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International Association of P2M Journal of the International Association of P2M Vol.8 No.2, pp , 2014 研究論文 製品イノベーションのための P2M - コアプロダクトに基づくサステナブ

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研究論文

† †† ††† ††††

名古屋工業大学大学院工学研究科 Nagoya Institute of Technology 株式会社 アスプロス ASPROS INC

東京農工大学大学院 工学府 Tokyo University of Agriculture and Technology (元)千葉工業大学大学院 Chiba Institute of Technology

製品イノベーションのための P2M

-コアプロダクトに基づくサステナブルイノベーション-

P2M for Product Innovation

-Sustainable Innovation based on

Core-Products-加藤 智之

Tomoyuki KATO

西田 絢子

Ayako NISHIDA

††

和田 義明

Yoshiaki WADA

†††

越島 一郎

Ichiro KOSHIJIMA

徳丸 宜穂

Norio TOKUMARU

梅田 富雄

Tomio UMEDA

†††† 昨今、経済環境および地球環境は激動しており、製造業においても企業の意思決定は事業継続 性に大きな影響を与えている。とりわけ、日本の製造業は欧米企業のイノベーションとアジアの 安価な模倣品の間で苦戦しており、これを打破するためのイノベーションは急務である。このた め本報では、変化が読めない経済状況において的確な意思決定を適時的に実行するための基礎と なるコアプロダクトに着目し、その構築過程と運用に関するフレームワークを提案する。さらに、 手法の有効性を事例を以って説明する。 キーワード:製品イノベーション、製品開発、コアプロダクト、進化ゲーム理論、AHP

Series of decision-makings strongly affect the corporate sustainability under rapid changing economical environment. Especially, Japanese production industry is affected by wide and cheap imitated products from LDCs, and specific product innovations from US and EU. Each production corporation is facing to set up a just-in-time decision making system for innovative products. In this paper, the authors focus on a “Core-Product” concept that should be a fundamental to draw out quick and focused decisions for product planning. The proposed framework to create “Core-Product” is also shown with illustrative examples.

Keywords: Product Innovation, Product Development, Core-Products, Evolutionary Game Theory, AHP

1. はじめに

現在の日本の製造業は欧米企業のイノベーションと新興国の安価な模倣品の間に挟まれ、こ の悪状況を打開するために、日本企業は製品の高機能化、多機能化により差別化を図っている。 しかしながら、それは高コスト化要因でもあるため製品の売れ筋に一喜一憂せざるを得ない。 したがって、持続的に顧客に価値を認められる製品を生み出さなければならない。 現在、グローバル化が進み経済環境や地球環境の変化は著しく、意思決定は非常に難しい状

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況にある。このような状況では、持続的に顧客に価値を提供し続けることが可能な製品(コア プロダクト)の存在が企業の事業継続には不可欠である。そこで本報では、コアプロダクトを 企業が生み出すためのフレームワークを提案する。

2. 既存のイノベーションと日本の製造業が抱える問題

2.1. 製品イノベーションに関する既往研究

既報[1]でも触れてきたように、Schumpeter の新結合の概念の提案以降、イノベーションに関 する研究はいままで多くなされてきている。それらの多くは、「イノベーションを起こした結 果」とし人々の生活に明確な変化を与えたと評価された事例分析が主であり、そこで述べられ ているイノベーションの方法では再現性に乏しいのが現状である。したがって、イノベーショ ンの研究において求められることは再現性の高い手法論を提案することである。そのためにも、 工学的なイノベーションの議論が不可欠である。しかしながら、工学的なイノベーション手法 を提案するにあたり、すべてのイノベーションを網羅した全能的な手法論の提案は困難である。 そこで、既往のイノベーションの分類をもとに、工学的手法の開発によって得られるインパク トが大きな箇所について議論する事が有効であると考えられる。 H. Gatignon ら[2]は、イノベーションを次の 4 つに分類している。 (1) 継続的プロセス改善:既存のプロセスを継続的にかつ徐々に改良していくこと。日本 的な PDCA サイクルがこれにあたる。 (2) プロセス革新:成果を出すためのプロセス自体を既存のものとは不連続に改革するこ と。 (3) 製品やサービスのイノベーション:既存のビジネスモデルのもとで、創造的なアイデ アを以て新しい価値を創造すること。 (4) 戦略的イノベーション:新しいビジネスモデルを以て新しい価値を創造する。製品イ ノベーションが伴う場合もあれば、伴わない場合もある。 また、これらの 4 つのイノベーションは異なるアプローチを必要とする。これは、費用の規 模、所要期間、結果の曖昧さの3要素に大きな違いが存在するためである。表 1 にイノベーシ ョンの種別と3要素の関係性について記載する。 表 1. H. Gatignon によるイノベーションの分類

Cost Time Ambiguity (1)Process Improvemnt Min Short Clearly (2)Process Innovation

↕ ↕ ↕ (3)Product/Service Innovation

(4)Strategic Innovation Max Long Fuzzy

表 1 で示した通り、製品イノベーションは各要素が持つ不確実性が非常に高い。したがって、 P2M による製品イノベーションプログラムとしてマネジメントすることが非常に有効である

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と考えられる。 続いて、製品イノベーションの分類について考察する。C.Carlson[3]の言葉を借りれば、イノ ベーションは「イノベーションとは、新たな顧客価値を創出し、市場に送り届けるプロセス」 であり、顧客に新しい価値を提供することが本質である。したがって、製品イノベーションと は製品を通して、顧客に新しい価値を提供することであるため、製品イノベーションは新製品 が提供する価値の結果とみなすことができる。したがって、新製品の分類をすることは、製品 イノベーションの分類することにつながる。河野[4]は新製品を「製品の用途」と「製品を構成 する技術」の 2 つの観点から分類している。 「製品を構成する技術」の違いはそのまま新しい価値を提供する、または既存の価値を向上 させる効果がある。また、「製品の用途」を規定することで製品のライフサイクルが規定され、 新製品の投入により旧製品のライフサイクルとは違う新しい価値を提供することにつながる。 さらに、河野は用途が異なる場合においてさらに「マーケティング」の視点を以て分類してい る。マーケティングの視点を考慮することで新製品の市場競争力を規定することができるため である。しかしながら、ここで考慮している「マーケティング」は自社に生まれた新製品の販 売チャネルの存在の有無に過ぎないため、ここでは議論の対象とはしない。したがって、考慮 すべき新製品の分類は表 2 のようになる。 表 2.新製品の分類

Technology Use Same Different

Same/Similar (ⅰ)Improved Product (ⅲ)Expanded Product Different (ⅱ)Alternative Product (ⅳ)Innovative Product 表 2 における新製品の 4 分類はそれぞれ、以下の通りである。 (i) 改良製品:既存の製品を改善した製品。提供する顧客価値はあまり大きくない。 (ii) 代替製品:既存の製品を別の技術を以て改良した製品。提供する価値は既存製品より は大きいが革新的とは言えるものではない。 (iii) 拡張製品:既存の資源を活用して新しい事業を創造することが可能な製品。 (iv) 革新製品:今までにない全く新しい製品。全く新しい顧客価値を提供する。主に発明 などによってもたらされる。 分類された4つの新製品はそれぞれがイノベーションである。Christensen によるイノベーシ ョンの分類[5]を適用すれば、(ⅱ)は持続的イノベーションに該当し、(ⅲ)、(ⅳ)は破壊的イノベ ーションに相当する。(ⅰ)は改善であり、イノベーションの特性である「非連続性」がみられ ないため、イノベーションとは呼べない。

2.2. P2M によるイノベーション・マネジメント

2.2.1. 製品イノベーションにおけるプログラムの役割

現在の P2M におけるミッション達成手順で設定されたプロジェクトはシナリオにおいて 様々な含みを持たせてあったとしても、「計画に従った理想的なプロジェクト」であり、プロ

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ジェクトの実施段階では上流プロジェクトや外部環境に影響を受けてしまう。したがって、多 くの場合、実プロジェクトが創出する価値(=成果物)は理想プロジェクトの想定価値を超え られない。製品イノベーションの問題においては新製品の市場への提供自体が、自社のミッシ ョン並びに次の新製品投入時期に対する外乱となり得ることから、プログラムマネジメントを 援用するために以下の対応をしなければならない。 対応1:プログラムの「バッファとしての機能」の向上手法 理想プロジェクトの成果物と実プロジェクトの成果物との間の価値ギャップを認 めた上で、次の実プロジェクトの成果物を動的に意思決定する手法 対応2:「複数のプロジェクトに分離し、有機的結合を図る」ための統合手法 理想プロジェクトが成果物を創出するタイミングと実プロジェクトで成果物を投 入するタイミングのギャップを認めた上で、次の実プロジェクトでの成果物投入 時期を動的に意思決定する手法

2.2.2. 進化ゲーム理論によるミッション達成プロセスの表現

2.2.1 項で述べた対応を実現する意思決定を論理的に説明するために、本研究では進化ゲーム 理論を援用している。実際の市場競争において、各企業は自社の戦略に基づいて製品を市場に 投入する。ここで、各企業はすべての意思決定を自社が持つ資源で行っているわけではなく、 他者の挙動に対しても考慮し戦略を変更する。Under the Desk の発明など戦略の有無にかかわ らず突発的に生まれるイノベーションを除けば、このような戦略に基づいて行われる製品イノ ベーション問題に対して、進化ゲーム理論の特徴である、  理想的な完全合理性を前提としない、限定合理性(bounded rationality)に基づく、プレ ーヤーの行動変化を表現すること[6]  十分に人数の多い集団において、社会的な相互作用が繰り返し生じる状況で戦略がある 種の戦略修正アルゴリズムによって修正されること[7] 以上 2 項目が問題解決に対して有効であると考えられるため、進化ゲーム理論の適用の妥当性 は十分であると言える。また、本研究で想定するプレーヤーは以下の 3 つである。 現在の自社 C :ミッションプロファイリングで洞察したありのままの姿 将来の自社 F :ミッションプロファイリングで特定したあるべき姿 外部環境 E :競合他社、顧客ニーズ、社会制度など企業活動に影響を与える要因全て これら3プレーヤーによるゲーム(=プロジェクト)の戦略ステートについて考える。 進化ゲーム理論において、プレーヤーの戦略分布は時間変化に伴って動的に変動する。つまり、 戦略ステートに落ち着くまでの過程において「時間」と「速度」の概念が存在する。これら「時 間」と「速度」は式(1)で表現される利得行列の利得値の大小関係に従属する。 (1)

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戦略ステート自体を求めるには、式(1)をレプリケーターダイナミクスの支配方程式(微分方 程式)にしたがって計算することで求められる。しかしながら、微分方程式を解くだけでは、 戦略ステートを得るまでの過程に関する情報が全くなくなってしまう。変化の激しい環境にお いて、初めに設定したパラメタの情報を失うことは、未来の予測を困難にする原因である。し たがって、設定したパラメタにおける情報を失わないためにも、戦略ステートを得るまでの過 程を可視化することが不可欠となる。そこで、数式処理システムの Mathematica を用いて式(1) をレプリケーターダイナミクスに従わせ演算を行うと、戦略ステートを得るまでのパスとスピ ードは図 1 のように描画できる。[8]図 1 中の矢印は単位期間における移動パスを表し、色はそ の領域での移動スピードを表している。赤色に近いほど速度が早く、青色に近いほど速度は遅 い。 図 1.戦略ステートの Mathematica による描画 数式処理により戦略ステートを得るまでの過程を可視化し、プログラムマネジメントを適用 するためには、利得値の特定も論理的に行わなくてはならない。本報では利得値の特定に AHP (Analytic Hierarchy Process)の一対比較の構造を用いる。図 2 は AHP の階層構造である。AHP では、代替案の決定に、複数の評価基準(criteria)のそれぞれに対して一対比較を行う。さら に、評価基準の重要度と一対比較の結果を考慮して代替案を決定する。

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図 2.進化ゲームのための AHP を用いた意思決定構造 従来の意思決定は定量的で精度が高いという理由からデータ分析を利用して行われることが 多くある。しかしながら、劇的に変化する経済環境において、データ分析による意思決定は時 間が掛かると共に、予測した意思決定が環境にフィットしない可能性が考えうるため、必ずし も精度が高い意思決定手法であるとは言えない。[9] このような状況では意思決定者による「直 感的」判断は必ずしも非合理的ではなく、むしろ意味を持つ場合さえある。したがって、この 「直感的」な判断や評価を導入した分析手法である、AHP の援用による解釈は本報で扱う問題 に非常にフィットしていると考えられる。 また、AHP における一対比較は、評価基準と代替案を全ての組み合わせにおいて比較しており、 同一比較をすべて 1 として扱う。つまり、考慮すべき事柄の次元を下げていくことができるた め、マネジメントが容易になる。この AHP の一対比較表[10]を元に式(1)の利得値を決定すると 表 3 のようになる。ここで、対角線を挟んで対象なセルがデータの比率尺度性(ratio scale)に より、逆数となる。この一対比較行列を元に進化ゲーム理論による数式処理を行い、その結果 を読み解く事でダイナミックな意思決定が実現できる。 表 3.代替案の一対比較表

Current Future Environment

Current a(=1) b c Future d(=1/b) e(=1) f Environment g(=1/c) h(=1/f) i(=1) また、プログラムマネジメントにおいて、プロジェクト終了から次プロジェクトの開始の接続 を円滑にマネジメントすることが求められる。既報[11]はプロジェクトライフサイクルの変遷を 進化ゲーム理論の援用により説明した。図 3 にプロジェクトライフサイクルの変遷を進化ゲー ム理論によって表現したものを示す。n 番目のゲームにおいて各戦略は Cn、Fn、Enと表される。 このゲームの結果得られる戦略ステートはプロジェクトの成果物(=新製品)である。製品開 発プロジェクトにおいて、成果物は製品であり、次の製品はその製品を踏まえた上で開発され

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る。したがって、n+1 番目のゲームは n 番目のゲームで得られた戦略ステートがその時の「現 在の自社」Cn+1として定義され、さらに「将来の自社」Fn+1、「外部環境」En+1も設定され、進 化ゲームが展開される。このように、プロジェクトライフサイクルの変遷は進化ゲーム理論を 援用することで表現、将来の状況を予測する指標となる。 図 3.進化ゲーム理論によるプロジェクトライフサイクルの遷移の表現

2.2.3. P2M における動的意思決定

進化ゲーム理論において、式(1)で示した利得行列の値を具体的に設定することにより、図 1 のような戦略ステートまでの過程を描画することができる。これにより、設定したパラメタの 下でパスやそのパス上での移動スピードを把握することができる。つまり、将来あるべき姿に 向かうにあたり、最短経路で向かうよりも迂回して行くほうがスピードが上がり、短期間に達 成しやすいことを数理的に可視化できることを示した。図 4 はプロジェクトのゴールの動的変 更について説明している。n=1 のゲームが図 1 のとき、プロジェクトのゴールを赤い部分で設 定するか、将来の自社の最大値までに設定するかで成果物が提供する価値と時間が変化する。 スピード感のある意思決定をした場合、成果物が得られるまでの時間は短くなり、提供する価 値は小さくなる。一方、時間を掛けて将来の自社に向かって最大限のエフォートがあるとき、 成果物が得られるまでの時間は長くなり、提供する価値は大きくなる。 実際に製品イノベーションの問題にプログラムマネジメント手法を援用するためには、2.2.1 項で挙げた 2 つの機能を持たせなければならない。進化ゲーム理論での戦略ステート過程はパ ラメタによってそのパスやスピードが変わることをシミュレートできるため、状況に合わせて、 成果物の価値を調節し、プロジェクトのゴールを動的に変更することを可能にする。したがっ てプログラムマネジメントにおいて、進化ゲーム理論の援用は状況対応のための動的意思決定 に有効な手段であると考えられる。

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図 4.動的な意思決定による時間と価値の変化

2.3. 製造業が抱える問題

2.3.1. 価値提供を持続的に行う構造

これまで、イノベーションと製品イノベーションの分類について既往研究をもとにサーベイ を行ってきた。製造企業にとって関心があるのは、既往のイノベーションの調査ではなく、自 社がイノベーションを起こすことが可能になることである。つまり、製造企業が知りたいこと は事業継続性を維持・向上させるため、常に製品イノベーションを起こすことが可能な構造に ついてである。したがって、継続的に製品イノベーションを起こすことが可能な製品展開の構 造について議論しなければならない。 そこで、本報では、「コアプロダクト」という概念を、持続的に顧客に価値を提供すること を可能にする構造の一つとして定義する。コアプロダクトにおいて重要なポイントは「オリジ ナルとなる製品が常に新しい価値を提供し続ける」という点である。したがって、オリジナル な製品のコアとなる要素は変わらず、その製品の中に生き続けている。しかしながら、コアと なる製品単体だけでは、顧客の要求をすべて満たすことは不可能であるため、図 5 のように顧 客の要求をカバーできる領域を増やすために、オリジナル製品:O-Product(Original based Product)とは違う特性を持つ製品:C-Product (Characteristic based Product)を展開していく。その 際に展開した C-Product は、O-Product が提供する価値の一部を共有しながら、異なる顧客価値 を提供するように設定する必要がある。また、それと同時に O-Product も既存の提供している 顧客価値のレベルを向上させる(=新製品を展開する)ことで製造企業は「持続的に顧客に価 値を提供し続けること」が可能になる。このように、コアとなる製品を以て複数の C-Product を展開をすることで、幅広い価値を提供しながらも O-Product は「いつまで経っても常に新し い」という状況を構築することが可能となる。

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図 5.コアプロダクトの展開

2.3.2. コアプロダクトの有無による事業継続性への影響の考察

一般に、製品ライフサイクルが短い製品は次世代製品を生み出すための時間も短いため、コ アプロダクトの有無は事業継続性に大きな影響を与える。とりわけ、電子機器市場では競争が 激しく日本企業は苦戦を強いられている。一方でシェアを継続して維持している海外企業も存 在する。日本企業の技術力は劣るどころか優位に立っているにも関わらず国際市場で日本企業 が競争優位を保てないことは非常に嘆かわしい。そこで、ここではコアプロダクトに着目して この現状を解釈する。 電子機器においてコアプロダクトを持つ企業としてアップル社が挙げられる。アップル社の iPod は出現としてからポータブルミュージックプレイヤーとしてシェアを確立しており、この 市場では製品の代名詞となっている。iPod シリーズでは、操作を直感的に行うことが可能なイ ンターフェースであるホイール型インターフェースが出現当初から搭載されている。このホイ ールは後継モデルにも受け継がれており、iPod の象徴とも呼べるものになっている。したがっ て、Apple 社は iPod にホイール型インターフェースというコアプロダクト(コアモジュール) を搭載することにより、事業継続性を維持していると見ることができる。また、インターフェ ースによるコアプロダクト化は iPhone にも提供されている。iPhone は昨今のスマートフォンへ の移行の流れを生み出した製品であることは周知の事実である。一般的なスマートフォンの特 徴はアプリケーションをユーザーが思い思いに追加できる拡張性や PC のウェブブラウザが搭 載されていることであるが、iPhone の真骨頂はそのインターフェースにある。何か問題が発生 すれば画面下のホームボタンを押せば最初の画面に戻ることができるという単純で明快なコ ンセプトが、「全く新しい」製品を市場に送り込む上でユーザーを迷わせないことにつながる。 [12]このインターフェースの発想もコアプロダクト(コアモジュール)を作りこむことにつなが っていると考えることができる。 Apple 社のコアプロダクト構築とは対照的に日本企業ではコアテクノロジーはあってもコア プロダクトを構築できていない。その一例として、シャープ社が挙げられる。[13] シャープ社は 薄型液晶テレビを自社の主力商品としていた。「世界の亀山モデル」と呼ばれ国内のテレビ出

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荷シェアは常に首位を維持し続けていた。さらに、テレビだけではなく携帯電話や録画再生機 にも液晶技術を派生させた。結果として当時は他の製品も押し上げる輝かしいブランドとして 成長していた。しかしながら、2008 年のリーマンショック以降、液晶パネルの供給過多や世界 経済の悪化によりシャープ社製品の売上は大幅に減少する。最終的には Apple 社の iPhone 用デ ィスプレイを製造するサプライヤーになってしまっている。 このような現象は日本企業が新しい技術の開発に重点を置いた製品開発を行っていたこと が大きな影響であると言える。良い製品を作ればそのまま売れるという時代の過去ばかり見て、 技術のみに走った結果だと考える事ができる。こうしたことからもわかるように、常に顧客に 価値提供をするための製品開発構造を製造企業は保有することが急務である。

2.3.3. コアプロダクトの適用先

製造企業がコアプロダクトを構築するためには、中長期的な目線で自社が展開する製品を考え なければならない。その際に重要となるのが製品アーキテクチャ[4]である。コアプロダクトを 構築するにあたり、C-Product は O-Product がもつ価値を一部共有しながら、価値提供領域を広 げる。したがって、価値を提供する機能を分割し、有機的に結合して共有する価値と新しく提 供する価値を作り込む必要があるため、製品アーキテクチャを考慮する段階でコアプロダクト について考えなければならない。 製品アーキテクチャは一般的に「インテグラル型」と「モジュール型」の 2 つに分類され る。[4]以下にそれぞれの特徴等を簡単にまとめる。 インテグラル型 :「擦り合わせ型」とも呼ばれ、日本の製造業で広く浸透している設計概念 である。システムを統合的に作り込むため、製品統合性に優れる一方で、開 発コストの高騰や時間が掛かる等の短所がある。 モジュール型 :欧米で主流となっている設計概念である。システムごとに独立しているた め、システムの構成要素間の変更を迅速かつ低コストで行うことが可能であ る。一方でインターフェースを長期利用することによる進化の遅れやシステ ムの無駄の発生も起こりうる。 次に、2 つの製品アーキテクチャをもってコアプロダクトを製造した場合について考察する。 インテグラル型 :製品全体が市場における競争優位を持てると判断できる場合、インテグラ ル型の製品開発は事業継続性の維持に寄与する。しかしながら、時間経過と ともに変化する経済環境を予測し、迅速かつ低コストで変更を加えられるよ うにしなければ、当該製品は陳腐化し淘汰されてしまう。 モジュール型 :製品を構成する要素(=サブプロダクト)がコアプロダクトとして成り立 つ場合、コアプロダクトはコアモジュールとして他分野のコアプロダクトを 構築できるため、モジュール型の製品開発は事業継続性の維持に寄与する。 しかしながら、コアプロダクト・モジュールのインターフェースを常に進化 させなければ、統合製品のイノベーションが促進されない。

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本報では、コアプロダクトを運用する対象が製品アーキテクチャであるということのみに言 及したいため、2 つの製品アーキテクチャの優劣に関しては議論の対象ではない。

3. コアプロダクトによるイノベーション・マネジメント手法

3.1. コアプロダクトによるイノベーションへのプログラムマネジメントの適用

本報で提案するコアプロダクトの構造に企業の製品構造を持ち込む方法として、2 通りのパ ターンが存在する。 1. 既存のコアコンピタンスを発揮する製品をベースに展開する 2. 新規事業として新しい製品を開発し、展開する 以上の 2 パターンの優劣については、企業により実行可否が存在するため、ここでは議論しな い。ただし、両者に等しく言えることは、事業の当初より強烈な意志のもとで実行されるとい うことである。つまり、非常に大きなエネルギーを投資することになるコアプロダクトの構築 には適切なマネジメントが実行されなければならない。また、コアプロダクト構造は複数製品 を同時に走らせていく必要があるため、統合的に価値を創出し続けるためにはプログラムマネ ジメントの適用が非常に効果的であると考えらえる。

3.2. コアプロダクトによるイノベーションのマネジメント手法

コアプロダクト構造において、製品は、強烈な意思を以て展開された事業の黎明期に創出さ れた最初の製品である O-Product と、O-Product が提供する価値を一部共有しながら、さらに O-Product が提供できない価値を提供する C-Product の双方を同時に考慮しなければならない。 したがって、コアプロダクト構造を構築するためには、それぞれの製品の結合をマネジメント することが不可欠である。 プロジェクト間の結合をマネジメントするために、既報[11では事業継続ドライバーによる事 業継続のためのプロジェクトサイクルモデルを展開した。(図 6)それぞれのマトリックスに関 係する経営資源を当てはめることで、製品開発の各フェーズで必要な資源を特定することがで きる。したがって、必要な製品をもとに製品開発で必要な組織を特定することが可能になる。 それぞれの製品を展開する際、このプロジェクトサイクルモデルに当てはめることで、 O-Product と C-Product の双方を同時に展開しながら、それを実現する組織を特定しマネジメン トすることが可能になる。

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図 6.事業継続プログラムのためのプロジェクトサイクルモデルと価値創出

3.3. コアプロダクト構造への進化ゲーム理論の適用

これまでプロジェクトライフサイクルにおける進化ゲーム理論の援用とそれによる動的な 意思決定について述べてきた。ミッション達成過程を通してコアプロダクトを構築する際に、  一部共有する価値  新たに提供する価値  提供する価値を実現するレベル 以上 3 点について考慮しなければならない。価値は提供する機能に基づいて分解され、有機 的に結合されることで実現される。さらに、価値レベルは製品を市場に投入する時点でのパラ メタによって変化するため、意思決定のタイミングが提供できる価値とその評価に大きく関わ る。したがって、意思決定による価値創出過程を可視化する必要があるため、引き続き進化ゲ ーム理論を援用して議論する。 図 7 はミッション達成過程を通してコアプロダクトが構築される様子を表現している。本報 の図 3 で示した進化ゲームのつながりは、2 次元平面で表現している。しかしながら、実際の 外部環境は先の定義にもあるように、「競合他社、顧客ニーズ、社会制度など企業活動に影響 を与える要因全て」であり、多義的なものである。したがって、本来は多次元空間として表現 されなければならない。図 7 では 3 次元空間でゲームのつながりを表現した。xy 平面は外部環 境平面であり、外部環境の要素を 2 次元平面に写像したものである。Exと Eyはそれぞれ外部 環境の x 成分、y 成分である。原点は n=1 のときの「現在の自社」であり、z 軸方向に「将来 の自社」を取っている。 プロジェクトごとに進化ゲームを続けていくと、その繋がりはスパイラル状に「将来の自社」 に向かおうとする。製品を市場に投入した段階で、その製品がカバーする領域が決定する。図

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7 中の小さい三角錐はコアプロダクト構築前に製品(群)がカバーする領域を示している。将 来に向かう過程で三角錐の高さは大きくなる。それと同時に三角錐の底面の面積を広げていく ことでカバーできる領域を増やしていく事が必要である。この状況は外部環境を大きく取り込 んでいる、つまり外部環境の影響を減らしているため、プログラムのバッファとしての機能を 持つと見なす事ができる。 この、まるで山の裾が広がっていく状況を作り込むためには、コアプロダクトは一つだけで は不可能である。したがって、コアプロダクト構築の過程で外部環境の変化に対応した派生製 品の投入が不可欠である。つまり、コアプロダクトは単体ではなく、複数製品を以て構築され る。また、この外部環境をカバーできる領域は、企業が製品を通して作り込むべきカテゴリで ある。したがって、企業ビジョンに対して適切なカテゴリを作らなければコアプロダクトの構 築は成功せず、事業継続性の維持も実現できない。 図 7.ミッション達成過程によるコアプロダクトの構築

4. 事例による説明

本報ではコアプロダクトによる事業継続性の維持、向上を提案している。そこで、本章では コアプロダクトの有無が企業の事業継続性にどのように影響するか事例を持って説明する。 コアプロダクトの構築に関して食品会社の K 社に聞き取り調査を行った。K 社はサラダ調味 料をコアプロダクトとして保有している。ここではその構築過程について述べる。 K 社では当初のサラダ調味料(製品 A)に加え、カロリーを半分に押さえた製品 B を 1990 年に市場に投入している。製品 B を投入した理由として、健康ブームが始まったことが大きい。 K 社による消費者の意識調査の結果、当時の消費者は「カロリーの高いものは控えるようにし ている」という状況であったため、カロリーやコレステロールが低い製品の開発が求められた。 この状況を提案する意思決定手法でシミュレーションする。当時の状況に関して、パラメタと 値を以下のように設定する。

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・C:現在の K 社が持つ技術 ・F:カロリー・コレステロールが低いサラダ調味料の実現 ・E:顧客の意識(高カロリー摂取は控えている) ・将来製品の技術的実現可能性TP(Technology Possibility)= 60% (0.6) (d に相当) ・顧客の自社に対する期待CE(Customer Expectation)=40% (0.4) (g に相当) ・将来製品が実現した時の顧客の感度CR(Customer Reception)=80% (h に相当) ・対角線上は同代替案の比較であるから1 ・b,c,f はそれぞれ d,g,h の逆数 これらを式(1)に代入し、Mathematica による数式処理を行うと図 8 のような結果が得られた。 スタートは現在の自社であるため、三角形の左下の頂点となる。矢印の方向として将来の自社 に向かっているため、カロリー・コレステロールを押さえた製品の開発は必要である。技術的 期待値が 60%の状況では、実現までに時間が多少はかかりそうであるが、技術開発を順当に行 うことで将来実現したい製品を開発する事ができそうである。現状として少しでも健康志向の 消費者に訴えかける製品が必要であるため、まずはカロリーを減らした製品を提供する事が妥 当であると読み解く事ができる。 図8.健康志向ブームに適した製品開発の是非 実際に、製品 B を販売する直前の「カロリーの高いものを控える」と考える消費者の割合は 17%であり、販売後 20 年経った 2010 年ではその割合が 32%まで増加している。つまり、K 社 製品がカロリー摂取への対策となっているため、製品が顧客に受け入れられる状況になってい ることを示している。 K 社では常に人に応えることを大切にしている。サラダ調味料の例で言えば「おいしいもの は食べたいけれど、カロリーは摂取したくない」という気持ちに応えている。他にも、使い勝 手やイメージなど、様々な要素において実践している。K 社では「食を豊かにする製品」とい うカテゴリをビジョンに従って掲げており、それを実現するためのコアプロダクトを展開して いる。現在ではサラダ調味料だけでない他分野でも同じカテゴリを以て事業、コアプロダクト を展開し、現在でもすべての事業で成功を収めている。

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5. おわりに

本報では、既報で提案した進化ゲーム理論の援用によるプロジェクトの表現に対し、実プロ ジェクトへ導入するための計算方法を AHP の一対比較の構造を用いることで実現した。また、 事業継続性を維持するためのコアプロダクトの概念を提示し、コアプロダクトが構築される構 造を示し、事例を元に説明を行った。今後の展開として定量的にコアプロダクトを作りこむた めの具体的な計算について議論し、その有用性について示したい。

謝辞

本研究の一部は、平成21-23 年度 科学研究費補助金 基盤(B), No.24310119 (2012)の 一環として進められたことに謝意を表す。

参考文献

[1]加藤智之、西田絢子、越島一郎、梅田富雄「製品イノベーションのための P2M –事業ライフ サイクルを通した製品イノベーション手法-」、国際プロジェクト・プログラムマネジメント学 会誌、Vol.7 No.2、pp.39-51、2012

[2]Hubert Gatignon, Michael L. Tushman, Wendy Smith, and Philip Anderson, "A Structural Approach to Assessing Innovation :Construct Development of Innovation Locus, Type, and Characteristics," Management Science, 48, Issue 9, 2002

[3]カーティス R. カールソン、ウィリアム W. ウィルモット「イノベーション 5 つの原則」、 ダイヤモンド社、2012 [4]河野豊弘「新製品開発マネジメント」、ダイヤモンド社、2003 [5]クレイトン M. クリステンセン「イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼす とき」,翔泳社,2000 [6]岡田章「ゲーム理論[新版]」,有斐閣,2011 [7]石原英樹、金井雅之「進化的意思決定」、朝倉書店、2002

[8]H.G. Schuster (ed.)「Stochastic evolutionary game dynamics」、Wiley-VCH、2009 [9]木下栄蔵、大野栄治「AHP とコンジョイント分析」、現代数学社、pp.45-68、2004 [10]猿渡康文「マネジメント・エンジニアリングのための数学」、数理工学社、pp.166-183、2006 [11]藤智之、西田絢子、越島一郎、梅田富雄「製品イノベーションのための P2M –進化モデル として見る事業ドライバーとイノベーション創出-」、国際プロジェクト・プログラムマネジメ ント学会誌、Vol.8 No.1、pp.20-29、一般社団法人国際 P2M 学会、2013 [12]日経デザイン編「アップルのデザイン ジョブズは“究極”をどう生み出したのか」、日経 BP 社、2012 [13]後藤直義、森川潤「アップル帝国の正体」、文藝春秋、2013 査読 2013 年 12 月 11 日 受理 2014 年 2 月 10 日

参照

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