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高血圧および高血圧症とは
血圧は、血液が血管を流れるときに血管壁にかかる圧力のことであり、主として心拍出量と末梢血 管抵抗によって規定されるが、そのほか、循環血液量、血液粘稠度および大動脈の弾力も血圧調節に影 響する。このように血圧は多くの要因によって調節されているため、常に上昇・下降を繰り返し、大変 変動しやすい。このような血圧が持続的にある一定値以上の高値を持続する場合に、高血圧とされてい る。また、高血圧状態が続き、諸臓器に影響を与え病的状態と考えられれば、高血圧症と呼ばれている。 高血圧状態が持続すると心肥大や動脈の肥厚さらには硬化が生じ、続いて脳、心臓、腎臓などの諸 臓器に障害が生じてくる。2.
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高血圧の定義とその分類
血圧は多くの因子によって調節されており、それらの諸因子は遺伝因子と環境因子とで調節されて いる。環境因子の中で食塩摂取量と血圧値との間には極めて密接な関係がある。現在でも食塩摂取量が 極めて少ない北ブラジルのヤノマモインディアンの食塩摂取量は1日1g以下であり、彼らの血圧は成 人まで少し上昇するが、その後は一定であり、高血圧は存在しない1)。 文明諸国の住民は食塩摂取量が多く、その影響で血圧は加齢とともに上昇し、高齢になるに従って 高血圧となるものが多くなる。日本人の食塩摂取量は以前に比し、かなり減少してきたが、今なお1日 の摂取量は11∼12gであり、日本は高血圧人口が多い国の1つである。 高血圧の定義は時代とともに変化し、近年かなり低く定義されるようになり、世界保健機関(World Health Organization;WHO)では収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を高 血圧としている2)。日本では、WHOで示された基準に従って診察室や検診などで測定された血圧値が 140mmHg以上または90mmHg以上の場合に高血圧としている。血圧値はその程度によって詳細に分 類されており、日本高血圧学会が2000年に発刊した高血圧治療ガイドライン2000年(the Japanese Society of Hypertension;JSH 2000)版では3)、正常範囲の血圧値(収縮期血圧140mmHg 未満、拡 張期血圧90mmHg未満)を3段階、高血圧の血圧値を3段階に分け、さらに収縮期血圧が140mmHg 以上で、拡張期血圧が90mmHg未満のものを収縮期高血圧としている。日本高血圧学会による高血圧 治療ガイドラインは、2004年(JSH 2004)および2009年(JSH 2009)にも発刊されており4)5)、その中 で示されている高血圧分類の血圧値は2000年から変わっていないが、かつて軽症高血圧、中等症高血 圧および重症高血圧とされていた高血圧の程度の名称を血圧値のみを考え、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ度とした。軽症 高血圧とされていた軽度の高血圧を呈するものでも、糖尿病や腎障害を合併している場合には予後が悪1
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高血圧とは
Ⅱ
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血圧はどのように
調節されているのか
どうして
高血圧になるのか
●はじめに 高血圧は慢性的に血圧が上昇した状態である。そして、高血圧が問題となるのはあらゆる心血管疾 患の最大の危険因子であり、適切なレベルに降圧を行うことによって心血管病の発症・予後の改善につ ながるからである。さて、それでは血圧はどのように調節されているのか、そしてどうして高血圧にな るのか、について中枢神経系・自律神経系に焦点をおいて解説する1)─4)。高血圧の成因を議論する際、 Guytonの提唱した圧利尿曲線から高血圧の成因として腎臓説が唱えられてきたが、近年、自律神経 系、特に中枢神経系の重要性が高血圧の成因として認識され始めている5)6)。特に臨床における高血圧 を考える際、遺伝的素因に加え、環境因子の重要性を強く認識しておく必要がある。ここで最近約10 年間の研究で中枢神経系の役割が極めて重要であることがわかってきた(図1)。環境因子として現代社 会で大きくかかわっているのは肥満、食塩、ストレスである3)6)。特に肥満、メタボリック型の高血圧 の増加は欧米の生活様式の影響を受けわが国でも大きな問題になっている。重要なことはこれらの環境 因子により現れてくる高血圧は交感神経系の活性化がその病態に本質的にかかわっていることが臨床的 にも示されていることである。現在、その詳細な機序に関する検討が進んでいる。主にレニン・アンジ オテンシン(RA)系抑制薬が推奨されるタイプの高血圧が多いが、二大調節系の1つである自律神経系 の役割が明らかになれば具体的な治療法を考える際に有効になる。本稿ではその基本的知識からトピッ クまで概説する。
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中枢神経系・自律神経系調節
遺伝的素因 加齢 脳 環境的要因 ・ストレス ・高食塩食 ・飽食、運動不足⇒肥満 (インスリン抵抗性) 変化 中枢性 リセッティング リセッティング 交感神経活動↑ リセッティング 血圧↑ 高血圧 高血圧性臓器障害(心肥大、心不全、腎不全、脳卒中) 遺伝子発現 (NO 合成酵素、Rho−kinase) 遺伝子産生物質 (NO、ROS) 受容体 (NMDA−R、AT1R、etc.) シグナル伝達↑ (MAPK、PI3K、etc.) 図 1●脳内物質の異常と環境因子Ⅲ
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高血圧・臓器障害を
どのように診察し
診断するのか
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高血圧症の診断基準の変遷
高血圧の診断基準の歴史的変遷はどのようなものであろうか? 1977年に初めての高血圧治療ガイ ドラインとして、米国合同委員会の第一次報告が公表された。ここでは、拡張期血圧を90∼ 104mmHg、105∼119mmHg、120mmHg以上の3区分に分けて、管理基準を示した1)。1978年の世 界保健機関(WHO)のガイドラインでは、高血圧とは「収縮期血圧(SystolicBloodPressure;SBP) 160mmHg以上、拡張期血圧(DiastolicBloodPressure;DBP)95mmHg以上のどちらか一方ある いは両方を満たしていること」とされた。そして正常血圧は、「SBPが140mmHg以下および DBPが 90mmHg以下のどちらも満たす」ものとされた。当時の降圧目標は、拡張期血圧を中心に高血圧管理 基準を作成しており、DBP 90mmHgならば DBP<90mmHgまで降圧、70歳以上であっても合併症 があり DBP 109mmHgであれば同じく<90mmHgを目指して降圧するというものであった2)。1989 年の WHO/ISH(ScientificMeetingoftheInternationalSocietyofHypertension;国際高血圧学 会)のガイドラインでは SBP 160mmHgを治療対象とすべきとし、SBPを中心とする指針に変更さ れた3)。また、1999年の WHO/ISHでは、SBP/DBPが140/90mmHg以上の場合を高血圧と診断す るべきであるとし4)、フラミンガム研究に基づく45∼80歳(平均60歳)の対象を10年間追跡したとき の、高血圧心血管疾患発症の絶対リスクに基づいて5)、高血圧を4段階のリスクに分類している。 ESH(EuropeanSocietyofHypertension;欧州高血圧学会)─ESC(EuropeanSocietyofCardiolo-gy;欧州心臓病学会)は、2003年に初めて高血圧治療ガイドラインを作成した。特徴は、層別化とフ ローチャートが盛り込まれた点で、ハイリスク群では正常高値血圧から降圧薬治療の対象となることも 明記されている。層別化はわが国のガイドラインもこれに近い形をとっている。24時間自由行動下血 圧測定(AmbulatoryBloodPressureMonitoring;ABPM)や家庭血圧(HomeBloodPressure; HBP)に関する記述も多く、外来(随時診察室)血圧との比較を示す表も掲載された6)。ESH─ESCのガ イドラインでは、正常血圧(120/80mmHg以上)を含めた集団のリスクを5群(付加リスクなし、低・ 中・高・超高リスク)に層別化しているが、治療方針に関しては高リスクと超高リスクは同じ扱いにな っている。 本邦の高血圧患者は現在、約4,000万人にのぼるとされ、国民の3人に1人が罹患しているともいわ れている7)。日本の高血圧治療ガイドラインは、1990年の厚生省(現厚生労働省)/日本医師会編の「高 血圧診療の手引き」に始まり、2000年には日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2000(JSH2000)が 作成され、2004年に改訂された後2009年には5年ぶりに再改訂された(JSH2009)8)。1
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高血圧症の診断基準
●はじめに 高血圧治療の基本は生活習慣の修正と薬物療法であるが、2009年に改訂されたわが国の高血圧治療 ガイドライン(JSH2009)1)において、生活習慣の修正の項目については JSH20042)から大きな変更は なかった。生活習慣にかかわる主たる項目は食事療法、運動療法および嗜好の改善などである。これら に含まれる内容は患者や家族の理解を得やすいものであるが、実行することに困難を伴うか、修正の評 価が困難であることが指導上の問題となる。高齢者や、臓器障害や合併症を有する患者に対しては、患 者背景に則した指導が必要である。 本稿では JSH2009の記載内容に沿って生活習慣の修正について述べる。
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生活習慣修正の項目
JSH2009に示されている生活習慣の修正項目は、①食塩制限(6g/日未満)、②食塩以外の栄養素(野 菜、果物、魚、コレステロール、飽和脂肪酸など)、③適正体重の維持(BMI<25kg/m2)、④運動、 ⑤節酒、⑥禁煙、⑦その他の生活習慣の修正、⑧生活習慣の複合的修正、および⑨特定保健用食品、で ある。特定保健用食品は JSH2004では降圧薬治療の章に記載されていたが、薬品ではないことから JSH2009では生活習慣の修正の章に移された。これらの主たる内容は表11)にまとめられている。2.
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食塩制限
食塩制限は JSH20003)では7g/日未満であったが、JSH2004から6g/日未満と厳しくなりそのま ま JSH2009に引き継がれた。降圧治療としての減塩の必要性については、食塩摂取量と血圧の関係お よび減塩による降圧効果を大規模臨床試験のエビデンスを基に述べている。2005年に立ち上げられた 日本高血圧学会減塩ワーキンググループ(WG)による報告書4)5)では食塩制限の必要性と減塩目標の科 学的根拠を明確にすると同時に、高血圧管理における食塩摂取量の評価方法を提示している。これを受 けて、JSH2009では新たに減塩の評価法について記載した(表2)1)。一方、ガイドラインでは6g/日 未満の厳しい減塩を求めているにもかかわらず、学会として具体的な食事指導用の資料を準備していな いのは問題があるということで、日本高血圧学会減塩 WGは「高血圧患者さんのための減塩食レシピ 食塩1日6グラム」6)を作成している。是非、患者指導に使用して頂きたい。 平成20年国民健康・栄養調査の結果、20歳以上の日本人の食塩摂取量は男性11.9g/日、女性10.1g/ 日、全体では10.9g/日であると報告されている7)。食塩摂取量6g/日未満が実現可能な目標であるか どうかについては議論があるが、高血圧患者の一部(約20%)は6g/日未満を達成していることも報告 されていること、減塩はその程度に応じて降圧が期待される(メタ解析の成績では1g/日の減塩につき1
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生活習慣の改善
●はじめに 高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)では合併症のない高血圧の降圧薬開始対象は血圧140/ 90mmHg以上、糖尿病・慢性腎臓病(CKD)・心筋梗塞後患者では血圧130/80mmHg以上とされて いる1)。一方、メタボリックシンドローム(MetS)を合併している高血圧では、糖尿病がある場合は血 圧130/80mmHg以上が降圧薬の対象であるのに対し、糖尿病がない場合は、130/85mmHg以上から 生活習慣の是正、140/90mmHg以上で降圧薬治療が推奨されている。 また、今までのガイドラインと異なり、脳心血管リスクの層別化には新たに「正常高値血圧」の項目 が導入され、正常高値血圧が管理の対象であり、高リスク群では降圧薬投与を考慮することが推奨され た点が1つの特徴である。その背景には、血圧高値による心血管イベントまたは死亡のリスク上昇が、 正常高値血圧でもみられる可能性が認識されてきたことが1つの要因と考えられる2)3)。 本稿では Pre─hypertension(正常高値血圧)での降圧薬投与を試みた動物実験と臨床検討のデータを 紹介し、今後正常高値血圧に対する治療をどう行うべきか考えてみたい。
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Pre─hypertension での降圧薬投与を試みた
動物実験データ
ヒトの本態性高血圧症のモデル動物として高血圧自然発症ラット(SHR)が広く用いられているが、 このラットでは3週齢∼10週齢の間に血圧が徐々に上昇し、10週齢を過ぎると高血圧の発症がほぼ完 全に確立している。SHRにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を一時的に投与することにより、 その後の高血圧の発症を持続的に抑制できることを最初に報告したのはHarrapやBerecekらである。 まず Harrapらは SHRに ACE阻害薬である perindoprilを6週齢∼10週齢の間に投与するとその後 の血圧の上昇が抑制できることを報告した4)。また Berecekのグループの Wuらは SHRに ACE阻害薬である captoprilを生後2ヵ月まで投与すると血圧が持続的に低値を示すことを報告した5)。 われわれも以前に、遺伝性の高血圧を呈し、ヒトの良性腎硬化症に類似した腎病変を呈するモデル として脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用い、ヒトの Pre─hypertensionに相当する 血圧上昇期( criticalperiod )におけるレニン・アンジオテンシン(RA)抑制薬を用いた治療の効果を 検討した6)。3週齢の SHRSPに ACE阻害薬であるデラプリル、ARBであるカンデサルタン、血管拡 張薬であるヒドララジンのいずれかをこの criticalperiod に一致するよう、3週齢∼10週齢の間に投 与した。10週齢の時点で薬剤の投与を中止し、その後は30週齢までは薬剤を投与せず経過観察した。 高血圧発症時期に一致して血管拡張薬を投与したラットでは投薬中は血圧が低下していたが、中止した 後はコントロールの SHRSPと同程度まで血圧が上昇した。一方、ACE阻害薬またはアンジオテンシ ンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を投与したラットでは血圧低下が続き、血圧の最終値が無治療群に比して 40mmHg程低下していた(図1─a)。Dahl食塩感受性(Dahl─S)ラットを用いた検討でも同様な RAS