恵

病 SARSはいちばん危険な病です。 和語名詞を漢語名詞にする  :病気

(9)

ⅰ「出現」など、類義の漢字によって構成された漢語語彙を、和語語彙に言い換える

ⅱ「才知」など別の意味を持つ漢字を並立させた漢語語彙を、要素ごとに分解する

ⅲ「古国」「食品」など、語彙内に修飾関係のある漢語語彙を、要素ごとに分解する

ⅳ「病」のような和語語彙を、漢語語彙に言い換える

既に述べた外来語と、ここで取り上げた和語・漢語については、どれも完全な誤用とは 言えないが、文体的に見ると不自然で別の語種に言い換えることが望ましいものである。

和語と漢語の問題は誤用例の数が多い。そのため、語の単位だけでなく句や文、文章の単 位で見てどの語種を使用するのが適切かについて注意を払う必要があると言える。

2類D  類義の別の語に言い換えたほうがよいもの 117例/1028例

2類Dには、類義の他の語に置き換えた方が良いものを分類した。ここに取り上げた語 彙は、そのままでも意味理解が可能であり日本語としても成立しているが、類義の別の語 に置き換えた方がより適切に意図した内容を表現できるというタイプの誤用である。誤用 例は117例にのぼり、意味理解に大きな影響を与えることはないとはいえ、無視してはい けない項目であろう。

これらの誤用例の中には、文体として古めかしさや重々しさを感じさせるものと、意味 領域のズレが違和感を与えるものがあり、日中同形異義語の意味のズレや、日本語の類義 語間における意味的な差異を理解していないことが原因であると予想される。例えば「同 学」という語は『広辞苑(第5版)』(1998)では「同じ学校または同じ師について学ぶこ と」と解説されており、「同級生」「クラスメート」と同義の語であることは理解できるが、

現在の日本語においては一般的ではなく、『教学大綱』(2001)にも『日本語能力試験出題 基準』(2004)にも収録されていない。

ここに分類されたものも2類B,Cと同様に完全な誤用とは言えず、日常的な日本語 使用や教室での学習においては気づきににくい項目である。しかしそれぞれの語彙が持つ ニュアンスや場面性などへの注意の意識を持つことは大切であろう。

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

愛好 わたしは活発な女学生だから愛好がたくさんあ

ります。 「愛好」が文章的または古い印象を与える

 :趣味 恋人 例えば、結婚式のお礼の中には、特別に、田舎

で結婚すると、恋人二人の親しい友達とか、家 族を招ねて、いっしょに食物を食べます。

状況によって呼称が変わる

 :結婚後であるため「新郎新婦」が適切 同学 インターネットコーヒーで私の同学もいまし

た。 「同学」が文章的または古い印象を与える

 :クラスメート 人間 地球は生物がいって以来、ずっと自然の力に次

第ですが、人間ができたばかりの時に、自然の 一部分として、人間はほかの生物と一緒に生活 しています。

「人間」「人類」に意味のずれがある 人間: (社会的存在として人格を中心に考

えた)ヒト

人類:生物学上のサル目ヒト科の動物 連絡 去年中国はWTOに加入しました。中国と世界

は緊密に連絡しました。 連絡(中)

→日: 連絡する、つながりをつける

○ここでは、つながりを持ちました

(10)

3−3 3類:意味に関わる問題を含むもの 3類A 意味的共起関係において問題を含むもの

3−A−1 意味的または文体的に共起しないもの 61例/1028例

3類Aに分類されるものの一つとして、ある名詞が要求する動詞が日中で異なるために 発生する誤用が挙げられる。「*目標を完成する」「*宿題を書く」などがその例であり、

中国語では「完成目標」「写(書く)作業(宿題)」で表現されている。慣用句ほどの強い 結びつきではないが、「目標―達成する」「宿題―する」「成績―良い/悪い」など、語と 語の間の関係にある程度の制約を持つ語は多い。したがって、語彙を習得する中で、ある 語がどのような語と結びつきやすいかについても意識的に学習することが必要であろう。

この他には、主語と述語の共起関係に誤りがあるものもここに分類した。「*みんな機 械のように運行しています」の例では、「機械」はあくまでも比喩であり、この一文の主 語は人であるため、述語に「運行」を用いるのは適切ではない。また「*私は今学生時代 ですが……」も同様に、主語が「私は」であるため述語は「学生時代です」と続けるので はなく、身分を表す「学生です」を用いるべきである。これらは各語の意味的な問題にと どまらず文の構成にも関わるため、文全体を広く見て検討した上での語彙の選択が必要で あろう。

3−A−2 意味が重複しているもの、語が欠落しているもの 49例/1028例

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

目標 彼は自分の目標を完成するために、コツコツ頑張り

ました。 目標−達成する

×目標を完成する 運行 現代社会に生活している私たちは、毎人も機械のよ

うに運行しています。 人 −働く

×みんな(毎人)運行しています 学生時代 私は今学生時代ですが、学生にとして一番忘れない

失敗が一つありました。 私 −学生です

×私は学生時代です 宿題 テレビを見ないうちに宿題を書きます 宿題−する

×宿題を書く 上手 とうとう皆の努力で、縄跳びのレベルは上手になり

ました。 レベル−上がる、高くなる

×レベル・能力・技術……が上手

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

間食 昼間に私たちはテレビを見てスーパーへ行って、間食を食べま

した。 「間食」「食べる」の重複

関心 まず、先生の関心でどうもありがとうございます。 関心−もつ

○関心をもってくださって 気温 とくに、夏は暑さの気温がない。 「気温」は不要

数量 人口の数量は激しく増えた。 「数量」は不要

非常 毎日、世界各地のことをテレビとかラジオとかインタネットな どで、非常なスピードで、人人の前に伝えられて、普通であっ た。

非常に−早い

同士 1日に働いたあとに、同僚同士といっしょに酒を飲んで、仕事

の緊張を取り除き、社会の圧力を緩和します。 「同士」は不要

(11)

ここには一つめに「間食」を「食べる」のように述語と目的語の間で意味が重複してい るもの、「暑さ」の「気温」のように修飾語と被修飾語の間で意味が重複しているもの、「同 僚」「同士」のように複合語の構成要素間で意味が重複しているものなどを分類した。も う一つは「関心→関心をもつ」のように述語が欠落したもの、「非常な→非常に早い」の ように被修飾の部分が欠落したものなどである。これらに対しては3類A−1と同様に意 味的共起関係の視点からの検討が必要である。

3類B −日中同形異義語の問題を含むもの

3−B−1 全く違う意味となるもの 73例/1028例

3類Bは、中国人学習者対象の漢字使用の研究としては比較的活発に議論されている 日中同形異義語 の問題で、ここに取り上げたのは、日本語と中国語で形は同じだが意 味が全く違う語彙の誤用例である。

誤用例リストにあるものはいずれも出現頻度が2回以上のもので、特に「圧力」(10例)

「水平」(5例)は頻度が高く、多くの学習者に発生している誤用の例である。さらに、そ れらに対応する「ストレス・プレッシャー」「レベル」といった言葉は『教学大綱』(2001)

に収録されておらず、学習者の立場に立つと学習の機会がない可能性もあるため、このよ うな語彙には特に注意が必要であろう。

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考 圧力 勉強する事の圧力はとても重いで

す。 中:圧力、精神的な圧力、強制力

日:押さえつける力、人を威圧して従わせようとする力

○ここでは、ストレス、プレッシャーなど 簡単 彼は金もちのわりには生活が簡単

です。 中:簡単である、やさしい、手軽である  簡素である、平凡である、人並みである 日:込み入っていない、手軽である 奇妙 インターネットは奇妙で、チャッ

ト・買い物・ニュース・閲読・見 物・観光など珍しいこともあれば あるものです。

中:珍しくて巧みである、見事である(主に、人に興味 関心を持たせるような目新しいものを形容する)

日:珍しいこと、説明ができないような不思議なこと 緊張 大学の学習は、課目が少し、緊張

ではありません。 中:気が張りつめる、緊張する   忙しい、激しい、余裕がない

日:引き締まること、相互の関係が悪化して今にも争い の起こりそうな状況にあること

○ここでは、忙しくありません など 水平 時代が変わるにしたがって、生活

水平を高くします 中:平面が平行なこと、生産・生活・政治・思想・文 化・芸術・業務などが到達した程度

日:平らなこと、傾きのないこと 熱心 ハルビンの人たちは熱心で、きみ

たちは旅行する来てください。 中:情熱がある、心が温かい、親切である、優しい 日:一つの物事に深く打ち込むこと

(12)

3−B−2 類義の正しくない語彙を使用したもの 162例/1028例

3B−2も日中同形異義語の問題であるが、ここに挙げた例は、複数の類義語の中から 誤用となる語を選んでしまったものであるため、ある程度の意味理解は可能である点で3 B−1とは異なる。また、2類Eに類義の他の語に置き変えたほうがよい例を取り上げた が、2類の語彙は完全な誤用とは言えない点でここに挙げた例とは異なる。3B−2のよ うな誤用が発生する原因としては、母語の語彙をそのまま使用したことの他に、辞書を 使用した際に複数ある訳語の中から正しい語が選択できなかったという可能性も考えられ る。したがってこの問題に対しては、各語彙が持つ意味領域やニュアンスがセンテンスの 中で正しく働いているかを考えながら語を選択する必要があると言える。

3−4 4類:中国語語彙をそのまま使用したもの

4類  中国語語彙をそのまま使用したもの 191例/1028例

4類は使用した漢字語彙が日本語には存在しないという誤用の例で、文の中に中国語語 彙が挟みこまれた形となっており、日本語としての意味理解は不可能である。このタイプ の誤用が1028例中191例もあり、この数の多さは漢字語彙への注意不足を明らかに示し

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考 区別 大学の勉強の方法は、中学校の方と大

きな区別がある。 区別(中)

 →日:区別する、識別する、区別、差別、差異

○大きな違いがある 経歴 とにかく、この活動は意義がずいぶん

ありました。時間やお金を失いました が、経歴を得ることができました。

経歴(中)→日:経験、経歴、体験

親切 故郷に帰るときは親切に感じる。 親切(中) →日:親しい、親しみがある         心がこもっている、懇切である

○親しみを感じる 趣味 私は経済について趣味を持っていま

す。 興趣(中) →日:興味、関心、おもしろみ、趣味 診察 医者と看護婦は一生懸命に患者を診察

しています。 看病(中) →日:診察する、治療する

◇訳文から「治療」を意図していたことを確認

語彙 対象漢字語彙を含む文 備考

有趣 M老師の授業は有趣です。 形容詞:おもしろいです 或者 中学校の卒業あど、高校へ行きます。或者、職業学校へ

行きます。 接続詞:あるいは

一直 私たちは毎日、楽いいますから、中国で一直発展がほし

いです。 副詞:ずっと

公斤 例えば金銀花は1公斤に20元から300元以上に上昇し

ました。 助数詞:キログラム

美国 例えば日本や美国や英国です。 名詞:アメリカ 体会 途中風、雨、日光も経歴し、喜怒哀楽を体会し、それは

長い人生の一段の旅程ですけど、若いから、夢があるか ら、いちばん忘れがたい時期でしょう。

動詞:体得する、理解する、身に 染みてよく分かる

(13)

ていると言えよう。

以上が本稿で調査した1028例の誤用の実態である。

4.まとめ

本稿では中国人学習者の誤用の実態を示すことで、中国人学習者の漢字語彙使用におけ る問題の所在を明らかにしてきた。そしてその多くが、中国語の漢字語彙をそのままの認 識で用いたために生じた問題であることもわかった。漢字語彙を用いると、用法に多少の 間違いがあっても大体の意味内容を伝えることができるため、問題が顕在化しにくい。と はいえ日本語としての漢字語彙に対する知識が不足していると、学習が進み状況に応じた 適切な話し方が求められるようになったときに対応が難しくなるであろう。したがって日 本語と中国語における漢字の用法の違いを明らかにし、適切な指導を行うことは中国人学 習者を対象とした日本語教育の重要な役割であると考える。

しかしながら、現在中国で使用されている日本語教科書を見ると、漢字の提出順や練習 問題、日中漢字の差異に関する情報提供を意識して作られたものは少ないようであった。

中国における日本語教育では、漢字指導はあまり意識されていない現状が伺えるため、中 国における日本語教育の実態を明らかにし、その中での漢字語彙指導の位置づけ及びあり 方について検討することは今後早急に取り組むべき課題であろう。

《参考文献》

三喜田光次(1986)「中国人学習者における漢語使用上の問題点について」

  『天理大学別科日本語課程紀要』(1号)天理大学出版部 鈴木義昭(1987)「日中形容詞の対照―連用修飾作用をめぐって」

  『紀要』34早稲田大学語学教育研究所

鈴木義昭(1994)「誤用分析―「努力に勉強する」をめぐって―」

  『講座日本語教育第29分冊』早稲田大学日本語研究教育センター 上野恵司、魯暁琨(1995) 『おぼえておきたい日中同形異義語300』光生館 下村出編(1998)『広辞苑第5版』岩波書店

三喜田光次(2000)『ここが違う 日本語語彙と中国語語彙』天理大学出版部

教育部高等学校外語専業教学指導委員会日語組編(2001)『教学大綱』大連理工大学出版社 林翠芳(2003)「中国語との対応関係からみた日本語の 的 の意味機能」

  『立命館言語文化研究』14号 立命館大学国際言語文化研究所

木村裕章(2004)「中国語における自動詞と他動詞の分類について」『東亜大学紀要』東亜大学 独立行政法人国際交流基金、財団法人日本国際教育協会(2004)

  『日本語能力試験出題基準【改訂版】』 凡人社

方美麗(2004)「中国語の「的」と日本語の「の」の意味用法の考察―日中対象研究―」

  『外国語教育論集26号』筑波大学外国語センター

参照

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