GPS
携帯電話を用いた高校生による地域資源マップ作成の事例
堤 純
Examples of making local re-discovery maps via GPS mobile phone by high-school students
Jun TSUTSUMI
Abstract:In this article, the author focused on the availability of GPS mobile phone as a handy device of local information input. The author gave some lectures at example high schools and collected local information with high-school students. After data were processed into a GIS-readable format, several types of local re-discovery maps were drawn.
Some of these maps have been shown on the WebGIS site at Ehime university, while other maps were redrawn on the another website by the help of the Google map system. These maps were combined with Weblog system so that they could serve as a comprehensive system of spatial data collection, showing, and communication.
Key Word:GPS 携帯電話(GPS mobile phone),地域資源マップ(local re-discovery map),WebGIS
1.はじめに
本稿は,高等学校での授業に GPS 携帯電話を 使用し,WebGIS とウェブログ(Weblog 以下,
ブログ)を組み合わせることで,地域資源情報 の効果的な収集,公開,および共有方法を検討 したものである.
近年「平成の大合併」と称される市町村合併 が全国的に進行している.しかし,行政の効率 化を求めての合併は行政区域の拡大をまねき,
地域コミュニティの崩壊など様々な問題が生じ ている.そのようななか,「地元学」という手法 が地域コミュニティ活動の根源的な取り組みと 堤 純 愛媛大学法文学部人文学科
〒790-8577 愛媛県松山市文京町 3 Phone & FAX 089-927-9305
Email: [email protected]
して注目を集めている.地元学は,地域活性化 の旗印のもと各地で多様な活動が展開され,関 連する報告は枚挙に暇がない.地元学では,し ばしば地域資源調査を行い「地域資源マップ」
を作成する.このマップは地域に日常的に「あ るもの」を探して,地図がもつ一覧性を活かし ながら地域の特性を考えるものである.従来の 地域資源マップは,模造紙に写真とコメントを 組み合わせた紙媒体の地図が殆どである.しか し,このような紙媒体の地図では,情報の公開 および共有という点において効果的であるとは 言い難く,改善の余地がある.近年,WebGIS に よる情報収集および公開に関するノウハウが飛 躍的に向上している.数年前までは WebGIS の構 築は技術的・費用的に高いハードルがあったが,
今日では全国各地で多数の WebGIS サーバが稼
働している.予算規模の大きな研究機関に限ら ず,大学の 1 研究室の 1 サーバだけでも WebGIS を介した情報発信は十分に可能になってきてい る.
この種の取組については,島根県中山間地研 究センターが数年前から先進的な活動を展開し,
す ぐ れ た 情 報 発 信 を 続 け て い る
(http://www.chusankan.jp/).また,小・中学 校教育や地域の活動と WebGIS を組み合わせた 例や,高等学校の総合学習の一環として,地元 の観光資源の再発見に WebGIS を応用した例な どの報告がある.
上記のように,急速に利用の進む WebGIS であ るが,大別して情報の収集に重点をおくものと,
情報の発信・公開に主な視点をおくものに二分 できよう.情報の収集については,GPS 機能を 備えたカメラ付き携帯電話(以下,GPS 携帯)
との連動により,野外調査によって入手した最 新の情報を,野外にいながらサーバに直接転送 するシステムへと発展している(伊藤ほか,
2005;藤山・小村,2005).一方,情報の発信・
公開については実践例が多数にのぼるため,こ こでは個別に長短を論じることは紙面の都合上 割愛する.
これまでの紙媒体の地図に代わり,WebGIS に よる情報の収集と公開,そしてメンバー間での 情報共有を試みる取り組みとしては,東京大学 空間情報科学研究センターの「かきこマップ」
(http://upstar.t.u-tokyo.ac.jp/kakiko/)が 特筆される.また,大場(2005)による WebGIS を用いた電子会議室のシステムでは,地図のも つ一覧性の効果とともに,行政と市民による双 方向の議論を促す仕組みが紹介されている.
近年急速に増える WebGIS を介した各種の取 り組みであるが,これらから見えてくる新たな 課題は,情報の収集や公開・発信にとどまらず,
いかに情報を共有するかという点であろう.こ れは情報の双方向性とも言えるものであり,こ れまでの WebGIS では実現が困難であったもの である.こうした状況において,鵜川ほか(2005)
によるブログを用いたシステムは,情報の双方 向性を実現する取り組みとして注目に値する.
従来の電子掲示板と WebGIS の組合せでは情報 の投稿はできても,既に投稿された情報に対す る新たなコメントを付加することはできなかっ た.いわば,一方通行の情報発信であったとい える.その点,ブログを用いたシステムはトラ ックバック機能を利用した逆リンクの機能を用 いることにより,既投稿情報へのコメントの返 信や,相互の関連づけを大きく改善することが できる.
そこで本稿では,松山市における地域資源調 査の取り組み事例において,WebGIS とブログを 組み合わせることにより,地域にとって有効な 情報の収集・公開のみならず,双方向性を意識 した情報の共有方法を検討した.
その際,下記に掲げるように,松山工業高校 と済美高校(いずれも松山市内に立地)におい て授業を実施した。
2.Web 地域資源マップ
2.1 事例 1:松山工業高校の SELHi(Super English Language High School)における GIS 利用
松山工業高校は,平成 2004 年度〜2006 年度 までの 3 年間,工業高校としては唯一 SELHi 研 究指定を受けた.この取り組みは,言うまでも なく英語教育の一環であり,最終的には英語の 運用能力を高めることが目的であった.SELHi 指定校は,多くの場合が進学校であるが,今回,
工業高校が指定されたことで,これまでにはな い教育実践の可能性が開けた.松山工業高校で は,受験科目に過度に拘束されることはなかっ たため,授業内容を教官側で工夫する余地があ った.そこで,英語で発信するコンテンツとし て「英語で環境学習」をキー・テーマとして設 定し,身近な環境を GIS を用いて地図化しなが ら,そこから読み取れることに着目した.同様 の取り組みを海外の協力校(アメリカ・カリフ ォルニア州・ショーライン高校)にも依頼し,
それぞれの環境に関する調査結果をテレビ会議 を通じて互いに発表した.
松山工業高校における SELHi の取り組みでは,
初年度の 2004 年度に,ESRI ジャパンの「教育 における GIS 利用支援プログラム」により,
ArcGIS の 40 ライセンスを無償で貸与された.
これらを松山工業高校の視聴覚室の 40 台のパ ソコンに導入した.初年度は主として GIS の基 本操作を教え,2 年度目以降からは,実際に様々 なフィーチャのシェープファイルを生徒が作成 した.取り組み最終年度の 2006 年度には,松山 市内のため池を 10 数地点選定し,そこで捕獲し た水生昆虫やブラックバス等の外来種の分布に 関して GIS を用いて地図を作成し,英語でレポ ートとしてまとめた.これらのレポートを,愛 媛大学内に設置した ArcIMS を用いた WebGIS サ ーバにより公開した.
図 1 松山工業高校「英語で環境マップ」
http://matsuyama-th.esnet.ed.jp/SELHi2/eng lish_version/e_gis.help.htm
事例 1(松山工業高校)では,高等学校教育 の現場への GIS の援用というよりは,コンテン ツとしての地図や環境がキーワードであった.
同様の方法で作成した地図と,そこから導き出 される各種の課題についてレポートを作成し,
それらを互いに批評し合うことは,国境や言語
の壁を越えて,有効であることが示唆された.
GIS そのものを学ぶのではなく,あくまでも議 論の対象は身の回りの外来種の問題や,環境問 題であった.これまで,GIS と環境学習の組合 せに関する事例報告は多く見られるが,地理や 情報,理科ではなく,高校の英語教育において も,GIS を活用した授業実践が可能であること がわかった.
2.2 事例 2:済美高校(松山市)における GIS 利用
2007 年 6 月に,済美高校普通科特進文理コー ス「特進文系コース」の生徒を対象に,松山市 内の松山城周辺において地域資源マップのため の調査を実施した.なお,実地調査に出る前に,
済美高校の教室で 1 時間程度,機器操作と作業 概要について十分に説明した.授業に参加した 生徒は 20 名であり,これらを 5 班にグループ分 けして各班に GPS 携帯電話を 1 台貸与して調査 を実施した.
各班は,メンバー間で互いに協力し合いなが ら,地域資源になると判断した対象物の写真を GPS 携帯電話を用いて撮影し,それらをメール 機能を使ってサーバに送信した.これらの一連 の作業により,調査当日は 1 時間の授業中に「歴 史」「動植物」「人物・銅像」「句碑」「風景」「お もしろ看板」等に関する約 30 件のコメント投稿 を得た.
図 2 済美高校生による松山地域資源マップ http://www.geo.h.ehime-u.ac.jp/website/sai bi-gis/viewer.htm
図 3 愛媛の WebGIS タウンウォッチングの項 http://www.gis.h.ehime-u.ac.jp/hp/gis/town/
3.データ整理およびブログとの連携
今回報告した 2 つの事例では,収集した情報 を一方的に発信している段階に過ぎない.
高等学校の授業実践においては,授業時間数 が限られていることから,大学での授業実践に 比べて扱う内容を大幅にスリム化・単純化する 必要があった.今回の事例でも,まず GPS 携帯 電話を使って位置情報付きの写真をメールで送 付し,それらがインターネット上に自動的に地 図化される様子を体験することを最優先した.
すなわち,GIS の機能や特徴について十分に説 明することは,限られた時間的では困難であっ た.
授業後,一部の生徒のみを対象に,ブログを 用いた投稿情報の利活用の方法について補足の 講義を行なった.地図がもつ一覧性を活かし,
地域の特性を把握する地域資源マップは,地域 を再認識するうえで有効な手段である.さらに,
WebGIS とブログを連動させた Web 地域資源マッ プは,インターネットが利用できればいつでも どこでも誰でも情報の収集,公開,共有が可能 であり,地域内のみならず,地域外住民の情報 も取り入れることによりより深く地域を考察す ることが可能となる.
図 4 は,Google Map とブログを組み合わせた
地域資源情報の公開方法の一例を示した。ブロ グは情報利活用の双方向性の可能性を大きく秘 めており,今後の WebGIS サイトの構築において 重要度が高いと考えられる。
図 4 Google Map とブログの連携 http://webgis.sakura.ne.jp/nucleus/
参考文献
伊藤 悟・湯田ミノリ・奥貫圭一・木津吉永・
川崎智央・立松岳史(2005)携帯電話を利 用したモバイル GIS の開発―学校教育を 意識して―.地理情報システム学会講演論 文集,14,393-398.
鵜川義弘・清水裕司・伊藤 悟(2005).ブログ ツールを用いた環境教育マップの開発.地 理 情 報 シ ス テ ム 学 会 講 演 論 文 集 , 14 , 383-386.
大場 亨(2005)WebGIS を用いた電子会議室に よる市民と行政の意見交換実験.GIS-理 論と応用,13,99-106.
長坂俊成・前川佳奈子(2005)地域コミュニテ ィにおける WEB-GIS の活用方策に関する 研究.地理情報システム学会講演論文集,
14,113-118.
藤山 浩・小村あかね(2005)Web-GIS におけ る携帯電話の活用成果と今後の発展可能 性~中山間地域研究センター情報ステー ションの実用例から.地理情報システム学 会講演論文集,14,569-572.