著者
小泉 隆文
雑誌名
福祉社会開発研究
巻
10
ページ
47-54
発行年
2018-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00009641/
福祉社会開発センター 客員研究員 東洋大学 社会学部
小泉 隆文
農福連携に関する既存調査の複合的検討
―アンケートの回答と自由記述の回答からの検討―
キーワード:知的障害のある人、農福連携、自由記述1.課題の設定
(1)研究の背景
近年、農福連携という言葉が浸透しつつある。農福 連携とは、字からも想像できる通り、農業と福祉が連 携することであるが、農福連携を実践しているとされ る事業の主なものは、知的に障害のある人が農業や農 作業に携わっているものである。 表1には知的に障害のある人が農業や農作業に携 わっている例を示した。第1に、知的に障害のある人 が就職先として農業経営体を目指す場合がある。知的 に障害がある人の一般就労としては、一般企業や官公 庁、病院など様々あるが、業務内容としては、清掃業 務、事務補助、工場ラインでの作業などが多い。しかし、 そのような作業に向かない人が農業経営体に就職した という例がみられている1)。 第2に、福祉事業所の作業科目として農作業が行わ れている場合である。農作業は、播種、定植、管理作 業、除草、収穫、洗浄など作業工程が多岐にわたるため、 障害を持った人に適した作業をみつけやすいという点 がある。 第3に、地域の活性化や地域の農業労働力として農 業・農作業を行う福祉事業所やその利用者が一役買っ ている場合がある。現在、日本の農業従事者が年々減 少傾向にあり、しかも、その多くが高齢者であるとい うことは周知の事実である。加えて、農業労働力が減 少している今日、耕作放棄地や不作付地も発生しやす い状況にあるが、そのような土地で農作業を行うこと で、地域農業の維持、それにともなう地域の活性化に つながっている場合がある。 農福連携の意味をここで確認してみたい。農福連携 は世間に周知され、浸透していくことで、様々な個人 や団体がこの用語を使用しているが、主な団体が使用 している内容を整理してみる。 全国の農福連携に関わる団体を包括するプラット フォームとして、農福連携の情報発信や啓発活動、さ らには農福連携全体のブランド化の推進、農福連携で 生まれた商品の販売促進などに取り組んでいる全国農 福連携推進協議会では、農福連携を「ノウフク」とし、「働 く場としての農業と、働き手としての障がい者をつな ぐこと。そこから多様性に富んだ地域コミュニティを 表1 障害のある人が農業や農作業に携わっている例 事項 内容 就職 農業経営体への就職 事業所としての作業 福祉的就労としての 農業・農作業 地域での役割 新たな農業労働力 地域活性化の担い手 資料:筆者作成生み出し、日本の食、経済、暮らしを元気にしていき ます。」としている2)。 自然農法に取り組む障害者支援施設のネットワーク である自然栽培パーティでは、「全国の障害者施設が手 を取り合って助け合って、障害者にあった仕事づくり に挑戦します。」とある3)。 農林水産省では、政策においては農業と福祉の連携 だけではなく、医療も含めた「医福食農連携」という 言葉を使用している。「医福食農連携とは、機能性食 品や介護食品の開発・普及、薬用作物の国内生産拡大、 障害者等の就労支援など「農」と「福祉」の連携等の 医療・福祉分野と食料・農業分野との連携の取組を指 します。」としている4)。また、農村振興としては『「農」 と福祉の連携』として「高齢農業者の経験や知識、技 術を活かし、生きがいを持って農業に関する活動を行 うことが継続できる環境づくりを推進しています。ま た、主に知的・精神的に障害のある人の農業分野での 就労を支援します。」としている5)。 このように、農福連携とは文字通り農業と福祉の連 携ではあるが、その目的や意図する内容は幅が広いも のとなっている。しかしながら、ここでいう「福祉」 の中でも、中心となっているのは、障害のある人が農業・ 農作業を行うことといえよう。それは、農福連携の実 践や研究の発端が、障害のある人と農業の連携であっ たことに起因すると思われる。したがって、いま浸透 している農福連携の意味は、「農業の担い手不足と障害 のある人の働く場をマッチさせること」、といえよう。 農福連携という言葉が浸透してきたもう1つの理由 として、2020年に開催される東京オリンピックが大き く関係しているように思われる。東京オリンピックの 食材調達については、農産物・畜産物については、「食 材の安全を確保」としてJGAP、 GLOBALG.A.P.の認証 が要件となっていたり、「作業者の労働安全を確保」と して、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じ られていることが要件となっているが、推奨される事 項として、「障がい者が主体的に携わって生産された農 産物(畜産物)」という事項が示された6)。 このように国内ばかりでなくグローバルに開催され るイベントがある一方で、農業労働力が減少・高齢化 している状況のもとで、農業労働力の新たな担い手と して、また、障害のある人の一般就労、福祉的就労の 新たな方向性として農福連携はこれから進んでいくこ とが予想される。
(2)研究の目的
農福連携が浸透はしてきたものの、福祉事業所で農 福連携を実践するには、様々な障壁が立ちはだかって いる。それは栽培技術的なものや、障害のある人との かかわり方、地域に理解をしてもらう方法などである。 このような背景をふまえ、本稿では、農福連携とい う言葉がまだ浸透する前に行われた既存の調査結果と 農福連携という言葉が使用された後の調査結果を踏ま え、浸透前と浸透後で事態がどのように変化しつつあ るかを考察することが目的である。農福連携の「福」 の部分は高齢者なども含めた広い意味ではなく、障害 のある人を対象としたものとする。 検討に使用した既存調査は、障害のある人を雇用した り、ともに作業をした農業者を対象とした調査の結果 である。時代背景を考えると、現在のように農福連携 ということばがまだ浸透する前に行われた調査であり、 福祉政策においても現在とは異なる状況にある。いわ ば、まだ障害のある人が地域で生活していくことを推 進していく政策があまり強調されていない時代のもの もある。このような過去の調査結果から、農福連携が 浸透した現在にいたるまで、当時の不安や困難がどの ように解決されていったのかを考察することは、今後 のわが国のソーシャル・インクルージョンを進めてい く上で検討の際に資するもののひとつになると思われ る。2.分析結果
(1)分析の対象とした調査の概要
本稿では既存に実施された3種の調査結果を分析対 象とする。その中で、なるべく3種に共通した質問や 自由記述を選択し、その回答と現状についての考察を 行う。 本稿で分析対象とした既存の調査を表2に示した。 第1に、「農業分野における障害者雇用の現状と問題点 (1)(2)」である。これは『農政調査時報』に発表さ れた論文であり、『日本障害者雇用促進協会』から農業 問題研究会が『農業分野における障害者雇用促進策に 関する調査研究』の委託を受けたものである。1993年 と1994年の2回に分けて実施された調査であり、個人経 営、法人経営合わせて228の経営体を対象に行われた調 査である。 第2は、『障害者の就労の場としての農業』である。 この調査は、全国の社会就労センターや障害のある人 の雇用を実践している農業経営体を対象に2002年と 2003年に実施された調査である。量的調査と農業経営 体への事例調査を複合的に行った調査であり、農福連 携について体系的に行った調査のさきがけとなるもの である。 第3は、『障害者の農業活動に関するアンケート調査』 である。きょうされんが実施し、分析を農林水産省農 業政策研究所が行った調査である。きょうされんに加 盟している福祉事業所すべての事業所の1,553事業所を 対象に、2010年に行われた調査である。 これら3つの調査では、障害のある人と農業・農作 業を行っている理由、障害のある人はどのような作業 を行っているか、が共通している項目である。しかし、 農業経営者が調査時点で、どのような点を不安に思っ ているか、どのような点が効果として考えられるかと いった点は共通する質問だけではなく、むしろ共通し ない質問や自由記述によく表れていると思われるため、 共通した質問項目に限らず、今後、農福連携の実践に 関与しそうな質問項目や自由記述について検討を行う こととする。(2)農福連携実践の内容
①農作業導入の契機と理由、作業内容、就労
知的に障害のある人を雇用している農業経営体や農 作業を導入している福祉施設へのアンケート調査結果 を示す。表3には、調査ごとにみた農作業、就職に関 する質問項目と結果を示した。明らかになったことは 次のとおりである。 福祉事業所で農作業を導入した理由で最も割合が高 いのは、「健康・精神に好ましい(62.6%)」が最も高い。 健康についてであるが、農作業は主に室外での作業が 多く、事業所から圃場までの移動も歩いていく場合が 表 2 本稿で対象とした既存の調査 調査・報告書名、【調査対象】 実施主体、調査対象 公刊年次、発表雑誌 ① 「農業分野における障害者雇用の現状と問題点 (1)(2)」【農業経営者】 農業問題研究会 1998年 『農政調査時報』 第503号、pp.38-47 『農政調査時報』 第504号、pp.43-52 ②『障害者の就労の場としての農業』【農業経営者】 農村生活総合研究センター 2004年 ③『障害者の農業活動に関するアンケート調査』 【福祉事業所】 きょうされん 農林水産政策研究所 2012年 資料:各資料より作成ある。そのことが日頃の運動不足解消や機能訓練につ ながっていると思われる。また、精神面でいえば、② の自由記述には、作業にはよるものの「対人ストレス が少ない」「屋外や自然の中での作業による情緒安定」 「一連の流れがわかりやすい」「自分のペースで取り組 める」といったことが理由としてあげられている。次 に高いのは「収穫農産物の販売(50.5%)」である。こ の理由としては、福祉作業所における工賃アップとい う目標が背景であることが考えられる。福祉作業所の 多くは、チラシ封入や解体など室内での簡易作業が多 く行われている。1工程が1円にみたない銭の世界で あり、利用者の工賃を上げるのは容易なことではない。 表 3 調査ごとにみた農作業、就職に関する質問項目と結果 質問区分 ① ② ③ 農業を行う理由 農業を行う理由 健康・精神に好ましい 62.6% 他作業が減少した 19.6% 施設内への食料供給 22.1% 収穫農産物の販売 50.5% 自主製品の材料調達 27.4% 農家等の支援あり 19.2% 借りられる農地の増加 20.3% その他 21.4% 作業内容 知的障害者の仕事の内容 作業補助 53.0% 掃除 50.4% 雑用 33.3% 給餌 30.8% 管理補助 12.8% 除草 12.8 農作業全般 11.1% 採卵 8.5% 収穫 7.7% 選別 6.8% 搾乳 3.4% 草刈り 4.3% その他 12.8% 農業活動の内容 雑草取り等 74.0% 収穫農産物の加工・調理 31.7% 土づくり 33.1% 植付け、収穫等 74.7% 機械作業 19.6% 収穫農産物の袋詰め 46.3% 家畜の世話 3.6% 収穫農産物の販売 51.2% その他 14.6% 向き不向き 知的障害者は農業に向いているか 非常に向いている 17.2% 他の仕事より向いている 29.9% どちらともいえない 49.0% あまり向いていない 3.8% 農業分野への就職 知的障害者の雇用継続のための条 件整備 家庭の協力 49.1% 住宅の確保 8.9% 近隣・地域の理解 11.6% 学校・施設の協力 14.3% 余暇活動の整備 6.3% 事前の職業訓練 40.2% 行政の支援体制 45.5% その他 6.3% 農業経営体への就職 他産業より難しい 32.5% 他産業と大差ない 15.2% 他産業より容易 4.0% なんともいえない 48.3% 農業経営体への就職した場合の継 続の難しさ 他産業より難しい 15.2% 他産業と大差ない 24.5% 他産業より容易 12.6% なんともいえない 47.7% 資料:各資料より作成。
その一方で、国からは各事業所の平均工賃をアップさ せることが求められており、頭を悩ませている事業所 は多い。そのような状況のもと、農産物を育て、工賃 のアップにしようとしている事業所があることを示し ている。 作業内容については、①では「作業補助(53.0%)」、「掃 除(50.4%)」が高く、③では「植付け、収穫等(74.7%)」、「雑 草取り等(74.0%)」が順に高い回答となっている。③ で高い割合を示す収穫や雑草取りについては、①では 「除草(12.8%)」「収穫(7.7%)」となっている。この違 いは、①は農業経営体を対象とした調査のため、商品 となる農産物の収穫は、知的に障害のある人にはあま り従事させていないことが考えられる。その理由とし ては②の自由記述によると「大きさがわからない」「色 の見分け方を教えるのが難しい」のが理由である。また、 除草に従事する割合が低いのは、②の自由記述をみる と、「雑草と苗の区別がつかないで両方抜いてしまう」 「移動中に作物を踏みつけてしまう」という回答が示さ れている。このように、農作業の目的、事業所の違い によって、知的に障害のある人が担う作業は明確に異 なっていることがわかる。 「 向 き 不 向 き 」 に つ い て は、「 非 常 に 向 い て い る (17.2%)」「他の仕事より向いている(29.9%)」、「どち らともいえない (49.0%)」となっている。向いている と回答したものを合わせると47.1%となり、向き不向き でいえば、知的に障害がある人にとっては、農作業は 向いていると考えられていると言えよう。その一方で 「どちらともいえない」と回答している人もいること ②の自由記述では「個人個人の性格など様々あるので、 向き不向きはいえない」「障害者が参加する余地はほと んどない」「臨機応変さには欠ける」などがあげられて いる。長い期間、作業状況をみないと向いているかど うかの判断がつかないということであろう。 「農業分野への就職」をみると、「知的障害者の雇 用継続のための条件整備」については、「家庭の協力 (49.1%)」「行政の支援体制(45.5%)」「事前の職業訓練 (40.2%)」となっている。家庭での支援の必要性は農作 業に限ったことではない。また、受入側と働く側のマッ チングを行政に担ってほしいということが表れている。 また、就職するにあたっては事前に訓練をすることを 必要としている意見が多く、少しでも早くから農業経 営体の即戦力が期待されているといえよう。自由記述 をみると「本人自身の問題と、回りの支える環境がど うであるかが、継続の要因となり得るようにも思われ る」という意見がある。また、農作業の特性について 触れているものもあり、「農業収入は変動しやすく、安 定しないため、完全雇用になかなか結び付かない」と いう雇用する側の問題も表れている。 「農業経営体への就職」「農業経営体への就職した場 合の継続の難しさ」については、ともに「なんともい えない」が半数以上の経営者がすぐに決断を出せない 状態であることがわかる。作業によってはできること やできないことがあることに加え、より多くの作業の 中で一部の作業しか経験していないことが予想される。 農作業は様々な作業があることから、多くの作業を行 うことが可能になると、この割合は低くなると思われる。
②農作業の継続性と不安要素
表4には調査ごとにみた農作業の継続性と不安要素 に関する質問項目と結果を示した。福祉事業所におい て「農業活動をやめた理由」をみると「専門スタッフ 確保困難(49.2%)」が最も高い。「知識・技術がない (40.0%)」も次いで高く、農業技術取得の難しさが如 実に表れている。花壇整備やなどの環境整備であれば、 特殊な技術は必要としないが、農産物を生産し、収穫 したものを販売なり施設内消費などで、商品として扱 うものを生産するには、それなりの栽培技術が要求さ れる。また、農作業は播種と収穫だけではなく、除草、 間引きのタイミングや生育状況に必要な処置も必要と されてくる。これらの点は、農作業の未経験者や経験 が少ない職員にとっては、克服するのは難しく、また、長い年月がかかるものである。地域に、元農業経営者 などの経験者が存在していれば、職員として受け入れ たり、アドバイザーとして福祉事業所と関わりを持っ てもらうこともできるが、近隣にそのような人材がい ないと、栽培技術を取得することは難しく、そのこと が農作業の継続を困難にさせていると考えられる。 「知的障害者を雇用することで心配な点」をみると「事 故が起きた時の責任(72.7%)」が最も高い。これは知 的に障害のある人に限った話ではなく、農業以外の業 務でも考慮されるべき事項である。しかしながら、知 的に障害がある人、もっと厳密にいえば、雇用した知 的障害のある人の個性、得意な作業、不得意な作業と も大きく関連する。特に、知的に障害のある人が農機 具を使用する際に顕著に表れていることが考えられる。 自由記述をみると「農機具等を扱うことに対して意欲 的に取り組む」という意見がある一方で、「鋤、鎌、鋏 等の農具を使用する為、安全には細心の注意を要する」 「農機具を使っての作業に危機管理的なことを考える なら、踏み込んで機械の使用が慎重になる」という意 見が出ている。知的に障害のある人が農機具を使用す ることについては慎重になっていることの表れである。 そういった中で、「作業工程の中で、用具、道具の工夫 をしている」という意見もあり、雇用者側の努力がみ られてもいる。 また、「仕事以外の生活の面倒 (53.4%)」も割合が高 い。日頃の農作業ばかりでなく、生活のことも考えな くてはならない点が、雇用する農家側の負担を大きく している可能性がある。特に、知的に障害のある人に ついては、雇用主が日頃考えなくてはならないことも 考慮する必要性が出てくる。また、金銭的な管理も要 求される場合もある。そういったなかで、先ほどの回 答にもあったように、家庭での支援や、行政機関との 連携の必要性が叫ばれていると考えられる。
3.考察
以上の分析結果から、農福連携を実践には知的に障 害のある人にとって有効な面がある一方で、実際の農 作業を行うには考慮すべき点もあることが明らかに なった。 第1に、有効性については、知的に障害のある人にとっ て農作業が向いていることが1つの要素になると思われ る。自由記述で、農作業が知的に障害のある人に向い ていると思う理由をあげてみると、「できる作業があ る」という回答が多い。この理由としては「重度者を 表 4 調査ごとにみた農作業の継続性と不安要素に関する質問項目と結果 質問区分 ① ② ③ やめた理由 農業活動をやめた理由 専門スタッフ確保困難 49.2% 知識・技術がない 40.0% 土地がない 28.8% 資金がない 34.2% 本人や家族がやりたがらない 30.5% 協力農家がない 15.3% 心配な点 知的障害者を雇用することで心配な点 事故が起きた時の責任 72.7% 仕事以外の生活の面倒 53.4% 高齢化した時のこと 25.0% 給料水準の問題 5.7% その他 13.6% 資料:各資料より作成。含め、できる作業がある」「作業が多種にわたっている」 「単純作業が多い」があげられている。育苗ポットに1 つ1つ種を播くという細かい作業もあれば、用具を洗 浄する作業やミニトマトの収穫、収穫したものをいれ る袋にシールを貼る作業など、同じ作業を延々と行う 作業もあり、その人の特徴や得意なものに照準をあわ せて作業を行うことができるのが農作業である。この ことは、作業ペースについてもいえることで、「自分の ペースで取り組める」という自由記述がある。スピー ドを要求される作業を好む人がいる一方で、自分のペー スでゆっくり作業をすることを好む人いる。これらを 作業する人の適性に合わせることができるのが農作業 である。以上のことが、知的に障害のある人にとって 農業が向いていると考えられる理由である。 第2に考慮すべき点であるが、先ほどの結果から、工 夫している点についての記述があった。作業を教える 際には「職員が常にそばにつく」「実際にやってみせる」 「絵や図で説明する」という自由記述がある。言葉だけ で作業内容を理解するのは難しい人がいる中で、言葉 だけではなく視覚的に理解できるよう工夫したり、1度 きりではなく何回も教えることで作業を身に着けても らえるよう工夫していることがうかがえる。1度作業が 身についてしまえば、効率も良くなることが期待でき ることから、知的に障害のある人には根気よく作業内 容を指導することが求められるといえよう。 また、使う道具についても工夫がみられている。授 産作業でも補助具を使用する例はみられるが、農作業 も同様である。自由記述では「札やテープで作物を識 別する」「はかりに250g、300gなどの印をつける」な どの意見がみられる。袋詰め作業では重さを測り、決 まった量だけを袋詰めする作業があるが、はかりに印 をつけ、はかりに農産物を載せて印のところまで来た ら袋に入れることを教えると、知的に障害のある人に とっては作業が行いやすい。重さの概念の理解が難し い人にとっては、針が印のところまで来たら袋に入れ る、とシステマチックに指示したほうが良い場合が多 いと思われる。 また、地域との関係や社会参加という面についても ふれてみたい。地域とのかかわりを重視する自由記述 もみられており、「販売を通じて交流する」「農家から 職員への技術指導」「作業の受委託をする」という意見 がみられる。知的に障害がある人は社会参加する機会 があまり多くなく、そのことが原因で近隣住民と接す る機会も多くない場合が多い。また、知的に障害があ る人が属している福祉事業所が、いったいどのような 施設なのか、何をしている施設なのかも、まだまだ近 隣住民に知られていない例もある。しかし、地域で暮 らす仲間として、地域住民に自らの存在をアピールし、 地域に理解をしてもらうことはソーシャル・インクルー ジョンを進めるうえでも必要となってくると思われる。 すべてを福祉事業所や関連機関、関係者などで完結 するのではなく、自分たちには難しい農業技術の修得 や、生産した農産物の販売策の確保などは、地域住民 という社会資源にゆだねても良いのではないだろうか。 そのような社会に働きかけていくことがソーシャル ワークであり、それをつくっていくツールとして農福 連携は有効なものであると思われる。 注 1)大澤史伸(2010)『農業分野における知的障害者の雇用促 進システムの構築と実践』みらい、などにくわしい。 2)ノウフクホームページ(http://noufuku.jp/about) 3)自然栽培パーティホームページ (http://shizensaibai-party.com/) 4)農林水産省ホームページ http://www.maff.go.jp/j/keikaku/ifukushokunou.html 5)農林水産省ホームページ http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kourei.html 6)農林水産省生産局H29資料『生産局農産物・畜産物の調達 基準を踏まえた 農林水産省の取組状況について』 参考文献 新井利昌(2017)『農福一体のソーシャルファーム』、創森社 濱田健司(2013)「基調報告 我が国の障がい者福祉制度と障が い者雇用の現状、農福連携へむけて」『共済総研レポート』 第127号、pp.3-13
小泉隆文(2013)「障害者支援施設における農作業導入の意義」 『東洋大学大学院紀要』第50号、pp.227-239 小柴有理江 、吉田行郷(2016)「地域における農業分野での障 害者就労の支援体制の構築」『農業経済研究 』第87巻、第 4号、pp.412-417 吉田行郷(2016)「農業分野での障害者の働く場の創出に向け た取組とその農業・農村への影響」『農村と都市をむすぶ』 第66巻、第8号、pp.7-18