原 著 〔東女医大誌 第60巻 第3号頁272∼280平成2年3月〕
主膵管閉塞症例の病理学的並びに臨床的検討
東京女子医科大学 消化器内科学教室(主任 小幡 裕教授) イシ グロ ピサ タカ 石 黒 久 貴 (受付 平成元年8月1日)Pathological and Clinical Study of Blockagb of Main Pancreatic Duct in ERCP(Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)
Hisataka ISHIGURO
Department of Gastroenterology, Tokyo Women’s Medical College
In patients with a blockage of the Inain pancreatic duct in ERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatography), surgically resected specimens of the pancreas were examined histo− pathologically to see the mechanism of such blockage. Among 50 cases,23 had pancreatic carcinoma, 13had chronic pancreatids,5had pancreatic cysts,5had pancreatic cystadenocarcinoma,2had pancreatic cystadenoma. Two had islet cell tumor. The reasons of the blockage divided into 3 groups based on. the pathological aspects of the part=1)an obstruction in the lumen of the main pancreatic duct,2)occlusion caused by a lesion in the main pancreatic duct wall,3)compression coming out of the main pancreatic duct. Almost a11 cases of carcinoma of the pancreas had obstruction,with only l case having.compression. In chronic pancreatitis,the pr㏄ess was mainly obstruction or compression,with no cases of occlusion. All cases of obstruction were caused by pancreatic stone. There was compression
in all cases of pancreatic cyst. All were by occi.usion in islet cell tumor, pancreatic cystadenocarcinoma,
and pancreatic cystadenoma.
..As a dinical study, we listed basal disorders of 151 cases that showed main pancreatic duct blockage in preoperative ERCP. Seventy−nine point five had malignant tumor of the pancreas,12.6% had chronic pancreatitis, and 6。0%had pancreatic cysts. The characteristic findings of ERP (endoscopic retrograde pancreatography)of pancreatic carcinoma displaying 1hain pancreatic duct blockage were uneventful main pancreatic duct at the caudal site of blockage, with less dilatation, no
pressure deviation, but disapPearance of the branches. in the vicinity of the blockage site. On the other
hand, the characteristics in ERP of the cases with chronic pancreatitis were frequent dilatation of the visualized main pancreatic duct, little deviation, irregularity on the wall of the main pancreatic duct, and visualized branches at the blocked part. Cholangiogram gave no 6ignificantly special insight into the malady. はじめに 膵癌は,臨床的にきわめて重要な膵疾患のひと つである.しかし,膵癌の診断は必ずしも容易で はない.また,膵癌と診断はできても,そのほと んどは,既に進行癌の段階に達しているのが実状 であるユ)∼3). このような膵疾患診断の現況において,直接造 影である内視鏡的逆行性膵・胆管造影法endos−
copic retrograde cholangiopancreatography (ERCP)は,診断の確定の上でも,除外診断にお いても,その役割は重要である. ERCPの所見のなかで,主膵管の閉塞は最も明 確な所見であり,かつ臨床上しぼしぼ見られる異 常所見の一つである.主膵管の閉塞は膵癌に特徴 一272一
的である.一方,主膵管の閉塞をきたす疾患は慢 性膵炎をはじめ,多様であり,その鑑別診断は臨 床的に重要な問題である1).主膵管閉塞の成立機 転としては,①管腔内障害物,②膵管壁そのもの の変化,③管外性圧排の3者が考えられるが,そ れらの実態を病理組織学的に検討した報告は少な い. 本研究では,膵疾患,特に膵癌の鑑別診断の一 助として,ERCPにおいて,主膵管の閉塞を示し た症例について,確定診断の得られた手術例およ び剖検例から病理組織学的および臨床的検討を行 い,その成立機序に関する若干の知見を得たので 報告する. 1.主膵管閉塞の成立機転に 関する病理組織学的検討
ERCPにおいて主膵管閉塞を呈した症例につ
いて,主膵管閉塞の成立機転を病理組織学的に検 討を行った. 1.対象対象症例は,ERCPにおいて主膵管閉塞を呈
し,膵切除により主膵管閉塞部の病理組織が得ら れた50症例である. 対象50例の疾患別内訳は,膵癌23例,慢性膵炎 13例,膵嚢胞5例,膵嚢胞腺癌5例,膵嚢胞腺腫 2例,膵ラ虚威腫瘍2例であった(表1). 2.方法 1)病理標本の作製 病理組織標本の作製は,日本膵臓病研究会(現 制1 主膵管閉塞症例における疾患別に見た閉塞機転 の病理組織学的成立機序Obstruction Occlusion Compression Unclassified
膵 癌 io%)0例 k56.4)22 1(2.6) 16 i41) 慢性膵炎 9i69.2) 0(0) 4 i30.7) 0(0) 膵嚢胞 o(0) G(0) 5 i100) o(0) 膵嚢胞腺癌 5i100) 0(0) 0(o) 0(0) 膵嚢胞腺腫 2i100) 0(0) 0(0) 0(0) ラ氏島腫瘍 2i100) 0(0) 0(0) ⑪(0) 日本膵臓学会)外科病理膵癌取扱規約に則った. すなわち,膵頭部切除標本の場合は,十二指財主 乳頭開口部を通るKerckringすう壁に平行する 割面を起点とし,口側および肛門側に約5mm内 外間隔の連続全割組織片を作った。体尾部切除標 本の場合は,切除端から約5mm内外間隔で,膵の 長軸に直角な全割組織診を連続して作製した. 2)閉塞部位の同定 切除標本において主膵管閉塞部位を同定した方 法は以下のとおりである.①標本造影により確認 したもの(4例),②標本作製時,ゾンデを主膵管 頭側部から挿入して確認したもの,③の上記①② が行えなかったため標本から推定したもの,など である.標本から閉塞部位を同定した方法は, ERCP所見から主膵管閉塞部位に相当する標本 のおよその位置を想定し,その部位を中心とする 数枚の切除標本切片(ブロック)を肉眼的に観察 し,膵頭部方向の割面ではその下流側とほぼ同じ 管径を有する主膵管が開存し,膵尾部方向の割面 では主膵管が不連続的に拡張するか,あるいは腫 瘍組織等のなかに埋没消失している切片を同定 し,その切片中に主膵管の閉塞部位が含まれるも のとした. 3)主膵管閉塞部位の閉塞機転の検討 主膵管閉塞部位の含まれる切除ブロックの膵頭 側と膵尾側の切片のH−E染色を行い,光学顕微鏡 にて病理組織学的に以下のごとき検索を行った. まず,主膵管閉塞の膵管開存部に最も近い部位, すなわちERCP上で閉塞を示した部位における 閉塞機転を,次の3群に分類した.主膵管閉塞の 主たる原因が①主膵管内の内端の障害物によるも の(obstruction),②主膵管壁の病変によるもの (occlusion),③主膵管壁に病変なく周囲からの圧 排によるもの(compression)の3群である(表3). 膵癌例においては,主膵管閉塞部において主膵 管壁に腫瘍性変化がないにもかかわらず,腫瘍塊
により,主膵管内腔が閉塞している場合を
obstructionとした.また,主膵管壁に癌組織が あって,内腔が閉塞している症例はocclusionと した.主膵管壁に癌性変化はなく,管外からの癌 病巣により圧排で閉塞しているものをcompres・sionとした.さらに上記3群のいずれに属するか を決定できない症例を分類不能unclassi丘edとし た.Unclassi丘edとしたものは,①病理標本中で主 膵管の閉塞部位が同定できないもの,②膵管が同 定できないもの,③主膵管と拡張した膵管分枝が 判別できないものなどである. なお,obstructionとocclusionは日本語ではし ばしば共に閉塞と訳されることがある.しかし, その成立機序の差を区別して表すために英語のま ま用いられることもある4,.従って,以下の記述に あたってはこの英語表現のまま用いることとする. 症例を膵癌,慢性膵炎,膵嚢胞,膵嚢胞腺癌, 膵嚢胞腺腫,膵ラ高島腫瘍の6群の疾患にわけ, 主膵管閉塞に関して,上記3群の閉塞機転の頻度 をみた.さらに,膵癌と慢性膵炎を比較して,閉 塞機転のあり方について疾患による特徴的な様相 があるかないのかの検討を行った. 3.結果 対象50例の,疾患別にみた閉塞機転の病理学的 成立機序は表1のごとくであった. 膵癌では,obstructionはなかった. Occlusion は22例(56.4%)であった.これらの症例では, 閉塞吻血膵管壁に腫瘍があって閉塞していた.た だし1例(2.6%)は主膵管壁に腫瘍はなく,腫瘍 塊が内面を占拠し閉塞をきたしていた(写真1). この症例では膵管上皮が欠損し膵管壁から腔内へ のみ増殖した特殊な腫瘍と考えられる.形は obstructionに似ていたがやはりocclusionに分 類した.Compressionは1例のみであった.この 症例では,閉塞部の主膵管壁に腫瘍はなく,主膵 管管壁外に存在する腫瘍で圧排されて閉塞をきた していた. 慢性膵炎ではobstructionは9例(69.2%)で あったが,その全てが膵石によるものであった(写 真2).主膵管壁そのものには閉塞をきたすような 変化はない.慢性膵炎では主膵管壁そのものの病 変に起因するocclusionはなかった.慢性膵炎に おけるcompressionは4例(30.7%)あった.こ れらの症例では膵炎に伴う膵実質の繊維化が著し く,主膵管腔は存在するものの,この繊維化組織 に押しつぶされる形で圧排閉塞していた(写真 ・轟−. ∵拶f携
懸
’掛 写真1 膵癌による主膵管のocclusion(67歳,男) 主膵管は,内腔に増殖した癌組織により閉塞してお り,obstructlonに類似した㏄clusionと考えられ た. 写真2 膵石による主膵管のobstruction(37歳,男) 膵は高度に線維化し,主膵管およびその分岐が拡張 し,膵管内には結石が充満していた.これは,結石 を除去した組織切片である.主膵管は,膵管像およ び前後の切片から,矢印の部分と考えられた.その 上部の拡張した膵管は,結石がカントンしていた分 枝の1つである. 3).膵嚢胞においては,全例がcompressionによ るものであった.Compressionの原因をみると膵 一274一写真3 慢性膵炎における主膵管compressionの病 理組織所見(43歳,男) 膵は殆ど仮性嚢胞でおきかわり,矢印に示す部分で 主膵管は閉塞している.閉塞機序は周囲からの繊維 化による締め付けであった. 写真4 膵嚢胞による主膵管のcompression例の病 理組織所見(60歳,女) 真性膵嚢胞および嚢胞壁の一部(左上管)が認めら れる.主膵管は,矢印の部分で,嚢胞壁により,物 理的に圧排閉塞していた. 実質の繊維化による圧排閉塞が3例,嚢胞そのも のによる圧排閉塞が2例(写真4)であった.膵 嚢胞腺癌,膵嚢胞腺腫,膵ラ島腫瘍の3群は,全 て主膵管閉塞部の膵管壁に腫瘍があり閉塞してい るocclusionであった. 4.考察 主膵管の閉塞は,膵管造影所見の中で最も重要 な所見である.主膵管閉塞所見を示す原因疾患は 多様であり,膵癌,慢性膵炎,膵嚢胞,膵嚢胞腺 癌,膵嚢胞腺腫,膵ラ氏島腫瘍等が知られている. 本研究では,主膵管閉塞の成立機序を管腔内の障 害物によるobstruction,肥厚や腫瘍など管壁その ものの変化によるocclusion,および周囲からの 圧排によるcompressionに分類し,疾患ごとに特 徴的な様相があるかないかを検討した.その結果, ERCP上は主膵管の閉塞所見として一括される ものであっても,疾患毎にその成立機序が異なっ
ていることが改めて確認された.膵癌では
obstructionはなかった.膵癌による主膵管閉塞 は,occlusionがほとんどを占めたが,その中に obstructionに酷似するものが1例あった.その他 にcompressionによるものが1例あった. 膵癌例では,主膵管閉塞部頭側末端における閉 塞の成立機序は診断学的にきわめて重要な意義を 有する.主膵管閉塞が発見された場合,膵癌か否 かを診断するために,さらに膵管の擦過細胞診や 膵管鏡が行われる.その際,obstructionあるいは occlusionであれば,管腔内に癌が露出している ため,膵管鏡や膵管擦過細胞診で正診できる可能 性が少なくない.これに対しcompressionでは膵 管鏡も細胞診も癌組織に直接接触できないため, false negativeにならざるを得ない.この度の検 討で,わずか1例ではあるが進行膵癌例にもcom・ pressionが存在したことは,重要な知見と考えら れる.膵癌の確診に膵管鏡や細胞診が必ずしも万 能たり得ないことが示唆されるからである.また 膵癌例にもしもobstructionに相当するものがあ れぽ主膵管閉塞部の頭側端の主膵管壁には癌性変 化がないことになる.そこでERCP読影上,慢性 膵炎例における膵石山によるobstructionとの鑑 別が必要となる.Occlusion症例22例中わずか1 例ではあるがobstructionに類似した症例が存在 したことは留意すべき事実であろう.近年,膵管内に限局して乳頭状に増殖する予後の良い膵癌の 存在が知られている.今回の検討対象の中にこの 群の早期膵癌は含まれておらず,本症例は進行癌 であったが,この群の膵癌でも同様の問題が生じ る可能性がある. 慢性膵炎では,obstructionが70%と多数を占 め,前述どおり,その全てが膵石によるものであっ た.Occlusionに相当する主膵管そのものの病変 による閉塞例はなかった.しかし,今回の症例中 には主膵管磁壁の変化がそれのみで主帥を閉塞さ せるほどの変化を生じているものはなかったとは いえ,実際にはocclusionに相当する病変も有り 得ると考えられる.また,compressionは30%に すぎなかった.Compressionを示した膵癌の1例 については,膵癌発生部位に関する情報を同時に 示していると考えられる.Obstructionは主膵管 が癌のなかに埋没していることを示し,occlusion も癌が主膵管を侵していることを示す,これに対 し,このcompressionの1例では主膵管の全長に わたって,癌が直接には侵していなかった.この 場合,癌は分枝膵管より発生したと考えられる. 膵管造影の,診断学的意義を論じる上で,膵癌が 主膵管から発生したか,あるいは分枝膵管から発 生したかの差はきわめて重要である.なぜなら, 主膵管から発生する膵癌に関しては,膵管造影に よる早期診断の可能性がより大きいからである. これに反して,もし膵癌が分枝膵管から発生して いるものであれば,分枝レベルの病変をERCPで 早期診断することはより難しいと考えられる.今 回の対象症例はすべて進行癌であったが,今後, より早期の膵癌症例においてその発生母地が主膵 管あるいは分枝膵管かを検討しその頻度を検討し なくてはなるまい. 本研究は未だ症例数が充分でなくまたその全て が進行癌であったことから,ここで得られた結果 を早期癌も含めてそのまま一般化することはでき ない.これまでの報告においても同様であり5)6), 今後さらに症例を増して充分な検討が追加される べきである.また方法論的にも,retrospectiveな 検討が主体であってprospectiveな検討はごく一 部に限られていた.今後本研究の成果をふまえて さらにprospectiveな研究を継続する必要があろ う. 5.結論 主膵管閉塞例において閉塞部頭側末端における 病理組織学的検討を行ったところ次のような結果 を得た. 1)膵癌でぱほとんどがocclusionであり,1例 のみがcompressionであった. 2)慢性膵炎では,obstructionとcompression
が主体であり,occlusion症例はなかった.
Obstructionの原因は全て膵石であった. 3)膵嚢胞は,compressionが全てであった. 4)膵ラ氏島腫瘍,膵嚢胞腺癌,膵嚢胞腺腫は全 てocclusionであった. 5)進行膵癌の中にも,occlusion症例があり得 ることが示されていることは膵管造影所見の鑑別 診断の上でもまた,膵管鏡検査,膵管擦過細胞診 の上で留意すべきことと思われる. II.主膵管閉塞症例の臨床的検討 1.目的 主膵管閉塞症例における内視鏡的膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreato−
graphy;ERCP)診断能を高めるために,膵癌, 慢性膵炎,膵嚢胞,膵嚢胞腺癌の4疾患について 各々endoscopic retrograde pancreatography
(ERP像), endoscopic retrograde cholangiogra−
phy(ERC像)について各種病的所見のあり方を 検討した. 2.対象 昭和50年1月より昭和60年12月までの期間に ERCPが行われた4,893例のうち,手技的な:問題 がないにもかかわらず,主膵管が尾部まで造影さ れなかった症例は,274例(5.6%)であった. この274例のなかには,膵管非癒合21例,膵・胆 管合流異常9例,先天性膵体尾部欠損症2例等の 奇形が32例,膵切除術術後症例21例が含まれてい たが,これらをまず対象から除外した. 残る221例の主膵管閉塞症例の内,手術および剖 検にて診断が確定した151例を対象とした(表2). 3.方法 1)主膵管閉塞部の膵管像の形態を,凸型(con一 一276一
表2 主膵管閉塞症例 凸型 膵癌 慢性膵炎 膵嚢胞 膵嚢胞腺癌 膵嚢胞腺腫 ラ氏島腫瘍 顎外傷 総数 151例 l11(73.5%) 19(12.6%) 9(6.0%) 6(4.0%) 2(1.3%) 3(2,0%) 1(0.6%) 断裂型
先細り型■■■■レ・
vex type),断裂型(abrups type),先細り型 (tapering type),凹型(concave type)の4型に 分類し(図),各疾患におけるそれらの頻度を検討 した.2)副膵管閉塞症例の閉塞部位を頭部,頸部, 体部,体尾移行部,尾部に区分し,各疾患別にそ の頻度をみた.3)閉塞部位より膵頭側の主膵管に おける拡張(膵頭部で4mm,体部で3mm,尾部で 2mm以上を主膵管拡張とした)の有無,閉塞部位 近傍における分枝描出の有無,主膵管の圧排偏位 について,各疾患毎にその頻度をみた.4)胆管像 の得られた症例87例において後に述べる総胆管の 所見の頻度別検討を各疾患毎に行った. 統計学的検定には,X2検定を行い,危険率5% 以下を有意と見なした. 4.結果 ERCPによる主膵管閉塞の形態学的検討 1)閉塞部位における主膵管の造影像の形態の 分類と疾患別頻度(図,表3) 膵癌の閉塞像としては,断裂型(写真5),凸型 (写真6)の頻度が多かった. 慢性膵炎では,凸型(写真7)が57.9%と多く みとめられた.膵嚢胞では,断裂型(写真8) 66.7%,膵嚢胞腺癌6例では凹型(写真9)の頻 度が高かった.膵嚢胞腺癌における凹型の頻度が 高いことは統計学的に有意(p<0.001)であった が,その他の所見は,疾患による有意差は認めな かった. 2)各疾患における閉塞の部位別の頻度(表4) 疾患全体でみると主膵管閉塞部位は,膵頭部が 57.2%と最も多く,全体の約1/2を占めた.膵体部 がこれに次ぎ23.4%,膵尾部は9.7%,そして膵頸 部に6.9%,膵体尾部移行部は2.7%であった.各 凹型 図 閉塞形態の型分類 表3 各疾患における閉塞部位の形態学的分類とそ の頻度 凸 型 断裂型 先細り型 凹 型 膵 癌111例 39例 i35.1%) 45 i40.5) 22 i19.8) 5 i4.5) 慢性膵炎 @19例 11 i57.9) 6 i31.6) 2 i10,5) 0 i0) 膵嚢胞 @9例 1i11.1) 6 i66.7) 2 i22.2) 0 i0) 膵嚢胞腺癌 @ 6例 1 i16.7) 1 i16.7) 0 i0) 4. i66.6) 計145例 52 i35.9) 58 i40.0) 26 i17.9) 9 i6,2) 皐p<0.001
せ
∵聾
写真5 断裂型を示す主膵管閉塞像(膵尾部癌,65歳, 男) 主膵管は,膵尾部において断裂型に閉塞している.購
灘
;∴竃 婁 写真6 凸型を示す主膵管閉塞像(膵頭部癌,46歳, 男) 主膵管は,頭部で凸型の閉塞を示している.総胆管 には,異常が認められない. 写真7 凸型を示す慢性膵炎の主膵管閉塞像(37歳, 男) 主膵管は,頭部において凸型に閉塞し,分枝の不整 な派生および小嚢胞を認める. 疾患の有意な差は認めなかった. 3)閉塞部位よりも膵頭側の膵管像所見の疾患 別頻度(表5) 閉塞部位よりも膵頭側の主膵管の拡張は,膵嚢 胞腺癌(66.7%)および慢性膵炎(47.4%)で高 頻度にみられたが,膵癌(15.3%),膵嚢胞(0%) 写真8 断裂型を示す主膵管閉塞症例(膵嚢胞,60歳, 女) 主膵管は,尾部で断裂型に閉塞している.分枝の派 生は認められない, 藝募.、 写真9 凹型を示す主膵管閉塞症例(膵嚢胞腺癌,59 歳,男) 主膵管は,膵尾部で凹型に閉塞している.閉塞部よ り,遠位に石灰化を認める. では少なくその差は有意であった. 主膵管の圧排偏位は,膵嚢胞に特徴的であり, 44,4%の高頻度で認められ,他疾患との差は有意 であった. 主膵管の壁不整は慢性膵炎のみに見られ,しか も89.5%の高頻度であり,他疾患との差は有意で あった. 閉塞部における膵管分枝の描出は,慢性膵炎で, 一278一表4 各疾患における主膵管閉塞部の部位別頻度 膵頭部 膵頚部 膵体部 膵体尾 レ行部 膵尾部 膵 癌111例 65例 i58.5%) 9 i8.1) 26 i23.4) 3 i2.7) 8 i7,2) 慢性膵炎 @19例 11 i57,9) 1 i5.3) 4 i21.0) 0(0) 3 i15,8) 膵嚢胞 @9例 3i33.3) 0(0) 3 i33.3) 0(0) 3 i33,3) 膵嚢胞腺癌 @ 6例 4i66,7) 0(0) 1 i16.7) 1 i16.7) 0(0) 計145例 83 i57.2) 10 i6.9) 34 i23.4) 4 i2.7)
匝
表6 各疾患における総胆管の造影所見の頻度 閉 塞 狭 窄 偏 位 拡 張 十 一 十 一 十 一 十 一 章 癌73例 19 54 30 43 12 61 9 64 慢性膵炎@8例
0 8 6 2 0 8 0 8 膵嚢胞 @4例 0 4 0 4 0 4 0 4 膵嚢胞腺癌@2例
0 2 2 0 0 2 0 2 計87例 19 8 38 49 12 65 9 78 表5 各疾患における膵頭側主膵管の造影所見の頻度 拡 張 偏 位 壁不型 分枝の抽出 十 一 十 一 十 一 十 一 掃 癌111例 17 94 0 111 Ob) 111 12 99 慢性膵炎 @19例 ga} 10 2 17 17c〕 2b〕 15c) 4a〕 膵嚢胞 @9例 0 9 4⇔ 5 0 9 0 9 膵嚢胞腺癌 @ 6例 4a) 2 0 6 0 6 G 6 計145例 30 115 6 139 17 128 27 118 a) pく0.05, b) p<0.01, c) p<0.001 78.9%にみられ,有意に高頻度であった. 4)胆管像(表6) 胆管像に関してはいずれの疾患にも特徴的な所 見はなく,統計学的に有意差は認められなかった. 5.考察 1)主膵管閉塞を示す原因疾患について 本研究では,組織学的もしくは肉眼的に確診の 得られた症例に対象を限定し,臨床診断上は対象 に含めなかった.この点で原因疾患に関する診断 上の問題はない.1施設におけるデータであって 偏りの存在を充分に否定することはできないが,151例の疾患別頻度をみると,膵癌が111例
(73.5%)を占め,慢性膵炎をはじめとする他疾患 に比し圧倒的に多い.序文で述べたごとく,主膵 管の閉塞が膵癌に最も特徴的であることが改めて 確認された. 諸家の報告によると,主膵管閉塞例における膵 癌の頻度は,高崎ら7)は63.0%,Charlesら8)は30% (50睡中15例)と報告している.また,慢性膵炎の 頻度は,高崎ら7)によると23.2%であり,Charles ら8)によると18%であり,膵嚢胞の頻度は,高崎 ら5)によると12.3%であり,Charlesら6)によれぽ 30%であった. 自験例では,主膵管閉塞例における膵癌の頻度 は73.5%と諸家の報告より高い傾向が認められ, 更に膵嚢胞腺癌も加えると膵の悪性腫瘍の頻度は 79.5%にのぼった. また,慢性膵炎の頻度は,12.6%であり,臨床 診断例を含む主膵管閉塞症例でも10.4%と,諸家 の報告より少なかった.これらの頻度の差は,膵 管非癒合症例の扱い方,診断確定方法の差,施設 の立地条件,地域性などに起因しているのかもし れない. 膵嚢胞の主膵管閉塞例に占める頻度は,6.0%で あった.本論文では,膵嚢胞性疾患のなかで,慢 性膵炎を合併したものは,慢性膵炎に含め,腫瘍 性嚢胞は,別に取り扱った.諸家の報告よりも頻 度が少なかった理由には膵嚢胞の分類上の差も問 題になるかも知れない9). 2)各疾患における膵管像の特徴と組織学的成 因 (1)膵癌 膵癌における主膵管閉塞の膵管造影上の特徴 は,膵頭側主膵管に拡張がなく,圧排偏位がなく, 主膵管の壁不整もないものの,閉塞部位近傍では 分枝の描出が有意に少ないことであった.これは 閉塞部位より下流の非癌部の膵組織がほぼ正常であることを示唆する.したがって膵癌が慢性膵炎 を背景として発生することの頻度は大きくはない と考えられる.これまでの報告をみると主膵管閉 塞を呈する症例中で膵癌症例の頻度は,44.8∼ 65.4%10)∼12)13)で,当科における過去の検討13>では 57%であった. (2)慢性膵炎 慢性膵炎における主膵管閉塞の膵管像の特徴は 主膵管拡張を伴.い,圧排偏位が少なく,膵頭側主 膵管の壁不整があり,閉塞部近傍に分枝が描出さ れることであった.これら慢性膵炎の特徴を考慮 することが膵癌との鑑別の要点と考えられた.慢 性膵炎で,主膵管閉塞を呈する症例は高橋ら12> 8%,福元ら10)8.1%と報告しており,当科におけ る検討13)では12%であった. (3)膵嚢胞,膵嚢胞腺癌および膵嚢胞腺腫 膵嚢胞における膵管像の特徴は圧排・偏位のみ であった.膵嚢胞腺癌は,主膵管閉塞部より膵頭 側の主膵管の拡張が特徴的であった.進藤ら14),張 ら15)によれぽ,膵管像における膵癌と膵嚢胞腺癌, 膵嚢胞腺腫との鑑別は困難であり,今後さらに検 討が必要であろう. 6.結論 1)主膵管閉塞症例151例について原因疾患をみ たところ,79.5%が膵の悪性腫瘍であった.また 慢性膵炎は12。6%,膵i嚢胞6.0%であった.