はじめに
この論考は,2016年10月に開館した白河文化交流館コミネス(以下「コミ ネス」という.)の館長・プロデューサーをしている筆者の視点で,公立文化施 設の舞台制作事業,具体には2018年3月に行った「スペースオペラ KEGON」1)
という創作舞台の公演を通して市民協働とそのあり方を検証し,創造的文化 事業の意義を改めて問うものである.
1.公立文化ホールの使命と市民協働の意義
全国公立文化施設は2,198施設(2017年10月1日現在)2)を数えるが,芸術 文化と社会の関係では,2つの方向があるとされている.ひとつには芸術文 化を振興しその魅力を人々に伝えようとするベクトル.もうひとつは社会の 側から芸術文化の持つ力を使って地域活性化など地域課題を解決していこう
* 東北文化学園大学総合政策学部特任教授
1) 2017年3月に宮城県多賀城市主催,多賀城市文化センターで初演。2018年月に白河文化交流館 コミネスでリメイク再演された.
2) 公益社団法人全国文化施設協会調べ https://www.zenkoubun.jp
市民協働の舞台制作
―スペースオペラ KEGON の事例から―
志賀野桂一*
Stage Production by Citizen Collaboration:
A Case Study of 〝Space Opera KEGON″
SHIGANO Keiichi
というベクトルの2つである3).劇場法4)もしたがって,公立文化ホールにお ける舞台芸術を「文化芸術振興」と「文化芸術を通した地域振興」の両面から とらえて書かれている.特に後者のベクトルは,文化政策の見地からも今後 益々重要視されその使命も拡大していく傾向にある.筆者はこのことを文化 政策のパラダイムシフト5)と呼び今後の公立文化ホールの運営にも大きな影 響があると考えコミネスでも実践しているところである.
こうした法的整備も相まって自主事業を実施する会館ホールは増えてい る.しかし,自主事業と言っても《買い取り型公演》といってパッケージ化さ れた舞台を買い取る公演が多く,会館独自で質の高い事業は制作することが 困難というのが多くの公立ホールの現状である.ノウハウ・予算・専門職員の 不足が壁となっており,筆者が言うところの《創造型公演》はそう多くない6). コミネスの場合開館以来,歴史文化を踏まえ地域発信の出来る創造型の公 共ホールを目指してきた.共通コンセプトは,①地域資源を掘り下げ活用す る.②オリジナルである.③市民とプロとの協働という3つの視点でこれま で様々な事業7)を実施してきた.開館第3シーズン目に入り,歴史のまちに ちなんだ事業シリーズとして伝統芸能,「雅楽・能楽公演」,プロ声楽家対象 のオーディションで選考した歌い手による「昭和歌謡コンサート」,さらに
「タッププロジェクト白河」や,戊辰150周年企画の新作楽劇「影向のボレロ」
など,創作型の手間暇かけた市民協働の自主事業を精力的に実施している.
こうした事業実績を基に,国の助成対象ともなる舞台芸術の制作能力を高
3) 『芸術文化が街をつくる~地域活性化と芸術文化』九州大学出版会 古賀弥生著2011 4) 劇場・音楽堂等の活性化に関する法律(2012年6月27日公布)
5) 『文化政策概論』~文化芸術基本法改正を受けて我が国の文化政策の変遷を辿りながら今後の文 化政策を論ずる 志賀野桂一著2018 東北文化学園大学総合政策学部紀要 Vol17
6) 全国文化施設協会調べでは,事業を「鑑賞型」「普及型」「地域貢献型」という区分けで調査され ており,筆者のいう創造型の判別が難しい.
7) コミネス独自の創造型事業としては,初年度の開館プレ企画「コミネス魂の渡御」(2016年10月 8日 ),「FUKUSHIMA&KOBE 祈 り と 希 望 の コ ン サ ー ト・ ダ ン ス 」(2017年3月5日 ),
FUKUSHIMA 白河オペラ「魔笛」(同年年3月20日),2年度目は,「白河スーパー薪能」(2017年5 月27日),「オーケストラと遊ぼう ! &絵本作家飯野和好さんと遊ぼう」(同年8月5日),「ミッシェ ル・ルグランとヌーベルバーグ(映画とトーク・演奏)」(2018年1月)そのほか市民クラブ(新コミ カルクラブ)による「コミカルフェス2018」(同年2月),「ハイスクール劇王」(同年3月24日),や ワンコイン昼コンサートを定例で実施してきた.第3年度では,地域の映像と巡る「昭和歌謡コ ンサート」(2018年10月21日),新作楽劇「影向のボレロ」(2019年3月24日)などを実施し,他館 との差別化を図っている.
め,「文化芸術の創造プラットフォームとしてのコミネス」を目指すとことと している.ちなみにコミネスがこれまで活用してきた国の補助事業は以下の とおりである.
◆28年度:「文化芸術による地域活性化&国際発信推進事業」,白河市の事業 名称は,「文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業<文化の力による心 の復興事業>」◆29年度:「劇場・音楽堂等機能強化推進事業」,白河市の事 業名称は,「白河・創造拠点形成と文化芸術による地域創生・心の復興事業」
◆30年度:「文化芸術創造拠点形成事業」,白河市の事業名称は,「白河・文化 芸術創造プラットフォーム形成事業」として申請し,採択され執行にあたっ ている.
国の文化芸術に関する法体系は,文化芸術基本法を基に,舞台系の法律に は劇場法が整備されている.前文を含め16条にわたる劇場・音楽堂等の活性 化に関する法律(平成24年6月27日公布)が施行された.筆者のいう文化政 策のパラダイムシフトが良くわかると思うので前文からその一部紹介してお く.
「劇場,音楽堂等は,人々の共感と参加を得ることにより<新しい広場>
として,地域のコミュニティの創造と再生,地域の発展を支える機能,
国際文化交流などが期待される.
我が国においては,劇場,音楽堂等をはじめとする文化的基盤について は,それぞれの時代の変化により変遷を遂げながらも,国民のたゆまぬ 努力により,地域の特性に応じて整備が進められてきた.
劇場,音楽堂等は,文化芸術を継承し,創造し,及び発信する場であり,
人々が集い,人々に感動と希望をもたらし,人々の創造性を育み,人々 が共に生きる絆を形成するための地域の文化拠点である.また,劇場,
音楽堂等は,個人の年齢若しくは性別又は個人を取り巻く社会的状況等 にかかわりなく,全ての国民が,潤いと誇りを感じることのできる心豊
かな生活を実現する ための場として機能しなくてはならない.その意 味で劇場,音楽堂等は,常に活力ある社会を構築するための大きな役割 を担っている.さらに現代社会においては,劇場,音楽堂等は,人々の 共感と参加を得ることにより「新しい広場」として,地域コミュニティの 創造と再生を通じて,地域の発展を支える機能も期待されている.また,
劇場,音楽堂等は,国際化が進む中では,国際文化交流の円滑化を図り,
国際社会の発展に寄与する「世界への窓」にもなることが望まれる.
このように,劇場,音楽堂等は,国民の生活においていわば公共財とも いうべき存在である.これに加え,劇場,音楽堂等で創られ,伝えられ てきた実演芸術は,無形の文化遺産でもあり,これを守り,育てていく とともに,このような実演芸術を創り続けていくことは,今を生きる世 代の責務とも言える.
我が国の劇場,音楽堂等については,これまで主に,施設の整備が先行 して進められてきたが,今後は,そこにおいて行われる実演芸術に関す る活動や,劇場,音楽堂等の事業を行うために必要な人材の養成等を強 化していく必要がある.また,実演芸術に関する活動を行う団体の活動 拠点が大都市圏に集中しており,地方においては,多彩な実演芸術に触 れる機会が相対的に少ない状況が固定化している現状も改善していかな ければならない.こうした劇場,音楽堂等を巡る課題を克服するために は,とりわけ,個人を含め社会全体が文化芸術の担い手であることにつ いて国民に認識されるように,劇場,音楽堂等を設置し,又は運営する者,
実演芸術に関する活動を行う団体及び芸術家,国及び地方公共団体,教 育機関等が相互に連携協力して取り組む必要がある.(アンダーライン は筆者,条文以下略)」と書かれている.
公立文化施設としての劇場や音楽ホールの使命は,これまでの舞台芸術の 殿堂というだけではなく,文化の多様性と多様な市民層(世代間交流),文化 芸術を媒介とした市民の社交場,新しい人材育成の機関としてのホールが求 められるようになってきた.もう少し敷衍すれば,前述した第2ベクトルの
「文化芸術を活用したまちづくり」が求められているということが出来る.
コミネスでは,①専属の創造団体による作品創造 ②優れたスタッフ・キャ ストによる作品創造 ③市民による作品創造 ④地域の特色ある事業の展開 ⑤フェスティバル,コンクール,顕彰事業等の実施といった目標をたて,
課題に立ち向かってきた.中でも「専門人材の育成」は大きな課題で,劇場 ・ 音楽堂等の経営に関わる専門性とは,言い換えれば「アーツ・マネジメント8)」 の専門スキルを養成しなければならないということになる.一口にアーツ・
マネジメントと言っても幅広く,習得しなければならないことが多岐にわた る.(図1)
ホールを経営し,作品をプロデュースなどができる専門人材の育成とスキル アップ,外部の人材に頼るだけではなく,市や外郭団体の既存の人材を育てて いく戦略も必要と考え実施してきた.立ち上がりから数年間は,外部人材を登 用し,徐々に内部のスキルアップを図る戦略である.専門人材については,芸 術監督系と芸術経営系のどちらをトップに据えるか選択が必要となるが,当面,
白河は後者を選択してきたという形態となっている.実質的には,筆者が演出 など舞台制作の専門官として芸術監督兼ねて運営に携わっている現状である.
図1 アート・マネジメントの概念
8) この定義に関し諸説あるが,「芸術・文化と現代社会との最も好ましい関わりを探求し,アート の中にある力を社会に開放することによって,成熟した社会を実現するための知識,方法,活動 の総体である.」とする元慶応義塾大学 美山良夫教授の説が解り易いと筆者は考えている.
2.スペースオペラ KEGON の概要
29年度に取り組んだ20事業を超える自主事業の中で特に創作系の舞台公 演として「スペースオペラ KEGON」を取り上げてみたい.この事業は自主 事業の中でもコミネスの戦略的事業であり,地域の公立ホールとしては極め て挑戦的な企画であった.以下概要を示す.
(1)公演名称
平成29年度文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業・白河戊辰150周 年記念事業 市民参加による創作舞台『スペースオペラ《KEGON》』
(2)目的・趣旨
東日本大震災からの創造的復興を願い,併せて白河戊辰150周年を記念し て,『希望の光と命の躍動』をテーマに,“ 光のアート ” と “ 現代音楽 ” と “ ダ ンス ” が融合する舞台を市民参加により創作・上演する.白河文化交流館コ ミネスの事業方針として,買い取り型の事業とは別に,年度中にⅠ本は,創 造系の事業に取り組み,スタッフや市民各層の舞台系の人材育成に寄与する.
出演者には “ 驚異のダンサー ” と評され国内外から高い評価を得ている森 山開次,作曲と指揮を東京藝術大学副学長の松下功,オーケストラ演奏を「ア ンサンブル東風」といったプロのアーティストが務める.共演する市民の側 は,地元バレエ団と,子役ダンサーは地元の小学生から一般公募し,オーディ ションを経てプロとの共演によって質の高い舞台作品を目指す.
(3)企画概要
白河文化交流館コミネス「心の復興事業」,beyond2020認定事業,白河戊 辰150周年記念企画
〇キャッチフレーズ: 「光の仏(Vairocana)光とアートと現代音楽が融合 した壮大な舞台」~光と現代音楽とダンスのスペ クタクル~
○タイトル: スペースオペラ KEGON ~ひとりの男の子の試練と成長の 物語
○主 催:白河市,白河文化交流館コミネス ○公演日時:平成30年3月18日(日)
開場14:00 /開演14:30 /終演16:00予定 ※休憩無し ○会 場:白河文化交流館コミネス・大ホール
○チケット:ブロック指定
S 席3,500円,A 席3,000円,B 席2,500円(税込)
※未就学児入場不可(有料託児サービス有)
※各ブロック内で自由席.
○プレイガイド:
①窓口:白河文化交流館コミネス(9:00 ~ 20:00)※火曜日休館を除く.
②ネット予約:コミネスホームページ http://www.cominess.jp/
○問合せ:白河文化交流館コミネス 電話0248-23-5300
○主催:白河市,白河文化交流館コミネス 共催:白河市教育委員会 ○後援 福島民報社,福島民友新聞社,福島テレビ,福島中央テレビ,
福島放送,テレビユー福島,ラジオ福島,ふくしま FM ○協力 多賀城市
(4)市民参加
第1シーンに出演する子役ダンサーを地元の小学生から一般公募した結果 42名の応募があり,オーディションを経て最終的に32名が合格した.子供 達のダンス指導及び振付は,バレエ・スタジオ・PLANÉ(白河市)の鈴木寿 雄氏が務め,月2回の練習を行った.また,第2シーンに出演する女神たちは,
バレエ・スタジオ・PLANÉ の講師や生徒が務めた.
舞台を彩る舞台美術のうち,“ 布アート ” は福島県天栄村出身の大竹貴雄 氏が担当し,まさにプロのアーティストと地元の力が一体となった公演企画 となった.
(5)全体制作スケジュール
日 時 内 容 備 考
2017/6/1 ~ 30 出演者(子役ダンサー)公募 応募者42名 2017/7/15 子役オーディション 合格者32名
2017/8/17 初顔合わせ,保護者説明会
子役の定期練習 毎月2回程度
2017/11/27 入場チケット一般発売
2018/1/15 松下功氏講演会 コミネス小ホール 2018/2/17 森山開次氏講演会 コミネス大ホール 2018/3/15 ~ 舞台仕込み
2018/3/17 公開ゲネプロ 14:30開演 2018/3/18 本番公演 14:30開演
< KEGON 子ども練習スケジュール>
7月15日(土)童子役オーディション 8月17日(木)初顔合わせ
9月~ 12月 第1・第3土曜日 練習 1月8,27日舞台練習,2月17,24日舞台練習
3月12,14日舞台練習,3月15日舞台仕込み,3月16日場当たり 3月17日ゲネプロ,3月18日本番
(6)出演者
○森山開次(ダンス)
ダンサー・振付家.2001年エディンバラフェスティバルに て「今年最も才能あるダンサーの一人」と評され,同年ダン ス作品の発表を開始.05年ソロダンス『KATANA』で ニューヨークタイムズ紙に「驚異のダンサー」と注目され,
07年ヴェネチアビエンナーレ招聘.12年発表『曼荼羅の宇 宙』(新国立劇場)にて芸術選奨文部科学大臣新人賞ほか三 賞受賞.13年東京国体開会式式典演技メインパフォーマー,
文化庁文化交流使.NHK 教育「からだであそぼ」レギュ ラー,「情熱大陸」「日曜美術館」などメディア出演多数.
ダンスのみならず,演劇,映画,ファッション,身体表現,
近年はオペラの演出などなど幅広い活動で活躍している.
○鈴木麻矢(ダンス)
「バレエ・スタジオ・PLANÉ(白河市)」講師.女優.舞踊家.
ダンス講師(バレエ・タップ・ヒップホップ).3歳より父 に師事しクラシックバレエを始める.「私のあしながおじ さん」「源氏物語」など数々のミュージカル,ダンスパ フォーマンスに出演.東京をはじめ日本全国で公演する.
「ロミオとジュリエット」のジュリエットなどのヒロイン役 はもちろん,「夏の夜の夢」のボトムなどの道化役,さらに
「マクベス」のマクベス夫人と門番,「リア王」の道化とコー ディリアのように,同一作品においてヒロインと道化役を 同時にこなすその多彩な演技は秀逸.文化庁「子どものた めの優れた舞台芸術体験事業」にも参加し,小中学校授業 でのダンス指導や高校ダンス部のコーチ,演技ならびにダ ンスワークショップの講師など青少年育成にも積極的に尽 力している.
○松下 功(作曲・指揮)
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業,同大学院を修了.その 後ベルリン芸術大学で学ぶ.1998年,長野オリンピック文 化プログラム・オペラ《善光寺物語》および開閉会式の入場 行進曲を作曲.2000年和太鼓協奏曲第1番《飛天遊》が,ケ ント・ナガノ指揮ベルリン・フィル(和太鼓:林英哲)によ る野外コンサートで演奏され好評を博す.2010年平城遷 都1300年を記念してオペラ《遣唐使~阿倍仲麻呂》が奈良・
薬師寺で初演.2016年仏教文化賞沼田奨励賞受賞.東京 藝術大学副学長および演奏藝術センター教授.一般社団法 人日本作曲家協議会(JFC)会長,アジア作曲家連盟(ACL)
会長,アンサンブル東風代表.東京オリンピック・パラリ ンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員などを歴任.
2018年9月に文京区民オーケストラ指揮中に倒れ急逝.
○アンサンブル東風(演奏)
1999年に,若手作曲家と演奏家を中心的なメンバーとして結成された.
1999年に韓国21世紀音楽協会主催の記念音楽祭に招聘された.「きままに音 楽会」,「ながの音楽祭 ‘99」,文化庁主催のアジア・プログラムによる演奏会 に出演.2000年3月には,日蘭交流演奏会をオランダ大使館協力を受けて開催.
「きままに音楽会2000」,「アジア音楽週間2000 in 横浜」,「ながの音楽祭 2000」に出演.2000年12月,第2回自主演奏会(旧東京音楽学校奏楽堂)を開催.
2003年2月には,ミャンマー・タイ公演(国際交流基金助成)を行い,各地で 大きな反響を得た.2005年8月には「アジア作曲家連盟バンコク大会」に,同 年9月には「ガウデアムス国際現代音楽祭」に招聘され好評を博した.2014 年には,「アジア音楽祭」に出演し,その優れた演奏によりアジア作曲家連盟 より “ ベストパフォーマンス賞 ” を受賞.
○市民オーディションによる子役ダンサー(32名) ほか
(7)スタッフ
○演出・台本・構成:志賀野桂一(白河文化交流館コミネス館長)
○ 光のアート:ヤマザキミノリ(空間演出デザイナー,造形作家.女子美術 大学教授)
○巨大背景画:加川広重(画家.平成24年度宮城県芸術選奨新人賞受賞)
○布アート:大竹貴雄(布アート作家,福島県天栄村出身.)
○振付・ダンス指導:鈴木寿雄(バレエ・スタジオ・PLANÉ 主宰)
(8)ストーリーと場面
「ひとりの男の子の試練と成長の物語」として5場1幕物のつくりである.
童子たちが生を受けた世界は,試練や苦難はあるが愛と喜びに満ち,森羅 万象との関わりあいの中で,慈愛の象徴である女神に導かれながら成長して いく.しかし,ひとりの童子は心に深く大きな悲しみを抱え,女神の導きさ えも拒み,あらゆる世界との関わりを断ってしまう.
時が過ぎ,童子は嵐のような激しさとマグマのような熱を秘めた若者(役:
森山開次)に成長し,一人で生きていく力を手にするための旅に出る.広大 無辺な宇宙の中で女神による慈愛の心を悟り,その旅路の果てに若者が出
会ったものとは悟りの境地であった.
<5つのシーン>
①プロローグ 小宇宙(体内の神経細胞)の中で,生命の鼓動が聞こえる
②シーン1 子どもたちが,細胞から飛び出して地上界へ現れる
③シーン2 女神と女神たちの出現と,導きのダンス,曼荼羅(まんだら)
④シーン3 成長した若者のダンス,生命の躍動と反骨 そして悟りを表現
⑤エピローグ 誰もいない世界, 魂の解放と啓示
<シーン構成>
シーン テーマ 出演
プロローグ 小宇宙(ミクロコスモス)の中で
・・・生命の鼓動 (演奏のみ)
第1シーン 小宇宙から地上界,そして大宇宙へ 女神(鈴木麻矢),
子役ダンサー 32名 第2シーン 女神の出現と啓示・曼荼羅(まんだら) 女神たちの群舞 第3シーン 生命の躍動と反骨,そして悟り 森山開次 エピローグ 魂の解放・ニルヴァーナと啓示 (演奏のみ)
3.公演記録・台本
以下は,「スペースオペラ・KEGON」舞台進行台本(抜粋)である.
ナレーション①
はじまりは小宇宙.人間の体内にある神経細胞 / シナプスの一つ一つが明 滅(めいめつ)し,そこに命が脈動(みゃくどう)しています.
生を受けた童子たち.
童子たちが生まれた世界は,試練や苦難はあれども,愛と喜びに満ち,女 神に導かれ,成長していきます.
舞台は大宇宙.そこに,一人佇む半裸の童子.
ナレーション②
半裸の童子は深く大きな悲しみを抱え,女神の導きさえも閉ざしますが,
やがて,女神は慈愛の気持ちだけを残し,天上へと去っていきます.
時が過ぎ,嵐のような激しさと,マグマのような熱を秘めた若者に成長し た童子.
若者は,一人で生きていく力を手にするための旅に出ます.
長い旅路の途中,怒り,反逆,破壊と爆発,沈静と欲望,苦悩,そして祈り の境地をたどります.
舞台は彼の境地を描写するように,激しく変化し,音楽とともに光のアー トも,目まぐるしく,その様相を変えていきます.
その旅路の果て,彼は自分を照らす一筋の光に気付きます.
この世界とのつながりとともに,ずっと自分を照らし続けてくれた「希望 の光」に・・・.
<プロローグ>[小宇宙(ミクロコスモス)の中で・・・生命の鼓動 ナレーション③
ここは,体内の小宇宙,生命(いのち)の鼓動が聞こえます.そして身体(か らだ)の中の神経細胞が明滅し活動しています.
人間の神経細胞を思わせるシナプス群(ストレッチ布を3角または4角に 引っ張り複雑に交差させテンションする.)が,光によってあらわされる情報 の交感を行っている.
ナレーション④
やがて,生命体は人間の子どもの形になって躍動します.様々な個性を持っ た童子たちの長い旅の始まりです.<少し間>一人の女神が現れ,童子たち を導こうとします.観世音菩薩の姿をしています.童子の一人に女神の導き を拒絶する半裸の童子がいます.
写真1.第Ⅰシーン 写真2.子どもたちの稽古
<第Ⅰシーン>[小宇宙から地上界,そして大宇宙へ](写真1)
全身白を基調とした衣裳を付けた童子たちがうずくまっている.→静かに 動きだす.→舞台を這い回る.
童子たちのランダムな踊り(この中に半裸の童子が一人いる)
童子たち低いポジションから半分立ち上がりまたうずくまる動作(繰り返 す)
童子たち次第に高く飛び上がりうずくまる(繰り返し動作が大胆に大きく なる)
女神登場(中上着衣装で,舞台センター後方),童子たちを遠くから導く仕 草
少し前に進み,童子を一人ひとり各方角に旅立たせる,童子たち各方角(上・
下)にはける.
ひとり残った半裸の童子は,上手前方にしゃがみ込んでいる.半裸童子は 慟哭している様子(蹲り背中を大きく動かす簡単な動作で,泣くことを表す)
動き出す.女神の慈愛を拒否し,再び女神が導こうとするが反抗的態度は変 わらない.最後の拒絶シーンで舞台中央へ移動.舞台中央に移動,立ったま まうつむいている.
群舞逃げ去る(舞台センター後方からはけ).女神下手前に移動.
女神が半裸童子に気づき導こうとする.
半裸童子も気付くが同じ動作を継続する9).女神が半裸童子の周りを一周 する,半裸童子は女神に合わせることなく同じ動作を繰り返す.場所を移動 しても同じ動作の連続.(ポジションは要検討.)女神の導きを拒絶し,駆け 去る.
幕間で風の音[オケ演奏]
ナレーション⑤
様々な菩薩の姿をした女神たちが現れ,昆盧舎那仏(ビルシャナぶつ)を表 す光の球を仰ぎながら華厳の世界を踊ります.風の精が女神の衣を運んでき ます.女神はついにこの世に慈悲と悲哀(哀しみ)の想いを残しながら天上
9) 童子の演技指導・・童子は女神をいったん見つめ,目をそらす動作を入れていく.遠方からで も目線のかわし方で愛と反抗のないまぜの状況を表現させる.(感情の作り方として,《いじめ》
にあった子供が,孤独で泣いているという設定でやらせてみる.)
界へ飛び去っていきます.
<第Ⅱシーン>[女神の出現と啓示・曼荼羅]
舞台から子どもたちがはけた後,後方中割れ幕より,中央に女神[観世音 菩薩の化身]が現れ踊る.
群舞(それぞれが導きの女神たち)登場中心部で踊る.
曼荼羅状に円形を描くポジション,大ミラーボールに明かり(乱反射),
女神登場.(舞台センター後方中割れ幕より)女神の踊り+群舞(写真4)
半裸の童子は一瞬下手より上手に走り去るなどのシーンを挿入.
女神,中央から後方に移動し,憐みの表情で振り向き後方に歩き去る→女 神中割れ幕の奥で,女神と再び群舞が絡み,群舞が途中で前へ移動.
幕の奥で静止したままの振り,女神の導き続ける意志と慈愛の踊り.その 後,風の音 SE とともに女神中空 UP,女神の踊り(中空 主に手だけの演技)
女神,宙吊り UP となって昇天.
女神たちは,普賢菩薩(ふげんぼさつ),弥勒菩薩(みろくぼさつ),文殊菩 薩(もんじゅぼさつ),日光菩薩(にっこうぼさつ),月光菩薩(がっこうぼさ つ),虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ),の6名.
また,全員で,千手観音(せんじゅかんのん)を表現します.(写真3)
加えて「風の精」の回転系のダンスシーンが挿入される.
<第Ⅲシーン>[生命の躍動と反骨と悟り]
ナレーション⑥
女神の導きも拒絶した童子は,反骨心の強い若者に成長します.この世に 写真3.千手観音:女神たちの踊り 写真4.第2シーン
不条理を感じ,マグマのような激しい破壊の衝動を抱えたまま動きます.<
やや間>やがて,若者は大宇宙に感応し一筋の道を見つけます.それは,ニ ルヴァーナ(悟り)の境地です.
半裸ダンサー[森山開次]のソロダンス(舞台中央.サイドスポットを多用.
女神[菩薩]の導く「仏法求道の旅」に出ることを拒否して,独自の道を歩 み,最後には「自由自在・融通無碍」の境地を切り開く男性ソロダンス.(写 真5)後方暗転幕が静かに上がり,背景画(宇宙画)が現れる.
半裸体ダンサー舞台中央板付き
赤い光(怒りと反逆)
青い光(呪縛)
赤い光(破壊と爆発)
緑の光(沈静と新たな欲望)
黄色の光り(光明)
紫の光(受戒と諦観)
蒼の光(悟りの心境)
ナレーション⑦
もう誰もいません.「光明遍照(こうみょうへんじょう)」,無限の光が世界 の隅々まで照らしていく世界です.そして,<悟りの心>が静かに・・広がっ ていきます.
<エピローグ>[魂の解放・ニルヴァーナ(悟り)]
ラストの照明は,全て,縦の垂直なライトビーム(光の御柱というイメー ジで)終わる.「光明遍照」(こうみょうへんじょう)の世界観
写真5.第3シーン:森山開次 写真6.舞台美術
演奏終了(拍手)
<カーテンコール> 客電 UP 終了
解説1:概説
世界各所で起こる戦乱とテロリズム,地球規模の異常気象や火山・地震な どの大災害,不確実性を増す政治体制など将来の不安が増す中,人間社会に 着目すれば「心の危機」の時代を迎えていのではないかと思う.こうした中 で,まちづくりにおいても寛容性【Tolerance】や社会包摂【social inclusion】
(ソーシャル・インクルージョン)が今求められている.
スペースオペラ《KEGON》は,華厳経の「光明遍照(こうみょうへんじょ う)」という無限の光が遍く照らしだされる世界観と,その量子レベル光はす べての物質を通過していく透過力にインスパイア―されながら,人間の心を 開放し,外なる大宇宙(マクロコスモス)と内なる小宇宙(ミクロコスモス)を 旅する物語である.
昔見た映画「ミクロの決死圏」(原題 : Fantastic Voyage1966年のアメリカ の SF 作品)は,医師たちが縮小されて人間の体内に入り込み手術を施す物語 だが,この作品で生物の細胞など微小な世界ではなくもう一つの宇宙が広 がっていることを視覚化してくれた.
《KEGON》プロローグでは,人間の体内の神経細胞[シナプス]のミクロ宇 宙で,様々な刺激を感じる人間が,思索し反応する生命体として情報の伝達 様子を可視化していく.それはあたかも光の交信のように行われている.体 内であることを象徴するのが,心拍音のサウンドエフェクトである.
第Ⅰシーンの童子たちは,この世に生を受けた無垢なる存在としての子ども
[人間たち]であるのと同時に,体内細胞のひとつであるリンパ球であるかも しれないし,血液のヘモグロビンを運ぶ赤血球かもしれない.(最初は細胞 の暗喩としての動き)
女神が登場する.これは菩薩(文殊・普賢など様々な菩薩と考えられるが ここでは,観世音菩薩とする)の化身である.女神たちは,それぞれの菩薩(弥 勒,文殊,普賢,日光,月光,虚空,千手は全員)にあてはめて演じる.人間存 在が,この世に生を受けて成長していく際の導きの師であるが,この世の穢
れや不条理,試練や苦難,愛や喜び,童子たちの多様な所作から読み取れる かどうかは別として,次第に成長していく様を表現していく.童子の中で半 裸の童子は異端児として《いじめ》を受けている様子.女神(その他の女神が 群舞)は,最後に童子たち全員に「正覚を得る」ための指針[方向・方角]を与 えようとする.
第Ⅱシーンに入ると,体内の小宇宙から抜け出し地上の現実界に入ってく る.ミラーボールは盧舎那仏の象徴で,具象的な造形を避け光そのもの(光 球)とした.女神と群舞のダンスシーンで曼荼羅状の形象を意識させ,舞台 平面の美術(曼荼羅状に配置してある)と呼応して大宇宙と小宇宙の形(カタ チ)の同一性を表現していく.これは第Ⅲシーンからエピローグまでの伏線 となる.第Ⅰシーンの子どもたちの中に半裸の童子が1人いて,第Ⅱシーン でこの童子が,第Ⅲシーンの成長した裸体のダンサーの子ども時代の様子で あることを暗示している.菩薩(観世音)の化身である女神が,半裸の童子に 導きを与えようとするが,泣くばかりでいうことを聞かない.菩薩の化身で ある女神は慈愛の気持ちを地上に残したまま天上へと去っていく.その他の 女神(菩薩)は地上界に残る.
第Ⅲシーンは,半裸のダンサー森山の登場.童子の成長した姿である.雷 鳴のサウンドエフェクトで現れる.高貴な生まれではあるが,両親と死に別 れ,不遇な子ども時代を送ってきた.しかし,自分の力で生き抜く強靭さを 備えた若者(実はシバ神10)の化身という本性を持つ)でもある.女神の導き には耳を貸さず,常に大人に反抗してきた.世の中を破壊しようとする潜在 意識を持ち,その気持ちを制御できない熱いマグマを身体内に抱えて登場す る.
他者の導きには従わない反骨と独自の世界観で生きてきた存在であるが,
地上の光明と大宇宙の広大無辺の世界に包まれながら,自分自身の求道の旅 を続ける.
自分の大切にしていた何か(首輪など)を脱ぎ捨てることで,融通無碍の自 分を獲得する(ある種の悟り).このことは,内面宇宙と外面宇宙の合一とい うニルヴァーナ11)の境地と似ている.
10) 仏教の源流のバラモン教:創造の神ブラフマ,破壊の神シバ,継続維持の神ビシュヌ
「2001年宇宙の旅」12)は,R. シュトラウス/交響詩『ツァラストラはこう語っ た』で始まっている.また全編を流れるウインナワルツが印象的である.宇 宙の果てで出逢うのが,「誕生した瞬間の自分」そのものであるかもしれない という啓示は衝撃的である.
このスペースオペラ《KEGON》エピローグにおいては,人物は登場しない.
静かな光束が縦に伸びる光の列柱神殿が見えるだけである.「神は死んだ」と 説いた哲学者ニーチェの《未来永劫回帰》の思想は,これから起こることが未 来にもまた繰り返し起きるという暗示に読める.こうした考えは,東洋的な 輪廻転生と何故か似ている.エピローグはそうした輪廻の中で私たち人間が 生きていることをかみしめる時間を観せるシーンとなる.
解説2:<華厳>のサブストーリー
華厳経の原典は,『大方広仏華厳経』といい80巻という膨大なテキストが 存在することで知られ,大乗仏教のすべてを包含している「仏」を説こうとし たテキストである.
その本質は「光明遍照」(こうみょうへんじょう)といって無限の光が遍く 照らしだされる世界観である.ビルシャナ仏(昆盧舎那仏 Vairocana13))を中 心に世界を光輝に照らすその華麗で荘厳な光景は,これまで誰も見たことの ない超越的な世界(法界)を示している.
「一切衆生悉有(しつう)仏性(ぶっしょう)」といい,「生きとし生けるもの,
形有る物には,” 仏 ” が存在している.」と説いている.
白河版では,戊辰戦争150周年記念企画とも位置づけている.両軍兵士を 分け隔てなく弔った史実が伝わる白河の地で,仏性溢れる土地のイメージに 加味して,華厳の光が隅々まで届いていく世界観を表現した舞台となる.
11) 涅槃(ニルヴァーナ Nirvana)-サンスクリットの仏教用語.魂の解放,人間の本能から起こる 精神の迷いがなくなった状態を表す概念.
12) 原題:2001 : A Space Odyssey は,アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックのア イデアをまとめたストーリーにもとづいて製作された,SF 映画・小説.映画版はキューブリック が監督・脚本を担当した.
13) サンスクリット語のヴァイローチャナ(Vairocana)光の仏
解説3:女神,および女神たちの物語上の配役・性格付けについて スペースオペラ KEGON では,女神と女神たちが登場しますが,全てが各
<菩薩>の化身として登場します.女神は,観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)
を表象していますが,女神たち6名は,女神にお仕えする女官や侍女ではなく,
それぞれが異なる色のドレスを纏い,気持ちの上では,異なるキャラクター の菩薩という設定です.また全員で千手観音(せんじゅかんのん)を表現し ます.
<女神・女神たち(菩薩)の詳細>
◇観世音菩薩 かんぜおんぼさつ (救世)
◇普賢菩薩 ふげんぼさつ (慈悲)
◇弥勒菩薩 みろくぼさつ (友愛)
◇文殊菩薩 もんじゅぼさつ (智慧)
◇日光菩薩 にっこうぼさつ (仏の英知)
◇月光菩薩 がっこうぼさつ (慈しみ)
◇虚空菩薩 こくうぼさつ (福徳)
◇千手観音 せんじゅかんのん (手段の豊富さ)
(4)その他関連事業
① “ スペースオペラ KEGON” プレトーク
松下功氏と森山開次氏をそれぞれコミネスに招き,志賀野館長との対談形 式で,公演の概要や見所などについて解説.
○松下功
日時:平成30年1月15日(月) 18:00開演 会場:白河文化交流館コミネス・小ホール 料金:入場無料(全席自由,整理券不要)
○森山 開次
日時:平成30年2月17日(土) 13:00開演 会場:白河文化交流館コミネス・大ホール 料金:入場無料(全席自由,整理券不要)
②公開ゲネプロ
公演前日に,市内の小中学生を無料招待して,公開ゲネプロを行った.
日時:平成30年3月17日(土) 14:30開演 会場:白河文化交流館コミネス・大ホール
4.観客アンケート
①鑑賞者の年齢
1 20歳未満
5% 2 20歳代
4%
3 30歳代 10%
4 40歳代 19%
5 50歳代 18%
6 60歳代 29%
7 70歳以上 11%
8 無回答 4%
1 20歳未満 2 20歳代 3 30歳代 4 40歳代 5 50歳代 6 60歳代 7 70歳以上 8 無回答
②どこからの観客か
1 白河市内 58%
2 東白川郡 1%
3 西白河郡 15%
4 県内 14%
5 県外 10%
6 その他
2% 7 無回答
0%
1 白河市内 2 東白川郡 3 西白河郡 4 県内 5 県外 6 その他 7 無回答
③公演内容についての反応
1 大変良かった 45%
2 良かった 27%
3 ふつう 9%
4 良くない 1%
5 無回答 18%
1 大変良かった 2 良かった 3 ふつう 4 良くない 5 無回答
④公演の感想をお書きください.(自由記述)
・ 演奏が生演奏でとても臨場感があってよかったです.ナレーターが男性の 方が合うのでは?
・ オーケストラを近くで観ることができて,すばらしかった.躍動感あふれ るステージで,とても良かった.
・ コミネス通信やラジオ福島などでみどころを目に耳にして来たので楽しみ にしていた作品でした.
・ 演出上仕方がないのでしょうか,ライトがまぶしかった所がありました.
あまり,舞踊をみるチャンスがありませんでした.すばらしい出会いでし た.
・ 大変な準備だったと思う.おつかれさまでした.舞台照明がとても豪華だっ た.すばらしい.子供達はよくがんばった.内容はかなり難しかった.ダ ンス音楽もひとつひとつは高度で貴重だが全体に長いと感じた.素晴らし い内容でした.
・ すばらしかったです.ありがとうございました.
・ 場面ごとのナレーションが無ければ最高.ナレーション内容はパンフレッ トに書いてあるのに,なぜ?せめて生声で説明すれば説明不要.
・ 難解でしたが面白かったです!音楽も良かった♪!
・ 音と光と照明,歌のないオペラ,初めての体験です.子供たちの演技ダン スとても良かったですよ !! コミネスに感謝 !!
・ 宇宙という壮大なスケールで音楽とマッチしていて圧巻された.森山さん の踊っていた気力,体力,肉体美に魅了された.
・ ファンタジー !!
・ 思ったより短かったです.
・ 今日は生で森山さんのダンスを見れてとても幸せでした.
・ 森山開次の舞いを生で見られて良かったです.まさに神.音楽もすばらし かった.背景も,ライトのあて方もよかった.
・ 館長演出のあらすじが,解りにくいです.抽象的表現が多く,何度読んで も分かった様で,分からない様で,あらすじは大事です.大衆向けにお願 いしたいです.
・ 朝,新幹線で来ましたがブロック指定なので,ゆっくり街を見れなくて残 念でした.この舞台を見るため,白河へ来れてよかったです.
・ 楽しかったです.
・ 身体芸術とアートとオーケストラの融合,すばらしかったです.
・ お子さん達の一生懸命がかわいかった.
・ 森山さんのすばらしい踊りがみられてすばらしい企画だと思いました.特 に子どもたちのシーンがよかったです.アナウンサーの解説が,ひとつの 役として舞台に立って,進行役としていればよかったかと.
・ 再演希望です.森山さんを見たくて来ましたが,予想以上に楽しませてい ただきました.1日だけなのがもったいないです.皆さまお疲れ様でした.
良い舞台をありがとうございました.
・ ステージはとってもきれいでした.現代舞踊,音楽はわかりません.
・ おもしろかったです !! また見たいです !!
・ 白河にもこんなに本格的な舞台内容(オーケストラ,演劇,舞台装置など)
のものが来るようになったのか,と感慨ひとしおです.うれしい限りです.
またお願いします.それからぜひ,N 響お願いします.
・ 素晴らしかった.
・ 森山さんは本当に素晴らしい.音響がとてもよく感動しました
・ 生の音楽が良かった.加川さんの画が宇宙を感じた.森山ダンスもすごかっ
た.ありがとう♡
・ 森山さんのダンスがすばらしかったです.もう少し見たかったです.終わ りがわからなくて,びっくりしました.
・ 森山さんのダンスパフォーマンスが見れて良かったです.
・ 今日も開示さんのダンスすてきでした♪「サーカス」も楽しみにしていま す !!
・ 理解が足りてないだけかもだが,話が理解できなかった.オリジナル作品 をやるのはいいが,別アングルからの解釈を作品にするなどし,見に来る 方が分かりやすい話作りをしたほうがいいと思う.
・ 開次はやっぱりすごいです.
・ 総合芸術,といった感じで迫力があってよかったです.
5.市民協働の方法論
「市民参加」,「市民参画」,「市民協働」と参加の用語の変化とともに内容も 進化してきている.90年代に盛んになった「市民参加論」は,観客としての 参加も含め幅広い概念から始まった.その後「市民参画論」は,より主体的な 参加論となった.男女共同参画基本法(1999年)などの成立もあり,客体とし ての「市民」から行動する主体としての「市民」への変換が語られた.そして 今日では,市民と行政,企業と大学など多様な連携によってことが進められ ることが推奨され,単なる参加論から,協働論に転換しているように思える.
舞台制作においても「市民協働」が叫ばれ,イコールパートナーとしての主体 性のある「市民像」がクローズアップされる時代である.
本論では,「市民協働」を前提として,舞台制作の取組を論じているが,そ の方法は会館ごとに独自の仕方で取り組まれている.
市民協働に立ち入る前に,一般的な舞台制作の過程にはどのような仕事が あるか考えてみよう.順不同になることを前提に,主な項目を洗い出してみ る.
情報収集⇒実行準備(予備作業)⇒企画・予算・制作スタッフの座組み(内 部スタッフ・外部スタッフ)⇒公演開催日の決定・会場確保・プロ出演者予約・
契約⇒広報計画・チラシ・ポスター等紙媒体の制作・HP/SNS・媒体との契約・
記録・データの収集・整理⇒舞台技術者の確保・舞台技術の整理(委託の場合:
委託先の決定)⇒公演参加者募集・オーディション・稽古スケジュール・稽古 指導者確保・契約・実施⇒ロジスティックな業務(交通・宿泊・食事)⇒仕込 み場当たり・GP・本番⇒撤収⇒打ち上げ⇒支払確認⇒収入の確認⇒決算⇒ア ンケートなどのまとめ⇒分析⇒事業総括と数多くの項目があげられる.もち ろん演目分野によって,様々な項目が付け加わることは言うまでもない.こ れら一連の業務・職種を舞台系の「アートマネジメント」業務と呼んでいる.
この中で,公立文化施設側と市民側とでどのように仕事をシェアすることが 出来るのかが,市民協働の在り方の違いとなって現れるのである.
大きく分けると《制作系》《舞台系》に分けることが出来,《制作系》は,① 企画・制作の仕事 ②舞台技術の仕事 ③公演の当日(表方裏方・外周り)の 仕事 ④広報に関する仕事 ⑤資金調達という5つの仕事に分けられる.
《舞台系》は①出演,②稽古の世話役,③衣裳・小道具・大道具などの製作,
④ケータリングなどである.
なおアートマネジメントの基本と要諦を筆者は以下のように考えている.
<アートマネジメントの要諦は3+1>
◆ 時間(スケジュール);舞台芸術は時間とのたたかい.幕が開かなければ話 にならない!特殊商品としての「舞台作品」と心得る.
◆予算(お金);事前の予算確保が前提,執行過程での変動要素が伴う.
◆コンセプト;事業の目的,大義がしっかりしていないといけない.
◆ 危機管理;舞台公演には不測の事態が付き物と考え,常に備えの心構えが いる.
市民協働の事業を数多くこなしてきた筆者の経験値から言えば,同じ舞台 への向き合いと,課題や悩みの共有が大切と思うところである.年齢階層も 文化的背景も異なる多くの市民が集まって事を行う場合,どうしても個々人 の習慣に違いが表面化して対立の芽が生まれることも多い.そうした場合,
変えても支障がない場合に限ってだが,「変えることを恐れない」,担当スタッ フのこころ構えとして「反対意見を遠ざけない」,「ノウハウの伝授を意識的 に行う」ことに努め,共感関係を築きチーム全体として「プラスの連鎖をつく る」ことが何よりである.
ひとつの舞台制作を通じて会館とまちと人々との「幸福な関係」が生まれ ることが理想である.
<子ども用テキスト>
公演内容の理解を深めるためには,多様なチャネルを創ることが求められ るが,以下は,子供と保護者説明用のテキスト(2017.8.17)である.
「けごん」ってなぁ~に?
日本には,さまざまな信仰があって,みなさんが,それぞれ信じている神 さまがちがっているかもしれません.このオペラは,遠くインドから伝わっ たお釈迦様のつたえたお話(華厳という本)をもとに,人がいきていること,
その命の大切さや,尊さをみんなで表現してみようというオペラ(音楽とダ ンスによる物語)です.
世の中で,つらいこと,うれしいこと,あたまに来ること,悲しいこと,悩 むことなど,生きている限りありますが,ふと周りを見回すときれいな山や 川,空や雲,草木の一本一本まで,大きなこの宇宙の中に共存していること に気づきます.
宇宙も一つの大きな生命体なのです.そして,自分がこの世に生まれたこ とは,一つの奇跡かもしれませんね.そんな自分を大切に,周りの人も大切 にして生きていく心をみんなのダンスで表してみましょう.
<保護者向け解説文>
「けごん」とは何か?簡単に説明してください.とよく尋ねられます.正式 には「大法広仏華厳経」という「仏」を説こうとした経典(テキスト)のことで す.「仏=悟りに達したお釈迦」様がその悟りを得るまでの心の旅を描いた 膨大なテキストがもとになっています.「光明遍照」と言って,光が世界全体 に広がり,物を透過していき,目も眩むような光の球を中心とした光景が展 開します.「けごん」とは,したがって宇宙全体を光球のネットワークとする ことを目指す壮大な哲学ともいえます.また,どんな小さな部分にも世界全 体が映り込む世界観です.融通無礙(ゆうずうむげ)の境地とも言われてい ます.
今回,白河の子どもたちが演じるのは,この世を旅する生命体(=人間たち)
です.最初は人の神経細胞の中にうごめくリンパ球の様な存在から,やがて 人間の子どもになり,広大無辺の外の世界へ旅立ちます.その導きの役は,
女神(達)で,それぞれが菩薩の姿で登場します.子どもに授けようとします.
しかし,親の心子知らずで,どうしても反抗的な子どもは世の中いるもの です.今回登場する子どもの一人にそんな子が混じっています.第3シーン を飾るダンサー森山開次がその成長した姿です.実はシバ神の化身という設 定で,《破壊の神》という性質をもってこの世にあらわれた若者なのです.
この舞台では,光に加え風や雷など様々な自然現象が起こります.こうし た時空間の中で,一人の若者の成長の物語が進行していきます.皆様には,
この若者と共に,心の旅をしていただければ幸いです.
<演出家からの出演者へのメッセージ>
松下功先生には,華厳という難解な主題にもかかわらず,短期間で見事な 音楽世界を創り上げていただきました.本当に感謝しております.舞台は再 演をしてこそ完成していくとよく言われます.今回白河での取組は,まさに そのことを強く感じる舞台となっています.
ここに登場する子ども達は,皆がそうであるようにミクロの細胞から生ま れています.しかし塩基の組み合わせで皆異なる DNA 個性を持ってこの世 に生まれてきます.子どもたちは一個の名もない生命体から,人間へと成長 していきます.その中で半裸の童子を演じる男の子,個性の強い一人の子ど もの掘り下げがなされようとしています.
また,女神の群舞にも進化が見られます.侍女風な女神たちから,それぞ れが友情や慈愛,英知や福徳を授ける力を備えた菩薩という設定です.鈴木 演じる女神(観世音菩薩)は,どこか和風の面立ちと所作が特色で,その天上 へ飛翔する場面では,子育てが思うに任かせない母の悲嘆を垣間見せてくれ ます.菩薩といえども修行中の身の上なのです.
そして森山開次さんです.このテーマを考えた時に最初に浮かんだイメー ジが森山さんの演じた「KATANA」という作品で,森山さんありきのキャス ティングでした.スペースオペラは,この華厳経をヒントに創作された舞台 です.悟りとは,誰彼に授けられるものではなく,自分自身の中から生まれ てくるのではないのか.「華厳」は仏教経典の中でも特異な位置を占めるテキ
ストで,釈迦の心の旅ともいうべき物語です.物語後半には,悟りの道を求 める(『入法界品』にゅうほっかいぼん)で善財童子が登場し,53人の善友(師)
を尋ねて歩くのですが,全体は目も眩むような光の球を中心とした光景が展 開していくオペラの様な教本です.《仏都》とまで言われる白河で,コミネス 2シーズン目の創造舞台として KEGON(華厳)を選んだ背景がここにありま す.
今回,鈴木寿雄先生の献身的なそして熱い指導がなければ,ここまで来ら れなかったと思います.女神の鈴木麻矢さんをはじめ,それぞれの菩薩を演 じる女神たち,半年かけて練習を重ねた子どもたち,音楽とダンスのプロ フェッショナルとが未知の舞台をつくり上げてくれました.
6.まとめ
「スペースオペラ KEGON」は,筆者がいうところの「創作型の手間暇かけ た市民協働の自主事業」の代表的な一つであるが,この事業を成立させるに は3つの大きな難問・課題があった.第1には,華厳経を基にしたテーマが難 しいこと. 第2には,音楽がいわゆる《現代音楽》,ダンスがコンテンポラ リーと呼ばれる《現代ダンス》,舞台には《現代アート》が配置され,台詞も歌 もなく心臓音や風の音,雷鳴などすべて抽象的な世界観で満たされている.
白河という地で,鑑賞対象として受け入れられるのか.第3には,プロを交 えた市民協働の事業手法がどれぐらい成立するのかという課題であった.
結果は,アンケートを含めて分析すると,第1・2の課題は,アンケートに 見られるとおり,幅広い年齢層の観客層がこの公演の特徴となった.また市 域外のお客さんも県内・県外合わせて24%で約1/4が遠方からの観客となっ た.内容に対する反応は,大変良かった45%,良かった27%で計72%が満足 されたという結果である.有料催事でもあり,集客にはやや課題を残した.
都市部のマーケットとは異なる状況であった.自由記述から読み取れるのは,
森山開次の熱烈なファンは大満足という反応である.こうした公演に不慣れ な観客の純粋な気持ちが現れて興味深いが,「わからないが素晴らしい」と
「わからない」という両極に分かれたように見える.しかし「音と光と照明,
歌のないオペラ,初めての体験です.」とか,多くの「素晴らしかった.」の声,