博 士 論 文
気 液 二 相 流 に お け る 不 飽 和 土 の 浸 透 特 性 に 関 す る 基 礎 的 研 究
平成 26 年 3 月
瀬 尾 昭 治
岡 山 大 学 大 学 院
環 境 学 研 究 科
要 旨
本研究は,不飽和地盤内の水と空気の流動を支配する透気係数について固有透過度を 用いて明確に定義し,不飽和土中の透気係数の非定常法による測定方法を確立すること を目的としたものである。本研究の主な成果を以下に示す。
(1) 透気係数測定方法に関して,高含水状態における透気係数を精度良く求めるために,
非定常法による透気係数測定実験法を提案した。瞬時水分計測法による透気係数の 求め方を確立し,鉛直一次元土柱を用いた瞬時水分計測法により透気係数測定実験 を行った。その結果,提案する非定常法を用いると,高含水領域の土の透気係数が 計測できることがわかった。これより,従来の定常法による透気試験法と,今回提 案した瞬時水分計測法による透気試験法を併用することによって,全含水領域に関 する透気係数の測定が可能となることを示した。さらに,本研究で提案した透気係 数を対象とした瞬時水分計測法において,間隙水圧の計測を並行して計測すること で,原理的に透水係数も同時に求めることが可能であることは,本試験方法の優れ た利点であるといえる。
(2) 不飽和土中の間隙空気圧を間隙水圧と分離するためのフィルター材についての適用 性について検討し,従来使用されていたガラスフィルターだけでは不十分であるこ とを実験によって示した。この改善策として,ガラスフィルターの前面にフッ素樹 脂を塗付する方法(方法A)と,ガラスフィルターの前面にPTFE(ポリテトラフル オロエチレン)製のメンブレンフィルター(孔径3.0µm)を設置する方法(方法B) の有用性を実験により示した。また,本研究で提案した上記(1)の透気係数測定方法 に,実際に間隙空気圧分離用のフィルター材として方法 A を使用した。その結果,
固有透気係数を算出するために必要な間隙空気圧を精度良く測定することができた。
目 次
頁
第1章 序 論 ... 1
1.1 研究の背景 ... 1
1.2 研究の目的 ... 4
1.3 本論文の構成 ... 5
参考文献 ... 8
第2章 気液二相流の浸透特性に関する既往の研究 ... 9
2.1 気液二相流に関する既往の研究と事例 ... 9
2.1.1 近年に至るまでの研究 ... 9
2.1.2 近年の研究 ... 10
(1) 降雨浸透による河川堤防や斜面の安定性 ... 10
(2) 圧気工法 ... 12
(3) 土壌・地下水汚染の評価と対策 ... 13
(4) 地盤の不飽和化による液状化対策工法 ... 15
(5) 石油・LPG等の水封式岩盤貯蔵 ... 16
(a) 水封式岩盤貯蔵の概要 ... 16
(b) ボーリング孔を用いた岩盤の気密性評価試験 ... 18
(c) 岩盤貯槽の気密試験 ... 19
(6) 放射性廃棄物地層処分 ... 21
(7) 二酸化炭素の回収・地下貯留 ... 22
(8) 圧縮空気地下貯蔵 ... 22
(9) 地中賦存ガスに対する問題... 24
(a) シールド工事における事例 ... 24
(b) 高レベル放射性廃棄物処分研究における事例 ... 25
(10) 近年の気液二相流解析に関する研究 ... 27
2.2 透気係数測定方法に関する既往の研究 ... 28
2.2.1 加圧型試験法 ... 28
(1) Evans & Kirkhamの装置 ... 28
(2) Tanner & Wengelの装置 ... 29
(3) 長田の装置 ... 30
(4) 坂口らの一次元透気流実験装置 ... 30
(5) 神谷らの保水制御型の透気試験装置 ... 31
2.2.2 吸引型試験法 ... 32
(1) 宇野らの空気透過法による透気試験装置 ... 32
2.2.3 国内と海外における基準... 32
(1) 国内の基準 ... 32
(2) 海外の基準 ... 33
2.2.4 既往の研究における透気試験法の問題点 ... 34
2.3 間隙水圧および間隙空気圧の測定方法に関する既往の研究 ... 34
2.3.1 間隙水圧の計測 ... 35
2.3.2 間隙空気圧の計測 ... 36
参考文献 ... 39
第3章 透気係数の考え方 ... 47
3.1 概 説 ... 47
3.2 固有透過度と透過係数 ... 47
3.3 Klinkenberg効果 ... 48
3.4 水と空気の固有透過度 ... 49
3.5 第3章のまとめ ... 50
参考文献 ... 51
第4章 間隙空気圧計測用フィルター材の検討 ... 53
4.1 概 説 ... 53
4.2 間隙空気圧計測用フィルター材の性能確認実験 ... 54
4.2.1 フィルター材の計測時間遅れ ... 56
4.2.2 フィルター材の限界耐水圧 ... 58
4.2.3 フィルター材の使用時間 ... 60
4.3 間隙空気圧計測用フィルター材の評価 ... 61
4.4 間隙空気圧計測用フィルター材を用いた計測装置の組み立て ... 62
4.4.1 コネクターへのフィルター材の取り付け ... 63
4.4.2 コネクター取り扱い上の注意 ... 63
(1) Type G(S) ... 63
(2) Type GM ... 63
4.4.3 Oリングについて ... 63
4.4.4 実験装置の組み立てについて ... 64
(1) 電源投入 ... 64
(2) 実験装置組み立て ... 64
(3) 供試体作成時 ... 64
(4) 排水試験時 ... 64
4.5 鉛直一次元排水実験による間隙空気圧計測の検証 ... 64
4.5.1 流れのある水中での実験 ... 65
4.5.2 流れのある飽和土中での実験... 66
4.5.3 鉛直一次元土柱における排水実験 ... 67
4.6 第4章のまとめ ... 68
参考文献 ... 69
第5章 定常法による絶乾固有透気係数の測定 ... 71
5.1 概 説 ... 71
5.2 実験装置 ... 71
5.3 透気量の計測法 ... 72
5.4 実験方法 ... 75
5.5 実験結果と考察 ... 76
5.6 実験結果 ... 76
5.6.1 透気特性に対するDarcyの法則の適用 ... 80
5.6.2 絶乾固有透気係数 ... 81
5.7 第5章のまとめ ... 83
参考文献 ... 84
第6章 不飽和土の透気係数の非定常測定方法 ... 85
6.1 瞬時水分計測法による透気係数の求め方 ... 85
6.1.1 瞬時水分計測法... 85
6.1.2 透気係数の求め方 ... 86
(1) 式(6.6)の分子の求め方 ... 87
(2) 式(6.6)の分母の求め方 ... 90
6.2 中性子による土中水分変化の計測法 ... 90
6.2.1 中性子水分計の原理と特徴 ... 90
6.2.2 中性子水分計の校正曲線の算定 ... 91
6.3 透気係数測定実験 ... 93
6.3.1 透気係数測定の実験装置 ... 93
(1) 透気試験用カラム... 93
(2) 体積含水率計測システム ... 95
(3) 間隙空気圧計測システム ... 96
6.3.2 試 料 ... 96
6.3.3 実験手順 ... 97
6.3.4 排水実験結果 ... 97
(1) 体積含水率 ... 98
(2) 間隙空気圧 ... 101
(3) 固有透気係数 ... 101
6.4 不飽和透水係数および水分特性曲線 ... 101
6.4.1 瞬時水分計測法による透水係数の測定方法 ... 101
(1) 不飽和透水係数の求め方 ... 101
(a) 式(6.17)の分子の求め方 ... 103
(b) 式(6.17)の分母の求め方 ... 104
(2) 中性子水分計の校正曲線の算定 ... 105
(3) 試験装置 ... 106
(4) 試 料 ... 106
(5) 試験手順 ... 106
6.4.2 瞬時水分計測法による透水係数の測定結果 ... 108
6.5 考 察 ... 111
6.6 第6章のまとめ ... 114
参考文献 ... 115
第7章 結 論 ... 116
7.1 結 論 ... 116
7.2 今後の課題 ... 118
謝 辞 ... 121
図 目 次
頁
図-1.1 インドの堤防問題モデルの概念図 ... 2
図-1.2 不飽和浸透特性の模式図 ... 4
図-1.3 相対透気係数および相対透水係数の模式図 ... 4
図-1.4 本論文の構成 ... 7
図-2.1 堤体内の飽和度の変化 ... 12
図-2.2 圧気工法(トンネル工事)の概念図 ... 13
図-2.3 エアースパージング工法の概要 ... 14
図-2.4 地盤内への油の多相系浸透概念図 ... 14
図-2.5 現場実験における空気注入管の構造と装置の概要 ... 15
図-2.6 人工水封方式の概念図 ... 17
図-2.7 倉敷LPG備蓄基地の地下構造物鳥瞰図 ... 18
図-2.8 ボーリング孔岩盤気密性評価試験装置の一例 ... 19
図-2.9 ボーリング孔岩盤気密性評価試験結果の一例 ... 19
図-2.10 倉敷基地岩盤貯槽の気密試験結果 ... 20
図-2.11 貯槽圧力,温度の計算値と実測値の比較 ... 20
図-2.12 高レベル放射性廃棄物処分施設の概念図 ... 21
図-2.13 CO2の圧入実証試験の概念図 ... 22
図-2.14 圧縮空気貯蔵の概念図 ... 23
図-2.15 トンネル坑内ガス爆発事故現場の地質断面図 ... 24
図-2.16 幌延深地層研究計画における地下施設の概要図 ... 25
図-2.17 溶存ガスに対応した単孔式透水試験装置概念図 ... 26
図-2.18 Evans & Kirkhamの装置概要図 ... 29
図-2.19 Tanner & Wengelの装置概要図 ... 29
図-2.20 長田の装置概要図 ... 30
図-2.21 坂口らの一次元流透気試験装置の概要図 ... 31
図-2.22 神谷らの保水制御型の透気試験装置の概要図 ... 31
図-2.23 宇野らの空気透過法による透気試験装置の概要図 ... 32
図-2.24 ASTM D6539:土質試料の透気係数測定に関する標準試験法概念図 ... 33
図-2.25 ASTM D4525:岩石試料の透気係数測定に関する標準試験法概念図 ... 33
図-2.26 Watsonの瞬時水分提案した間隙水圧測定方法 ... 35
図-2.27 河野らの保湿性試験装置 ... 36
図-2.28 石原らの間隙空気圧測定方法 ... 37
図-2.29 Vachaudらの間隙空気圧測定方法 ... 37
図-2.30 朴・丸井の実験装置(間隙空気圧測定方法) ... 38
図-4.1 PTFEメンブレンフィルター表面電子顕微鏡写真 ... 55
図-4.2 間隙空気圧測定用コネクター構造 ... 55
図-4.3 フィルター材計測時間遅れ試験装置 ... 56
図-4.4 空気圧測定結果例 (Type G(S),正圧) ... 57
図-4.5 空気圧測定結果例 (Type G(S),負圧) ... 57
図-4.6 フィルター材限界耐水圧実験装置 ... 58
図-4.7 フィルター材の限界耐水圧実験結果 ... 59
図-4.8 フィルター材(Type GM)の限界耐圧実験結果 ... 59
図-4.9 フィルター材の使用時間に関する実験結果例(Type G(S)) ... 60
図-4.10 フィルター,コネクターおよび圧力変換器の組み立て概要図 ... 62
図-4.11 間隙水圧測定用コネクター概要図 ... 62
図-4.12 鉛直一次元浸透実験による間隙空気圧測定実験装置 ... 65
図-4.13 流れのある水中での間隙空気圧計測結果 ... 66
図-4.14 流れのある飽和土中における間隙空気圧計測結果 ... 66
図-4.15 排水過程における間隙水圧および空気圧 ... 67
図-5.1 定常法透気試験装置 ... 71
図-5.2 送気装置 ... 72
図-5.3 透気モールド ... 72
図-5.4 透気量の算出のための記号 ... 73
図-5.5 試料(豊浦標準砂)の粒径加積曲線 ... 75
図-5.6 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 0 gfの場合) ... 76
図-5.7 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 706 gfの場合) ... 76
図-5.8 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 2263 gfの場合) ... 77
図-5.9 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 5091 gfの場合) ... 77
図-5.10 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 7919 gfの場合) ... 78
図-5.11 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 11314 gfの場合) ... 78
図-5.12 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 14848 gfの場合) ... 79
図-5.13 送気円筒の沈下量および空気圧の経時変化(W2 = 17676 gfの場合) ... 79
図-5.14 定常法による透気試験結果(絶乾試料) ... 82
図-6.1 土柱内の一次元鉛直浸透の概念図 ... 85
図-6.2 排水実験における各深度での体積含水率の経時変化の概念図 ... 88
図-6.3 排水実験における体積含水率の経時変化の概念図 ... 89
図-6.4 排水実験における各深度での間隙空気圧の経時変化の概念図 ... 89
図-6.5 体積含水率計測点の高さと構造タイプ分類 ... 92
図-6.6 土の体積含水率と中性子カウント比との関係 ... 93
図-6.7 瞬時水分計測法を用いた透気試験装置の概要図 ... 94
図-6.8 中性子水分計測装置の概要図 ... 95
図-6.9 間隙空気圧および体積含水率の計測点位置図 ... 96
図-6.10 試料(豊浦標準砂)の粒径加積曲線 ... 97
図-6.11 計測高さにおける体積含水率の経時変化 ... 98
図-6.12 体積含水率の経時変化 ... 99
図-6.13 各深度での間隙空気圧の経時変化 ... 100
図-6.14 体積含水率と透気係数との関係 ... 100
図-6.15 土柱内の一次元鉛直浸透の概念図 ... 102
図-6.16 排水試験における各深度での体積含水率の経時変化の概念図 ... 103
図-6.17 排水試験における体積含水率の経時変化の概念図 ... 104
図-6.18 排水試験における各深度での圧力水頭の経時変化の概念図... 105
図-6.19 土の体積含水率と中性子カウント比との関係 ... 105
図-6.20 瞬時水分計測法を用いた不飽和透水試験装置の概要図 ... 107
図-6.21 間隙水圧および体積含水率の計測点位置図 ... 107
図-6.22 各計測高さでの体積含水率の経時変化 ... 108
図-6.23 各計測高さでの間隙水圧の経時変化 ... 109
図-6.24 体積含水率と透水係数の関係 ... 109
図-6.25 体積含水率と相対透水係数の関係 ... 110
図-6.26 水分特性曲線 ... 110
図-6.27 体積含水率と透気係数の関係(定常法追記) ... 112
図-6.28 体積含水率と固有透過度の関係 ... 113
図-6.29 体積含水率と相対浸透率の関係 ... 113
表 目 次
頁
表-1.1 気体と液体を考慮した多相系浸透問題の状態の例 ... 3
表-2.1 1900~1970年代の主な気液二相流問題に関する研究 ... 11
表-4.1 間隙空気圧測定用フィルター材 ... 54
表-4.2 間隙空気圧測定用フィルター材の適用性 ... 61
表-5.1 定常法による透気試験結果(絶乾試料) ... 81
表-5.2 絶乾固有透気係数 ... 82
表-6.1 式(6.13)の各係数と相関係数R ... 99
表-6.2 相対透気係数Kraの回帰曲線式と係数 ... 114
第 1 章 序 論
1.1 研究の背景
地盤は,構造骨格を形成する土粒子とその間隙とから構成されている。飽和領域の間 隙は水で満たされているが,不飽和領域では間隙に水と空気が存在している。通常,地 下水と呼ばれる間隙水を,我々が直接観察することは不可能である。また,地下水は降 雨浸透や涵養源となる河川や池等から水分補給を受けて存在し,表流水に比して遙かに 緩やかにではあるが,常時移動している。このような,地下水の流れは浸透流とよばれ,
浸透流を実験的・解析的に評価することは,極めて重要な問題であるとして,地盤工学,
地下水工学,治水・防災,土壌・地下水汚染対策等,土木工学に係わる分野のみならず,
地下水の流動メカニズムの解明を目的とする理学をはじめ,農学,資源工学の分野でも 研究が進められてきた。
この浸透流を定量的に評価する試みは,まず飽和領域のみを対象として行われきた。
その手法として,砂モデル,Hele-Shawモデル等の室内実験による手法,流線網やホド グラフ解法等の図式解法,複素関数論を用いる厳密解法,差分法等の数値解析法等が挙 げられる。1970 年代以降,不飽和領域を考慮することの有用性が認められ,同時にコ ンピューター性能の向上により,差分法,有限要素法などによる,飽和・不飽和浸透流
解析手法 1),2)が開発され,現在では土木・建築分野で,地下水が関連する構造物の設計
や施工時の検討等にしばしば用いられるようになってきている。
ここで,不飽和土に着目すると,その間隙は一般に水と空気の二相から成り立ってい るにもかかわらず,不飽和土中の水の浸透に関する研究の多くは,間隙中に存在する空 気は水に比べるとはるかに速やかに移動するものと仮定し,空気の影響を無視して水の みの一相問題として取り扱ってきた。しかし,厳密には間隙空気の存在により地下水の 浸透が制限されるような場合には,空気による影響はもはや無視し得ないものとなり,
空気の移動と圧縮性を考慮した気相と液相の二相流(気液二相流)の問題として考える 必要がある。
例えば,『インドの堤防の問題』がある。昔からインドでは洪水期に堤防に水をかけ ておく慣習があるそうである。おそらく,堤内法面に水をかけるのであろうが,その目 的は,堤体を洪水から守るためであると考えられる。その理由について考えてみる。従
来の飽和・不飽和浸透流解析では,透水係数は飽和度(体積含水率)の関数として与え られ,飽和度が高いほど透水係数は大きくなる。このように考えると,堤体に水をかけ ない場合に比べて,堤体に水をかける場合には堤体内の透水性は高くなり,したがって,
洪水の堤体内への浸透を助長することになり,目的に反することになる。ここで,空気 の流れを考えてみると,堤内法面に水をかけることで,図-1.1に示すように堤体表面に 飽和度の高い領域,つまり透気性の悪い領域が存在するため,堤体内の空気は堤体外へ 放出されることが妨げられて,その空気は圧縮される。その結果,堤体に水をかけるこ とにより,堤体はより安定になる。このように空気の流れを考慮することで,インドの 堤防に水をかける慣習は理にかなったものになる。河川長の長いインドでは,この慣習 が必要なのだろうが,河川長の短い我が国では,堤体は洪水期に降雨で高含水状態にな っていることが多く,自然と安全側に作用していることになる。したがって,空気の流 れを考慮することで,従来の飽和・不飽和浸透理論では説明がつかなかった様々な現象 を明らかにすることができる。
図-1.1 インドの堤防問題モデルの概念図
インドの堤防の例のように,自由水面を有する水が移動する場合には水面変動により 土中の空気が移動する。これらの場を支配する流体は,水と空気だけではなく,例えば 油や塩水も考慮した場合には,表-1.1に示すように7種類の状態が考えられる。
表-1.1に示す各状態について,以下に簡潔に説明する。
① 四相系の流れであり,この様相を解明すれば他の問題はすべて説明できることに なる。このような多相系は,一般に地中における石油の存在を議論する際に用い られる。
② これは①の問題において淡水と塩水を一つの流体として取り扱う場合の 3 相系 の浸透であり,気体・油・水はそれぞれ非混合流体として取り扱える。
③ 気体と水は非混合性流体とし,淡水と塩水は混合性流体とする。非混合性流体と 混合性流体がミックスされた流れの問題である。
④ 空気(気体)と水の最も一般的な二相流体の問題である。しかし,その現象の解 明はあまりなされていない。従来,水の移動に比較して空気はきわめて速く移動 するため,空気の影響を考慮する必要がないと仮定して研究が進められてきた。
この仮定を満足しない流れでは,当然,水と空気の二相流を考慮した浸透解析を 実施する必要がある。
⑤ これは④の様相と同様であり,従来は気体の移動が油の移動に比較してきわめて 速いために無視され,一相流の浸透を対象として研究されてきた。
⑥ 主に被圧状態における非混合な二つの流体の移動を対象とした流れである。
⑦ 淡水と塩水の問題であり,「塩水楔」現象を解明するために,従来の淡水と塩水 が非混合性流体であると考えた研究,あるいは,混合性流体と考えた研究がなさ れている。
本研究では,表-1.1に示す④の状態を対象とした,不飽和土中の空気と水の気液二相 流を対象として実施するものである。
表-1.1 気体と液体を考慮した多相系浸透問題の状態の例
様相 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
気体 気体 気体 気体 気体 気体 ― ―
液体1 油 油 淡水 水 油 油 淡水 液体2 淡水 水 塩水 ― ― 水 塩水 液体3 塩水 ― ― ― ― ― ―
1.2 研究の目的
飽和・不飽和浸透流解析を行う際に必要な物性値として,不飽和透水係数や,体積含 水率θ(あるいは飽和度)と毛管圧力ψ との関係を表す水分特性曲線等の不飽和浸透特 性が必要となる(図-1.2 参照)。ここで,図-1.2 の右軸に示した相対透水係数krwは,
不飽和透水係数kw(θ)と飽和透水係数kwsatの比(krw = kw(θ) / kwsat)である。一方,気液二 相流解析における入力パラメータとしては,これらの不飽和浸透特性とともに,体積含 水率θと透気係数との関係や飽和土中への空気侵入値(Air Entry Value)等の透気特性が 必要となり,解析精度の向上にはこれらの透気特性を正しく評価することが重要となる。
図-1.3 には,相対透気係数 kraと体積含水率θ の関係の模式図を示す。ここで,図-1.3 の左軸に示した相対透気係数kraは相対透水係数krwと同様に,体積含水率によって変化 する透気係数ka(θ)と絶乾状態の透気係数ka0の比(kra = ka(θ) / ka0)である。
図-1.2 不飽和浸透特性の模式図
図-1.3 相対透気係数および相対透水係数の模式図 体積含水率θ
最小容水量θr 飽和体積含水率θs
毛管圧力ψ(cmH2O) 相対透水係数k wr
θs θr
θ-ψ
θ-kwr
0 1
体積含水率θ
最小容水量θr 飽和体積含水率θs 相対透水係数k wr
θs θr
θ-kw
r
0 1
相対透気係数k ar
0 1
θ-k
ar
いま,透気係数に着目すると,これまで提案されてきた透気試験の方法は,そのほと んどが定常試験法であり,以下のような問題点が存在すると考えられる。
(1) 供試体を作成する際,供試体内の含水状態を均一にすることが困難であり,含
水率の高い状態では,重力の作用による間隙水の移動が生じ供試体内の含水状態 が均一でなくなる。
(2) 試験中に空気が供試体を通過する際,空気の移動によって間隙水の移動が生じ,
供試体の含水状態を均一に保つことが困難である。
このように,透気係数測定法は,透水係数測定法に比較してさまざまな問題点が存在 する。また,これらの問題点は,供試体が高含水状態になるにつれて一層顕著になる。
上記問題点を鑑みると,飽和に近い高含水状態までの透気係数を精度良く測定できる 透気試験法を開発することが重要であることがわかる。特に,多湿な我が国の地盤の多 くは,飽和に近い状況にあり,高含水状態での不飽和土の透気係数を求めることは,原 位置で計測した間隙水圧のデータ等から解析モデルの妥当性を論議する際等において きわめて重要である。
そこで,本研究では不飽和地盤内の水と空気の流動を支配する透気係数の定義を明確 に示し,飽和に近い状態での不飽和土中の透気係数の非定常法による測定方法を確立す ることを目的とするものである。
1.3 本論文の構成
本論文は,図-1.4に示すとおり,第1章から第7章までの7つの章から構成されてお り,不飽和土の透気特性に着目して論述する。
第1章では,研究の背景および目的を示した。
第2章では,気液二相流に関する既往の研究をレビューし,本研究の位置づけを明確 にした。
第3章では,空気の密度ρaは圧力依存性(圧縮・膨張性)が大きく,空気の粘性係数 µaとともに温度に依存することから,透気に関しては流体の性質および圧力レベルに影 響を受けない固有透過度K [L2](固有透気係数Ka [L2])を支配パラメータとすることの 妥当について論じた。
第4章では,室内透気試験では間隙中の水と空気の圧力を分離して間隙水圧および間
隙空気圧を精度良く計測する必要があることから,間隙空気圧の測定方法について検討 し,新しい間隙空気圧測定用のフィルター材を提案した。
第5章では,体積含水率によって変化する固有透気係数Ka(θ)を求める際には,まず 絶乾状態の固有透気係数Ka0を求めておくことが基本となることから,定常法の透気試 験装置を製作し,透気試験を実施して絶乾固有透気係数Ka0を求めた。
第6章では,高含水状態における透気係数を精度良く求めるために,瞬時水分計測法 による透気係数の求め方を確立し,その手法を用いた非定常法による透気係数測定実験 を提案した。また,鉛直一次元の土柱を用いた瞬時水分計測法により,透気係数測定実 験を行い,その結果について考察した。さらに,瞬時水分計測法で別途実施した透水試 験により求めた透水係数と本研究で提案した手法で求めた透気係数とを比較検討し,若 干の考察を加えた。
第7章では,第3章から第6章までで得られた成果をまとめ,今後の課題を示すこと により,本論文の結論とした。
図-1.4 本論文の構成
第1章 研究の背景と目的
第2章 従来の研究
第3章 透気係数の考え方
• 気液二相流の既往研究
• 透気係数測定方法の既往研究
• 間隙空気圧測定方法の既往研究
第4章 間隙空気圧計測用 フィルター材の検討 第5章
定常法による 絶乾透気係数の測定
第6章
不飽和土の透気係数の 非定常測定方法
第7章 結論,今後の課題
• 固有透過度 K [L2] は水と空気で異なるという立場 ∵すべり現象 (Klinkenberg効果)
• 固有透水係数Kw [L2] ≠ 固有透気係数 Ka [L2]
• 空気の密度ρaは圧力依存性(圧縮・膨張)が大きく 温度依存性あり
• 空気の粘性係数µaは温度依存性あり
• 透気係数 ka [LT-1]でなく固有透気係数 Ka [L2]で 評価
• 間隙空気圧を精度良く 計測する必要性
• 新しいフィルター材の提案
• 適用性の検討(耐水圧等)
• 鉛直一次元排水実験による フィルター材の検証
• 飽和透水係数kwsat ⇔ 絶乾固有透気係数Kadry
• 定常法による透気試験装置の製作
• 絶乾細砂を用いた透気試験の実施
• Darcyの運動方程式の適用性を検証
• 非定常法による透気係数測定実験を提案
• 瞬時水分計測法による透気係数の求め方を確立
• 高含水領域の土の透気係数を計測
• 透水係数と透気係数の比較
参考文献(第 1 章)
1) Neuman, S. P. : Saturated Unsaturated Seepage by Finite Elements, Proc., ASCE HY, Vol. 99, No. 12, pp. 2233-2250, 1973.
2) 赤井浩一,大西有三,西垣 誠:有限要素法による飽和-不飽和浸透流の解析,土木学会 論文報告集,No.264,pp.87-96,1977.
第 2 章 気液二相流の浸透特性に関する既往の研究
2.1 気液二相流に関する既往の研究と事例
2.1.1 近年に至るまでの研究
二相流問題に対する従来の研究は下島によって,詳しく整理されている1)。ここでは,
文献1)を引用(一部,加筆)して1900年代から1970年代までの気液二相流問題に関す る研究を概説するとともに,表-2.1の年表にまとめて示す。
土壌物理学の分野における浸透の研究は,1907 年の Buckingham2)の(Fick のガス 拡散の法則を土壌の換気作用に応用し,土壌の透気性をガス拡散の問題として取り上 げた)画期的研究に端を発している。その後,莫大な研究がなされてきたが,その主 流は水の粘性係数と密度が空気のそれに対し十分に大きいので浸透水は間隙空気と 自由に交換されるとし,浸透水の移動に対し空気の運動の影響を無視したものである。
この仮定に基づく不飽和浸透の研究は,若干残された問題もあるが,Richards(1931)3)
を経てPhilip(1969)4)に至りほぼ完成の域に達したものと思われる。
しかし,地表面近傍の土壌水分がある程度増大した場合や,浸透面に湛水(表面流 や中間流の発生に対応する)が生起した場合には,間隙空気と浸透水との自由な交換 ができにくくなり,空気が浸透水によって閉塞されるものと考えられる。このような 浸透における閉塞空気の影響の重要性が認識されるようになったのは,Powers(1934)5), Horton(1940)6),Free & Palmer(1940)7)らによる実験的研究がなされた1934~1940年に かけてのことである。これらの研究は空気の浸透水に及ぼす影響を単に記述するに留 まり,機構の解明を志向した本格的な研究は,Wilson & Luthin(1963)8),Youngs &
Peck(1964)9),Peck(1964)10),11),石原・高木・馬場(1966)12),高木・馬場(1967)13),等に みられるように1960年代になってからである。
1970 年代に入り,浸透を二相流体流とみなすことによる研究が行われた。これら の研究の背景は,二相流体流はそれぞれ不変ではなく変化する Effective Permeability を用いて表わされるDarcy則的な表現(一般化されたDarcy則と呼ばれる)に従うと したMuskat & Meres(1967)14),Leverett(1941)15)等の研究,このような流れ問題に対し 表面張力の影響を無視した形ではあるが Fractional Flow Function なる関数を導入し
て解析的に解く方法を示したBuckley & Leverett(1942)16)等の研究に求めることができ
る。Morel-Seytoux一派の研究(1976)17)は非圧縮流体の石油と水の同時流れを扱った石
油工学での結果を浸透問題に適用したものであるが,浸透において間隙空気を運動学 的に捉えたことは,従来の研究ではみることができず,画期的であり,表面張力と空 気の圧縮性の扱いに苦心の跡がみられる。降雨や湛水条件下の浸透について彼らが開 拓した一種の解析的方法で数値実験がなされたが,例えば湛水浸透にみられる一度圧 縮された空気が外界に放出された以降の繰り返される間歇的な空気の放出をどのよ うに扱うのか,また,浸透水と空気との交換機構はどのようになっているのか等の問 題に対する解答は見当らないようである。
2.1.2 近年の研究
近年の気液二相流浸透問題としては,①降雨浸透による河川堤防や斜面の安定性,② 圧気工法,③土壌・地下水汚染の評価と対策,④地盤の不飽和化による液状化対策工法,
⑤石油や液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas) 等の水封式岩盤貯蔵に関する気密 性能,⑥放射性廃棄物地層処分における緩衝材の浸潤問題,⑦二酸化炭素の回収・地下 貯留(CCS: Carbon Dioxide Capture and Storage),⑧圧縮空気地下貯蔵(CAES: Compressed
Air Energy Storage)等が挙げられる。ここでは,これらの概要について説明するととも
に,近年の研究事例について示す。
(1) 降雨浸透による河川堤防や斜面の安定性
山村・久楽は,実物大の堤体模型を製作し,雨水浸透実験を実施し堤体の安定性につ いての研究をおこなっている18)。その結果,平均降雨強度15mm/hrの人工降雨により,
堤体内の飽和度の経時変化は,図-2.1に示すとおりであり,堤体表層部に水膜が形成さ れることにより,間隙空気が封じ込められていることがわかる。この結果は,1.1 節で 述べた「インドの堤防問題」の妥当性を裏付ける結果となっている。
また,加藤・岡らは,不飽和土の水分特性を考慮することにより水-土連成の弾塑性 有限要素解析法の定式化を行うとともに,非常に大きな空気の圧縮性を仮定することで,
簡易三相系手法(ここでいう三相とは,土-水-空気である)の浸透変形連成解析法を提 案している19)。この提案手法を用いて,既往の浸透実験を模擬し,解析結果と実験結果 とを比較することで手法の妥当性を確認している。
表-2.1 1900~1970年代の主な気液二相流問題に関する研究1)
年代 研究者 研究概要
1907 Buckingham2) Fickのガス拡散の法則を土壌の換気作用に応用し,土壌の
透気性をガス拡散の問題として取り上げた画期的研究
土 壌 物 理 学 の分 野 に おける 浸 透 の 研 究は ,Buckingham (1907)の研究に端を発している
1931
~1969
Richards3) Philip4)
Buckinghamの後,莫大な研究がなされてきたが,その主流
は水の粘性係数と密度が空気のそれに対し十分に大きいの で浸透水は間隙空気と自由に交換されるとし,浸透水の移 動に対し空気の運動の影響を無視したもの
この仮定に基づく不飽和浸透の研究は,若干残された問題 もあるが,Richards(1931)を経てPhilip(1969)に至りほぼ完成 の域に達した
1934 1940
Powers5) Horton6) Free & Palmer7)
浸 透 に お け る 閉 塞 空 気 の 影 響 の 重 要 性 が 認 識 さ れ , Powers(1934),Horton(1940),Free & Palmer(1940)らが実験 的研究を行う
これらは,空気の浸透水に及ぼす影響を単に記述するに留 まる
1937 1941
Muskat & Meres14) Leverett15)
二 相 流 体 流 は それ ぞ れ 不変 で は な く 変 化す る effective
permeability を用いて表わされるDarcy則的な表現(一般化
されたDarcy則と呼ばれる)に従うとした研究
1942 Buckley & Leverett16) 二相流問題に対し fractional flow function なる関数を導入 して解析的に解く方法を示した研究
表面張力の影響は無視
1960代 Wilson & Luthin8) Youngs & Peck9) Peck(1964)10),11) 石原・高木・馬場12) 高木・馬場13)
地表面近傍の土壌水分がある程度増大した場合や,浸透面 に湛水(表面流や中間流の発生に対応する)が生起した場 合等,間隙空気と浸透水との自由な交換ができにくくなり,
空気が浸透水によって閉塞されるという機構の解明を志向 した本格的な研究
1970代 Morel-Seytouxら17) 1970年代に入り,浸透を二相流体流とみなすことによる研
究が行われた。
Morel-Seytoux 一派は非圧縮流体の石油と水の同時流れを
扱った石油工学での結果を浸透問題に適用
浸透において間隙空気を運動学的に捉えたことは,従来の 研究ではみることができず画期的(表面張力と空気の圧縮 性の扱いに苦心の跡がみられる)
降雨や湛水条件下の浸透について彼らが開拓した一種の解 析的方法で数値実験がなされた
図-2.1 堤体内の飽和度の変化(数字は各雨量に対する飽和度) 18)
(堤体模型の大きさ:高さ4m,天端幅2m,のり勾配1割5分)
(2) 圧気工法
圧気工法は,帯水地盤または軟弱粘性土地盤中に施工されるトンネルの内部に圧縮空 気を封入し,切羽面からの湧水を阻止するとともに,空気圧による山留め作用により,
切羽地山の安定を図る補助工法である(図-2.2参照)20)。ニューマチックケーソン(圧 気潜函工法)はこの原理でケーソン掘削を行う工法であるが,送気量が比較的少量であ るため,透気係数はさして問題とはならない。一方,圧気シールド工法は,昭和40年 代以降,合理的な送気計画を立案するために透気係数の測定が始められた21)。1990年,
東京都台東区の鉄道高架橋直下の供用中の道路で土砂が噴出して道路が陥没した事故 は,圧気シールド工法で施工中の鉄道トンネルの切り羽から圧縮空気が漏出し,土砂を 地表まで押し上げたことが原因であるとされている22)。
この圧気シールド工法に関する従来の研究として,増田・三木は,東京都内の地下鉄 工事現場の圧気シールド工法における送気条件を決定することを目的としたボーリン グ孔を用いた原位置透気試験を実施している23)。また,木島・藤村は,同様の目的で約 20 箇所の現場において,ボーリング孔を用いた原位置透気試験を実施して,土層・帯 水層条件に応じた3タイプに分類し,圧気の諸問題(地盤内への漏気量,地下水位の低 下,噴発現象の発生等)についての考察を行っている24)。
図-2.2 圧気工法(トンネル工事)の概念図
(3) 土壌・地下水汚染の評価と対策
土壌・地下水汚染対策のうちエアースパージングは,図-2.3に示すとおり揮発性有機 化合物で汚染された飽和土の対策手法として,近年実施されている浄化工法である。空 気は汚染された土壌の範囲の下端に吹き込まれ,浮力によって空気が汚染された部分を 通って上昇してくる。揮発性や生分解性などの違いによって,空気中に汚染物質が溶け 込むことで,飽和土中に含まれる汚染物質の濃度を下げることが可能となる。汚染物質 を含んだ空気は,最終的には地下水面付近まで到達しSVE(土壌気化抽出装置)を用い ることで回収できる。空気注入により回収できる汚染物質の最大量は,地下水面付近の 空気挙動に大きく依存する。Semerらは土中の空気の流れについて実験的に考察を行っ ている25)。
また,西垣・菅野は,土壌・地下水汚染の中で現在問題となっている油汚染(図-2.4) の定量的な取り扱いについて基礎的な研究を行っている26)。γ線を用いた瞬時水分計測 法により,空気-油-水の三相系における毛管上昇高-飽和度-相対透過係数の関係を 求め,油の浸透特性を調査するための比較的簡便な方法として,変水位透水試験および
Green-Ampt試験法を実施して,それらの試験法の適用性を検証している。
コンプレッサ
切羽
作業室 圧縮 空気
圧縮空気を送り 気圧を高めて湧水,
切羽の崩壊を防ぐ
立 坑
第1ロック 第2ロック
図-2.3 エアースパージング工法の概要25)
図-2.4 地盤内への油の多相系浸透概念図26)
(4) 地盤の不飽和化による液状化対策工法
近年,地盤に空気を直接注入するなどして地盤を不飽和化する液状化対策工法が検討 されており,既存工法に比べて格段に安価で既設構造物直下にも適用ができる工法とし て実用化が期待されている。
西垣・小松ら27)は,積極的に地盤を不飽和化させる液状化対策工法の成立性を検討す るために,空気溶存水または空気を地盤に注入する方法について検討し,被圧地盤およ び不圧地盤における空気注入を模擬した室内実験を行って砂地盤の不飽和化のメカニ ズムとその持続性について研究している。さらに,藤井・西垣ら28)は,液状化対象とな る地盤から攪乱・不攪乱試料をサンプリングし,不均一な飽和度分布の地盤に対して,
せん断土槽を用いた重力場振動台実験を実施した結果,飽和度の均一性にかかわらず,
地盤を不飽和な状態にすることで,液状化の発生が抑制されることを示している。
岡村・武林ら29)は,空気注入により地盤が不飽和化されることを実証し,不飽和化さ れた領域を特定する技術の適用性を検討することを目的に,GL.-6m に設置した注入口 から空気を地盤に注入する現場実験を実施して,注入地点を中心に直径3∼4m程度の領 域が不飽和化していることを確認している。図-2.5には,岡村らが実施した現場実験に おける空気注入管の構造と装置の概要を示す。
(1) 対象土層への空気注入管の設置概要 (2) 空気注入装置 図-2.5 現場実験における空気注入管の構造と装置の概要29)
(5) 石油・LPG等の水封式岩盤貯蔵
(a) 水封式岩盤貯蔵の概要30)
我が国の石油・液化石油ガス(以下,LPG)備蓄は,1970年代のオイルショックを受 け,石油・LPGを安定的に供給するために開始された。備蓄方法には,地上方式,地下 タンク方式,地下岩盤タンク方式などがある。このうち,地下岩盤タンク方式は,地下 に大きな空洞を掘削し,その中に石油や LPG を備蓄する方法であり,①自然災害の影 響を受けにくい,②漏油の危険性が少ない,③景観への影響が少ないなどの利点がある。
地下岩盤方式での石油・LPGの漏出の防止には,ライニング方式(空洞に被覆すること で防止),岩盤方式(岩盤の緻密さで防止),水封方式(地下水の作用により防止)が あるが,国内の石油地下備蓄では地下水の流れによって石油の漏出を防止する水封方式 が採用されている31)。水封方式とは,図-2.6に示すように,貯蔵空洞内の液圧よりも,
周辺の地下水圧を高く保ち,地下水が貯蔵空洞内に流入する状態を維持することにより,
石油や LPG の漏出を防ぐ方法である。水封方式には,自然方式と人工方式とがあり,
人工方式は,水封トンネルと水封ボーリング孔を利用して人工的に水を供給し,岩盤貯 槽への地下水の流れを発生させることにより,ベーパーと呼ばれる石油や LPG の蒸気 の上方への流出や,石油やLPGの側方への流出を制御するシステムである。Åbergは,
ベーパーや空洞から石油・LPGが流出することを抑制する条件として,鉛直方向の動水 勾配が1以上を提案している32)。ただし,これは対象とする岩盤や割れ目などの状態を 考慮しておらず,実際には鉛直方向の動水勾配がかなり小さくても漏気や漏油が押さえ られることが,海外の事例や室内試験からわかっている33)。
現在では,石油と同様に,LPG についても地下への備蓄が世界各地で実施されてい る。LPG を水封方式で地下備蓄する場合,石油の地下備蓄に比べて液化のために圧力 が必要なことから,貯槽内の圧力も制御する必要がある。このため,ブタンでは貯槽内 圧力を約2.4気圧,プロパンでは貯槽内圧力を約9.5気圧として設計されており,これ らの貯槽は設計圧力に対応した深度に建設する必要がある。また,ガスの漏出を抑制す る気密条件として,貯槽に向けて鉛直方向の動水勾配が0.5以上,液体の漏出を抑制す る液密条件として,貯槽に向けての横方向の動水勾配が0以上として設計されている34)。
我が国では,2002年より世界最大級のLPGの貯蔵施設の建設が岡山県の倉敷基地(貯
蔵量40万t)および愛媛県の波方基地(2貯槽:貯蔵量30万t,15万t)の2基地で進
められてきた。高圧ガス貯蔵としては本邦初の水封式地下岩盤貯槽方式が採用され,
2012 年には両基地ともに貯槽の気密試験に合格し,操業を開始した。このうち,筆者 が建設時に関与した倉敷基地の岩盤貯槽は,幅18m,高さ24mのたまご型で,長さ488
~640mの貯槽空洞4条(総延長2.2km)で構成され,貯槽空洞容積は80万m3,貯蔵量 は40万tの世界最大規模の貯槽である(図-2.7参照)35)。ここでは,倉敷基地で実施し た,ボーリング孔を用いた岩盤の気密性評価試験,および岩盤貯槽の気密試験について 簡単に紹介する。
(a) 石油備蓄の例34)
(b) LPG備蓄の例35) 図-2.6 人工水封方式の概念図
水封トンネル 水封ボーリング
岩盤貯層
水封水
地下水の流れ 石油
水封トンネル 水封ボーリング
岩盤貯層
水封水
地下水の流れ 石油
図-2.7 倉敷LPG備蓄基地の地下構造物鳥瞰図35)
(b) ボーリング孔を用いた岩盤の気密性評価試験
LPGの岩盤貯槽では,設計上の気密条件は貯槽壁面における動水勾配によって定義さ れているが,現実の貯槽周辺岩盤の気密性を事前に試験によって確認しておくことは,
貯槽気密試験を計画する上で有用である。そのため,筆者を含む検討グループは,ボー リング孔を用いた岩盤の気密性評価試験方法36)を参考に試験装置を新たに開発し,倉敷 基地サイトの岩盤を対象とした試験を実施した37)。試験装置の概要を図-2.8に示す。そ の結果,試験区間の気室圧力が周辺間隙水圧よりも小さい場合,すなわち,試験区間孔 壁の動水勾配の方向が周辺岩盤から試験区間に向かう方向に正であれば,漏気は発生せ ず気密性が保たれることを,気密試験に先立ち確認した。試験結果の一例(変水位試験
結果P-V/T関係図)を図-2.9に示す。
図-2.8 ボーリング孔岩盤気密性評価試験装置の一例37)
図-2.9 ボーリング孔岩盤気密性評価試験結果の一例37)
(c) 岩盤貯槽の気密試験
水封式 LPG 岩盤貯槽の気密試験は,岩盤貯槽の気密性能を確認する目的で,貯槽内 の空気を所定の圧力まで昇圧させ,昇圧停止後の貯槽内温度変化,湧水の排水による気 相容積変化などで補正した貯槽内圧力変化が規定値以内であり,かつ安定していること で合格となる。水封式地下岩盤貯槽の気密性判定指標は,貯槽内空気の物質量収支と理
想気体の状態方程式より,圧力変動量として定式化されるが,国内では,同指標を実規 模の水封式地下岩盤貯槽に適用した事例はこれまでにない。倉敷基地岩盤貯槽の気密試 験に際し,同指標を適用した結果,補正圧力の変動量は,気密性判定基準(±0.5kPa以 内)に比べて十分に小さく,また低下傾向も認められないことから倉敷基地岩盤貯槽の 高い気密性が確認されている(図-2.10)38)。筆者を含む検討グループは,倉敷基地にお ける国内初のフルスケールでの貯槽気密試験に際して,計測項目に対する事前の評価・
検討と確認試験を重ね,フィールドにおいて要求精度を実現した結果,十分な確度で貯 槽の気密性を評価した(図-2.11)39),40)。
図-2.10 倉敷基地岩盤貯槽の気密試験結果38),39)
図-2.11 貯槽圧力,温度の計算値と実測値の比較(左:全期間,右:気密試験期間)39),40)
0 200 400 600 800 1000 1200
5/1 5/11 5/21 5/31 6/10
圧力(kPaG)
計算 実測
20.5 21 21.5 22 22.5
5/1 5/11 5/21 5/31 6/10
温度(℃)
計算 実測 0
200 400 600 800 1000 1200
5/1 5/11 5/21 5/31 6/10
圧力(kPaG)
計算 実測
20.5 21 21.5 22 22.5
5/1 5/11 5/21 5/31 6/10
温度(℃)
計算 実測
21.1 21.2 21.3 21.4 21.5 21.6 21.7
6/2 6/3 6/4 6/5 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11 6/12
温度(℃)
計算 実測
950 955 960 965 970 975 980
6/2 6/3 6/4 6/5 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11 6/12
圧力(kPaG) 計算 実測
21.1 21.2 21.3 21.4 21.5 21.6 21.7
6/2 6/3 6/4 6/5 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11 6/12
温度(℃)
計算 実測
950 955 960 965 970 975 980
6/2 6/3 6/4 6/5 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11 6/12
圧力(kPaG) 計算 実測
(6) 放射性廃棄物地層処分30)
高レベル放射性廃棄物処分施設41)(図-2.12参照),低レベル放射性廃棄物処分施設,
TRU 廃棄物処分施設等の放射性廃棄物処分施設においては,放射性核種の移行を抑止 する理由等により,人工バリアのひとつである緩衝材として締固められたベントナイト を用いることが考えられている。飽和した高密度のベントナイトは緻密であるため透気 性が低く,地下深部の還元性環境下における金属廃棄物や金属製容器の腐食等により発 生する可能性がある水素ガスを速やかに排出しないであろうことが予想されている。そ のため,ガス圧上昇による周辺施設や岩盤への影響の評価,ガス圧上昇に伴う排水・排 気量の評価,ガス排出時のベントナイトの損傷の影響評価を行う必要がある42)。
放射性廃棄物の地層処分の分野では,世界中で多くの研究がなされている。上記の問 題に対する国内の研究としては,例えば,竹内・原は,高レベル放射性廃棄物の地層処 分において,処分初期の緩衝材中で予想される熱-水-応力連成現象の解析に資するた め,圧縮ベントナイトの水分拡散係数等を測定した結果から,圧縮ベントナイト中の水 蒸気と液状水の二相移動について検討を行っている43)。また,田中・廣永らは,初期に 飽和した高密度ベントナイトのガス移行特性ならびにガス透過後の透水性を実験的に 把握し,ガス移行現象のメカニズムについての検討を行っている42)。
図-2.12 高レベル放射性廃棄物処分施設の概念図41)
(7) 二酸化炭素の回収・地下貯留30)
近年,地球温暖化ガスであるCO2を地下に貯留する試みが検討されている。地球上の
炭素の0.04%は大気中に存在しており,大部分は石灰岩として固定されていることから,
CO2は地下に貯留できる可能性が高い。現在,検討されている代表的な貯留方法は,帯 水層貯留である。この方法は,図-2.13に示す背斜構造(上に凸)でキャップロック(不 透水層)を持つ帯水層にCO2を貯留する方法である。この方法の実証試験が,北海のス ライプナー天然ガス田や新潟県長岡市で実施されている44),45)。この方法では,CO2を容 易に送り込むことのできる高い透水性を有し,十分な大きさをもつ帯水層を探すこと,
および貯留したCO2が長期にわたり動いていないことを検証する必要がある。このため,
地下深部の高透水の貯層を探査する技術,貯留後のCO2の挙動をモニタリングする技術,
挙動を評価する技術などが必要となる。また,挙動の評価には,CO2の圧力や温度によ る相の状態や,それらに応じた密度,粘性などの流動特性を考慮した多相系のシミュレ ーション技術が必要となる。これについては,例えばHelmigらの研究グループは,非 等温多相多成分浸透流解析コードを用いた CO2 地下貯留のモデル化とシミュレーショ ンを精力的に実施している46)。
図-2.13 CO2の圧入実証試験の概念図44)
(8) 圧縮空気地下貯蔵30)
欧米などでは,既に実用化されている圧縮空気地下貯蔵(以下,CAES)ガスタービン 発電の国内における実用化が検討されている47)。一般のガスタービン発電では,発電機 とともに燃料を効率よく燃やすためにコンプレッサーを稼働させている。このコンプレ
液化炭酸ガス 輸送ローリー
タンク ポンプ
ヒーター
注入井 観測井
深度 約1100m
帯水層 キャップロック (不透水層)
40~120 m
CO2 液化炭酸ガス
輸送ローリー タンク
ポンプ ヒーター
注入井 観測井
深度 約1100m
帯水層 キャップロック (不透水層)
40~120 m
CO2
ッサーによる消費電力は意外に大きく出力の半分以上を占める。このため,図-2.14 に 示すように,CAESでは夜間の余剰電力を利用して圧縮空気を貯蔵し,それを利用して 発電することにより,コンプレッサーによる電力の消費を抑え,発電効率の向上を図っ ている。CAES では,数十万 kW の中規模の発電施設に対して,地下空洞に 3~8MPa の圧縮空気を数十万m3貯蔵することが求められる。海外で実用化されているCAESの 貯槽は,岩塩層に建設されている。これは,岩塩層が緻密で気密性が高いためと,貯槽 の建設が安価なためである。岩塩層の場合,水を注入し岩塩を溶かすことにより,非常 に簡単に巨大な貯槽を作ることが可能である。日本では,このような岩塩層が存在しな いため,発電施設の地下に良質な母岩を捜し,貯槽を建設する必要がある。
近年,特に2011年3月の東日本大震災以降,環境に対する意識が高くなっており,
自然エネルギーによる発電が拡大されている。CAESは,発電量が不安定な水力発電や 風力発電を平滑化するために,エネルギーを圧縮空気として貯蔵するシステムとしても 期待されている。
CAESに関する研究としては,これまでに気液二相流解析コードによるシミュレーシ ョンや,実験的研究がなされてきた 48)。特に国内では,1985 年以降,電力中央研究所 の研究グループにより実験的研究および解析的研究が精力的になされてきた49)。
図-2.14 圧縮空気貯蔵の概念図47)
通気坑 通水坑
圧縮空気 圧縮空気
発電所
貯水池
通気坑
発電所
(1) 定圧方式 (2)変圧方式
圧縮空気 圧縮空気
(9) 地中賦存ガスに対する問題
(a) シールド工事における事例
日本各地には,主にメタンガスを主成分とする天然ガス田が点在する。特に,北海道,
新潟県,福島県,千葉県などにおいては現在でも天然ガスが生産されている。関東地区 では,東京都江東区から千葉県の房総半島の上総層群中に賦存している南関東ガス田が 有名で,昭和初期から東京都内でも採掘が行われていたが,水溶性ガスのためガス産出 にともない地下水をくみ上げることから,地盤沈下の主たる原因とされ,1973 年に東 京都が鉱業権を買い取る形で採掘が禁止されている50)。1993年2 月,東京都江東区の 地下約30mを掘進中のシールドトンネル坑内で,この地層から発生した可燃性ガス(主 にメタンガス)によるガス爆発が発生する事故が発生した51)。筆者らは,原因究明のた め土質・ガス賦存状況調査を実施した。その結果,図-2.1552)に示すように,埋没段丘礫 層が約2mせり上がった部分に,高濃度の遊離メタンガスの存在が確認され,事故原因 が,メタンガスの爆発によるものと特定された。このメタンガスは,下部有楽町粘性土 層をキャップロックとして,1973 年までの地下水位低下に伴う圧力低下により,水溶 性ガスから遊離したものが,その後の水位回復で被圧状態となって埋没段丘礫層に貯留 されたものと考えられる。この事例は,地下水位の低下とそれに伴う水溶性ガスの遊離,
貯留といった,一連の気液二相問題と考えることができる。
図-2.15 トンネル坑内ガス爆発事故現場の地質断面図(単位:m)52)
(b) 高レベル放射性廃棄物処分研究における事例
前述した「(6) 放射性廃棄物地層処分」に関連して,我が国では日本原子力研究開発 機構(JAEA)が,原子力政策大綱に示された深地層の研究施設計画として,岐阜県瑞 浪市において結晶質岩を対象とした超深地層研究所計画53)を,また,北海道幌延町にお いて堆積岩を対象とした幌延深地層研究計画(図-2.16参照)54)を進めている。
幌延深地層研究計画のうち「地上からの調査研究段階(第1段階)」については,筆 者らがその一部を担当した 56)-71)。この幌延深地層研究計画の調査研究の対象となる新 第三系堆積岩類(主として稚内層および声問層)は,透水性が比較的低いこと,地層中 に存在する地下水が塩水系地下水と淡水系地下水の2種類に分類されること,地下水に は溶存ガスが存在することなどの地質環境の特徴を有している54)。そのため,幌延深地 層研究
図-2.16 幌延深地層研究計画における地下施設の概要図55)
計画では,溶存ガスに考慮した調査研究が進められている。例えば,全水頭分布や透水 係数などの水理定数の分布を把握することを目的として実施する単孔式透水試験につ いても,溶存ガスに対応した装置を新たに開発して試験を実施している70)。孔壁が崩壊 しやすい堆積軟岩,塩水系地下水,溶存ガスを含むという環境条件で水理試験を実施す るために,ガス/水混合状態においても一定量の流体のくみ上げが可能な地上駆動型ポ ンプを採用し,また,揚水量および遊離したガス流量を計測するためのガス/水セパレ ータ,容積式揚水流量測定装置,ガス流量計測装置を備えるなどの装置開発を行い,そ の適用性を確認している。
(a) 地上部
(b)孔内部
図-2.17 溶存ガスに対応した単孔式透水試験装置概念図72)