序 論
博 士 ( 理 学 ) 二 浦 和 紀
学位論文題名
NN/IR Study of Intramolecular Dimer Antifreeze Protein RD3
(分子内二量体不凍夕ンパク質RD3 のNMR 法による構造解析)
学位論文内容の要旨
不 凍 夕 ン バ ク 質 (Antifreeze Protein、AFP) は、 南極 など の寒 冷水 域に 生息 する 魚類の血漿中に存在するタンバク質である。このタンパク質は、0℃以下の温度で血漿中に 生成する氷結晶と結びっき、その結晶成長を妨げ、血漿の凝固点を下げる機能(不凍機能)
を 持っ てい る。 氷の結 晶成 長は 、1気圧 下で 通常生 成す る氷結晶(六方晶系)の主にプリ ズ ム面 に垂 直な 方向に 向か って すす むこ とが 知ら れて いる。提唱されているAFPの不凍機 能 モデ ルに よれ ば、AFPは 氷結 晶の プリ ズム 面に結 合し 、この面の結晶成長を阻害すると さ れて いる 。そ の結果 、氷 結晶 は六 角す いを2っあ わせ たようなバイピラミッド型の結晶 を 形成 する 。こ の結晶 成長 阻害と、凝固点を著しく降下させる活性との関係は次のように 説 明さ れる 。AFPの結 合し てい る隙 間の 結晶 表面は 凸状 になって安定する。この凸状表面 の 化学 ポテ ンシ ャルは 、そ の曲率に比例する(ケルビン効果)。この凸状表面にさらに水 分 子が 結合 する ための ェネ ルギーコストは、通常の氷の成長する場合に比べ大きいため、
凝 固 点 が 降 下 す る の であ る 。 魚 類 のAFPは こ れ ま でに 、TypeIか らTypeIVの4つ の タ イ プ が発 見さ れて いる。 我々 は、その中でも低濃度で凝固点を効果的に下げる能カを有して いるRD3と名付けられているAFPに注目した。
近 年 新 規 のAFPで あ るRD3が 単 離 さ れ た 。RD3は 、 南 極 ゲ ン ゲ ( りcodichth ys dearbo rnめ の 血 液 か ら 単 離 さ れ たType IIIに 属 するAFPで あ る 。RD3は 、64残 基 と61 残 基か らな る2つ のド メイ ンか ら構 成さ れ、 各々は 既知 のType III AFPと高い相同性を有 し てい る。2つの ドメ イン は9残 基か らな る連 結部 位に より 結ば れて いる 。この よう な分 子 内 二 量 体 を 形 成 し て い るAFPは、RD3が 唯一 の例 であ る。 本研 究に おい ては多 次元NMR 法により、RD3の水溶液中での立体構造解析を行った。また、その運動性を調べるために、
is N‑NMR緩 和時 間解析 を行 った 。さ らに 、RD3の特 徴的 な活性発現様式と、得られた立体 構造解析の関係を議論する。
実 験 方 法 及 び 結 果
大 腸 菌 大 量 発 現 系 お よ び 各 種 ク 口 マ ト グ ラ フ イ ー を 用 い て、 高 純 度 のRD3を 約 100 mg得 た 。 多 次 元NMR実 験に 必要 な安 定同 位体15N及 び13 C/15Nラ ベル 化試料 をそ れ ぞ れ 約15 mg得 た 。 こ れら の試 料を 用い て、 凝固点 測定 、顕 徴鏡 観察 、及 び各 種NMR実 験を 行っ た。
凝固 点 測 定 は 、 不 凍活 性の 測定 で標 準的 に使 われ てい る浸 透圧 計を 用いる 方法 で 行っ た。 比較の ため にRD3のNドメ イン と連 結部 位を 含むRD3ーNI、 およ びり ゾチームも
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測 定し た。 リゾ チーム の凝 固点はモル凝固点降下に従って濃度に対し直線的に変化するの に 対し 、RD3およ びRD 3‑NIの場 合、 低濃 度域 で大 きく 増大 し、 高濃 度域 で飽和 に達 する と いう 結果 を示 した。 この 性質 は他 のAFPで も共通 して 観測されるもので、確かに我々の 用 意し たサ ンプ ルが不 凍活 性を 有し てい るこ とが 確か めら れた 。ま た、RD3とRD 3‑NIを 比 較し た場 合、 高濃度 域で の飽和した凝固点はほとんど変わらないのに対し、低濃度域で の 活性 増加 の度 合いがRD3のほうが大きく、同一濃度では最大6倍以上の活性を発現した。
顕 微 鏡 観 察 は 凝 固 点 測 定 に 用 い た も の と 同 じ 試料 を 用 い て 行 っ た 。RD3の 場合 、 0.4 mM以下 の濃 度では 、顕 微鏡で観察できる大きさのバイピラミッド型の結晶は観察され な かっ た。 これ らの濃 度で 観察 でき た結 晶は 針状 結晶 で、これはAFP溶液をその凝固点以 下まで温度を下げたときに、全体が凍るときに観察される形状である。これに対し、0.5 mM 以 上の 濃度 では 、パイ ピラ ミッド型の結晶が観測された。ここで観察された形状は、単量 体のAFPが高濃度で存在するときにみられる形状であった。
NMR実 験 は 、 非 ラ ベ ル 化 お よ び 安 定 同 位 体 ラ ベ ル 化 試 料 を 用 い てNMR試 料 溶 液 を 調製 し、 構造 解析に 必要 な各 種多 次元 実験 を行 った 。NMR実験は、氷に作用する温度域 に 近 い4℃ で 行 っ た 。NMR分 光 計 と し てJEOL JN M‑A5 00、 お よ びVARIAN UNITY‑500 を 使 用 し 、 プ ロ ト ン の 共 鳴 周 波 数500 MHzで 行 っ た 。NMRデー タの 処理 とス ペク トル の 帰 属は 、ワ ーク ステー ショ ン上 で、NM RPipeおよ びPIPPプ ログ ラム を用 いて行 った 。立 体 構 造 計 算 に 用 い る 構 造 情 報 に は 、NOE1507個 、 水 素 結 合40個、2面体 角¢80個 を用 い た 。 こ れ ら の 情 報 を 満 足 す る 立 体 構 造 を 、X‑ PLOR 3.851プ 口 グ ラ ム のDistan ce geomet ry/simulated an nealingプ口トコルを用いて計算した。合計40個の収束した構造を 得 た。Nドメ イン 、Cド メイ ン、 連結 部位 の主 鎖のRM SDは、 それ ぞれ0.65、0.61、 およ び1.07Aで あ っ た 。 得 られ たRD3の ニ つ の ド ヌ イ ン の立 体 構 造 は 、 そ れ ぞ れX線 およ び NMR法 で 決 定 さ れ た 他 のAFP Type IIIと 非 常 に よ く 似 た 構 造 で あ っ た 。RD3の2つの ド メ イン を結 ぶ連 結部位 は大 きく 湾曲 した 構造 を持 って いることが示された。2つのドヌイ ン の空 間的 な位 置の関 係は 、通 常の 二量 体夕 ンパ ク質 でよく見られる、2回軸を持った位 置ではなく、並進の位置に配置していることが明らかになった。
連 結 部 位 の 運 動 性 を 調 べ る た め に 、 安 定 同 位 体15Nで ラ ベ ル さ れ て い る ア ミド 基 のNMR緩 和時 間 を 測 定 し 、 残 基ご との 運動 性の 解析を 行っ た。 緩和 時間 の解 析に は、 モ デルフリー解析によりOrder parameter (S2)および運動の相関時間を算出した。連結部位の 運動性がNドメインより高いことが示された。
考 察
RD3の ニ つ の ド メ イ ン の 相 対 位 置 は 、 並 進 の 関 係 に あ る こ とが 示 さ れ た 。こ のこ と は、 氷と 結合す る活 性面 の相 補的 な厳 密性を変化させることなく、結合面の面積を2倍 に増加させることを可能にしている。このドメイン間の位置関係のため、単量体のType III AFPの場 合バ イピ ラミ ッド 結晶 を形 成す るのに 必須 であ るAsn14が、 両ドメイン問に挟ま れ る位 置に 存在し てお り、 機能 して いな いと 考え られ る。RD3の 場合 、Cドヌインの相同 の位置にあるAsn84がその役割を担っていると考えられる。
RD3の 活 性 発 現 の 濃 度 依 存 性 が 、 単 量 体 の 場 合 と 異 な っ て い る こと は 、AFPの 結 晶 成 長 阻 害 お よび ケル ビン 効果 で説 明す るこ とが でき る。RD3が0.4 mM以 下の 場合 、同 濃 度 の 単 量 体AFPに比 べ、 吸着す る表 面積 が約2倍 であ る。そ のた め、AFP分子 間の 隙間 が 狭く 、そ こに形 成さ れる 凸状 表面 の曲 率が大きくなる。このためRD3は同濃度の単量体 AFPに 比ベ6倍 程 度 ま で 高 い 活 性 を 発現 す る と 考え られ る。 これ に対 し、0.5 mM以 上の 濃 度 で は 、RD3の 活性 はほ とんど 飽和 に達 して いる 。RD3の活 性面 の表 面積 が約2倍 であ る こと から 、AFPが吸 着可 能な 残存 氷結 晶面が 、単 量体 のAFPに 比べ 低い濃度のうちに飽 和に達してしまうからであると考えられる。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教 授 教 授 助教授 助教授 主任研究官
新田 田中 佐々木 出村 津田
勝利 勲 直樹 誠
栄 (通産省北海道工業技術研究所)