症例報告
多発性外骨腫による両側変形性股関節症と
下肢外反による変形性膝関節症に対して
人工股関節置換術と大腿骨遠位内反骨切り術を
行った 1 例
君津中央病院 整形外科大塚 誠,蓮江 文男,藤由 崇之,竹下 宗徳,
神谷光史郎,山崎 厚郎
Bilateral Total Hip Arthroplasties and Distal Femoral
Varus Osteotomy for Valgus Limb Deformity Associated
Multiple Exostoses: A Case Report
Makoto OTSUKA, et al.
Department of Orthopaedic Surgery, Kimitsu Chuo Hospital
Abstract
Keywords: multiple exostoses, distal femoral varus osteotomy, total hip arthroplasty (受付:2015.12.18 受理:2016.1.26)
Multiple exostoses often produce joint disorders resulting from limb deformities, which may some-times require operations such as osteotomy or arthroplasty. We report a case of bilateral total hip arthroplasty(THA)for hip osteoarthritis(OA)and distal femoral varus osteotomy for knee osteo-arthritis with valgus limb deformity in a 71-year-old woman, who complained of difficulty walking due to bilateral knee and hip pain. The left knee pain had appeared along with multiple exostoses at about 50 years of age. The symptoms progressed with the left knee pain increasing and left hip pain then appearing, along with instability due to the left leg valgus deformity. Both hip joints developed severe OA with exostoses and coxa valga, and a pronounced contracture. The left knee developed lateral OA due to the valgus deformity of the distal femur and the proximal tibia. We initially performed a left THA, followed by the same procedure on the right hip. The hip pain subsequently subsided, and the range of motion was markedly improved. However, the pain and instability of the left knee persisted. As a result, a left distal femoral varus osteotomy(closed wedge)was performed for improvement of lower limb alignment. Two years postoperatively, the bilateral hip and left knee pains have remitted, walking ability has improved, and the left knee OA has not progressed any further. In summary, bilateral THAs and distal femoral varus osteotomy enabled stabilization of this patient’s gait through
多発性外骨腫は骨腫瘍による変形だけでな く,四肢長管骨の変形に伴う関節障害を生じる ことがあるが,多くは軽症であり骨切り術や人 工関節などの手術例は比較的少ない1)。今回は 両側変形性股関節症に対して人工股関節置換術 (以下 THA)を,下肢外反変形による変形性膝 関節症に対して大腿骨遠位内反骨切りを行った 症例を経験したので報告する。 症例:71 歳,女性。 主訴:左下肢外反変形を伴う両膝関節痛と両股 関節痛による歩行障害。 現病歴:50 歳代より左膝痛出現,近医受診時に 多発性外骨腫症を指摘された。当初は保存治療 を行い痛みは安定していた。その後症状は悪化 して両膝痛,両股関節痛を生じ,徐々に左下肢 外反変形も増悪して歩行障害を生じたため手術 目的にて来院。 初診時現症:身長 140 cm,体重 54 kg。両下肢 多発関節痛を認めたが特に左膝痛と左股関節痛 が強く,また左下肢外反変形による歩行時の不 安定性が著しかった。歩行には杖など支持が必 要であり,動揺性が強く歩容不良であった。両 股関節の可動域は右優位に高度な制限がみら れ,屈曲:右 40 度・左 50 度,伸展:右-20 度・左-20 度,外転:右 10 度・左 20 度,で あった。両膝関節は屈曲 120 度・伸展 0 度と軽 度な制限を認めた。画像所見では両股関節は外 骨腫と外反変形を伴う末期 OA 所見を認めた (図 1a)。前捻角は CT で確認したが,右 43 度・ 左 58 度と高度であった。左膝関節は外側型の OA を認め,KL 分類 grade 3 であった(図 1b)。 下肢全長像では大腿骨,脛骨それぞれ両端で外 骨腫を伴う内反および外反変形を認めた。下肢 アライメントは,右がほぼ中間位であるのに対 して,左は高度外反であり mecahnical angle は 23 度であった(図 2a)。また左大腿骨遠位の外 反変形も 26 度と高度であった(図 2b)。JOA スコアーは股関節で右 29 点・左 32 点,膝関節 で右 45 点・左 45 点であった。治療方針は両股 関節とも高度な拘縮と末期 OA を認めるため THA 適応と判断した。また左膝は大腿骨外反 変形が 20 度以上と高度なため TKA 単独は困難 と判断,大腿骨内反矯正骨切りを行うこととし た。 治療経過:手術はまず痛みの強い左股関節に対 してセメントレス THA を行った。前方進入よ り行い,ステムはモジュラーネックシステムを もつ Kinective(Zimmer 社)を使用した。次に 右 THA を 3 か月後に行った(図 3)。左と同様 に前方進入より Kinective ステムを使用した。 術後 X 線像にて大転子骨折を認めたが経過観 察しながら歩行訓練を行った。股関節痛は消失 し可動域制限も改善したが,左膝痛と歩容不良 は同様であった。さらに 3 か月半後に左大腿骨 遠位内反骨切り術(closed wedge)を行った(図 4a)。骨切り部は変形頂部である大腿骨遠位骨 幹端とし,内側より内側広筋を展開して骨切り 部に到達,大腿骨後方の外骨腫も含めて楔型に 骨切りを行った。アライメントはやや内反位を 目標として骨切り量を決定した。固定は脛骨近 位端骨折用のロッキングプレートである LCP-PLT プレート(Synthes 社)を使用した。また 右大転子骨折は癒合不全のため,同時にケーブ ルプレート固定を行った。後療法は術後早期よ り ROM 訓練開始,術後 4 週より部分荷重開始, 術後 8 週で全荷重許可として歩行訓練を行っ た。骨切り部は良好な骨癒合が得られた。徐々 に疼痛は軽減され,下肢筋力向上に伴い歩容も 改善した。術後 2 年 5 か月では股関節痛,膝関 節痛は消失しており歩容も改善した。関節可動 域は両股関節で改善を認め,両側とも屈曲 90 度・伸展 0 度・外転 30 度であった。膝関節は屈 曲 115 度・伸展 0 度と術前と同様の可動域で あった。画像所見では左下肢アライメントは 7 は じ め に 症 例
度内反位ではあるが,左膝 OA の進行は認めな い(図 4b,c)。ADL は自立しており外出時の み杖を使用している。 JOA スコアーは股関節で右 75 点・左 81 点, 膝関節で右 75 点・左 75 点とそれぞれ術前より 改善を認めた。 多発性外骨腫は常染色体優性の遺伝性疾患で あり,四肢長管骨の骨幹端部に多発性骨軟骨腫 を形成し,稀に悪性化する疾患として知られて いる。また低身長であり,骨変形を主に前腕部, 膝関節,足関節に生じる。骨腫瘍の刺激痛や骨 変形による関節痛を生じることがあるが多くは 軽症であり,手術治療が必要となる重症例は少 ない1,2)。 本症例は両下肢に様々な変形を認め,両股関 節は外反股,右膝は内反,左膝は外反,右足関 節は外反,左足関節は内反であり,下肢全体の 考 察 a b 図 1 術前画像 a:両股関節正面 X 線像と CT 像 b:左膝正面 X 線像 図 3 両側 THA 術後(右術直後,左術後 3 か月) a b 図 2 下肢アライメント a:両側下肢立位正面像 b:左大腿骨全長
アライメントは右中間位,左外反位であった。 特に左大腿骨遠位の外反変形は 26 度と高度で あり,左下肢不安定性と左膝外側型 OA を生じ た要因と考えられた。また関節症変化は両股関 節とも末期 OA であり,過前捻と高度な拘縮を 生じていた。この拘縮により下肢アライメント 不良をさらに増強し,両膝 OA を悪化させた (coxitis knee)可能性も考えられた。以上のこ とも踏まえ,治療はまず両股関節に THA を施 行した。大腿骨転子部は外骨腫を伴う変形と骨 脆弱性を認め,特にステム挿入時に骨切り面の 形状が通常と大きく異なるため回旋位決定に難 渋した。THA により股関節痛の軽減と関節可 動域の改善が得られた。 左膝は外側型 OA と関節外変形として大腿骨 外反 26 度を認めた。Wang らは関節外変形を伴 う TKA の適応はそれぞれ大腿骨 20 度,脛骨 30 度以内とし,さらに関節の靭帯バランス調整が 困難なため constrain type の必要性も示唆して いる3)。高度な関節外変形を伴う場合には矯正 骨切りを併用した TKA の適応となるが,合併 症のリスクが高い,手術手技が難しいなどの問 題点も指摘されている4)。また OA の進行度は 関節腔が保たれた KL 分類 grade 3 であっため 矯正骨切り術を選択した。 内固定材は脛骨近位外側用のロッキングプ レートを上下反転して使用することで強固な固 定が得られた。プレートの適合性は良いがロッ キングスクリューの挿入方向が限定されるため 1 本は海綿骨スクリューを使用した。このため 方向可変性のあるロッキングプレートのほうが 適していると考える。 治療上の問題点として,入院が 3 回で治療期 間も長く患者負担が大きいこと,短期的には良 好であるが左膝 OA 進行の可能性があることが あげられる。今後も慎重な経過観察が必要であ る。 ① 両側 THA と大腿骨遠位骨切り術を行った多 発性骨髄腫の 1 例について報告した。 ② 膝関節症に対する治療は高度な関節外変形を 伴うため TKA 単独では対応困難であり矯正 骨切り術を選択した。 ま と め a b c 図 4 左大腿骨遠位骨切り術後 a:術直後 b:術後 2 年 5 か月 c:両下肢立位正面像
③ 股関節,膝関節機能および両下肢アライメン ト,歩行能力の改善など良好な治療成績が得 られた。 ④ 短期的には経過良好であるが今後も長期的な 経過観察が必要である。 文 献
1 )Pierz KA, Stieber JR, Kusumi K, et al: Hereditary multiple exostoses: one center’s experience and review of etiology. Clin Orthop Relat Res. 2002; 401: 49—59.
2 )Porter DE, Benson MK, Hosney GA: The hip in hereditary multiple exostoses. J Bone Joint Surg Br. 2001; 83: 988—995.
3 )Wang J, Wang C: Total knee arthroplasty for arthritis of the knee with extra-articular defor-mity. J Bone Joint Surg Am. 2002; 84: 1769—1774. 4 )Lonner JH, Siliski JM, Lotke PA: Simultaneous
Femoral Osteotomy and Total Knee Arthroplasty for Treatment of Osteoarthritis Associated with Severe Extra-Articular Deformity. J Bone Joint Surg Am. 2000; 82: 342—348.