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厳罰傾向と自由意志信念の関連における非難の媒介効果

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厳罰傾向と自由意志信念の関連における非難の媒介効果

松 木 祐 馬

向 井 智 哉

湯 山 

早稲田大学文学学術院 東京大学法学政治学研究科 早稲田大学大学院文学研究科

貞 村 真 宏

東京大学法学政治学研究科 問題と目的 人は自由意志を持つという信念である自由意志信念と, 刑罰に対する態度との関連は古くから研究がなされている。 刑罰に対する態度の中でも,犯罪者全般にどの程度厳しい 刑罰を求めるかという厳罰傾向と,個別具体的な犯罪者に どの程度の量刑を求めるかという量刑判断については,と りわけ自由意志信念との関連が検討されてきた。その結果, 自由意志信念は厳罰傾向及び量刑判断と正に関連すること が報告されている(e.g., Carey & Paulhus, 2013; 後藤・石 橋・梶村・岡・楠見,2015)。しかし,自由意志信念と厳 罰傾向や量刑判断の間には概念的に距離がある。そのため, これらの変数の関係性をより明確にするためには,両変数 を媒介する要因を想定する必要がある。そのような媒介変 数として本研究では,刑法学における応報刑論で論じられ ている犯罪者に対する非難を取り上げ,その媒介効果につ いて検討する。 現在の刑法学の通説である応報刑論においては,犯罪行 為を行ったとしても,その行為が自由意志に基づいたもの でないのであれば,その人に対して非難を向けることはで きず,罰することはできないと考えられている(大塚, 2008)。一般市民がこのような応報刑論的な考え方に基づ いて刑罰に関する判断を行っているとするならば,自由意 志信念と厳罰傾向及び量刑判断の関連についても応報刑論 で想定されるような関係性が見られると推測される。つま り,自由意志信念を強く持つ人は,犯罪者が犯した犯罪行 為は自由意志に基づいた行動だと認識しやすいがゆえに犯 罪者に対して強い非難を抱きやすく,そのことによって厳 罰的な態度を持ったり厳罰的な判断をしやすくなると予測 される。実際に,笠原・唐沢・唐沢(2019)では,非難を 下位概念として含む道徳判断が自由意志信念と量刑判断の 関係を媒介することが示されており,自由意志信念と厳罰 傾向の関連を非難が媒介する可能性が示唆される。 しかし,笠原他(2019)には,自由意志信念と媒介変数 の間に概念上の重複があるという課題が指摘できる。笠原 他(2019)では,自由意志信念の測定にFAD-Plus (Paulhus & Carey, 2011)を使用しているが,同尺度には,「人は自 分の意志で決定を下すことができる」という統制感に関わ る4項目と,「犯罪者には自分の行った悪事に対する,全面 的な責任がある」という道徳的責任に関わる3項目が含ま れている。これらの因子のうち道徳的責任は,笠原他 (2019)の媒介変数である道徳判断と概念的に類似してい ると言える。そのため,自由意志信念と厳罰傾向の関連に おける道徳判断の媒介効果を正確に検討するためには,重 複のある道徳的責任を除外したうえで自由意志信念を測定 する必要がある。 加えて,笠原他(2019)における道徳判断には,非難の ほかに道徳的責任帰属と制裁動機という下位概念が含まれ ているため,応報刑論で主張されるように自由意志信念と 厳罰傾向の関係を非難が媒介するかどうかはこの研究から は明らかでない。そこで本研究では,自由意志信念と厳罰 傾向の関連における非難の媒介効果を検討するという目的 に際して,非難のみを取り上げる1) また,従属変数については笠原他(2019)のようにシナ リオ法を用いて個別具体的な犯罪者に対する量刑判断を扱 うか,犯罪者全般に対する態度である厳罰傾向を扱うかが 問題になるが,本研究では,後者の厳罰傾向を扱う。その 理由は,量刑判断については得られた知見が他の罪種や犯 情にも当てはまるかが不明確であるというデメリットがあ るのに対し,厳罰傾向にはそのようなデメリットはなく, 統一的・画一的な取り扱いが求められる政策判断等に対し てより大きな示唆を与えることができると考えられるから である(向井・松木・木村・近藤,2020)。 以上の議論から,本研究では,自由意志信念の下位概念 である道徳的責任を除外し,犯罪者全般を対象とする厳罰 傾向を従属変数としたうえで,自由意志信念と厳罰傾向の 関連における非難の媒介効果を検討する。具体的には,「自 由意志に基づいて犯行に及んだ」ことに対する非難が刑罰 を科す根拠になるとする応報刑論の議論を踏まえ,道徳的 責任の項目を除外してもなお,非難は自由意志信念と厳罰 1)当然のことながら,制裁動機と道徳的責任帰属が自由意志 信念と厳罰傾向を媒介する可能性も考えられる。しかし, 制裁動機は本研究で扱う厳罰傾向と概念的に類似している こと,道徳的責任帰属は非難と明確に区別することが困難 であることから,非難のみに焦点を当てることは妥当であ ると考えられる。 パーソナリティ研究 2021 第30巻 第1号 45–47 DOI: http://doi.org/10.2132/personality.30.1.8 J-STAGE First published online: June 7, 2021

ショートレポート

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パーソナリティ研究 第30巻 第1号 傾向の関係を媒介するという仮説を検証する。 調査参加者と手続き 2019年11月にウェブ調査会社を通じて募集を行った。無 気力回答に対処するため,「この設問では,『やや当てはま る』を選んでください」という項目を用意し,誤った回答 を行った32名の回答者を除外した。結果として,合計192 名(女 性74名,男 性118名,平 均 年 齢50.6歳,SD = 13.55)から得られたデータを分析の対象とした2)。なお, データの分析にはHAD ver16.0(清水,2016)を使用した。 調査内容 厳罰傾向は,向井・藤野(2018)の刑事司法に対する態 度尺度に含まれる「刑罰の厳罰化」(5項目)と「刑罰の早 期拡大化」(6項目)の2因子を用いた。刑罰の厳罰化は, 犯罪者全般に対して厳しい刑罰を求める態度であり,他方 の刑罰の早期拡大化は,現状は犯罪とされていない迷惑行 為等を刑罰の対象とするよう求める態度である。また,死 刑への支持は単なる厳罰化とは異なる可能性がある(向井 他,2020)ことから,向井他(2020)の3項目を使用し, 死刑への支持も測定した。いずれも6件法で回答を求めた。 非難については,あえて犯罪をしたことに対する道義的な 非難として理解されるという応報刑論の議論を踏まえ(e.g., 大塚,2008),「大半の犯罪者は,道義的な非難を受けるに 値する」と「大半の犯罪者は,道徳的に見て責められるべ きことをしている」の2項目を作成し,6件法で回答を求め た。自 由 意 志 信 念 は,FAD-Plus (Paulhus & Carey, 2011) に含まれる自由意志信念因子の日本語版(後藤他,2015) のうち,道徳的責任に関する3項目を除外した4項目を使 用し,5件法で回答を求めた。 結果と考察 分析に用いた変数の基礎統計量をTable 1に示した。すべ ての変数の信頼性係数はαs>.71であり,十分な内的一貫性 が得られた。相関を見ると,自由意志信念は刑罰の厳罰化 及び死刑への支持とは有意な正の相関を,刑罰の早期拡大 化とは有意傾向の正の相関を示した。また,非難は自由意 志信念及び刑罰の厳罰化,刑罰の早期拡大化,死刑への支 持のいずれとも有意な正の相関を示した。 次に,自由意志信念と刑罰の厳罰化及び刑罰の早期拡大 化,死刑への支持との関連における非難の媒介効果をそれ ぞれ検討するために媒介分析を行った(Figure 1)。その結 果,自由意志信念から各因子への直接効果は,媒介変数の 投入前はいずれも有意(傾向)な係数を示していたが,媒 介変数の投入後はいずれも有意な係数を示さなかった。ま た,ブートストラップ法(サンプリング回数:10,000回, バイアス修正法)を用いて間接効果の有意性の検定を行っ たところ,刑罰の厳罰化(95%CI[.38, .81]),刑罰の早期拡 大化(95%CI[.15, .50]),死刑への支持(95%CI[.22, .61]) の95%信頼区間に0は含まれておらず,有意な効果が確認 された。 以上の結果から,道徳的責任に関する項目を除いて自由 意志信念を測定しても,非難は自由意志信念と厳罰傾向の 関係を媒介するという仮説は支持された。このことは,自 2)本 研 究 の 調 査 参 加 者 は,松 木・向 井・近 藤・金・木 村 (2020)の調査参加者とは異なる。 注.図中の数字は,上から順に刑罰の厳罰化,刑罰の早期拡大 化,死刑への支持に関する分析の標準化偏回帰係数を示す。 **p.01, *p<.05.

Figure 1

自由意志信念および厳罰傾向(刑罰の厳罰 化,刑罰の早期拡大化,死刑への支持)の関 連に対する非難の媒介分析

Table 1

 各変数の平均値,標準偏差,

Cronbach

α

係数,相関係数 1 2 3 4 5 6 1 刑罰の厳罰化 2 刑罰の早期拡大化 .58** 3 死刑への支持 .64** .34** 4 非難 .61** .32** .39** 5 自由意志信念 .32** .12† .17* .47** 6 年齢 −.10 −.09 .06 .00 .17* 7 性別a .09 .20** .05 .06 .06 .33** M 4.39 3.65 4.17 4.47 3.69 50.63 SD 1.03 0.96 1.05 0.85 0.51 13.55 α .94 .92 .71 .83 .77 — a男性=1, 女性=0. **p.01, *p.05, p.10.

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厳罰傾向と自由意志信念の関連における非難の媒介効果 由意志信念と厳罰傾向の関連は,刑法学における応報刑論 で想定されるように「他の行為ができたにもかかわらずあ えて犯罪をした」ことへの非難を媒介して成立するもので あることを示唆している。したがって,この点において, 人々の意識は刑法学における通説と一致したものであると 言える。また,刑法学において主として論じられてきた刑 罰の厳罰化だけでなく,刑罰の早期拡大化と死刑への支持 についても同様の間接効果が見られたことから,少なくと も自由意志信念及び非難との関係においては,厳罰傾向の 下位因子間で相違はないことが示唆されよう。 本研究の課題として,本調査はウェブ調査会社のモニ ターを用いたものであるため,他のサンプルに対しても本 研究の知見が一般化できるかは今後検証する必要がある。 引用文献

Carey, J. M., & Paulhus, D. L. (2013). Worldview implications of believing in free will and/or determinism: Politics, morality, and punitiveness. Journal of Personality, 81, 130141. 後藤崇志・石橋優也・梶村昇吾・岡 隆之介・楠見 孝 (2015).日本版自由意志・決定論信念尺度の作成 心理 学研究,86, 32–41. 笠原伊織・唐沢かおり・唐沢 穣(2019).自由意志信念が 道徳的判断および量刑判断に及ぼす影響―応報および 無力化に対する顕在的動機との関連に着目して― 人 間環境学研究,17, 147152. 松木祐馬・向井智哉・近藤文哉・金 信遇・木村真利子 (2020).宗教信者イメージと受容的態度の関連 パーソ ナリティ研究,29, 1719. 向井智哉・藤野京子(2018).刑事司法に対する態度尺度の 作成と信頼性・妥当性の検討 法と心理,18, 86–98. 向井智哉・松木祐馬・木村真利子・近藤文哉(2020). 厳罰 傾向と帰属スタイルの関連―日韓の比較から― 心 理学研究,91, 183192. 大塚 仁(2008).刑法概説 総論 第4版 有斐閣

Paulhus, D. L., & Carey, J. M. (2011). The FAD-Plus: Measuring lay beliefs regarding free will and related constructs. Journal of Personality Assessment, 93, 96104. 清水裕士(2016).フリーの統計分析ソフトHAD―機能

の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の 提案― メディア・情報・コミュニケーション研究,

1, 5973.

―2020.12.5受稿,2021.4.9採択―

Mediating Effect of Blame on the Relationship

between Punitiveness and the Belief in Free Will

Yuma Matsuki

1

, Tomoya Mukai

2

, Yuki Yuyama

3

and Masahiro Sadamura

2

1 Faculty of Letters, Arts and Sciences, Waseda University 2 Graduate Schools for Law and Politics, The University of Tokyo 3 Graduate School for Letters, Arts and Sciences, Waseda University

The Japanese Journal of Personality 2021, Vol. 30 No. 1, 45–47

This study examined the mediating effect of blame against criminals on the relationship between

punitiveness and the belief in free will. Furthermore, considering that blame against criminals and the free

will belief subfactor of moral responsivity overlap conceptually, belief in free will was measured excluding

this subfactor. Web surveys were conducted with 192 adults, and a mediation analysis revealed that blame

against criminals mediated the relationship between punitiveness and the belief in free will. This suggests

that a belief in free will strengthens blame against criminals, and this strengthened blame can promote

punitiveness.

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