認知症高齢者の看取りと「食支援」の実態 〜介護者支援のための食事サポートブックの開発〜
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(2) 1. はじめに わが国の認知症高齢者の数は、2025 年には 65 歳以上の高齢者の約 5 人に 1 人の約 700 万人に達することが見込まれている。そのような中、認知症高齢者グループホームやサービ ス付き高齢者住宅は、介護保険制度において在宅サービスに位置付けられており、高齢者の 自宅にかわる住まいとして注目され施設数を伸ばしている。特に、認知症高齢者グループホ ームは、介護保険制度が施行された当初から、認知症ケアの切り札として急速に数を伸ばし、 今後益々、認知症高齢者の住まいとして期待が高まることが予想される。 認知症高齢者グループホームやサービス付き高齢者住宅では、医療処置を要する者の増 加や介護の重度化が報告されるなど、近年、入居者の加齢に伴う認知症の進行及び重度化が 指摘されている。認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,以下 BPSD)は、認知症高齢者の日常生活に影響を及ぼし、BPSD に対応する ケア方法が検討されている。なかでも食に関する課題は多く、認知症高齢者の BPSD と食 事摂取に関し、食事の拒否や摂食障害などの課題が指摘されていることからも、入居者に対 する食支援の体制整備が求められる。高齢者の終末期においても、QOL の保持・向上を目 的とした食の支援が求められている。認知症高齢者グループホームやサービス付き高齢者 住宅は、介護保険制度において在宅サービスに位置付けられていることからも、栄養士およ び管理栄養士の配置義務がなく、特別養護老人ホーム等で実施されている管理栄養士によ る栄養ケア・マネジメントは実施されていない状況にある。要介護度の重度化に伴い、摂食 嚥下機能の低下もみられるものの、食事形態が適切でないことをひとつの要因とした余命 の減少、誤嚥性肺炎の発症や、栄養状態低下による再入院を繰り返すことに繋がる恐れも懸 念される。実際に、認知症高齢者グループホームやサービス付き高齢者住宅では、終末期に 対するケアも行われているが、看取りに関する食事支援の実態や介護者の困り事について の報告は、ほとんど見られない。 近年、介護保険施設では、 「食べること」への支援を通して低栄養状態の予防・改善と高 齢者の自己実現を目指す取り組みなどが行われ、その効果が報告され始めているが、認知症 高齢者グループホームやサービス付き高齢者住宅における「食べること」に関する取り組み 状況は、これまでほとんど報告されていない。 そこで、本研究では、認知症高齢者の食環境整備と低栄養状態の予防及び改善により要介 護状態の重度化予防と生活の質の向上を目的とした基礎資料を得るために、認知症グルー プホームとサービス付き高齢者住宅における食事提供と看取りの食に関する支援の状況を 明らかとするとともに、食事サポートレシピブックの作成を行うものである。 2. 方法 1) 認知症グループホームとサービス付き高齢者住宅における食事提供の実態調査 看取りを実施している認知症高齢者グループホームの食支援の実態把握を目的として、 関東地域の A 県で看取りを実施している 395 施設について、独立行政法人福祉医療機構の 公開データのうち食事支援に関わる項目をデータベース化した。データベースをもとに、実.
(3) 際の食事提供の状況について看取りを実施している認知症高齢者グループホーム 395 施設 の管理者及び看取りを経験した職員と、サービス付き高齢者住宅 1 都 2 県 386 施設の管理 者に対して、質問紙調査を行った。それぞれの調査項目は、認知症高齢者グループホームの 管理者に対しては、基本事項、食事提供に関する項目、入居者状況に関する項目とした。認 知症高齢者グループホームの看取りを経験した職員に対しては、記入者自身に関する基本 情報、担当しているユニットの終末期に関する項目、担当しているユニットの食事内容に関 する項目とした。サービス付き高齢者住宅の管理者に対しては、基本事項、食事提供に関す る項目とした。また、認知症高齢者グループホームの看取りと食支援の状況、サービス付き 高齢者住宅の看取りの状況と食事提供の実態については、協力を得られた各施設の施設管 理者や食事担当者に対しヒアリング調査を実施し情報を得た。食事内容の検討を目的とし て、2 次データを用いて、認知症高齢者グループホームのひと月分の献立内容を分析した。 2) 食事サポートレシピブックの作成 食事サポートレシピブックは、介護者支援と、低栄養状態の予防及び改善による要介護状 態の重度化予防と生活の質の向上を目的として作成した。作成にあたり、高齢者の栄養上の 課題を抽出し、内容を検討し、フレイル対策、低栄養予防、貧血予防、便秘改善を目的とし たレシピを考案し、介護者や高齢者の調理負担を軽減するためのコンビニ活用法とレシピ を作成した。 3. 結果 1) 認知症グループホームにおける食事提供の実態 ①質問紙調査の実施 対象は、平成 30 年 7 月現在、関東地域 A 県で看取りを実施している 395 施設の管理者 及び看取りを経験した職員 900 名(各施設2名)とした。管理者の回収数および回収率は、 101 施設(25.6%) 、職員は 144 名(18.8%)であった。2018 年 8 月 29 日時点。 平成 30 年 7 月時点で、入院をしている者の割合は、12.7%であり、複数あげられた入院 理由は、大腿骨頚部骨折4名、誤嚥性肺炎 3 名であった。医療機関から直接入居した者は、 29.1%であった。過去 1 年間の入院の有無では、入院ありが 38.0%で、2 名が 17.7%と最も 割合が多く、最大実数は 8 名であった。 食事で個別対応を行っている症状は、便秘 36.7%、下痢 31.6%、食欲低下 55.7%、食事 摂取量低下 65.8%、発熱 41.8%、低栄養 48.1%、摂食・嚥下困難 87.3%、好き嫌い 59.5%、 アレルギー45.6%であった。調理形態では、主食がご飯以外の者は、51.9%、きざみ食やミ キサー食の対応は 58.2%であった。また、多くの施設で、栄養補助食品やとろみ剤の使用が 確認された。管理栄養士による居宅療養管理指導の利用は、5.1%であった。 終末期に家族から食事について、問い合わせがある内容は、食事量 46.9%、水分量 39.8% が多くみられた。その他、調理形態や差し入れの内容などについて等であった。 ②ヒアリング調査の実施 東京都内の医療法人 A が運営するグループホームに協力を得て、施設管理者及び食事担.
(4) 当職員に対し、入居者の摂食嚥下機能の状提供している調理形態、食事作りの課題について ヒアリングを行った。料理カードのニーズについては、職員の調理経験や技術の違いから簡 便な調理レシピや献立作成の基礎知識、摂食嚥下困難者用のメニュー提供、調理を活用した レクリエーション内容があげられた。また、認知症高齢者向けのグループホームと同様に、 自宅ではない在宅としての位置づけのサービス付き高齢者向け住宅においても、認知症高 齢者の入居と見取りが行われている実態について情報を得た。また、摂食嚥下困難者に対す るとろみ調整方法についても、マニュアルや情報提供の必要性が確認された。以上のヒアリ ング内容を参考に、質問紙調査票を作成した。 ③献立内容の分析の実施 東京都内の医療法人 A が運営するグループホームに協力を得て ABC 分析を行ったひと 月分の献立表の 2 次データを用いて、使用食品の分析を行った。使用している食品数は、 130 品目で、使用回数が多い食品名と回数及び構成比は、精白米 50 回(6.5%) 、きゅうり 45 回(5.9%) 、にんじん 42 回(5.5%)の順であった。 全食品のうち、出現率の累積構成比率が 75%以内の使用頻度が高い食品 56 品について、 食品群別に出現回数を検討した。食品群分けは、日本食品成分表 7 訂に準じ、18 群に分類 した。食品数が多い順に、野菜類 6 品、肉類 4 品、穀類 3 品、いも及びでん粉類と魚介類 が各2品であった。0品は、砂糖類、きのこ類、油脂類、菓子類、し好飲料類、調味料及び 香辛料類、調理加工食品類であった。 2)サービス付き高齢者住宅における食事提供の実態 ①質問紙調査の実施 対象は、関東圏内 1 都 2 県 386 施設の管理者とした。回収数および回収率は、112 施設 (29.0%)であった。2018 年 8 月 29 日時点。 平成 30 年 7 月時点で、入院をしている者の割合は、33.3%であり、入院理由のなかには、 食欲不振からの栄養状態不良、血糖コントロール、認知症悪化による食事量低下、体調不良、 誤嚥性肺炎、褥瘡など、食事や栄養状態に関連する内容が複数みられた。医療機関から直接 入居した者は、36.9%であった。調理形態では、主食がご飯以外の者は、50.5%、きざみ食 やミキサー食の対応は 45.9%であった。管理栄養士がいたら相談したいですかとの問いに は、29.7%がはいと回答していた。 ②ヒアリング調査の実施 協力の得られたサービス付き高齢者住宅の管理者にインタビュー形式で調査を行った。A 施設では、看取り推進、社会貢献と地域防災の 3 つを施設の使命としていた。看取りの対応 は、入居者との合意が行われていて 3 年間で 7 名を看取った経験があった。食事について は、栄養的なことよりも家庭に近い美味しい味付けを望んでいた。個別対応では、塩分調整 や腎臓病食、カロリー調整の食事対応を行っていた。入居者の認知症に伴う行動・心理症状 のうち、食事中の症候症状では、失念、拒食、興奮、盗食などがみられることから声掛けが 行われていた。B 施設では、管理者と各フロアの責任者にインタビューを行った。看取り対.
(5) 応は、併設している医療機関のかかりつけ医と連携し、訪問看護や訪問介護、施設職員とは ノートを共有していた。エンシュアなど栄養補助食品を利用しながら対応した経験がある。 食事は、地域にも開放されたスタイルになっていて、基本は食堂にて食事をすることになっ ている。食器にも配慮がされていた。認知症高齢者は、食事を忘れるなどがあることから、 声掛けや、食堂の席を固定するなどして対応していた。体調不良時には、お粥を提供するな どの個別対応が行われている。C 施設では、看取り時には、医療スタッフと介護スタッフが 相談して食事内容など決定している。家族に対し、高カロリーな差し入れを依頼するなどし ていた。認知症高齢者の食事中の症候症状では、傾眠、大声、盗食、異食、早食い、手づか み食べなどが出現し、配膳職員が対応していた。D 施設では、看取り対応は行うが、開設間 もないため事例はなかった。E 施設では、認知症高齢者の食事中の症候症状として、食事の 失認、徘徊が見られることから配膳スタッフが対応していた。 3) 食事サポートレシピブックの作成 今回は、介護者支援を目的に食事サポートレシピブックを作成した。内容は、フレイル対 策、低栄養予防、貧血予防、便秘改善、を目的とした情報提供と共に、コンビニ食品を活用 するなど手軽に調理可能レシピ掲載とした。レシピは、全体で 37 点考案し、関東学院大学 栄養学部の 3 年ゼミ生の協力を得て調理と撮影を行い完成した。今後、高齢者や地域住民 を対象とした地域活動や認知症高齢者グループホームの職員、サービス付き高齢者住宅の 入居者や職員に対して、情報提供と配布を行う予定である。 4. 考察 認知症高齢者グループホームの入居者のうち、平成 30 年 7 月時点で、入院をしている者 の割合は、12.7%にのぼり、過去 1 年間の入院有りが 38.0%であった。これまで、入居者の 医療処置を要する者の増加や介護の重度化が報告されているが、同様の結果となった。また、 医療機関から直接入居した者も、29.1%にのぼることから、在宅の位置付けではあるものの、 認知症高齢者グループホーム入居者の医療依存度が高いことが推察された。食事において も、摂食・嚥下困難に対して 87.3%が個別対応を行っており、その他、食欲低下や食事摂取 量低下などについても、半数以上の施設で個別対応が行われている。調理形態についても、 ご飯や常食といった通常の食事の提供は、半数以下であることが確認された。以上のことか らも、認知症高齢者グループホームの入居者の低栄養状態のリスクが高いことが推察され るため、栄養面での支援方法や体制の構築が求められる 献立内容の分析では、食材費や調理工程等によって食品の使用頻度の影響が考えられた。 また、高齢者の摂食・嚥下機能に合わせて、献立作成や食品選択を行っていることが伺えた。 きのこ類は、咀嚼機能が低下している高齢者に対し、使用しにくい食品であるが、食物繊維 やビタミン D の摂取が期待できることから献立作成上の工夫を提案する必要がある。高齢 者の低栄養状態予防のためには、エネルギーとたんぱく質を適切に摂取する必要がある。よ って、エネルギー源となる油脂類の工夫や、肉類以外にも、たんぱく質源である卵類、乳類、 魚介類、豆類等の利用も望まれる。特定給食施設では、対象者に適した献立作成をする場合、.
(6) 給与栄養量や食品構成を設定することから、各食品群をまんべんなく使用することが可能 となる。認知症高齢者グループホームにおける食品構成表の活用についても、今後検討する 必要があると考えた。 サービス付き高齢者住宅の平成 30 年 7 月時点の入院者割合は 33.3%であり、入居者の医 療依存度の高さが伺えた。また、入院理由には、食事や栄養状態に関連する内容が複数みら れた。また、サービス付き高齢者住宅の管理者に対するインタビュー調査では、いずれの施 設においても看取りの対応がなされていること、認知症高齢者の食事中の症候徴候が出現 している実態が明らかとなったことから、介護予防や重度化予防の視点で栄養面での支援 体制が必要と考えた。 5. まとめ 認知症高齢者グループホームとサービス付き高齢者住宅のいずれにおいても、入院の状 況から入居者の医療依存度が高いことが推察された。また、食事の個別対応や調理形態の調 整等が行われていることや、認知症高齢者の食事中の症候徴候が出現している実態が明ら かになったことから、介護予防や重度化予防の視点で栄養面での支援体制が必要と考えた。 本研究で得られた結果について、今後も詳細な分析をすすめ、食事提供と看取りの食に関 する支援の状況を明らかにすると共に、データベースの内容との関連を検討することで、認 知症高齢者の食環境整備と低栄養状態の予防及び改善の基礎資料としたい。 6.謝辞 本研究にご協力頂いた皆様に心よりお礼申し上げます。本研究は、公益財団法人在宅医療 助成勇美記念財団の助成により実施した。 【感想】 本研究は、認知症高齢者の食環境整備と低栄養状態の予防及び改善により要介護状態の 重度化予防と生活の質の向上を目的とした基礎資料を得るために実施しました。聞き取り 調査や質問紙調査により、認知症グループホームとサービス付き高齢者住宅における食事 提供と看取りの食に関する支援の状況や、管理者や職員の方の食事に対する意識や困りご となどの一端を明らかとすることができました。また、本調査をきっかけとして、認知症高 齢者グループホームやサービス付き高齢者住宅への支援活動を継続することとなりました ので、今後も継続して、課題の抽出と支援方法の検討を行って参ります。質問紙調査では、 調査票の回収率向上のため、各施設へ電話にて協力依頼を行いましたが、その際、食事や栄 養に関する困りごとなどについて、直接お話を伺える機会もありました。質問紙は、集計分 析後にも、引き続き返送されてきていることから、返送分も追加入力しさらに分析を行うよ うに致します。改めて、助成賜りましたことに深謝致します。.
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