自閉症・情緒障害のある児童生徒の理解
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自閉症とは
自閉症とは,①他人との社会的関係の形成の困難さ,②言葉の発達の遅れ,③興 味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする発達の障害です。その特徴 は,3歳くらいまでに現れることが多いですが,小学生年代まで問題が顕在しない こともあります。中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されてい ます。 3つの基本的な障害特性に加えて,感覚知覚の過敏性や鈍感性,刺激の過剰選択 性,知能テストの項目に著しいアンバランスが見られることがあります。 自閉症教育の対象は,発達障害に包括される障害である自閉症及びそれに類する ものにより,言語発達の遅れや対人関係の形成が困難であるため,社会的適応が困 難である状態の児童生徒です。2
情緒障害とは
情緒障害とは,状況に合わない感情・気分が持続し,不適切な行動が引き起こさ れ,それらを自分の意思ではコントロールできないことが持続し,学校生活や社会 生活に適応できなくなる状態を言います。 心理面で感情や気分の変化は,一般に,どの人にも起こることですが,多くは一 過性であり,すぐに消滅するので,問題にされることはほとんどありません。しか し,それが何度も繰り返されたり,激しく現れたりするなどして,社会的な不適応 状態を来す場合があります。そのような状態にある児童生徒については,特別な教 育的対応が必要となる場合があります。 情緒障害の現れ方としては,自分でも何が原因か,何に自分がこだわっているの かにも気付かず,外出しない状態が長期化することで,閉じこもるような傾向が強 くなったり,適切な対人関係が形成できなかったりする一方で,他人を攻撃したり, 破壊的であったりするような行動も見られます。さらに,多動,常同行動,チック などとして現れる場合もあります。 情緒障害教育の対象は,その障害により,社会的適応が困難となり,学校などで 集団活動や学習活動に支障のある行動上の問題を有する児童生徒であり,主として 心理的な要因の関与が大きいとされている社会的適応が困難である様々な状態を総 称するもので,選択性かん黙,不登校,その他の状態(重症型のチックで薬物療法 の効果が見られない事例など)の児童生徒です。自閉症・情緒障害特別支援学級の対象者である児童生徒の障害の程度は, 自閉症・情緒障害者 1 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成が 困難である程度のもの 2 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので,社会生活への 適応が困難である程度のもの (平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知) と示されています。 通級による指導(自閉症)の対象者である児童生徒の障害の程度は, 自閉症 自閉症又はそれに類するもので,通常の学級で学習におおむね参加でき,一 部特別な指導を必要とする程度のもの (平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知) と示されています。 通級による指導(情緒障害)の対象者である児童生徒の障害の程度は, 情緒障害者 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので,通常の学級で学 習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とする程度のもの (平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知) と示されています。
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自閉症・情緒障害の状態の把握
自閉症・情緒障害の状態の把握に当たっては,行動上の諸問題及びそれに関係す る生育歴,医療歴,生育環境,家庭や学校における生活の状態,集団参加や学習の 状態,知的機能の状態などを把握する必要があります。把握する方法には,保護者 や担任等関係者からの聞き取り,行動観察及び諸検査の実施などがあります。 (1)身辺の自立の問題 身辺の処理に関しては,食事,排せつ,衣服の着脱などについての手順や方法 を身に付けている程度を把握することが判断の資料となります。 (2)集団参加の状態 集団参加の評価の方法としては,直接的な行動観察が適切です。 (3)知能機能の状態 知能機能の程度を評価するには,知能検査の効果的な利用が必要です。しかし, 自閉症は,一般に,新しい場面への適応が困難であることが多いため,最初の検 査だけで妥当性のある結果を得ることはほとんど不可能です。そのため,ほかの 発達検査等を適切に組み合わせるなどして知能機能を明らかにすることが大切で す。また,検査等に加えて,更に行動観察などを同時に行い,自閉症のある児童 生徒の知的発達の程度や,言語面,社会・対人面,運動面などや,障害特性につ いての情報を総合的に集めて実態把握を行うことが大切です。 (4)学力 自閉症等については,特定の事柄への深い興味によって,一部の教科の成績が 特に高いことがありますが,通常の学級における授業に参加できる学力を有する かどうか調査する必要があります。4
自閉症・情緒障害のある児童生徒の障害の状態
(1)自閉症のある児童生徒の障害の状態 医学的には,自閉症は,現在の状態に加えて,乳幼児期からの発達経過の状態 を踏まえて診断されます。また,以下のような行動が見られることが多いことも 特徴の一つです。 ア 対人関係 視線が合わない,名前を呼んでも振り向かない,人を意識して行動すること や人に働きかけることが見られないなど,人への関わりや人からの働きかけに 対する反応の乏しさが幼児期に見られます。 イ 感覚刺激への特異な反応 ある種の刺激に特異的に興味を示す反面,別の刺激には,極端な恐怖を示す ことがあります。また,種々の感覚を同時に処理することが不得手だといわれます。 ウ 食生活の偏り 極端な偏食があり,ほんの数種類の食物以外は他一切食べないという状態が 何年も続くことがあります。偏食については,低年齢段階によく見られますが, 成長とともに改善されることも多いです。 エ 自傷等 混乱,欲求不満,脅威等に対して,自傷等の行動をとることがあります。自 傷については,頭や顔を自分で殴打する,壁に打ち付ける,あるいは指をかむ などの行動ですが,激しい場合は負傷することもあるので軽視はできません。 行動の理由は推察できない場合もありますが,周囲の対応がその行動を強化し ている場合もあります。 オ 多動 自閉症の児童生徒の多くは,幼児期には多動と見なされる行動が見られます。 行動の予測がつかない,規制などの対応がしにくい,危険を回避する機能が十 分に働いていないという側面が多いからです。特に,集団行動においては,そ うした行動が目立ちますが,多動性は,加齢に伴い,また適切な教育により改 善することが多く見られます。 (2)情緒障害のある児童生徒の障害の状態 主として心理的な要因による情緒障害のある児童生徒の場合,具体的に以下の ような状態が生じることが多く見られます。 ○食事の問題(拒食,過食,異食など) ○学業不振 ○睡眠の問題 ○不登校 (不眠,不規則な睡眠習慣など) ○反社会的傾向 ○排せつの問題(夜尿,失禁など) (虚言癖,粗暴行為,攻撃傾向など) ○性的問題 ○非行(怠学,窃盗,暴走行為など) (性への関心や対象の問題など) ○情緒不安定 ○神経性習癖 (多動,興奮傾向,かんしゃく癖など) (チック,髪いじり,爪かみなど) ○選択性かん黙 ○対人関係の問題 ○無気力 (引っ込み思案,孤立,不人気,いじ めなど) ア 選択性かん黙 選択性かん黙とは,一般に,発声器官等に明らかな器質的・機能的な障害はな
いが,心理的な要因により,特定の状況(例えば,家族や慣れた人以外の人に対 して,あるいは家庭の外など)で音声や言葉を出せず,学業等に支障がある状態 をいいます。 イ 不登校 要因は様々ですが,情緒障害教育の対象としての不登校は,心理的,情緒的理 由により,登校できず家に閉じこもっていたり,家を出ても登校できなかったり する状態をいいます。 ウ その他の情緒障害 偏食,夜尿,指しゃぶり,爪かみなど様々な状態は,多くの人々が示すことで すが,そのことによって集団生活への適応が困難である場合,情緒障害教育の対 象となることがあります。 なお,広義の情緒障害に含まれている非行は,従来,情緒障害教育の対象とな っていないことに留意する必要があります。