実践事例報告
Ⅰ
はじめに
児童養護施設は全国に 575 カ所あり、児童養護施 設に入所している子どもたち(施設入所児童)は 30,600 人、 名 古 屋 市 内 の 施 設 入 所 児 童 は 573 人 (平成 22 年 3 月)である1)。2 歳から 18 歳までの 子どもの多くが、両親の精神疾患等の病気や放任、 怠情、虐待、酷使、経済的な理由で入所している。 このように諸般の事由により不適切な養育を受けて いた子どもは、入所前は家庭で食事をする場も虐待 の機会になっていたと考えられる。そのため、児童 養護施設では、食卓を囲む場は食べている間も安全 で安心できる場であることを伝えるとともに、食育 支援により子どもたちの食生活基盤を確かなものに することが必要不可欠である。 名古屋市食育推進計画2)では「食と健康への関 心」、「食を通じたコミュニケーション」、「食を通じ ての環境への配慮」を重点課題としている。これま 要旨:児童養護施設に入所している子どもたち(施設入所児童)が、自立して食生活を営む力を習得するために、 実用的で効果的な食育システムの開発と食育プログラムの作成に必要な基礎調査を行った。名古屋市内児童養護施 設 14 施設の施設入所児童(3 歳~18 歳)を調査対象者とし、食育指導状況調査、身体状況調査、調理実習による 技術調査、アンケートによる食意識調査を実施した。食意識調査は、名古屋市内 S 小学校在籍児童を比較対象者 (家庭生活児童)とした。幼児では、食事の姿勢についてのクイズ正解率が 95 . 8%と正しい知識が身に付いてい た。小学生低学年では、施設入所児童は家庭生活児童と比較し、野菜の判別クイズ正解率が有意(p<0 . 05)に低 く、野菜の名前を知らないことが分かった。また、施設入所児童は「食事の前に手洗いを行う」項目では、83 . 1 %と家庭生活児童の 52 . 7%と比べ有意(p<0 . 05)に高く、施設における指導の効果が表れていた。「ごはんの時 間が楽しみ」と答える割合が、幼児 96 . 4%、小学生低学年 81 . 7%、小学生高学年 64 . 7%、中高生 50 . 0%と年齢 が上がるにつれて有意(p<0 . 001)に低くなり、食に対する肯定感が低くなることが分かった。しかし、調理の 経験が多い子どもは、食に対する肯定感が高くなり、自立後の自炊に対する不安感が少なかった。本研究の結果か ら、児童養護施設の食育指導においては、幼児から小学生低学年までに食育体験を多くさせることが有効な指導で あり、子どもたちが豊かな食経験を会得できる大切な期間と考えられた。また、小学生高学年からは、技術的体験 が多い計画を立案することが有効であると考えられた。 キーワード:児童養護施設、食育、自立支援Developmentofashokuiku(foodandnutritioneducation)systemaimingfor
self-relianceatnursingfacilitiesforchildren
NamikoUmemoto1),AkikoFuse2),MasamiSugiura3),MasakoSuzuki4),YukikoOkami5),TomikoTsuji5)
1)Kinjyorokkaen;2)NagoyaCityChildWelfareDivision;3)NagoyaCityChildWelfareCenter;4)WakamatsuDormitory; 5)NagoyaBunriUniversity
児童養護施設における自立支援のための
食育システムの開発
報 文
梅本奈美子1)、布施晶子2)、杉浦正美3)、鈴木正子4)、岡見雪子5)、辻とみ子5) 1)金城六華園、2)名古屋市子ども福祉課、3)名古屋市児童福祉センター、4)若松寮、5)名古屋文理大学 受付日:平成 25 年 10 月 25 日、受理日:平成 26 年 3 月 3 日 連絡責任者:梅本奈美子 〒 463―0002 名古屋市守山区大字中志段味字古山田 2594 TEL:052―736―2028 FAX:052―736―0389 E-mai:[email protected]で、名古屋市内の児童養護施設における食育指導 は、食と健康への関心を高めるための衛生指導、調 理技術や知識を習得するための調理体験、食コミュ ニケーションを充実させるためのマナー指導を中心 に、さまざまな取り組みを各施設で独自に行ってき た。しかし、児童養護施設では衛生的な給食管理が 必要なため3)、入所する子どもたちが調理室に入る ことは望ましくないという理由から、彼らが調理の 様子を日常的に見ることはこれまで困難であった。 また、食材の購入は管理栄養士・栄養士が事前に作 成した献立をもとに発注し、業者が直接に各施設の 調理室へ納品をするため、食材そのものを目にする 機会も日常的には少なかった。 厚生労働省によると、児童養護施設を退所した後、 半数以上の子どもは一人暮らしをして自立する4)。こ の時期に至るまでに、子どもたちは健康な生活を維 持する食選択力・食決定力を培うことが求められ る。そのために、食材や調理の知識や技術を身につ け、加えて、食費の計算や購入方法といった経済的 な知識や手法が必要となる。 そこで本研究では、施設入所児童が退所するまで の間に、献立作成、食材選択、調理、食事マナー 等、自立して食生活を営む力を習得するために、現 在の名古屋市内の児童養護施設での食育状況を把握 し、子どもたちの年齢ごとの課題を見出し、さらに実 用的で効果的な食育システムの開発と、幼児からの 食育プログラムを作成するための基礎調査を行った。
Ⅱ
方法
1 .調査対象 名古屋市内児童養護施設のうち、施設長の同意が 得られた 14 施設の施設入所児童を調査対象者とし た。平成 22 年 4 月 2 日時点で、3~5 歳を「幼児」、 小学 1~3 年生を「小学生低学年」、小学 4~6 年生 を「小学生高学年」、中学 1 年生~高校 3 年生を 「中高生」と 4 区分して調査を実施した。なお、名 古屋市内 S 小学校在籍児童 130 名を家庭生活児童 とし比較対象者とした。 2 .倫理審査 調査の実施に先立ち、名古屋文理大学倫理審査委 員会の承認を得た。 3 .調査方法 (1)身体状況調査 平成 22 年 1~4 月に施設入所児童の身長および体 重計測結果を調査した。名古屋市内児童養護施設の うち、施設長の同意が得られた 14 施設の施設入所 児童を調査対象者とした。調査対象者は、幼児 56 名、小学生低学年 66 名、小学生高学年 71 名、中高 生 90 名である。 (2)食育指導状況調査 平成 22 年 5 月に各児童養護施設における食育に 関する取り組みについて、①マナー、②衛生指導、 ③食材の旬、④行事食、伝統食、郷土食、⑤作物栽 培、⑥食卓の工夫、の 6 項目について調査した。調 査対象は、名古屋市内児童養護施設のうち、施設長 の同意が得られた 14 施設である。 (3)調理実習 調理実習は、平成 22 年 7~9 月に実施し、対象者 は、施設入所児童に希望をつのり、幼児 20 名、小 学生低学年 18 名、小学生高学年 17 名、中高生 19 名である。年代別にあらかじめ指定した内容に沿っ て、施設の管理栄養士・栄養士が指導をしながら調 理実習をした。中高生については、決められた予算 で献立を作成し、材料を購入することも実習の一部 として行った。実習中に管理栄養士・栄養士が対象 者の取り組む姿勢や調理技術を評価し、実習後、対 象者に自己評価させた。加えて、実習前後で対象者 の食に対する意識および調理技術について、施設職 員が評価した。また、対象者に食知識を調べるため のクイズ、および実習の前後に食意識についてのア ンケート調査を実施した。また、対象者の年間調理 実施回数を調査した。 (4)アンケート調査 平成 22 年 7 月~平成 23 年 1 月に施設入所児童、 および家庭生活児童に食意識についてのアンケート 調査と、食知識を調べるためのクイズを実施した。 性別と年齢を記入し、無記名で回答を得た。幼児に ついては、施設職員による聞き取りで調査を実施し た(図 1)。施設入所児童については、年間調理実 施回数も合わせて調査した。 4 .解析方法 データの解析には、統計ソフト SPSSVer.16.0forWindows を用いた。介入前後のアンケートの連 続尺度、順序尺度のデータの比較には Wilcoxon の 符号付き順位和検定、名義尺度のデータの比較には McNemar 検定を行った。2 群間のアンケートの連 続尺度、順序尺度のデータの比較には Mann-Whit-ney の U 検定、3 群間の比較には KruskalWallis の 検定、名義尺度のデータの比較にはχ2検定を行っ た。有意水準は 5%未満とした。
Ⅲ
結果
1 .身体状況 身体状況を表 1 に示した。学校保健統計調査結 果5)と比較して、大きく離れていない集団である ことを確認した。 2 .食育状況 食育状況のアンケート調査結果を表 2 に示し ●図 1 ● 食クイズ ●表 1 ● 名古屋市内児童養護施設入所児童における身体状況 年齢 (才) 男 子 女 子 身 長(cm) 体 重(kg) 身 長(cm) 体 重(kg) 施設入所児童 学校保健統計調査1) 施設入所児童 学校保健 統計調査1) 施設入所児童 学校保健 統計調査1) 施設入所児童 学校保健 統計調査1)n Mean±SD Mean±SD n Mean±SD Mean±SD n Mean±SD Mean±SD n Mean±SD Mean±SD
3 5 94.6± 4.1 5 14.0± 0.8 6 94.8±3.5 6 14.0± 2.7 4 6 106.0± 6.8 6 17.5± 1.9 5 104.6±5.5 5 16.2± 1.9 5 14 114.3± 7.3 110.7±4.8 14 21.7± 3.4 19.0± 2.7 20 110.6±7.1 109.8±4.7 20 18.9± 3.5 18.6±2.6 6 9 117.7± 5.0 116.7±4.9 9 21.5± 3.0 21.4± 3.4 5 111.1±3.3 115.8±4.9 5 19.3± 2.3 21.0±3.2 7 14 121.1± 5.1 122.5±5.1 14 22.7± 2.2 24.0± 4.1 13 121.7±7.2 121.7±5.2 13 22.8± 3.4 23.5±3.9 8 12 125.8± 8.9 128.2±5.3 12 26.3± 5.3 27.2± 5.1 13 125.3±6.3 127.4±5.5 13 25.8± 5.5 26.5±4.7 9 11 131.3± 6.5 133.5±5.7 11 27.5± 4.8 30.5± 6.2 12 130.8±5.8 133.5±6.2 12 28.2± 3.3 30.0±5.8 10 10 138.6± 8.4 138.8±6.1 10 33.0± 6.7 34.1± 7.2 15 143.0±7.8 140.2±6.8 15 34.9± 6.7 34.1±7.0 11 13 142.9± 5.6 145.0±7.1 13 36.4± 7.4 38.4± 8.6 10 143.5±6.3 146.8±6.6 10 38.6± 8.8 39.0±7.9 12 5 147.9±11.4 152.4±8.0 5 41.8±12.8 44.1± 9.8 10 150.3±4.7 151.9±6.0 10 39.7± 4.9 43.8±8.2 13 14 157.2± 6.8 159.7±7.7 14 45.7± 7.7 49.2±10.0 10 155.6±5.4 155.0±5.4 10 52.4±11.5 47.3±7.8 14 4 166.3±10.3 165.1±6.7 4 59.8±10.1 54.4±10.1 9 153.1±3.9 156.5±5.3 9 48.5± 9.7 50.0±7.8 15 9 165.6± 8.2 168.2±5.9 9 57.7±12.3 59.5±10.8 7 155.1±5.3 157.1±5.3 7 48.0± 6.7 51.6±8.0 16 6 168.3± 7.6 169.9±5.8 6 59.8±12.1 61.5±10.7 6 154.2±9.4 157.7±5.4 6 48.1± 5.5 52.7±8.0 17 2 174.5± 0.7 170.7±5.8 2 68.3± 3.3 63.1±10.6 8 154.1±8.0 158.0±5.4 8 48.0± 8.6 52.9±7.9 文部科学省:学校保健統計調査結果(2011)1)より引用
た。調査した 14 施設中、食育を実施している施設 が多かった項目は、「食べる姿勢」;14 施設、「手洗 いの声かけ」;14 施設、「食事の挨拶」;13 施設、「箸・ スプーンの持ち方」;13 施設等であった。一方、実 施している施設が少なかった項目は、「音楽を流す」; 2 施設、「花を飾る」;3 施設、「テーブルクロスを使 用する」;4 施設であった。 3 .調理実習における評価 調理実習における評価を表 3、4 に示した。調理 作業に対する評価では、幼児 20 名、小学生低学年 18 名、小学生高学年 17 名、中高生 19 名が調理実 習を行った。その結果、おおむね説明された手順ど おりに調理作業を行うことができた。正しい包丁の 使い方については小学生低学年(n=18)、小学生 高学年(n=17)、中高生(n=19)の自己評価で は、「できた」と評価した児童がそれぞれ 14 名、11 名、10 名だったのに対し、職員の評価ではそれぞ れ 6 名、9 名、9 名と評価に差が見られた。 4 .調理実習前後の食意識調査結果 調理実習の前後における、食意識の変化を見るア ンケート調査結果を表 5 に示した。「食事が楽しみ か」について「はい」と答える児童が、小学生高学 年で 17 名中 10 名から 13 名、中高生で 19 名中 12 名から 14 名、食事のときに「いただきます」「ごち そうさま」を「いつも言う」児童が小学生高学年で 17 名中 13 名から 15 名、中高生で 19 名中 11 名か ら 15 名と改善が見られた。また、中高生において 「卒業後、料理をしたい」と答えた者のうち、「不安」 と思う者が 19 名中 10 名から 7 名に減少し、「でき る」と思う中高生が 19 名中 9 名から 11 名に増加し ●表 2 ● 名古屋市内児童養護施設における食育状況 (施設) 指導項目 施設数(n=14) 実施 未実施 ①マナーにつ いて 食事前後の挨拶指導 13 1 食べる姿勢の指導(肘 をつかない) 14 0 食べる姿勢の指導(茶 碗を持って食べる) 14 0 食べる姿勢の指導(前 を向いて食べる) 14 0 ばっかり食べをしない 11 3 食事中に席を立たない 12 1 箸・スプーンの持ち方 指導 13 1 ②衛生指導 手洗いの声かけ 14 0 消毒の声かけ 12 2 手洗いポスター掲示 11 3 弁当の衛生管理ついて 11 3 ③食材の旬 季節の旬の食材を献立 に使用 14 0 献立に取り入れ、掲示 で紹介する 8 6 ④行事食、伝 統食、郷土食 献立に取り入れ掲示で 紹介する 11 3 会話で教える 12 2 ⑤作物栽培 作物を育て、収穫、調 理、試食をする 8 6 ⑥食卓の工夫 花を飾る 3 11 ランチョンマットやテ ーブルクロスを使用す る 4 10 マイコップ、マイ箸を 用意している 12 2 音楽を流す 2 12 ●表 3 ● 調理作業に対する評価 (名) 評価項目 幼 児 小学生 低学年 小学生 高学年 中高生 n=20 n=18 n=17 n=19 大人を見 て自分も まねでき る できる 16 - - - ややできる 4 - - - できない 0 - - - 手順どお り調理作 業ができ る できる - 12 14 13 ややできる - 2 1 5 できない - 1 0 1 未回答 - 3 2 0 ●表4● ··正しい包丁の使い方に対する職員と児童の 評価の比較· (名) 評 価 小学生 低学年 小学生 高学年 中高生 n=18 n=17 n=19 職員評価 できる 6 9 9 ややできる 9 5 9 できない 0 1 1 未回答 3 2 0 児童評価 できる 14 11 10 ややできる 3 2 1 できない 0 0 2 未回答 1 4 6
た。 5 .幼児における食知識調査 幼児における食知識アンケート調査結果を表 6 に示した。配膳の際のごはんと汁物の位置関係を答 えさせる項目では、全体の正解率は 47.9%であっ た。年齢別で比べると、3 歳児 33.3%、4 歳児 53.8 %、5 歳児 58.8%と年齢が上がるにつれて、正解率 が高くなった。食事の際の正しい姿勢を答えさせる 項目では、全問正解であった児童が全体の 95.8% と高い値であった。 6 .小学生における食知識・食意識調査 小学生における食知識アンケート調査結果を図 2、3 に示した。小学生低学年の「はくさい」、「さ つまいも」、「れんこん」の判別の正解率は、施設入 所児童でそれぞれ 66.2%、78.6%、55.1%、である のに対し、家庭生活児童はそれぞれ 85.5%、94.5 %、72.7%で、施設入所児童は家庭生活児童に比 べ、正解率が有意に低かった(p<0.05)。小学生高 学年については、施設入所児童と家庭生活児童で大 きく差は見られなかったが、「レタス」、「れんこん」 については施設入所児童がそれぞれ 76.8%、56.5 ●表 5 ● 調理実習前後の食意識アンケート調査結果 (名) 食意識項目 幼 児 小学生低学年 小学生高学年 中高生 n=20 n=18 n=17 n=19 前 後 前 後 前 後 前 後 ごはんの時間は楽 しみですか はい 16 19 18 18 10 13 12 14 いいえ 0 0 0 0 1 1 2 2 どちらでもない 0 0 0 0 6 3 5 3 未回答 4 1 0 0 0 0 0 0 料理をこれまでに したことがありま すか はい 16 19 17 17 16 16 19 19 いいえ 0 0 1 1 1 1 0 0 未回答 4 1 0 0 0 0 0 0 料理をすることは 楽しいと思います か はい 16 19 18 18 14 14 16 19 いいえ 0 0 0 0 1 0 1 0 わからない 0 0 0 0 2 2 2 0 未回答 4 1 0 0 0 1 0 0 また、調理実習を したいと思います か はい - 19 - 18 - 16 - 19 いいえ - 0 - 0 - 1 - 0 わからない - 0 - 0 - 0 - 0 未回答 - 1 - 0 - 0 - 0 食べ物を残すこと はもったいないと 思いますか はい 13 18 18 18 12 13 15 16 いいえ 3 1 0 0 1 1 1 2 どちらでもない 0 0 0 0 2 2 0 1 わからない 0 0 0 0 2 1 3 0 未回答 4 1 0 0 0 0 0 0 食事のとき「いた だきます」「ごち そうさま」をいい ますか いつも言う 16 18 16 15 13 15 11 15 時々言う 0 1 2 3 3 2 8 4 言わない 0 0 0 0 1 0 0 0 未回答 4 1 0 0 0 0 0 0 食事の前に、手洗 いをしますか する 16 18 17 16 13 14 12 12 時々する 0 1 1 2 4 3 7 7 しない 0 0 0 0 0 0 0 0 未回答 4 1 0 0 0 0 0 0 卒業後、料理をし たいですか はい。自分ひとりでもできると思います。 - - - - - - 9 11 はい。でも、ちょっと不安です。 - - - - - - 10 7 いいえ、料理をしたくありません。 - - - - - - 0 1
%、家庭生活児童がそれぞれ 84.0%、69.3%と、 小学生低学年と同じく施設入所児童で正解率が低か った。 食意識アンケート調査結果を表 7 に示した。「食 事の前に手洗いをする」と答えた小学生低学年は、 施設入所児童で 83.1%、家庭生活児童で 52.7%と 施設入所児童の方が、家庭生活児童より食事の前に 手洗いをする頻度が有意に高かった(p<0.05)。小 学生高学年でも、施設入所児童で 81.2%、家庭生 活児童で 66.7%と、施設入所児童の方が、家庭生 活児童より食事の前に手洗いをする頻度が高かった (p<0.05)。 小学生高学年においては、施設入所児童と家庭生 活児童を比べ「はい」と答える割合が、「ごはんの 時間が楽しみか」(施設入所児童 64.7%、家庭生活 児童 73.3%、p=0.001)、「食べ物を残すことはも ったいないと思うか」(施設入所児童 75.4%、家庭 生活児童 93.3%、p=0.01)で有意差が見られた。 ●表6● 幼児における食知識アンケート調査結果 (名) 食知識項目 全体 年齢別 3 歳 4 歳 5 歳 n=48 n=18 n=13 n=17 配膳の位置関係a 正解数 23 6 7 10 不正解数 25 12 6 7 正解率(%) 47.9 33.3 53.8 58.8 正しい食事の姿勢b 正解数 3 問 46 17 13 16 2 問 1 0 0 1 1 問 0 0 0 0 0 問 1 1 0 0 全問正解率(%) 95.8 94.4 100 94.1 アンケート調査の設問 a;配膳の位置関係 ・おちゃわんとおわんをおくばしょを せんでつなごう b;正しい食事の姿勢(○×で解答) ・ひじをついて ごはんをたべる ・せなかをまるめて ごはんをたべる ・くちにたくさん たべものがはいっているときに おしゃべりをする ●図 2 ● 小学生低学年食べ物クイズ 正解率 ●図 3 ● 小学生高学年食べ物クイズ 正解率
「食事の挨拶をするか」(施設入所児童 62.3%、家 庭生活児童 73.3%、p=0.109)では有意差は見ら れなかったが施設入所児童の方が低かった。 施設入所児童における食の意識は、「ごはんの時 間が楽しみか」という質問に対して「はい」と答え た割合は、幼児で 96.4%、小学生低学年で 81.7% に対し、小学生高学年で 64.7%、中高生で 50.0% と年齢が上がるにつれて低くなった(p<0.001)。 その他の質問においても、「料理をすることは楽し いと思うか」幼児 94.6%、小学生低学年 82.9%、 小学生高学年 79.7%、中高生 73.4%(p=0.014)、 「食べ物を残すことはもったいないと思うか」幼児 83.9%、小学生低学年 80.3%、小学生高学年 75.4 %、中高生 66.3%、「食事の挨拶をするか」幼児 98.2%、小学生低学年 73.2%、小学生高学年 62.3 %、中高生 48.4%(p<0.001)、「食前の手洗いを するか」幼児 98.2%、小学生低学年 83.1%、小学 生高学年 81.2%、中高生 58.9%(p<0.001)と、 年齢が上がるにつれて「はい」と答える割合が低下 した。 7 .中高生における調理実施回数別の食意識アン ケート調査結果 中高生における食意識アンケート調査結果を年間 調理実施回数別に比較したものを、表 8 に示し た。施設から退所し自立した際に「料理ができる」 と思う割合は、年間調理実施回数が 2 回以下、3~5 回、6 回以上の場合でそれぞれ 26.1%、40.0%、 46.9%と年間調理実施回数が多いほど高い値を示し た。「料理はしたいが不安」と答えた割合は同様に 2 回以下、3~5 回、6 回以上の場合でそれぞれ 63.0 %、53.3%、50.0%と年間調理実施回数が多いほど 低い値を示した。「食べ物を残すことがもったいな い」と答えた中高生児童の割合は、年間調理実施回 数が 2 回以下、3~5 回、6 回以上の場合でそれぞれ 56.5%、62.5%、81.8%と年間調理実施回数が多い ほど高くなった。「食事の前に手洗いをする」と答 えた児童の割合は、年間の調理実施回数が 2 回以 下、3~5 回、6 回以上の場合でそれぞれ 52.2%、 56.3%、69.7%であった。「ごはんの時間が楽しみ」 と答えた児童の割合は、年間調理実施回数が 2 回以 ●表7● 食意識アンケート調査 (%) 食意識項目 施設入所児童 家庭生活児童 幼 児 小学生低学年 小学生高学年 中高生 小学生低学年 小学生高学年 n=56 n=71 n=69 n=95 n=55 n=75 ごはんの時間は楽しみ ですか はい 96.4 *b 81.7 *b 64.7 *ab 50.0 *b 78.2 73.3 *a いいえ 1.8 12.7 8.8 17.0 16.4 22.7 どちらでもない 1.8 5.6 26.5 33.0 5.5 4.0 料理をこれまでにした ことがありますか はい 94.6 84.1 95.6 97.9 96.4 98.7 いいえ 5.4 15.9 4.4 2.1 3.6 1.3 料理をすることは楽し いと思いますか はい 94.6 *b 82.9 *b 79.7 *b 73.4 *b 85.2 81.3 いいえ 1.8 8.6 8.7 10.6 5.6 1.3 わからない 3.6 8.6 11.6 16.0 9.3 17.3 食べ物を残すことはも ったいないと思います か はい 83.9 80.3 75.4 *a 66.3 85.5 93.3 *a いいえ 10.7 9.9 4.3 9.5 1.8 4.0 どちらでもない 0 5.6 8.7 11.6 1.8 1.3 わからない 5.4 4.2 11.6 12.6 10.9 1.3 食事のとき「いただき ます」「ごちそうさま」 をいいますか いつも言う 98.2 *b 73.2 *b 62.3 *b 48.4 *b 74.5 73.3 時々言う 0 23.9 33.3 43.2 25.5 26.7 言わない 1.8 2.8 4.3 8.4 0 0 食事の前に、手洗いを しますか する 98.2 *b 83.1 *ab 81.2 *ab 58.9 *b 52.7 *a 66.7 *a 時々する 0 12.7 15.9 35.8 30.9 33.3 しない 1.8 4.2 2.9 5.3 16.4 0.0 *p<0.05, a;施設入所児と名古屋市内小学校での有意差、b;年代別での有意差
下、3~5 回、6 回以上の場合でそれぞれ 37.0%、 56.3%、65.6%と年間調理実施回数が多いほど高く なった。
Ⅳ
考察
名古屋市内の児童養護施設食育状況調査のアンケ ート結果から、食事のマナーや手洗いといった衛生 に関する食育は、家庭と比べ6)、多くの施設で実施 されていることが分かった。しかし、音楽を流す、 花を飾る、テーブルクロスを使用するといった食卓 の工夫については、実施している施設が少なかっ た。本研究の結果からも、児童養護施設では指導す る職員が多数おり、衛生、マナーといった一般的に 望ましいとされる行動の指針がある項目については 共通認識を持ち、日常生活に取り入ることが容易で あった。しかし、「食卓の工夫」の項目に関しては、 施設内で多様な意見があり、施設における日常の食 卓に取り入れることが難しいと思われる。 本研究の調理実習から、施設入所児童は説明に沿 って調理を行うことはできていたが、包丁の使い方 等は十分に身についていないことが分かった。調理 方法について理解はできているが、技術が身につい ていない状況であると思われた。実習後には、ほと んどの子どもが「また調理を行いたい」と答えてお り、頻回にこのような実習を行うことで技術も伴う ようになると考えられた。 また、本研究の調査により、小学生低学年では、 施設入所児童は家庭生活児童に比べ、料理をしたこ とがある割合が少なかった。家庭では、毎日の食事 づくり全般を通して見たり、聞いたり、触ったり、 家族の手伝いをしながら、実際に料理ができる身近 な環境が整っている。児童養護施設において、子ど もたちが料理を体験するためには、家庭とは異なり 調理場所の確保や料理をするための特別な時間を設 けなくてはいけない。しかし、その機会を日常的に 設けることは難しく、小学生低学年は実習対象から 外れてしまう傾向があると考えられた。 食材の知識については、施設入所児童と家庭生活 児童を比べると、小学生低学年で違いが顕著に現れ た。はくさい、さつまいも、れんこんといった調理 前後で見た目が大きく異なる野菜についての正解率 が低かった。これは、施設では家庭と比べて調理前 の食材を目にする機会が少ないため、家庭科の授業 等で学習する機会がない小学生低学年で、特に分か らないのではないかと思われた。従って、児童養護 施設において、小学生低学年にも調理前の食材を目 にする経験を持たせる必要性があると考えられた。 施設入所児童のマナークイズの正解率は高く、主 ●表 8 ● 中高生における調理実施回数別食意識調査1) (%) 食意識項目 全体 年間調理実施回数 0~2 回 3~5 回 6 回以上 (n=95) (n=46) (n=16) (n=33) 退所後、料理をし たいですか 自分ひとりでもできると思う 35.5 26.1 40.0 46.9 料理をしたいが、ひとりできるか不安 57.0 63.0 53.3 50.0 料理をしたくない 7.5 10.9 6.7 3.1 食べ物を残すこと はもったいないと 思いますか はい 66.3 56.5 62.5 81.8 いいえ 9.5 17.4 6.3 0.0 どちらでもない 11.6 15.2 18.8 3.0 わからない 12.6 10.9 12.5 15.2 食事の前に、手洗 いをしますか する 58.9 52.2 56.3 69.7 時々する 35.8 41.3 37.5 27.3 しない 5.3 6.5 6.3 3.0 食事の時間が楽し みですか はい 50.0 37.0 56.3 65.6 いいえ 17.0 30.4 6.3 3.1 わからない 33.0 32.6 37.5 31.3 1);調査結果はパーセント(%)で示した。食と汁物を置く場所についてのクイズも、年齢が上 がるごとに正解率が高くなった。このことから、各 施設において実施しているマナーについての食育 は、幼児には効果が上がっていることが分かった。 小学生低学年、小学生高学年共に、食前の手洗いに ついては、施設入所児童が家庭生活児童に比べ、実 施している割合が高かった。これについても、施設 における食育の効果が現れていると思われた。しか し、施設入所児童の年代ごとによる手洗いの実施割 合は、年齢が上がるにつれて下がっている。家庭生 活児童は小学生低学年より小学生高学年が手洗いの 実施割合が上がっていることより、年齢による影響 とするよりは、施設入所児童の特徴であるのかもし れない。春木ら7)は、小学生の朝食習慣を形成す るためには、栄養学的知識を与えるだけでは不十分 であり、生活リズムや自尊心や社会的スキルの形成 が欠かせないと、報告している。児童養護施設に入 所する前に虐待や不適切な養育を経験した児童は、 家族や自分自身に対する肯定感が低く、そのことに より知識があっても実行できない状況にあると推察 した。 今回、アンケート調査を行った結果より、小学生 高学年では、施設入所児童は家庭生活児童と比べ、 「ごはんの時間が楽しみか」、「食べ物を残すことは もったいないと思うか」、「食事の挨拶をするか」と いった食に対する肯定感が低かった。施設入所児童 を年代ごとに比較すると、「食事は楽しみか」、「料 理は楽しいと思うか」、「食べ物を残すことはもった いないと思うか」、「食事前後の挨拶をするか」とい う質問についても、年齢が上がるにつれ「はい」と いう回答が減少していた。しかし、今回の調理実習 後のアンケートでは、わずかではあるが、「食事が 楽しみ」、「食事の前後で挨拶をする」と回答する児 童数が増えたことや、中高生のアンケート結果の調 理実施回数とアンケートで「もったいない」、「手洗 いをする」、「食事が楽しみ」と答えた中高生の数が 比例していることから、調理をすることは食に対す る肯定感を高めると考えられた。 施設に入所する中高生のアンケートによると「自 立後、自炊を行いたい」と思っている子どもは 90 %以上いるが、調理実施回数が少ない子どもは、自 分ひとりでもできると思う子どもが少なく、つくり たいが不安と答える割合が多かった。今回の調理実 習後の調査で不安と思う児童数が減ったことから も、調理を多く体験させることが、自立後の不安を 取り除き、生活を支える基礎になると考えられた。 今回の調査では調理実習だけでなく、食材購入時 に職員が同行し、食材選びや調理に関するアドバイ スをしたことも子どもたちの不安を取り除くのに役 立ったと思われる。濱口ら8)は、家族からの働き かけが、食生活についての意識を媒介し健全な食行 動につながると報告している。また、施設を退所し た児童からは、退所直前の体験だけではなく日々の 暮らしの中で買い物へ行く、料理を一緒にするなど 日常生活の中で身に付けさせてほしいという提言が ある9)。 児童養護施設では職員が家族の代わりであり、日 常的に食生活について働きかけることにより施設入 所児童の食に対する肯定感も高まることが推察され た。また、高畑ら10)は、母親自身の過去の食経験 が好ましいほど、母親の食事感を良くし、幼児期の 子どもの食への興味を高めると報告している。この ことより、児童養護施設の食育には職員の食事感を 高める取り組みも取り入れることにより、施設入所 児童に対する食育効果が高くなると考えられた。 以上のことから、児童養護施設の食育指導におい ては、幼児から小学生低学年までに食育体験を多く させることが有効な指導であり、子どもたちが豊か な食経験を会得できる大切な期間と考えられた。ま た、小学生高学年からは、技術的体験が多い計画を 立案することが有効であると考えられた。 今後は、本研究の調査結果を踏まえ、施設のハー ド・ソフト面に適合する施設食育計画を作成するこ と、年齢だけではなく、入所前の養育経験、障害や 虐待経験など、子ども自身が持つ困難さ、退所後の 環境が異なる個々の子どもに適合する食育計画を、 管理栄養士・栄養士、調理担当者、保育士、指導 員、施設長等の多職種協同で作成すること、そして 彼らに日常的に働きかけ、評価および見直しをして いくことが必要である。
謝辞
多忙な中、調査にご協力いただきました名古屋市 S 小学校の皆さま、名古屋市内の児童養護施設の入 所児童、管理栄養士・栄養士をはじめ施設職員の皆 さまに深く感謝します。本調査は日本栄養士会平成 22 年度栄養指導等に関する研究助成金を受け実施 しました。助成していただき、深く感謝します。 文 献 1)厚生労働省:平成 21 年度福祉行政報告例(2009) 2)名古屋市健康福祉局:名古屋市食育推進計画(2007) 3)厚生労働省:社会福祉施設における衛生管理の徹底 について(社援基発第 1212001 号)(2003) 4)厚生労働省:平成 19 年度社会的養護施設に関する 実態調査,pp.18-20(2008) 5)文部科学省:学校保健統計調査結果,pp.6-9(2011) 6)Benesse 食育研究所:食事としつけに関するアンケ ート 2009(2009) 7)春木敏,川畑徹朗:小学生の朝食摂取行動の関連要 因,日本公衆誌,52,235-244(2005) 8)濱口郁枝,安達智子,大喜多祥子,他:大学生の食 生活に対する意識と行動の関係について,日本家政 学会誌,61,13-24(2010) 9)NPO 法人社会的養護の当事者参加推進団体日向ぼ っこ:社会的養護の下で生活した私たちが考えるケ アに関するハンドブック,p9(2010) 10)高畑彩友美,冨田圭子,饗庭照美,他:母親の食生 活に対する意識や生活充実感が幼稚園に通う子ども とのコミュニケーション頻度に与える影響,日本家 政学会誌,57,287-299(2006)Abstract : In order for children in a nursing facility for children (children admitted to a facility) to learn how to independently form good dietary habits, we performed a basic study necessary for the development and creation of a practical and effective shokuiku (food and nutrition education) system and program. The subjects of the study were children (aged 3-18 years old) in 14 nursing facilities for children in Nagoya, Japan. Aimed at all of the subjects, we performed a fact-finding study on shokuiku guidance, a physical examination, a technical evaluation study of cooking skills based on cooking training drills, and a questionnaire study on awareness related to shokui-ku. In thee questionnaire awareness study, we compared the results with those of children (chil-dren living at home) enrolled at S elementary school in Nagoya. In this study, the younger sub-jects in the study, aged 3 to 5 years-old, showed a good understanding of food and nutrition, showing 95.8% accurate answers in a quiz. Compared with the children living at home, the sub-ject children in the first years of elementary school, aged six to eight years-old, demonstrated significantly low scores (P < 0.05) in a discrimination quiz on the names of vegetables, showing that they didn’t know many of the names. We also found that 83.1% of the subject children in the nursing facility answered “yes” to a question about whether or not they washed their hands be-fore meals, a significantly high percentage (P < 0.05), compared with 52.7% for the children living at home, showing the effect of guidance conducted at the nursing facility. In addition, we found that the affirmative attitude towards food decreased significantly (P < 0.001) as the children grew older, as the percentages of children who answered “yes” to the question “Are meals fun?” were 96.4% for younger children aged 3 to 5 years-old, 81.7% for children in the first years of elemen-tary school, 64.7% for children in the later years of elemenelemen-tary school, aged 9 to 11 years-old, and 50.0% for junior and high school students, aged 12 to 17 years-old. However, the affirmative attitude towards food was higher for children with more experience with cooking, and they showed less anxiety about cooking their own food after becoming self-reliant.
The results of this study suggested that the promotion of more participation in food and nutri-tion related programs at nursing facilities for children would be effective guidance for younger children and children in the first years of elementary school, and also that these years are an im-portant time period when such children can learn about food and nutrition efficiently. In addition, we considered that more proposals for experience in technical cooking experience would be ef-fective for children in the later years of elementary school.