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コラム 1 らしんばん人の死を悼む時に 医療者の文脈と患者 家族の文脈 児玉久仁子 252 実践レポート地域の高齢者ケア関係者を対象とした死の教育の実践 木股貴哉, 他 295 海外事情英国リバプール大学の緩和ケア卒前教育 2 緩和ケア実習を視察して 飯嶋哲也 298 コラム 2 いのちの歌ちょっと

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全文

(1)

Volume 24 Number 4 July 2014 ◆家族ケアのツボ 1

泊りがけの介護で疲れた家族に休んでほしいけど…

 ………児玉久仁子 

301

◆がんによるお金の相談,増えてます。 2

障害年金とは?

─アドバンス編………石田周平 

306

◆わたしのちょっといい話 

あの初夏の午後に感じたこと

………鈴木 央 

310

連 載

特集

特集にあたって ………志真泰夫,他 

255

死が近づいた時の症状マネジメントの重要性

………志真泰夫,他 

256

呼吸困難のマネジメント

………坂下明大,他 

261

疼痛のマネジメント

………木内大佑,他 

269

気道分泌・死前喘鳴のマネジメント

………小田切拓也,他 

276

せん妄・興奮・身の置き所のなさへの対応

………木下寛也 

283

在宅での急変に関する対応

終末期がん患者の「急変死亡」からみえること ………鈴木道明,他 

291

死が近づいた時の

症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・

ケアを実現するために

CONTENTS

(2)

●らしんばん

人の死を悼む時に

─医療者の文脈と患者・家族の文脈



…………児玉久仁子 

252

●実践レポート

地域の高齢者ケア関係者を対象とした死の教育の実践

…木股貴哉,他 

295

●海外事情

英国リバプール大学の緩和ケア卒前教育2

─緩和ケア実習を視察して



………飯嶋哲也 

298

いのちの歌

ちょっと,変わってきましたよ

………朝倉雲鶴 

297

短 報

患者の意思を尊重した在宅療養の実現に取り組む

緩和ケア病棟看護師のストレス

………市川 歩,他 

313

コラム 1

コラム 2

投 稿

BookSelection………305 インフォメーション………317 『緩和ケア』誌 投稿論文 受付終了のお知らせ …322 次号予告………324 表紙デザイン パント大吉

(3)

ら し ん ば ん

Vol.24 No.4 J 2014  看護師になったばかりの頃は,患者の死は切実だった。患者という第三者の死と いうよりも,よく知っている身近な人の死として捉えていた。虚無感が伴い,つい 前日まで会話をしていた A さんがいないと思うと涙があふれた。しかし,いつま でも“一つの死”で泣いていられるほど,病院の日常は緩やかに流れてはいない。 A さんが亡くなった直後であっても,ほかの患者のナースコールに何事もなかっ たかのように対応し,笑顔で会話をし続ける。ナースステーションは「ステルベン があった」「受け持ちがデク処置に入っている」など,無機質な隠語で満ちていく。 「誰かが死後処置をするんだ…」とぼんやりと思った。亡くなった A さんが退院す ると,あっという間に部屋の清掃が行われ,A さんが生きていた風景は消えた。  看護学生の頃は,悲しい時は悲しく,うれしい時はうれしく,自分の感情を素直 に表現することが許されていた。けれども,病院の日常は,悲しいのに笑顔を見せ なければならなかったり,人の死を無機質に表現したり,看護師が死を悼むことを 許さないメタファーであふれていた。私は,「心が擦り切れるというのは,こうい う体験なのだ」と感じた。先輩たちは「忙しくてゆっくり患者の話を聞く時間がな い」と口々に言っていた。けれども実際には,ゆとりのある日にも,忙しい日と同 じような看護が行われた。「本当は,忙しさの問題ではないのかもしれない」と 思った。  数年経ち,私は業務を覚え“仕事”がテキパキできる一人前の看護師に育ってい た。ミスなく仕事をこなすことに専念するにつれて,私は,いつの間にか人の死を 悼むことを忘れていた。バイタルサインや心電図モニターをチェックし,患者の病 状の変化に神経をとがらせた。患者の死が近いことが分かると,間に合うよう家族 に連絡した。医師を呼び死亡確認が終わると,エンゼルケアを行い,患者と家族を 見送った。いつしか私も「忙しい」と口にするようになった。仕事はとても楽し かったが,仕事を覚えることと引き換えに,何か大切なものを失ってしまったよう な気もしていた。しかし,それが何かは思い出せなかった。「一般病棟では忙しく てゆっくりケアする時間がないので,もっと丁寧なケアがしたい」と思っていた。  その後,もともと関心があった緩和ケア病棟で働くことになった。そこで出会っ たのが,畠山とも子氏である。彼女は,「緩和ケアは,患者を含めて家族全体をケ アの対象としていること」「患者や家族と真剣に向き合い,対話することが,ケア

心が擦り切れると感じた新人時代

“仕事”ができるようになり失ったもの

死に向き合うことを避けていた自分に気がつく

児玉

  久仁子

  東京慈恵会医科大学附属病院   看護部

人の死を悼む時に

―医療者の文脈と患者・家族の文脈―

(4)

Vol.24 No.4 J 2014  高齢化が急速に進み,超高齢社会と言われる時代となったわが国では,年間死亡者数は 120万人を超える。そして,今後も一貫して死亡者数は増加傾向をたどり,ピークを迎え る 2038年には 170 万人になる見込みである。これらの死亡者のうち,65 歳以上の高齢者 が 80 %以上を占める。いわゆる「高齢者が多く死を迎える時代=高齢多死時代」である。 したがって,がん患者に限らず超高齢社会のニーズとして,質の高いエンドオブライフ・

ケア(end─of─life care)*求められている。

 エンドオブライフ・ケアは,国際的に未だ定義やその解釈が定まっておらず,日本語表 記も統一されてはいない。2012 年にシンガポールで開催されたアジア・オンコロジー・ サミットで作成された合意文書によれば「エンオブライフ・ケアという用語は,一般に患 者の人生の終わりの週単位,日から時間単位の時期のケアを表しており,いくつかの国で は,緩和ケアと同義のことばともされている」**と定義している。そこで,本特集ではこ の定義を基本にして,「週単位,日単位の見通しのもとで死が近づいた時」に焦点を当て,症 状マネジメントに関する特集を組むこととした。  死が近づいた時の症状マネジメントでは,臨床研究から生み出されるエビデンスはもち ろん重要であるが,臨床研究の対象とその方法論は限定されていることから,それをその まま目の前の患者の治療やケアに適応することが難しいことも少なくない。その意味で, エビデンスを踏まえたうえでの経験の蓄積に導かれた「実践上のコツとポイント」は,教 科書やマニュアルにはない臨床的意義があると思う。死が近づいた時こそ,個別性の高い 「その人のための治療やケアのあり方」が重要である。この特集が,緩和ケアに携わる皆 様の臨床の一助になれば幸いである。

志 真 泰 夫 

筑波メデイカルセンター病院 緩和医療科

山 岸 暁 美 

浜松医科大学医学部 看護学科

Volume 24 Number 4

企 画 担 当

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために─

end─of─life care:英語表記に関しては一定の定まったものはなく,日本語表記も一定の定まったものはないため, ここでは end─of─life を 1 つのことばの単位として「エンドオブライフ」と表記し,ケアの前で区切り「エンドオ ブライフ・ケア」と表記する。

** Payne S, Chan N, Davies A, et al:Supportive, palliative, and end

─of─life care for patients with cancer in Asia; resource─stratified guidelines from the Asian Oncology Summit 2012. Lancet Oncol 13:492─500, 2012

(5)

Vol.24 No.4 J 2014

医療政策としての

エンドオブライフ・ケア

 エンドオブライフ・ケアは,国際的にみると, カナダで公表された「高齢者のためのエンドオブ ライフ・ケアに関するガイド」1)以下,ガイドと する)が,その定義と内容を最初に体系的に提示 したものである。ガイドで示す定義全文は,以下 の通りである。  エンドオブライフ・ケアは,人生の晩年を 生きる高齢者に対する積極的で共感的なアプ ローチである。エンドオブライフ・ケアは, 進行性あるいは慢性の生命を脅かされる病気 とともに生きる高齢者に治療や慰め,支援を 提供する。また,エンドオブライフ・ケア は,個人的な,文化的そしてスピリチュアル な信念や習慣に配慮する。さらに,死別後の 期間も含めて,家族や友人に対する支援も包 含する1) 。  このガイドでは,エンドオブライフ・ケア,緩 和ケア,高齢者ケア(geriatric care)には共通 する土台があり,いずれも「高齢者に対する最善 のケアを提供すること」を目標としていると述べ ている。  しかし,高齢者ケアは,老化しつつあるすべて の年齢層を対象としているが,特に「人生の終わ り」に焦点を絞っているわけではない。一方,緩 和ケアは,カナダでは対象疾患としては悪性腫瘍 が大部分を占めており,アルツハイマー病などの 認知症や慢性呼吸不全,慢性心不全といった生命 を脅かす慢性疾患をもつ高齢者を完全にカバーし ているわけではない。したがって,エンドオブラ イフ・ケアは,この 2 つのケアの考え方を統合し て,さまざまな慢性疾患をもつ高齢者に対して, 緩和ケアと高齢者ケアが連携をとって高齢者の ニーズに合った幅の広いケアの提供を可能にする 概念だとしている(図 1)2)  一方,イギリスではこのようなカナダで用いら れている定義とは別に,次のような定義をしてい *

筑波メディカルセンター病院 緩和医療科:Department of Palliative Care, Tsukuba Medical Center Hospital 〔〒 305| 8558 つくば市天久保 1 | 3 | 1〕,** 浜松医科大学医学部 看護学科 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために

志 真 泰 夫

 山 岸 暁 美

**

Yasuo Shima and Akemi Yamagishi

Key words :エンドオブライフ・ケア,dying process,症状マネジメント ●     24:256260,2014 ●

死が近づいた時の症状マネジメントの重要性

(6)

Vol.24 No.4 J 2014

はじめに

 がん患者において,呼吸困難の発生する頻度は 46∼59 %と報告されており,肺がん患者に限る とさらに頻度は増して,75∼87 %になると報告 されている1)。また,がんに限らず呼吸困難は, 終末期の患者には高頻度にみられる症状の 1 つで ある。  本稿では,病棟スタッフと緩和ケアチームが, 事例を振り返りながら,呼吸困難のマネジメント のポイントについて確認していく。

事 例

患 者:60歳代,女性,非小細胞肺がん(腺が ん)。  X−1年 9 月,非小細胞肺がんⅣ b 期(右上葉 原発,縦隔・鎖骨上リンパ節転移,肺転移,肝転 移)と診断された。1 次化学療法が施行され,原 発巣とリンパ節転移は縮小した。  X年 3 月,肺転移とリンパ節が増大し,2 次化 学療法が行われた。しかし,治療効果は乏しく, 化学療法は中止された。  X年 6 月より,徐々に労作時の呼吸困難を自覚 するようになった。MS コンチンⓇ硫酸モルヒ ネ)20 mg/日が処方され,呼吸困難の症状は落 ち着いていた。  X年 7 月(入院 1 週間前)から,安静時にも呼吸 困難を認め,夜間も眠れなくなり,救急外来を受 診し,緊急入院となった。  入院後,がん性リンパ管症と診断され,モルヒ ネ塩酸塩Ⓡ(モルヒネ塩酸塩水和物)24 mg/日の 持続皮下注射,リンデロンⓇ(ベタメタゾン) 8 mg/日の静注,酸素吸入を開始した。  入院後 3 日目には,安静時の呼吸困難は改善し, 夜間も睡眠できるようになった。このため,在宅 医と訪問看護師を招いて退院前カンファレンスを 行い,入院後 8 日目に退院となった。  退院後 5 日目,安静時の呼吸困難が徐々に増悪 *

神戸大学医学部附属病院 緩和ケアチーム:Palliative Care Team, Kobe University Hospital 〔〒 650| 0017 神戸市中央区楠町 7 | 5 | 2〕

0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

坂下 明大

 久保百合奈

 太田垣加奈子

 岸野 恵

山口 崇

 木澤 義之

Akihiro Sakashita, Yurina Kubo, Kanako Ohtagaki, Megumi Kishino, Takashi Yamaguchi and Yoshiyuki Kizawa

Key words :呼吸困難,マネジメント,緩和ケア ●     24:261268,2014 ●

呼吸困難のマネジメント

Management of Dyspnea in the Terminal Phase

(7)

Vol.24 No.4 J 2014

事 例

T さん:50歳代,男性,胃がん,リンパ節・肝 臓・腹膜播種・骨転移。  死亡 8 カ月前に進行胃がんと診断され,全身化 学療法を行ってきた。がん悪液質の進行に伴い, 食事摂取量が低下,さらにリンパ節転移の下大静 脈浸潤による両下 浮腫も合併した。  2 カ月前に主治医より,腫瘍増大と PS(perfor-mance status)低下のため,標準治療終了と告げ られた。臨床試験も含めて,化学療法レジメン変 更の提案がなされたが,T さんは妻の M さんと 相談した末,化学療法中止を選択した。そして, 外来にて緩和医療科併診となった。  その後,T さんは外来への通院が困難となった ため,訪問診療・訪問看護開始となり,自宅で M さんの介護を受けながら生活することとなっ た。  1 カ月前から,腹痛と腰痛,右大 部の痺れの 増強があり,体動で 痛が増強し,食事や排泄を ベッドから離れて行うことが難しくなってきた。 外来で行った CT 検査にて,腹膜播種病変の増大 と第 2 腰椎への骨転移,さらに同レベルの神経根 浸潤を認めた。在宅では,塩酸モルヒネ 120 mg とアセトアミノフェン 2,400 mg,プレガバリン 150 mg で,症状軽減が図られていた。  2週間前より経口摂取できなくなり,痛みと浮 腫のためにベッドから起き上がれなくなったため に緊急入院となった。入院後,血液検査にて肝転 移進行による肝不全と,脱水による腎不全も判 明。予後予測として担当医は,週単位で 1~2 週 の可能性が高いと判断した。

評価と治療

―痛みの評価 がん 痛の概要  本症例の主訴は,腹膜播種と腰椎転移が原因と 考えられるがん 痛である。腹膜播種による痛み は内臓痛と考えられ,腰椎転移による痛みは神経 根浸潤による痺れを伴い,体性痛に加えて神経障 害性 痛の要素をもっている。体動時痛もあり, a *1

筑波メディカルセンター病院 緩和医療科:Department of Palliative Care, Tsukuba Medical Center Hospital 〔〒 305| 8558 つくば市天久保 1 | 3 | 1〕,*2 同 看護部,緩和ケア病棟,*3 同 診療技術部,薬剤科 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために

木内 大佑

* 1

 須田さと子

* 2

 宮本  優

* 3

 矢吹 律子

* 1

久永 貴之

* 1

 志真 泰夫

* 1

Daisuke Kiuchi, Satoko Suda, Yu Miyamoto, Ritsuko Yabuki, Takayuki Hisanaga and Yasuo Shima

Key words : 痛,エンドオブライフ・ケア,オピオイド ●     24:269275,2014 ●

痛のマネジメント

(8)

Vol.24 No.4 J 2014

事 例

 60 歳代,肝細胞がんの男性患者,徐々に肝不 全が進行し,3 日前から終日ほぼ傾眠状態で,経 口摂取不能となった。尿量は 50 mL/日と減少し, 撓骨動脈圧も弱くなっている。採血では,総ビリ ルビン 14 mg/dL,アンモニア 150 μg/dL,尿素 窒素 70 mg/dL,クレアチニン 1.5 mg/dL,と肝 性脳症や腎不全を示唆している。肺転移,心不全 を認めず,発熱や炎症性喀痰,聴診での局所的な 雑音など,肺炎を示唆する所見はない。  当日朝より,呼吸に合わせて,喉元でゴロゴロ 音がするようになった。病室(一般病棟の個室) の入り口からも聞こえるほど,大きな音である。 表情筋はやや弛緩して,表情の変化は乏しく,体 動もほとんどない。全身浮腫や顕著な腹水貯留を 認める。主治医は,予後数日以内と想定してい る。  主治医より,推定予後が 1 週間以内と説明を受 けた妻が,2 日前から付き添っている。落ち着い て見ていられず,「窒息してしまうんじゃないか」 「痰に対して治療をしてほしい」と医療者に訴え ている。一方,患者の長男は,「いつ息が止まる のかと思って看ているので,音がするのはまだ息 をしている証拠と思う」と話している。  薬剤は,内服はウルソ,ラクツロースゼリー, リスペリドンが処方されているが,嚥下困難と なっており,末梢血管より補液 1 L と分枝鎖アミ ノ酸製剤 400 mL を行っている。

死前喘鳴の特徴

1) 概 要  死前喘鳴とは,死の直前に生じ,咽頭や気管支 の水分が呼吸に関連して移動することで生じる雑 音であり,衰弱のために咳嗽が行えず,気道水分 を排出する力がなくなっていることと関連してい る。  死前喘鳴の頻度は,12∼92 %と,報告によっ て大きく幅があるが,平均 35 %である。また, 男性,見当識障害のある患者,肺がん,骨・肝 a

聖隷三方原病院 ホスピス科:Seirei Hospice, Seirei Mikarahara General Hospital 〔〒 433| 8558 浜松市北区三方原町 3453〕,** 同 緩和支持治療科 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために

小田切拓也

 福田かおり

 森田 達也

**

Takuya Odagiri, Kaori Fukuda and Tatsuya Morita

Key words :死前喘鳴,抗コリン薬,終末期ケア ●     24:276282,2014 ●

気道分泌・死前喘鳴のマネジメント

(9)

Vol.24 No.4 J 2014

はじめに

 がん患者では,終末期においては約 80 %にせ ん妄が生じる。しかし,死の数日前のせん妄は, 死に至る自然経過の中で生じる意識障害の過程であ り,従来の医学診断の枠で扱えない問題という意 見もある。しかし,せん妄は家族にとって時には つらい症状であり,医療者にとっても対応に苦慮 することの多い症状である。  家族は,せん妄とその対応にはアンビバレンツ な感情を抱きやすい。混乱した言動があると,家 族は患者が精神的におかしくなってしまったと思 う反面,その言動に意味づけを感じたり,会話が できるということで安心する。また,せん妄に対 する薬物療法や病状の進行に伴って患者が眠って いる時間が長くなると,穏やかな最期を過ごせて 良かったと安心する反面,話ができなくなり,も う目が覚めないと不安になる。  本稿では,仮想事例を提示し,症例に沿って患 者への対応に関するスタッフ内のカンファレン ス,患者・家族とのコミュニケーションの実際を 示す。さらに,終末期のせん妄患者に対応するた めに参考となる課題について解説する。

事 例

概 要  A 氏,63 歳男性,2 年前に非小細胞肺がん, 骨転移と診断され,以後抗がん剤治療を継続して きた。妻・長男と同居,長女は結婚し,他県で暮 らしている。進行がんであること,治癒を目指し た治療は難しいことが告げられたあと,不安・不 眠が続き,主治医より精神科受診を勧められ受診 し,適応障害と診断された。支持的精神療法とア ルプラゾラムの内服にて精神状態は早期に落ち着 き,抗がん剤治療が開始された。 経 過  1 年前に頭痛・悪心を契機に,脳転移を認め, 全脳照射を受けたが,特に認知機能障害,神経脱 落症状は認めなかった。また,骨転移の進行に伴 a s

国立がん研究センター東病院 緩和医療科:Department of Palliative Medicine, National Cancer Center Hospital East〔〒 277| 8577 柏市柏の葉 6 | 5 | 1〕 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために

木 下 寛 也

Hiroya Kinoshita Key words :せん妄,終末期,回復可能性 ●     24:283290,2014 ●

せん

妄・興奮・身の置き所のなさへの対応

(10)

Vol.24 No.4 J 2014

はじめに

 終末期がん患者の在宅緩和ケアの現場では,時 に状態の急変,さらに急変に引き続く「急変死 亡」に遭遇することがある。  たとえば,次のような場合である。  事 例:60歳代,男性。大腸がん,肝転移。心 窩部∼右季肋部に 5 横指以上に腫大した肝臓を触 知する。病院主治医からは化学療法は終了し, 「緩和ケアの段階」と言われている。  最近はほとんどベッド上で過ごし,ようやくト イレ歩行が可能である。食事はほとんど取れなく なってきている。患者・家族とも自宅で最期を迎 えたいという希望があり,1 週間前から訪問診療 を開始している。本日,10 分ほど前から強い上 腹部痛があり,冷や汗をかいてうめいていると家 族から緊急の電話があった。  さて,この患者さんを在宅で看取りますか,病 院に搬送しますか。あなたはどうしますか。  本稿では,対象を終末期がん患者に絞り,その 急変への対応についてまとめてみたい。

在宅における急変とは

定 義  いわゆる「急変」については,明確な定義はな い。そこで筆者らは,特に在宅療養中の患者の容 態が急に変化して短時間のうちに死亡に至り,か つ介護者(ほとんどの場合は家族)がとても驚く であろう事態を想定して,下記のように「急変死 亡」および「超急変死亡」と定義して,当院の症 例について検討を行った1) 。  急変死亡:在宅療養中に歩行が可能である状態 (つかまりや支えられ歩行も含む)から,突然状 態が変化(急変)して 1 日以内に死亡した場合。  超急変死亡:介護者(家族)が発見時に呼吸停 止していた場合や,または介護者の目の前で急変 し,その後,数時間以内に死亡した場合。 対 象  ケアタウン小平クリニックは,主として終末期 a s

小平すずきクリニック(元 ケアタウン小平クリニック):Kodaira Suzuki Clinic 〔〒 187| 0041 小平市美園町 1 | 15 | 2 | 405〕,** ケアタウン小平クリニック 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

死が近づいた時の症状マネジメント

─質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために

鈴木 道明

 石巻 静代

**

 山崎 章郎

**

Michiaki Suzuki, Shizuyo Ishimaki and Fumio Yamazaki

Key words :急変,在宅,終末期がん患者 ●     24:291294,2014 ●

在宅での急変に関する対応

終末期がん患者の「急変死亡」からみえること―

(11)

Vol.24 No.4 J 2014

はじめに

 2014 年 2 月 3 日から 7 日まで,リバプール大学の 緩和ケアに関する卒前教育を視察する機会を得た。  医学部 4 年生を対象とした 4 週間の緩和ケア実習の うち,最初の 1 週間を見学した。緩和ケア実習は,外 科・内科などの主要科目と同等の扱いで行われている ことを,前号で紹介した。今号では,具体的な実習内 容を紹介する。

実習の評価

 評価項目・評価基準は,『Clinical Logbook』という 冊子(図 1)に明示されている。この冊子には,4 年 時に行う実習のすべての科目の評価項目が記載されて いる。これを学生が持参して,その都度,担当教官に 直接,評価を記入してもらうシステムである。  『Clinical Logbook』全 119 頁のうち,緩和ケアは 8 頁を占めている。ちなみに,内科は 11 頁である。こ のような冊子を学生が持つことによって,一種のポー トフォリオのような役割を果たしているのではないか と推察している。  緩和ケア実習においては,経験症例数は 3 例・口頭 での症例提示を 1 例,行うことが要求されている。ち なみに,内科の実習では,症例経験 24 例・症例提示 2例が課されている。

緩和ケア実習の構成

 表 1 にあるように,4 週間の緩和ケア実習は,実習 と講義がうまく組み合わされて展開されている。午前 と午後を各 1 コマとすれば,火曜日の GP Day と実習 初日・最終日を除く 4 週間の全 28 コマ中,講義が 14 コマ,外来・病棟での臨床実習が 14 コマ,という構 成になっている。この講義はすべて,緩和ケア実習の 中心施設である Marie Curie Hospice Liverpool の 2 階で行われる。  緩和ケア実習初日には,午前中の緩和ケア総論,緩 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

英国リバプール大学の緩和ケア

卒前教育

─緩和ケア実習を視察して

山梨大学医学部附属病院 麻酔科

飯嶋 哲也

ご感想などお便りをお待ちしています! 〔[email protected]図 1 4 年生の『Clinical Logbook』 表 1 緩和ケア実習プログラム 月 火 水 木 金 午前 臨床実習 (外来・病棟) GP D a y コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス キ ル 臨床実習 (外来・病棟)(外来・病棟)臨床実習 午後 講義 講義 (外来・病棟)臨床実習

(12)

 A さんは,60 歳代の男性(元会社員)。半年前に進行性肺がんと診断されて化学療 法を受けるが,治療効果が乏しく転移が広がっている。現在は,呼吸困難のため入院 中。A さんと妻(60 歳代・専業主婦)には,外来通院中に病状が伝えられている。妻 は泊り込みで A さんの介護を行っているが,A さんの苛立ちは強く,妻が A さんの手 助けをしようとすると「そうじゃない!違う!」と妻を激しく叱責する。  妻は,夜間もほとんど眠っていない様子であり,廊下の隅で泣いている姿を見かける。 看護師は,妻には休息が必要だと考え,「大丈夫ですか。無理せず一度ご自宅に帰られ てはどうですか」と繰り返し声をかけた。しかし,妻は「夫が側にいてほしいというので。 大丈夫です」と返答し,変わらず泊りがけの介護を続けている。  妻に休息を促すのではなく,妻が大事にしていることを看護師がサポートし,ま ずは安心して介護ができるような環境を整えてみる。そのうえで,妻や A さんが 困っていることに焦点を当てて,相談してみてはどうだろうか。

家族(患者)にアドバイスする前に

“関係づくり”を丁寧に行ってみる。

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悩み

第2回「説明を受けても納得しない家族にどう声かけしたらいいの…」 第3回「意見がバラバラな家族,話し合いをしてほしいのに…」 第4回「家族が非現実的な希望を語っています…どうしたらいいの」 第5回「突然来て,いままでの意思決定のちゃぶ台返しをされてしまいました」 第6回「小さい子どもがいる若い家族が心配…」 第7回「いくら説明しても,家族のクレームが止まりません…」

泊まりがけ

介護

疲れた家族

休ん

ほしいけど…

児玉 久仁子

(東京慈恵会医科大学附属病院 家族支援専門看護師)

「無理をして介護を続ける家族にどう接したらいいのでしょうか」

 泊まりがけの介護で疲れた表情の家族。看護師が「大丈夫ですか。休んだ方が いいですよ」と声をかけても,家族は「大丈夫です」と返答し,行動の変化はな い。明らかに大丈夫じゃなさそうなのに…。

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連載予定:全7回 Vol.24 No.4 J 2014

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Vol.24 No.4 J 2013

はじめに

 皆さん,こんにちは,障害年金の専門家,社会 保険労務士の石田です。第 1 回では,障害年金の 受給 3 要件(初診日,納付要件,障害認定日)が すべてそろっていないと障害等級に該当している 状態であっても受給できないということを中心に お話しさせていただきました。  第 2 回では,①障害年金の必要性と年金額,② 障害の程度が変わった時/複数の障害をもった時 の請求制度,③障害年金と傷病手当金との関係, 以上 3 点についてお話ししたいと思います。

障害年金の必要性と年金額

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障害年金の必要性

 がん患者が直面する問題の 1 つとして,経済的 な問題は必ず出てくるのではないでしょうか? 医 療の進歩により,長期間がんと付き合っていく方 も多いと思います。そのためには,経済的な面, つまりお金の問題から目をそらすことができませ ん。まず,治療費が家計の負担になります。高額 療養費制度のみでは経済的な問題をカバーしきれ ません。また,長期間にわたっての通院治療,病 による体力低下などにより,給与がダウンしてしま うにもかかわらず,正社員から非正規社員へなど 就労形態を変えざるをえない方も多くいます。  障害等級によって年金額に差はありますが,た とえば,障害基礎年金 2 級で年間約 77 万という 決まった金額は,このような経済的な問題をカバ ーし,患者のお金に関する精神的不安をかなり軽 減させてくれるのではないでしょうか。

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障害年金の額

1. 障害基礎年金

(国民年金からもらえる障害年金)

 障害基礎年金は,加入していた期間や支払った 保険料の額とは一切関係なく,障害の程度により 定額でいくらと決められています(表 1)。  さらに,生計を維持している一定の子がいる場 合は「子の加算」も受けることができます(「一定 の子」とは,18 歳に達した年度の年度末までの子 あるいは障害等級 1,2 級に該当する 20 歳未満の 子のことを指します)。 石田社会保険労務士事務所

障害年金とは?

∼アドバンス編∼

NPO 法人がんと暮らしを考える会 〔 連載予定:全4回 〕 第1回:障害年金とは? ∼キホン編 第3回:障害年金診断書の作成 ∼請求と認定要領 第4回:障害年金診断書の作成 ∼記載事例と注意したいポイント

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特定社会保険労務士 

石田周平

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Vol.24 No.4 J 2014

あの日の風景

 あの日,あの初夏の午後は,よく晴れていた。M さんの部屋の窓は開け放たれ,初夏 の風が流れ込んでいた。時折レースのカーテンが舞う。その日は,M さんと私 2 人きり であった。ほかの家族は,葬儀に出かけていたのだ。  「こうして死んでいくのと,あんなに突然死んでいくのとどっちがいいのかねぇ」  M さんは急につぶやいた。誰に問いかけるという雰囲気ではなかったが,そこには私 しかいなかった。私は少しとまどったものの,「どっちだろうね」とひとこと答えた。 2人ともしばらく黙って,レースのカーテンが初夏の光の中で踊るのを眺めていた。吹き 込む風が心地良く感じられた。私たちはしばらくの間,そうして過ごした。

M さんのこと

 M さんは乳がんだった。66 歳。まだ若い。子どもが小さい頃に離婚,保険外交員とし て働きながら女手ひとつで子どもを育て上げたところで発症した。手術後,再発を繰り返 し,そのたびに戦ってきた。ありとあらゆる治療を行い生き延びてきた。すでに手術から 4年が過ぎようとしていた。半年前には黄疸が出現し,胆管ステントを挿入した。だが, 腹水がかなりの勢いで溜まるようになってしまった。これ以上の抗がん剤治療は無効と主 治医から宣告され,M さんは自宅に帰ることを選んだのである。  M さんの腹水は,すでにコントロールできなくなっていた。腹腔に留置したチューブ を開放し,1 回ごとに腹水を 2,000 mL ほど抜いた。週に 3 回。それで腹の張る苦痛をな んとか緩和することができた。  長男,次男,再婚した夫らが献身的に世話をしてくれていた。夫と長男は,自宅の隣で 仕事をしていて,次男は歩いて 5 分ほどのところで仕事をしていた。毎夜,家族は集ま り,共に時を過ごした。いつでも傍らにいてくれたのは,長男の若いお嫁さんであった。  家に帰ってからは,ベタメサゾン 6 mg/day を使い始めた。不思議なことに,病院では ほとんど食欲がなかったのに,家に帰ってからは食事量が増えた。普通の人の 8 割程度は 摂取できるようになった。病院では抱きかかえられなければ歩けなかったが,家の中なら 0917-0359/14/¥400/論文/JCOPY

あの初夏の午後に感じたこと

鈴木 央

ひろし 鈴木内科医院

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参照

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