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令和元年度研究報告書 (全体)

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(1)

令和元年度

研 究 報 告

大分県産業科学技術センター

令和2年8月発行

(2)
(3)

1.金属担当

機能性表面処理技術と評価に関する研究(第 3 報) 1

2.食品産業担当 大分県産品を活用した機能性表示食品の開発スキームの構築 7

カボスを使った水産物の高品質化に関する研究Ⅱ 10

食品中の脂溶性成分分析環境の構築(第 2 報) 15

食品素材としての県産品活用方法の研究 18

イチゴ新品種の流通加工品質向上に関する研究 23

食品分析における分析精度に関する研究 27

(4)
(5)

機能性表面処理技術と評価に関する研究(第 3 報)

宮城友昭・髙橋芳朗・園田正樹・秋本恭喜 金属担当・企画連携担当

Research of Functional Surface Treatments and Evaluating Methods (3

rd

Report)

Tomoaki MIYAGI・Yoshiro TAKAHASHI・Masaki SONODA・Yasuki AKIMOTO Metallurgy Section

Planning and Coordination Section

要 旨

センターの要素技術として機能性表面処理技術や評価技術を蓄積し,県内企業の技術支援や技術力向上,セン ターの試験高度化を目指すため,本研究に取り組んだ.表面処理の一手法として光触媒に着目し,スパッタリン グ法で多層膜・混晶膜を作製および評価することで,課題となっている均一な薄膜の作製や密着性,弱光環境下 での触媒活性の向上を目指している.本年度は,①TiO2と WOx の 2 層膜の作製および光触媒活性の評価,②TiO2

薄膜作製時のスパッタ電力の影響,③TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の作製および光触媒活性の評価,④TiO2と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の作製および光触媒活性の評価,さらに比較目的で⑤可視光源を用いた光触媒活性 の評価を行った.その結果,①TiO2薄膜の上に WOx 薄膜を堆積した 2 層膜において,TiO2薄膜よりも WOx 薄膜の 膜厚が小さいほど光触媒活性は向上すること,②TiO2薄膜はスパッタ電力が低いほどアナターゼ型結晶の比率が 高くなり,光触媒活性は向上すること,③SiO2薄膜を最表面に堆積することで親水性は向上するが,膜厚が 4nm の時に光触媒活性は最大となり,膜厚が 10nm 以上になると光触媒活性は低下すること,④WOx-SiO2混合薄膜を最 表面に堆積すると,高い光触媒活性と超親水性を同時に示すこと,⑤TiO2薄膜は可視光源下で光触媒活性を示さ ないものの,その上に WOx 薄膜さらに SiO2薄膜や WOx-SiO2混合薄膜を堆積すると光触媒活性を示すことが分かっ た.

1. はじめに

材料の表面に膜を塗布したり,電気的または化学的に めっきを施したり,蒸着や熱処理を行うことで,母材に はない機能を付加させる機能性表面処理技術への期待は 非常に大きい.近年 IoT や EV 車などが注目を浴び,電子 デバイスの重要性がより高まっていることもあり,表面 処理技術とその評価技術を向上させることは必要不可欠 となっている.大分県には自動車や半導体,医療をはじ め様々な分野の産業が集積しているが,製品の表面処理 やその評価に関する技術相談は多く,かつ内容も多岐に 渡っている.

一方,防汚・抗菌作用を持つ光触媒技術は,建材に利 用されているだけでなく,半導体や食品,医療機器メー カが抱える技術的課題(1)の解決に応用が期待されてい る.しかし,基材への均一な薄膜作製や弱光環境下での 触媒活性が課題となっている(1).そこで,スパッタリン グ法による光触媒多層膜・混晶膜の作製および評価によ りこれらの課題解決を目指すとともに,得られた技術や

知見を県内企業の技術支援や技術力向上,センターの試 験高度化に広く活用する.本年度は,昨年度までに判明 した TiO2薄膜,WOx 薄膜,SiO2薄膜の光触媒活性評価の 結果(2)をもとに,①TiO2と WOx の 2 層膜の作製および光 触媒活性の評価,②TiO2薄膜作製時のスパッタ電力の影 響,③TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の作製および光触媒活 性の評価,④TiO2と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の 作製および光触媒活性の評価,さらに比較目的で⑤可視 光源を用いた光触媒活性の評価を行ったので,以下に報 告する.

2. 実験方法 2.1 基板

各 薄 膜 を 作 製 す る 基 板 と し て , ホ ウ ケ イ 酸 ガ ラ ス 7059(ガラス基板:φ2inch×t1mm)を用いた.ブロワーで 表面の付着物を除去して,実験に供した.

2.2 スパッタリング装置

スパッタリング装置として,アルバック社製ヘリコン

(6)

スパッタ MUE-201C-HC3 を使用した.装置全体の写真を Fig.1 に示す.成膜室には RF カソードが 3 個あり,試料 ホルダーはそれらの上方にセットする.また,チャンバ ー外部よりスパッタガスであるアルゴンガスや酸素ガス を導入できるようになっている.ガス流量はマスフロー メータで調整する.

Fig.1 スパッタリング装置の写真

2.3 成膜条件

スパッタリング装置で成膜する時の各パラメータを Table 1 に示す.成膜条件は昨年の結果(2)を参考に定め ており,今回は比較する TiO2の RF 電力のみ変化させてい る.

Table 1 成膜条件

TiO2 WOx SiO2

チャンバ ー圧力

0.1 Pa 0.1 Pa 0.1 Pa

スパッタ ガス

Ar のみ Ar:O2 = 7:1 Ar のみ

ターゲッ ト―試料 間の距離

150 mm 150 mm 150 mm

RF 電力 50,100,200 W 100 W 100 W 基板温度 300℃ 室温 室温

2.4 分光光度計による光学特性評価

分光光度計(島津製作所 SolidSpec-3700)を使用して,

作製した薄膜の光学特性(透過率および反射率)を測定し た.

2.5 X 線回折による結晶構造解析

100nm 以下の薄膜や微小部解析も可能な X 線回折装置 (リガク Smartlab)を使用して,作製した薄膜の結晶性や 結晶構造を調べた.

2.6 走査プローブ顕微鏡による微細構造観察 走査プローブ顕微鏡(島津製作所 SPM-9600)を使用し て,作製した薄膜表面の微細構造を観察した.

2.7 光触媒活性評価のための光源

光触媒活性を評価するための光源として,紫外線光源 (波長:365nm)および LED 光源(波長:400~750nm)を使用 した.試料の上方 50mm の位置にランプを固定し,試料表 面に向けて光を照射した.

2.8 メチレンブルー溶液による光触媒活性評価 スパッタリング法によって作製した薄膜の光触媒活性 を評価するために,25μmol/L に希釈した 15mL のメチレ ンブルー溶液を用意した.この中に試料を浸し,紫外線 もしくは可視光を照射して,3 および 6 時間経過後のメ チレンブルー溶液を採取した.そして分光光度計により 吸光度を測定し,初期のメチレンブルー溶液の濃度と吸 光度の比から各経過時間後のメチレンブルー溶液の濃度 を算出して濃度‐時間プロットを作成した.プロットの 傾きは単位時間当たりに減少するメチレンブルー溶液の 濃度を示しており,この絶対値が大きいほど光触媒活性 は高いことを意味する.本研究では,この傾きの値の絶 対値を反応速度 k: mol/L/h とし,光触媒活性の大きさ を示す数値として以降の図中に表記する.

2.9 水滴下による接触角測定

スパッタリング法によって作製した各薄膜と水との濡 れ性を評価するために,20μL の蒸留水を薄膜表面に滴 下し,その接触角をカメラ撮影した画像より測定した.

3. 実験結果および考察

3.1 TiO2 ,WOx の 2 層膜の作製および光触媒活性評価 Fig.2 にガラス基板上に作製した TiO2と WOx の 2 層膜 の光触媒活性評価結果(TiO2薄膜:200nm)を示す.昨年度 の研究では,TiO2薄膜の上に WOx 薄膜という順に堆積し た 2 層膜の方が光触媒活性は高いことが分かった(2).そ こで本年度は TiO2薄膜の膜厚を固定し,WOx 薄膜の膜厚 を変化させて 2 層膜を作製し,光触媒活性が最大となる 条件を定めた.その結果,WOx 薄膜の膜厚が 100nm の時 に最大の光触媒活性を示し,TiO2薄膜よりも WOx 薄膜が 小さい時ほど光触媒活性は高くなることが分かった.

次に Fig.3 にガラス基板上に作製した TiO2と WOx の 2 層膜の光触媒活性評価結果(TiO2薄膜:400nm)を示す.そ の結果,WOx 薄膜の膜厚が 200nm の時に最大の光触媒活 性を示し,TiO2薄膜よりも WOx 薄膜が小さい時ほど光触 媒活性は高くなることが同様に分かった.さらに,Fig.2 と Fig.3 を比較すると,下層の TiO2薄膜の膜厚が大きく なると光触媒活性は高くなること分かった.昨年度の研 究(2)から TiO2薄膜の膜厚が大きくなると表面粗さが増加 して実表面積は大きくなり,光触媒活性は高くなること が分かっているが,下地の TiO2薄膜の膜厚が大きいほど その上に堆積する WOx 薄膜の表面粗さも影響を受けて大

(7)

きくなり,それが今回の結果にも影響していると考えら れる.また,TiO2薄膜よりも WOx 薄膜が小さい時ほど光 触媒活性が高くなる理由として,WOx 薄膜中の酸素欠陥 の密度が影響していると考えられる.酸素欠陥は励起電 子と正孔が再結合する部分であり,酸素欠陥の密度が大 きいと光触媒活性は低下することが田島らの報告(3)から も分かっている.本研究では,WOx 薄膜を Ar リッチのス パッタガス条件下(Ar:O2=7:1)で作製しているため,酸素 欠陥の密度は TiO2薄膜よりも高く,WOx 薄膜の膜厚が大 きいと酸素欠陥の数が増加して励起電子と正孔が再結合 する確率が増加し,その結果として光触媒活性は低下す ると考えられる.一方で,TiO2薄膜が 400nm,WOx 薄膜が 100nm の時に光触媒活性はやや低下しているが,これは TiO2薄膜よりも WOx 薄膜が小さすぎると,未被覆の部分 が現れることが影響しているのではないかと考えられ る.

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [時間]

T200W100 k=2.09 T200W200 k=1.78 T200W300 k=1.16

Fig.2 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx の 2 層膜の 光触媒活性評価結果(TiO2薄膜:200nm)

3.2 TiO2薄膜作製時のスパッタ電力の影響

Fig.4 に,ガラス基板の温度を 300℃に固定して,スパ ッタ電力を 50, 100, 200W に変化させて作製した TiO2薄 膜の X 線回折結果を示す.膜厚が 200nm のものはスパッ タ 電 力 を 50W,100W に , 膜 厚 が 400nm の も の は 50W,100W,200W に調整した.この結果より,同じ膜厚同 士で比較すると,スパッタ電力が低い時ほど光触媒活性 が高いアナターゼ型(101)のピークがルチル型(101)の ピークより相対的に大きくなっており,結晶中に占める アナターゼ型結晶の比率が高いことが分かった(4)

TiO2薄膜の膜厚とスパッタ電力および表面粗さの関係 を Table 2 に示す.この結果より,同じスパッタ電力同 士では膜厚が大きくなると表面粗さが増加し,同じ膜厚 同士ではスパッタ電力が高い時ほど表面粗さが大きくな ることが分かった.ただし,200W で 400nm の膜厚の TiO2

薄膜では,表面粗さが小さくなっている.この理由は,

酸素イオンによるイオン衝撃が原因ではないかと考えら

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [時間]

T400W100 k=3.40 T400W200 k=3.72 T400W300 k=3.33 T400W400 k=2.73 T400W600 k=1.80

Fig.3 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx の 2 層 膜の光触媒活性評価結果(TiO2薄膜:400nm)

れる(5).すなわち,必要以上に高いスパッタ電力を印加 すると,ターゲットから飛び出した酸素原子がイオン化 し,高い運動エネルギーを持った状態で基板まで到達し て,ブラスト効果によって粗い表面が平坦化したのでは ないかと考えられる.

Table 2 TiO2薄膜の膜厚とスパッタ電力および表面粗さ の関係

スパッタ電力(W) 膜厚(nm) 表面粗さ(nm) 50 200 3.85 100 200 4.19 50 400 4.99 100 400 14.98 200 400 1.74

Fig.5 に,ガラス基板の温度を 300℃に固定して,スパ ッタ電力を 50, 100, 200W に変化させて作製した TiO2薄 膜の光触媒活性評価結果を示す.この結果より,同じス パッタ電力同士では膜厚が大きくなると光触媒活性は向 上し,同じ膜厚同士ではスパッタ電力が低い時ほど光触 媒活性は高くなることが分かった.スパッタ電力が低い 時ほどアナターゼ型結晶の比率が高くなることが Fig.4 から分かっており,これが光触媒活性を向上させる理由 として考えられる.したがって,光触媒活性を向上させ るには,ベース材料である TiO2薄膜の作製は表面粗さを 大きくして実表面積を増加させ,光触媒反応を起こす面 積を広くするとともに,スパッタ電力を低くして,光触 媒活性の高いアナターゼ型結晶を多く含む TiO2薄膜を 作製することが重要なポイントとなる.

(8)

15 25 35 45 55 65

Intensity

2θ [deg]

50W 200nm 100W 200nm 50W 400nm 100W 400nm 200W 400nm

Fig.4 ガラス基板の温度を 300℃に固定して,スパッタ 電力を変化させて作製した TiO2薄膜の X 線回折結果

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [時間]

50W 200nm k=1.86 100W 200nm k=1.35 50W 400nm k=3.21 100W 400nm k=2.38 200W 400nm k=1.57

Fig.5 ガラス基板の温度を 300℃に固定して,スパッタ 電力を変化させて作製した TiO2薄膜の光触媒活性評価 結果

3.3 TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の作製および光触媒 活性の評価

TiO2と WOx の 2 層膜の光触媒活性評価の結果をもとに,

最表面に親水性を向上させるための SiO2薄膜を堆積し,

TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜を作製して光触媒活性を評価 した.

Fig.6 に,ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と SiO2

の 3 層膜の光触媒活性評価結果を示す.ただし,ベースと なる TiO2と WOx の 2 層膜は,TiO2 200nm,WOx 100nm と する.この結果より,TiO2と WOx の 2 層膜に SiO2薄膜を 堆積することで光触媒活性は低下することが分かった.

特に,SiO2薄膜の膜厚が 10nm 以上になると光触媒活性は 大幅に低下する一方,膜厚が 4nm の時に光触媒活性は最 大となり,TiO2と WOx の 2 層膜の時と同程度の光触媒活 性を示した.

また,ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の水滴下における接触角と表面粗さの関係を Table 3 に示す.この結果より,TiO2と WOx の 2 層膜に SiO2

膜を堆積することで水滴下における接触角が低下し,親 水性が向上していることが分かった.TiO2と WOx の 2 層 膜の時(SiO2の膜厚は 0 nm),薄膜表面に滴下した水が半 球状になって接触角が 60°を示したのに対し,SiO2の膜 厚を 2nm,4nm と堆積すると,滴下した水が表面に広がっ ていく傾向を示し,接触角が 10°未満の超親水性表面と なった.10nm 以上の時に接触角が 15°に上昇して親水性 は低下したが,これは表面粗さの低下で実表面積が低下 したことが理由として考えられる.

これらの結果から,SiO2薄膜の膜厚が 4nm の時に光触 媒活性が最大になった理由として,SiO2薄膜は光触媒作 用を示さないため,TiO2と WOx の 2 層膜の上に SiO2薄膜 を堆積することで光触媒活性は低下する一方で,水酸基 (-OH)が安定に存在するために親水性が向上し,表面だけ でなく表面近傍層の光触媒層にもメチレンブルー溶液が 浸透し,接触面積が増加することが考えられる.TiO2薄 膜は基板に対して垂直方向に結晶が伸びた柱状結晶で構 成され,表面から見ると個々の柱状結晶界面に多数の溝 や細孔が存在している(6).そして,WOx 薄膜と SiO2 薄膜 はアモルファスであることから,TiO2薄膜の表面形態に 沿って,等方的に堆積していくと考えられる.Table 3 に示したように,TiO2と WOx の 2 層膜の上に SiO2薄膜を 堆積していく過程で,表面粗さが減少する.これは TiO2

と WOx の 2 層膜の上に SiO2薄膜を堆積することで,微小 な溝や細孔が埋められていることを示している.したが って,SiO2薄膜なしでは浸透しなかった部分にもメチレ ンブルー溶液が浸透し,表面だけでなく表面近傍層の光 触媒層でも光触媒反応が起こる.SiO2薄膜の膜厚を 2nm にした時,微小な溝や細孔に SiO2薄膜は十分に形成され ず光触媒活性は低下したが,さらに堆積して 4nm にした 時,これらのバランスが保たれ,光触媒活性が最大にな ると考えられる.

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [時間]

TiO2-WOx k=2.09 +SiO2 2nm k=1.19 +SiO2 4nm k=2.18 +SiO2 10nm k=0.55 +SiO2 30nm k=0.36

Fig.6 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の光触媒活性評価結果

(a)

アナターゼ型 ルチル型(101)

(a)

(9)

Table 3 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の水滴下における接触角と表面粗さの関係

SiO2膜厚(nm) 水の接触角(deg) 表面粗さ(nm)

0 60 1.54

2 <10 -

4 <10 1.43

10 15 1.33

30 30 -

3.4 TiO2と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の作製 および光触媒活性の評価

TiO2と WOx の 2 層膜の表面に WO3ターゲットと SiO2タ ーゲットを同時スパッタすることで WOx-SiO2混合薄膜 を作製し,光触媒活性を評価した.

Fig.7 に,ガラス基板上に作製した TiO2 と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の光触媒活性評価結果を示 す.混合薄膜を作製した時の WOx と SiO2のスパッタ電力 はともに 100W に調整したので,成膜速度(2)から混合比を 見積もると,WOx と SiO2の体積比は 2:1 の混合薄膜であ ると考えられる.この結果より,SiO2薄膜の時とは異な り,堆積した混合薄膜の膜厚に比例して光触媒活性は大 幅に向上し,20nm 以上では 6 時間経過時点でメチレンブ ルー溶液は完全に分解されて透明になった.

また,ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と WOx-SiO2

の混合薄膜の 3 層膜の水滴下における接触角と表面粗さ の関係を Table 4 に示す.混合薄膜の膜厚が 20nm 以上で は接触角が 10°未満の超親水性表面であった.この理由 として,WOx-SiO2混合薄膜は,アモルファスの WOx と SiO2

の微粒子が交互に 3 次元的に混在するナノポーラス構造 になっており,SiO2の親水性によってメチレンブルー溶 液が混合薄膜の内部に浸透することが考えられる.した がって,混合薄膜の表面だけでなく内部でも光触媒反応 が起こり,結果的に光触媒反応が起こる実表面積が増大 する.それ故に,混合薄膜の膜厚が大きくなるにつれて,

光触媒活性は大幅に向上したと考えられる.今後,WOx 薄膜および SiO2薄膜の各々のスパッタ電力を調整して 混合薄膜を作製し,混合比と光触媒活性との相関関係を 調べる他,紫外線を照射した時の表面電位分布,W と Si と O の結合状態や元素成分比など,WOx-SiO2混合薄膜の 物理的特性や化学的特性を調べた上で,更なる考察を進 めていく必要があるだろう.

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [時間]

TiO2-WOx k=2.09 +混合薄膜 4nm k=1.08 +混合薄膜 10nm k=2.76 +混合薄膜 20nm k=4.16 +混合薄膜 30nm k=4.17

Fig.7 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と WOx-SiO2

混合薄膜の 3 層膜の光触媒活性評価結果

Table 4 ガラス基板上に作製した TiO2と WOx と WOx-SiO2

混合薄膜の 3 層膜の水滴下における接触角と表面粗さの 関係

混合薄膜膜厚(nm) 水の接触角(deg) 表面粗さ(nm)

0 60 1.54

4 45 -

10 30 1.71

20 <10 3.87

30 <10 5.31

3.5 可視光源を用いた光触媒活性の評価

ここまでの結果は紫外線光源を使用した実験によるも のであるが,Fig.8 に可視光源として LED 光源を使用し,

光触媒活性評価を行った結果を示す.ただし,LED 光源か ら出る光の波長の範囲は 400~750nm であり,紫外線は含 まれていない.この結果より,紫外線のみ吸収する TiO2

薄膜単体では光触媒活性を全く示さなかったが,それ以 外の薄膜は可視光も吸収する WOx 薄膜を含むため,光触 媒活性を示した.また,SiO2薄膜を堆積した場合は膜厚 が 4nm の時に最大の光触媒活性を示し,WOx-SiO2混合薄 膜を堆積した場合は膜厚に比例して光触媒活性が向上す る点については,紫外線光源の時と同様の傾向を示した.

全体的に紫外線光源の時よりも光触媒活性は低下してい るが,その理由として可視光源の時は WOx が含まれる薄 膜でのみ電子が励起されるので,表面に拡散する電子の 数も相対的に減少することが考えられる.

Fig.9 に,ガラス基板上に作製した TiO2薄膜,TiO2と WOx の 2 層膜、TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜、TiO2と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の透過率測定結果を示す.

この結果より,WOx-SiO2混合薄膜の膜厚が 20nm の時、吸 収端が可視光側にシフトしていることが分かった.WOx のバンドギャップは 2.5eV,SiO2は 8.8eV であるため,WOx

(10)

部分では光励起が起こり,かつ下層薄膜からの電子の通 り道となる一方で,SiO2部分は高いバンドギャップが障 壁となり,電子の励起は起こらない.それ故に,光触媒 反応に寄与する電子が表面に到達する過程で SiO2部分 で分極が起こり,バンド構造が変化することで,WOx 部 分ではより低い光エネルギーで励起するようになって光 触媒活性が向上したり,SiO2部分の表面自由エネルギー が増加して超親水性表面になると考えられる.

0 5 10 15 20 25 30

0 1 2 3 4 5 6 7

[μmol/L]

UV照射時間 [h]

TiO2 +WOx k=0.81 +WOx+SiO2 4nm k=0.44 +WOx+混合薄膜 4nm k=0.4 +WOx+混合薄膜 20nm k=2.26

Fig.8 ガラス基板上に作製した各薄膜の可視光による光 触媒活性評価結果

0 20 40 60 80 100

300 350 400 450 500

透過率[%]

波長 [nm]

TiO2 +WOx +WOx+SiO2 4nm +WOx+混合薄膜 4nm +WOx+混合薄膜 20nm

Fig.9 ガラス基板上に作製した TiO2薄膜,TiO2と WOx の 2 層膜、TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜、TiO2と WOx と WOx-SiO2

混合薄膜の 3 層膜の透過率測定結果

4. まとめ 本研究の結果を以下にまとめる.

①TiO2と WOx の 2 層膜の作製および光触媒活性の評価

・TiO2薄膜の上に WOx 薄膜を堆積した 2 層膜において,

③TiO2と WOx と SiO2の 3 層膜の作製および光触媒活 性の評価

・SiO2薄膜を最表面に堆積することで親水性は向上する が,膜厚が 4nm の時に光触媒活性は最大となり,膜厚 が 10nm 以上になると親水性の低下が影響して光触媒 活性は低下した.

④TiO2と WOx と WOx-SiO2混合薄膜の 3 層膜の作製およ び光触媒活性の評価

・WOx-SiO2混合薄膜を最表面に堆積すると,混合薄膜の 膜厚に比例して光触媒活性は向上し,同時に超親水性 も示すことが分かった.

⑤可視光源を用いた光触媒活性の評価

・TiO2薄膜は可視光源下で光触媒活性を示さなかったが,

その上に WOx 薄膜,さらに SiO2薄膜や WOx-SiO2混合薄 膜を堆積すると光触媒活性を示し,紫外光光源を使用 した実験の時と同じ傾向となった.ただし,紫外線光 源に比べて全体的に光触媒活性は低下した.

5. 参考文献

(1) 橋本和仁,藤嶋昭:図解 光触媒のすべて,オーム社,

p75-77

(2) 宮城友昭,高橋芳朗,園田正樹,秋本恭喜:機能性 表面処理技術および評価に関する研究(第 2 報),平 成 30 年度大分県産業科学技術センター研究報告,

p7-11

(3) 田島政弘,井上淳,塩村隆信:可視光応答型光触媒 の開発,島根県工業技術センター研究報告第 47 号 (2010),p57

(4) 水越克彰,正橋直哉:陽極酸化による二酸化チタン 光触媒の創製,まてりあ第 49 巻第 2 号(2003),p668 (5) 星陽一:TiO2膜の高速低温スパッタ成膜法,日本真

会誌(2014),Vol57,No.1,p13

(6) 高林外広:反応性スパッタリング法による低反射光 触媒膜の低温生成,まてりあ第 24 巻第 9 号(2003)

は向上し,その効果は TiO2 薄膜が厚いほど大きいこ とが分かった.

TiO2 薄膜よりも WOx 薄膜の膜厚が小さいほど光触媒活

②TiO2 薄膜作製時のスパッタ電力の影響

・TiO2 薄膜は,スパッタ電力が低いほどアナターゼ型 結晶の比率が高くなり,光触媒活性は向した.また,

表面粗さが粗いほど光触媒活性は向上した.

(11)

大分県産品を活用した機能性表示食品の開発スキームの構築

山本展久・佐野一成・水江智子 食品産業担当

Investigation on Foods with Function Claims and Development of them Using Oita Materials

Nobuhisa YAMAMOTO・Kazunari SANO・Satoko MIZUE Food Industry Section

要 旨

平成 27 年 4 月に「機能性表示食品制度」が始まり,5 年間で 2,700 件を超え,市場も成長傾向にある.これまでに届出された機 能性表示食品の一部について届出情報を調査した.調査内容を基礎情報(届出日,食品区分など),機能性情報(表示内容,エビデ ンス評価など),関与成分情報(成分名,分析法など)を整理している.また,今年度においては,機能性関与成分の分析手法の蓄 積を目的にγ-アミノ酪酸(GABA)の分析を行った.

1. 緒 言

高齢化の進行により,健康に対する関心は益々高まっ ている.このような中,食品の機能性を謳った健康食品 や健康志向食品だけではなく,日々口にする食品の機能 性についても注目度が増している.こうした状況を受け,

消費者が正しい機能性の情報を得て,商品選択ができる ように,平成 27 年 4 月 1 日に「機能性表示食品制度」が 始まった.今年度までの 5 年間で届出数は 2,700 件を超 えており,制度への食品事業者の関心の高さがうかがわ れる.

本制度は平成 3 年に制度導入された特定保健用食品と は異なり,個別審査は必要とせず,消費者庁が定める様 式による届出制となっている.届出には,安全性の確認,

有効性の根拠,関与成分の明確化とその分析などの記載 が必要である.また,特定保健用食品や機能性表示食品 の開発手段として,原材料に含まれる有効成分を活用し て最終製品に仕上げるものと,市販の有効成分素材を購 入・調合するものとに分けられ,後者の方が比較的容易で あると言われている.

平成 28 年度に産学官交流グループで「食品の機能性に 関する調査研究」(主任教官:大分大学望月教授,企業幹 事:弘蔵周子フーズテクニカルサービス副代表)が立ち 上がり,県内食品企業から 6 社 6 名および大学等から教 員 10 名の参加者が参画している.機能性表示食品制度は 事業者にとっては魅力的な制度ではあるものの,発売後

の品質管理,消費者対応等様々な障壁があることから中 小事業者からの申請は少ないのが現状である.

開発段階において,関与成分の定量分析は重要な項目 のひとつであり,当センターへの期待も大きいと思われ る.市販の有効成分素材を購入・調合する開発手段を選択 したにしても,製造工程での変質・消失は避けられず,最 終製品にどれだけ保持できるかが大きなポイントとなる.

そこで,本研究ではこれまでに市販されている機能性 表示食品を対象に,関与成分の分析法,過去研究レビュ ーの情報などについて調査し,さらに分析法については 当方で対応可能か否かを順次検討し,機能性表示食品の 開発支援の準備をすることとした.

県内企業には,多くの不安を残しつつ,機能性表示食 品への取り組みを検討している潜在ニーズがあり,本研 究では,それらに応えるべく準備を進める.将来的には,

県産品を利用した機能性表示食品の開発を目指す.

2. 試験内容 2.1 既存機能性表示食品の調査

消費者庁 HP には,これまでに申請受理された機能性表 示食品が掲載されている.今年度も引き続きこれらの既 存機能性表示食品に関して機能性や関与成分に関する情 報を調査収集し,動向を調査した.

2.2 GABAの分析

γ-アミノ酪酸(GABA)はアミノ酸の一種で動植物界に

(12)

広く分布している.ヒトに対する作用では副交感神経伝 達物質として知られている.GABA は野菜や果物など,ま たそれらの加工品にも含まれており,血圧降下作用,精 神安定作用,ストレス緩和,快眠作用などの報告もあり,

機能性表示食品への応用が期待されている.

一般的なGABAの定量分析としてはアミノ酸分析手法に よる方法が主流であるが,この他にもHPLC法や酵素法な どの方法も知られている.本研究においては,比較的安 価で簡便に実施可能なO-フタルアルデヒド(OPA)を用い た蛍光誘導体化HPLC法を検討することとした.

GABA を含むサンプルを還元条件下 OPA と反応させるこ とで蛍光を発する誘導体化(Fig.1)を行い,逆相 HPLC で分離定量を行った.

3. 結果及び考察 3.1 既存機能性表示食品の状況について

平成 27(2015)年 4 月に「機能性表示食品制度」が始 まり,本年度で 5 年目を迎える.初年度からそれぞれ A

~E の 5 つのグループに分けて番号整理されている.

Fig.2 に 5 カ年の届出数の推移をまとめた.2019 年度は 2 月末現在である.2 年目には倍増したが, 3 年目以降 市場は落ち着き,特に 2018,2019 年度はほぼ同数となっ ている.5 年間の総数は 2,700 件以上に上り,特定保健 用食品の許可件数1,080件の3倍に近づいている.

Fig.3 に食品形態の内訳を示した.「サプリメントタイ プ」と「その他加工食品タイプ(明らかに食品の態をな す食品類)」がほぼ同数である.この傾向は制度開始以来 毎年続いており,品質管理のしやすさに由来するのでは

ないかと考えられる.機能性表示食品が導入された時に 特定保健用食品にはなかった新しいカテゴリーとして 非常に注目された「新鮮食品」は,5 年間で 60 件(全件 のおよそ 2%)に留まっている.生鮮食品に含有される 機能性関与成分濃度の担保が問題とされ,管理しづらい という点が件数の伸び悩みの要因であると言われている.

特定保健用食品の認可には当該食品を用いた臨床試験 による有効性の担保が必須となっていたが,機能性表示 食品制度では過去の研究レビューによる有効性確認(シ ステマティックレビュー;SR)でも申請が可能となった.

Fig.4 に示すように,機能性表示食品のエビデンス評 価は関与成分の SR によるものが圧倒的に多く,全件の 90%以上にも上る.SR によることで,特定保健用食品の 開発に比べ開発費用や時間がかなり縮減されるという点 で優位であり,申請件数が急激に増加した要因のひとつ であると考えられる.

3.2 GABAの分析について

県産品を活用した機能性表示食品の開発を見据え,今 年度においては GABA を対象に分析手法の検討を行った.

GABA を含むサンプルを還元条件下 OPA と反応させること で,効率よく蛍光誘導体化することができ,さらに逆相 Fig.1 OPA による誘導体化反応

Fig.3 機能性表示食品の食品区分毎の届出数推移

Fig.2 機能性表示食品の届出数の推移

Fig.4 機能性表示食品のエビデンス毎の届出数推 移

(13)

HPLC で分離定量を行うことが可能となった.

この手法を用いて,県内で開発されている GABA 配合食 品の GABA 含有量を定量した(Fig.5).上図が標準品,下 図が GABA 配合食品のクロマトグラムである.

GABA は現在届出されている機能性表示食品の関与成 分の中でも難消化性デキストリンに次いで第 2 位に位置 するものであり,市場では非常に注目を集めている成分 のひとつである(Fig.6).その機能性としては,以前か

ら言われていた血圧降下作用に加え,近年ではストレス や疲労感の軽減作用,睡眠の質や活気・活力感の改善作 用も認められており,今後も成長が期待される.

4. まとめ

平成 27 年 4 月に「機能性表示食品制度」が始まり,5 年間で 2,700 件を超え,市場も成長傾向にある.これま

でに届出された機能性表示食品の一部について届出情報 を調査した.調査内容を基礎情報(届出日,食品区分な ど),機能性情報(表示内容,エビデンス評価など),関 与成分情報(成分名,分析法など)に整理した.

機能性関与成分の分析手法の蓄積を目的に γ-アミノ 酪酸(GABA)の分析を行った.

今後も市販の機能性表示食品に関する情報取集は継続 し,得られた情報については県内で機能性表示食品の開 発を希望する企業へ提供する.また,関与成分の分析に 関しても,要望に応じ新規成分についても検討を行う.

Fig.5 蛍光 HPLC 法による GABA の分析例

Fig.6 機能性表示食品の関与成分ランキング

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カボスを使った水産物の高品質化に関する研究Ⅱ

鶴岡克彦・高木喜保・佐野一成・山本展久 食品産業担当

Qualitative Improvement of a Marine Product by Feeding Kabosu Juice ResidueⅡ

Katsuhiko TSURUOKA・Kiho TAKAGI・Kazunari SANO・Nobuhisa YAMAMOTO Food Industry Section

要 旨

食品残さの有効活用の一つとして飼料化が挙げられる.大分県のブランド魚「かぼすブリ」等は,カボスの持つ抗酸化機能や香り による付加値を期待し,搾汁粕の乾燥パウダーやカボス果汁等が給与されている.しかし,乾燥粉末化においては,カボスのフラボ ノイドおよびリモネンなどの機能性成分および香気成分が減少するため,これらの成分の減少が少ないカボスパウダーの製造方法の 確立が期待されている.そこで,乾燥したカボス搾汁粕の粉砕方法および乾燥方法について検討するとともに,魚肉のリモネン含量 の分析についても検討を行った.

フラボノイド含量については,粉砕機,粉砕時のカボス搾汁粕の温度,および粉砕粒度の影響は認められなかった.リモネン含量 は,バッチ式粉砕機で有意に多かった.遠心粉砕機では粒度を大きくすること,および粉砕時のカボス搾汁粕を冷却することでリモ ネン含量が有意に多くなった.水分含量の低下に伴い,カボス搾汁粕のリモネンおよびフラボノイド含量は減少する傾向があり,水 分含量が 10%程度以上になるように乾燥することで,リモネンおよびフラボノイド含量を高くすることが可能であると考えられた.

また,フラボノイドは乾燥時間が短い形状の方が残存率が高く,リモネンの減少を抑制しつつ,短時間で乾燥できる形状を選択する ことで,リモネンおよびフラボノイド含量を高くすることが可能であると考えられた.

1. はじめに

大分県の特産品であるカボスの搾汁粕は, 搾汁業者か ら年間約 900tを超え排出されている.水分の高い搾汁 粕は再生利用しにくく,堆肥原料として従来から利用さ れているものがある一方,その大半は廃棄処分されてい ることから,再資源化の取り組みがより重要な課題とな っている.

一方,水産研究部が平成 19 年度から行ったカボス果 汁の給与試験により,ブリの血合い肉の変色遅延効果が 明らかになった. 平成 24 年の研究では搾汁粕乾燥パウダ ー(以下「カボスパウダー」と記す)も同様に効果があ ることが確認され,県内ブリ類養殖業者による「かぼす ブリ」の生産が開始された. 現在では,他種の魚にも給 与されている.今後も,養殖業者,生産量を増やすため には,品質の安定したカボスパウダーの確保が必要であ る.

これまで,搾汁粕をパウダーに乾燥させる温度と保存 方法が,カボスの機能性成分である,アスコルビン酸お よびポリフェノールとそのうちのフラボノイドの含有量

にどのように影響するのかを検証してきた.本研究では,

粉砕および乾燥がリモネンおよびフラボノイド含量に及 ぼす影響を検討するとともに,魚肉中のリモネン含量の 分析方法を検討した.

2. 実験方法 2.1 分析試料

実験には,市販の未熟カボス, 津久見市(大分県農林 水産研究指導センター農業研究部果樹グループ)におい て 9 月に収穫した未熟カボス,および県内で搾汁された 後の 2 種類のカボス搾汁粕を供試した(Fig.1).輪切り のカボス粕は,6 分の 1 にカットして用いた(Fig.1).

① ② Fig.1 カボス搾汁粕

(15)

2.2 乾燥および貯蔵方法

乾燥は通風乾燥器を用いて,60℃または 80℃で行っ た.50℃以下の乾燥は,低温恒温器で行った.

2.3 粉砕方法

粉砕器は,バッチ式粉砕機として Oster Blender (コ ールマンジャパン株式会社) (以下,BO)および Wonder Blender WB-1 (大阪ケミカル株式会社) (以下,BW),

遠心粉砕機としてロータースピードミル(フリッチュ・

ジャパン株式会社)(以下,CR)およびピンミル粉砕機

(西村機械製作所)(以下,CP),ホモジナイザーはヒス トコロン,シャフトはNS-20(株式会社マイクロテッ ク・ニチオン)を使用した(Fig.2).

A B C D

Fig.2 粉砕機 A:Oster Blender, B:Wonder Blender, C:ロータースピードミル, D: ピンミル粉砕機

2.4 リモネンおよびフラボノイド分析方法 試料に 25ml のメタノール加え,ホモジナイズ後に,

25ml のメタノールでシャフトを洗浄し 50ml とした.3 分間超音波にかけた後,4℃で 1 昼夜抽出したものを No5A のろ紙でろ過し,0.45μm のフィルターでろ過し たものを高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した 1). フラボノイドは,ナリルチン,ナリンギン,ヘスペリジ ン,ネオヘスペリジンを測定し,その合計値で示した 2). 2.5 粉砕がリモネンおよびフラボノイド含量に及ぼ

す影響の検討

試料は,県内で搾汁された後のカボス搾汁粕を用いた.

搾汁粕は輪切りのカボス搾汁粕で,6 分の 1 にカットし て用いた.乾燥は 80℃で行った.まず,粉砕機によるリ モネンおよびフラボノイド含量への影響を明らかにする ため,4 種類の粉砕機を用いて検討した.CR は 1mm およ び 4mm のふるい,CP は 1 ㎜および 10 ㎜のふるいを用い た.次に,粉砕粒度および粉砕時の試料の温度の影響を 明らかにするため,粉砕機 BO, CR,および CP を用いて 検討した.BO は,粉砕時間を 30 秒および 2 分とし,CR は 1 ㎜,CP は 1 ㎜および 10 ㎜のふるいを用いた.各粉 砕機において,デシケーター内で常温に戻した試料およ

び-30℃で 1 晩貯蔵した試料を用いた.粉砕粒度は目開き 2.8mm,1.7 ㎜,および 1 ㎜のふるいを用いて粒度の分布 を測定した.CP における粉砕粒度は,すべて 1 ㎜以下で あった.

2.6 乾燥がリモネンおよびフラボノイド含量に及ぼ す影響の検討

乾燥後の水分含量や乾燥時間がリモネンおよびフラボ ノイド含量に及ぼす影響を明らかにするため,果皮およ び県内で搾汁された後の搾汁粕を用いて検討した.乾燥 は 80℃または 60℃で行い, 最大で 24 時間乾燥した.次 に,50℃以下の温度帯での乾燥温度の影響を検討するた め,搾汁粕(Fig.1②)を用いて 30℃,40℃,および 50℃

で 24 時間乾燥した.また,乾燥時の形状による影響を検 討するため,8 分の 1 にカットしたカボスから小型固液 分離機 SYK-G800-15A(株式会社三陽理化学機器製作所)を 用いて搾汁粕を調製した後,フードプロセッサーにより 破砕した区,カボス搾汁粕を包丁でさらに 6 分の 1 にカ ットした区,無処理区を配置し,乾燥後の水分が 10%程 度になるように 80℃で乾燥した.

2.7 魚肉のリモネン分析法の検討

魚肉約 20g に 50ml のエタノールを加えホモジナイズ 後に,50ml のメタノールでシャフトを洗浄し 100ml とし た.3 分間超音波後,4℃で 1 昼夜抽出した.遠心分離お よびろ過後,ヘキサン 200ml を加え攪拌した後ヘキサン 層を回収し抽出液とした.さらにヘキサン 100ml で 2 回 繰り返し,先の抽出液と合わせた後,抽出液を減圧濃縮 し,ガスクロマトグラム(GC)で分析した3)

3. 結果及び考察

3.1 粉砕がリモネン及びフラボノイド含量に及ぼす 影響の検討

粉砕機の比較では,リモネン含量はバッチ式の粉砕機 が遠心粉砕機より有意に高かった.遠心粉砕機では,

CP の 10 ㎜が CR の 1mm および CP の 1 ㎜より有意に高か った(Fig.3).フラボノイド含量は有意な差はなかった.

カボスパウダーの粒度については,粉砕機 BO では,粉 砕時間を 2 分間とすることでカボスパウダーの粒度は小 さくなり,1 ㎜以下の割合は 90%程度となった.粉砕粒 度および試料温度を要因とする二元配置分散分析の結果,

試料温度に有意な影響が認められた (Fig.4,5).粉砕 機 CP では,ふるいサイズおよび試料温度で有意な影響 が認められた(Fig.5).粉砕機 CR では,冷却により有 意にリモネン含量が高くなった(Fig.5).粉砕機 CR で は冷却によりリモネン含量は 2.7 倍となったが,CR の 1 ㎜のふるいでは,1.3 倍であった(Fig.5).フラボノ イドについては,試料温度および粉砕粒度に有意な差は

(16)

なかった(データ無).遠心粉砕機では,遠心力による衝 撃および剪断により粉砕されることから,粉砕時に熱が 発生する.このことから遠心粉砕機では,バッチ式粉砕 機よりリモネン含量は有意に低くなったと考えられる.

一方で,バッチ式粉砕機 BO では,粒度が小さくなって もリモネン含量の減少はなかった(Fig4,5).バッチ式 では試料同士の摩擦により粒度が小さくなることから,

摩擦による熱の発生が少なく,リモネン含量が減少しな いと考えられた.遠心粉砕機 CR および CP 間では,冷却 によるリモネン含量への影響に差が見られた.粉砕機 CP は粉砕機内に試料が滞留し粉砕に時間が要するが,

CR は滞留せずに瞬時に粉砕する.このことから,遠心 粉砕機でも粉砕機内での滞留などによりリモネン含量へ の影響は異なると考えられた.

Fig.3 粉砕機ごとのリモネン含量 異符号間に有意差ありP<0.05(tukey)

Fig.4 粉砕機ごとの粉砕粒度の分布 A:BO,B:CP

Fig.5 異なる試料温度と粉砕粒度における リモネン含量 A:BO,B:CP,C:CR

異符号間に有意差ありP<0.05(t 検定,C のみ)

3.2 乾燥がリモネンおよびフラボノイド含量に及ぼ す影響の検討

16 分の 1 にカットした果皮を乾燥した試験において は,80℃および 60℃のいずれの乾燥でもリモネンの残 存率は 80%以上であった.フラボノイドの残存率は 75%

以 上 で あ り , 乾 燥 温 度 に よ る 明 確 な 差 は な か っ た (Fig6,7).カボス搾汁粕では,果皮よりリモネンおよ びフラボノイドの残存率の減少は大きく,水分の低下に 伴い,リモネンおよびフラボノイド含量が減少する傾向 があった(Fig8,9).昨年度,破砕したカボス果皮を乾 燥させた試験では,リモネン含量は 5%程度まで減少し ていた.これらのことから,搾汁や破砕などの物理的な 要因により,乾燥によるリモネンおよびフラボノイドの 減少が大きくなることが示唆された.これらのことから,

搾汁粕のリモネンおよびフラボノイド残存率を高めるに

試料温度:P=0.02 粉砕粒度:P=0.54 温度:粒度:P=0.9

試料温度:P=0.03 粉砕粒度:P<0.01 温度:粒度:P=0.3

(17)

は,水分含量が 10%以上になるように乾燥時間を調整す ることが必要である示唆された.

Fig.6 乾燥カボス果皮の水分含量とリモネン残存率 (A)市販カボス,(B)収穫カボス

Fig.7 乾燥カボス果皮の水分含量とフラボノイド残存 率 (A)市販カボス,(B)収穫カボス

Fig.8 乾燥カボス搾汁粕の水分含量とリモネン残存率 (A)カボス搾汁粕①,(B)カボス搾汁粕②

Fi g.

9 乾 燥 カ ボ

ス搾汁粕の水分含量とフラボノイド残存率 (A)カボス搾 汁粕①,(B)カボス搾汁粕②

30℃~50℃の乾燥温度においては,フラボノイド含量 に有意な差が認められた(Fig.10).乾燥温度ごとに水分 含量も異なり,乾燥温度または水分含量の影響が考えら れるが,同じ原料を用いた図 8(B)のグラフにプロットす ると,80℃の水分含量の変化におけるフラボノイド含量 と同様の傾向を示した(Fig.11).このことから,同一原 料であれば,フラボノイド含量は水分含量の影響が大き いことが示唆された。リモネン含量には有意な差はなく,

50℃以上の温度帯で乾燥することが良いと考えられた.

(18)

Fig.10 乾燥温度の影響 異符号間に有意差ありP<0.05(tukey)

Fig.11 80℃におけるフラボノイド残存率と 30℃,40℃, および 50℃におけるフラボノイド残存率の関連

搾汁粕の形状の違いを検討した結果,フラボノイド含量 は,乾燥時間が短いほうが高く,乾燥時間の短い形状に することで,フラボノイドの減少を抑制できることが示 唆された(Fig.12).一方で,リモネン含量に有意な差は なく,形状および乾燥時間など複数の要因が影響してい ることが示唆された(Fig.12).リモネンおよびフラボノ イド含量の両方を高く維持するためには,包丁でカット した形状のようにリモネンの減少を抑制しつつ,短時間 で乾燥できる形状を選択することが良いと考えられた.

Fig.12 カボス搾汁粕の形状の影響 異符号間に有意差あり P<0.05(tukey)

3.3 魚肉のリモネン含量の分析法の検討

GC により魚肉中のリモネン含量を分析した結果,民間 分析機関(分析方法:GC-MS)の分析結果と同等の分析結 果が得られた(データ無).

4. まとめ

バッチ式粉砕機と遠心粉砕機を比較すると,バッチ式 粉砕機でリモネン含量は有意に多くなった.また,バッ チ式粉砕機では,カボスパウダーの粉砕粒度を小さくし てもリモネン含量に変化はなかった.一方で,遠心粉砕 機では,カボスパウダーの粉砕粒度を大きくすることで リモネン含量は有意に多くなった.いずれの粉砕機でも 試料の冷却効果は認められた.遠心粉砕機では,粉砕機 の種類によって冷却効果は異なることが示唆された.フ ラボノイドについては,粉砕による影響は認められなか った.

カボス搾汁粕では水分含量の低下に伴い,リモネンお よびフラボノイド含量が低下する傾向があり,水分含量 が 10%程度以上になるように乾燥することによりリモネ ンおよびフラボノイド含量を高めることができると考え られた.フラボノイドの乾燥による残存率は,乾燥温度 に関わらず,水分含量に影響されることが示唆された.

フラボノイドは,乾燥時間が短い方が残存率は高く,リ モネンの減少を抑制しつつ,短時間で乾燥できる形状を 選択することで,リモネンおよびフラボノイド含量を高 めることができると考えられた.

謝 辞

資材を提供していただいた各搾汁工場,ならびに本研 究に多大なる支援を頂いた農林水産研究指導センター水 産研究部に心より御礼申し上げます.

参考文献

(1) 石原朗子, 牛川務, 吉田節也, 土佐政二, 中澤裕之, 富松利明, Citrus 属に含まれる精油成分に関する研 究(第1報)高速液体クロマトグラフィーによる陳 皮 の limonene の 分 析 , 生 薬 学 雑 誌

(1992),46(2),125-130.

(2) 廣瀬正純,香嶋章子,カボス搾汁残さの有効利用,

大分県産業科学技術センター研究報告書(2005)

(3) 深田陽久,橋口智美,柏木丈拡,妹尾歩美,高桑史 明,森岡克司,沢村正義,益本俊郎. ユズ果汁添加 飼料を給与したブリにおける血合筋の褐変抑制と筋 肉中からのユズ香気成分の検出. 日本水産学会誌 (2010),76(4),678-685.

(19)

食品中の脂溶性成分分析環境の構築(第 2 報)

佐野一成・松田貴志・松田みゆき・山本展久 食品産業担当

A Study of Analysis for Lipophilic Food Components (2

nd

Report)

Kazunari SANO・Takashi MATSUDA, Miyuki MATSUDA・Nobuhisa YAMAMOTO Food Industry Section

要 旨

食品中の脂溶性成分の定量分析についての技術習得を目的として,食品からの脂溶性成分の抽出,LC によ るカロテノイド分析に取り組んだ.標準物質を用いた添加回収試験,同一試料からの抽出の再現性等を評価し,

測定試料の調製は十分な精度で実施できることを確認した.キサントフィルの分析にはさらに改善が必要であ るが,機能性表示食品の関与成分として届出されているカロテノイド等をはじめとした分析ニーズに対応する ための環境を構築し,技術を蓄積できた.

1. はじめに

食品の表示をめぐっては,平成 27 年に食品表示法/

食品表示基準が施行された.これにより,成分表示が義 務化されるとともに,科学的根拠に基づいて食品の効 果・効能の標榜が可能になる機能性表示食品が新たに規 定された.食品に機能性を表示するためには,関与成分 の同定と定量分析が必須となっており,県内食品関連企 業による機能性表示食品開発を支援するためには,様々 な機能性関与成分の分析技術を蓄積し,分析環境を整備 することが求められる.

昨年度より,脂溶性成分の分離・定量のモデルとして,

機能性関与成分として注目されているカロテノイド分析 のための知見の蓄積,環境の構築に取り組んでおり,今 年度は遊離型キサントフィルの分析について検討を継続 した.

2. 方 法 2.1 抽出液の調製

新鮮物重量 1g 相当量の乾燥粉末をガラス製 50ml 遠 沈管(A)に秤取する.テトラヒドロフラン(THF)10ml を加えてホモジナイザーで十分に均質化する.THF 5ml でシャフトを洗浄後,さらに少量の THF で洗浄して洗 液を合わせる.遠沈管の試料を冷却遠心機で遠心分離

(5℃,3,000rpm,10min)し,上澄を別のガラス製遠 沈管(B)に分取する.残渣に先のシャフトの洗液を加え て懸濁し,遠心分離して上澄を遠沈管(B)に合わせる.

残渣に n-ヘキサン 15ml を加えて懸濁し,再度遠心分離 して上澄を遠沈管(B)に合わせる.遠沈管(B)の抽出液 を混合したのち,NaCl 飽和水溶液 15ml を加えて混合,

遠心分離して水層を除去する.再度 NaCl 飽和水溶液 15ml を加えて混合,遠心分離したのち,有機溶媒層を 梨型フラスコに移し,ロータリーエバポレータで溶媒を 留去する.留去後,n-ヘキサンで溶解し定容する.以 上の操作及び後述の試料前処理はできるだけ光を当てな いよう褐色容器等を用いて行う.

2.2 けん化処理

ネジ口試験管に抽出液を採り,減圧乾固後,1ml のジ エチルエーテル(0.05mg/ml BHT 含有)に溶解した.等 量の 5% NaOH/90% EtOH-水を加えたのち,試験管内を窒 素置換して密栓後よく混合する.室温で一夜置いたのち,

2ml の飽和 NaCl 水溶液を加えて混合し,遠心分離して 水層を除去する.飽和 NaCl 水溶液による洗浄を 2 回繰 り返し,有機溶媒層を別の試験管に移し遠心エバポレー タで留去する.残留物を n-ヘキサンで溶解し定容する.

2.3 酵素処理

ネジ口試験管に抽出液を採り,減圧乾固後,1ml のア セ ト ン ( 0.05mg/ml BHT 含 有 ) に 溶 解 し た . 0.05M Tris-HCl 緩衝液(pH9.0)を 1.05ml,同緩衝液に溶解 したコレステロールエステラーゼ溶液(100 unit/ml)

を 0.15ml 添加し,試験管内を窒素置換して密栓後よく 混合する.37℃で一夜置いたのち,各 2ml の n-ヘキサ ン及び飽和 NaCl 水溶液を加えて混合し,遠心分離して

(20)

水層を除去する.飽和 NaCl 水溶液による洗浄を 2 回繰 り返し,有機溶媒層を別の試験管に移し遠心エバポレー タで留去する.残留物を n-ヘキサンで溶解し定容する.

2.4 LC 分析

Waters Alliance e2695 システムと Jasco MD-4015 PDA 検出器を用い,YMC-C30 Carotenoid カラム(φ3mm x 150mm,3 m)を付して LC 分析を行った.測定データ の取得及び解析は Jasco ChromNAV ソフトウェアにより 行った.分析条件は Table 1 のとおり.

Table 1 LC 分析条件 溶離液 A 水

溶離液 B メタノール

溶離液 C MTBE (メチルtert-ブチルエーテル) グラジエント

条件

0.0 - 3.0 min;A:4/B:86/C:10 3.0 - 60.0 min;A:4/C:10→90 60.0 68.0 min;A:4/B:6/C:90 流速 0.35 ml/min

カラム温度 30℃

検出波長範囲 350 - 600nm

3. 結果と考察 3.1 抽出操作の検討

抽出操作の確認のため,添加回収試験を行った.β- カロテン及び trans-beta-apo-8’-carotenal(TBAC)

を均質化前に添加し,標準的な操作による損失を評価し たところ,β-カロテンの回収率は 97%,TBAC の回収 率は 88%程度であった.

また,抽出後のけん化処理,酵素処理についても同様 に添加回収試験を行ったところ,けん化の場合に TBAC の回収率がやや低く,酵素処理の場合にβ-カロテンの 回収率が大幅に低くなった.分析対象の成分によって前 処理法を適切に選択することが必要である.

Fig.1 カロテノイド添加回収試験の結果

3.2 カロテノイドの LC 分析条件の検討

前報では 2 溶媒系の高圧混合グラジエントの UPLC シ

ステムを用いたが,今回は 4 溶媒系の低圧混合グラジ エントの HPLC システムを用いた.前報のシステムでは 揮発性の高い溶媒を事前に混合調整する必要があるため,

溶媒の組成が変動し,ピーク溶出時間が変動する可能性 が高かったが,システムの変更により純溶媒を任意に混 合することが可能となり,ピーク溶出時間の再現性が向 上した.ただし,特に遊離キサントフィル等が溶出する グラジエント初期のピークは溶出時間の変動がみられる ため,カラムの平衡化時間を長くとる必要がある.

PDA 検出器を使用した本システムでは,ピーク溶出時 間とともに吸収スペクトルも成分同定のパラメータとす ることができ,標準物質の分析結果から構築したデータ ベースにより誤検出の排除,成分の同定が可能となった.

3.3 実試料分析例

うんしゅうみかんの分析例を Fig.2 に示す.抽出試 料の分析(A)では複数のピークが検出されていたが,け ん化(B)・酵素処理(C)により主要ピーク 1 つに集約さ れた.このピークはβ-クリプトキサンチンと同定され,

(A)で検出されたピークはこのエステル化成分と考えら れた.β-クリプトキサンチンの含有量は約 1.1mg/100g で,日本食品標準成分表収載値(1.7~1.9mg/100g)よ りも低値となったが,完熟ではない個体を測定試料とし たためと思われる.

Fig.2 実試料分析例(うんしゅうみかん)

また,褐藻類に特有の成分として含有されるフコキサ ンチンの分析についても検討した.海藻類の分析例を

(21)

Fig.3 に示した.ヒジキ原藻乾燥物,クロメ細切乾燥物 について分析したところ,ヒジキでは含有量がかなり低 値であった一方,クロメでは 5mg/100g 程度の含有量と なった.褐藻類のフコキサンチン含有量を Table 2 に 示したが,乾物ではクロメの近縁種であるアラメを含む 多くの褐藻類でフコキサンチンが検出されない中,今回 クロメで一定量が検出されており,乾燥方法や保存方法 等との関連を検討する必要があると思われ,分析数を積 み増す必要があると考えている.

Fig.3 実試料分析例(褐藻類)

Table 2 褐藻類のフコキサンチン含有量(g/100g)

コンブ ワカメ アラメ ホンダワラ ヒジキ 生褐藻 19 11 7.5 6.5 2.2 乾物 2.2 8.4 ND ND ND ND:検出限界以下 (日本食品科学工学会誌 55-4 p.194)

4. まとめ

標準物質を用いた添加回収試験,同一試料からの抽出 の再現性等を評価し,測定試料の調製は十分な精度で実 施できることを確認した.キサントフィルの分析にはさ らに改善が必要であるが,機能性表示食品の関与成分と して届出されているカロテノイド等をはじめとした分析 ニーズに対応するための環境を構築し,技術を蓄積でき たと考えられる.今回の課題に付随して得られた知見・

技術は脂溶性ビタミン等の分析にも応用可能であり,か んきつ類,野菜類,海藻,椎茸などの県産品の高付加価

値化に向けた取り組みに繋げていきたい.

(22)

食品素材としての県産品活用方法の研究

後藤優治 ・ 松田みゆき ・ 松田貴志 ・ 佐野一成 ・ 山本展久 食品産業担当

Study on Application method of Agricultural products for food material

Yuji GOTO・ Miyuki MATSUDA・Takashi MATSUDA・Kazunari SANO・Nobuhisa YAMAMOTO Food Industry Section

要 旨

県内農産品の香気成分,色素成分の回収方法及び分析方法を検討した.昨年度の研究に引続き,大葉を試験検体とし て,大葉を用いた市販製品と大葉の香気成分との比較を試みた.また,県内農林水産品である,サフラン,イチゴを用 いて,香気成分,色素成分の回収を試みた.

大葉を用いた市販製品との比較では,ガスクロマトグラフによる分析の結果,大葉の香りに必要な香気成分が,蒸 留により回収できる成分であることが確認できた.イチゴにおけるガスクロマトグラフ分析では,香気成分の品種間差 が確認でき,主要な香気成分については回収が可能であった.サフランにおけるガスクロマトグラフ分析では,植物組 織の部位により香気成分が異なることが確認でき,主要な香気成分については回収が可能であった.官能評価結果とヘ ッドスペースガスクロマトグラフによる分析結果を比較すると,香りとピークの関連が不明な成分も認められた.さら に,サフランの溶媒抽出においては,分光光度計の分析の結果,廃棄される部位である花弁,雄蕊などからも雌蕊に含 まれる色素及び香気成分が確認できた.また,雄蕊からは特異な香気成分が確認できた.こられの結果より,未利用部 位を有効活用できる可能性が認められた.一方で,廃棄部位の活用のためには,抽出効率や,構成成分の安定化,加工 方法などについて,さらなる検討が必要である.イチゴについては,香気成分において品種間差異が認められたことか ら,青果における特徴づけや,加工品における香味調整の検討に活用できる可能性が認められた.

1. はじめに

県内には,豊富な魅力ある農林水産品や地域資源があ り,生鮮品や加工食品として流通・消費されている.生 鮮品は,味や風味を最大限に生かすために,冷蔵や包装 など鮮度保持技術が開発されているが,長期保存に適さ ない点,旬による生産調整が難しい点が課題である.加 工食品は豊富な地域産品を活用して,保存性や嗜好性を 高めることで付加価値の向上やブランド力の向上に寄与 しているが,加工工程で味や香りが変化する点が課題で ある.

県産品活用のために食品加工技術は重要であり,付加 価値の向上のためには,青果物と同等の風味を出すこと が必須である.また,色や香りは近年注目されている素 材であり,県産品を新たに活用できる可能性がある.

そこで,県産品の色や香りといった特徴を食品素材と して活用するための検討を行ったので報告する.

本研究では,『果実から香料の開発』や,『青果物にお ける特徴香の解析』などの研究事例を参考とし,当セン ターでこれまでに行ってきた,『酒類の香気成分分析』の

研究の手法を応用した.

昨年度に引き続き,新たな農林水産品を対象に試験を 実施した.

2. 方 法 2.1 試験材料

本試験では,サフラン(竹田市産),イチゴ(宇佐市産)

を用いた.また,大葉の香気成分の検証のため,大葉を 用いた市販製品(青しそドレッシング,チューブ入り刻 み青しそ)を試験材料とした.

竹田市のサフランは,日本で有数の産地であるが,そ の出荷(製品)は雌蕊のみである.雄蕊,花弁は廃棄さ れていることから,この廃棄部位を試験に用いた.

イチゴについては各県で様々な品種が栽培されている が,春以降は商品価値が低下する傾向にあるため,加工 原料としての利用価値を確認するために,多品種をサン プルとして用いた.品種名は次のとおり,ベリーツ,べ にほっぺ,とちおとめ,さがほのか,あまおとめ,かな みひめ,章姫,こいみのり,かおりの,ゆめのか,ゆふ

Table 3 ガラス基板上に作製した TiO 2 と WOx と SiO 2 の 3 層膜の水滴下における接触角と表面粗さの関係  SiO 2 膜厚(nm)  水の接触角(deg)  表面粗さ(nm)  0  60  1.54  2  <10  -  4  <10  1.43  10  15  1.33  30  30  -

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