Title
専門学科「情報科」における教育のあり方 : 情報処理教育
の取り組みを生かして( 本文(Fulltext) )
Author(s)
相宮, 修二; 加藤, 直樹
Citation
[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[25] no.[2] p.[19]-[28]
Issue Date
2008-03
Rights
Version
岐阜大学教育学研究科カリキュラム開発専修 / 岐阜大学総
合情報メディアセンター
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/23399
専門学科「情報科」における教育のあり方
―情報処理教育の取り組みを生かして―
相宮修二
*1・加藤直樹
*2 高等学校に専門教科「情報」が誕生してから 5 年が経過したが,専門学科「情報科」の設置校は少ない. 一方,1970 年に誕生した「情報処理科」はプログラミングの指導等で成果を上げてきた.「情報科」には, 教育課程の運用の工夫や情報通信ネットワークの積極的・主体的活用により,情報処理科を超える指導の充 実が望まれる. 〈キーワード〉 専門教科「情報」,情報科,情報処理教育,情報処理科,理科教育及び産業教育審議会 1 はじめに 前回(1999 年 3 月)の高等学校学習指導要領改正で, 普通教科「情報」とともに,専門教科「情報」が新設さ れた.普通教科「情報」は科目「情報A」「情報B」「情 報C」のうちいずれか1 科目を必修とされたので履修生 徒数が多く,教科書の発行点数も多い.しかしながら専 門教科「情報」のほうは,履修生徒数が少なく,教科書 の発行は1 社のものだけにとどまっている.それは専門 教科「情報」の履修を主とする学科(以下専門学科「情 報科」という)の設置があまり進んでいないためといえ る.(専門教科には「情報」とともに「福祉」も新設さ れた.2007 年度学校基本調査速報によれば,高等学校 (全日制・定時制)学科別学校数及び生徒数(本科)は, 情報23 校 2,374 人,福祉 99 校 10,756 人,とある.) 小論は,専門学科「情報科」について,その現状を調 査し,30 数年前から続けてきた商業高校における情報処 理教育の取り組みを通して,専門教科「情報」の指導の あり方を考察したものである. 2 専門教科「情報」の新設 1997 年 10 月,理科教育及び産業教育審議会(理産審), 「今後の専門高校に置ける教育の在り方等について(中 間まとめ)」の中で,情報化への対応について『近年, 情報化は想像を超える規模・速度で進展し,高度情報通 信社会を迎え,情報通信産業は急速に拡大している.(中 略)こうした中で,特にソフトウェアに関し,システム 全体の設計や管理・運営を担当するなど高度な情報技術 者の育成や新たな産業領域の形成に役立つような人材 の育成が重要な課題となっている.(中略)高等学校に おいて情報科学の基礎など情報を扱う上での基礎的・基 本的内容を学習する機会を提供するとともに,情報メデ ィアを駆使した実習等を通じて新鮮な感性を育む場を 用意することは,人材育成の上でも意義のあることと考 えられる.』として,『これからの情報化社会を支える人 材育成のため,専門教育に関する教科「情報」を新たに 設ける必要がある.』とした.翌98 年 7 月の理産審答申, 同月中央教育審議会(中教審)答申を踏まえて,99 年 3 月の高等学校学習指導要領改正で専門教科「情報」が誕 生した.教科の目標は『情報の各分野に関する基礎的・ 基本的な知識と技術を習得させ,現代社会における情報 の意義や役割を理解させるとともに,高度情報通信社会 の諸課題を主体的,合理的に解決し,社会の発展を図る 創造的な能力と実践的な態度を育てる.』と示されてい る.専門教科「情報」には次の11 科目が設定された. 情報産業と社会,課題研究,情報実習,情報と表現, アルゴリズム,情報システムの開発,ネットワークシ ステム,モデル化とシミュレーション,コンピュータ デザイン,図形と画像の処理,マルチメディア表現 *1 大学院教育学研究科カリキュラム開発専修 *2 総合情報メディアセンター 岐阜大学カリキュラム開発研究 2008.3,Vol.25,No.2,19-28この改正指導要領は,2003 年 4 月の 入学生から施行された. 3 次期学習指導要領の方向 2008年1月17日,中教審は「幼稚園, 小学校,中学校,高等学校及び特別支 援学校の学習指導要領等の改善につい て(答申)」のなかで,専門教科「情報」 について,『情報技術の進展による新た な情報産業の創出等,情報産業の構造の変化や,情報産 業が求める人材の多様化,細分化,高度化に対応し,創 造力,考察力,問題解決力,統合力,職業倫理等を身に 付けた人材を育成する観点から』改善を図るとし,教科 の目標については,『情報の各分野における応用的・発 展的な知識・技術や職業倫理等を身に付けた人材を育成 するという趣旨を明確にする.』とした.科目構成につ いては,現行の11科目を次の13科目とする案を示してい る. 情報産業と社会,課題研究,情報の表現と管理,情報 と問題解決,情報テクノロジー,アルゴリズムとプロ グラム,ネットワークシステム,データベース,情報 システムの開発,情報デザイン,情報メディア,メデ ィアの編集と表現,情報コンテンツの開発 4 専門教科「情報」と情報処理教育との関係 前2項で見たように専門教科「情報」は情報化の進展 に対応する人材の養成を目的として作られたが,それは 新しいことではなかった.1997 年の理産審中間まとめ から遡ること28 年の 1969 年 12 月,同じ理産審は情報 処理教育の推進について建議を行い,『最近における電 子計算機を中心とする情報処理技術の進展は,産業界を はじめわが国社会の各分野に大きな影響を及ぼしつつ ある.今後情報処理技術のいっそうの普及・発展を図り, いわゆる情報化時代に対処してわが国社会・経済の進展 と国民生活の向上を図っていくためには,情報処理に関 する国民的理解を深めるとともに,必要な人材の育成を 図ることが肝要である.このため,情報処理に関する教 育の振興は急務であり,その重要な一環として,高等学 校において,情報処理教育を積極的に推進する必要があ る.』とした.それ以後,情報化時代に必要な人材の育 成を図るために行う教育を情報処理教育と呼ぶように なった.建議は情報処理教育を実施するための適切な教 育課程が編成できるよう,表1 の科目を新設することを 示すとともに,推進学科として商業高校に情報処理科, 工業高校に情報技術科を設置することが必要であると した.これらの新科目や新学科は,1970 年の高等学校 学習指導要領改正にすべて盛り込まれ,実施に移された. 両学科の開設校は,1970 年度から 76 年度までの 7 年 間に全国で122 校に上った(図 1). 岐阜県では,71 年度から 73 年度にかけて 4 校に情報 処理科,1 校に情報技術科が開設された.また 73 年には 商業高校・工業高校の共同利用施設として中型コンピュ ータを備えた県情報処理教育センターが開所した.そし て,すべての商業・工業高校に小型または超小型コンピ ュータを順次設置して情報処理教育の推進が図られた. このようにしてすすめられてきた情報処理教育と,新 たに作る専門教科「情報」との関係について,1998 年 の理産審答申では『これまで専門学科における情報に関 する教育は,主に工業の情報技術科,商業の情報処理科 図 1 全国の情報処理科・情報技術科設置校数の推移 表 1 情報処理に関する科目の新設 (理科教育及び産業教育審議会の建議 1969) 目 標 区 分 科 目 商業に関する科目 「電子計算機一般」 「プログラミング I」 電子計算機とその利用に関 する基礎的な知識および技 術を習得させる 工業に関する科目 「プログラミング」 「数値計算法」 商業に関する科目 「 プ ロ グ ラ ミ ン グ Ⅱ」 「経営数学」 電子計算機のより高度な利 用技術の基礎を習得させる 工業に関する科目 「システム工学」 「プログラム理論」 電子計算機自体についての 知識と技術を深める 工業に関する科目 「電子計算機」
において行われてきた.情報技術科では,工業の各分野 におけるコンピュータを利用した制御技術や情報関連 機器の製造等の技術の習得,情報処理科では,経営活動 に必要な情報処理・情報活用能力の育成が図られてい る.』,『各教科において行われるそれぞれの産業分野に かかわる情報に関する教育は,産業社会全体に情報化が 浸透している今日では,引き続き充実を図る必要がある. 一方,新たに創設される教科「情報」は,従来の産業の 枠にとらわれず,情報をコンピュータで扱う場合におけ る,情報の意義,役割,表現方法等に着目した学習を中 心に展開することとなる.』とした. 5 専門学科「情報科」の設置 2003 年度から 07 年度までの間で表 2 に示す全国 17 の公立高校に専門学科「情報科」が設置された.これら の学校によって,「全国専門学科「情報科」高等学校長 会」が組織されている.会長は新宿山吹高等学校長で, 同校に事務局が置かれている.校長会と並んで「全国専 門学科「情報科」研究協議会」があり,03 年から毎年研 究会を開催している. 岐阜県では,2000 年度の地方産業教育審議会から『IT 産業の発展を担う人材や高度情報通信機器等を活用し, 自ら新しい産業を創造できる人材を育成するために,学 科「情報」を備えた専門高校を適正に配置する必要があ る.』との答申がなされ,04 年 4 月に大垣商業高校,05 年4 月に岐阜各務野高校に,それぞれ専門学科「情報科」 が設置された. 6 専門学科「情報科」の現状 県内2高校の専門学科「情報科」について,現状を調 査した. まず大垣商業高校は,従前の情報処理科,情報ビジネ ス科を学科改編して情報科2 学級を設置した.うち 1 学 級はプログラム開発関係の科目を選択するシステム類 型とコンテンツ製作関係の科目を選択するマルチメデ ィア類型の混合クラス,もう1 学級は商業科目も選択で きるビジネス類型である.同校は学科開設の年度から3 年間文部科学省の「IT 人材育成プロジェクト」の指定を 受け,学校の近くに立地する県の IT 産業集積拠点「ソ フトピアジャパン」内にサテライト教室を設けて,産・ 官・学の連携のもとに専門教育を進めてきた.第1 期生 (07 年 3 月卒業)の進路は大学・短大への進学が 33 人 (43%),専門学校への進学が 17 人(22%),就職・自営が 27 人(35%)であった.プログラマとしての就職は 2 人に とどまり,17 人(就職者の 65%)が一般事務であった.就 職先の状況は学科改編前と似通っているが,国・公立四 年制大学への進学者が 10 人に上ったことが学科改編前 と大きく異なる特徴といえる. 一方の岐阜各務野高校は,普通高校と女子商業高校を 統合・再編した学校で,情報科のほかにビジネス科と福 祉科が設置されている.情報科は1 学級で,情報系・理 工系大学進学に対応したシステムフィールドと,コンテ ンツ製作関係の科目に重点を置くマルチメディアフィ ールドの二つの類型を設けた.当初,工業科の科目も教 育課程に組み込んだが,現在は廃止しつつある.第1 期 生(08 年 3 月卒業)の進路希望(08 年 1 月現在)は, 大学・短大への進学が20 人(59%),専門学校への進学が 2 人(6%),就職が 12 人(35%)である.就職者の内定先で 情報関連は1 人(CAD オペレータ)のみである. 7 専門学科「情報科」の評価 2007 年 1 月下旬,大垣商業高校を卒業間近の 3 年生(情 報システム・マルチメディア類型のクラス)を対象に満 足度調査を行った.その結果は表3のようであった. この結果から,つぎのことが示された. (1) 情報科へは,目的意識がはっきりして入学した者が 多い(Q1). (2) 情報科で学んだ満足度は高いと評価できる(Q3). (3) 情報科の学習内容が進路先で概ね活かされると思わ れる(Q2). (4) 3 年間の学習内容について,「画像処理技術やホーム ページデザイン等コンテンツ開発能力」は,よく学習 できたとするものが51%,もっと学びたかったとする 者が40%と 2 分している.これは調査対象者がシステ ム類型とマルチメディア類型の混合クラスであり,類 型による学習科目の違いが結果に現れたのではない
表 2 2007 年度全国専門学科「情報科」設置校一覧(公立高等学校) 設置学校名(下段は URL) 設置学科(学級数),下段は併置学科 設置年度 秋田県立仁賀保高等学校 http://www.akita-c.ed.jp/~sch11158/ 情報メディア科(1) 普通科 ③4567 群馬県太田市立商業高等学校 http://www.tasyo.com/ 情報科(2) 商業科 ③4567 千葉県立柏の葉高等学校 http://sc.ice.or.jp/kashiwanoha-h/ 情報理数科(1) 普通科 3456⑦ 東京都立新宿山吹高等学校 http://www.yamabuki-hs.metro.tokyo.jp/ 情報科(単位制・定時制) 普通科 ③4567 岐阜県立大垣商業高等学校 http://school.gifu-net.ed.jp/ogaki-chs/ 情報科(2) 商業(総合ビジネス,会計)科 3④567 岐阜県立各務野高等学校 http://school.gifu-net.ed.jp/gkakamino-hs/ 情報科(1) 商業(ビジネス科),福祉科 34⑤67 三重県立亀山高等学校 http://www.mie-c.ed.jp/hkamey/ システムメディア科(2) 普通科,総合生活科 3④567 京都府立京都すばる高等学校 http://www.kyoto-be.ne.jp/kyoto-chs/ 情報科学科(2) 商業(会計科,企画科) ③4567 奈良県立奈良情報商業高等学校 http://www.sakurai-ch.ed.jp/ 総合情報科(1) 商業(会計ビジネス,国際流通ビジネス,情報ビジネス) 科 34⑤67 鳥取県立鳥取湖陵高等学校 http://www.torikyo.ed.jp/koryou-h/top/ 情報科学科(1) 農業(食品システム,緑地デザイン)科,工業(電子機械) 科,家庭(人間環境)科 ③4567 鳥取県立倉吉総合産業高等学校 http://kss.kssh.ed.jp/ マルチメディア技術科(1) 工業(機械システム,電気システム)科,商業(情報処理 システム,会計システム)科,家庭(生活デザイン)科 ③4567 岡山県立玉野光南高等学校 http://www.konan.okayama-c.ed.jp/ 情報科(2) 普通科,体育科 ③4567 香川県立坂出商業高等学校 http://www.kagawa-edu.jp/sakash01/ 情報技術科(1) 商業(商業,情報処理)科 34⑤67 福岡県立嘉穂総合高等学校 http://kahosogo.fku.ed.jp/ IT システム科(1) 普通科(情報総合コース),農業(地球環境システム)科, 工業(ロボットシステム)科 34⑤67 長崎県立諫早商業高等学校 http://www.kansho.ed.jp/ 情報科(1) 商業科,家政科,国際コミュニケーション科 3456⑦ 沖縄県立美来工科高等学校 http://www.mirai-th.open.ed.jp/ IT システム科(1),コンピュータデザイン科(1) 工業(機械システム,自動車工学,電子システム,都 市環境)科 34⑤67 沖縄県立名護商工高等学校 http://www.nago-th.open.ed.jp/ 総合情報科(1) 工業(生産システム,電建システム)科,商業(商業,フ ァイナンス,ビジネス情報)科 3456⑦ ○印は設置年度(平成)
表3 情報科卒業生の満足度調査 (2007年2月 大垣商業高校,回答者35人) か(Q4,Q5). (5)「プログラミングやシステム開発の能力」や「サーバ 管理や情報セキュリティ対策等のネットワーク技術」 をよく学習できたとするものが,いずれも4人(11%) にとどまっている.とくに「プログラミングやシステ ム開発の能力」については,もっと学習したかったと 答えたものも同様に少数であった(Q4,Q5).これは, 指導者がこれらの内容に指導の重点を置かなかった ため生徒の興味・関心を高められなかった可能性があ る. 普通科に劣らない進路希望(大学進学)の実現や,入 学生徒の目的意識,卒業時の満足度などを見る限りでは 大垣商業の「情報科」は成功しているようにみえる.だ が,よく学習できたとする内容(Q4)が「WORD,EXCEL, インターネット等パソコン操作の習熟」や「画像処理技 術やホームページデザイン等 コンテンツ開発能力」だ けでは,2008年1月の中教審答申が専門教科「情報」 の改善のなかで繰り返し使っている『高度情報人材に求 められる』ものとは言えないであろう.専門教科「情報」 の教育が工業の情報技術科や商業の情報処理科におい て行われてきた教育とは異なるものとするならば,その 内容はどうあるべきであろうか.それを考察するには, これまでの情報処理教育の内容を明らかにしておく必 要がある. 8 情報処理教育の取り組み 1970年代初めに工業高校や商業高校に設置された小 型コンピュー タは,形状こそ運搬に小型トラックが必要 なほど大きく重い装置であったが,ハードウェアは現在 の安価なパーソナルコンピュータと比べてもはるかに 低い性能であり,ソフトウェアはアセンブラ,コンパイ ラ,ユーティリティなど,プログラムを開発するツール が主であって,アプリーケーションプログラムの種類は 少なく,高度なオペレーティングシステムもなかった. コンピュータは購入しただけでは文字通り「ただの箱」 であり,ユーザ側でプログラムを用意しない限り何もで きなかったのである.そのため,情報処理の人材として 求められるのは,第1にプログラミングの能力であった. そのため,表1に示した科目構成のもとで始まった情報
処理教育の内容は,FORTRANやCOBOLによるプロ
グラミングが主であった. 当時私が担当した情報処理科2年生「プログラミング 」の指導内容を表4に示す.これは1年生「電子計算 機一般」でCOBOLによってプログラムの基礎を指導し たあとに続けたものである.3年生「プログラミング」では,COBOLにより,
プログラミング で十分に実習できなかったファイルの 照合の問題を取り扱い,続いて分類や組み合わせな どのユーティリティプログラムの利用法を教えた.二分 探索や乱呼出しファイルなども3年生で扱った.その後 でグループ別に販売・購買■経理の情報処理システムに ついて,システム設計からプログラム開発まで,総合的 に実習させた.実習方法は,総合実習を除き,個人単位 でプログラミング実習を行った.紙テープベースによる 実習であり,せん孔タイプライタの台数が十分ではなか ったが,先にコーディングをすませた者から順次せん孔 に移るので大きな混乱はなかった.だいたい2週間で1 つのプログラムを完成させるというペースであった.また,科目「経営数学」でyORTRANを使い,統計処理
や線型計画法,シミュレーションなどを実行した. 1977年に発売されたパーソナルコンピュータでもソ フトウェアの事情は変わらなかった. プログラム言語は BASICやC言語等に変わったが情報処理教育の中心は やはりプログラミングであった.1980年代の半ばにな ってパソコンの機能が向上するとともに,工業高校や商 業高校に設置されていた小型コンピュー タは使われな くなり,指導内容がプログラミングからアプリケーショ ンソフトの利用方法へと変化したが,情報技術科や情報 処理科では現在に至るまでプログラミングの指導に重 きを置いてきている. 情報処理に関する一般的知識やプログラミングの能 力を認定する方法として,全国の情報技術科や情報処理 科の多くで情報処理技術者試験の受験を奨励してきた. この試験は1970年に法制化された通産省(経産省)所 管の国家試験である.これの第2種情報処理技術者(現 基本情報技術者)試験に何人合格したかが,情報処理教 育の目標到達の目安にされてきたし,さらに高度な第1 種情報処理技術者(現ソフトウェア開発技術者)試験に も高校生が合格するようになってきた.岐阜県では, 1988年,海津北高校情報処理科の第1期生が県下高校 生として初めて第1種情報処理技術者試験に合格した. 2007年,県立岐阜商業高校では,ソフトウェア開発技 術者試験に11人,基本情報技術者試験には30人が合格 している. また,システムの設計から実際の稼働まで一連のプロ グラム開発の実践的な能力を習得する方法として,岐阜 県の商業高校では全国商業高等学校長協会が主催する 全国商業高校生プログラミング・コンテストや,通産省 (経産省)が所管する情報科月間全国高校生(・専門学 校生)プログラミング・コンテスト(現U−20プログラ ミング・コンテスト)など,全国的なプログラミング・ コンテストに毎年多数の生徒作品を応募してきた.(ど ちらも2007年度で28回目を迎えた.) 岐阜県商業教育研究会では,2002年度から応募作晶 の発表会を毎年開催して作品のレベルアップを図って きた.このような取り組みが実を結び,2007年度のU−20 プログラミング・コンテストでは,東濃実業高校コンピ ュータ部の作品が,最優秀賞(岐阜県の高校生として4 度目)を得た. 表4 「プログラミングl」の年間実習内容 (県立岐阜商業高校1977年度) Ⅳ0 て≡・壬左 l:コPl⊃ 問 題 名 学習の要点 時期 テストの学年別平均点 FORTRAⅣの基礎 5月 田 R 田 列 R 6月 ロ DO文 田 順位づけ 7月 成績一覧表B 内部分類 9月 売上報告書A COBOLの復習 ページ制御 10月 売上報告書B サブルーチン,制御合 売上報告書C 計 11月 月別売上集計表 表の利用 C 表引き 12月円
各種のデータチェック四
L 1月 給与支給明細表 し,集団表示 14 短いプログラム ACCEPT,DISPLAY 1月 磁気テープへの書き込 ファイルの作成 み,MTダンプ 2月 給与マスタファイル ファイルの修正9 卒業生アンケート調査 フローチャートの作成等はいろいろな場面で役立っている. 当然ながらIT時代先駆けの授業は,情報を更新しながらさ まざまなシーンで生かさせて頂いている. 岐 このような情報処理教育の評価を得る目的で,筆者が かつて担任した卒業生にアンケート調査を行って卒業 後の状況を調べた.対象は県立岐阜商業高校情報処理科 1978年度卒業生と海津北高校情報処理科1988年度卒業 生で,83人に調査票を郵送して26人から回答を得た. 宛先不明で戻ってきたのが5通あり,回答率は33%であ った.なお,回答の到着方法はeメール14通,FaxlO 通,郵送2通であった. 卒業時にIT関係の会社あるいは職種に就職したもの は5人(就職者のうち33%)であった.また現在の仕事 が情報技術と関係がとてもある,ある程度あると答えた ものが13人(全回答者のうち50%),高校で習得した 情報処理の知識,技術が卒業後役に立った,ある程度役 に立ったと答えたものが16人(同54%)あり,過半数 の者にとって情報処理科で学んだ内容が卒業後に活か されているといえる. 卒業後役に立った学習内容では,情報処理の基礎知識 やコンピュータのしくみと並んで,商業や簿記の基礎知 識というのが13人(50%)ある.プログラミング技術は 7人(27%)であった. 新設学科の「情報科」に期待する教育内容では,「サー バ管理や情報セキュリティ対策等のネットワーク技術」 が17人(65%)と最も多かった. 記述回答を求めた質問と回答はつぎのようであった. (海は海津北高,岐は県立岐阜商の卒業生の回答) Ql高校で学んだことはどう活かされたと思いますか.感想を お寄せください. 会社に入社当時はコンピュータに係わることが無かったが, 所属部門にパソコンが入り担当業務に取り入れる際に,抵抗 感が無く自分の仕事に取り入れる事が出来た.又,会社でパ ソコンの個人貸与がスタートしたが情報ネットワーク課の 担当責任者として導入に係わる事もできた.
パソコンのOSの移り変わりはあっても,それなりに活かさ れた.
技術部ソフトウェア研修センターにおいてはCOliOLのプロ グラミングを実習した.また,OJTでは県財務システムの設 計に携わることが出来た.高校生活で学んだことが十分に活 かされたと思う. 就職先ではシステムが自社で用意されていなかったため, ⅣTTのドレスで運用されていた.高校で学んだ基礎が充分役 に立った. 岐 コンピュータのしくみについても,とてもよく理解で現在の きた.
プログラムを作るときの経験を活かして,ロジカルな物の考 え方ができるようになった.仕事の中での判断業務が多くな ればなるほど役立った.また,パソコンやネットワークに対 しても一から学ぶのではなく基礎的な知識があるため,会社 で機器を導入するときに機器選定のメンバーに入ることが でき,最新の機器を触れる立場になれた. 卒業時就職した会社は電子計算課で即役に立った. 転職後の会社はシステム導入に時間がかかったが,高校と前 の会社での体験が役に立った. 岐 専門学校卒業後,会社の情報処理部門に配属され,主に汎用 コンピュータのCOBO Lによるプログラミングとオペレ ーションを担当した. 岐 コンピュータを学んだことで,就職後にパソコンやワープロ を扱うことへの抵抗感はなかったように思う.また,プログ ラミングを行う際の,処理のプロセスを論理的に組み立てる アプローチ法が,仕事をする上でも活かされた. 岐印刷の専門学校に進みBASICをかじったが,情報処理科卒業 ということで回りから頼りにされた.
COBOL,FORTRAⅣを高校で学び,次にどうするのかというよ うな考える力が,自分自身及び部下に対して活きている. 仕事に情報処理知識が直接関係した事はないが,今はパソコ ンが必需品となっており,コンピュータの基礎的な知識を知 った事は,良かったと思う. Q2 いつ,どこで,何が役に立ちましたか? 2000 年よ り以 汎用機でのCO召OL開発が主流だったので学 前,会社で 父で学んだ知識をきっかけとして利用 会社で 経理財務,勤怠関係のシステム読解に 1990年頃,就職 システム開発にて汎用機のCOBOL言語 先で での開発 (高校での汎用機・COBOL の知識が役立った)1994年頃,就職 基幹系システムがオフコンだったが,PC 先で を端末としてエミュレーションして,オフ コンの操作をした.高校での汎用機とPC のエミュレーションの知識が役立った. 現在,会社で 新しい会社で経理などもしっかりしていな いため,経理担当の人に教えてあげられた, 現在,家で 自作PCなどの組み立ても,基礎知識のおか げで,理解しやすく,簡単に組み立てられ た. 10年前,会社で 情報処理の基礎知識 業務の改善時 簿記や事務実践の授業で学んだプログラム 新会社設立部門 のコーティング前までの工程(業務フロー の作成)を生かすことが出来た. 経理業務にて, 日々の処理の中 自社独自のシス テム開発時 個人貸与パソコ Excelや恥rd,インターネット利用 ン導入時 の勉強会時の講師役を務めた. 現在,会社で コンピュータのしくみ・プログラミング技 術等 職場,自宅で word,Excel,インターネット パソコンを買っ た時,自宅で 仕事で,営業とし 経理・情報の知識(経理・コンピュータの て 知識をもった営業として一目置かれる存在 となった.) 仕事で,営業とし プログラムが書けるので,営業としてお客 て からの要望で簡単なものなら自分で作成 して喜ばれた. 会社で COBOLによりシステムを開発すること 会社で COBOLのプログラミング 経理部時代,決算 プログラミングの知識(表計算ソフトのマ 業務における損 益シミュレーシ ヨン 現在まで,あらゆ フローチャートに関する知識(仕事のプロ る仕事の場で セスを整理する際) 卒業以来,いつも 何の裏打ちもないけど,機械なんだから, コンピュータを 吏い方を覚えたらちゃんと役に立ってくれ 目にする度に る筈!という確信(苦笑) 20年ほど前,社 会社初めてのコンピュータ(組版専用機) 内で 立ち上げの時,機械のしくみがわかってい たので,セールスマンなどの説明を受けて も,理解が早かった. 就職してから,職 現在はパソコン処理が主流であるが,その 場で 前身としての考え方は共通する部分があ る. Q3 情報処理に関し,高校でもっと教えてほしかったと思うこ とは何ですか? 会社の中で困ったことと言えば,システム構築などにおいて は会社の利用ソフト,状況およびプログラミングにおけるク セのようなもの(システム風土)があって高校での知識はあ くまできっかけでしかなかったこと.そのきっかけを利用し て自分でプログラムやシステムを理解して深めていかない と仕事としては駄目だった. 当時は汎用機(大型機)主流であったが,PCサーバ主流に なった現在,C言語・VBの取り組みをもう少し多く教えて 欲しかった. 現在これだけ複雑に進化した情報処理技術などに,広く深く は無理だと認識している.今後は分野を分け,個人が得意な 分野を伸ばしていくべきかと考える. 時代により,システムやプログラムが,会社や部門,支店に よっても仕組みが違い,何かをもっと教えて欲しかったとい うことは感じていない. パソコンの初期設定(例えばパソコンを自作した場合),ネ ットワーク接続の接続と設定(例えばIPアドレスの設定な ど),パソコンサーバーの設定と接続(例えば社内LAⅣでの ファイアーフォールの設定やネットワークプリンタ設定な ど) ユーザと開発でグループを分け相互に開発を進める.ユーザ 要求仕様に合ったシステムを構築する.工程(設計∼製造∼ 試験等)を実技で体験する.但し,基本的なところは教材ど おりとし,+α の発想を生み出すというのも良いのではな いか. 岐 岐 岐 岐 岐 岐 より深く,コンピュータのしくみについて 情報の管理,セキュリティ プログラムのテクニック.いろんな人の書いたプログラムを 事例として勉強したかった. パソコンに関する知識(しかし,あの時代にはまだパソコン は普及していなかったので仕方がない.) パソコン(エクセル,ワード) PCで広がる世界を始めに知るべきだった.これから世の 中がPCによってどのように動いていくのか知るべきであっ た. コンピュータが生まれて高高数十年,まだ創世期だ.これ からもPCやネットワークによって世の中がダイナミックに 動いていくだろう.PCの使用方法も学ばなければと思う. データの紛失,バグ,個人情報の取り扱い,セキュリティ, アダルトサイト,サギ商法 等々,落とし穴がたくさんある.
現在であれば,パソコンの操作,情報処理の法律等を学びた し\.
難しいかもしれないが,企業での実例(どういう使われ方を しているか?何に役立っているか?等,具体的な事項)を授 業に取り入れられたら,興味がわいてくるのではないか. IT企業に就職したものは,海津北,県岐商の卒業生と もCOBOLが役立ったと答えている.また,問Q3に寄せられた多くの回答は,裏返せば彼らがいま直面している 問題なのであろう.「いま何を学ぶべきか」が分かって いる記述が多い. このアンケート調査により,「技術の進歩が激しい社 会にあって,学校で習ったことは陳腐化して役に立たな い」ということは「違う」ということを明らかにできた. コンピュータは60年の歴史の中で著しい進歩を遂げた が,そのしくみを見てみると,ディジタル方式,プログ ラム制御,キーボード入力,コンデンサメモリのリフレ ッシュ動作など,基本原理は変わらぬことが多い.よっ て,基本原理をしっかりと学んだ生徒は,卒業後,それ を足がかりにして状況の変化に対応していることをこ の調査で確認することができた. 内ネットワークにはe−ラーニングシステムも導入され ていて,全校的に「情報を基調とした教育(同校ホーム ページ)」をすすめている. もうひとつは長崎県の諌早商業高校である.同校の Webサイトにはe−ラーニング教材のページがあり,い ま,初級シスアドの過去問をダウンロードしたり,「ASP について」の解説を読むことができる.また,「中学生 のみなさんへ」のページでは,各教科のシラバス(pdf 形式)がダウンロードできるようになっている. しかし,この2校とも特に情報科が主導してネットワ ークの活用を図っている様子ではない.情報科では,校 内・校外のネットワークを実際に使用することにより, 情報セキュリティや情報モラルを含めた情報活用能力 を高めたいものである. 10 専門学科「情報科」の課題 (3)入学者の確保 2007年度入試で,岐阜県の大垣商業高校のほか,三 重県の亀山高校,福岡県の嘉穂総合高校,沖縄県の名護 商工高校の情報科で定員割れとなった.大垣商業情報科 は,特色化選抜では募集人員40人のところ44人の出願 があったが,一般選抜では募集人員40人のところ出願 締め切り時点の出願者は19人しかなく,出願先の変更 で出願者は39
化選抜40人,一般選抜39人の合計79人(入学定員は
80人)にとどまった. 2008年度入試では,大垣商業情報科は入学定員割れ が避けられたものの,一般選抜出願締め切り時点の出願 者は38人であり,出願先の変更で出願者が募集人員を ようやく超えた.岐阜各務野高校情報科も一般選抜出願 締め切り時点の出願者は15人と少なく,出願先の変更 で出願者は29人(1.45倍)と高倍率になった. 岐阜県の高等学校入試制度では大学科間をまたがる 第2志望が認められない.しかし情報科の学習内容は工 業高校や商業高校の情報関係学科と近いものであり,中 学生にとって工業の学科でも情報科でもよい,あるいは 商業の学科でも情報科でもよいと考えることを不適当 と言い切ることはできない.したがって工業や商業の学 科と情報科を併置する学校においては,高等学校の裁量 により,2つの大学科をまたがって第2志望を認めるよ うにすると,出願しやすくなるのではないか.学級定員 (1)プログラミング指導の充実 全国の情報科設置校の中でU−20プログラミング・コ ンテストに入選したところはまだ出ていない.また,情 報処理技術者試験についても,受験はしているものの, 合格状況は商業高校情報処理科の実績に比べると低い 水準にある.情報技術の本質は「ディジタル化」と「自 動化」にあり,プログラム技術の重要性は今も昔も変わ らない.「情報科」にはプログラミングの指導で情報処 理科に追いつき追い越すことが望まれる. (2)ネットワークの活用 いまどき,Webサイトを開設していない高校はないで あろう.情報科を設置する17校もそれぞれサイトを開 いているが,情報科らしい活用が見られるところは少な い. その中でそれらしい学校が2例ある. 1つは福岡県の嘉穂総合高校である.ここではWeb ショップを開店しており,農業学科で生産した農・畜産 物を販売している.これは,福岡県の「専門高校生実践 力育成事業」の一つで,インターネットを活用した電子 商取引による無店舗経営(電子商取引)を行うことによ り,ITを用いたビジネスの実践力を育成するもので,「課 題研究」の授業を通じて実践される.また,同校のホー ムページでは「嘉穂総合高校ニュース」が読めるし,校についても,すべての学科を一律に40人と横並びにす るのではなく,少人数で特色ある教育を行いたいとする 学科については30人以下にできることがのぞましい. 香川県坂出商業高校情報技術科の募集定員(=学級定 員)は30人である.香川県には,その他にも募集定員 30人∼35人の学科が多数ある. また,奈良県では一般選抜に先立って行う特色選抜で 入学定員の100%を募集することを認めており,奈良情 報商業高校の情報科は19年度入試で入学定員の1.28倍 の志願者を集めている. なお,情報科設置校は全国的に少ないことから,隣接 県からも入学希望者を募ることが考えられる.岐阜各務 野高校もその1つであり,木削11を隔てた愛知県からも 情報を学びたい生徒を迎えることができれば学校の活 性化につながるであろう. 行政においては,上のような例を参考に学校裁量の拡大 など入試制度の弾力化をはかり,情報の分野への興味・ 関心の高い生徒を広く集められるような方策を講ずる ように望みたい. その後に社会に出て活躍することになる.したがって, 専門学科「情報科」では「即戦力」となるような指導内 容を追いかけるのではなく,情報技術のしくみやプログ ラムの基本を確実に習得させ,それを将来に生かすため の指導を行うことが大切である. 専門学科「情報科」には,教育課程の運用の工夫や情 報通信ネットワークの積極的・主体的活用により,情報 処理教育を超える指導の充実を図ることが望まれる. 引用文献・参考文献 【1】理科教育及び産業教育審議会1969.12「情報処理教育 の推進について(建議)」 【2】理科教育及び産業教育審議会1997.10.1「今後の専 門高校に置ける教育の在り方等について(中間まと め)」 [3】理科教育及び産業教育審議会1998.7.23「今後の専 門高校に置ける教育の在り方等について(答申)」 [4]中央教育審議会2008.1.17「幼稚園,小学校,中学校, 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 について(答申)」 [5】教育情報社1970∼1977「日本情報教育」第2∼第86 [コ う▲ [6】科学技術の智プロジェクト2008.3「情報学専門部会 報告書」 11 おわりに かつての情報処理科と異なり,いま情報科に学ぶ生 徒は,卒業後ただちにIT関係の仕事に従事するものは ごく少数であり,多くは大学に進学して専門性を深め,