類 義 動 詞 に つ い て の 史 的 研 究
ー 「 養 育 ・ 世 話 す る j の 意 味 分 野 を 中 心 に ー
教 科 ・ 領 域 教 育 専 攻
言 語 系 ( 国 語 ) コ ー ス
向 井 敦 子
1
研 究 の 目 的 と 方 法
本研究の目的は、「養育・世話する」の意味、
あるいはそれに近似する意味〈本研究ではこれ
を「養育・世話する」の意味分野と言うことと
する〉を有する語のうち、「かふJ
r
ゃしなふ」
「おほすJ
r
し1つく J
r
はぐくむJ
r
そだっj の
六語 を 取り上げ、 そ れぞ れ の 語の 意 味 ・ 用法 の
特徴を上代から各時代ごとに明らかにすること
にある。
考察の方法は、以下の通りである。
まず第1章において、現代語における各語の
意 味 に つ い て の 考 察 を 行 っ た 。 様 々 な 文 例 を 作
成 し 、 そ れ ら の 文 例 に お い て 各 語 を 使 う こ と が
で き るかどうかを検討 し た 上で 、 現代 語 におけ
る各語の意味・用法の特徴を明らかにした。
第 1章 で の 結 果 を ふ ま え て 、 第 2章では上代
・中古の例について、第3章では中世の例につ
いて考察し、結にて明らかになったことをまと
めるとともに、今後の課題について述べた。
2
論 文 の 概 要
第 1章 現代における「養育・世話するJ の意
味 分 野 の 語
現代語で一般的によく使うと恩われる「飼うJ
「育てるJ
r
育 むJ
r
養う」の四語を取り上げ、
各語の意味についての考察を行った。
or
飼うJ …動物を客体とする場合には言える
が、成長させるという意味合いは持たない。
o
r
育てるJ.一人・動植物・抽象的なものなど
多くの客体に対して言うことができ、それら
を「大きくするJ
r
成長させるJ行為であるo
た だ し そ の 時 の 客 体 は 、 ま だ 成 長 す る 余 地 の
指 導 教 員
原 卓 志
ある状態でなければならない。
or
育 むJ …人や抽象的なものを客体として、
それらに愛情を注ぎ、大切に「大きくする」
「成長させるJ行為であるo
or
養 う 」 … 人 や 抽 象 物 を 客 体 と し 、 そ の 客 体
が衰えることのないように「現状を維持する
・保つ」という行為をあらわす。そしてその
客 体 と は 、 主 体 か ら の 働 き か け が な い と 現 状
を維持することが困難な存在であるo
第 2章 上代・中古における「養育・世話するJ
の 意 味 分 野 の 語
第1節で、上代・中古における「かふ」は、
A
r
動 植 物 に 栄 養 と な る 物 を 与 え る 」 と い う 一
回的・一時的な行為と、 B
r
動物を飼育するj
という反復的・継続的な行為をあらわしていた
と捉えた口
第2節 で 、 上 代 ・ 中 古 に お け る 「 ゃ し な ふJ
は「世話する・面倒を見る」という行為をあら
わしていたと捉えた。また、大きく成長させる
べき子どもだけでなく、成人や老人をも客体と
しており、それらに共通する特性を「援助や世
話 を 必 要 と す る 人 物 ( あ る い は 動 物 )J である
とした。
第 3節 で 、 「 お ほ す 」 の 原 義 は 「 植 物 を 育 て
る、大きくさせる、成長させる」行為であると
捉えた。最初は植物のみを客体としていたが、
植 物 や 髪 の 毛 な ど い ろ い ろ な 客 体 に 対 し て 用 い
ら れ る よ う に な っ たo また、「生ほしたつj と
い う 複 合 動 詞 と し て 用 い ら れ る 場 合 は 、 人 を 客
体とした。、「生ほすj単 独 で 用 い ら れ る 場 合 は
そ こ に 到 達 点 ( 限 界 点 ) と い う も の が な い 。 一
方、「生ほしたつJ と い う 複 合 動 詞 と し て 用 い
一 30
6-ら れ る 場 合 は 、 成 長 の 到 達 点 が 示 さ れ 、 そ の 到
達 点 ( 限 界 点 ) ま で 「 生 ほ し た てj ることをあ
らわすことが分かつた。
第 4節 で 、 川 、 つ く 」 の 原 義 は 「 神 に 仕 え 祭
る 」 と い う 行 為 で あ っ た の が 、 使 用 範 囲 の 広 が
りにより、
r
(神に仕えるように)大切にする」
と い う 意 味 が 生 ま れ た と 捉 え た 口 上 代 に お い て
すでに派生は起こっており、中古においては「神
に仕え祭るJ意 の 例 が 見 ら れ な く な っ た 。 身 分
の 高 い 人 物 に 対 し て 用 い ら れ る こ と が 多 く 、 主
体 に と っ て の 客 体 と は 、 神 の ご と く に 大 切 に す
る相手であるといえるD
第 5節で、「はぐくむjの 原 義 は 「 親 鳥 が ひ
なを羽で、包み込む」という行為であったのが、
そこから
r
(親鳥がひなを羽で包み込むように)
大切にするJ という意味が派生し、主体によっ
て 庇 護 を 受 け る 必 要 の あ る 人 物 に 対 し て 用 い ら
れ る よ う に な っ た と 捉 え た 。 客 体 は 、 原 義 に お
いては鳥、派生後は人に限られるようである。
第 3章 中世における「養育・世話するJ の意
味 分 野 の 語
第 1節で、中世における「かふ」は、 A r動
植 物 に 栄 養 と な る 物 を 与 え る 」 と い う 一 回 的 ・
一時的な行為と、 B
r
動物を飼育するj という
反 復 的 ・ 継 続 的 な 行 為 を あ ら わ し て い る と 捉 え
た 口 そ し て 、 そ の 行 為 の 客 体 と な る も の は 動 植
物 か ら 人 ま で と 範 囲 が 広 く 、 「 か ふ 」 は 人 以 外
の 様 々 な も の を 客 体 と し て 持 つ こ と が で き る と
いうことがわかった。
第 2節 で 、 中 世 に お け る 「 ゃ し な ふ 」 は 、 主
体 に と っ て 庇 護 し 援 助 す べ き 人 物 や 動 物 な ど の
客 体 に 対 し て f世 話 す る 、 面 倒 を 見 る 」 行 為 で
あ る と 捉 え た 。 客 体 に は 「 子 ど も 」 の 場 合 も 多
いが、「成人J
r
老 人J
r
妻 子 」 を 客 体 と す る 例
も 多 く 見 ら れ た 。 上 代 ・ 中 古 に お け る 意 味 ・ 用
法 か ら あ ま り 変 化 し て い な い と い え よ うD
第 3節 で 、 「 お ほ す 」 は 中 世 に 入 る と 急 速 に
そ の 勢 力 を 衰 退 さ せ 、 「 お ほ し た つ 」 と い う 複
合 動 詞 と し て 人 間 の 子 ど も を 客 体 と し て 限 定 的
に用いられるだけとなったと捉えた。
第4節 で 、 中 世 に お け る 「 は ぐ く むJは原義
の 意 味 が 薄 れ 、 原 義 か ら 派 生 し た 「 か ば い 、 大
切に世話するJ という意味が主になってきてい
ると捉えた。主体と客体との関係は、主体にと
っ て 客 体 は 、 慈 し み の 思 い を 持 っ て 大 切 に 庇 護
すべき人物であるO
第 5節 で 、 中 世 に お け る 「 そ だ っJ は
r
(未
熟 な 状 態 に あ る ) 生 物 が 一 人 前 に な る ま で 大 き
くするD 成長させるD 成熟させるJ という意味
であり、その行為には愛情が介在すると捉えた。
そしてその客体は、動植物や人であった。
3
まとめと今後の課題
上 代 か ら 中 世 に お け る 「 養 育 ・ 世 話 す るj の
意 味 分 野 の 語 と 現 代 語 の 違 い は 、 次 の 通 り で あ
るo
or
かふj … 現 代 語 で は 、 客 体 が 動 物 の み と な
ってしまった。
or
ゃ し な ふ 」 … 現 代 語 で は 、 動 物 を 客 体 と し
なくなった。
or
はぐくむ」…原義の意味が薄れてしまい、
原義から派生した「かばい、大切に世話する」
という意味が主と な っ て い る 。 ま た 、 現 代
語 に は 「 大 き く す るJ
r
成 長 さ せ る 」 意 が 含
ま れ て 、 客 体 は 人 の み で あ っ た の が 、 抽 象
的なものも客体とするようになった。
or
そだ、つj … 現 代 語 で は 、 抽 象 的 な も の も 客
体とするようになった。
今 回 の 研 究 で は 、 時 間 的 な 制 約 上 、 近 世 の 例
についての検討・考察ができなかった。上代・
中 古 ・ 中 世 の 各 時 代 に お け る 調 査 文 献 も 、 充 分
と は 言 え な い 。 今 後 、 各 時 代 に お け る 、 よ り 多
く の 使 用 例 の 収 集 と 検 討 ・ 考 察 を 行 い 、 今 回 の
考 察 の 検 証 に 努 め た い 。 ま た 、 中 世 に お い て 突
然「そだっ」が出現したことについての検討・
考 察 も 、 試 み た い と 思 うo さらに、「おほす」
が中世に入ると急速にその勢力を衰退させた、
その原因についても究明していきたい。