博 士 ( 理 学 ) 山 本 雄 広
学位論文題名
Promoter and Functional Analysis of
Medaka Fish (Oryzias Iatipes) Soluble Guanylyl Cyclase (メダカ可溶性型グアニル酸シクラーゼの転写調節機構および 初期発生における機能解析)
学位論文内容の要旨
細胞内二次伝達物質サイクリックGMP (cGMP)は浸透圧、血圧の調節、神経細 胞の発生・分化、感覚器官におけるシグナル変換など多くの生理現象に関与している。
cGMPを合成する酵素、グアニル酸シクラーゼ(GC)には膜結合型と可溶性型のタン パク 質として は異なる2種類がある。そのうち可溶性型酵素(sGC)はaとpの2種の サブユニットのへテロダイマー形成が酵素活性に必須であり、一酸化窒素(NO)や一 酸化炭素(CO)などの気体分子により活性化される。sGCの生化学的特性の検討や、
成体組織における発現解析に関する報告は現在までに多数あるが、その遺伝子構造や、
転写・発現調節機構についての知見は皆無であるのが現状である。さらに、初期発生 過程におけるNO/cGMP情報伝達系の重要性については報告されているものの、生体 組織での機能解析に比べて研究が立ち遅れており、その作用部位・機構は不明である。
よって、これらの命題を明らかにすることが、sGCが関わる情報伝達系の作用機構お よ ぴ そ の 活 性 調 節 を 理 解 す る た め に 急 務 で あ る と 考 え ら れ る 。
1. メ ダ カ 可 溶 性 型 グ ア ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ の 転 写 調 節 領 域 の 解 析 : 申請者の所属する研究室では脊椎動物のモデル生物としてメダカを用いて、グア ニル酸シクラーゼノcGMP情報伝達系の発現調節機構の解析を目指しており、その研究 の一環として脊椎動物を含むすべての生物で初めて本酵素遺伝子のゲノム構造を解析 し、二つのサブユニット遺伝子が染色体上で約lkbpのスペーサーを挟んでタンデムに 並ぶことが明らかになっていた。これらサブユニットの共発現が酵素活性に必須なこ とからsGCの2つのサブユニットには協調的な転写調節が必要と考えられていた。申 請者は、プライマー伸長法によりそれぞれの遺伝子の転写開始点を決定し、哺乳類培 養細胞およびメダカ胚細胞を用いてそれぞれの遺伝子のプロモーター解析を行い、基 本転写活性に必須な領域を同定し、両遺伝子がTATA box非依存的な転写調節を受けて いることを明らかにした。また申請者は、2種類のレポーター遺伝子を用いて同時に 異なる2種類のレポーター活性が測定可能なアッセイ系を確立し、ai、Piプロモータ ー間での協調的転写制御機構の存在を示唆する結果を得た。これらの領域は多種間で も高い相同性を持ち共通のシス配列を持っことから、このような機構は種間共通であ る可能性が示唆される。
2. NO/cGMP情報伝達系のメダカ初期胚における機能解析:
これまでのNO/cGMP情報伝達系に関する研究は成体組織を用いた生理作用に関 与するものがほとんどであり、動物の初期発生ーの関与の報告は多少あるものの、そ の機能・機構に関する知見は皆無であった。申請者は初期発生におけるNO/cGMP情 報伝達系が関わる機能解析を行う目的で、NO/cGMP情報伝達系の構成要素である、脳 型NO合 成 酵 素(nNOS)お よびcGMP依 存性 プ ロ テイ ン キナ ー ゼ(PKGI、II) をメ ダカより 単離した。さらにメダカ発生過程における関連遺伝子の発現開始時期を RT.PCRにより検討した。次に、これら関連遺伝子の初期発生における発現パターンを 明らかにするためにホールマウントf″sぬハイブリダイゼーションを行なった。sGC の各々のサブユニットは胚全体に発現が拡散しているが、nNOSは体飾形成期に尾芽 で強い発現が見られ、発生が進むにっれ耳胞、脳室周囲組織にも発現が認められるよ うになる。また、PKGIは神経管での発現が発生初期から認められ、次第に鰓弓でも 発現がみられるようになった。このように、NO/cGMP情報伝達系が機能するためには、
グアニル酸シクラーゼ自身ではなく、そのエフェクター分子が限局することが必要で あると考えられる。このようにNO/cGMP情報伝達系関連遺伝子の発現を発生過程で 追った報告は、申請者による試みが初めてであり、これらの遺伝子の発生過程におけ る発現様式が明らかになったことでNO/cGMP情報伝達系の初期発生での機能解析の 研究分野において有用な知見をもたらした。
さらに申請者は、NO/cGMP情報伝達系の初期発生における機能解析を個体レベルで 行なうため、アンチセンスオリゴヌクレオチドのメダカ胚への導入によるsGCおよび、
その下流因子PKGIの機能阻害実験を行なった。両者の結果はほぼ同じであり、アン チセンスオリゴ導入胚では後期原腸胚より胚体の左右で死細胞が認められた。また、
体節形成の乱れ、中枢神経系、特に眼の形成不全(癒合眼)や耳胞の肥大を引き起こ すことが明らかになった。特に、馳アンチセンスオリゴ導入胚では尾芽において細胞 死が認め られ、同所でのnNOSmRNAの発現パターンと一致している。さらに、plア ンチセンスオリゴ導入胚では著しい発生遅滞が引き起こされる事が明らかになった。
このようにDlアンチセンスオリゴ導入胚が他の場合に比べ、より重篤な表現型を引き 起こすことは、plサブユニットがa1、馳両サブユニットとダイマーを形成しうるため、
al/p1およびa2/p1両型の活性型酵素の機能を阻害することによると考えられる。逆に PKGIの過剰発現胚では前脳領域が肥大し、小眼となる個体が観察された。この結果 は、すでに報告されているPKAの機能阻害およぴ過剰発現実験とはまったく逆の表現 型を示した。また、初期発生におけるPKGの基質候補のーっであった、転写因子Gli が所vnめにおいてもNO/cGMP情報伝達系によってりン酸化されることが哺乳類培養 細胞を用いた実験で明らかになった。GliはPKAによって活性調節を受けることがす でに報告 されており 、このよ うな結果 はGliを通じたcAMPシグナルとcGMPシグナ ル の ク ロ ス ト ー ク が 初 期 発 生 に お い て は重 要 で ある こ と を示 唆 して い る 。
以上、申請者は一貫して初期発生におけるNO/cGMP情報伝達系の転写調節機構お よび機能解析を小型魚類メダカを用いて行なってきた。メダカには哺乳類で知られて いる全てのタイプのグアニル酸シクラーゼが発現しており、体外受精で、しかも胚が 透明であることから初期発生の観察が容易で、かつ多くの発生工学的手法を適用する ことが可能である。このような理由から本研究のようなグアニル酸シクラーゼの個体 レベルの機能解析には最適のモデル生物である。本研究は、従来の哺乳類を用いた研
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究では解析が困難であった個体レベルでの初期発生におけるNO/cGMP情報伝達系の 理解に大きな手がかりを与えるものと思われる。また、これらの研究によって明らか になった新たな知見は脊椎動物共通のNO/cGMP情報伝達系の機能として、今後この 分野の研究の発展に大きく貢献するものと確信している。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 鈴 木 範 男 副 査 教 授 高 橋 孝 行
副 査 助 教 授 清水 副 査 助 教 授 田中
隆 実 副 査 助 教 授 伊 藤 悦 朗
学位論文題名
Promoter and Functional Analysis of
rvIedaka Fish (〇乃協た硲Iatipes) Soluble Guanylyl Cyclase (メダカ可溶性型グアニル酸シクラーゼの転写調節機構および 初期発生における機能解析)
細 胞 内 二 次 伝 達物 質 で ある 環 状GMP (cGMP)は 血 管 平滑 筋 の 弛緩 に よ る血 圧 の 調節 、 神 経細胞 の発生・ 分化、 感覚器官 における シグナ ル変換な ど多く の生理的 現象に おいて重 要 な 役 割を 担 っ て いる 。cGMP合 成酵 素 の ーつ 、 可 溶性 型 グ アミ ル 酸 シ クラ ーゼ(sGC)は aとpの2種のサブ ュニッ トが会合 したへテ ロダイ マーを形 成し、 ヘテロダ イマー 中のpサブ ユ ニ ッ ト の へ ム に 一酸 化 窒 素(NO)や 一 酸 化 炭素(CO)な ど の気 体 分 子が 結 合 する と 酵 素 タ ンパク 質に構造 変化が 起こり、 これが酵 素活性 の促進に 必須で あると考 えられ ている。
近 年sGCの 生 体 にお け る 重要 性 が 再認 識 さ てき たが 、sGCに関する 研究の 多くは生 化学的 手 法によ る酵素活 性能の 検討や成 体組織に おける 遺伝子の 発現解 析に関す るもの が主であ り 、sGCの 構 造 と機 能 の 相関 や 転 写・ 発 現 調節 機構 につい ての知見 は乏し く、NO/cGMP情 報 伝 達 系の 下 流 因 子群 の同定も 十分で はなく、 初期発生 におけ るNO/cGMP情報伝達 系の役 割 に関す る研究も 不十分 であった 。
本 学位論 文は、ゲ ノム構 造がコン パクト で、胚操 作が容易 で、し かも胚が 透明で、飼育 も しやす いなどの 利点を 備えた小 型硬骨魚 類メダ カを用いて、(1)その基本転写活性部位 お よ び 染色 体 上 約lkbpの介 在配列を 会して 並列して いる2つの本 酵素サブ ュニッ ト遺伝子 の 協調的 転写調節 機構の 存在を明 らかにし 、(2)発生 段階における発現開始時期・発現部 位 を明ら かにし、 アンチ センスオ リゴヌク レオチ ドのメダ カ胚へ の導入に よって 引き起こ さ れ る 表現 型 の 変 化を 検討して 、NO/cGMP情報伝達 系の初 期発生に おける 役割を考 察した も のであ る。
学 位論 文 は4章か ら 構 成さ れ て おり 、 第1章 、 第2章 で は 、哺 乳 類 培 養細 胞お よびメダ カ 胚細胞 を用いて3種類 のメダ カsGCサ ブュニ ット遺伝 子(OIGCS‑a,,OIGC竪a2,〇IGcs‑pi) の プロモ ーター解 析を行 い、基本 転写活性 に必須 な領域を 同定し 、これら の遺伝 子がTATA box非依 存的な転 写調節 を受けて いること を明ら かにした 。また 、2種 類のレポ ーター遺伝 子 を 用 いて 同 時 に 異な る2種 類のレポ ーター 活性が測 定可能 なアッセ イ系を 確立し、 同一 染 色体上 でタンデ ムに並 ぶdl丶Piサブ ュニッ ト遺伝子 の両プ ロモータ ー聞での 協調的転写 制 御 機 構の 存 在 を 示唆 す る 結果 を 得 てい る 。 第3章 、 第4章 で は、NO/cGMP情報伝達 系の 主 た る 構 成 因 子 で あ る 脳 型NO合 成 酵 素(nNOS)お よびcGMP‑依 存性 プ ロ テイ ン キ ナー ゼ (PKG)の メ ダ カホ モ ロ グを ク ロ ーニ ン グ し、 そ れ らの 初 期 発生 に お け る発 現開 始時期、
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