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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 使える! 統計検定 機械学習 : III : 主観評価実験のための有意差検定 高木, 英行九州大学大学院芸術工学研究院

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

使える!統計検定・機械学習 : III : 主観評価実験

のための有意差検定

高木, 英行

九州大学大学院芸術工学研究院

http://hdl.handle.net/2324/1467640

出版情報:システム/制御/情報 : システム制御情報学会誌. 58 (12), pp.514-520, 2014-12. システム

制御情報学会

バージョン:

権利関係:

(2)

 

使える!統計検定・機械学習

— III

主観評価実験のための有意差検定

高木 英行*

1.

はじめに

ユーザインタフェースの使い勝手,ロボットのおもし ろい動きや癒される動き,あるいは,感情表現動作,マー ケッティングに合ったデザインコンセプト,音質の良し 悪しなど,性能値の計測が困難で人間の主観評価に頼ら ざるを得ない設計や最終選択が多々ある.主観評価実験 結果を客観的に扱えなければ,人々を説得することはで きない.心理学が科学足り得るのはこの点にある.その ための道具が統計検定である. 心の物差しによる主観評価の特徴は,絶対評価よりは 相対評価の方が容易であることと,100点満点のような 細かい評価精度は困難であり粗い評価しかできないこと にある.また評価揺らぎがあることも主観評価の特徴で ある.しかし,被験者間の揺らぎや各被験者の評価揺ら ぎよりも,評価対象間の評価が十分離れていれば,本講 座連載の第1回目と第2回目[1,2]1と同様,統計的に有 意差を示すことができよう. 連載第3回目の本解説では,このような特徴をもとに 提案されたScheff´e(シェッフェ)の一対比較法を取り上 げる.t個の評価対象(t≥ 3)を組み合わせて比較対を 作成し,これら対比較結果を尺度評定して分散分析にも ち込む方法である.本来の提案方法(原法とよぼう)[4] は市場調査のような場合には適しているが,主観評価実 験を行う多くの読者の場合,原法のように多数の被験者 を集めることは困難であろう.そのため本解説では,少 ない被験者がtC2対全部の評価をする変法について紹介 する.なお,主観評価対象が二つの場合は,連載第1回 目[1]の符号検定やWilcoxonの符号検定を適用すると よい.

2.

Scheff´

e の一対比較法とその変法

日本酒にうるさい人でも,個別試飲ごとに揺るぎない 評価ができるかといえばかなり難しいであろう.しかし, 2銘柄ずつの相対比較であれば絶対評価より容易になる. 九州大学大学院芸術工学研究院

Key Words: statistical tests, human subjective test, Scheff´e’s method of paired comparison, modified methods by Ura and Nakaya, analysis of variance.

1本連載内容のスライドはダウンロード可能である[3] このように,一対比較に対してs段階の間隔尺度2に基づ く相対評点をさせ,分散分析にもち込むことで評価対象 間に有意な差があるかどうかを検定する方法がScheff´e の一対比較法である. Scheff´eの一対比較法の原法は,たとえばアンケート 調査のような場合に用いる.駅前で「アンケートにご協 力ください.所要時間は30分です.」と頼んでも余程の 暇人の協力しか得られないであろう.そこで,全対比較 の評価を頼むのではなく,一部の一対比較のみの評価を お願いし,その代わり評価者数を増やすことで検定の信 頼性を上げる方法である.駅前調査ならば数を集めるの は容易であろう. しかし,研究室で主観評価実験を行う場合は多数の被 験者集めが困難である.その代わり,謝金払いなどの手 段で被験者に長時間の実験に参加してもらい,一対比較 の全組合せを評価してもらうことが多い.このような場 合向けの変法が提案されている(第1 表). 第1表 Scheff´eの一対比較法の原法と変法の特徴 各被験者が全部の対比較評価を しない する 順序効果の考慮あり 原法[4] 浦の変法[5,6] 順序効果の考慮不要 芳賀の変法[7] 中屋の変法[8] 順序効果とは,音や動画のように同時比較ができない 評価対象を主観評価する場合に,提示順序が評価に影響 を与えることをいう.たとえば,雲雀と雀のさえずりを 主観評価するとき,「雲雀→雀」と提示すると雀の方が良 く聴こえ,「雀→雲雀」と提示すると雲雀の方が良く聴こ えるのであれば,記憶に新しい後提示のさえずりを高く 評価していることになる.原法と浦の変法は,順序効果 を確認できるよう,ABBAの双方について被 験者評価を求める.一方,静止画像のように同時に空間 比較できる場合は,順序効果を考慮する必要はない. 実際のところ,本解説の読者の多くは被験者に全対比 較評価を求める主観評価実験を行われることが多いと思 われるので,Scheff´eの一対比較法の中屋の変法か浦の 変法のいずれかを評価対象に応じて選択することにな 2等間隔にスケーリングされ,大小比較ができ,差が等 しいため加減算ができる尺度.たとえば,3.2の例に 用いる−3点~+3点の7段階評価は間隔尺度である.

(3)

高木:使える!統計検定・機械学習— III 515 ると思う.原法と芳賀の変法の計算方法は,たとえば書 籍[9–11]などで補ってほしい.

3.

Scheff´

e の一対比較法:中屋の変法

3.1

汎用的な説明 n人の評価者(O1~On)がt個の評価対象(A1~At) の対比較をする場合を考える. 評価者全員にtC2対の 相対評価をさせ,集計して平均評価点と分散分析に必要 なデータを求める. (Step 1) 評価者別の個別評価値表をn人分作成 主観評価実験データを集計後,第2表の個別評価値表 を全員分作成する.Ai−AjAj−Aiの評価値は符号反 転した関係なので,上三角行列に評価値を入れ,符号反転 して下三角行列にコピーする(すなわち,xijl=−xjil). つぎに対角成分を0として,列方向の和,その二乗,下 三角行列の列方向の和を求める. 第2表 第l番目の被験者Olが第i番目と第j番目の評価対 象(AiAj)を一対比較した評価値xijlの表 Ol A1 A2 ··· At A1 x21l ··· xt1l A2 x12l ··· xt2l .. . ... ... . .. ... At x1tl x2tl ··· xi·l tj=1 x1jl tj=1 x2jl ··· tj=1 xtjl x2 i·l ( tj=1 x1jl)2 ( tj=1 x2jl)2 ··· ( tj=1 xtjl)2 x2 i·l,(下 △) tj=2 x2 1jl tj=3 x2 2jl ··· 0 (Step 2) 1枚にまとめた全員用評価値表を作成 第2 表のn枚の個別評価値表を全員分足し合わせて 第3 表の全員用評価値表を作成する. (Step 3) 心理尺度構成と分散分析表作成 評価対象数t,評価者数n,第3表のxi··から平均評価 値αˆiを求め,心理尺度上の各評価対象の評価点とする. ˆ αi= 1 tnxi·· (1) つぎに以下の値を計算し,第 4 表の分散分析表を作 成する.計算が大変そうに見えるが,第 2 表のx2 i·lx2 i·l,(下 △),および,第3 表のx2i··,(下 △)x2i··を行方向 に和を取れば(すなわち ti=1 計算)簡単に求まる. = 1 tn ti=1 x2i·· Sα(B)= 1 t nl=1 ti=1 x2i·l−Sα 第3表 第2表を全員分足し合わせた全員用評価値表 nl=1 Ol A1 A2 ··· At A1 x21· ··· xt1· A2 x12· ··· xt2· .. . ... ... . .. ... At x1t· x2t· ··· xi·· tj=1 x1j· tj=1 x2j· ··· tj=1 xtj· x2 i·· ( tj=1 x1j·)2 ( tj=1 x2j·)2 ··· ( tj=1 xtj·)2 x2 i··,(下 △) tj=2 x2 1j· tj=3 x2 2j· ··· 0 = 1 n ti=1 x2i··,(下 △)−Sα ST = nl=1 ti=1 x2i·l,(下 △) Se= ST−Sα−Sα(B)−Sγ 第4表の主効果,主効果×個人,組合せ効果のp値計算 には,F分布上の確率を求めるExcelの関数FDIST(F 値,自由度,誤差Seの自由度)を用いると便利である. (Step 4) 多重比較 (Step 3)で求めた主効果のp値が危険率1%または 5%を下回っている場合は,評価対象間のどこかに有意差 があると判断する.(Step 3)で求めたαˆiから,たとえば 第2 図のように心理尺度上に評価対象が分布するので, これらの間隔が(2)式で得られる値Y(yardstick)以上 に大きく離れている場合に有意差があると判断する. Yϕ= qϕ(t,fe) √ Ve tn (2) ここで,ϕは検定する有意水準(0.05か0.01),tnは 評価対象数と評価者数,feVeは 第4表の誤差の自由 度と分散である. qϕ(t,f )はスチューデント化1された範囲のq値とよば れ,統計検定書籍の付録やネット上に掲載されているq 値表から該当する値を用いる.しかし,印刷スペースの 関係から評価対象数tが20程度まで,自由度feが20 1雑談になるが,studentという動詞があるわけではない.

文献[12]のように,統計学者William Sealy Gossetが

論文を発表する時に使ったペンネーム(Student)に

由来する.スチューデント化とは,変数の範囲(観察 最大値-観察最少値)を観察値の標準偏差で正規化す ることを意味する.

(4)

第4表 中屋の変法の分散分析表. tnは評価対象数と評価者数.ExcelにはF分布上の確率(p値)を計算するFDIST()関 数が用意されている. 要因 平方和(S) 自由度(f) 分散(VFp値 主効果 fα= t−1 Vα= Sα/fα Vα/Ve FDIST()で計算 主効果×個人 Sα(B) fα(B)= (t−1)(n−1) Vα(B)= Sα(B)/fα(B) Vα(B)/Ve FDIST()で計算 組合せ効果 fγ= (t−1)(t−2)/2 Vγ= Sγ/fγ Vγ/Ve FDIST()で計算 誤差 Se fe= (t−1)(t−2)(n−1)/2 Ve= Se/fe 合計 ST fT= nt(t−1)/2 第1図 評価対象A1~A3の対比較を7段階評価するアン ケート例 程度以上は粗い刻みのq値表が多い1.一対比較の主観 評価実験の場合,t < 20で十分であるが,誤差の自由度 fe= (t−1)(t−2)(n−1)/2は比較的大きくなるので求め たい自由度のq値が表にないことが多々ある.この場合, 以下の補間法で表にない自由度のq値が推定できる[15]. qϕ(t,fb) = 1/fb−1/fc 1/fa−1/fc qϕ(t,fa) + 1/fa−1/fb 1/fa−1/fc qϕ(t,fc) ここで,fbq値表にない自由度,fafcq値表掲 載のfb前後の自由度(fa< fb< fc)である.

3.2

具体的な計算例 6人の被験者が3個の対象物の対比較を,第1図に示 すように[−3,+3]の7段階評価した場合の集計結果が 第5 表であったとして,以下計算例を説明する. (Step 1) 評価者別の個別評価値表をn人分作成 全評価者の対比較評価の集計結果(第5表)から,評 価者ごとの個別評価値表(第6表)を作成する.第6表 は,第l番目の評価者が第i番目と第j番目の評価対象の 対比較したときの評価値xijlの表である.評価対象ごと に評価値の和xi·l(= 3 ∑ j=1 xijl),その二乗x2i·l,下三角行 列の評価値の二乗和(= 3 ∑ j=i+1 x2ijl)を求める. 1執筆現在,ネット上には,対象数t20まで1刻み, 誤差の自由度feが1~120まで1刻みのq値表のペー ジ[13]やq値の自動計算ページがある[14]. 第5表 評価者(O1~O6)が評価対象(A1~A3)の対比較 をする主観評価実験データの集計例 対比較 評価者 O1 O2 O3 O4 O5 O6 A1 − A2 2 3 3 2 0 1 A1 − A3 2 0 0 1 1 0 A2 − A3 −3 −2 −1 −1 −3 −2 第6表 第5表を評価者(O1~O6)別にまとめた個別評価 値表 O1 A1 A2 A3 O2 A1 A2 A3 A1 −2 −2 A1 −3 0 A2 2 3 A2 3 2 A3 2 −3 A3 0 −2 xi·1 4 −5 1 xi·2 3 −5 2 x2 i·1 16 25 1 x2i·2 9 25 4 x2 i·1,(下 △) 8 9 0 x2i·2,(下 △) 9 4 0 O3 A1 A2 A3 O4 A1 A2 A3 A1 −3 0 A1 −2 −1 A2 3 1 A2 2 1 A3 0 −1 A3 1 −1 xi·3 3 −4 1 xi·4 3 −3 0 x2 i·3 9 16 1 x2i·4 9 9 0 x2 i·3,(下 △) 9 1 0 x2i·4,(下 △) 5 1 0 O5 A1 A2 A3 O6 A1 A2 A3 A1 0 −1 A1 −1 0 A2 0 3 A2 1 2 A3 1 −3 A3 0 −2 xi·5 1 −3 2 xi·6 1 −3 2 x2 i·5 1 9 4 x2i·6 1 9 4 x2 i·5,(下 △) 1 9 0 x2i·6,(下 △) 1 4 0 (Step 2) 1枚にまとめた全員用評価値表を作成 第6 表の6人分の評価点を加算し第7 表を作成する. (Step 3) 心理尺度構成と分散分析表作成 第7 表のxi··を(1)式に代入して,各評価対象の平均 評価値を求める.これら平均評価値を第2図の心理尺度 上に示す. 続いて,3.1の(Step 3)に示す平方和の計算式と

(5)

高木:使える!統計検定・機械学習— III 517 第7表 第6表を一つにまとめた全員用評価値表 6 ∑ l=1 Ol A1 A2 A3 A1 −11 −4 A2 11 12 A3 4 −12 xi·· 15 −23 8 x2 i·· 225 529 64 x2 i··,(下 △) 137 144 0 第2図 評価対象A1~A3に対する評価者O1~O6の評価値 から求めた心理尺度 第8表 第5表の主観評価実験データに対する分散分析結果 平方和 自由度 分散 Fp値 主効果 45.444 2 22.722 12.702 0.011 主効果×個人 5.222 10 0.522 0.292 0.954 組合せ効果 1.389 1 1.389 0.776 0.419 誤差 8.944 5 1.789 合計 61 18 第4表の自由度,分散,F値,p値計算方法から,第8表 の分散分析表を作成する.主効果のp値が約1%である ことから,第2図の三つの評価対象間のどこかに有意な 差があるといえる. (Step 4) 多重比較 (Step 3)で評価対象間のどこかに有意な差があると判 断されたので,第 2 図のどこが有意な差なのかを特定 する.評価対象数t = 3,誤差の自由度fe= 5から危険 率5%と1%のq値をq値表で調べるとq0.05(3,5) = 4.60, および,q0.01(3,5) = 6.97なのでこれらを(2)式に代入 してyardstick Y0.05Y0.01を求める. Y0.05= 4.60×1.79/(3×6) = 1.4506 Y0.01= 6.97×1.79/(3×6) = 2.1980 第2図の三つの評価対象間距離でこれらのyardstick よりも広く離れている箇所がないかを調べると,Y0.01よ り広い個所はないので,危険率1%で評価対象間に有意 差がない.しかし,A2− A3とA2− A1の距離はY0.05 より広いので,これらの評価対象の間には危険率5%で 有意な差があるといえる.

4.

Scheff´

e の一対比較法:浦の変法

音や映像のように同時比較ができないがために順序効 果が生じる可能性のある評価対象の一対比較をする場合 には,A→BおよびB→Aと中屋の変法の2倍の一対 比較評価を行って主観評価実験データを集め,前節の中 屋の変法と同様の浦の変法の計算を行う.中屋の変法に 比べて,第 2 表や第3 表の上三角行列と下三角行列が 必ずしも符号反転だけで同じにならない. (Step 1) 評価者別の個別評価値表をn人分作成 評価者ごとに,第 10 表の個別評価値表を作成する. xi·lx·jlは,各々,各列の和と各行の和である. 第10表 第l番目の被験者Olが第i番目と第j番目の評価 対象(AiAj,および,AjAi)を一対比較し た評価値xijlの表 Ol A1 A2 ··· At x·jl A1 A2 .. . . .. At xi·l ··· x··l x·il ··· (Step 2) 1枚にまとめた全員用評価値表を作成 第10表の表を全員分足し合わせて第 11表の全員用 評価値表を作成する. 第11表 第10表を全員分足し合わせた全員用評価値表 nl=1 Ol A1 A2 ··· At x·j· A1 A2 .. . . .. At xi·· ··· x··· x·i· ··· xi··−x·i· ··· (Step 3) 心理尺度構成と分散分析表作成 評価対象数t,評価者数n,第11 表のxi··− x·i·から 平均評価値αˆiを求め,第2 図のように心理尺度上の各 評価対象の評価点とする. ˆ αi= 1 2tn(xi··−x·i·) つぎに以下の値を計算し,第 9 表の分散分析表を作成 する.

(6)

第9表 浦の変法の分散分析表. tnは評価対象数と評価者数 要因 平方和(s) 自由度(f) 分散(VFp値 主効果 fα= t−1 Vα= Sα/fα Vα/Ve FDIST( )で計算 主効果×個人 Sα(B) fα(B)= (t−1)(n−1) Vα(B)= Sα(B)/fα(B) Vα(B)/Ve FDIST( )で計算 組合せ効果 fγ= (t−1)(t−2)/2 Vγ= Sγ/fγ Vγ/Ve FDIST( )で計算 順序効果 = 1 Vδ= Sδ/fδ Vδ/Ve FDIST( )で計算 順序効果×個人 Sδ(B) fδ(B)= n−1 Vδ(B)= Sδ(B)/fδ(B) Vδ(B)/Ve FDIST( )で計算 誤差 Se fe= t2n−t2/2−2tn+3t/2−1 Ve= Se/fe 合計 ST fT= nt(t−1) = 1 2tn ti=1 (xi··−x·i·)2 Sα(B)= 1 2t nl=1 ti=1 (xi·l−x·il)2−Sα = 1 2n ti=1 tj=i+1 (xij·−xji·)2−Sα = 1 nt(t−1)x 2 ··· Sδ(B)= 1 t(t−1) nl=1 x2··l−Sδ ST = nl=1 ti=1 tj=1 x2ijl Se= ST−Sα−Sα(B)−Sγ−Sδ−Sδ(B) (Step 4) 多重比較 3.1と同様,主効果に有意差があれば,(Step 3)で求 めた平均評価値αˆi間が次式で求めるyardstickよりも広 く開いている評価対象同士を見つける. Yϕ= qϕ(t,fe) √ Ve 2tn ここで,ϕは検定する有意水準(0.05か0.01),tnは 評価対象数と評価者数,feVeは 第9表の誤差の自由 度と分散である.

5.

応用事例とノウハウ

5.1

男と女のすれ違い 本学学部3年生チームが行った課題とその結果を示す. 彼らの目的は価値観の男女差を調べることで,以下のよ うな状況説明を添えたアンケート用紙に第3図の一対比 較を載せて5段階評価結果を集めた. 問1 「まだ付き合っていないが意中の人がいる.卒業を 間近に控え就職先が離れてしまう前にお付き合いを 始めたいが,まずは告白前に,プレゼントで自分に 関心を向かわせたい.3,000円程度の第 3図のプレ ゼント5候補を考えているが,あなたはどちらのプ レゼントがどれほど効果的と思うかを5段階評価を してください.」 第3図 卒業前に想いを秘めた女子(男子)学生への約3千 円のプレゼント5種と,一対比較のアンケートの 一部 問2 「上記状況で,あなたがプレゼントを受け取る側な らば,どちらのプレゼントがどれほど効果的と思う か5段階評価をしてください.」 各問いに対して10組(=5C2)の比較対を作成しクラ スメート男女から回収したアンケートを男女別にScheff´e の一対比較法中屋の変法を適用した結果が第 4 図であ る.図中の矢印は,有意差ありとされた区間である.男 女の価値間にすれ違いが見えておもしろい1

5.2

Excel

計算のノウハウ 実際の主観評価実験では,比較対象数が多くなるこ とがよくあり,評価者数が20名を越えることもしばし ばである.すると,結構大きな個別評価値表(第 2 表, 第6表,第10表など)を20以上作成しなければならな い.第1図や第3図のアンケート用紙から第5 表の集計 表を作成する作業は,上から下へと順次転記するだけな のでデータ入力もデータチェックも容易である.しかし, この集計表から個別評価値表を作成する作業は,第5表 の一列のデータをt×tの正方行列に変換するためデータ 入力も入力チェックもしにくい. この転記作業を自動化し,データの入力ミスをなく したい.いろいろ考えられる自動転記方法の一つが,

ExcelのROW関数,COLUMN関数,ADDRESS関

数,INDIRECT関数を使う方法である.まずROW(セ

1なぜ食事への招待が女子学生に不評なのかを筆者が後

日に聞いたところ,最初から二人きり,という点に躊 躇があるそうだ.

(7)

高木:使える!統計検定・機械学習— III 519 第4図 第 3図の解析結果.男子学生から女子学生へのプ レゼントの場合(上図)と女子学生から男子学生へ のプレゼントの場合(下図) ル位置)とCOLUMN(セル位置)は,指定したセル 位置の行番号と列番号を返す.セル位置を指定しない ROW( )とCOLUMN( )は,これらの関数が使われて いるセルの行番号と列番号を返す.つぎに,ADDRESS (行番号,列番号)は引数の行番号と列番号で指定され るセルの位置の絶対参照を返す.たとえばADDRESS (2,3)は$C$2を返す.最後にINDIRECT(セル位置)は 指定したセルに入っているデータを取り出す. 以上の4関数を使った自動化の方法は,第5表の集計 表の評価者Olの評価値データ一列の先頭セル位置から 評価対象個数tごとにデータを折り曲げながら,評価者 Ol用の個別評価値表(第2表,第6 表,第10表など) の正方行列に書き込むことである.長さt2の一列ベク トルの先頭座標を(x1,y1),t× tの正方行列の左上の先 頭を(x2,y2),行列の中の任意のセル座標を(x3,y3)とし 第5図 集計表から個別評価値表の作成例 たとき,(x3,y3)のセルに書き込むべきデータがある一 列ベクトルの位置(x1,yn)がどこかを求める問題である. 答えの行は以下で与えられる. yn= (y3−y2)t + (y1+ x3−x2) 右辺はExcelの関数で以下のように表すことができる. (ROW( )−ROW(セル2))*評価対象数t+

(ROW(セル1)+COLUMN()−COLUMN(セル2))

ここで,セル1とセル2は各々,一列ベクトル先頭セ ルと行列先頭セルである.こうして求めた(x1,yn)の 絶対参照をADDRESS関数で求め,その絶対参照を INDIRECT( )の引数に渡して(x1,yn)の値を取り出す. 第5図を例に具体的に説明しよう.A列とB列の「コ ピー先」は書き込むべき個別評価値表のセル位置である が,今回の説明のために加えたもので実際には不要であ る.第1のポイントは,個別評価値表には左上から右へ 順にデータをコピーするので,その順になるよう集計 表データを並べることである.第2のポイントは,対角 データ(同じ評価対象物どうしの比較)は本来データが ないが空行を入れて,t2個数分の一列データを用意する ことである.中屋の変法の場合は主観評価実験で得られ るデータが半分しかないが,「行<列」のセルに行と列を 入れ替えた位置のセルの値の符号を反転させてt2個数分 のデータを準備する. つぎに,正方行列左上のセル(例ではI8)に次式を書 き込み,オートフィル1機能を使って数式を行列全体(例 ではI8:L11)にコピーする. =INDIRECT(ADDRESS((ROW()-ROW($I$8))*4+ (ROW($C$3)+COLUMN()-COLUMN($I$8)),COLUMN($C$3))) 個別評価値表の先頭セル位置($I$8)と被験者Olの データの先頭セル位置($C$3),および,評価個体数 1セルの右下にカーソルを移動しカーソルが+記号に なったのち,マウスを押しながら移動させることで相 対参照の値を自動的に変えながら数式などをコピーす る方法.

(8)

t = 4)に応じて,上記Excel関数を書き直し,オート フィルで行列全体にコピーすることを全被験者分につい て行う. 以上の基本を理解したうえで,複数のワークシートを 使ってさらに手間を減らす方法を考えよう.たとえば, ワークシートsheet1に第5 図の集計表があり,ワーク シートsheet2のA2セルから個別評価値表を作るとする. このA2セルに以下の式を記述し,オートフィル機能を 使って,個別評価値表全体にコピーする. =INDIRECT(ADDRESS((ROW( )-ROW($A$2))*4+ (ROW(sheet1!$C$3)+COLUMN( )-COLUMN($A$2)), COLUMN(sheet1!$C$3),,,”sheet1”)) でき上がった個別評価値表をワークシートsheet1に 貼り付けるには,個別評価値表領域を選択してコピーを し,貼り付けたいワークシートsheet1の位置で右クリッ クから「形式を選択して貼り付け」を選択し,「値の貼り 付け」と「演算なし」のラジオボタンを選択して「OK」 をクリックする.単に貼り付けると個別評価値表に書き 込まれている数式がコピーされるので注意. 式中の4は評価個体数tなので,主観評価実験に応じ て変えること.評価者Olを順次変えて個別評価値表を作 成するには,上記Excel式中の2か所の$C$3を,$D$3, $E$3,···と書き換える(第5図の場合).個別評価値表 の位置がsheet2中で固定されているので,2か所の$A$2 を毎回書き換えなくてもよい分,入力ミスが少なくなる.

6.

おわりに

統計検定のことはあまり知らないが,実験結果に適用 して提案手法の優位性を示したい,という技術系の読者 を想定し,ユーザの立場から「使える!統計検定」の実 用性を全面に出すことを意図して本解説講座をまとめ た.第1回と第2回[1,2]では,三つのチェックポイント でどの検定手法を選択すべきか一目瞭然でわかるように し,それぞれの手法の使い方を説明した.第3回目の本 解説では,主観評価実験データを客観的に扱うために, Scheff´eの一対比較法(中屋の変法と浦の変法)を説明 した. いずれの手法でも,Excelで計算できる程度の気楽さ で検定が使えるよう心掛けた.この連載が,読者諸氏の 研究発表の信頼性を統計検定で裏付けることにお役に立 てば幸いである. 謝 辞 本解説は数理統計学がご専門の永田靖教授(早稲田大 学創造理工学部)に監修をいただいた.御礼申し上げる. (2014年8月5日受付) 参 考 文 献 [1] 高木: 使える!統計検定・機械学習— I —2群間の有意差 検定;システム/制御/情報, Vol.58, No.8, pp.346–352 (2014) [2] 高木: 使える!統計検定・機械学習— II —3群以上の場 合の有意差検定;システム/制御/情報, Vol.58, No.10, pp. 432–438 (2014) [3] http://www.design.kyushu-u.ac.jp/˜takagi/ TAKAGI/downloadablefileJ.html

[4] H. Scheff´e: An analysis of variance for paired com-parisons; Journal of the American Statistical

Associ-ation, Vol. 47, No. 259, pp. 381–400 (1952)

[5] 浦: 一対比較実験の解析;日本科学技術連盟官能検査研 究会資料B-32, pp.1–8 (1956) [6] 浦: 一対比較実験の解析;品質管理,Vol.16, pp.78–80 (1959) [7] 芳賀: Scheff´eの方法の変形;日本科学技術連盟官能検査 研究会資料R-44, pp. 143–145 (1962) [8] 中屋: Scheff´eの一対比較法の一変法;第11回日本科学 技術連盟官能検査大会報文集, pp.1–12 (1970) [9] 日科技連官能検査委員会: 新版 官能検査ハンドブック, 日科技連出版社(1973) [10] 佐藤: 統計的官能検査法,日科技連出版社(1985) [11] 川栄(長沢監修): Excelでできる統計的官能評価法,日 科技連出版社(2008)

[12] Student: The probable error of a mean; Biometrika, Vol.6, No.1, pp.1–25 (1908) http://www.york.ac.uk/depts/maths/histstat/ student.pdf [13] http://academic.udayton.edu/gregelvers/psy216/ tables/qtab.htm [14] http://vassarstats.net/tabs.html#q [15] 永田,吉田: 統計的多重比較法の基礎,サイエンティスト 社(1997) 著 者 略 歴 たか 高 木ぎ    ひで英 ゆき行 1956年7月生. 1981年九州芸術工科大 学修士課程修了.1981~1995年松下電器 産業(株),1991~1993年UC Berkeley 客員研究員,1995年九州芸術工科大学助 教授,2003年統合により九州大学助教授, 現在九州大学教授.人間要素を取り込む計 算知能などの研究に従事.博士(工学).信学会篠原記念学術 奨励賞(1989),知能情報ファジィ学会論文賞(2003),最優秀

論文賞(KES’97, IIZUKA’98, ICOIN-15, ICGEC’12),功労

賞(スロバキア人工知能学会2002,IEEE SMC学会2003), IEEE SMC学会 Best Associate Editor賞 (2005),2009 IEEE Most Active SMC Technical Committee賞(2010),

各受賞.日本ファジィ学会理事・監事 (1999–2003),IEEE SMC学会Vice-President (2006–2009),進化計算学会理事 (2010–2012),IEEE SMC学会日本支部長(2014–2015).

参照

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