• 検索結果がありません。

動機づけに関する素朴理論の検討 教職志望学生を対象として 坪田雄二 我が国の学校教育における目標は 変化の激しい社会を担う子どもたちに必要となる 生きる力 とされている これは 平成 8 年中央教育審議会の答申において示され 以下のように定義される 生きる力 とは 基礎 基本を確実に身に付け いかに

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "動機づけに関する素朴理論の検討 教職志望学生を対象として 坪田雄二 我が国の学校教育における目標は 変化の激しい社会を担う子どもたちに必要となる 生きる力 とされている これは 平成 8 年中央教育審議会の答申において示され 以下のように定義される 生きる力 とは 基礎 基本を確実に身に付け いかに"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

教職志望学生を対象として

坪 田 雄 二

我が国の学校教育における目標は、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要となる「生きる 力」とされている。これは、平成8年中央教育審議会の答申において示され、以下のように定義さ れる。「生きる力」とは、「基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を 見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自 らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくま しく生きるための健康体力など(文部科学省、2008)」である。 この目標を達成するため、学校教育には、大きく分けると、学習指導要領によって規定されてい る教育課程に基づく指導、それに基づかない指導の2つの指導が存在する。平成28年に答申された 最も新しい学習指導要領によれば、知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深 い学び」が改訂のポイントとして挙げられており、このことから、今後も、学習者の主体性が重要 な鍵であることがわかる。また、学習指導要領に基づかない指導の代表例として、生徒指導が挙げ られる。生徒指導提要(2010)によれば、生徒指導が学校教育において主に担う目標は、自己指導 能力の育成であり、その育成に必要となる資質として、自発性・自主性、自律性、主体性が指摘さ れている。このことから、生徒指導の面においても、児童・生徒の自発的、自律的、主体的な活動 が求められることが見て取れる。 このような学習者の自発的、主体的な活動とかかわりの深いものに、心理学の動機づけの領域に おける内発的動機づけがある。内発的動機づけとは、興味、関心、好奇心などによって行動が引き 起こされている状態であり、藤井(2014)によれば、何らかの行動に対する報酬に対してではなく、 その行動自体が目的となっている際の動機づけを指すと定義されている。両者のかかわりが深い理 由は、内発的に動機づけられているのであれば、行動自体が好きで、あるいは面白くて行動してい るわけであるから、学習者の活動のほとんどは自発的なものであり、また、その際には主体的な活 動となる可能性が高いと考えられるためである。一方、何らかの行動に対する報酬が目的となって いる際の動機づけは外発的動機づけと定義されている。このような2種類の動機づけの定義を見る と、互いに相反する概念であり、両者の関係性はないように思えるかもしれない。しかし、外発的 動機づけの中にも他者に強制されるのではなく、その行動の意味を自分なりに考え行動するよう な、言い換えれば行動は報酬を得るための手段ではあるが、その報酬に自分なりの価値を見出し行 動するようなものも含まれるのではないかという指摘が存在する。つまり、外発的動機づけすべて が他律的なのではなく、外発的動機づけの中にも自律的なものも存在するという指摘である。その 流れの中で、Ryan & Deci(2000)は自己決定理論を提唱している(図1)。彼らは調整段階という 要因で、動機づけの自律性を概念化している。調整段階とは、内在化の程度を指し、社会的価値な どを自分のものとして取り入れることである。その内在化の程度に基づいて、外発的動機づけを以 下の4つの段階に分類している。1つ目は外的調整であり、これは行動に何ら価値を認めておらず、 外部からの圧力によって行動している状態であり、最も他律的なものである。2つ目は取入れ的調

(2)

整であり、行動の価値がある程度は取り入れられてはいるが、義務的で、活動に対して消極的な状 態である。3つ目は同一化的調整であり、行動が自分にとって重要であるという認識で行動してい る状態であり、自律的な状態とみなせる段階である。4つ目は統合的調整であり、行動の価値が十 分に内在化されており、他の何かやりたいことがあってもそれを抑えて行動できるような状態であ る。この考え方に従えば、たとえ外発的動機づけの状態であっても学習者の自律的な活動は期待で き、内発的動機づけの状態のみが、学習者の自発的、自律的な活動と結びついているわけではない ことが理解できる。むしろ問題となるのは、学習者の行動が生起しない状態(非動機づけ)であり、 たとえ外発的動機づけの状態であってもまずは行動を生起させ、次にその自己決定性を高める方策 を考えることが、学習者の自発的、自律的な行動を生み出すことにつながると考えられよう。以上 の事から考えると、今後、学校教育現場で、学習者の自発的、自律的な行動が重視されていく傾向 にあり、その達成につながる知識として、動機づけの仕組みを理解することの重要性は、教育者に とってますます高まっていくと思われる。 一方、心理学の領域では素朴理論という考え方が存在する。素朴理論とは日々の様々な活動を 通して身の回りの事象の観察を行う中で、自然に獲得する知識体系のことを指し、これはしば しば正しい科学理論とは矛盾する間違った理論であることが知られている(森、2018)。例えば Vosniadou & Brewer(1992)は、地球は丸いという科学的知識と地球は平らであるという素朴理 論をどのように統合しているかを小学校3〜6年生を対象に検討し、両者の統合が子供たちにとっ てどれほど困難かを示している。動機づけに関してもこのような素朴理論は存在すると推測され る。心理学における動機づけの定義が正確に理解されているかどうかは疑問であるが、日々の経験 の中で、いわゆるやる気が出るとか、出ないとかなどの話はよく聞くことであり、動機づけに関係 した知識や経験は一般に関心を持たれているものであろう。であるならば、動機づけの状態を左右 すると思われるさまざまな要因についての素朴理論も形成されている可能性は高く、その内容がど のようなものであるかを知ることは、意味のある課題であろう。先にも述べたように、特に学校教 育ではこの動機づけに関する知識の重要性が高く、将来、教職に就く意志のある学生が、動機づけ に関するどのような内容の素朴理論を持っているのかを明らかにすることはひとつの課題であると 図1 自己決定理論における自己決定の段階性(外山、2011より作成)

(3)

思われる。特にその内容が、これまで指摘されてきた動機づけの理論と矛盾するものであった場合、 その統合は困難が予想され、その困難を克服するための対処を検討する必要もあろう。 そこで、本研究では、教職志望学生を対象とし、彼らが持つ動機づけに関する素朴理論を明らか にすることを目的として実施した。

方法

これまでの経験の中で、動機づけが高まった、あるいは高まらなかったエピソードを思い出させ、 その内容を自由記述で回答させる方法で調査を実施した。 調査対象者 教育心理学を受講している学生63名。 手続き 講義終了後に、調査の目的、回答は統計的に処理するため個人の回答を問題にすること はないこと、答えたくないと思う質問は無回答で構わないこと、調査は任意であり強制ではないこ とを説明した上で調査への協力を依頼した。回収は、次回の講義の際に実施した。 また質問紙で回答を求める際、以下のような聞き方で反応を求めた。「Ⅰ.皆さんのこれまでの 経験の中で、動機づけが高まった(非常にやる気が出た、一生懸命取り組んだ)エピソードを3つ 思い出してください。そして、それらがどのような状況であったか、可能な範囲で記入してくださ い。」「Ⅱ.皆さんのこれまでの経験の中で、動機づけが高まらなかった(あまりやる気が出なかっ た、やろうと思ったけれど、やらなかった)エピソードを3つ思い出してください。そして、それ らがどのような状況であったか、可能な範囲で記入してください。」 このような方法で回答を求めたのは、以下の理由によるものである。まず、動機づけが高まった、 あるいは高まらなかっただけではなく、やる気が出たとか、一生懸命取り組んだ、やろうと思った けど、やらなかったの表記も含めたことの理由であるが、心理学の領域で言う動機づけとは、単な るやる気(欲求、動機に相当するもの)が存在するだけでなく、それに基づいた行動も生起してい る状態も含んだ概念である(例えばやる気はあるがそれができないといった状況は、動機は存在す るが行動が生じていないため動機づけられていないと考えることになる)。しかしながら一般には、 動機づけとやる気は混同されることが多く、少しでも心理学の概念に近づけるために、行動も実際 に起こった状況であることを表現するために採用した。また、動機づけにかかわる具体的なエピ ソードを回答させ、素朴理論に相当するものを直接求めなかった理由は、以下のとおりである。素 朴理論の内容は、各個人が理論として認識しているものとは限らず、経験の中からつくられている ものである。したがって意識していない場合、それを言語化することは難しく、それを形成する元 となる経験を回答させるという方法を採用した。

結果

63名中、50名から質問紙が回収された。Ⅰの動機づけが高まったエピソードとして、計128、Ⅱ の動機づけが高まらなかったエピソードとして、計118が記述されていた。次に、それぞれのエピ ソードにおいて、動機づけに影響を与えた要因として記述されていたものを抽出した。その際、例 えば夏休みの宿題のように状況は記述されているがその要因が記述されていないものは検討から除 外した。また、ひとつのエピソードに複数の要因が記述されている場合は、各要因を個別に抽出し

(4)

た。そして、一人の調査対象者が複数のエピソードで同じ要因を記述している場合は、あわせて一 つとカウントした。その結果、動機づけが高まった状況では、13のエピソードが、高まらなかった 状況では25のエピソードが除外された(結果として、Ⅰ、Ⅱそれぞれの状況で分析対象となる要因 が含まれないエピソードしか記述していなかった対象者が1名ずつ存在した)。最終的に、Ⅰでは、 102、Ⅱでは、86の要因を抽出した。表1は、検討対象となった115及び93の要因を分類したもので ある。 動機づけが高まった状況の要因に関する分析 各カテゴリーに分類された要因の具体的な内容は 次のようなものである。「他者からの評価」は、他者から励まされる(10件)、ほめられる(8件)、 金銭的な報酬が得られる(7件)、他者から期待される、信頼される(6件)となっていた。次に 「仲間からの影響」は、仲間が努力している姿を見て(10件)、仲間がいる、仲間と一緒に作業して いる(それぞれ1件)であった。「目標」については、目標の達成可能性が高い(7件)、目標が存 在する(3件)、目標が具体的である(2件)であった。「遂行結果」は、自分が成功した、あるい は失敗したという結果に影響を受けた(8件)であり、他者の成功体験に影響されたとの記述が1 件あった。「興味・感情」は、悔しさ、楽しさといった感情を記述したものが6件、興味・関心が3 件であった。「自己決定」は自分で決めたこと(4件)であり、「結果の随伴性」は自分の努力が良 い結果につながること(4件)となっていた。「その他」の中で、複数の回答が見られたのは、競 争(3件)、やり遂げた後で楽しいことが待っている(2件)であった。 動機づけが高まらなかった状況の要因に関する分析 各カテゴリーに分類された要因の具体的な 内容は以下のとおりである。「他者からの評価」は、叱責が5件であった。他者から認められない、 えこひいき、金銭的報酬がないなどが見られたが、いずれも件数は1であった。「興味・感情」は、 嫌なこと、めんどくさい、つまらない等の感情が10件、興味・関心がわかない(4件)であった。「自 己決定」は、やろうと思っていたことを他者から指摘されやる気がなくなったという記述が12件と 多くなっていた。「仲間からの影響」では周りの人にやる気が見られない、あるいは行動していな いことによる影響が4件であった。「目標」では、目標の達成可能性が低いことが挙げられていた (3件)。「遂行結果」は、失敗したという結果に影響された(3件)であった。「結果の随伴性」は やってもできそうにない(2件)、努力しても結果につながりそうにない(1件)であった。「その 他」の中では、動機づけが高まった状況では見られなかったため、カテゴリー化しなかったが、課 題の難易度(課題が難しすぎる、易しすぎる、多すぎる)といったものが7件、課題に取り組む理 由がわからないが6件と多くなっていた。それ以外では、他にやりたいことがあるため(4件)、温 表1 エピソ一ドで記述された要因の分類 他者からの 評価 仲関からの 影響 目標 遂行結果 輿味・感情 自己決定 結果の 随伴性 その他 37 13 12 9 9 5 4 13 (0.75) (0.27) (0.24) (0.18) (0.18) (0.10) (0.08) (0.27) 16 7 3 3 16 13 3 25 (0.33) (0.14) (0.06) (0.06) (0.33) (0.27) (0.06) (0.51) 上段は動機づけが高まった状況、下段は動機づけが高まらなかった状況である。 (  )内の数値は、分析対象となった調査者のうち当該の要因を記述した者の相対度数を示す。

(5)

度、湿度などの物理的な環境が悪いこと(3件)が複数回答されていた。

考察

本研究では、教職志望学生が持つ動機づけに関する知識(素朴理論)を過去の自分のエピソード を思い出させることで調査し、その内容を把握すること、そしてその内容と既存の心理学の領域で 指摘されている様々な動機づけ理論と照らし合わせることで、その特徴を明らかにすることを目的 として実施した。 最初に心理学の領域の中の動機づけ理論の概略を坪田(2006)を基に紹介する(表2)。従来の 動機づけ理論は認知論的、情動論的、欲求論的アプローチに大別され、それぞれのアプローチに含 まれる理論は多岐にわたり、全てを網羅することは困難である。そこで、表1で示された要因に関 連があると推測されるものを、個々のケースに応じて説明していく。 動機づけに影響を与える要因として指摘されたものと既存の動機づけ理論との関連性 ここから は、動機づけが高まった、高まらなかった状況を合わせて、各状況で記述された要因と既存の理論 との関連性について考察する。 まず「他者からの評価」の要因については、励まし、称賛、叱責、金銭的報酬などがその内容で あった。これは、外部から与えられる強化に関するものと考えられ、学習領域で紹介される道具的 条件づけのメカニズムに沿った知識と思われる。 次に、「仲間からの影響」は、仲間が努力している姿に触発される、周りの人のやる気が見られ ないなどの内容であった。これについては、欲求論的アプローチでみられる関係性への欲求とかか わりあるものと推測される。しかし動機づけの理論においてこれら関係性の欲求の観点で検討しい 表2 動機づけ理論の分類 認知論的アプローチ 期待×価値理論* 成功可能性に対する主観的認識と行動遂行にかかわる価値の積でとらえる立場 目標理論* 達成しようとする目標に対する認識によってとらえる立場 情動論的アプローチ フロー理論 活動に従事している行為者の主観的体験としてのフローによって説明する理論 リバーサル理論 ある状態から別の状態へ心理的体験が反転する現象から説明する理論 欲求論的アプロ一チ ERG理論 欲求階層説を修正した理論で、生存欲求、関係欲求、成長欲求という観点で人間の欲求をとらえなおし た理論 自己決定理論 有能さへの欲求、関係性への欲求、自律性への欲求から説明する理論 *特定の理論をさしているのではなく、共通の要素を持つ理論の総称をさす

(6)

たものは主流の考え方とは言えない。これまでの動機づけ理論では、個体内で完結する期待や価値 などの認知的要素で説明する認知論的アプローチが主流であり、関係性の欲求にかかわる理論は教 育心理学のテキストなどでもあまり言及されていないことが多いように思われる。これからはERG 理論や自己決定理論などの欲求論的アプローチを積極的に取り上げることで、学生自身の経験と結 びついた自己関連性の高い話題を提供する必要があると思われる。 「目標」に関しては、目標の達成可能性の高低、目標の具体性が記述されていた。達成可能性は、 認知論的アプローチにおける期待の概念がそれに当てはまる。ここで言う期待とは、ある出来事が どの程度起こりそうかということに関する主観的な予測を指すが、Bandura(1977)は、そこには 結果期待と効力期待の2つが存在すると述べている。結果期待とは、ある行動が特定の結果を生じ させるであろうという予測であり、効力期待とは、その行動を自分が実行することができるかどう かに関する予測である。このような視点が本調査の回答には見られない。今後はできそうだから動 機づけが高まるといった単純な理解だけでなく、できそうという認識の中にも異なる側面が含まれ るといったより深い理解を促す必要性があると思われる。また、目標の具体性はLockeの目標設定 理論における目標の明確さが該当する。 「遂行結果」では成功、失敗といった行為の結果に左右されると記述されていた。しかしWeiner の達成課題における原因帰属理論では、行為の結果のみではなく、その結果に至る原因の認知が動 機づけに影響することが示されている。そういう意味では、結果のみに目が向き、その原因を考慮 するという視点が欠けているように思われる。今後、原因帰属という視点を強調していく必要性が 感じられる。 「興味・感情」では、好き嫌い、楽しさ、悔しさ、つまらなさなどが挙げられていた。これは情 動論的アプローチに該当するものと推測される。ただし、好きとか、興味があるとかなどは内発的 動機づけの説明として用いられることはあっても、それがそのまま情動論的アプローチの主要な構 成要素として扱われることは少ない。例えばフロー理論では好き、嫌いなどの特定の感情だけを取 り上げるのではなく、これらの総体としての主観的体験をフローと概念化し、理論化を試みている。 今後はこのような情動の側面からの動機づけへのアプローチはより掘り下げて説明してく必要性が 感じられる。 「自己決定」で記述されていた、自分で決めたから動機づけが高まる、他者に強制されたから動 機づけが下がるは自己決定理論に該当するものである。また、自分でやろうとしていても他者に強 制されることで動機づけを下げる(リアクタンス状態)といった記述は、心理的リアクタンス理論 で説明される現象であり、この理論では、動機づけが下がるのは一つの手段として選択された結果 であると解釈される。つまり、この理論では、人には自由への権利があり、他者からの強制は例え 自分の態度と合致した内容であっても、自分の持つ自由を侵害されたとみなされ、その自由を回復 するために、強制された行動と反対のことをするとか、強制された行動をとらないとかの手段が選 択されると考える。結果として強制された行動をとらないことを選択した場合、動機づけが下がっ たことと同じになる。このように理論の論点が動機づけそのものにはないため通常動機づけの領域 で紹介されることは少ないが、動機づけにかかわる現象を説明する一つの理論として紹介する必要 性があるのかもしれない。 「結果の随伴性」では自分の努力が結果につながる、やっても実現しそうにないなどの記述が あった。これはRotterのローカス・オブ・コントロール(自分の行動が成果につながると思えば動

(7)

機づけは高まり、自分の行動が無駄に終わると思えば動機づけは下がる)に該当するものである。 「その他」の中で複数回答が見られたものとして、動機づけが高まらなかった状況における課題 が難しすぎる、多すぎるなどの課題の困難度といった要因があった。これはLockeの目標設定理論 における目標の困難さの要因が該当するものと推測される。また、課題に取り組む理由がわからな い(何のためにする必要があるのかはっきりしない)という記述も多かった。これについては、池 田(2017)が退屈な課題を単に実行させるよりも、理由を説明する、相手に同情を示す、相手に選 択させるといった手続きを経ることで人は自発的に行動することを明らかにしており、そのような 効果が回答されたものであろうと推測される。 以上のことをまとめてみると、教職志望学生が持つ動機づけに関する知識には、Vosniadou & Brewer(1992)が指摘したような既有の知識(素朴理論)が科学的知識の理解を妨害するような、 統合を困難にするような、知識を持っているとは言えないことが示された。しかしながら、「目標」 「遂行結果」、「興味・感情」、「自己決定」のところで指摘したように、既存の知識には不十分な領 域や視点があることも見出された。今後はこれらの不足を補う形で進める必要があろう。

引用文献

Bandura, A. 1977 Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84, 191-215 藤井 勉 2014 内発的動機づけ/外発的動機づけ 下山晴彦(編) 誠信心理学辞典新版 誠信 書房 p.228 池田貴将 2017 図解モチベーション大百科 サンクチュアリ出版 文部科学省 2008 幼稚園、小学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 に つ い て( 答 申 )(2008年 1 月17日 )〈http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/ information/1290361.htm〉 文部科学省 2010 生徒指導提要 教育図書 森 敏昭 2018 思考 心理学新版 有斐閣

Ryan, R. M. & Deci, E. L. 2000 Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55, 68-78.

外山美樹 2011 行動を起こし、持続する力 モチベーションの心理学 新曜社

坪田雄二 2006 感情と動機づけ 羽生義正(監) 心理学への扉 心の専門家へのファーストス テップ 北大路書房 pp.79-102

Vosniadou, S., & Brewer, W. 1992 Mental models of the earth:a study conceptual change in childhood. Cognitive Psychology, 24, 535-585

参照

関連したドキュメント

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

教育・保育における合理的配慮

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

られてきている力:,その距離としての性質につ