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金融市場 金融市場

無断転載を禁ず。本資料は、信頼できると思われる各種データに基づき作成しております が、その正確性、完全性を保証するものではありません。本資料は情報提供を目的に作成 されたものであり、投資のご判断等はご自身でお願い致します。

金融市場 金融市場

当社のホームページのアドレス http://www.nochuri.co.jp 2017年11月号 第28巻 第11号・通巻324号

編集・発行(株)農林中金総合研究所 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5‒27‒11 アグリスクエア新宿 03(6362)7700(代表)

03(6362)7757(調査第二部)

03(3351)1154(FAX)

2 0 1 7. 11

ISSN 1345-0018

インバウンド市場の拡大と地方分散に向けた視点 … 1

国内経済金融

内外の景気拡大期待を背景に株高進行

~総選挙は与党圧勝、アベノミクス路線は継続~ … 2 海外経済金融

ハリケーンの影響は軽微であり、引き続き堅調な米国経済

~上院での予算決議案の可決により、税制改革は前進~ …12 中国共産党第19回大会前後の経済・金融情勢

~17年の政府目標の達成はほぼ確実に~ …18

正念場を迎えた英国

~ Brexit協議は進展せず経済情勢にも減速の兆し~ …26 生協における生活相談・貸付事業の展開 …30 空き家をめぐる政策・金融・管理(1)

~空き家の定義と発生要因、行政の取組みと課題について~ …40

フィンテックを考える………48

ロンドンの和食事情

~和食は日本文化の中心~………52

(2)

潮 流

インバウンド市場の拡大と地方分散に向けた視点

調査第二部 部長代理 木村 俊文

アジア諸国を中心としたビザ要件の緩和や LCC (格安航空会社) 就航数の増加などを背景に、

インバウンド (訪日外国人観光客、 以下 「訪日客」) 市場が拡大している。 訪日客数は 2013 年に 初めて 1,000 万人に達した後、 16 年には 2,404 万人と 3 年で倍増した。 また、 訪日客による 16 年 の国内消費額も 3.7 兆円 (名目 GDP 比 0.7%) と、 12 年の 1.1 兆円 (同 0.2%) と比べ大幅に増 加した。 17 年に入ってからも、 1 ~ 9 月期の訪日客数が 2,120 万人 (前年同期比 17.9%増)、 同 1

~ 9 月期の訪日客による国内消費額は 3.3 兆円 (同 14.7%増) と、 引き続き増加基調にある。

国連世界観光機関 (UNWTO) によれば、 世界の海外旅行者数 (国際観光客到着数) は 2030 年まで年率 3.3% (アジア太平洋地域は 4.9%) のペースで増加する見通しであり、 今後もインバウ ンド市場は拡大する余地が十分にあると考えられている。

こうしたなか、 政府は観光立国の実現に向けて、 東京五輪が開催される 2020 年までに、 訪日客 数 4,000 万人 (16 年の 2 倍弱)、 訪日客による国内消費額 8 兆円 (16 年の 2 倍強)、 訪日客の地 方部における延べ宿泊者数 7,000 万人泊 (16 年の 2.5 倍) などの目標を掲げている。

政府はインバウンド需要を農山漁村にも呼び込み、 「地方創生」 につなげようと各種施策を打ち出 している。 具体的には、 日本人にも外国人にも魅力ある観光地を形成するために、 地域に残る自然・

歴史 ・ 文化などを観光資源として活用するほか、 観光地再生 ・ 活性化ファンドの継続的な展開、 観 光経営人材の育成などである。 こうした一連の流れの中で、政府は農山漁村への滞在型旅行 「農泊」

を推進することとしており、 2020 年までにビジネスとして農泊に取り組む地域を 500 地域創出すること も目標にしている。

そこで、 訪日客の訪問先をみると、 現状では依然として大都市圏やゴールデンルート (東京 ・ 富 士山 ・ 京都などを巡る観光周遊ルート) に集中している。 とはいえ、 訪日客数が増加基調で推移し ていることに加え、 訪日回数 2 回目以上のリピーターの割合が全体の約 6 割を占めるまでに高まりつ つあることなどから、 徐々に地方に広がる動きも見られる。 訪日客の地方への誘客を拡大するために は、 官民一体となって地域ごとに観光プロモーションや受入態勢整備などを進める必要がある。

その際、まず改善・整備が望まれるのは、空港等の交通拠点と市街地・観光地を結ぶ公共交通 (二 次交通) の連動である。 リピーターの増加に伴い、 今後は個人旅行が増えると予想されることから、

訪日客がストレスなく目的地に移動できるよう、 地域全体で二次交通の充実を図る必要がある。

また、 地域の事業者がインバウンド需要を取り込めるような仕組みづくりも重要だろう。 その一つとし て、 民間事業者や自治体が主導して、 インバウンド需要の延長線上にある越境 EC (海外向け電子 商取引) に取り組む例も見られる。 農林水産物など地元産品の輸出促進につながるような工夫が望 まれる。

国内各地がインバウンド対応を進めることにより、 国内旅行者への訴求力も高まると考えられること から、 国内旅行の需要喚起につながることも期待したい。

農林中金総合研究所

(3)

内 外 の景 気 拡 大 期 待 を背 景 に株 高 進 行

~総 選 挙 は与 党 圧 勝 、アベノミクス路 線 は継 続 ~

南 武 志 要旨

「国難突破解散」を受けた総選挙では、自公与党が

3

分の

2

超の議席を獲得した。自民党 の選挙公約では、2019 年

10

月に消費税率を

10%へ引き上げ、その増収分の一部を幼児教

育の無償化などに充当するとしており、目下の最優先課題は増税時までにそのショックに耐 えうるように日本経済の再生を促すことといえるだろう。なお、金融市場は、米国での税制改 革論議の進展や米国経済の改善を受けた年内の利上げ観測の高まり、さらにはアベノミク ス加速への期待感から、「円安・株高」傾向が強まった。

実体経済に目を向けると、民間消費に

4~6

月期の反動減が出ているものの、世界経済 の堅調さを背景に輸出が再び増勢を強めているほか、設備投資も自律的な拡大局面に入っ ているとみられる。労働需給の持続的な引き締まりが賃上げ率を徐々に高め、それが消費 押上げに貢献していくとみられることから、景気改善はしばらく継続するだろう。

こうした中、物価上昇率も徐々に高まってきたが、依然

2%の「物価安定の目標」には遠い

状況である。追加緩和を検討する政策委員も出てきたが、実質金利を自然利子率以下に誘 導するという現行政策の枠組みはしばらく継続されるとみられる。

与党圧勝で終わっ た総選挙

緊迫する北朝鮮情勢や止まらない少子化などの「国難」を突破 するために国民の信を問うことを目的に実施された

10

22

日投 開票の第

48

回衆議院議員選挙(総選挙)は、与党が定数

465

のう ち

313

議席(全体の

67%)を獲得、圧勝する結果となった。「森

友・加計問題」で急落した内閣支持率が十分回復していたわけで はなかったが、政権批判票が分散したこと、さらには国内景気の 堅調さが追い風となったことが影響したとみられる。とはいえ、

結果は民意であり、アベノミクス路線は、多少の問題点を抱えて

10月 12月 3月 6月 9月

(実績) (予想) (予想) (予想) (予想)

無担保コールレート翌日物 (%) -0.041 -0.10~0.00 -0.10~0.00 -0.10~0.00 -0.10~0.00 TIBORユーロ円(3M) (%) 0.0630 0.05~0.07 0.05~0.07 0.05~0.08 0.05~0.08

10年債 (%) 0.065 0.00~0.15 0.00~0.15 0.00~0.15 0.00~0.15

5年債 (%) -0.090 -0.15~0.00 -0.15~0.00 -0.15~0.00 -0.15~0.00

対ドル (円/ドル) 113.8 105~118 105~118 105~118 105~118 対ユーロ (円/ユーロ) 134.5 125~140 125~140 125~140 125~140 日経平均株価 (円) 21,739 21,500±1,500 21,750±1,500 22,000±1,500 22,250±1,500

(資料)NEEDS-FinancialQuestデータベース、Bloombergより作成(先行きは農林中金総合研究所予想)

(注)実績は2017年10月26日時点。予想値は各月末時点。国債利回りはいずれも新発債。

為替レート

図表1  金利・ 為替・ 株価の予想水準

      年/月      項  目

2017年 2018年

国債利回り

情勢判断

国内経済金融

(4)

いるにせよ、有権者から継続が支持されたといえる。

19

10

月の消費税 率引上げには課題 も

さて、自民党の公約には①北朝鮮の脅威への対応、②アベノミ クスの加速、③生産性革命を通じた国民所得の増加、④教育無償 化などの「人づくり革命」、⑤地方創生、⑥憲法改正、が掲げら れていた。このうち、④については、2019 年

10

月に予定されて いる消費税率引上げを実施し、5 兆円台半ばと見込まれる増収分 のうち、2 兆円程度を教育分野に充てることを提案している。約

1

兆円は「医療・介護・年金・子育て」といった社会保障関連に充 当する予定であるため、当初

4

兆円余りとしていた借金返済分は

3

兆円程度まで減額される見込みである。総選挙直後の

TV

インタ ビューで、安倍首相はリーマン・ショック級の事態でも起きない 限り、基本的には税率引上げを実施すると述べたが、そのために は少なくとも

19

年度まで景気の堅調さを持続させ、物価・賃金の 適度な上昇を促すことが最優先課題といえるだろう。逆にデフレ 脱却が不完全なまま増税という景気抑制政策をとると、「14 年

4

月」のようにその後の景気低迷と財政健全化の後ズレを引き起こ す可能性は高い。

下振れリスクはあ るものの、世界経済 は回復継続

世界経済に目を転じると、持ち直しの勢いが増しつつある。10 月

18

日に公表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによ れば、過去の景気回復局面と比べて、世界的に賃金・物価の動き は鈍いものの、総じて改善方向に向かっているとの現状認識を示 した。先行きは、いくつかの下振れリスクに対する脆弱性を抱え

-4 -2 0 2 4 6 8 10 12

1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020

図表2 世界経済の推移

世界全体 先進国 新興国 アジア新興国

(%前年比)

(資料)IMF WEOデータベース

見通し

(5)

ていることもあり、世界経済全体の成長見通し自体は緩慢で勢い に欠けるものの、世界金融危機以降で最も低かった

16

年(3.2%

成長)を底に、17 年

3.6%、18

3.7%と上昇率を高めていくと

の予想となっている。こうした見通しは、日本の輸出にとっても 好材料である。

景 気 の 現 状 : 緩 や か な 改 善 傾 向

こうした情勢を背景に、国内景気は総じて堅調な推移を続けて いる。10 月

2

日に公表された日銀短観(9 月調査)によると、企 業経営者の景況感は総じて改善(代表的な大企業製造業の業況判 断

DI

22

と、前回

6

月調査時からは

5

ポイントの改善で、10 年 ぶりの水準まで回復)したことが確認できる。雇用人員や資本設 備の不足感もじわじわと強まっており、いずれも約

25

年ぶりの水 準となっている。また、9 月の景気ウォッチャー調査からは家計 部門の景況感も持ち直していることが見て取れる(現状判断

DI

50.1

10

ヶ月ぶりに判断基準となる

50

を上回った)。さらに、

8

月の景気動向指数(確報)によれば、一致

CI

107.7

と、直近 ピークだった

14

3

月(107.6)を更新、リーマン・ショック直 後以来の水準まで回復した。

ただし、消費や賃金関連の経済指標には好調だった

4~6

月期か らの反動も散見されている。消費総合指数(内閣府試算)の

7~8

月平均は

4~6

月平均を▲0.6%も下回っているほか、実質総雇用 者所得指数も同じく

0.1%の上昇にとどまっている。夏季賞与の

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30

1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2015年

図表3 強まる設備・雇用の不足感

生産・営業用設備判断DI 雇用人員判断DI

(資料)日本銀行 (注)全規模・全業種、各系列の直近分は17年9月調査での先行き見通し

(%、「過剰-「不足」)

過 剰

(6)

低調さに加え、天候不順の影響が出ているとみられる。逆に

4~6

月期は弱かった輸出は再び増加傾向を強めており、7~9 月期の実 質輸出指数は前期比

1.9%と 2

四半期ぶりに上昇するなど、消費 低迷をある程度補うものと期待される。

景 気 の 先 行 き : 改 善 傾 向 は 継 続

先行きについては、景気改善がしばらく継続するとのこれまで の見方に変更はない。上述の通り、7~9 月期の成長率は消費の反 動減を主因に鈍化する可能性は高い。しかし、労働需給は着実に 引き締まっており、賃金上昇率は徐々に高まる可能性が高く、消 費の腰折れは回避できると思われる。また、積み上がっている更 新需要、省人化ニーズの高まり、低金利環境、五輪特需などを背 景に盛り上がりつつある民間設備投資は自律的な拡大局面に入っ ているとみられる。さらに、しばらく世界経済は回復を続けると 想定されることから輸出は増勢を維持するだろう。18 年度にかけ て日本経済は潜在成長率を上回る成長経路をたどると予想する。

物 価 動 向 : 需 給 改 善 に よ る 上 昇 圧 力 は な お 鈍 い

一方、17 年入り後にプラス圏に再浮上した物価であるが、最近 は徐々に上昇率を高めてきた。ただし、全国

9

月の「生鮮食品を 除く総合(コア)」は前年比

0.7%と、上昇率は 8

月と変わらず であった。また、「生鮮食品・エネルギーを除く総合」は同

0.2%

2

ヶ月連続のプラスとなったほか、消費のベース部分の需給環 境を反映するとされる「食料(酒類を除く)・エネルギーを除く 総合」も同

0.0%であった(ともに、8

月分と変動率は変わらず)。

内容的には、エネルギー、診療費(高齢者の高額医療費制度の見

-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

図表4 最近の消費者物価上昇率の推移

エネルギーの寄与度

生鮮食品を除く食料品の寄与度 その他の寄与度

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)

(参考)消費者物価指数(同上、消費税要因を除く)

(資料)総務省統計局の公表統計より作成

(%前年比、ポイント)

(7)

直し)、さらには昨秋以来の円安などが主な押上げ要因であるこ とは否めず、決して需給改善効果によって物価上昇が起きている わけではない。

先行きについては、引き続き円安に伴って輸入物価の上昇傾向 を強める可能性があること、また民間消費の持ち直しによる需給 改善効果が復活すること等により、傾向的に前年比上昇幅は高ま ると予想される。また、今年に入ってからは人手不足の影響で運 送費などが値上げされているが、それが消費財・サービス価格に も徐々に波及することになるだろう。

ただし、賃上げ圧力はまだ鈍いことから、日銀が目指す

2%の

物価上昇は当分先のことになりそうだ。

金 融 政 策 :

1

人 の 政 策 委 員 が 追 加 緩 和 の 必 要 性 を 主 張

9

20~21

日に開催された日本銀行の金融政策決定会合では

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(QQE+YCC)」の継続が

8

1

の賛成多数で決定された。唯一の反対票を投じたのは、新た に政策委員として加わった「リフレ派」の論客の片岡剛士氏で、

後日公表された「主な意見」からは、「物価は、原油価格や為替 の影響により当面上昇すると見込まれるものの、資本・労働市場 に過大な供給余力が残存していることから、来年以降、

2%に向け

て上昇率を高めていく可能性は現時点では低い」、「2019 年

10

月に消費税の増税が予定されている中、「物価安定の目標」の達 成・安定化に向けて、追加金融緩和によって総需要を一段と刺激 することが必要である」と発言したものと推察される。早ければ

次回

10

30~31

日開催予定の決定会合において何らかの追加緩

和策の提案が提出される可能性もあるだろう。

問題は、その意見が他のリフレ派委員や政策委員全体に波及す

るかどうか、である。上述の「主な意見」によれば、2%の「物価

安定の目標」に向けたモメンタムは維持されており、現行政策を

粘り強く継続することが望ましいとの意見が大勢であることが見

て取れる。同じくリフレ派とされる櫻井眞審議委員は

10

18

に、「企業が値上げに慎重であっても、次第に労働コストを吸収

することが難しくなっていく」、「今後は個社の値上げとともに

競合他社が追随する動きが増えてくる」、「現実に値上げの動き

が広がれば、消費者も物価の上昇をある程度当然のこととして受

け止めるようになる」、「企業にとっては更なる値上げの余地が

拡がる」、「雇用者も物価の上昇分を賃金に反映するよう求める

ことになる」、「こうした循環的なメカニズムの下では、物価上

(8)

昇率は

2%の目標に向けて次第に上昇基調を強めていく」との見

方を示している(「函館市金融経済懇談会における挨拶要旨」よ り)。しかし、片岡審議委員や多くのエコノミストの見通しのよ うに、17 年度下期以降、物価上昇率が足踏み状態に陥った場合、

「リフレ派」政策委員を中心に更なる緩和の必要性を検討し始め る可能性もないわけではない。

当 面 は 現 行 政 策 が 継 続

もちろん、物価上昇率が日銀の想定ほどではなくとも、着実に 高まっていきさえすれば、追加緩和の必要性は徐々に薄れるとみ られる。逆に、先行する欧米地域での「金融政策正常化」追随型 での緩和縮小(資産買入れ額の減額や利上げ)については、「オ ーバーシュート型コミットメント」や「物価安定の目標」などを 修正・放棄でもしない限り、物価上昇率が前年比

1%台半ばあた

りまで高まるまでは明確な動きは出ないだろう。日銀の現行政策 スタンスは今しばらく継続されるだろう。

金 融 市 場 : 現 状 ・ 見 通 し ・ 注 目 点

米雇用統計(9 月)はやや不振だったが、米国株価が断続的に 史上最高値を更新し、かつ米国の年内利上げ観測を織り込む動き が続いたこと、また総選挙期間を通じて、アベノミクス継続を予 感させる内容の観測記事が出ていたこともあり、「円安・株高」

傾向が強まった。

以下、長期金利、株価、為替レートの当面の見通しについて考 えてみたい。

-0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 15 20 25 30 40

図表5 イールドカーブの形状

201676日(40年ゾーン過去最低)

2016年9月21日(長短金利操作付き量的・質的金融緩和の決定直後)

201723日(10年金利が一時0.15%まで上昇)

2017419日(直近の金利低下局面)

20171026日(直近)

(%)

(資料)財務省

残存期間(年)

(9)

① 債券市場 長 期 金 利 は 再 び

プ ラ ス 圏 へ

13

4

月の量的・質的金融緩和の導入以降、日銀は大量の国債 買入れ(当初は保有残高が年間

50

兆円増のペース、その後は同

80

兆円増のペース(現在「80 兆円」は目標ではなく、「めど」と している))を実施してきた。営業毎旬報告によると、10 月

20

日時点での日銀の国債保有残高は

409

兆円まで積み上がってお り、国債需給を引き締めているほか、長期金利のコントロールも ある程度は可能な状況となっている。

16

11

月のトランプ相場開始とともに、約

8

ヶ月にわたって マイナスで推移してきた長期金利は再びプラス圏に浮上し、時折、

海外(特に米国)の金利上昇につられて国内の金利上昇圧力が高 まる場面もあるが、日銀は「10 年ゼロ%」と設定した長期金利操 作目標を死守すべく、指値オペや国債買入れ額の増額などで抑制 に努めてきたため、

17

年入り後の長期金利は概ね

0~0.1%のレン

ジ内で推移してきた。

直近の動きを振り返ると、北朝鮮リスクへの警戒や世界的なデ ィスインフレ傾向への再認識を受けた米利上げ観測の後退などか ら、9 月上旬に長期金利は

10

ヶ月ぶりにマイナスとなったが、そ の後は北朝鮮リスクへの警戒が幾分和らいだことでプラスに浮 上、さらに

9

月中旬以降は内外景気の改善や株高・円安、さらに は財政健全化目標の先送りなどが影響して

0.0%台後半で推移し

ている。

-0.05 0.00 0.05 0.10

19,000 20,000 21,000 22,000

2017/8/1 2017/8/16 2017/8/30 2017/9/13 2017/9/28 2017/10/13

図表6 株価・長期金利の推移

(資料)NEEDS FinancialQuestデータベースより作成

(円) (%)

日経平均株価

(左目盛)

新発10年国債 利回り(右目盛)

(10)

長 期 金 利 は 当 面 ゼ ロ % 近 傍 で 推 移

先行きについては、欧米での金融政策正常化の動き、国内経済・

物価の改善などにより、一定の上昇圧力が働くとみられる。しか し、「10 年ゼロ%」との長期金利の操作目標が設定されているこ とにより、長期金利がその目標を大きく上回って上昇する可能性 は引き続き低いと思われる。金利上昇圧力が高まる場面では日銀 は従来通り、指値オペ、固定金利オペや買入れ増額などで対応す ることになるだろう。引き続き、オペのオファー額や頻度、毎月 末に提示される「当面の長期国債等の買入れの運営について」で の買入れペースの動向に注目が集まるだろう。

② 株式市場

株 価 は 堅 調 推 移 内外景気の回復を受けて、6 ~7 月にかけて日経平均株価は

20,000

円台を固める動きを続けたが、8 月に入ると北朝鮮リスク

の再浮上や米トランプ政権の混乱などで円高が進行、それが嫌気 されて一時

19,200

円台と、

4

月下旬以来の安値水準まで下落した。

しかし、その後

9

月中旬以降は、北朝鮮リスクが燻り続けるなか、

堅調な米国経済指標を好感した米株高や米国の年内利上げ観測を 背景にしたドル高円安、さらには解散・総選挙の結果、アベノミ クスが一段と加速するとの期待感から株価は上昇傾向をたどり、

9

月下旬には年初来高値を更新した。

一方、総選挙直前に「希望の党」が発足し、当初は連立与党の 苦戦の可能性が伝えられたものの、米国で税制改革に進展が見ら れたことへの期待感から史上最高値を更新する米国株価や日銀短 観など国内経済指標の改善、さらに選挙戦入り後は与党優勢との 報道が好感され、株価は上昇を続けた。そして、23 日には総選挙 での与党圧勝を受けて、日経平均株価は史上初となる

15

連騰を達 成(24 日には

16

連騰を記録)、21 年ぶりの高値水準まで上昇し た。

先行きは引き続き北朝鮮リスクへの警戒が残るほか、これまで の急ピッチな上昇(2 ヶ月で

2,000

円超)に対するスピード調整 も想定され、目先は軟調な展開となる可能性は否めない。しかし、

基本的に内外経済は緩やかな回復基調にあること、さらに日銀が

QQE+YCC の一環として年6

兆円のペースで

ETF

買入れを継続して いることもあり、株価は総じて堅調に推移すると予想する。

③ 外国為替市場

円 安 気 味 に 推 移

16

11

月以降のトランプ相場を受けて、対ドルレートは円安

が進行、同年末にかけて

120

円台に迫る動きを続けた。しかし、

(11)

17

年入り後はその動きが一服し、概ね

110

円台前半のレンジ内で の展開が続いている。9 月上旬には北朝鮮情勢が緊迫、リスク回 避的な円高圧力が高まり、110 円割れの円高状態が続いた。しか し、その後は米国の年内利上げ観測や税制改革の進展への期待感 が強まり、円安気味の展開となっている。

先行きについても、米国での金融政策の正常化の動きは円安を 促す材料であるほか、次期

FRB

議長が緩やかな正常化を進めるイ エレン現議長よりもタカ派が就任すれば、さらにドル高円安が進 む可能性がある。また、米国での税制改革が現実味を帯びれば、

既に堅調な米国経済が一段と加速、金利上昇を促し、ドル高圧力 が高まる可能性がある。

一方で、米国第一を標榜するトランプ政権は、対米貿易黒字国 である日本の通貨がさらに減価することに難色を示し、口先介入 を始める可能性もある。以上から、一方向的な円安進行には限度 があり、基調としては

110

円台前半を中心とした展開が続くとみ る。また、これまで同様、世界的に何かしらのリスクが強まる場 面では、円高に振れる場面を想定しておく必要がある。

ユ ー ロ 高 が 進 行 一方、対ユーロでは、ECB が今秋にも量的緩和の縮小について 議論する方針であることもあり、ユーロ高の展開が続いており、

この半年で

20

円弱の円安ユーロ高となっている。基本的に、欧州 中央銀行(ECB)が今秋にも

18

年以降の量的緩和政策の修正(買 入れ減額)を行うとの観測が強まり、ユーロ高が進行してきた。

127 128 129 130 131 132 133 134 135

107 108 109 110 111 112 113 114 115

2017/8/1 2017/8/16 2017/8/30 2017/9/13 2017/9/28 2017/10/13

図表7 為替市場の動向

対ドルレート(左目盛)

対ユーロレート(右目盛)

円 安

円 高

(円/ドル) (円/ユーロ)

(資料)NEEDS FinancialQuestデータベースより作成 (注)東京市場の17時時点。

(12)

なお、10 月

26

日に開催された

ECB

政策理事会では、量的緩和の 期限を

18

9

月まで延長、かつ

1

月からの買入れ額を月

300

億ユ ーロに半減することを決定した。一方で、ドラギ総裁は見通しが 悪化した場合には延長するとの姿勢を示したことから早期の利上 げ観測が後退し、ユーロ高は一旦沈静化している。

今後とも、地政学的リスクが高まる場面ではリスク回避的な円 買いニーズが強まる可能性は高いが、18 年入り後のユーロ圏経済 や物価情勢を確認しながら、秋以降の金融政策を見極める展開が 見込まれる。

ちなみに、実質実効レートからは、17 年に入り、日本円・米ド ルは低下傾向(減価)、ユーロは上昇傾向(増価)にあることが 確認できる。

(17.10.26 現在)

85 90 95 100 105

9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

2016年 2017年

図表8 主要国の実質実効レート(直近1年間)

日本円 米ドル ユーロ

英ポンド 中国人民元 豪ドル

(資料)国際決済銀行(BIS)のデータより作成 (注)値が高いほど通貨価値は高いことを意味する

(2016.9=100)

(13)

ハリケーンの影 響 は軽 微 であり、引 き続 き堅 調 な米 国 経 済

~上 院 での予 算 決 議 案 の可 決 により、税 制 改 革 は前 進 ~

佐 古 佳 史 要旨

ハリケーンの復興需要もあり強めの指標が確認されており、米国経済は引き続き堅調に 推移していると判断できる。

9

27

日にトランプ大統領と共和党指導部は税制改革案を公表した。細部が依然として 固まっておらず、富裕層優遇との批判はあるものの、大規模減税の実現に向けて一歩前進 したといえる。

9

月の

FOMC

議事要旨から、FOMC メンバーの多数が足元のインフレ率の鈍化について、

一過性の要因だけでは説明できないと考えていることが明らかとなった。

税 制 改 革 は 年 内 実 現 に 向 け 一 歩 前 進

トランプ大統領と共和党指導部は

9

27 日に税制改革案を公

表した。法人税率については同法案のもとで、現行の 35%から

20%まで引き下げられ、個人事業や有限責任会社などのパススル

ー事業体の税率は 25%が上限となる。現行では税率区分が 7 段 階ある所得税率については、 3~4 区分に簡素化される。12%、

25%、35%の3

区分に加え、高所得者が有利になり過ぎないよう、

議会税制法案起草委員会に高所得者向けの第 4 の税率区分を追 加する裁量が認められている。しかしながら、富裕層が節税手段 として利用しているパススルー事業体の税率が引き下げられるこ とから、今回の税制改革は富裕層への恩恵が大きいのではとの懸 念が根強く、法案の細部をどのように固めて、国民の理解を得て いくのかが争点となろう。

19

日に米上院は、

18

年度予算決議案を賛成

51

反対

49

で可決し た。同案は

27

年度までの

10

年間で最大

1

5

千億ドルの財政赤 字拡大を認める内容であり、税制改革案の実現に向け前進したと いえる。下院では、上院を通過した予算決議案をそのまま採決す る公算であり、10 月末にも採決に付される可能性がある。

上院において法案を議事妨害を受けずに可決するには、定数

100

人中

60

人の賛成が必要であるものの、今回の予算決議案では審議 時間には制限が設けられており、上院共和党は過半数の賛成で税 制改革案も可決できる環境にある。現在、上院で

52

議席を持つ共 和党にとって、税制改革実現のハードルが低下したといえる。

情勢判断

米国経済金融

(14)

オ バ マ ケ ア 改 廃 の 動 き は 迷 走

医療保険制度改革法案(オバマケア)を巡り、17 日に議会上院 で超党派の合意がなされ、保険会社へのオバマケア補助金の支払 いを

2

年間延期することや、共和党に配慮して低保険料低補償の プランへの加入資格の拡大などを含む骨子がまとめられた。しか し、翌日にはトランプ大統領はツイッターにて、「オバマケアで 巨額の利益を得ている保険会社を救済することは支持できない」

と批判した。依然として、オバマケアを巡る動きは迷走している といえる。

景 気 の 先 行 き : ハ リ ケ ー ン 被 害 か ら の 復 興 に よ り 強 め の 統 計 が 確 認 さ れ る

米国経済の先行きについては、引き続き景気拡大局面が継続す るとの見方に変更はない。ハリケーンの影響は一時的であり、む しろ復興需要や税制改革が一歩前進したことなどから、足元では やや強い経済指標も散見される。

9

月の小売売上高は前月比

1.6%、

前年比

4.4%と大きく増加している。また、設備投資の先行指標と

なる非国防耐久財受注(除く航空機)も

7、8

月はそれぞれ前月比

1.3%、1.1%と増加しており、消費・投資ともに堅調に推移して

いると判断できる。

景況感指数では、10 月のミシガン大学調査の期待指数が

91.3

9

月の

84.4

から大きく上昇したこともあり、先行きについて非 常に楽観的にとらえている消費者が多いことがうかがえる。また、

ISM

製造業・非製造業の景況感も高い水準を維持しており、しばら くは景気拡大が続きそうである。

また、

9

月の非農業部門雇用者数は前月比

3.3

万人減少したもの の、内訳をみると、減少したのはハリケーンの影響で客足が遠の いたと考えられる飲食店などのレジャー・接客セクターであり、

この落ち込みは一時的であろうと想定される。

15

10

5 0 5 10 15 20 25 30 35

'15/9 '15/12 '16/3 '16/6 '16/9 '16/12 '17/3 '17/6 '17/9

(万人)

図表1 非農業部門雇用者数変化

政府部門 教育・医療 レジャー・接客

専門・ビジネスサービス 卸売業・輸送・公益 サービス(情報、金融、その他)

小売 製造業 合計

(資料)米労働省より農中総研作成

(15)

イ ン フ レ 率 の 鈍 化 に 懸 念 を 強 め る

FOMC

メ ン バ ー

一方で、インフレ率は依然として鈍いままである。8 月の

PCE

デフレーター(コア)は前年比

1.3%と7

月の

1.4%から伸びが鈍

化した。また

9

月の生産者物価指数、消費者物価指数(ともにコ ア)は前年比でそれぞれ

2.2%、1.7%と8

月に続き足踏み状態と なっている。そうした中、9 月の雇用統計では平均賃金が前年比

2.9%上昇し、賃金の上昇に主導されてインフレ率の上昇が再開す

るとの期待が広がった。しかし、相対的に賃金が低いセクターで あるレジャー・接客セクターの雇用者が減少したことで、平均賃 金が高めに推計された可能性もあり、来月以降の修正値も参考に するべきであろう。今回の賃金上昇がインフレ率の上昇につなが るかどうかは依然として不透明といえる。

12

日に公開された、9 月

FOMC(連邦公開市場委員会

)の議事要旨 において、多くの

FOMC

メンバーが最近のインフレ率の鈍化につい て一過性の理由だけではないと認識していることが明らかとな り、市場にはハト派的な印象を与えた。一方で、足元の弱いイン フレ率を考慮しても年内再利上げはなお妥当との判断であり、市 場の利上げ予想はほぼ変わらなかった。

ロ ー ン 残 高 は リ ー マ ン シ ョ ッ ク 前 の ピ ー ク 超 え

ニューヨーク連銀が

8

月に公表した『家計の債務と与信につい ての四半期報告書』によると、17 年第

2

四半期の家計の負債総額 は、リーマンショック前のピークである

08

年第

3

四半期の

12.68

兆ドルを抜き、

12.84

兆ドルとなっている(図表

2)。このうち68%

を占める住宅ローンについては、リーマンショック以降クレジッ

2.0

1.5

1.0

0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

'14/1 '14/7 '15/1 '15/7 '16/1 '16/7 '17/1 '17/7

(%)

図表2 最近の消費者物価指数の推移

エネルギーの寄与度 食品の寄与度

その他の寄与度 消費者物価指数 (前年比)

(資料)米労働省より農中総研作成 (注)丸めの誤差が発生している。

9 月の消費者物価指数(総 合)は前年比 2.2%、コアは1.7%上昇にとどまる。

(16)

トスコア

(注1)

の高い優良な家計に対しての融資が多く、住宅ロー ン市場は過度なリスクを抱えることなく堅調に推移していると考 えられる(図表

3)。

一方で、それぞれ、

11%と9%のシェアを持つ学生ローンと自動

車ローンについては状況が異なる。学生ローンでは、残高は拡大 していないものの、

90

日以上の返済遅延率が

11%前後と高止まり

している。また

6

年連続で拡大中の自動車ローンでは、クレジッ トスコアが低い家計への融資割合が高まっており(図表

5)、90

日以上の返済遅延率もやや上昇傾向で推移しており、足元では

3.92%となっている。

しかしながら、FRB(連邦準備理事会)が四半期に一度行ってい る銀行上級貸出担当者調査(SLOOS)によると、7 月調査の段階で は自動車ローンに対する需要は少なく、貸出基準は厳格化してい ると報告されている。従って、引き続き自動車ローンの借り手の クレジットスコアが一段と悪化するとは考えにくいであろう。

(注1)クレジットスコアとは、個人の信用を数値化したもので、クレジットカードの履

歴や借入手段の多寡などから計算される。クレジットスコアが高いほど、信用力が高いと される。

0 2 4 6 8 10 12 14

05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年

(兆ドル)

図表3 ローン残高の推移

その他 学生ローン 自動車ローン 住宅ローン 2017年第2四半期 合計 12.84兆ドル

(資料)NY連銀

(17)

金 融 市 場 : 現 状 ・ 見 通 し ・ 注 目 点

7

FOMC

議事要旨の公表を受けて利上げ見通しが後退したこと や北朝鮮に関する地政学的リスクの高まりなどが影響し、

8

月にか けて米国長期金利(10 年債利回り)は低下基調で推移し、9 月初 めにかけて

2%割れ目前にまで迫った。しかし、9

FOMC

にて

17

年内の追加利上げが適切とあらためて示されたことや、税制改革 への期待感、次期

FRB

議長候補にタカ派的な顔ぶれも上がってい ることなどから金利は再び上昇基調に転じ、足元では

2.3%台半ば

で推移している。先行きについても

FRB

が利上げ路線にあること から、基本的には金利上昇局面が続くと考えられるが、10 月末に も明らかになる次期

FRB

議長が、ハト派的と考えられるイエレン 現

FRB

議長かパウエル

FRB

理事となった場合には金利は一旦低下 するであろう。また中国共産党大会が終わり、北朝鮮情勢に転機 が訪れる可能性も指摘されているため、北朝鮮を初め、米・中・

ロなど関係各国の動向にも注意が必要であろう。

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年

図表4 クレジットスコア別住宅ローン融資額

<620 620-659 660-719 720-759 760+

(出所)NY連銀

(10億ドル)

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180

05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年

図表5クレジットスコア別自動車ローン融資額

<620 620-659 660-719 720-759 760+

(10億ドル)

(出所)NY連銀

2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5

21,500 21,700 21,900 22,100 22,300 22,500 22,700 22,900 23,100 23,300 23,500

'8/1 '8/11 '8/21 '8/31 '9/10 '9/20 '9/30 '10/10 '10/20

(ドル) 図表6株価・長期金利の推移 (%)

(資料)Bloombergより農中総研作成 財務省証券 10年物利回り

(右軸)

ダウ平均

(左軸)

(18)

株式市場では、好調な経済指標などを受け、

8

月前半にかけて主 要株価指数が史上最高値を更新した。

8

月半ばには、北朝鮮に関す る地政学的リスクの高まりや白人至上主義者と反対派との衝突事 件に対するトランプ大統領の発言に端を発した政治的混乱が嫌気 されて株価は軟調に推移した。その後は

9

月から現在に至るまで、

ほぼ一本調子での主要株価指数の史上最高値更新が続いている。

今後についても堅調な経済指標が確認されていることや、企業業 績と税制改革への期待等もありこの上昇トレンドが続くと思われ るものの、北朝鮮情勢には注意すべきであろう。

(17.10.25 現在)

(19)

中国共産党第 19 回大会前後の経済・金融情勢

~17 年の政府目標の達成はほぼ確実に~

王 雷 軒 要旨

天候不順に加え、環境規制の実施もあり、2017 年

7~9

月期の実質

GDP

成長率は前年

6.8%と、4~6

月期(同

6.9%)から小幅鈍化した。今後も環境規制の強化により、成長率

の小幅減速が続くと思われる。一方、中国人民銀行は法定準備率の引き下げに関する通達 を公表したが、この措置は

18

年初に行われる見込みである。

内外に注目された中国共産党第

19

回全国代表大会(18~24 日)では、中国が新時代に 入ったと宣言したうえで、今後の中国の発展ビジョンを示したほか、新時代の中国の特色あ る社会主義思想も提示された。閉会後の

25

日に最高指導部のメンバーが選出された。

7

~9 月期の実質

GDP

成長率は前年

6.8%と小幅鈍

個人消費が堅調に推移したほか、輸出の底堅さも続いたものの、

17

7~9

月期の実質

GDP

成長率は前年比

6.8%と、4~6

月期(同

6.9%)から小幅鈍化した(図表1)。天候不順に見舞われたほか、

環境保全活動への監督検査が強まったことなどを受けて、関連企 業(鉄鋼・セメント・石炭など)の生産抑制や操業停止が目立っ たことが成長率を押し下げた要因であろう。

6.5 7.0 7.5 8.0 8.5

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3

12 13 14 15 16 17

(前年比%)

図表1 中国の実質GDP成長率の推移(四半期ベース)

(資料) 中国国家統計局、CEICデータより作成

情勢判断

中国経済金融

(20)

個人消費が成長を 下支え

しかし、中国経済は

9

四半期連続で

6%台後半の成長が維持され

ており、安定的に推移していると評価できる。所得環境の改善が 続くなか、投資・輸出依存型から消費けん引型への経済構造の調 整もあり、最終消費の

GDP

成長率への寄与が大きくなった(図表

2)。17

1~9

月期の

GDP

成長率(6.9%)に対する各需要項目の 寄与度をみると、消費は

4.45%(16

4.33%)、投資は2.26%

(同

2.83%)、純輸出は0.19%(同▲0.46%)となっている。

周小川総裁は

17

年下半期

7%成長

を達成する見込み と発言

さて、先行きの成長見通しについては、中国人民銀行(PBOC)

の行長(日銀総裁に相当)である周小川氏が

10

15

日に開催さ

れた

G30 国際銀行業シンポジウムにおいて、中国経済は17

年下半

期に

7%成長を達成する見込みと述べた。その根拠として、個人消

費が堅調に伸びているほか、GDP に占める比率が

50%以上に達し

た第

3

次産業の成長率が比較的高いことが挙げられている。産業 別の伸び率を確認すると、第

2

次産業の伸びが鈍化したのに対し 第

3

次産業は加速したため、

GDP

に占める第

3

次産業の割合は上昇 した(図表

3)。7~9

月期は

6.8%となったため、10~12

月期に は、成長率が

7%台へ戻す可能性が高いことを示唆していると思わ

れる。

10~12

月期も小

幅鈍化と予想

確かに、個人消費は所得増や旺盛な消費意欲により、また輸出 も世界経済の回復や人民元相場の安定などにより、底堅く推移す

-2 0 2 4 6 8 10

131619112131619112131619112131619112131619112131619

12 13 14 15 16 17

(%)

図表

2

実質GDP成長率と需要項目別の寄与度

最終消費 総資本形成

純輸出 実質GDP成長率

(資料) 中国国家統計局、CEICデータより作成

(21)

ると見込まれるなど、先行きの景気への大きな懸念はないと思わ れる。

しかし、冬季を控え、大気汚染を抑制するための環境保全圧力 がさらに高まることが見込まれることから、先行きの成長率は小 幅鈍化が続くと予想する。とはいえ、1~9 月期の実績が

6.9%と

なったことで、17 年は、政府目標である「6.5%前後」を達成し、

16

年(6.7%)の成長率をやや上回ることは確実視される。

11

月のトランプ 大統領訪中に注目

今後、

11

8

日~10 日にトランプ大統領の訪中が予定されるが、

米中間の通商交渉や北朝鮮情勢を巡る対応などに注目が集まるで あろう。なお、米財務省が

10

月中旬に発表した半期為替報告書で は、中国の為替操作国認定を見送ったものの、前回報告に引き続 き監視リストに入れている。

法定準備率の引き 下げは全面的小康 社会の実現に向け ての対応か

さて、

PBOC

は、

17

9

月末に「金融包摂(Financial Inclusion)

を実施する金融機関を対象とする法定準備率の引き下げに関する 通達」(以下、通達)を公表した。

この準備率引き下げについては、PBOC が金融政策の方向転換を 示すものではなく、金融機関の貸出構造の調整を促すものである と強調しており、現在から

20

年までに全面的小康社会の完成を実 現するという目標を達成させるための金融面での対応であると思 われる。そこで、同通達の主な内容や特徴を紹介したうえで、今 回の法定準備率引き下げの背景を考えてみたい。

0 2 4 6 8 10

2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3

(%)

図表3 産業別の伸び率の推移(前年比、四半期)

実質GDP成長率(前年比) 第1次産業 第2次産業 第3次産業

(資料) 中国国家統計局、CEICデータより作成

(22)

通達の主要な内容 通達によると、金融包摂の対象は、与信

500

万元(約

1

億円)

以下の零細企業への融資、個人商工業者・零細企業の経営者・農 家の生産経営に向けた融資、レイオフされた人々の起業に向けた 融資、貧困と認定された人・学業支援に向けた融資であると定義 されている。

次に対象となる金融機関は、大中型商業銀行(国有商業銀行、

中国郵政貯蓄銀行、株式制商業銀行)、都市商業銀行、非県域農 村商業銀行、外資銀行である。

準備率引き下げの要件は、次の通りである。①PBOC のマクロプ ルーデンス評価システム(MPA)による年

4

回の格付けのうち

3

回 は「正常」レベル以上を獲得しなければならないことに加え、② 直近

1

年間の零細企業などへの融資残高あるいは新規融資額の比

率が

17

年に

1.5%に達した金融機関は 0.5%、10%に達した金融

機関は

1.5%、それぞれ法定準備率を引き下げることができる。

さらに、県域農村商業銀行、農村合作銀行、農村信用社、村鎮 銀行については、引き続き、預金増加分の一部を所在地に貸出を 行う場合、法定準備率を

1%引き下げることができる。これらの引

下げは

18

年から実施する。ただし、政策金融機関、ノンバンクに ついては、現行水準の法定準備率が維持され、適用対象外となる。

6,000

億元超の流 動性を供給か

振り返ってみると、

PBOC

は、

15

年から、零細企業および「三農」

(農業・農村・農民)分野への金融支援を目的とした限定的な法 定準備率の引き下げを度々実施してきた(図表

4)。今回の通達は、

14 15 16 17 18 19 20 21

2013/1 2014/1 2015/1 2016/1 2017/1

(%)

図表4 中国の金融機関の法定準備率の推移

市中金融機関平均 大手金融機関 中小金融機関

(資料)中国人民銀行、CEICデータより作成 、(注)月次データ、直近は17年9月。

(23)

零細企業・「三農」に向けた融資に加えて、レイオフされた人々 の起業に向けた融資、貧困と認定された人・学業支援に向けた融 資も評価の対象となるのが特徴である。

PBOC

が公表した記者会見の内容によると、今回の引き下げ措置 は、全ての大中型商業銀行、約

90%の都市商業銀行、約95%の非

県域農村商業銀行に適用されることになる。今のところ、6,000~

8,000

億元(約

10~13

兆円規模)の流動性が供給されると見込ま

れる。

法定準備率引き下 げの背景

今回、

PBOC

が引き下げの対象や要件を発表した背景には、

18

年 初まで金融機関の金融包摂の実績評価を先送りすることで、17 年 のうち、残り

3

ヶ月(10~12 月)の間に商業銀行などが零細企業 や農業融資に力を入れるよう、金融機関の貸出行動の調整に時間 的な余裕を与えるという狙いがある。

また、17 年

10

月に共産党第

19

回大会の開催を控えたタイミン グで公表されたのは、反腐敗のほか、零細企業の資金調達難や農 村部の貧困扶助に取り組むなど、弱者配慮も重視している姿勢を アピールする狙いがあったと思われる。

党大会で習近平総 書記が報告

さて、

10

18~24

日に中国共産党第

19

回全国代表大会(以下、

党大会)が開催された。初日に、習近平総書記が「初心を忘れず、

使命を胸に刻み、中国の特色ある社会主義の偉大な旗を高く掲げ、

ややゆとりのある社会(小康社会)の全面的完成の決戦に勝利し、

新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取り、中華 民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向けて不断に奮闘す る」と題する報告を行った。以下では、

3.2

万字もある報告書の注 目点について紹介してみよう。

中国の新時代とは 報告書では、中国が新時代に入ったと宣言した。この新時代に ついては、習総書記が

20

年までに全面的小康社会の完成を実現し たうえで

21

世紀半ばまでの

30

年間を

2

段階に分けて社会主義現 代化強国を実現する時代であると述べた。

2020

年 までに小 康社会の実現

まず、現在から

20

年までに、全面的小康社会の実現を勝ち取る。

具体的には、①経済が一層発展すること、②民主が一層充実する

こと、③科学技術・教育が一層進歩すること、④文化が一層繁栄

すること、⑤社会が一層調和的になること、⑥人民の生活が一層

豊かになること、が掲げられている。1921 年に創立された中国共

産党が

20

年に

100

周年を迎える際に、全面的小康社会の完成とい

う一つ目の「100 周年奮闘目標」を実現すると明記されている。

(24)

20

年~35 年まで の

15

年間で社会 主義現代化を基本 的に実現

全面的小康社会の完成後、第

1

段階は

20

年から

35

年までであ り、社会主義現代化を基本的に実現する。具体的には、①経済力・

科学技術力が大幅に向上し、革新型国家の上位に上り詰めること、

②人民の平等な参加・平等発展の権利が十分に保障され、法治国 家・法治政府・法治社会が基本的に築き上げられ、各方面の制度 がより一層充実し、国家統治システム・統治能力の現代化が基本 的に実現すること、③社会の文明度が新たなレベルまで高まり、

国の文化的ソフトパワーが著しく増強され、中華文化により広く 深い影響力が備わること、④人民の生活がより豊かになり、中所 得層の割合が顕著に高まり、都市・農村間および地域間の発展の 格差や住民の生活水準の格差が著しく縮小し、基本公共サービス の均等化が基本的に実現し、全人民の共同富裕が堅実なスタート をきること、⑤現代的社会統治の枠組みが基本的にできあがり、

社会に活気が満ち溢れ調和と秩序も備わること、⑥生態環境が根 本的に改善し、「美しい中国」という目標が基本的に達成される こと、が掲げられている。

35

年から

21

世紀 半ばまでの

15

年 間で社会主義現代 化強国

2

段階は

35

年から

21

世紀半ばまでであり、中国を富強・民 主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国に築き上げる。具体 的には、①中国の物質文明・政治文明・精神文明・社会文明・生 態文明が全面的に向上すること、②国家統治システム・統治能力 の現代化を実現すること、③トップレベルの総合国力と国際的影 響力を有する国となること、④全人民の共同富裕が基本的に実現 し、人民がより幸せで安心な生活を送ること、⑤中華民族はます ますはつらつとして世界の諸民族のなかにそびえ立つこと、が掲 げられている。

このように、新中国建国百周年(1949 年建国)までに、中国を 富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国に築き上げ るということは、二つ目の「100 周年奮闘目標」となっている。

目標実現の基本戦 略

これらの目標実現に向けて、①全活動に対する党の指導(領導)

を堅持し、②人民を中心とすることを堅持し、③改革の全面的深 化を堅持し、④新しい発展理念を堅持し、⑤人民主体を堅持し、

⑥全面的な法に基づく国家統治を堅持し、⑦社会主義の核心的価 値体系を堅持し、⑧発展のなかでの民生の保障・改善を堅持し、

⑨人間と自然の調和的共生を堅持し、⑩包括的国家安全保障観を

堅持し、⑪人民軍隊に対する党の絶対的指導を堅持し、⑫「一国

二制度」と祖国統一の推進を堅持し、⑬人類運命共同体の構築の

(25)

促進を堅持し、⑭全面的な厳しい党内統治を堅持すること、をそ の基本戦略としている。

新時代の中国の特 色ある社会主義思 想も提示

また、新時代の中国の特色ある社会主義思想(以下、新思想)

も示された。報告では、この新思想はマルクス・レーニン主義、

毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」重要思想(中国共産党 が①先進的な生産力の発展、②先進的な文化の発展、③広範な人 民の根本的利益を代表するというものであり、江沢民元総書記が 提唱)、科学的発展観(胡錦涛前総書記が提唱)を継承・発展さ せたものである。

この新思想は、全党・全国人民が中華民族の偉大な復興の実現 に向けて奮闘するうえでの行動指針であり、長期にわたって必ず 堅持しかつ不断に発展させなければならない。

党大会の閉会日である

24

日には、

204

名の第

19

回中央委員メン バーが選出されたほか、習近平総書記の名前を冠したこの新思想

(以下、習近平思想)が党規約の行動指針に盛り込まれた改正案 も採択された。

習近平思想の内容 習近平思想の内容は、次の八つの点を明確にしている。①総任 務は、社会主義現代化と中華民族の偉大な復興を実現し、小康社 会の全面的完成を土台に、2 段階に分けて

21

世紀半ばまでに、富 強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代会強国を築き上げる こと、②新時代の中国の主要な社会矛盾は、人民の日増しに増大 する素晴らしい生活への需要と、発展の不均衡・不十分との矛盾 であり、人民を中心とする発展思想を堅持し、個々人の全面的な 発展と全人民の共同富裕を不断に促進しなければならないこと、

③中国の特色ある社会主義事業の総体的な配置は、「五位一体」

(経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態建設)であり、

戦略的な配置は「4 つの全面(小康社会の全面的完成、改革の全面 的深化、全面的な法に基づく国家統治、全面的な党の厳格な統治)

であると明確にし、路線・理論・制度・文化への自信を固めるこ と、④改革の全面的深化の総目標は、中国の特色ある社会主義制 度を充実・発展させ、国家統治システム・統治能力の現代化を推 進すること、⑤法に基づく国家統治の全面的推進の総目標は、中 国の特色ある社会主義法治システムを整備し、社会主義法治国家 を建設すること、⑥新時代における党の軍隊強化目標は、党の指 揮に従い、戦闘に勝利でき、優れた気風をもつ人民軍隊を建設し、

人民軍隊を世界一流の軍隊に築き上げること、⑦中国の特色ある

参照

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