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05 外国人被災者のための 地震災害基礎語彙シソーラス試案 佐藤和之 1. 災害語彙と日本語教育 災害が起きたときに外国人を救うための やさしい日本語 では 発災から 72 時間以内に限定して 緊急性の高い情報をおおむね 2000 語で伝えようとしている ここでの外国人とは 日本に住んでいて タクシ

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外国人被災者のための

地震災害基礎語彙シソーラス試案

佐藤和之

1.災害語彙と日本語教育 災害が起きたときに外国人を救うための「やさしい日本語」では、発災から72 時間以内に限定 して、緊急性の高い情報をおおむね2000 語で伝えようとしている。ここでの外国人とは、日本に 住んでいて、タクシーやバスに乗ったり、日本語で買い物ができるくらいの日本語力をもった人た ちのことである。国際交流基金が実施している日本語能力試験でいうと、ちょうど3・4 級程度に 相当する。 日本語能力が初級程度の彼らには、日本人なら知っていて当然の、たとえば懐中電灯や余震とい った語を、地震が起きたときに、このような外国人に使っても理解されないという問題がある。そ こで「やさしい日本語」では、日本語能力試験の1級や2級あるいは級外の語でありながら、緊急 性が高いものについては他の言い方にして伝えるという提案をしており、たとえば懐中電灯(級外) は「手に持つ電灯」、「余震」(級外)は「あとから来る地震」と言うようにしてきた。 この懐中電灯や余震は、日本人なら小学校の1 年生でも知っている語であるが、災害に関係する 語のうち、3 級までに習うものは「地震」(3 級)や「火事」(3 級)「揺れる」(3 級)「壊れる」 (3 級)などごく少数で、じつは「消防車」も「救急車」も級外となっている。「避難」や「ひび」 は1 級、「助ける」や「停電」は 2 級、「ローソク」や「亀裂」「通行止め」は「消防車」と同じ 級外である。 だからといって、いつ役立つかわからない災害に関する語を沢山学ぶことは、日本語初学者にと って大きな負担となる。日本語教育では、外国人の日本での日常を想定しながら段階的に学ぶよう になっていて、4 級で 800 語、3 級で 1500 語、2 級で 6000 語、1 級で 10000 語を学習する。日本 語能力が初級(おおむね3 級以下)の人たちは、災害が起きたときに「自分の身の安全を確保する ことがきわめて困難な状況になる」からといって、非日常でしか使えない災害に関する語を2300 (800+1500)語の中に数多く取り入れることは、日常を円滑に過ごすための生活語を奪うことになる。 一方で、生活語を減らさず災害に関する語を教えようとすると、2300 語以上を学ぶことになり、日 本語初学者の負担が増えてしまうという上述理由にたどり着くのである。 2.外国人被災者のための災害語彙 それでもやはり日本は地震の多い国であり、地震のない国からきた人たちにとって、地震が起きた

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2 ときの、彼らが理解できる言語で伝えられる情報の少なさや、学んだことのない語ばかりの日本語 による情報は不安を駆り立てる。阪神淡路大震災のときに、外国人が被災した割合は日本人にくら べて圧倒的に高かった1 )ことからも明らかなように、 外国人被災者が安全な場所へ移動し、被災 者として適切な行動が取れるようになるには「何が起きたか」や「どうすればいいか」を、彼らが 理解できる表現で的確に伝える必要がある。 そこで本稿では、災害が起きたときに必要となる語にはどのようなものがあって、それらは相互 にどう結びついているのかを具体化するため、災害に関連して使われる語彙(以下、災害語彙)の シソーラスを視覚化することにした。また災害時に、「やさしい日本語」で情報を受け取る対象と している外国人(日本語初級)が知らないと思われる3 級・4 級以外の語、言い換えると 1、2 級お よび級外の語の中から、日本人小学生での使用頻度が高い語を選出する。さらに小学生の学年別に よるそれら使用頻度の違いをもとに、「やさしい日本語」に必要な災害語彙の重要語リストを作成 することにした。 これらの利用目的として、外国人にとって難解な災害語彙を「やさしい日本語」へ言い換えると きの優先順位付け、および日本語能力が初級程度の外国人用災害語彙の重要度別序列化の客観的資 料となることを想定した。さらに、日本語教育で教えるべき語彙見直しの際の災害語彙を各級に所 属させる判断材料にもなりうると考えた。 3.『先生、地震だ』と『どっかんグラグラ』 日本語の災害語彙はどのような関係でつながっているのか。このことを確かめるため、阪神淡路 大震災(1995)を経験した子供たちの書いた作文集『どっかんグラグラ』(兵庫県国語教育連盟, 1995) と日本海中部地震(1983)を経験した子供たちの作文集『先生、地震だ』(田中, 1985)に収められてい る全作文157 本をもとにシソーラス化をすることにした。 『どっかんグラグラ』には、兵庫県下の小学生1 年から 6 年までの作文 105 本が収められており、 大都市の壊滅的被害を経験した子供たちの表現が記録されている。そこでの作文を形態素に分けて みたところ、のべ語数で44409 語、異なり語数で 3285 語となった。 また『先生、地震だ』には、青森県(一部秋田県北)の日本海側にある小学校の 1 年生から 6 年 生までの作文 52 本が収められている。この地震の特徴は、死者のほとんど(104 人中 100 人といわ れる)が、青森、秋田、山形の日本海沿岸に押し寄せた大きな津波によるものだったことである。 このようなことがあって、同書からは、阪神淡路大震災で使われなかった海に関する子供たちの災 害語彙を知ることができる。形態素解析による結果は、のべ語数で 19348 語、異なり語数で 1964 語であった。 ちなみに、これら全作文 157 本の形態素解析に際しての誤差率は 0.27%である。 4.日本人被災児童の災害語彙 小学生の作文を対象にした理由は以下の通りである。明らかにすべきことは、被災者が自分の身 の安全を確保するとき、日本人はどのような語を使うかである。また大人と子供とでは語彙量が違

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3 うけれども、これまでの調査から、それらは図1のような包括関係にあることがわかっている。小 学生の災害語彙量は学年を増すごとに増えるが、ただし成人でも書きことばでしか使わないような、 たとえば「(津波の)遡上」や「人的被害」「(被災者の)遺留品」「逆巻く(津波)」「甚大な 被害」といった表現を使うことはない。さらに「海洋プレート内地震」「内陸地殻内地震」「活断 層」「スロースリップ現象」「震源域」のような語は成人でも使うことがなく、専門家用語として だけ使われている。 すなわち小学生が保有している災害に関する語彙は、大規模災害が起きても自分の身の安全を確 保するのに十分な量となっていて、しかもそれらは日本人にとって必要な災害語彙としての条件を 満たしているということである。 つぎにこのような災害語彙を、日本語を母語としない外国人に教えるという視点で考えてみる。 まず、私たちが想定した救うべき外国人の日本語能力は、おおむね 2000 語を使いこなせる程度であ ることと、私たちは、災害発生から 72 時間までの災害情報を伝えようとしていて、災害の原因説明 のための表現は想定していないなどの条件付きであることを確認しておきたい。これらから考える と、じつは専門家や成人が保有している災害語彙を調査するより、小学生が保有している語の集ま り(以下、あらためて「語彙」と呼ぶことにする)を吟味することの方が現実的である。ここでの 吟味するとは次のようなことである。災害発生時には小学生であっても自分の身を守るために、情 報を集めてさまざまな行動を起こす。小学生が自分の身を守るために保有する必要最小限と思われ る語はどのように結びついているのか(シソーラス)を知ることが、外国人被災者を救う最小限の 語を選ぶことにつながる。それと共に、その語彙からさらに選出した重要語が被災外国人の安全を 保障する語になると判断した。 5.災害語彙シソーラス そこで、前掲作文集から得られた1 年生から 6 年生までの全ての異なり語 3933 語を対象として、

専 門 家

成 人

小学校 5・6 年生 1802-2148 語 小学校 3・4 年生 1465-1492 語 小学校 1・2 年生 654-1059 語 図 1 災害語彙量(異なりによる)

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災害に大きく関係する語を選び出した。そして意味的に似通った語同士を類型化してみたところ図 2のような関係が成立した。

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5 大きな<災害>という概念の中に、まず災害の<種類>を表す概念が存在している。「地震」「津 波」「火災」といった類である。その災害の種類、たとえば「地震」を説明するための<災害の状 況>や<被害の程度><海に関わる><山に関わる><建物に関わる><生活に関わる><建物に 関わる><交通に関わる>語彙が存在している。<海に関わる>語彙には、「大波」や「波立つ」 「盛り上がる」「テトラポット」といった語があって、それらは<災害の種類>の「津波」と関連 付けられている。同様に<山に関わる>語彙には「山崩れ」や「崖崩れ」があり、それらに関連す る語は、今回の調査ではほとんど得られなかったが、<災害の種類>の<土砂災害>に関連づける ことができるものであった。またたとえば<建物に関わる>語彙は<交通に関わる>語彙と、さら に<建物に関わる>語彙の「病院」は<医療に関わる>語彙と結びついている。 <災害の状況>には「地割れ」や「生き埋め」「燃える」「停電」「断水」といった語があって、 この<災害の状況>と災害によって生じた<被害の程度>を結ぶものとして「揺れる」や「倒れる」、 「破裂」「ひび」といった語が使われていた。また、その倒れたり崩れたりしている程度を示す表 現として「全壊」や「全滅」「無事」といった語彙<被害の程度>が成立していた。 さらに「助ける」や「片付ける」など、<災害に立ち向かう行動>の語彙があり、その行動の違 いから、事前の行動(防火・防災など)や身を守る行動(避難、潜るなど)、被害に抗する行動(救 助、助けるなど)、大丈夫かどうかを確認する行動(消息、探すなど)、日常に戻る行動(復旧、 片付けるなど)に下位分類することができた。この<災害に立ち向かう行動>の「復旧」や「片付 ける」などと近い関係には「(電気が)点く」や「弱まる」、「おさまる」「動く」「通れる」が ある。これらや「リハビリ」、「直る」のような、災害前の状態に戻ろうとする表現を<状況の改 善>として独立させた。また、この「リハビリ」や「直る」は<医療に関連する>語彙とも関連づ けることができた。 つぎに、被災者たちの身近にある<建物に関わる>ものとしてまとめられる語彙もあった。そこ には、たとえば「避難所」や「体育館」「市役所」「学校」「プレハブ」「病院」「スーパー」‥ といった語を所属させることができたし、さらに「トイレ」「風呂」「水道」「グランド」「スピ ーカー」‥といった<施設の設備>としてまとめられる語も含まれていた。「ガス」や「ニュース」 「懐中電灯」「炊き出し」「配給」「町会」「給水車」といった語に代表されるものは<生活に関 わる>語彙としてまとめることができた。 最後に、被災者たちの感情を表現する語として「怯える」や「怖い」「不安」「安心」「嬉しい」 「ありがとう」等を<感情>語彙として独立させた。 図2に、それぞれの語彙に所属する語を示した(拙稿末の付表1にこれら語の50 音順を示した)。 ただしここには風水害や雪害、噴火等に関わる語は含まれていない(図中では破線で囲って示して いる)。それは、資料とした作文集が、そういった災害を対象にしたものではなかったためである。 その意味でここで扱う災害語彙とは、さまざまな災害に関連した事象を表現する語彙の一部を整理 したもので、正しくは「地震災害基礎語彙」(以下、災害語彙)とでも呼ぶべきものである。 また同様の理由から「激甚(災害)」や「耐震」、「地震波」といった専門語、あるいは成人の 書きことば表現である「有感(地震)」や「甚大(な被害)」といった語もこのシソーラスには含 まれていない。ただし「震度」や「震源」「マグニチュード」といった語は、災害の起因を説明す る専門語に近い語であるが、「震度」は1 年生から 6 年生までの全学年が、震源は 3 年生以上が、 またマグニチュードは4 年生以上の学年で使っており、これらは<発災の説明>語彙として独立さ せた。

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6 6.小学校低学年と高学年の災害語彙量 次に、以下では「やさしい日本語」で必要となる災害語彙について考えていきたい。「やさしい 日本語」では、地震が発生してからの72 時間に伝えるべき情報の表現を整備している。とくに発 災直後の避難行動や対処行動についての語彙、またその行動のために必要な判断の材料となる語彙、 外国語での支援が始まるまでに必要な生活支援をする語彙について、上掲した災害語彙から選別す る。 「やさしい日本語」が必要とする災害語彙は、小学生が保有する全ての災害語彙というわけでは ない。2 冊の作文集で使われた異なり語数は前掲のように 3933 語で、小学 1 年生だけで 654 語、6 年生では2148 語にものぼった。もっともこの中には、助動詞の「です」や「ます」、助詞の「に」 や「は」人称の「ぼく」や「わたし」といった文法機能を担う語も含まれているのであるが、それ らから災害に関する特有の語(以下、災害特有語)だけにしぼったとしても相当の数となる。日本 人児童と日本語を学ぶ成人外国人との語彙量の違いについては、就学前の児童を対象に調査した御 園生(2009) でも同様の結果が得られている。 このことを解決するため、自分の身を守るのに必要な最低限の災害語彙ということについて、改 めてその包括関係から考えてみたい。図3は、小学生が保有する地震災害に関する語彙量を学年別 にグラフ化したものである。この図では『先生地震だ』や『ドッカンぐらぐら』で使われたそれぞ れの異なり語数と、両書を合わせた異なり語数とを別々の3 本の棒グラフで示している。この図か ら、どのような集計でも、語彙量は1年生でもっとも少なく6年生で最大となること、上級学年に なるに従い語彙量は多くなり、語彙量の多寡が学年によって逆転することはないこと、さらに1・ 2年生と3・4年生、5・6年生の語彙量は似た傾向にあり、2年生と3年生、4年生と5年生の 間に大きな語彙量増加の区切りが認められることなどに気付く。 「やさしい日本語」で使う語は必要最低限で賄うのが望ましいことは先述の通りであるが、それ では、語彙量の少ない1 年生や 2 年生の語彙からそれらを選出することは可能かを探ってみたい。 たとえば、作文で多用される災害特有語上位100 語があったとして、そのうちの 12 語(12%)は 1・2 年生に馴染みのない語(=使われない語)であった。その中には「危険」や「危ない」、「ひ び割れる」「消火器」「海岸」「注意」と言った語も含まれており、1・2 年生の災害特有語を選 択範囲として限定してしまうと基礎的な語の漏れてしまう可能性があった。 それでは語彙量のもっとも多い5・6年生ではどうか。高学年は、どのような災害特有語を保有 しているかを知るため、1 級を具体例として、1 年と 2 年、1 年から 4 年まで、1 年から 6 年までの 災害特有語の包括関係を図化してみた(図4)。6 年生までの災害特有語保有率を 100 としたとき、 いま見た1・2 年生の保有率は 29%であった。また、1 年から 4 年までの保有率は 67%で、5 年生 や6 年生に特徴的な語彙の割合は約 3 割となっていて、その内訳は「もろい」や「威力」「犠牲」 「渚」「全滅」「復興」といった解説的表現に使われる、どちらかというと緊急性の低い語も保有 しているという特徴であった。この傾向は級外の語においてより顕著となり、「直下」や「直撃」、 「倒壊」「逆流」といった、いわゆる説明表現に使われる語や「波立つ」などの文学的表現で使わ れる語を5 年生や 6 年生は持ち合わせていた。 このような図3 や図4の状況から判断して、「やさしい日本語」に必要な語は、3・4 年生が使 っている異なりの中から選出することが適切と判断した。

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7 (単位は語 左から『先生、地震だ』・『どっかんグラグラ』・2冊総合の順) 図3 学年別語彙量の多寡 図4 小学校低・中・高学年ごとの 災害特有語の増加率(1級) かばう きしむ はかい はじく 裸 足 渦 災 害 手当て 襲 う 水 源 逃げ出す 発 生 悲 鳴 不 明 復 旧 片付け 防 火 漏れる 抜け出す のみこむ ひ び 歪 む 崖 岩 石 頑 丈 救 援 助 け 盛り上がる 津 波 抜け出せる 避 難 浜 物 資 粉 々 抜け出す のみこむ ひ び 歪 む 崖 岩 石 頑 丈 救 援 助 け 盛り上がる 津 波 抜け出せる 避 難 浜 物 資 粉 々 もろい 威 力 押し寄せる 犠 牲 渚 消 息 全 滅 脱 出 潮 逃れる 破 裂 配 給 悲 惨 復 興 かばう きしむ はかい はじく 裸 足 渦 災 害 手当て 襲 う 水 源 逃げ出す 発 生 悲 鳴 不 明 復 旧 片付け 防 火 漏れる 抜け出す のみこむ ひ び 歪 む 崖 岩 石 頑 丈 救 援 助 け 盛り上がる 津 波 抜け出せる 避 難 浜 物 資 粉 々

33

38

29

1-2 年生 1-4 年生 1-6 年生

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8 災害語彙の重要語 そこで、3・4年生が使っていた災害語彙の次のような特徴に重み付け(加点法)をして順列化 することにした。まず1 年生から 6 年生までの全異なり語 3933 語から災害特有語と考えられる 292 語を選出した。つぎに、これら292 語が作文の中で何回使われているかについて、それぞれの「の べ」使用回数を割り出した。もっとも多かったものは「地震」の520 回で、使用回数の低かったも のは「直下」や「町会」「ライフライン」「波立つ」他の1 回であった(表1中の各語参照)。さ らに、上述した学年別の語彙傾向を反映させるべく、1 年生から 4 年生までが使う語には重みを付 け(10 点を与えた)、また、関西の小学生の作文であり都市型災害の様子を書いた『どっかんグラ グラ』と東北の小学生の作文で、臨海型災害の様子を書いた『先生、地震だ』の両方に使われた語 にも重みを付ける(10 点を与えた)ことにした。 表1 災害重要語彙リスト(100 語) このような重み付けをした結果が表1(以下、災害重要語彙リスト)である。上位には「地震」 や「倒れる」「揺れる」「水」といった3・4 級の語が数多く来ている。中位には 2 級や 1 級の語 が多く位置し、下位になると級外の語が圧倒的に多くなっている。このことから、災害時に多用さ

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9 れる語は3・4級の語であることや、級外や1・2級の語であっても重み付けをしたことで重要な 語は上位に来ることになり、それらの語が重要語としての判断材料とすることが可能となった。 それらは、たとえば「避難」や「潰れる」、「震度」「余震」「津波」などであり、「懐中(電 灯)」もまた3・4 級と同じ割合で重要な語となっていることがわかる。とくに「避難」は 1 級の 語でありながらも群を抜いての上位にある(100 語中第 8 位)。小学生たちは災害下で「逃げる」(第 13 位)よりも「避難」を多用していたことが読み取れる。「避難所にはたくさんの・・・」や「避 難生活を・・」「中学校へ避難することに・・・」のようにである。 また1) 地震 2) 倒れる 3) 揺れる 4) 水 5) 落ちる 6) 怖い 7) 学校 8) 避難* 9) 家 10) 食べる 11) ガラス 12) 音 13) 逃げる 14) 壊れる 15) 割れる 16) 潰れる* 16) 電気 18) 助かる* 19) 震え る* 20) 収まる* 21) 布団 22) 怪我 22) もらう 22) 震度* 25) 余震* 26) 津波* 26) 体育館* の各語は、異なる複数の重みをかけても常に上位30 語に入る語であった。最重要語ということに なるが、これらのうちの9 語(*を付けた)は、級外あるいは 1・2 級の語彙である。 一方で「直下(型)」や「波立つ」「ライフライン」といった発災の説明に使われる語は最下位 の語群に位置していた。小学生の、しかも作文という制約はあるが、災害下での自分の安全を確保 する上での重要性からいうと、こういった語は緊急度が低いと判断してよさそうである。 つぎに、3・4 級の語は、もし日本語教育を受けている外国人ならば初級日本語で学ぶことから、 「やさしい日本語」にとって重要となる語は、重要語彙リストの上位に来ている級外および1・2 級の語ということになる。重要語彙リスト上位100 語中に、それらは 47 語あり、おおむね半分を しめていた。得点の高い順にそれらを列記すると下記の通りである。なお順位が重なっているもの、 あるいは欠順となっているのは、それらの語が加点法により同点となったためである。 1)避難 2)潰れる 3)助かる 4)震える 5) 収まる 6)震度 7)余震 8)津波 8)体育館 10)無事 10)助ける 12)懐中 13)叫ぶ 13)校庭 13)崩れる 16)傾く 17)地面 17) 被害 19)ひび 20)給水 21)灯 22)ボランティア 22)揺れ 22)煙 25)破片 26) 汲む 27)襲う 27)地割れ 29)傷 29)マグニチュード 29)救急車 32)大震災 32)割れ 34)グランド 34)潜る 34)燃える 34)下敷き 38)波 38)盛り上がる 38)沈む 38)ひび割れ 42)瓦 42)スピーカー 42)ひび割れる 42)消火器 46)天井 47) 心臓 8.災害語彙シソーラスと「やさしい日本語」にとっても重要な災害語彙 さまざまにある災害語彙のうち、自分の身の安全を確保するのに必要な地震災害に関する語彙に 限定して調査を行った。目的は以下の3点にあった。 (1) 災害語彙シソーラスを視覚化する (2) 日本人小学生で使用頻度の高い語を、1 級、2 級および級外の語から選び出す (3) 「やさしい日本語」に必要な災害語彙の重要語リストを作成する これらは、それぞれ図2、表1として完成させた。これらから次のような語が具体的に「やさしい 日本語」にとっての重要な災害語彙になると考えられた。

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10 小学生の被災者が多用した100 語中に、級外あるいは 1・2 級の語が 47 語入っていて、それらは 被災した小学生の使用頻度が高い順に「*避難」「*潰れる」「*助かる」「*震える」「*収ま る」「*震度 」「*余震」「*津波」「*体育館」「無事」「助ける」「懐中」「叫ぶ」「校庭 」 「崩れる」「傾く」「地面 」「被害」「ひび」「給水」「灯」「ボランティア」「揺れ」「煙」「破 片」「汲む」「襲う」「地割れ」「傷」「マグニチュード」「救急車」「大震災」「割れ」「グラ ンド」「潜る」「燃える」「下敷き」「波」「盛り上がる」「沈む」「ひび割れ」「瓦」「スピー カー」「ひび割れる」「消火器」「天井」「心臓」といった語であった。とくに上位の30 語(最 重要語)には、*を付した9 語が使われているということなどを明らかにした。これら 9 語はまた、 異なる複数の重み付けをしても常に上位に来るもので、とくに「避難」は群を抜いて多用される語 であった。 今回の調査からはまた、小学生の災害語彙量は学年を経るごとに増え続け、3・4 年生までには 大規模災害が起きても自分の身の安全を十分に確保できる量となっていることや、成人でも書きこ とばでしか使わないような表現は、一部であるが高学年になると使われはじめる、といったことも 大前提として明らかとなった。 【注】 1) 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」(2009 年 2 月 20 日アクセス) http://www.bousai.go.jp/1info/kyoukun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-2.pdf 【参考文献】 田中次郎(1985)『先生、地震だ』どうぶつ社 兵庫県国語教育連盟・他(1995)『どっかんグラグラ』甲南出版社 御園生保子(2009)「『やさしい日本語』とこどものための日本語はどう違うか」 『「やさしい日本語」の構造――社会的ニーズへの適用にむけて』科学研究費基盤研究 B 報告書(研究代表者 佐藤和之)

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付表1 災害語彙リスト(211 語)

灯 り 温かい 危ない ありがたい ありがとう 安 心 安 全 生き埋め 浮かぶ 動 く 売 る 嬉しい 駅 駅 前 援 助 大 波 おさまる お知らせ 襲 う 恐 れ 恐ろしい 落ち着く 落ちる おにぎり 怯える おもしろい

海 岸 海 水 懐中電灯 海 底 崖崩れ 火 災 火 事 ガ ス 仮 設 片付く 片付ける 傾 く 学 校 壁 ガラス がれき 瓦 岩 石 陥 没 危 険 きしむ 傷 犠 牲 逆 流 救 援 救急車 救 助 給 水 給水車 恐 怖 協 力 亀 裂 崩れる 配 る 汲 む

グランド

車 怪 我 煙 公 園 校 舎 校 庭 骨 折 ごはん 怖 い 壊れる

災 害 サイレン 探 す 叫 ぶ 寒 い 潮 地 震 沈 む 下敷き 自転車 死 亡 市役所 重 傷 消火器 小学校 消 息 小児科 消 防 情 報 消防車 食 事 食 料 神 社 震 度 新 聞 水 源 水 道 炊 飯 スーパー 救 う ストーブ スピーカー 全 壊 全 滅

体育館 台 風 倒れる 炊き出し 助ける 食べ物 断 水 注 意 中学校 町 会 町 内 直 撃 直 下 地割れ 通行止め 点 く 津 波 潰れる 釣 る 停 電 鉄 道 テトラポット テレビ 電 車 天 井 トイレ 灯 台 道 路 通れる

直 る 波 波立つ 逃げる 濁 る 入 院 ニュース 飲み込む

配 給 運 ぶ 破 片 破 裂 半 壊 被 害 引き潮 飛行機 被 災 避 難 避難所 ひ び 病 院 病 気 ビ ル 船 不 安 無 事 不 通 復 旧 復 興 物 資 布 団 震える プレハブ 風 呂 弁 当 防 火 防 災 炎 ボランティア

マグニ チュード 水 窓 マンション 無 線 毛 布 潜 る 元 栓 もらう もらえる 盛り上がる

役 場 火 傷 焼ける やさしい 山 山 側 山崩れ 床 歪 む 揺 れ 幼稚園 横倒し 余 震 余 裕 弱まる

ライター ライト ライフライン ラジオ リハビリ リュック サック 漏 電 ローソク

割 る 割れる

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