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外科と代謝・栄養_51巻2号.indb

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Ⅰ はじめに   本 稿 で は, 静 注 用 脂 肪 乳 剤(intravenous fat emulsions:IVFEs)の開発状況を多角的な視点 からレビューすることでその全体像を明確化し, 臨床効果に関する最新の知見を踏まえて今後の展 望について論じる. Ⅱ IVFEs の世代分類  図 1 に,米国静脈経腸栄養学会(American So-ciety for Parenteral and Enteral

Nutrition:AS-PEN)の見解1)に準じた IVFEs の世代分類を示 す.この分類法は,2 つの観点,すなわち材料油 脂の組成ならびに炎症反応との関連性に基づいて いる.IVFEs の材料油脂は,基本的に,大豆油 (soybean oil:SO),中鎖脂肪酸トリグリセライ ド(medium-chain triglyceride:MCT), オ リー ブ油(olive oil:OO),魚油(fish oil:FO)の 4 種である.MCT は,ココナッツ油または他のト ロピカルナッツ油の由来である.炎症反応との関 連性による分類が加わっている理由は,最初に開 発された IVFEs(第一世代)は大豆油のみ由来す る製剤であったため,当然 n-6 系多価不飽和脂 肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)の含有 量が高く,n-6 系 PUFA が内包する炎症促進作用 が 1990 年代に大きく問題視されるようになり, これが次世代の IVFEs 開発を強力に促した経緯2) があるからである. Ⅲ 第 1 世代 IVFEs 誕生の歴史考証  脂肪輸液の発想は意外と古く,1679 年に Cur-tenが犬の大腿静脈にオリーブ油を注入したのが 起源とされるが,その有用性(動物実験)が初め て報告されたのは 1915 年のことであった3).そ の後,米国,ドイツ,フランス等において IVFEs の開発が進められたが,いずれも副作用のために 製品化にいたらず,特に米国では重篤な副作用が 発生した結果として 1964 年に禁止処分を受け た3).1965 年,スウェーデンの Wretlind が SO を 用いて安全な IVFEs の開発に成功し,以後,こ の製剤(Intralipid®)は 50 年以上が経過した現 在も世界中で利用され続けている3).Wretlind は,IVFEs を主要なエネルギー源として末梢静脈 および中心静脈の双方から投与が可能な静脈栄養 (parenteral nutrition:PN)も確立しており,こ れ は“lipid-carbohydrate system” と 呼 ば れ4) 欧州において標準となった PN の基本組成に決定 的な影響を及ぼすことになった.   わ が 国 で は,1920 年, 東 北 大 学 の 山 川 が IVFEsとしてバター脂と肝油の混合乳化態である Yanolを創製したが,副作用などによって一般化 されなかった5),6).1949 年,京都大学の日笠らは 静注可能な肝油乳剤を作製して Fatgen と命名 し,その後,幾多の改良を重ねてゴマ油乳剤の作 製に成功した6).1959 年には,これを Fatgen-D®としてわが国初の IVFEs 市販に漕ぎ着けた が, 副 作 用 な ら び に 利 便 性 の 低 さ(20% 製 剤 25 mLアンプル 4 本をリンゲル液に希釈・混和し て 使 用 ) ゆ え に,Fatgen-D®は 普 及 し な かっ

「脂肪乳剤について考える」

世界とわが国における脂肪乳剤の開発状況と今後の展望

寺島 秀夫

特  集

筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻外科 学 〒305-8575 茨城県つくば市天王台 1-1-1

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た7).実をいえば,谷村らは,Fatgen-D®開発の 基本コンセプト,すなわち,IVFEs の材料油脂は ゴマ油か SO でなければならないとする考え方が Intralipid®の開発成功に大きく貢献した裏事情を 指摘している7).国内で開発された製剤として は,以下の 2 種がある.Intrafat®は,1968 年に 東京医科歯科大学の木村らが大豆油をベースにし て開発されたものであり,10%製剤が 1970 年に 市販が開始され,1990 年には 20%製剤が加わっ た が,2011 年 に 製 造 中 止 と なった.Intralipos® は,1981 年に 10%製剤が,1987 年には同 20%製 剤が発売されて現在にいたっており,本剤が現在 唯一の国産 IVFEs となっている. Ⅳ IVFEs 世代進化の原動力となった諸問題  IVFEs は,いうまでもなく PN において必須脂 肪酸の供給源として不可欠であるが,lipid-car-bohydrate system4)に基づく PN ではエネルギー 源として活用されている.IVFEs が実臨床におい て広く活用されるに連れて以下の課題が浮かび上 がり,新規 IVFEs の開発が進められてきた. 1.弱点の克服 1)第 1 世代 IVFEs が内包する炎症促進作用  この問題は,第 1 世代 IVFEs 固有の組成,つ まり,SO 100%の組成ゆえに n-6 系 PUFA を多 量に含有し,n-3 系 PUFA であるエイコサペンタ エン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)とドコサ ヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)を 欠くことに起因している2).文頭でも述べたよう に,この問題が 1990 年代以降に問題視され,次 世代の IVFEs 開発を強力に推進させることに なった. 2)大豆アレルギー  大豆アレルギーの患者では,PN 管理下におい て SO を含まない IVFEs が利用できない場合, 必 須 脂 肪 酸 欠 乏 症(essential fatty acid deficien-cy:EFAD)のリスクが生じる.ちなみに,食物 アレルギー診療ガイドライン 2012(日本小児ア レルギー学会食物アレルギー委員会作成)によれ ば,大豆は食物アレルギー原因食品の 2%に相当 する8).乳児期発症の場合,90%程度のケースで 自然寛解が期待でき,アレルゲン別には自然寛解 していく順番は大豆>小麦>牛乳>鶏卵の順とさ れている9).以上を鑑みると,成人例で SO ベー スの IVFEs にアレルギー反応を呈する患者はま れと考えられる.

3) 静脈栄養関連肝疾患(PN-associated liver dis-ease:PNALD)

 PNALD は,文字通り PN に続発する肝胆道系 合併症であり,その原因には IVFEs のみならず

PN製剤に含まれる他の成分も関与している2)

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特に長期間にわたり PN に依存せざるを得ない患 者では重大な問題であり,PNALD は最終的に肝 硬 変 へ 伸 展 し て 致 死 的 な 転 帰 に い た る2) PNALD対策として IVFEs 組成の観点からは, フィトステロール(phytosterol)と長鎖脂肪酸ト リグリセライド(long-chain triglyceride:LCT) の減量が効果的と考えられている10).フィトステ ロールは植物中に存在する天然化学物質の一群で あり,植物油では SO に含まれている.SO ベー スの IVFEs が投与された患者では血中フィトス テロール値が上昇し,これが胆汁鬱滞の誘発に関 与することが報告されている2) 2.臨床効果の増強 1)効率的なエネルギー源の探究  IVFEs に含まれるトリグリセライドの種類は MCT,LCT,structured triglyceride(STG) の 3 種であるが,それぞれの特性が臨床効果に相違を 生じる2).STG とは,合成的に構成化されたトリ グリセライドであり,具体的には SO 由来の LCT とココナッツ油由来の MCT を単に物理的に混合 するのではなく加水分解後に再エステル結合させ たものである.  静注された MCT は,LCT よりも素早く加水分 解されて血中から消失し酸化されていくので,即 時利用されるエネルギー源として有用である2) この MCT の特性が第 2 世代 IVFEs の特長となっ て い る. 最 近 の メ タ 解 析11)は,STG ベース の IVFEsは単純に LCT/MCT を混合した IVFEs よ りも栄養学的な効果が優れていることを示唆して おり,この論点については後段において詳説す る. 2)Pharmaconutrient としての活用  Pharmaconutrient とは,免疫のみならず生体 の多様な機能を修飾する薬理効果を有する栄養素 を包括する呼称である.IVFEs 材料油脂のなかで FOのみに多量に含有されている DHA と EPA は,pharmaconutrient に該当し,免疫能を低下さ せることなく炎症反応を軽減する特性12)を有し ている.ゆえに,FO を含む第 4 世代 IVFEs が重 症患者のアウトカムを改善させることに大きな期 待が寄せられることになったが,最新の見解につ いては改めて後述する. Ⅴ 世界で供給されている IVFEs の現況  表 1 に,2016 年の時点でグローバルに流通し ている IVFEs 製剤の特徴2)を世代別に総括し た. 補 足 説 明 と 加 え る と, 先 述 の STG ベース IVFEsに該当するのが Structolipid®である.第 3 世代 IVFEs は,その特徴として OO:SO が 8:2 で配合されているため,OO 由来の n-9 系一価飽 和脂肪酸(オレイン酸)が脂肪酸の半分以上 (65%)を占めている.一価飽和脂肪酸は多価飽 和脂肪酸に比して過酸化されがたい特性を有す 表 1 グローバルに流通している静注用脂肪乳剤(IVFEs)一覧 世代分類 製剤名 FA濃度% 組成% n-6 系:n-3 系脂肪酸比 kcal/L 第 1 世代 第 2 世代 第 3 世代 第 4 世代 Intralipid® Nutrilipid® Lipofundin® Lipovenoes® Structolipid® ClinOleic® Clinolipid® Lipidem® Lipoplus® SMOFlipid® Omegaven® 10,20% 20% 10,20% 20% 20% 20% 20% 20% 20% 20% 10% SO 100 SO 100 SO:MCT 50:50 SO:MCT 50:50 SO:MCT 64:36 OO:SO 80:20 OO:SO 80:20 MCT:SO:FO 50:40:10 MCT:SO:FO 50:40:10 SO:MCT:OO:FO 30:30:20:15 FO 100 7:1 7:1 7:1 7:1 7:1 9:1 9:1 2.7:1 2.7:1 2.5:1 1:8 1100,2000 2000 1022,1908 1950 1960 2000 2000 1910 1910 2000 1120 FA,脂肪酸;SO,大豆油;MCT,中鎖脂肪酸トリグリセライド;OO,オリーブ油;FO,魚油

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る. 第 4 世 代 IVFEs の Omegaven®は,FO 単 剤 の組成であるため,他の IVFEs との併用するこ とで全脂肪必要量の 10∼20%に留めることが添 付文書において推奨されている.PN 単独の栄養 管理下で FO のみを投与した場合,必須脂肪酸欠 乏症が懸念されるわけであるが,小児領域では必 須脂肪酸欠乏症が発現することなく十分な発育も 維持され13),さらに PNALD の改善に有用である こと14)が症例検討として報告されている(それ ぞれ clinicaltrials.gov NCT00512629,NCT 00910104 として臨床研究が開始されているが 2017 年 1 月 の時点で結果は公表されていない).SMOFlipid® は,まさに材料油脂 4 種類(SO,MCT,OO, FO)のいいとこ取りをしたような製剤といえ, 第 1 世代 IVFEs が内包していた炎症反応促進作 用が解消されて侵襲時には炎症反応の軽減が期待 でき,必須脂肪酸補給やエネルギー源としても十 分に活用可能である.  世界的にみて,米国と日本は IVFEs 供給がき わめて特殊な状況にあり,ともに第 1 世代しか流 通していない.その要因として,両国では,PN の非タンパク質エネルギー供給として欧州で標準 化された“lipid-carbohydrate system”ではなく “Glucose system”(グルコースのみを用いる)を 長きにわたり採用されてきたため,IVFEs に必須 脂肪酸補給以外の目的を求める必然性は生まれ ず,その結果,新規 IVFEs を開発する気運が高 まることもなかったと考えられる.なお,米国の 場合,2013 年に米国食品薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が,第 3 世代に該当する Clinolipid®(1000 mL 製剤)の国内生産と販売を 認可しているが,今のところ市場に投入される目 処は立っていないようである2).また,第 4 世代 の Omegaven®は FDA から利用範囲拡大制度の 適用を受けており,医師が新薬臨床試験開始届の 申請を行って FDA からの許可が得られれば,合 法的に輸入して患者に投与することが可能な状態 にある. Ⅵ 臨床効果の検証  以下,先に提起した「IVFEs 世代進化の原動力 となった諸問題」に対応させながら,IVFEs の世 代交代が実際に有益性を発揮しているか否かを検 証する. 1.特に成人重症患者を対象とした新世代 IVFEs の有効性  結論から述べると,第 1/2 世代から取り分け 第 4 世代 IVFEs の使用に移行すべきことを実証 した質の高いエビデンスはいまだ存在しない2)  前向き観察研究として,第 3/4 世代 IVFEs の 有用性が報告されている.Edmuds らは,2007∼ 2009年 お よ び 2011 年 に 行 わ れ た International Nutrition Survey(INS)に登録された 12,585 人 の患者から二次解析として 451 人(条件:集中治 療 72 時間以上,48 時間以上の人工呼吸器管理, PN単独による栄養管理 5 日間以上)を抽出した う え で,IVFEs を 含 ま な い PN(70 人 ),SO/ MCT/OO/FOベース の PN(そ れ ぞ れ 223 人, 65人,74 人,19 人)別にアウトカムを検討し た15).OO または FO ベースの PN を受けた患者 では,SO ベースの PN に比して,人工呼吸器か らの離脱および生存での ICU 退室が有意に早 まったが,在院期間と死亡率では有意差が認めら れなかった.本研究では各群の症例数に大きな偏 りがあり,特に FO ベース PN はわずか 19 人に 過ぎなかったことに留意しなければならない.  最近のメタ解析としては,Manzanares らによ る 2 編の論文16),17)がある.2014 年の報告は, 1980∼2012 年までの期間に公表されたランダム 化 比 較 試 験(randomized controlled trial:RCT) か ら 6 件, 具 体 的 に は,PN で は LCT+MCT+ FOベース IVFEs vs. LCT+MCT ベース IVFEs の 比 較 研 究 が 1 件,LCT ま た は LCT/MCT と FO を含む IVFEs vs. LCT または LCT+MCT ベース IVFEsの比較研究が 3 件,経腸栄養(enteral nu-trition:EN) で は EN+FO ベース IVFEs vs. EN +生食ならびに EN+FO ベース IVFEs vs. EN の

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比較研究が 1 件ずつ,それぞれ採択され,患者総 数は 390 人であった16).FO を含む IVFEs では, 死亡率と人工呼吸器管理期間は減少する傾向を示 したが,感染性合併症と ICU 在室期間には効果 は認められなかった.その翌年には,採択 RCT の数を 2014 年までの 10 件に増やして再検討した 結果が報告されている17).具体的には,PN の場 合(計 6 件)には LCT+MCT+FO ベース IVFEs vs. LCT+MCT ベース IVFEs の比較研究が 3 件, LCT+FO ベース IVFEs vs. LCT ベース IVFEs の 比 較 研 究 が 2 件,OO+FO ベース IVFEs vs. OO ベース IVFEs の比較研究が 1 件,EN 主体の場合 (計 4 件 ) に は EN ま た は 経 口 食+FO ベース IVFEs vs. ENまたは経口食+生食の比較研究が 1 件,EN+FO ベース IVFEs vs. EN 単独の比較研 究 が 1 件,EN+PN ま た は 経 口 食+FO ベース IVFEs vs. EN/PN/経口食のいずれかの比較研究

が 1 件,EN ま た は PN+FO ベース IVFEs vs.

EN/PNのいずれかの比較が 1 件,それぞれ採択 され,患者総数は 733 人となっていた.FO を含 む IVFEs は,全体として死亡低減に効果を示さ なかったが,EN が主体となっていた RCT にお いてサブグループ解析を行うと死亡率を減少させ る傾向が認められた.また,感染症が評価されて いた 5 件の RCT を対象にしたサブグループ解析 では,FO を含む IVFEs が感染性合併症を有意に 減少させていた(リスク比 0.64,p=0.02).  実は,逆に,第 1 世代 IVFEs が炎症促進作用 により実臨床において悪影響を及ぼすことを実証 した質の高いエビデンスもないのである2).しか しながら,米国集中治療学会と ASPEN による最 新のガイドライン(2016 年版)においても,第 1 世代(SO ベース)IVFEs の投与は,成人重症患 者の場合,PN が開始された最初の 1 週間では差 し控えること,または制限すること(必須脂肪酸 欠乏が懸念される場合には 1 週間で最大 100 g の 投与まで)を推奨している(エビデンスの質:非 常に低い)18) 2.大豆アレルギー患者に対する Omegaven® 有効性   一 例 報 告 と し て, 大 豆 ア レ ル ギーに よって EFADを発症した場合,Omegaven®の投与が有 効であることが実証されている19).症例は,T 細 胞リンパ腫に対して同種骨髄移植を受けた後に急 性移植片対宿主病が発現し,消化管出血のために PN管理を余儀なくされた 17 歳男性であった. 大豆アレルギーが把握されていたので食物アレル ギーの減感作療法が試みらたが成功せず,さらに 消化管出血が軽快と増悪を反復した結果,約 2 カ 月半にわたり無脂肪の PN 管理が続き,ついに EFADの発症にいたり,Omegaven®の利用が検 討された.米国在住のため FDA の許可が得られ た後,Omegaven®の投与は 0.2 g/kg/day から開 始,0.67 g/kg/day ま で 増 量 さ れ,17 日 目 に は Triene:Tetraene 比の正常化が確認でき,順調に 必須脂肪酸欠乏状態から離脱した.その後,EN に移行するまでの 46 日間にわたり脂肪投与は Omegaven®のみであったが,安全に PN 管理が 実 施 で き て い た. 大 豆 ア レ ル ギーの 場 合, Omegaven®が EFAD の予防と治療に双方に対し て有力な選択肢であることが示唆される. 3.PNALD の 予 防 と 治 療 に 対 す る 第 4 世 代 IVFEsの有効性  これまでの研究対象はほぼ小児であり,成人に 関するデータはきわめて限られている.  2015 年,新生児 PNALD の治療と予防に対す る 第 4 世 代 IVFEs(Omegaven®,SMOFlipid® Lipidem®)の効果を検証したメタ解析が公表さ れ た20).2014 年 5 月 ま で に 発 表 さ れ た 研 究 か ら, 治 療 に 関 し て は 3 件 の 研 究(患 者 総 数 93 人),一方,予防に関しては 4 件の研究(患者総 数 1,012 人)が,それぞれ最終的に採択された. 結果として,第 4 世代 IVFEs は,静脈栄養関連 胆 汁 鬱 滞(parenteral nutrition–associated cho-lestasis:PNAC,定義は 2 回連続して血中直接ビ リルビン測定値>2 mg/dL))を有意に改善して

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おり治療の有効性が示されたが,PNAC の予防に いては有意の有益性は認められなかった.   さ ら に, 最 近, 単 施 設 か ら で は あ る が, PNALD発症後の治療効果に関する臨床研究が 2件報告されている.2014 年の報告は,PNALD を合併した生後 6 カ月未満の乳児が対象であっ た21).2007 年 9 月∼2013 年 4 月の期間にテキサ ス子供病院において 97 人が Omegaven®(1.0 g/ kg/day) 投 与 の compassionate-use プ ロ ト コー ルに登録され,追跡調査の結果,83 人(86%) は胆汁鬱滞が改善し生存していたが,14 人は死 亡していた.2015 年の報告は,ボストン子供病 院 か ら で あ り,2004 年∼2012 年 の 期 間 に PNALDの 診 断 を 受 け Omegaven®(1.0 g/kg/ day)を用いて治療された 12 歳以下の小児 178 人 う ち 診 断 時 に 肝 硬 変 も 合 併 し て い た 51 人 (29%)を抽出し,追跡調査が行われた22).その 51人中 76%は治療開始後に胆汁鬱滞が改善して おり(改善までの平均期間は 74 日),血清直接ビ リルビン値の平均値は 6.4±4 から 0.2±0.1 mg/ dLまで低下していた.肝移植が必要となった ケース皆無,末期肝臓病による死亡もゼロであ り,PN の継続が必要であった患者では Pediatric End-Stage Liver Disease(PELD)scores の 正 常 化が維持されていた.  以上のごとく,第 4 世代 IVFEs は,PNALD の 治療において一貫して有効性が確認されている が,その予防効果に関してはさらなる検討が必要 な状況にある. 4.侵襲下における STG ベース IVFEs の有用性  2016 年,第 2 世代 IVFEs 製剤間で STG の有用 性を検討したメタ解析結果が公表された11).対象 は 5∼7 日間にわたり PN で管理された術後ない し成人重症患者であり,カロリーと窒素投与量が 同一の条件において,STG ベース IVFEs(Struc-tolipid®)投与の効果が,単に LCT/MCT を混合 し た IVFEs(Lipofudin®,Lipovenoes®) が 投 与 された場合と比較検討された.その結果,STG ベース IVFEs 投与によって,累積窒素バランス と血中アルブミン値は有意に良好であり,血中ト リグリセライド値と肝酵素(ALT,AST,GGT) は有意に低値を示しており,栄養学的に優れた効 果が認められた.しかしながら,結論の解釈にお いて,以下に点に留意すべきことを付記してお く.21 件の研究が採択されていたが,そのうち 18件(86%)が中国からの報告であり,中国語 で記述され PubMed には登録されていない論文 も含まれていた.対象患者の背景としては 16 件 (76%)が外傷を含む手術後,4 件が重症疾患で あったが,奇異なことに残り 1 件の研究では単に 肝硬変と記載されていた. Ⅶ 今後の展望   最 初 の 論 題 は,「第 4 世 代 に 続 く 次 世 代 の IVFEsが近い将来に登場するのか?」である.製 薬業界の専門家との personal communication に 基づくと,次世代の IVFEs 開発に向けた胎動は ない模様である.つまり,当面,表 1 に一覧し た製剤を活用していくことになり,この立脚点か ら今後の展開を論じることにする.  第 2 の論題は,「今後 IVFEs の主力となる(既 存の)製剤は何か?」である.先述したように IVFEsは弱点の克服と効果の増強を目指し進化し てきたわけなので,素直に進歩の恩恵にあずかる とすれば,自ずと選択すべき製剤は第 4 世代 IVFEsの な か で も 効 果 の バ ラ ン ス に 優 れ た SMOFlipid®となり,今後の主流は SMOFlipid® と推断される.また,特殊な病態,すなわち, PNALDや大豆アレルギーの治療に対しては, Omegaven®が有用かつ不可欠であることはいう までもない.しかし,これら二剤ともわが国では いまだ承認・市販されておらず,わが国の IVFEs 市場がつぎなる論点となる.  そこで,最後の論題を「わが国の保険診療に第 4世代 IVFEs を導入しようとする場合,どのよう な問題が障壁となるのか?」として,私見を述べ てみたい.第 1 の障壁は,薬事行政に起因する問

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題である.輸液メーカーは,2007 年 8 月に厚生 労働省より発表された「新医薬品産業ビジョン」 において「ベーシックドラッグファーマ」と位置 付けられ,医療を支える基礎的な医薬品や必須医 薬品に該当する基礎輸液製剤や栄養輸液製剤を効 率的かつ安定的に供給することが求められてい る23).しかしながら,輸液製剤の収益性は良好と はいえず,多くの国内医薬品メーカーが利益率の 高い治療薬にシフトしたため,40 年程前に 40 社 近くあった輸液製造販売メーカーは激減し,今で は 13 社が販売しているにすぎず,製造設備を有 している企業となるとさらに少なくなるといった 事態に陥っている23).現行の薬価基準制度では, 類似薬効比較方式(Ⅰ)として「同じ効果を持つ 類似薬がある場合には,市場での公正な競争を確 保する観点から新薬の 1 日薬価を既存類似薬の 1 日薬価に合わせる.当該新薬について類似薬に比 し高い有用性等が認められる場合には,上記の額 に補正加算を行う(画期性加算,有用性加算,市 場性加算及び小児加算).」の基本ルールがあり, 類似薬効比較方式(Ⅱ)としては「新規性に乏し い新薬については,過去数年間の類似薬の薬価と 比較してもっとも低い価格とする.」の特例的な ルールが定められている.この薬価基準制度に SMOFlipid®を当てはめてみると,類似薬に相当 するのが Intralipos®(現在,唯一の国産 IVFEs) となる.Intralipos®の薬価は 1981 年の発売以降 度重なる改定によって原価に近接していること, 加えて実臨床全般においては SMOFlipid®の画期 的な効果が実証されていないことを鑑みると, SMOFlipid®が国内輸液メーカーにとって魅力な 薬価を獲得できる蓋然性は低いといわざるを得な い.第 2 の障壁は,栄養輸液製剤の需要変化に起 因する問題である.1990 年後半から EN を主体 とした栄養療法が普及し,PN の適応は EN 不耐 性の病態に限定されるようになった.PN が必要 となる病態である小腸機能障害を有する患者数 は,身体障害者手帳所持者の観点から特定してみ ると,2011 年の時点で 65 歳未満 2,900 人(一級 500人)/65 歳以上および年齢不詳 4,900 人(一級 1,000人)であった.難治性疾患克服事業として 2011年に行われた調査によれば,先天性または 新生児・乳児期発症の腸管不全例は年間 65∼130 人程度の発生と推計されていた25).これらの背景 に少子化の進行も加味すると,今後,栄養輸液市 場が拡大することはないと断定可能である.以上 2つの大きな障壁は,国内医薬品メーカーに新規 栄養輸液製剤の市場投入を躊躇させる要因として 作用しているに相違ない.2011 年,日本外科学 会は,医療上必要性の高い未承認薬・適応外薬と して Omegaven®の開発要望書を厚生労働省に提 出している.この要望は,特に小児の腸管不全 (静脈栄養)関連肝障害と栄養状態の改善を適応 とした Omegaven®の保険適用化を目指した活動 の一環であった.しかし,いまだ保険適応にい たっておらず,Omegaven®の使用に際しては個 人輸入しなければならい(1 本あたり約 1 万の自 己負担).この事例は,栄養輸液製剤にかかわる 医薬品メーカーが直面する厳しい現実の一端を反 映しているように思われる.残念な結論を提示す ることになるが,栄養輸液製剤の市場は今後とも 停滞が続くと推測せざるを得ず,IVFEs の新たな 展開を期待することは困難であろう. Ⅷ おわりに  第 1 世代 IVFEs の歴史考証として述べたよう に,黎明期においてわが国が IVFEs 開発のフロ ントランナーであったことは間違いない.この事 実を改めて銘記することによって,停滞する現状 を打破する気概が生み出されることを祈念した い. 文献

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図 1  米国静脈経腸栄養学会に準じた静注用脂肪乳剤(IVFEs)の世代分類

参照

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