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生徒理解を深める心理・適応6尺度の構成

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Academic year: 2021

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(2017年3月31日受理)

抄     録

 教育現場で教師は様々な問題と向き合っている。教育問題の解決には生徒理解が不可欠であるが,色々な事情からそ れがうまくいかないことも多い。そうした状況を改善するために,本研究では生徒理解を補助することを目的とした「生 徒理解を深める心理・適応6尺度」を構成した。127名の中学生を対象に,各尺度15項目をランダムに並べた質問紙を用い,

4件法で回答を求めた。6尺度ごとに項目を集め,主因子法で因子分析し,第1因子に負荷の高い順に10項目を選んで 尺度とし,再び主因子法で因子分析を行った。6尺度の内容は,生徒のおおまかな心理傾向を測るものとして①「内的 自己確立」・④「他者・社会定位」,生徒の適応状況を測るものとして③「家庭適応」・⑤「クラス・仲間適応」・⑥「学 校・教師適応」,生徒の心理的な負荷を測るものとして②「ストレス」の各尺度である。

Ⅰ.問 題 と 目 的

1.問題の所在

 教育現場には,常に課題が山積しており,教師は様々 な問題と向き合っている。その中には,解決困難なもの もあり,悩みを抱えている教師は多い。

 教育問題と言われるものには,いじめ,不登校,非行,

校内暴力,学級崩壊,学業不振,学力低下といったもの があり,いずれも早急に解消しなければならないもので ある。

 こうした問題が発生する背景には,教師と生徒との関 係性や,生徒同士の関係性,家庭環境といった要因が複 雑に絡んでおり,原因を特定し,これを取り除くことは 容易なことではない。

 ただし,いずれの問題に関しても,トラブルが発生し,

またその解決がうまくいかないとき,その大きな要因と して考えられるものがある。それが,生徒理解の欠如で Key words:教育問題,生徒理解,心理傾向,適応,ストレス

ある。

 教師による生徒への理解が十分でないと,問題行動の 予兆を見逃してしまったり,問題が顕在化した後の対応 を誤ってしまったりする。また,そうした対応のまずさ が,さらなる問題の深刻化につながり,解決困難な段階 にまで進んでしまうこともある。

 生徒を理解することは,ただ彼らの学業成績を把握す るということではない。教科ごとの得意不得意を知り,

どの程度の学力レベルに達しているかを知ることも,教 育を行う上で必要なことではある。

 だが,それだけで生徒を十分に理解できたとするのは 無理があるし,実際にそれで教育問題が解消するわけで もない。

 学校教育に求められるのは,単に知識や技術を教える ことだけではない。一人の人間として,人格の完成を目 指して心身ともに成長することが最大の目的である。

 知識や技術の習得とは,そのための手段であって目的

生徒理解を深める心理・適応6尺度の構成

The Construction of Psychological and Adaptive Scales to Deepen Understanding Students

清重 友輝

  西本 素江

**

 福森  護

Mamoru Fukumori Motoe Nishimoto

Yuki Kiyoshige

ひびきのさと人間精神学研究所  **徳島市城西中学校

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そのものではない。当然,教師から生徒への働きかけも,

技術的なことだけでなく,精神的な面にも及ぶことにな る。

 そして,成長の過程とは平坦なものではなく,いくつ もの山や谷があるのが普通である。特に,精神的な面で は,発達途上にある段階では不安定で,不規則なものに なりがちである。

 生徒を理解するということは,そうした不安定な部分 も含めて,彼らの内面への理解を深め,生徒それぞれが もつ固有の性質や特徴,傾向といったものを把握するこ とである。端的に言えば,生徒の心の在り方を知るとい うことである。

 このような,生徒の心への理解を深めるためには,教 師と生徒との間での密接なコミュニケーションが欠かせ ない。しかし,現状ではいくつかの要因から,それが困 難になりつつある。

 たとえば30年前と比べても,教師に対する管理は厳し くなり,より多くの雑務に追われるようになっている。

その結果,生徒とじっくり話し合うような時間がとれず,

コミュニケーションの機会自体が減ってしまっている。

 また,多忙のあまり,教師自身からも精神的な余裕が なくなり,生徒に対する管理を強めたり,逆に放任した りするといったことも起こっている。

 当然,こうした状況が教師と生徒の関係によい影響を 与えることはない。相互理解の機会は失われ,関係性は 希薄になり,信頼関係も芽生えなくなってしまう。

 この状態が続くことは,教師にとっても生徒にとって も望ましいことではない。これを改善するには,教師の 勤務内容の見直しなど,抜本的なシステムの変革も必要 になってくる。

 とはいえ,それは教師個人の力でできることではない し,またすぐに実現できるようなものでもない。そして,

システム面の改善が必要だからといって,それをただ待 つというわけにもいかない。現実に,教師の前には生徒 がおり,生徒は教師の援助を必要としているからである。

 生徒とのコミュニケーションの機会が減少していると しても,それを生徒理解が欠如していることの免罪符と することはできない。限られた条件の中で,最善の道を 探さなければならない。それが,教師自身の仕事を円滑 に進めることにもつながる。

 それでは,具体的にはどういった対策をとるべきであ るのか。決して多いとはいえない時間の中で,生徒への 理解を深めるには,個々の教師の観察眼に頼るだけでな く,生徒の心を映し出し,それを浮き彫りにするような ものが必要になる。

 生徒の心が,現在どういった状態にあり,どのような 傾向を示しているのか。注意するべきなのはどこで,ど ういった部分に問題を抱えているのか。これらを明らか にすることができれば,生徒に対する理解を格段に増す ことができる。そして,これを可能とすることを目指し て構成するのが,「生徒理解を深める心理・適応6尺度」

である。

2.目指す検査の概要

(1)検査の目的

 検査の目的は,生徒への理解を深め,教育活動を補助 することにある。

 そして,現場の教師にとって,必要性が高く,かつ緊 急性が高いのは,やはり生徒に何らかのトラブルが生じ ている場合,それをいかに早い段階で掴むかということ である。

 生徒に人間的な成長を促すことが教育の目的である が,それも生徒が良好な状態を保ってこそ,遂行するこ とができる。

 何かしらの問題を抱えており,落ち着きを無くした状 態の生徒に対し,通常どおりの教育活動を行うことは難 しい。まずは,生徒に何が起きているのかを把握し,問 題の解消や沈静化を試みることが先決である。

そのためには,それぞれの生徒がもつ特有の性質や特 徴,そして抱えている問題を浮き彫りにすることが必要 となる。

 それでは,何を基点にすれば,それらを見つけること ができるのか。

 尺度構成の重要なポイントとして,3つの要素を挙げ ることができる。一つは,生徒のおおまかな心理傾向。

二つに,適応。三つめが,ストレスである。

 こうした考えに基づき,生徒のおおまかな心理傾向に 関連するものとして,第Ⅰ尺度「内的自己確立」と第Ⅳ 尺度「他者・社会定位」を構成する。適応に関連するも のとして,第Ⅲ尺度「家庭適応」,第Ⅴ尺度「クラス・

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仲間適応」,第Ⅵ尺度「学校・教師適応」を構成し,ス トレスに関連するものとして,第Ⅱ尺度「ストレス」を 構成する。

(2)構成を目指す尺度の解説 1) おおまかな心理傾向

 構成を目指す6尺度について,3つの要素ごとに解説 を行う。

 まず,生徒のおおまかな心理傾向であるが,これはそ の生徒の心が,概ねどういった方向に向けられているか を捉えることを目的としている。

 教師が生徒に対して抱くイメージは,明るい,やさし い,大人しい,物静か,活発,暗い,怒りっぽい,わが まま,自分勝手といったような,特徴を漠然と捉えたも のであることが多い。これらも一種の心理傾向といえる が,内容が曖昧にすぎるために,現実的な問題対応には 役立たないことがほとんどである。

 怒りっぽい,自分勝手といったネガティブなイメージ を抱いたとして,それが生徒のどういった心理状態から 生まれているのか。これを明らかにしなければ,問題へ の対応には結びつかない。

 ただ特徴を漠然と捉えただけでは,生徒の内面を捉え たことにはならない。大人しいと思っていた生徒が,急 に暴れ出すといったことがあるように,表面的な特徴と 内的な性質は必ずしも一致しないからである。

 誤解や偏見を避けるには,生徒の内面を評価するため の客観的な基準を設ける必要がある。この基準として,

生徒の心理を捉える上で有効と考えられるのが,中塚

(1994)の唱える自己・他己双対理論に基づく「内的自 己確立」と「他者・社会定位」という二つの傾向を軸に した評価基準である。

 「内的自己確立」とは,自分というものを尊重し,自 己主張や自己追求を図ることで,独立した一人の存在と しての「自己」を確立していこうとする心の方向性を表 している。その性質を簡潔に示すなら,自分へと向けら れた心,あるいは自分に閉じた心ということができる。

 これに対し,「他者・社会定位」とは,他者との関係 性を尊重し,他者を求め,社会的なつながりを欲する心 の方向性を表している。その性質を簡潔に示すなら,他 者へと向けられた心,あるいは他者に開かれた心という

ことができる。

 重要なのは,この二つの傾向は相反する性質をもつと いう点と,そうでありながらも個々別々に動くのではな く,連動して作用するという点である。

 自分というものを確立しようとする心と,他者とのつ ながりを求めようとする心とは,同じ方向性をもつもの ではない。両者は明確に対立的な関係にある。ただし,

そうした関係にありながらも,両者はそれぞれがバラバ ラに作用するのではなく,互いに影響を与え合いながら 連動して働いている。この結果,何が起こるかといえば,

この2つの傾向の間には,一方の力が強まれば,もう一 方の力は弱まるという関係が生じることになる。

 内的自己確立の傾向が強まり,自己主張や自己追求を しようとする方向に心が向かえば,その分だけ他者を求 め,他者とのつながりを尊重しようとする傾向は弱まる ことになる。

 逆に,他者・社会定位の傾向が強まり,他者を尊重 し,社会的なつながりを求めようとする方向に心が向か えば,その分だけ自分を主張し,追求していこうとする 傾向は弱まることになる。

 両者の関係はシーソーのような状態にあり,常に揺れ 動いている。この動きを捉えることが,生徒の心理状態 を理解する上で大きな意味をもつことになる。

 自己追求的な傾向が強いのか。それとも他者との関係 性を重視する傾向が強いのか。両者の力関係がどういっ た状態にあるかが,その人のおおまかな心理傾向を形成 する。そして,それが人柄や性格といったものの基礎と なり,あらゆる行動に反映されることになる。

 この2つの傾向を軸にして,生徒の内面を評価するこ とで,より具体的な判断を行うことができる。たとえ ば,表面的には大人しく物静かに見える生徒も,その心 理傾向が内的自己確立の側によっているか,それとも他 者・社会定位の側によっているかで,実態は大きく異なっ てくる。前者であれば,本当は自分をもっと主張してい きたいのに,それをうまく表に出せていないというネガ ティブな部分が見えてくるし,後者であれば,他者との 関係性を尊重することを望んでおり,それが控えめな自 己主張につながっているというポジティブな見方をする ことができる。

 一つ注意しなければならないのは,内的自己確立と他

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者・社会定位は,どちらかだけがあればよいといったも のではなく,両者ともに欠かすことができないという点 である。

 人が生きていく上では,自分というものを追求し,確 立していくことも重要であるし,他者との関係性を尊重 し,社会に定位していくことも重要である。どちらが欠 けても,問題が生じることになる。したがって,両者を バランスよく保持することが大事になってくるし,それ が心理的な安定にもつながることになる。

 だが,内的自己確立と他者・社会定位とは,相反する 関係にあり,どちらかの傾向が強まれば,もう一方の側 は弱まってしまう。内面の傾向に偏りが生じること自体 は,誰にでも起こりえることであるが,偏りが大きくな りすぎると多くの問題が生じることになる。

 内的自己確立の側に大きく偏りを見せた場合,他者と の関係性を尊重しようとする傾向がかなり弱体化するこ とになる。この結果,自分を主張しようとする面だけが 肥大化し,エゴイスティックな部分が前面に現れること になる。他者への思いやりや配慮に欠け,身勝手な行動 が目立ち,攻撃的な言動が増加するようになる。何事も 自分本位な捉え方をして,他者の言うことに耳を貸さな くなる。他者に対する配慮を欠いた自己主張や自己追求 は,自分を確立する手段というよりも,ただ自己中心的 なふるまいでしかなくなってしまう。

 これとは逆に,他者・社会定位の側に大きく偏った場 合は,自分というものを尊重し,追求していこうとする 傾向が弱体化することになる。この結果,主体性や積極 性といったものが失われ,自分から進んで行動するとい うことがなくなってしまう。自分の意見や主張を表に出 せず,他者の言うことにそのまま従うといったことが起 こる。選択や決断を迫られる場面でも,他者の動向に大 きく左右され,状況に流されることが多くなる。自分を うまく確立できていない状態での他者への定位は,過剰 な依存となることもあるので注意が必要となる。

 内的自己確立と他者・社会定位は,どちらも必要なも のであるが,一方の側に偏りすぎれば,マイナス面が強 く出てしまう。重要なのは,両者がバランスのよい状態 にあることで,これを維持できているとき,生徒の心は 最も安定した状態にあるといえる。

2) 適応

 次に「適応」について。生徒に限らず,人が生活して いく上では多くの人と関係をもつことになる。家庭の中 では家族との関係性があり,学校や職場では級友や同僚,

上司らとの関係性があり,親しい間柄にある人とは,友 人としての関係性がある。そうした様々な他者との関係 性の中で,人はうまく適応し,順応しようと努めること になる。

 自分を取り巻く環境にうまく適応することができてい れば,心理的にも安定した状態を保ちやすい。逆に,周 囲の環境に対して不適応を起こしていると,不安定な状 態に陥りやすくなる。

 適応するということは,ただ自分を周囲に合わせるだ けではない。他者との関係がより親密なものとなること で,お互いに強く影響を受けあうようになる。それは,

決して一方的な関係ではない。適応している対象が何で あるかによって,自分自身の心理的な傾向や状態にも変 化が出てくる。

 何かに対してよく適応するということは,そこに自分 の軸足をおくということでもある。相手を受け入れ,自 分も相手から受け入られることで,安心感や充実感を得 ることができる。そのことが,心理的に安定した状態を 保つことにもつながる。その人が何に対して適応してい るかを知ることは,その人が何によって自分を支えてい るかを知ることに他ならない。

 また,心理的に不安定な状態にあるような場合には,

何に対して不適応を起こしているかを確認することで,

動揺の原因を推測することもできる。

 これらの点から見て,生徒への理解を進めていく上で 適応の状況を把握することは重要になると考えられる。

 それでは具体的には何を対象として適応状況を見るべ きであるのか。学校教育という場に限定すれば,生徒が 適応する対象も自然と限られたものとなる。特に重要な ものを選別するなら,「家庭適応」,「クラス・仲間適応」,

「学校・教師適応」の3つに絞ることができる。検査では,

この3つを適応に関する尺度として取り上げる。

 「家庭適応」は,生徒が家庭の中でうまく適応できて いるかを測るもので,家族との関係性がどういった状態 にあるかを把握することが目的となる。

 家族は,他者との関係の中でも,最も基本的で,最も

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距離の近いものである。多くの場合,それは自分を支え る上で重要な基点となり,活動の基盤となっている。

 また,関係性が緊密であるだけに,互いに影響を与え 合うことが多く,家族とのつながりは性格や人柄の形成 にも大きな役割を果たしている。生徒理解を深める上で,

生徒と家族との関係性がどういった状態にあるかを把握 しておくことは非常に重要といえる。

 家庭に対してうまく適応できていないような場合,ど うしても心理的に不安定な状態になりやすい。特に,ま だ精神的な自立が十分でなく,家庭への依存度が大きい 段階ではその傾向が強くなる。

 これとは逆に,家庭に対してうまく適応できていても,

よく問題行動を起こすというケースもある。これは,家 庭(主に両親)の側に何らかの問題がある場合に起こる。

 家庭によく適応しているということは,それだけ家族 との結びつきが強く,影響を受けやすくなるということ でもある。親だからといって,必ずしも精神的に成熟し ているとは限らない。人柄や性格に大きな偏りが見られ ることもある。そうした場合,家族間の結びつきが強け れば,子どもは親の影響を強く受けることで,子ども自 身の性格形成に問題が生じることになる。家庭適応がよ いからといって,それが常によい方向に働くとは限らな いので,この点は注意しておかなければならない。

 次に「クラス・仲間適応」について。学校では,いく つかのクラスに分かれて,その中で級友とともに長い時 間を過ごすことになる。また,クラブ活動などではクラ ス以外の仲間と行動をともにして,関係を深めていくこ とになる。

 クラスやクラブの中に,親しい友人がおり,良好な関 係を保つことができていれば,クラスや仲間によく適応 しているということができる。互いに信頼しあい,心を 許すことができる友人を得ることは,大きな喜びである し,心強くもある。クラスの中にそうした友人がたくさ んいれば,居心地の良さを感じ,安心感を得ることがで きる。それは,心理的な安定を保つ上で大きな力になる。

 逆に,親しい友人がいなかったり,交友関係にトラブ ルを抱えているような状態では,疎外感や孤独感を強く 感じ,心理的に不安定な状態になりやすい。

 中学校くらいになると,生徒の心理傾向にも変化が見 られ,自分というものを主張し,確立していこうとする

傾向が強くなってくる(例外もあるが)。第二次反抗期 とも言われるこの時期は,精神的な自立が進む時期でも ある。子どもとして扱われることを嫌がり,より対等な 関係を望むようになるので,家族よりも友人との関係を 優先するといったことも増えてくる。友人との関係がよ り大きなウェートを占めるようになるわけで,それだけ に,ここで不適応が起こるとトラブルにつながりやすい。

見守る側も注意しておく必要がある。

 三つめに「学校・教師適応」について。生徒が学校に 通う期間は長く,日々の生活の中でも学校で過ごす時間 が占める割合は大きい。そのぶんだけ,学校という場に 適応することができているかどうかは,生徒の心理状態 に大きな影響を及ぼすことになる。

 生徒が自分の学校生活に満足感を感じ,学校に行くこ とを肯定的に捉えていれば,その生徒は学校生活によく 適応しているということができる。勉強やクラブ活動,

学校行事を行うことにやりがいを感じ,学校で過ごす時 間に自分なりの意味を見出す。そうしたことができる生 徒は,心理的にも安定した状態を保つことができている。

 注意しなければならないのは,学校生活を充実したも のとすることは,生徒だけの力で行うようなものではな く,教師からの適切なサポートが必要になるという点で ある。

 学校教育を受ける生徒は,まだ発達の途上にあり,自 分というものが十分に定まっていない。心理的にも繊細 な部分が目立ち,脆さや危うさも持っている。そうした 生徒を支え,補助するのは教師の役目となる。

 いざというときに頼るべき相手がいることは,大きな 安心感をもたらすものである。自分を理解してくれてい ると感じられる人は信頼することができるし,そうした 相手には気軽に相談したり,悩みを打ち明けることもで きる。生徒が安定した心理状態を保つ上では,そうした サポートを得ることが重要になる。

 生徒にとって教師がよき理解者であるのなら,学校生 活を送る上で大きな支えを得ることになる。それによっ て,より円滑に学校生活を送ることができるし,満足度 の高い活動を行うことができるようになる。生徒が学校 生活に適応する上で,教師のサポートは重要であり,教 師と生徒の関係性がどういったものであるかが,学校適 応の鍵を握るということができる。

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3) ストレス

 最後に「ストレス」について。ストレスとは,警告反 応と訳される医学,生物学用語であるが,一般的には,

精神的・肉体的に負担となる刺激や状況のことをいう。

 ストレスの原因はストレッサーと呼ばれ,刺激の種類 から物理的(寒暑,騒音など),生物的(炎症,感染,

過労など),化学的(薬物など),心理的(精神的苦痛)

の4つに分類されることが多い。この中で,生徒の問題 行動と直接的に関わるのは心理的ストレスであり,本研 究でのストレス尺度もこれを測るものとなる。

 心理的なストレスが高い状態になると,苛立ちや焦燥 感にかられ,攻撃的な振る舞いが増えたり,逆に気分が 沈み込み,何もする気が起きなくなったりする。強い疲 労感や倦怠感をおぼえ,頭痛や吐き気など体調を崩すこ ともある。当然,こうした状態が続けばより大きな問題 に発展する可能性が高くなる。

 ストレスの高低を測ることは,トラブルの有無を判断 する上で有益となる。ストレスが高い生徒は,何かしら のトラブルを抱えていることが予想されるし,ストレス が低い生徒には,現状では大きな問題がないと見ること ができる。

 心理的なストレスの高さは,行動に反映されることが 多いので把握しやすい面があるが,それでも行動観察だ けで全てを察知するのは難しい。内に大きなストレスを 抱えていても,それを表に出さず辛抱するような生徒も いる。そうした場合,よほど注意深く見ていないと,見 落としてしまう可能性がある。こうした事態を避ける上 でも,検査で生徒のストレスを測ることは重要になる。

 以上に見たように,おおまかな心理傾向,適応,スト レスという3つの要素を軸に,生徒の内面に対する理解 を深めるための6尺度を構成する。この3つの要素を適 切に測ることで,生徒が抱える問題や注意すべき点につ いて,かなりの程度明らかにすることができると考える。

Ⅱ.方     法

1.調査対象

 尺度構成の対象とした生徒は,四国のA県の公立中学 校二年生127名(男子70名,女子57名)である。

2.質問紙の作成と実施

 目指す検査の概要に従い,生徒の心理傾向を測るため の基礎項目を作り,そこに現職教員の視点を取り入れる ことで生徒や学校の実態に即した内容とし,また中学生 にも理解しやすい表現になるよう留意して,「生徒理解 を深める心理・適応6尺度」の質問項目を作成した。

 質問項目は,各尺度15項目ずつの合計90とし,これを ランダムに並べて質問紙とした。

 回答方法は,「はい」と「いいえ」に二分し,前者は「大 体あてはまる」,「少しあてはまる」とし,後者は「あま りあてはまらない」,「ほとんどあてはまらない」の4件 法で求めた。

 この質問紙を上記調査対象に,2015年7月に,集団で 実施した。

3.分析方法

 90の質問項目について,「ほとんどあてはまらない」

には1点を与え,順次1点ずつ上げて数値化することで

(したがって,「大体あてはまる」には4点を与えること になる),それぞれ得点化する。逆転項目は,それに配 慮して集計した。

 6尺度ごとに項目を集め,主因子法で因子分析し,第 1因子に負荷の高い順に10項目を選んで尺度とし,再び 主因子法で因子分析する。なお,共通性の測定値は,い ずれもSMCを用いる。次いで,その尺度の信頼性を示す α係数を求める。

Ⅲ.結     果

 結果は表1に示す通りである。選択された10項目を因 子分析した結果の第1因子負荷と,全ての因子の固有値,

およびα係数を示した。

Ⅳ.考     察

1.データの解釈に関する検討

 今回の結果から,構成した「生徒理解を深める心理・

適応6尺度」が,いずれの尺度においても測定内容が明 確であり,高い信頼性をもつことが示された。

 これを踏まえて,ここでは構成した6尺度から得られ

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たデータをどう解釈するかという点について検討を行 う。

 まず,「内的自己確立」と「他者・社会定位」という 2つの傾向を基準として生徒の内面を評価する場合,い くつかのパターンに分けることができる。

 最もよいのは,①内的自己確立と他者・社会定位がと もに高いレベルにあり,両者のバランスがよいケースで ある。最も多く見られるのは,②内的自己確立と他者・

社会定位のどちらかの側に偏りが見られるケース。注意 すべきなのは,③どちらか一方の傾向に大きな偏りが見

られ,もう一方の傾向が著しく低いようなケース。両者 の傾向に見られる差が大きいほど,その生徒は不安定な 状態にある可能性が高くなる。もう一つ注意すべきなの が,④内的自己確立と他者・社会定位のどちらも低いレ ベルにあるケース。こちらの場合は,心理的な発達が未 熟で,自分というものの軸がまだ十分にできていないこ とを示している。このケースでは,実年齢よりもかなり 幼い言動が目立ったり,自分の意見や主張がなく,かと いって他者を尊重するでもなく,人の意見にわけもなく 追従するといった態度がよく見られる。

表1 「生徒理解」の尺度構成結果

第Ⅰ尺度「内的自己確立」

№ 項     目 F1

1 状況や他人の意見にあまり流されないほうである。 .556

2 自分なりの考えや意見を持っている。 .361

3 自分の個性や能力を伸ばすように努めている。 .600

4 周りの人に左右されない心の強さをもっている。 .448

5 自分に自信を持っている。 .528

6 人と対立したとき,自分の意見を尊重するほうである。 .474

7 自分が正しいと思うことは,どこまでも主張するほうである。 .542

8 間違いに気づいても,意見を変えられない。 .509

9 自分には何かやるべき目標がある。 .632

10 自分がよいと思うことは反対されてもやり通す。 .486

寄与    2.693   1.188   0.425   0.188   0.057   α=0.787

第Ⅱ尺度「ストレス」

№ 項     目 F1

1 よくイライラする。 .614

2 腹が立つことが多い。 .651

3 吐き気をもようし,ムカムカすることがある。 .469

4 わけもなく悲しくなることがある。 .542

5 よく「疲れた」と感じる。 .510

6 世の中がなんとなく怖(こわ)い。 .514

7 常々,楽しみより苦しみの方が多いと感じている。 .703

8 頭が痛くなることがある。 .505

9 なにもかも嫌だと思う。 .758

10 気持ちが沈んでいる。 .741

寄与    3.712   0.855   0.300   0.134   0.074   α=0.845

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 こうしたパターンによる分け方は,あくまでも生徒の 内面をおおまかに捉えるためのものであって,これだけ で生徒の心のすべてがわかるというわけではない。

 しかし,明確な基準をもたず,ただ漠然としたイメー ジだけで評価することに比べれば,はるかに生徒への理 解を深めることができる。それぞれの生徒がもつ固有の 性質や特徴を捉える上で,内的自己確立と他者・社会定 位という2つの傾向を軸にした見方は,非常に有効な評 価基準になると考えられる。

 次に適応に関する3つの尺度について。何かに適応す るということは,自分を支えるものを選ぶということで もある。支えが多いにこしたことはないが,すべてに適

応していなければ問題というわけでもない。重要なのは,

安定した状態を維持できるだけの確固たる地盤があるか という点である。たくさんの薄っぺらな関係をもつより は,強固な結びつきを一つ得ることの方が,心理的な安 定につながりやすい。

 3つの尺度の数値が全て低く,何に対しても適応でき ていない状態は,誰に対しても心を開くことができず,

大きな不安を抱えていると見ることができる。これは,

かなり危険な状態といえる。

 また,他者とのつながりを得ることは,よいことばか りをもたらすわけではない。他者に心を開くことは,そ れだけ相手からの影響を強く受けることでもある。接す 第Ⅲ尺度「家庭適応」

№ 項     目 F1

1 家での居心地は良い方だと思う。 .701

2 自分の家族は,お互いをよく理解し合い,満足している。 .756

3 家族にとって自分は大切な存在である。 .825

4 父母はあなたのことが好きだと思う。 .827

5 父母はあなたを信頼していると思う。 .776

6 あなたと一緒にいて父母は幸せだと思う。 .869

7 父母をだれよりも信頼している。 .794

8 父母と一緒にいて幸せだと感じる。 .825

9 父母が好きである。 .779

10 父母に何でも話せる。 .644

寄与    6.117   0.727   0.245   0.166   0.025   α=0.937

第Ⅳ尺度「他者・社会定位」

№ 項     目 F1

1 嬉しいことがあると,つい人に話してしまう。 .655

2 一人でできないことは誰かの援助を求めたいと思う。 .475

3 悩み事があるとすぐ親しい人にうち明ける。 .574

4 分からないことやできないことは,誰か人に教えてもらう方である。 .633 5 つらい気持ちや不安なことがあると,必ず誰かに相談する。 .660

6 何かをするときは他の人と一緒にしたいと思う。 .544

7 多くの人の意見には従いたいと思う。 .539

8 自分の意見よりも人の意見を尊重するほうである。 .664

9 人の笑顔に接すると,自分も嬉しくなる。 .459

10 叱られると,いつまでも気にしてしまう。 .555

寄与    3.367   0.565   0.478   0.201        α=0.825

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る相手がよい人ばかりであればよいが,実際にはそんな ことはあり得ない。悪い影響を受けることもでてくる。

 したがって,適応という観点から生徒が抱える問題を 理解しようとする際には,うまく適応できているかとい うことだけを見るのではなく,適応している対象がどう いった性質や傾向をもっているかについても留意する必 要がある。

 次に「ストレス」尺度についてであるが,注意しなけ ればならないのは,ストレスの高低を測ることは,トラ ブルの有無を判断する上では有益であるが,生徒理解と いう点では,それだけでは不十分ということである。

 ストレスが高い生徒は,何かしらの問題を抱えている

ことは容易に察することができる。重要なのは,その問 題が何に起因しているかを把握することである。

 ストレスが高いことがわかっても,その原因がわから なければ,有効な対処をとることはできない。原因の特 定まで含めて理解を進めることで,はじめてストレスの 高低を測る意味が出てくる。

 このとき,重要となるのが,他の尺度との関連である。

特に,適応に関する尺度と組み合わせて,両者の結果を 比較し検討することで,ストレスの要因をかなり限定す ることができる。

 強い心理的ストレスとは,多くは対人関係の中で生じ るものである。そして,対人関係のトラブルは適応の状 第Ⅴ尺度「クラス・仲間適応」(○は逆転項目)

№ 項     目 F1

1 学級内や学校内におしゃべりや遊びに誘ってくれる友人がいる。 .492

2 自分の本音や悩みを,話し合える友人がいる。 .787

3 友だちとのつきあいは自分の成長にとって大切であるので大事にしている。 .614

4 友だちと一緒にいると楽しい。 .700

5 友だちとはだいたい意見が合う。 .634

6 友だちは私のことならだいたい知っている。 .628

7 友だちの考えていることはだいたい分かる。 .538

8 友だちのことを大切にしている。 .714

9 クラスの誰とでも話をすることができる。 .427

10 友だちとの関係に不満がある。 .502

寄与    3.759   0.583   0.299   0.171   0.001   α=0.835

第Ⅵ尺度「学校・教師適応」(○は逆転項目)

№ 項     目 F1

1 学校内に自分の悩みを相談できる先生がいる。 .460

2 先生方はクラブ・授業・相談などで,よく生徒を指導していると思う。 .527

3 学校の勉強に,自分から進んで取り組んでいる。 .233

4 先生は自分のことをかなりよく理解していると思う。 .665

5 学校生活に,充実感や満足感を覚え,喜びを感じている。 .796

6 この学校の先生に親しみを感じる。 .610

7 この学校の先生に対して不満がある。 .466

8 この学校の生徒であることを誇りに思う。 .592

9 学校に行きたくないと思うことがある。 .502

10 学校へ登校することが楽しみだ。 .625

寄与    3.203   1.063   0.442   0.319      α=0.798

(10)

況を見ることで,ある程度予測することができる。家庭,

クラス・仲間,学校・教師のどこかに不適応を示す数値 があれば,その場における対人関係に問題が生じている と見ることができるし,それがストレスの原因になって いると考えることができる。また,どこにも適応してい ないような場合は,他者とのつながりがないこと自体が,

大きなストレスになっていると見ることができる。

 これに加えて,心理的なストレスの感じ方には,個人 差があるという点にも留意する必要がある。同じような 状況,同じような条件になったとしても,感じるストレ スが皆同じになるわけではない。より強くストレスを感 じる人もいれば,それほど感じない人もいる。こうした 違いが出る要因はいくつかあるが,その一つに心理的に 安定した状態を普段から保つことができているかという ことがある。

 心理的に安定した状態を日頃から保つことができてい れば,ストレスを感じる状況におかれたとしても,ある 程度耐えることができる。自分の中で不安や焦りをうま く処理することで,落ち着きを取り戻し,ストレスを軽 減することができる。逆に,いつでも心理的に不安定な 状態にあるような場合は,本来はそれほど気にならない 些細なことに対しても,強い苛立ちを感じたり動揺した りする。何をするにしても不安を感じることが多く,そ れがストレスの高さに結びついてしまう。

 ストレスが高い状態だと,心理的に不安定になるのは 当然のことであるが,この2つの関係は一方的なもので はない。心理的な脆さや弱さが,ストレスに対する耐性 を弱めてしまうこともあるので,この点を見落としては ならない。

 心理的に安定しているかどうかは,ストレスへの耐性 に大きく関係する。そして,心理的な安定度を見る上で,

一つの重要な指標となるのが,内的自己確立と他者・社 会定位のバランスである。

 両者がバランスのよい状態にあれば,心理的に安定し た状態を保ちやすくなり,バランスの悪い状態にあれば,

心理的に不安定な状態に陥りやすくなる。生徒の心理的 ストレスを検討する上では,こうしたストレスに対する 耐性という観点から,内的な傾向の偏り方についても考 慮する必要がある。

 以上に見たように,生徒の感じているストレスの高さ

と,他の尺度との関連性を検討することで,生徒の内面 に関する多くの知見を得ることができる。これらは,生 徒への理解を深めていく上でも,また,生徒が内に抱え る問題を発見する上でも,大いに役立つと考えられる。

2.再検査の結果と今後の課題

 構成した「生徒理解を深める心理・適応6尺度」を,

2016年7月に同じ調査対象に再検査を行ったところ,表2 に示す結果が得られた。これにより,この検査が高い信 頼性をもつことが改めて確認された。

 今後は,内田クレペリン検査や学力テストとの関連性 や,生徒指導上問題のある生徒の結果について調査を行 い,検査の妥当性について検討を行う必要があると考え る。

参 考 文 献

中塚善次郎 (1994) 人間精神学序説 -自他統合の哲 学的心理学の構築とその応用-.風間書房.

表2 再検査信頼性結果 第Ⅰ尺度

「内的自己確立」

第Ⅱ尺度

「ストレス」

第Ⅲ尺度

「家庭適応」

0.689 0.760 0.753 第Ⅳ尺度

「他者・社会定位」

第Ⅴ尺度

「クラス・仲間適応」

第Ⅵ尺度

「学校・教師適応」

0.719 0.672 0.747

参照

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