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自由意志の影響過程:自己制御という観点から 渡辺

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Academic year: 2021

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自由意志の影響過程:自己制御という観点から

渡辺 匠(Takumi WATANABE)

東京大学大学院人文社会系研究科

実験哲学では、哲学的判断の内容や判断プロセスについて検討がおこなわれている。

その一方、社会心理学の領域では、そのような哲学的判断が人間の社会的行動にどの ような影響を与えるかを検証している。本研究では哲学的判断のひとつとして自由意 志の信念を取りあげ、「自由意志が存在する」という人々の信念が社会的場面でどのよ うな効果をもつかを明らかにする。

自由意志はわれわれの日常生活と深くかかわっており、司法や賞罰、責任付与などの場 面において、自分や他者の行為が自由な意志の結果であると解釈するかどうかが、その後 の社会的判断・行動の重要な規定因となっている。実際に、これまでの研究では、自由意 志の存在を否定する文章を読むと、①カンニングが増加する(Vohs & Schooler, 2008)、

②援助行動が減少する(Baumeister, Masicampo, & DeWall, 2009)、③攻撃行動が増加す る(Baumeister et al., 2009)ことがそれぞれ示されている。

以上のように、「自由意志を信じるかどうか」は社会的場面における行動と関連している と考えられるが、自由意志の信念が社会的行動に影響するときの心理的プロセスについて は明らかにされてない。さらに、自由意志の信念を実証的に分析したデータは、日本では ほとんどみられない。このような現状をふまえ、本研究は自由意志の信念を測定する日本 語版尺度を作成したうえで、自由意志の信念が社会的行動にもたらす影響について、「自己 制御」という観点から検証をおこなう。

自己制御とは、「望ましい結果を得るために、自己の衝動・欲求を適切にコントロールす る」ことである。人が衝動や欲求を抑えて、規則や目標に沿った行動をとるには自己制御 が必要であり、自己制御が欠けると、みずからの衝動や欲求のままに行動してしまうよう になる。この考え方にもとづくと、自由意志の存在が否定されると、自己制御をしようと する動機づけが低下するために、援助行動が減少し、攻撃行動が増加すると推測される。

本研究は質問紙調査を通じて、自由意志の信念に関する日本語版尺度を作成し、さらに、

「自由意志の信念は自己制御を通じて援助行動を促進し、攻撃行動を抑制する」という仮 説モデルの検証をおこなった。質問紙は4つの内容から構成されており、①自由意志の信 念、②(社会的)自己制御、③援助行動、④攻撃行動をそれぞれ測定した。質問紙の回答 者は178名である。

構造方程式モデルをもちいた分析の結果、仮説モデルは支持された。具体的には、自由 意志の信念は社会的場面における自己制御を促進しており、その自己制御が高まった結果 として援助行動が促進され、攻撃行動が抑制されることが明らかになった。したがって、

「自由意志を信じるかどうか」は自己制御と関連しており、自由意志の信念が高まると自 己制御という心理的プロセスが変化することが示唆される。

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