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東京家政大学キャンパスの草地における自然植生の 研究

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Academic year: 2021

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東京家政大学キャンパスの草地における自然植生の 研究

著者 山内 昭道

雑誌名 東京家政大学博物館紀要

3

ページ 67‑74

発行年 1998

出版者 東京家政大学博物館

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010200/

(2)

東京家政大学キャンパスの草地における自然植生の研究

山内昭道

Study of Vegetation on Grassplot of Tokyo Kasei University Campus

A】d血chi YAMANoucHI

1 研究の目的

 都市における草地での自然植生の遷移の過程について実証するために、草地を6年聞放置し て、その自然植生を調査し考察する。特に草地の森林化への遷移の可能性を明らかにする。

ll 研究の方法

1.東京都板橋区加賀町に位置する東京家政大学板橋キャンパス内の草地の中に、2m×2m  の実験区を1992年4月に設置し、1997年10月まで放置し、除草など一切手を入れないよ  うにした。実験区の周囲の草地は年間1回以上除草された。

  実験区草地の位置と周辺の植生は次のとおりである。第1図に示されている大学キャンパ  スは正門からの大学の中心をなす区域である。A,B,C,D,E,F,Gの区域の植生は次のとおり

である。 巨コ5』

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         4穴営4号館 25﹁︐f︐ー︐巾・J−1−1

6大#69館

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1 隼活科営研究所

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      ■実験区F地区          東京家政大学

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第1図 児童学科 保育内容研究室

(3)

A地区

   雑木林として造林された。植林されたのはコナラ、ウリハダカエデ、エゴノキ、サクラ   で、スギ、シラカシ、カキ、イヌザクラなどは植林以前より植生していた。地表に自然植   生のシュロがある。

 B地区

   保存木に指定されたスダジイとシラカシを中心とした林で、スギの小木、サワラ、アカ   マツなどがある。

 C地区

   フジ棚とシラカシがある。

 D地区

   シラカシ、スダジイと栽植されたナツツバキが1本ある。裸地である。

 E地区

   造園された地区で、刈込まれた植栽と道路に沿ってヒメリンゴ、ムクゲ、ツツジが栽植   されている。

 F地区  実験区設置

   自然の草地の西の部分と東の部分はヒイラギナンテン、クチナシなど混植され刈込まれ   た植栽とシャクナゲ、サンゴジュ、トウネズミモチ、ツゲ、タケなどの木が植栽されてい   る。道路沿いにポプラ、ムクゲ、ツツジなどがある。実験はこの草地に設けられた。

 G地区

   オオムラサキツツジ、ヒイラギナンテンなどの混植によるしげみで東西に分けられ、西   部分はナースリールームの園庭芝地になっている。ケヤキが南側道路に沿って並木になっ   ている。

2.実験区内の草本調査

 1992年4月より10月末までの野草の種類を調査した。

3.1997年10月中に、実験区内に植生した木本と共に草本の種類を調査した。

研究の結果と考察

1.1992年における実験区内の野草の種類

  調査した結果は第1表のとおりである。調査期に記録された草本の種類は13科19種であ

 った。

  この草地における野草の種類は第1表に示されたように、年間推移していると考えられる。

 夏期に除草されるが、タンポポ類は除草しないように要請している。この草地の特徴はニホ  ンタンポポが多いということであり、このことは、大学キャンパスに樹木が多く、自然環境  の良好なことを示していると考えられる。ただし、ニホンタンポポと共にセイヨウタンポポ

(4)

 も残されるのが実態である  にもかかわらずニホンタン  ポポが植生しっS けている  ことからも、自然環境の良  好であることを示してい

 る。

 2.1997年10月における 実験区内の草本及び木本の種 類調査

 草本の種類

  ドクダミ、ハナニラの2  種類のみ植生していた。ド  クダミは日かげでもよく成  長する植物であり、地下茎  による繁殖力も旺盛で、ド  クダミによって地表がおお  われている。ハナニラは、

 D地区とF地区の道路にそ  って植栽されたものが、

 年々草地に侵入し、草地全  域に広がっている。日照の  強い草地のハナニラに比較  して、葉が細く柔らかくな  っている。木本が繁茂して  地表の日照が弱くなった環  境にドクダミが繁茂したこ  とは植物の遷移として当然  と考えられる。しかし、日  照の強いところに植栽され  るハナニラが日照の弱い林  の下草として成長している

第1表実験区内の野草の種類1992

種 名 科 名 lV/25 VI/6 町3 X/27

1 ニホンタンポポ キク科

2 セイヨウタンポポ キク科

3 ハルジオン キク科

4 ノゲシ キク科

5 ハハコグサ キク科

6 ハキダメグサ キク科

7 タチイヌノフグリ ゴマノバグサ科

8 ヒメオドリコソウ シソ科 9 キュウリグサ ムラサキ科

10 カタバミ カタバミ科

ll ムラサキカタバミ カタバミ科

12 ナズナ アブラナ科

13 ノ、コベ ナデシコ科

14 イヌタデ タデ科

15 コヒルガオ ヒルガオ科

16 ニワゼキショウ アヤメ科

17 ヅユクサ ツユクサ科

18 ドクダミ ドクダミ科

19 エノコログサ イネ科

19種 13科 9 8 13 4 第2表実験区内の木本の種類 1997

種 名 科 名 樹高 幹径

1 ニワウルシ ニガキ科

7m

9cm

2 ニワウルシ ニガキ科 lm lcm

3 ニワウルシ ニガキ科 3.5m 5cm 4 ニワウルシ ニガキ科 0.5m 0.5cm

5 エゴノキ エゴノキ科

3m

3.5cm

6 ケヤキ ニレ科

2m

1.5cm

7 ケヤキ ニレ科 2.5m 2cm

8 ケヤキ ニレ科

3m

2.5cm

9 トウネズミモチ モクセイ科 0.8m 0.5cm 10 トウネズミモチ モクセイ科

3m

3.8cm

11 トウネズミモチ モクセイ科 1.5m 2cm

ことはハナニラの環境への適応性の大きいことを示していると考えられる。来春に花を咲か せるか観察を継続したい。

 1992年の草本19種の中のドクダミが6年間で優占、その後1992年に植生していなかっ

(5)

たハナニラが植生してい ることは興味ある事実で

ある。

木本の種類

 実験区内に成長してい た木本は第2表及び第2 図、第3図のとおり4種 類ll本であった。

 ケヤキ、エゴノキ、ト ウネズミモチは大学キャ ンパスに植生している木 本であるが、ニワウルシ

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ニワウtレシ rコ/キ ケヤキ

トウネズミモサ

第2図 第3図

 は大学キャンパス内には存在しない木本であ  る。以下各木本について考察する。

  実験区の周辺の植生を示すと第4図のとおり  である。

 1. ケヤキ Zelkova serrata(Thunb.)

Makino

 落葉の高木であり、宮城、福島、埼玉の県木に 指定されている。第4図に示すように、大学4号 館の入[への道路の両側に並木として植栽され、

費店の西側にも植栽されている。実験区内には3 本の植生があり、樹高3メートルに達している。

第5図に示すように、ケヤキは風媒花であり、小        。   営   、。.

      第4図 さな雄花と雌花を咲かせ、種了は5㎜に満たない

球型の種子である。したがって、大学4号館入口の並木のケヤキが最も実験区の近くにあり、

       風によって落下し、芽生えて成長したものと考えられる。3本        は翌年1993年に同時発芽したものである。

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ケヤキ

・⑤◎ケヤキ

3号館

 2.エゴノキ Styrax japonica Sieb,et Zucc.

 第6図は実験区内のエゴノキを描いたものであり、今春に花 が咲いたことを示している。白い皮におおわれ、白い皮が裂け ると茶褐色の硬い種子があらわれる。白い皮にはエゴサポニン が含まれ、洗剤や川に流して魚を採ったりしたので、セッケン

(6)

       ノキ、ドクノミと呼ぶ地方がある。落葉の小高木で武        蔵野の林に多く、A地区の雑木林の中にも植栽されて        いる。春、白い花がつり下がって咲いて美しい。種子        は硬質なので、野鳥に飲みこまれても消化せずに排泄

  添

       される。したがって、A地区のエゴノキの種子が野鳥        に飲みこまれ、実験区内に排泄されたと考えられる。

    1膿㌦

第6図エゴノキ野鳥としてはヒヨドリ・キジバトなど考えられる。実        験区内では1本のみで、1993年に発芽した。

 3.トウネズミモチ Ligustrum lucidum Ait.

 実験区内には3本植生したが、今年は花が咲かなかったので果実はなかった。3本の木の樹 高からわかるように、1993年発芽したもの、その後発芽したものと3回にわたって種子が落 下発芽している。トウネズミモチは果肉の中に種子のある果実を結実する。したがって、ヒヨ ドリなどの野鳥が好んで食べ、果肉は消化されるが種子は消化されずに糞と共に排泄される。

      曲X・!Y        第7図 トウネズミモチ 色の果実が似ていることでネズミの糞に似ているモチノキということに由来する。

しかしながら、第4図に示すように、実験区の南へ8 mのところに樹高3mのトウネズミモチがあり、開花 結実していることから、風によって運ばれたことも考 えられる。野鳥と共に風によるものもあるのではない かと考えられる。トウネズミモチとは唐ネズミモチと いうことで中国から渡来したもので、日本のネズミモ チに比べて、葉の色が濃緑である。東京の空地などに 自生しているものがよく見られる。ネズミの糞に濃紫

 4.ニワウルシAilanthus altissima Swingle 第8図 第9図

 実験区内で最も目立った木本で第3図写真でわかるように、幹が直立し、7mに達し、長い 葉柄の複葉が放射状に出ている。実験区内には7m、3.5m、lm、0.5mの4本が植生して いることは実験区内で1992年以来、毎年種子が落下し発芽成長してきたことになる。しかし ながら、このニワウルシは大学キャンパス内にはない木本であり、大学外から飛来したことに なる。特に第8図でわかるように、この種子は種子を中心に左右約5cm、巾1.2cmの翼がつい ている。つまり風に吹かれて空中を滑空できるような構造になっている。この種子の重量を 10個秤量してみると、最大値0.049g最小値0.035 g平均値0.042 gであって、極めて軽い。

 さて、このニワウルシはどこから飛んで来たのか、大学周辺でニワウルシを探したところ、

大学の南側の道路に向かいあっている愛誠病院の南側道路際に3本の大木があることがわかっ

(7)

       た。第10図の地図の愛誠病院の記名の下の◎記号の        位置である。西側の大木は枝枯れしていたが、東側の        大木は樹高10m、幹の太さも30cmはある大木で、

       ,。,ep,   種子が結実し、道路に種子が落下していた。第8図は       ここで採集したものである。地図によって、実験区と        木との直線距離を測ってみると約200mであった。

ご鷺       この間には愛誠病院の2階病棟、7階建のマンション       第8図 ニワウルシの種子

       などがあり、大学3号館4階建がある。これらのビル        を超えて飛来したことになる。秋の強い南風によって        種子は7階建ビルに沿って上昇し、それよりも低い4        階の大学4号館を超えて草地に落下したことになる。

      しかも、毎年秋に飛来してくるので、樹高の異なる4       覧姻凶1も

       本の木が植生したと十分推察できる。

       第9図 ニワウルシの葉

      ニワウルシは雌雄異株であり、枝枯れしているが雄 株とすると、残った雌株だけでは、来年結実するかどうかわからない。又、実験区内の4本の 木についても、開花しないため、雌雄どちらであるか今のところ不明である。

 明治10年頃(1988)に日本に渡来した中国原産の木本で庭園などに植えられたと牧野新日 本直物図鑑に記されている。又、シンジュ(神樹)ともいうがTree of havenを訳したものと

いう・

        繋/麟総§。

 75紳蕪

《》◎

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馬,

       ゜、・、

  ■家政大学内実験区

第10図

(8)

結論

 東京家政大学キャンパス内の木本は、大学となる以前、江戸時代の加賀下屋敷、明治9年

(1876)に陸軍の板橋火薬製造所となり、昭和20年の終戦までの陸軍施設の間、スダジイ、

シラカシなど照葉樹林(常緑広葉樹)を主体とし、その他、アカマツ、クヌギ、イタシデ、サ クラなどの大木が残っている。大学になってからはヒマラヤスギ、ケヤキ、ポプラ、マテバシ イなどの高木、ムクゲ、ツツジなど庭園風に植栽され、雑木林も植栽され、キャンパス内には

100種をこえる木本がある緑の豊かな自然環境を形成している。現在まで、キャンパス内の照 葉樹林は建物の増築によって減少したが、まだ林の多い環境となっている。

 関東平野の極相は照葉樹林と考えられ、縄文時代にはこのキャンパスはスダジイ、シラカシ、

ピサカキ、アオキなどの照葉樹林であったと想像される。したがってキャンパス内のスダジイ、

シラカシの林は最も安定した林相であり、林相は遷移せずに保持されると考えられる。

 しかし、日照の強い草地では照葉樹林とちがった林相の生まれることを本研究は示したもの と考えられる。このことは、妙高緑苑荘近くの大田切川の洪水によって出来たがれ地に現在、

陽樹が生育して、林相の遷移が起ることが予想されるのと同様に草地の林相も遷移すると考え

られる。

 ニワウルシの種子の形態は種子を風によって遠距離撒布される有効性を知り得た。

 草地を放置した結果、樹木の多いキャンパスにおいては、ケヤキ、エゴノキ、トウネズミモ チなどの種子が落下成長することが明かになった。

 このことは草地に木本が植生し、草地が林に遷移することを示している。この後、この4種 の木本が、2m四方の実験区の中で競合又は棲みわけによって、どのような遷移が起るのか、

優占種はどの木本になるのかなど、今後、4種の木本の成長について継続観察が必要である。

又、新しい木本の侵入成長の可能性はあるのであろうか。

附記

 本研究をするにあたり、1992年の野草調査については東京家政大学家政学部大学院児童学 専攻の院生北川公美子、峯 由利香、1997年の植生地図測量(第4図)については、院生天 野久実子、武島春乃、中村 薫、永井桃子の協力を得た。

 実験区を設置することを許容された大学当局に感謝する。

参考文献

 沼田 真編  植物生態の観察と研究 1978 東海大学出版会  牧野富太郎他  牧野新日本植物図鑑 1961 北隆館

 北村四郎 岡本省吾  原色日本樹木図鑑 1959 保育社  矢野 佐   原色樹木検索図鑑    1964 北隆館

(9)

北村四郎 寺崎留吉 佐竹義輔他 堀田 満他

山内昭道 山内昭道他 山内昭道

加賀一丁目遺跡調査会 東京都北区教育委員会

村田 源  原色日本植物図鑑 木本編1、II l971 保育社 奥山春季他  寺崎日本植物図譜 1977 平凡社

  日本の野性植物 木本1、II 1989 平凡社   世界有用植物事典 1989 平凡社

  保育のための自然ウオッチング 1994 フレーベル館   身近な野草100 1995 東京家政大学出版部   母と子の草花遊びの本 1994 三省堂

       加賀一丁目(東京家政大学構内)遺跡発掘調査報告書 1995        下十条遺跡 1997

参照

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