解析例が多く,高空間分解能データを用いた土地被覆分 類解析や,時系列データを用いた土地被覆変化の解析な ど,様々な解析がなされている。しかし,光学センサ データには雲被覆の影響を受けていることや昼間観測に 限られるという問題がある。そのため,観測対象時期が 限られる場合や,災害発生時のような緊急を要する事態 1 .研究の背景 リモートセンシング技術は,地球観測衛星による広い 観測範囲や過去にさかのぼった時系列データの蓄積など の利点から,土地被覆とその変化のような面的解析に適 していると言える。その多くは光学センサデータによる
橘田 悠
*・中山 裕則
**The result of land cover analysis is used not only for understanding of global environment change and weather phe-nomena but for the fundamental information on grasp of farmland planting situation and forest distribution, urban or regional planning, and various disaster prevention planning. In recent years, the land cover analysis which applied the observational data of the microwave sensor independent of the weather or day and night is attracting attention for expec-tation of the use for various investigation fields and regions. However, research tasks, such as improvement in the classifi-cation accuracy and clarificlassifi-cation of the characteristic of backscatter intensity, are shown for the appliclassifi-cation.
In this study, land cover analysis using the multi-seasonal ALOS/PALSAR of the Synthetic Aperture Radar (SAR) data was firstly carried out for the farmland of Kanto Plain central area and Sendai Plain. Next, the characteristic of the land cover classification by PALSAR data was investigated through comparison between this classification result and the land cover classification result by ALOS/AVNIR-2 data of an optical sensor, and investigation of every land cover element. Moreover, the possibility of investigation of the land cover situation and its change using PALSAR data was discussed by showing the application example of the land cover classification based on the characteristic of PALSAR data to different areas. The result of this study was summarized as follows;
1) Based on the analysis result in Kanto Plain central region and Sendai Plain, it was shown that the land cover classifica-tion by PALSAR data is effective in detailed grasp of the farmland distribuclassifica-tion depending on different soil moisture. 2) According to the analysis of the land cover classification of the farmland including the flood region by tsunami in
Sendai Plain, it was presumed that grasp of flood damage situation is possible by the land cover classification using PALSAR data.
3) It was shown that the land cover classification result which applies PALSAR data is effective in detailed grasp of land cover situation, and the classification result also showed the validity of grasp of the damage situation in a tsunami hazard area.
Keywords: ALOS/PALSAR, land cover classification, backscatter, surface condition, soil moisture
ALOS/PALSARデータを適用した農耕地および
津波災害域の土地被覆調査のための基礎的研究
―関東平野中央部と仙台平野を例として―
A Fundamental Study on the Land Cover Classification of Farm Lands and
Tsunami Damage Area by ALOS/PALSAR Data:
A Case Study of Central Kanto Plain and Sendai Plain
Haruka KITTA
*and Yasunori NAKAYAMA
**(Accepted November 14, 2012)
* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University:
3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550 Japan (Current affiliation: Mitsubishi Space Software Co. Ltd.)
** Department of Geosystem Science, College of Humanities and Sciences,
Nihon University:3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550 Japan * 日本大学大学院総合基礎科学研究科平成24年3月修了: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 (現三菱スペース・ソフトウエア株式会社 〒107-6132 東京都港区浜松町2-4-1) ** 日本大学文理学部地球システム科学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
の対応に遅れが生じるなど,利用上,解析範囲や時期の 点で制約を受ける。
これに対し,マイクロ波センサデータは天候に左右さ れることがなく,昼夜を通して観測することができる。 中でも合成開口レーダ (SAR : Synthetic Aperture Radar) データは,光学センサデータとほぼ同等の空間分解能を 持ち,その後方散乱強度には,光学センサデータでは捉 えることが困難な情報も含まれていることから,陸域の 土地被覆解析などに用いることで,光学センサデータと 同等またはそれ以上の状況あるいは現象の把握が期待さ れる。さらに,地球科学の分野では,地盤変動調査や森 林モニタリング,地質判読などの具体的な利用が進めら れている。 しかし,一方で,後方散乱のメカニズムに関しては, いまだ把握されていない点も多く,SARデータを用いた 陸域における解析の有用性は十分に示されていない。地 表面状態を捉える土地被覆解析についてもSARデータ の利用事例が必ずしも十分とは言えない。 本論では,今後,全天候型の観測に基づく,多頻度化 が考えられるSARデータを使用して,詳細な土地被覆 把握行い,その結果を自然や人為的な災害における防災 や減災,あるいはそのための都市計画に応用することを 想定して,SARデータの土地被覆分類の特性についての 基礎的な検討と,その分類結果の災害地域への初期的応 用検討の結果について述べる。 2 .合成開口(SAR)データによる土地被覆調査 2.1 SAR データの特性と地表被覆の把握 光学センサより長波長の約1cm∼10cmのマイクロ波 を利用するリモートセンシングでは,天候や昼夜を問わ ず陸域や海域を観測することができる。また,対象物か らのマイクロ波は偏波特性や後方散乱特性を持ち,これ らの情報から,光学センサでは捉えることの困難な物理 量を測ることが可能である。欠点としては,後方散乱と いう複雑なメカニズムやサイドルッキングによる画像の ゆがみや倒れこみ,そしてスペックルノイズと呼ばれる 画像上のノイズがあげられる。画像のゆがみやノイズは 補正やフィルタリングなどである程度軽減が可能である が,後方散乱のメカニズムの解明は必ずしも十分ではな く,研究が続けられている。 SARデータは環境モニタリングや防災などの様々な分 野で利用が進められている。例えば,複数時期に観測さ れた画像における後方散乱強度の変化の計測による,地 盤変動に伴う建物崩壊域の抽出 (松岡ほか,2002) や,洪 水時の氾濫域抽出 (春山ほか,2006) など,時期や地域を 問わない観測が可能であるため,災害時の被害域抽出に 関して多くの解析事例がある。また,ほぼ同一軌道の異 なる時期に観測されたSARデータによる干渉作用を用 いた軟弱地盤における地盤変動解析 (上田ほか,2010) や,地すべり性の地表変動解析 (鈴木ほか,2010) などを 例とした利用も多く,重要な情報を提供している。 2.2 SAR データを適用した土地被覆解析 SARの全天候型観測という利点と後方散乱強度の特性 は,解析時期や地域を限定しないという点や,光学セン サデータとは異なる土地被覆状況の把握の可能性という 点などの,新たな視点での土地被覆解析が期待される。 土地被覆状態によってその応答が異なるマイクロ波の 後方散乱は,一般的に,土壌に対しては表面粗度や土壌 水分に依存し,粗度が大きいほど,あるいは土壌水分が 少ないほど後方散乱強度は大きくなり,反対に,水面の ように電解質を含むため誘電率が高いものに対しては全 反射し,後方散乱強度は小さくなる傾向があると言われ ている (山口,1998)。この後方散乱強度の強弱は,衛星 画像上では濃淡で表示され,例えば,河川や水の入って いる水田は暗く映る。このような特性から,画像判読に より土地被覆状態を判断することがある程度可能であ る。また,観測する波長と後方散乱強度の間にも強い関 係がある。一般的に,短い波長のマイクロ波は物質の表 面で反射しやすく,長い波長のマイクロ波は物質内分に ある程度入り込む性質をもっている (JAXA,2012)。 しかし,マイクロ波の後方散乱のメカニズムは複雑で, 十分把握されているとは言い難く,その強度を用いた応 用についての基礎研究が多く行われている。例えば,タ イの中央平原を対象地域とした後方散乱に対する土壌水 分量の研究 (竹内ほか,1995) では,水田が複数の種類に 分類されたことや,アリゾナ州の乾季と雨季のデータを 用いた研究 (M. Susan Moranほか,2000) では,ラフネス を考慮すると,強度と土壌水分の相関は高くなることが 示された。また,多波長,多偏波を用いた地物判読の研 究 (野中ほか,2006) では,コンクリートや河川など非植 生域についても解析されており,建物の後方散乱は大き く,道路や裸地は小さいことなどが明らかにされた。 3 .本研究の目的 本研究の目的は,まず,PALSARデータを用いた土地 被覆分類を行い,その結果を光学センサデータによる土 地被覆分類結果や地形情報などと比較することで,土地 被覆の構成要素が後方散乱強度に及ぼす影響についての 基礎的な検討を行うことである。次に,地震前後の土地
5.2 対象地域 本研究では,日本国内の平野のうち,比較的広く代表 的な平野と,津波の災害を受けた平野を対象として PALSARデータによる土地被覆解析を行うため,関東平 野中央部 (45km×45km) と,仙台平野 (40km×60km) の2 地域を選定した。また,本研究で用いたALOS/ PALSARデータやAVNIR-2データなどの衛星データ, SRTM-3/DEMデータや土壌分類図などの地形データ は,それぞれの対象地域に対し,UTM座標系でそれぞ れ投影変換を行い,相互に比較可能とさせた。 5.3 使用データとその前処理 5.3.1 ALOS/PALSAR データ 本研究では土地被覆解析を行うSARデータとして PALSARデータを使用した。
PALSAR (Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar:フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ)
は2006年 1月に打ち上げられた日本国産の人工衛星
ALOS (Advanced Land Observing Satellite:陸域観測技術
衛星) に搭載されたLバンドの合成開口レーダである。 波長がX,Cバンドに比べ23.6cmと長いため,地盤や地 形解析に用いられることが多い。本研究では,年間の季 節変動を考慮して分類を行うため,同年の季節違いの データを選定した。表1 に使用したPALSARデータの一 覧を示す。PALSARデータの前処理としては,まずフォー マット変換を行い,キャリブレーションとしてレベル1.5 のデジタル値を校正係数-83.0 (JAXA,2010) を用いてデ シベル値へ変換し,平滑化フィルタによるノイズ低減な どを行った。図2 と図 3 にそれぞれ関東平野中央部と仙 被覆解析に基づく,津波による浸水被害後の被災地域の 調査へ適用することで,PALSARデータによる土地被覆 分類の特性を生かした災害域の把握への応用利用の有効 性を検討し,SARデータを用いた土地被覆解析の利用に ついて議論を行うことである。 4 .類似研究と本研究の新規性 SARデータを用いた土地被覆解析に関する研究とし ては,分類手法を検討したものや,異なる偏波や波長, および観測時期のSARデータを組み合わせた解析など 様 々 な 観 点 か ら 行 わ れ て い る。 例 え ば, 時 系 列SAR データを用いた土地被覆分類の研究 (中山ほか,1995) では,水田や畑地においてその利用と状態についての分 類精度の向上が示され,森林地帯の種別分類では,波長 の比較的短い (24∼37.5mm) Xバンドが有効であるとさ れている (Leland E. Pierceほか,1998)。また,光学セ ンサデータとSARデータを統合することで土地被覆分 類の精度を向上させた研究 (S. ERASMIほか,2009) も ある。しかし,既存の類似研究は農地や森林,都市域な ど土地利用項目が少なく,かつ一様な地域への適用が多 い。その上,光学センサデータによる土地被覆分類以上 の精度の結果は示されてはいないことから,SARデータ を用いた土地被覆分類の明確な有効性は十分に示されて いないと考えられる。 以上のような類似研究の課題に基づき,本研究では2 つの新規性に着目した。第一は,季節の異なるLバンド のSARデータを組み合わせ,複数の地域において,後 方散乱強度に基づく土地被覆分類を行い,その結果と光 学センサデータによる土地被覆分類の結果を比較するこ とで,SARデータの土地被覆分類の基礎的検討を行い, SARデータによる土地被覆分類の特徴を検討することで ある。第二は,上記の検討結果をもとに,津波による災 害発生地域へSARデータの土地被覆分類を適用させた 解析事例を示すことである。 5 .研究方法 5.1 研究方法の概要 本研究ではまず,関東平野中央部と宮城県の仙台平野 を対象地域に,農耕地の土地被覆分類を行い,その土地 被覆分類結果と光学センサデータによる土地被覆分類結 果や地形,地質情報を比較することで,PALSARデータ による土地被覆分類の特性の検討を行った。さらに,津 波被害を受けた仙台平野において土地被覆解析を行い, 浸水被害域の状況把握などを含めた総合的な検討を行っ た。本研究の概要を図1 に示す。 PALSAR データによる土地被覆分類 PALSAR データの土地被覆解析 の有効性の検討 SAR データによる土地被覆解析 の総合的な検討 仙台平野における土地被覆調査 土地被覆分類特性についての基礎的研究 土地被覆調査への応用 PALSAR データの土地被覆分類特性 の検討 図1 本研究の概要
5.3.2 ALOS/AVNIR-2 データ
本研究では,SARデータの分類精度との比較や季節変 化の少ない市街地や住宅地,河川,道路などをあらかじ め抽出するため,光学センサのAVNIR-2 (Advanced Vis-ible and Near Infrared Radiometer type 2:高性能可視近
赤外放射計2 型) データを用いた。土地被覆解析の際に は,PALSARの観測年に近く,季節の異なるシーンを選 定 し た。 表2 に 使 用 し たAVNIR-2デ ー タ の 一 覧 を 示 す。また,図4 と図 5 に関東平野中央部と仙台平野の AVNIR-2季節違い合成カラー画像をそれぞれ示す。 台 平 野 の 季 節 違 い のPALSARデータ (いずれもHH偏 波) による合成カラー画像を示す。 表1 使用したPALSARデータの一覧 対象地域 観測日 関東中央部 2008年 2 月28日 2008年 5 月30日 2008年 7 月15日 2008年10月15日 2008年11月30日 仙台平野 2010年 4 月21日 2010年 6 月 6 日 2010年10月22日 2011年 3 月16日 図2 関東平野中央部の季節違いのPALSARデータの 合成カラー画像 (R,G,B:2月HH,5月HH,7月HH) 図3 仙台平野の季節違いのPALSARデータの 合成カラー画像 (R,G,B:4月HH,6月HH,10月HH) 表2 使用したAVNIR-2データの一覧 対象地域 観測日 関東中央部 2008年11月26日 2009年 4 月13日 仙台平野 2006年 5 月21日 2008年10月16日 2011年 3 月14日 図4 関東平野中央部のAVNIR-2季節違い 合成カラー画像 (R,G,B:4月の可視域赤,11月の近赤外,4月の可視域緑) 図5 仙台平野のAVNIR-2季節違い合成カラー画像 (R,G,B:5月の可視域赤,10月の近赤外域,5月の可視域緑) 0 5 10km 0 5 10km 0 5 10km 0 5 10km
分類項目は,あらかじめ既存の土地利用図やAVNIR-2 データで抽出を行い,PALSARデータに対してマスク処 理を施した。そして,AVNIR-2データによる土地被覆分 類画像とマスク処理されたPALSARデータによる土地被 覆分類画像を組み合わせることで,最終的な土地被覆分 類結果とした。本研究のPALSARデータによる土地被覆 分類の流れを図6 に示す。 5.4.2 土地被覆分類項目の設定 本研究では,対象地域によって土地被覆状況が異なる ことから,対象地域ごとに分類項目を設定した。PAL-SARデータは,対象物の物理量を観測しているので,草 地や森林などの植生では,それらの分布構造によって分 類されることが多く,草木の丈や,葉の形,幹の構造に よって分類された事例 (M. Craigほか,1995) もある。 本研究では,対象地域ごとに既存の土地利用情報を参 照した土地被覆変化の判読結果と,後方散乱強度の分布 を参照して分類を行った結果によると,既存の土地利用 図やAVNIR-2データに比べてPALSARデータの分類結果 が必ずしも一致しなかったことから,AVNIR-2データと は異なる土地被覆分類項目を設定した。表3 に対象地域 ごとのPALSARとAVNIR-2の分類データ間の設定分類項 目の対応一覧を示す。 5.5 土地被覆分類特性の評価検討方法 土地被覆分類結果の精度検討の一つとして,PALSAR データによる土地被覆分類結果とAVNIR-2データによ る土地被覆分類結果の比較を行った。本研究では,定量 的な比較検討のため,双方の画素間の一致率を求めた。 5.3.3 比較データ 本研究では,比較データとして,行政機関や研究機関 によって公開されている土壌分類図,地形分類図,土地 利用図などを用いた。各対象地域における比較データの 概要を以下に示す。 (1)関東平野中央部 土地利用情報として用いた土壌分類図や地形分類図 は,埼玉県よりインターネット上で公開されている報告 書より取得し,デジタルデータに変換し,それぞれ用い た。埼玉県では国土と県土を有効に利用し,開発,保全 することを目的に土地分類基本調査を昭和37年以来18 年間にわたって行ってきた。この調査に関する報告書は 埼玉県を7地域に分割し,人口や主要産業の概要,防災 図など10項目以上の各論でまとめられている (埼玉県, 2011)。 (2)仙台平野 国土交通省が国土調査結果をホームページ上で公開し ており,本研究ではその中から東北地域の土壌分類図 (1/500,000土地分類基本調査 (土壌図) 「東北」, 1966) を 用いた。国土調査は,国土調査法 (昭和26年法律第180 号),国土調査促進特別措置法 (昭和37年法律第143号) 等に基づき,昭和27年より実施されているものであり, 国土の実態を科学的かつ総合的に調査することにより, 国土を高度にかつ合理的に利用するための基礎データを 整備し,明確化することを目的としている (国土交通 省,2011)。また,地震後の標高データとして,平成23年 5月∼6 月に国土地理院が航空レーザ測量により計測し た標高データを使用して作成した地震後のデジタル標高 地形図(国土交通省,2012)を用いた。 5.4 土地被覆分類方法 5.4.1 PALSAR データによる土地被覆分類方法 本研究では,実際の土地被覆状況が最も安定して分類 され,多くの適用事例がある最尤法を適用した。光学セ ンサデータは画像判読によって,森林や農地を見分ける ことができるが,SARデータについては,後方散乱強度 の情報に様々なパラメータが関わっているため,判読の みでは,正確なトレーニングエリアを抽出することは難 しい。そこで,季節違いのPALSAR合成カラー画像の判 読および,そのデータに対するクラスタリング処理の結 果を参考に,トレーニングエリアの選定を行い,最尤法 による土地被覆分類を行った。 本研究では,季節の組み合わせが土地被覆分類におよ ぼす影響の検討を行うため,農耕地のみを土地被覆分類 の対象とし,建物用地や河川のような季節変化の少ない データ 土地利用図 農耕地のみの データ画像作成 カラー合成画像判読 クラスタリング処理 トレーニングエリア選定 最尤法による土地被覆分類 組み合わせによる 土地被覆分類画像の作成 多時期 データ 図6 PALSARデータによる土地被覆分類の流れ
して,分類項目数を合わせたPALSAR土地被覆分類画像 を用いた。その比較結果として,PALSAR土地被覆分類 結果とAVNIR-2土地被覆分類結果の画素間の一致率を 表4 に示す。この結果には,未分類には市街地と住宅 地,大型施設,河川が含まれている。分類項目ごとの一 致率をみると,荒地の一致率が低く,水田や畑地,草地 への異なった分類が示された。本研究における荒地は植 生の有無によって定義したが,LバンドのPALSARデー タは波長が長いため,草地や畑地に多い背の低い植生は 透過する可能性が高く,荒地との区別がつきにくかった ことが画素間の一致率の低い原因であると考えられた。 本研究における画素間の一致率とは,同じ位置の画素値 が一致するか否かを判定し,全体の画素数に対する一致 した画素数の割合を指す。また,全体の平均一致率だけ でなく,分類項目ごとに一致率を算出することもできる ので,詳細な分類特性を検討することができる。 6 .関東平野中央部における PALSAR データの土地 被覆分類特性 6.1 PALSAR データと AVNIR-2 データの土地被覆分類 結果の比較分析 本論では,以下,PALSARデータによる土地被覆分類 結果を「PALSAR土地被覆分類結果」,AVNIR-2データ による土地被覆分類結果を「AVNIR-2土地被覆分類結 果」と呼ぶ。図7 にPALSAR土地被覆分類カラー画像 を,図8 にAVNIR-2土地被覆分類カラー画像をそれぞ れ示す。 季節違いPALSAR合成カラー画像判読とクラスタリン グ処理結果を参照し,土地被覆分類を行ったところ,表 3のような9クラスに分類された。AVNIR-2土地被覆分 類結果と比較する際には,9クラスから5クラスへ統合 表3 PALSARとAVNIR-2の分類データ間の 分類項目の対応一覧 対象地域 PALSAR AVNIR-2 関東中央部 水田1 水田 水田2 水田3 畑地1 畑地 畑地2 荒地 荒地 草地1 草地 草地2 森林 森林 未分類 未分類 仙台平野 (地震前) 農地1 水田 農地2 畑地 農地3 荒地 草地 森林 未分類 未分類 仙台平野 (地震後) 浸水被害域1 浸水被害域 浸水被害域2 浸水被害域3 未分類 未分類 図7 関東平野中央部のPALSAR土地被覆分類カラー画像 図8 関東平野中央部のAVNIR-2土地被覆分類カラー画像
り,比較的土壌が乾燥した水田であることが推察され た。水田3 は,他に比べ排水状態の異なる灰色低地土壌 や黒ボク土壌,グライ土壌が主に分布し,7月に後方散 乱強度が最も大きくなる特徴を持っていた。 次に,図12と図13に畑地 1 と畑地 2 それぞれの後方 散乱係数の月別分布のグラフを示す。また,図14に台 地における畑地の分布画像と,低地における畑地の分布 カラー画像を示す。後方散乱係数の月別分布と地形分布 状態を比較すると,畑地1 は畑地 2 と比べて後方散乱強 度分布が年間を通して大きく,かつ低地に分布する。一 方,畑地2は台地に多く分布していた。 これらのことから,PALSAR土地被覆分類結果は, AVNIR-2土地被覆分類結果と,約 6 割の一致という結果 が示され,これには,水田や草地などという土地利用状 態だけでなく,他の土地被覆構成要素との関連が示唆さ れた。 6.1節のPALSAR土地被覆分類結果とAVNIR-2土地被 覆分類結果の画素間の一致率の比較結果を受け,9 クラ スに細分化された分類結果と地形分類図や土壌分類図, 後方散乱係数の月別分布のグラフとを比較し,土地被覆 分類結果に反映される土地被覆構成要素についての分析 を行った。 まず,3 つに分類されたそれぞれの水田内において, 土壌の種類別に面積比率を算出した。図9∼図11に水 田1∼水田 3 の後方散乱係数分布の月別変化とそれぞれ の水田内の土壌種類別面積比率のグラフを示す。解析範 囲の土壌は成帯内性土壌型と非成帯内性土壌型に分類さ れる。成帯内性土壌型は,母岩の影響を強く受けた岩石 土壌型と,水の影響を強く受けた地下水土壌型から成 る。一方,非成帯内性土壌型では,褐色低地土壌と灰色 低地土壌が分布している (株式会社クボタ,1976)。本解 析範囲では,岩石土壌型の黒ボク土壌と泥炭土壌,泥炭 土壌の腐植化が進行した黒泥土壌が,地下水土壌型のグ ライ土壌が分布している。それぞれの項目を見ると,水 田1は排水不良状態であり,湿地に多く分布すると考え られる泥炭土壌や黒泥土壌,また比較的排水不良な灰色 低地土壌とグライ土壌が全体の7 割を占めており,後方 散乱強度分布も5 時期を通して低いことから,水の入っ た水田や,湿った土壌から成る水田であると推察され た。水田2 はその他の土壌分布が卓越しており,また後 方散乱係数の月別分布が5 時期を通して 3 つの水田の中 で最も高い。2011年 9月に現地調査を行ったところ,水 田2 に分類された地域には,この時期,草が生えている 水田や,畑として使用されている水田が多かった。これ らのことから,水田2 は他の水田とは利用形態も異な 表4 PALSAR土地被覆分類結果とAVNIR-2土地被覆分類 結果の画素間一致率 PALSAR土地被覆分類 (%) 未分類 水田 畑地 荒地 草地 森林 未分類 100 0 0 0 0 0 水田 0 50 21.4 4.1 17 7.6 畑地 0 17.8 24.9 3.2 34.1 20 荒地 0 22.3 31.1 9.7 26.5 10.5 草地 0 12.1 30.8 3.7 28.7 24.6 森林 0 9.8 22.1 0.1 14.7 53.4 全体平均 66.2 図9 水田1 のPALSAR後方散乱係数の月別分布 図10 水田2 のPALSAR後方散乱係数の月別分布 図11 水田3 のPALSAR後方散乱係数の月別分布 V N IR -2 地 被 覆 分 類
方散乱強度は対象物の背が高いほど大きくなるので,畑 地1 と畑地 2 で推察されたような背丈の異なる農作物の 作付け状況の違いが後方散乱強度分布の違いに影響した ものと考えられる。このように,畑地の分類結果から, 分布している地形や農作物の作付け状況の違いが分類に 反映される特性がみられた。 図15にPALSAR土地被覆分類結果による草地 1 と草 地2 の分布カラー画像を示す。草地 1 がほぼ一様に分布 しているのに対して,草地2 は河川沿いに多く分布して いることから,草地も土壌の状態を反映して分類された ものと推察できる。 以上のことから,PALSARデータへの適用では,土壌 の状態や農作物の作付け状況の違いによって同種類の農 耕地が細分化されるという結果が示された。 7.仙台平野における PALSAR データの土地被覆分類 特性 7.1 PALSAR データと AVNIR-2 データの土地被覆分類 結果の比較分析 図16と図17それぞれに地震前である2010年のPALSAR および2006年と2008年のデータを統合したAVNIR-2土 地被覆分類カラー画像を示す。第6 章において関東平野 中央部の農耕地でのPALSAR土地被覆分類結果の有効性 が示されたことから,仙台平野においても,PALSAR データによる土地被覆変化解析の対象は農地に限定し た。建物用地や河川および海,森林,荒地はあらかじめ 6.2 土地被覆分類結果に反映される土地被覆構成要素 と分類特性の検討 さらに,後方散乱強度分布の違いと作付け状況を比較 した。図14の低地における畑地の分布画像に示した黄 色の丸の地域には,畑地2 が多く分布しており,ここは 所沢市内に含まれる。統計によれば,所沢市の総作付面 積約480haに対して,約 9 割を茶畑とほうれん草が占め る (農水省,2011)。図14の台地における畑地の分布画像 に示した青い丸の地域には畑地1 が多く分布しており, さいたま市に含まれる。統計によれば,この地域にはぶ どう,なし,栗などの果樹園が多い (農水省,2011)。後 図12 畑地1 のPALSAR後方散乱係数の月別分布 図13 畑地2 のPALSAR後方散乱係数の月別分布 図14 関東平野中央部の台地内(左)と低地内(右)の 畑地の分布カラー画像 図15 関東平野中央部の草地1 と草地 2 の 分布カラー画像
研究所,2012),本解析範囲の仙台平野付近にも湿性土壌 が多く分布している。関東中央部でも分布が見られた黒 ボク土壌や泥炭土壌の他に,仙台平野では,黄色土壌や 砂丘未熟土壌,褐色森林土壌も分布していた。 PALSAR土地被覆分類結果で,3 クラスに細分化され た農地 (表 3) と土壌分布の比較を行った。ここで,比 較のため,土壌の排水状態に基づき,泥炭土壌・グライ 土壌・灰色低地土壌をまとめて排水不良土壌とし,褐色 低地土壌・砂丘未熟土壌を排水良好土壌とし,2 つのグ ループに分けて比較を行った。図18に細分化されて分 類された農地の分布カラー画像を,また,図19にそれ らの後方散乱係数の月別分布のグラフを示す。農地1 は,グライ土壌と灰色低地土壌,泥炭土壌が大半を占 め,排水不良土壌が多く分布する農地であることが示さ れた。農地2 は砂丘未熟土壌や褐色低地土壌など排水が 比較的良好で,農地1 に分布する土壌より乾燥している と考えられる農地であると推察された。農地3 には,排 水不良な土壌や良好な土壌の両方が分布していた。この 領域は後方散乱強度分布が農地1 と農地 2 の中間の値を AVNIR-2データにより抽出し,PALSARデータにマスク 処理を施した。その後,4月,6月,10月のPALSAR季節 違い合成カラー画像とそのデータのクラスタリング処理 結果の画像判読をもとに農耕地の土地被覆分類を行った 結果,水田や畑地を含む農地が3 クラス(農地 1∼農地 3 とする)に細分化された。農地 1∼農地 3 の分布状態 については次節で検討する。 7.2 土地被覆分類結果に反映される土地被覆構成要素 と分類特性の検討 宮城県内の全耕地は148,000haで,湿性土壌が多く, 泥炭土壌や黒泥炭土壌,グライ土壌が約5 割を占める。 特に低地土壌では85%が湿性土壌であり (農業環境技術 図16 仙台平野の地震前のPALSAR土地被覆分類カラー画像 図17 仙台平野の地震前のAVNIR-2土地被覆分類カラー画像 図18 仙台平野の農地1(左)、農地 2(中央)、農地 3(右)に おける土壌の分布カラー画像 図19 仙台平野における細分化された農地の 後方散乱係数分布の月別変化
結果と比較すると,浸水被害域が3 クラスに細分化され ている。 8.2 変化抽出地域区分と津波被害との関係 図22に図20内に桃色の枠で示した範囲の地震後の PALSAR土地被覆分類カラー画像の拡大図と,平成23年 5月∼6月に国土地理院が航空レーザ測量により計測し た標高データを使用して作成した地震後のデジタル標高 地形図を示す。浸水被害域1に分類された地域は,標高 0m∼1mの地域に主に分布していることが判読できた。 浸水被害域2 に分類された地域は標高 2m∼3m,浸水 被害域3 に分類された地域は標高3m∼4mの地域に分布 しており,3 つの分類には標高差がみられた。このこと から,PALSAR土地被覆分類によって,分類された被害 域には,地震発生に伴う地盤変動により生じたと考えら れる標高差による浸水の程度が反映されたと考えられ た。これは,PALSARデータによって地震前の農耕地が 土壌の排水状態よって分類された結果や,地震後の津波 による浸水被害域の違いをPALSARデータが捕らえたこ となどに起因すると推察され,土地被覆状況の把握の可 能性が示された。 9.SAR データの土地被覆分類と災害被害域抽出に 関するまとめ 本研究では,国内の代表的な平野である関東平野中央 部と仙台平野の農耕地において行ったPALSAR土地被覆 分類結果は,AVNIR-2土地被覆分類結果とは異なる分類 状況が示され,両地域において,農耕地が複数のクラス に細分化され,それらは土壌水分の状態や作付けを反映 示していることから,排水状態が異なる土壌が混在して いることが考えられた。以上のことから,地震前の仙台 平野の結果でも,PALSAR土地被覆分類結果により,土 壌水分の状態の異なる農地の把握が可能であることが示 された。 8.PALSAR データによる津波被害による土地被覆変 化抽出への適用の可能性 8.1 津波被害域の変化抽出結果 図20と図21に地震後のPALSARおよびAVNIR-2土地 被覆分類カラー画像を示す。地震後のPALSAR土地被覆 分類結果は,地震前のPALSAR土地被覆分類結果と異な るパターンを示した。地震後のAVNIR-2土地被覆分類 図20 仙台平野の地震後のPALSAR土地被覆分類カラー画像 図21 仙台平野の地震後のAVNIR-2土地被覆分類カラー画像 図22 地震後の PALSAR 土地被覆分類結果拡大カラー画像 (左)と地震後のデジタル標高地形図 (国土地理院, 2011を加工)(右)
とめる。 (1) PALSARデータによる土地被覆解析は,平野のよう な起伏の少ない地形において,水田地帯のような土壌水 分量の多い地域の土地被覆状況把握に有効であると考え られた。 (2) SARデータを用いた土地被覆解析によって,土壌の 分布を反映した農地の把握と浸水被害状態の把握が可能 であることが示された。また,SARデータによる土地被 覆解析により,津波のような災害発生時のような緊急時 に,その被害把握などの調査ができることが示された。 (3)観測時の天候や土壌の状態などを反映しやすいSAR データと光学センサデータを比較する際には,同時期に 観測されたデータを用い検証を行うことでより詳しい関 係の調査が可能であると考えられた。 謝辞 本 研 究 で 使 用 し たALOSデータは日本大学文理学部と JAXAとのALOSデータ利用公募型共同研究に基づき提供を 受けたものであり,謝意を表します。 していることが示された。また,津波による浸水被害を 受けた仙台平野における浸水被害後の土地被覆分類結果 では,地震による標高差に伴う,浸水の程度も土地被覆 分類結果に反映されることが推察された。以上の結果か ら,PALSAR土地被覆分類結果では,土壌水分の状態が 異なる農耕地の分布把握をすることができ,また浸水被 害域の把握が可能であるという有効性も示された。 また,本研究では,季節や観測年月日が比較的近い PALSARデータとAVNIR-2データを選定したが,中には 数ヶ月や数年以上の間隔があった地域もあった。土地被 覆分類結果だけの比較解析ならば,多少の時期の違いは 誤差の範囲内であると言える。 10.結論 本研究では,PALSARデータによる土地被覆解析の特 性の基礎的検討をまず行い,その結果に基づき,適用事 例解析を行って,土地利用計画や災害時への利用につい ての有効性について議論した。本研究の結論を以下にま 上田麻礼,中山裕則,冨山信弘,山之口勤,ZHENG Xiang-min, ZHOU Limin: D-InSAR解析による軟弱地盤の都市域 における地盤変動解析―東京および上海を例として―, 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,No.46, pp.241-253,2011. 株式会社クボタ:土壌,アーバンクボタ,No.13,pp.20-28, 1976. 国土交通省:土地・水資源局国土調査課,http://tochi.mlit. go.jp/tockok/index.htm,閲覧日2011年12月27日. 国土地理院:平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に関 する情報提供, http://www.gsi.go.jp/kikaku/kikaku60003. html,閲覧日2012年 3月1日. 埼 玉 県: 土 地 分 類 調 査 報 告 書,http://www.pref.saitama.lg. jp/page/908-20091221-280.html, 閲 覧 日2011年10月15 日. 鈴木 啓,雨貝知美,森下 遊,佐藤 浩,小荒井衛,関口 辰夫:山形月山地区におけるSAR干渉画像を用いた地 すべり性地表変動の検出,国土地理院時報,No.120, pp.1-7,2010. 竹 内 章 司,SUWANWERAKAMTRON: 同 時 取 得 のSARと TMデータを用いたSAR後方散乱に対する土地被覆状況 の 影 響 の 解 析, 写 真 測 量 と リ モ ー ト セ ン シ ン グ, Vol.34,No.5,pp.45-48,1995. 農 業 環 境 技 術 研 究 所: 土 壌 情 報 閲 覧 シ ス テ ム,http:// agrimesh.dc.affrc.go.jp/soil_db/explain_outline.phtml, 閲覧日2011年12月26日. 野中崇志,笹川 正,浦塚清峰,梅原俊彦,佐竹 誠,灘井 章嗣,松岡建志,中村和樹,森山敏文:航空機搭載合成 開口レーダ(Pi-SAR)の多周波/多偏波データを利用した 地物判読,第28回技術発表会論文特集,pp.17-27,2006. 中山裕則,渡辺真紀子,大島淳一,磯部邦昭,木村 宏,田 引用文献 中總太郎,稲永麻子:SARおよびOPSによる土地被覆 判別に関する研究,FINAL REPORT OF JERS-1/ERS-1 SYSTEM VERIFICATION PROGRAM, Vol2, pp.454-463, 1995. 農林水産省:わがマチ・わがムラ―市町村の姿―,http:// www.machimura.maff.go.jp/machi/map2/11/215/agriculture. html,閲覧日2011年11月7日. 春山成子,志田 健:JERS-1 SAR 画像解析によるメコンデ ルタの洪水リスク評価,Journal of Geography, 115 (1), pp.72-86,2006. 松岡昌志,山崎文雄:人工衛星SAR強度画像を用いた被害 地域検出手法の最近の地震への適用とその妥当性の検 討,日本建築学会構造系論文集,No.558,pp.139-147, 2002. 山口 靖:地質への応用,「合成開口レーダ (SAR) の基礎か ら最新技術まで」講習会,日本リモートセンシング研究 会東京,pp.1-13,1998.
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