【はじめに】
脳卒中は突然発症し、さまざまな神経の後遺症を残す 疾患である。急性期には、脳自体の治療と後遺症に対す る治療(予防)を同時に開始する必要性がある。しかし、 栄養管理についても同様に早期に開始する必要がある ことは、他の疾患と同様である。しかも単なる栄養不良 だけではなく、摂食・嚥下障害を合併することが多いた めに誤嚥を起こす危険がある。この項では、脳卒中後に みられる嚥下障害に対するリハビリテーションを中心に、 栄養管理について述べる。1.脳卒中後の栄養管理のポイント
脳卒中は突然発症するので発症直前まで通常の栄養 を摂取していることが多く、原疾患の治療が優先され栄 養管理は遅れて開始されることが多い。しかし、創傷治 癒や感染予防のために早期から適切な栄養管理を行う べきである。栄養障害の概念からいえば、栄養管理がリ ハビリテーションに必要であることはいうまでもない。と くに嚥下リハビリテーション(以下、嚥下リハビリ)の場合 は、経口摂取の遅れが栄養障害を引き起こして嚥下リハ ビリの効果を妨げ、嚥下リハビリのおくれがさらに栄養障 害を悪化させるという負の循環になりかねない。そのた め、脳卒中後の嚥下リハビリはとくに注意が必要である。1.1 意識状態と神経症状の把握
意識障害があるときは経口摂取がむずかしく、静脈ま たは経腸栄養を行う。また、意識が清明でも利き手の麻 痺や嚥下障害がある場合は経口摂取が困難なので、意 識状態と神経症状を正確に把握する必要がある。 脳卒中患者の状態を表す指標として、よく用いられてい るものがいくつかある。意識障害の表現として汎用され るのが、JCS(Japan Coma Scale)(表1)と GOS1) (Glasgow Coma Scale)(表2)である。どちらも刺激2) に対する反応から、意識レベルを把握するスコアである。特集:リハビリテーションの栄養管理
脳卒中後の嚥下リハビリテーションの栄養管理*
keywords:脳卒中、嚥下障害、高次脳機能障害
三原千惠 Chie MIHARA, MD, PhD ◆海老名メディカルサポートセンター 脳神経サポート室Department of Neurosurgery, Brain-neuro Center, Japan Medical Alliance
脳卒中後の神経症状として嚥下障害は頻度が高く、栄養障害をきたす原因のひとつ として重要である。また誤嚥による肺炎は予後を悪くする危険性が高い。したがって、早 期より適切な嚥下機能評価と栄養管理を開始することが必要である。 脳卒中の症状は意識障害と片麻痺などの神経症状が中心であり、時間とともに変化 する。安全かつ効果的に経口摂取を行うためには、摂食・嚥下障害の把握が必要であ るが、嚥下障害のほかに食物の認識や食事の行動にかかわる高次脳機能障害、片麻痺、 同名半盲などの症状を理解して適切に対処しなければならない。 ここではまず脳卒中の病態と栄養管理について説明し、脳卒中後の嚥下リハビリ テーションの特徴について述べる。また、経口摂取への円滑な移行のための「食べるた めの PEG」の概念についても説明する。
2009年に脳卒中治療ガイドライン3)が改訂され、下記の ものが参考として挙げてある。
1)modified NIH Stroke Scale(NIHSS):アメリカ で提唱され日本で改訂されたスケールで、意識レベ ル、眼症状、上下肢の運動、感覚、言語、無視の項目 について点数をつける4)。
2)日本版 modified Rankin Scale(mRS)判定基準 書:日常の生活動作が自立して行えるかどうかを0 から6までの段階で示す(表3)。
3)Stroke Impairment Assessment Set (SIAS):運動機能、筋緊張、感覚、関節 可動域・疼痛、体幹機能、高次脳機能、 健側機能と細かく分けて評価する5)。 4)Brunnstromの運動検査による回復段 階:上肢、手指、下肢の運動機能を示す6)。 5)Barthel Indexおよびその判定基準: 食事、移乗、整容、トイレ、入浴、歩(車椅 子)、階段昇降、着替え、排便、排尿といっ た日常の生活動作について評価する7)。 6)Japan Stroke Scale (JSS)調査票:意
識状態(GCS、JCS)、言語、無視、視野 欠損または半盲、眼球運動障害、瞳孔異
表1 Japan Coma Scale(JCS、339方式)
表2 Glasgow Coma Scale(GCS)
常、顔面麻痺、足底反射、感覚系、運動系について 総合的に判断する8)。 7)その他:脳卒中のガイドラインには載っていないが、 機能的自立度評価表(functional independence measure、FIM)など、脳卒中後の自立度、介護の 必要度による評価方法があり、リハビリテーションの 場で広く用いられている9)。 それぞれ目的に応じて利用するが、どれも摂食・嚥下 機能については具体的に触れていない。したがって、い ずれのスケールを用いた場合でも、摂食・嚥下機能につ いては別途評価を行う必要がある。
1.2 病期と栄養管理
脳卒中による脳のダメージに加えて微小循環障害から 生じる脳浮腫が症状を決定する。しかも神経症状は経過 とともに変化するので、それに合わせた栄養管理が必要 である10)(図1)。 先に述べた脳卒中治療ガイドライン2009では、栄養の 重要性(表4)と嚥下障害(表5)についてわずかであるが 表記されている。それによると、脳卒中の栄養管理は原 疾患の治療が優先されるため、発症後1週間以上たって から開始されることが多かった。しかし、経口摂取が困 難である場合は7日目以内に経腸栄養を始める方が末梢 静脈栄養よりも死亡率が少ないということから11)、急性期 の経腸栄養が推奨されている。時間経過と重症度に沿っ た栄養管理方法の選択について図2に示す。 また、この2009年版のガイドラインでは、初めてリハビ リテーションについての項目が加わり、嚥 下リハビリテーション(以下、嚥下リハビ リ)の必要性と重要性についても触れて いる(表6)。 それらを踏まえたうえで、詳細について 以下に説明する。 図1 病期と重症度による栄養管理方法の推移 図2 脳卒中における栄養管理方法の実際 表4 1.脳卒中一般の管理 Ⅰ . 脳卒中一般 1-1.脳卒中超急性期の呼吸・循環・代謝管理 (3)栄養 推 奨 ❶高血糖または低血糖はただちに是正すべきである(グレード B)。 ❷低栄養例では十分なカロリーや蛋白質などの補給が推奨さ れる(グレード B)。 表5 1.脳卒中一般の管理 Ⅰ . 脳卒中一般 1-3.対症療法 (2)嚥下障害 推 奨 ❶嚥下障害が疑われる患者では嚥下造影検査(VF検査)の施 行が望ましいが、ベッドサイドでの簡便なスクリーニング検 査としては、水飲みテストが有用である(グレード B)。 ❷検査の結果、誤嚥の危険が高いと判断されれば、適切な 栄養摂取方法および予防を考慮することが推奨される(グ レード B)。2. 摂食・嚥下障害
2.1 摂食・嚥下のメカニズム
食べるという行為は、食物を認識し(先行期または認知 期)、口に取り込んで咀嚼し(準備期または咀嚼期)、ノド に送り込み(口腔期)、飲み込み(咽頭期)、飲み下す(食道 期)という一連の動きからなる(図3)。先行期・準備期の 障害を「摂食障害」、口腔期・咽頭期・食道期の障害を「嚥 下障害」と考え、とくに咽頭期障害は誤嚥する危険性が高 く、誤嚥性肺炎をおこしやすいので、注意が必要である。 食物が咽頭部に接すると意識しなくても自然に飲み込 む運動がおこり、これを「嚥下反射」という。一方、誤嚥す ると無意識に咳をして吐き出す「咳嗽反射(咳反射)」がお こる。咳嗽反射が弱いと、誤嚥してもムセない「不顕性誤 嚥」となるので、ムセないから大丈夫と思ってはいけない。2.2 摂食障害とその対策
脳卒中では、失認・失語・失行などの高次脳機能障害 を起こすことが多く、それが摂食障害の原因となる。たと えば失認では、物事の認識ができないので、食物の認識 ができない、空間の認識ができないという障害のために、 目の前に食物があっても食べる行動に移れない。とくに 非優位大脳半球の障害で起こる半側空間無視の状態で は、視覚的に見えていても無視側の空間にある食物を認 識できないので、食膳の半分にあるものだけを食べると いう状態になる。その場合には、食物の向こう側に鏡を 置くと、無視側の空間にある食物が鏡の中に見えて認識 することができ る12)(図4)。失語 では言葉による 意思の疎通が難 しいので、「口を 開けて」などとい う呼びかけに対 する反応が低下 する。その場合 には、言葉だけではなく身ぶりや手ぶりを加えて、患者に 認識させる必要がある。失行があると、開口して食物を取 り込むという一連の動きがスムーズに行えない。たとえば スプーンを持つことができても、それを用いて食物をすく う行動がとれない。 また、高次脳機能障害だけでなく片麻痺の場合も、利 き手側の片麻痺があると、箸やスプーンの取り扱いがむ ずかしく、片麻痺により姿勢の保持が不安定であれば、 十分な開口や食物の取り込みが困難となる。 こうした摂食障害に対しては、作業療法士(OT)が高 次脳機能障害の種類や程度を判定して適切な介助や指 導を行い、理学療法士(PT)が姿勢の保持ができるよう な体位の指導を行い、OTが顔面や頚部の筋緊張を取 る運動を指導するなど、リハビリのスタッフが他職種のス タッフに情報を提供して共有化する必要がある。具体的 な方法は後に述べる。2.3 嚥下障害とその対策
嚥下障害をきたす病態としては、脳幹部の病変による 球麻痺と両側大脳レベルの障害による仮性球麻痺があ 図3 摂食・嚥下のメカニズム 表6 2.主な障害・問題点に対する Ⅶ . リハビリテーション リハビリテーション 2-7.嚥下障害に対するリハビリテーション 推 奨 ❶脳卒中患者においては、嚥下障害が多く認められる。それに 対し、嚥下機能のスクリーニング検査、さらには嚥下造影検 査、内視鏡検査などを適切に行い、その結果を元に、栄養摂 取経路(経管・経口)や食形態、姿勢、代償嚥下法の検討と 指導を行うことが勧められる(グレード B)。 ❷経口摂取が困難と判断された患者においては、急性期から (発症7日以内)経管栄養を開始したほうが、末梢点滴のみ継 続するよりも死亡率が少ない傾向があり勧められる(グレー ド B)。発症1か月後以降も経口摂取困難な状況が継続してい るときには胃ろうでの栄養管理が勧められる(グレード B)。 ❸ 頸 部 前 屈や 回 旋、咽 頭 冷 却 刺 激、メンデルゾーン手 技、 supraglottic swallow(息こらえ嚥下)、頸部前屈体操、バ ルーン拡張法などの間接訓練は、検査所見や食事摂取量の 改善などが認められ、実施が勧められる(グレード B)。 図4 嚥下造影 (VF)る。嚥下機能の評価方法にはスクリーニング検査と画像 検査がある。 2.3.1 スクリーニング検査 ベッドサイドで行える検査で、嚥下やムセの様子を見て 判断する。誤嚥が予測される場合は、SaO2モニターで 呼吸機能を見ておく必要がある。
1)反復唾液嚥下テスト法(repetitive saliva swallowing test, RSST):患者に空嚥下を反復してもらい、30秒 間に2回以下であれば嚥下障害を疑う。
2)改訂水飲みテスト(modified water swallow test, MWST):3mLの冷水を口腔内に入れて、嚥下反 射誘発の有無、ムセ、呼吸の変化を評価する。 3)フードテスト(food test):少量(3~ 4g)のプリンな どを使って同様の評価を行う。 クリーニング検査では不顕性誤嚥が分かりにくいの で、誤嚥が疑われる場合には客観的な画像検査を行うこ とがのぞましい。 2.3.2 画像検査 画像診断機器を用いる検査法で、設備や機器が必要 であり費用も手間もかかるが、客観的なデータを残すこ とができるので嚥下機能評価の信頼性が高い。 1)嚥下造影検査(video fluoroscopy, VF):レントゲ ンの透視機器を用いる。検査食に造影剤を加えて飲 み込んでもらい、透視画像で嚥下の状態を観察する。 長所は舌から喉頭にかけての動きがよくわかること で、口腔期から食道期まで連続して詳細な観察がで きる。咽頭から喉頭にかけて食物の残留状態や誤 嚥の有無もよくわかる(図4)。短所は透視検査室へ の移動が必要であること、透視範囲に頭部が固定で きるような姿勢の保持が必要であることなどであ る。体動が激しい、意思疎通ができない、座位が取 れないといった患者では VF検査は困難である。 2)嚥下内視鏡検査(video endoscopy, VE)は、細い内
視鏡を鼻腔から咽頭部に挿入して食物を嚥下しても らい、どのように通過するか、どのくらい残留するか を観察する(図5)。長所は内視鏡を運べばベッドサイ ドでも検査が可能であること、喉頭蓋や声門の状態 や食物の残留状態が直接観察できること、嚥下前に 誤嚥する場合は気道に食物が入る瞬間が見えること などがある。短所には口腔期の観察ができないこと、 嚥下する瞬間はカメラが咽頭壁に密着するため観察 できないこと(ホワイトアウト)、誤嚥が嚥下中に起こ る場合は誤嚥の判定ができないことなどがある。 どちらも画像データを残すことができるので、検 査後も画像を見ながら嚥下機能について栄養サポー トチーム(nutrition support team, NST)のス タッフや患者・家族で検討することができる。
2.4 摂食・嚥下リハビリテーション
摂食・嚥下機能評価を行い、障害に応じたリハビリテー ション(以下リハビリ)を開始する。わが国には摂食・嚥下 障害認定看護師の制度があり、病棟では看護師が中心と なって摂食機能療法を行い、嚥下訓練は言語聴覚士 (speech therapist, ST)が中心になる。姿勢や高次脳機 能の把握には PT、OTの協力が、口腔内の機能保持には 歯科衛生士の協力が必要であり、NSTの特性を活かして、 多職種の連携で機能回復をはかることがのぞましい12)。 2.4.1 嚥下リハビリの環境整備 嚥下訓練には食物を使わない間接嚥下訓練(基礎訓 練)と、食物を使う直接嚥下訓練(摂食訓練)がある。いず れの訓練も、訓練を行う前に前述した嚥下機能検査を行 い、訓練の内容と進め方を検討する。開始にあたっては、 下記にあげる摂食・嚥下の環境を整える必要がある13)。 1)頭頚部と体幹の姿勢保持 咀嚼・嚥下は、口から顎、頸部、体幹まで広い範囲 の協調された運動の連鎖からなる。頭頚部や体幹 の姿勢保持のアプローチを行い、これらの筋組織 に緊張を与えて協調性を改善する。 図5 嚥下内視鏡 (VE)2)摂食姿勢の調整 体を起こして座位にすると、骨格筋は緊張を高め姿 勢を保持しようとする。しかし脳卒中患者では座位 の保持がむずかしいことが多いので、上体を約30 度挙上し頭頸部はやや前屈させる。片麻痺がある場 合には、麻痺側へ頭を向けて非麻痺側の咽頭部を 通過させるようにする。 3)体の柔軟性 姿勢が不安定になると体の柔軟性が失われ疲労や 不安感を招く。食事をするベッドや車椅子などで姿 勢が安定させて、体が高くならないように工夫をす る。垂直座位が可能な場合は、両足底を接地させた り、座面にボリュームをもたせて左右方向の傾きを 少なくしたりすると安定性を上げることができる。ま た、あらかじめ頸部や体幹のストレッチを行うと効 果的である。 4)呼吸と嚥下の協調運動 呼吸と嚥下の関係は重要で、間接訓練では呼吸訓 練が基礎となっている。腹式呼吸法や口すぼめ呼 吸をさせて、呼吸と嚥下の協調を図る。 5) PNF(固有受容器神経筋促通法)
PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaition) とは、1940年代後半に医師であるKabat博士が提 唱し、理学療法士であるKnottとVossが開発と普 及に努めた運動療法で、「主に固有受容器を刺激する ことによって、神経筋機構の反応を促通する方法」と 定義される14)。固有受容器とは、「位置・動き・力の感 覚受容器」のことで、関節包・靭帯・筋紡錘・腱紡錘 などの位置・動き・力の感覚受容器をさす。神経筋 機構に障害があると、筋力の低下・協調不全などを 生じるので、筋の伸張や運動抵抗などを介して固有 受容器を刺激することによって正常な反応を獲得さ せる療法である。嚥下障害においては、嚥下に関連 する筋群に PNFを実施することで反応を促通する。 6)栄養療法と運動 運動は、栄養療法によって摂取した栄養素を体力へ 還元させるという観点から大切な役割をもつ。近年、 「骨格筋減少症(sarcopenia)」と呼ばれる病態が 注目されており、加齢や臥床による骨格筋量の減少 が、筋・神経失調、低栄養、蛋白プールの減少、とい う悪循環をきたすと考えられている15)。骨格筋つまり エネルギー源の欠乏とタンパク質合成の低下は、易 感染性や創傷治癒の遅延につながり患者の予後を 不良にする。Sarcopeniaの予防には、栄養療法と 運動を並行して行うことが大切である。 7)口腔ケアと唾液の分泌 口の運動障害があると唾液の分泌が少なくなり、病 原菌が増殖しやすくなる。そこで顎関節周囲を徒手 的にほぐし、口輪筋や口唇へ直接タッピングを行う と口唇閉鎖機能と鼻呼吸が促され、唾液の潤滑作 用が再開される。感染予防と口腔機能の保持に口 腔ケアが必要であることはいうまでもなく、詳細につ いては別項を参照されたい。 2.4.2 高次脳機能障害に対する介入 左半側視空間失認のある場合、左側にある食物の認 識ができない。そこで図4のようにスタンド型(卓上)の 鏡を食器の前方右側に置くと食器やお盆の中身の全体 像を確認することができる16)(図6)。 失行の場合、箸やスプーンなど扱いが困難になるので、 手を添えてスプーンなどで口に運んでみる。食べ物を口 へ持っていっても開口しない場合でも、何度か繰り返すと 開口できることもあるので根気よく訓練を続けるとよい。 注意障害の場合、注意が散漫な場合(転導性の亢進) と、食事に移れない場合に分かれる。前者では食事環境 の整備が大切で、転導する対象が視覚性刺激なのか聴 覚性刺激なのかを判断し、それに応じた対応を行う。後 者は行為に移れない、あるいは食物や食事場面の意味 がつかめないという場合があるので、判別には十分な観 察が必要である。 図6 半側空間無視に おける鏡の利用 スタンド型の鏡を 食器の前方右側に 置く。角度を調節す ることにより食器 の全体像を確認で きる (文献11)より引用)
2.4.3 認知症への対応 脳卒中患者は高齢者が多く、認知症を呈する症例が多 い。残存する機能を十分に刺激しつつ支える。食べると いうことは、単に栄養素を取り込むという行為ではなく、 食物の名前、形、色、におい、食感などの要素から想起さ れる記憶との連携である。したがって、食べ物にまつわ る話をしながら記憶を刺激することも大切である。ただ し、自発性が著しく低下している場合は摂食の可能性の 限界があり、経腸栄養の適応となる。栄養状態が悪くな る前に、経腸栄養と併用して、誤嚥に十分注意したうえで できるだけ経口摂取を温存する。 2.4.4 日常生活動作訓練からみたかかわり 「手が口へ向かうと口が呼応して食物を迎える」という 動作は、高度な高次脳機能を必要とする。つまり、身体 が一つの目的物に対して各部を協応させて動作を行うこ とを意味する。他人の介助よりも自分の手が運ぶスプー ンであれば、協応して口が開きやすいので、利き手が麻 痺している場合は利き手交換を提案 2.4.5 咽頭期の観察と訓練 誤嚥が起こるのは主に咽頭期である。喉頭蓋が気管 をふさぐことができない、またはふさぐ前に食物が気管 内に入ることで誤嚥する。あるいは、一度嚥下した後に、 梨状窩や喉頭蓋谷などに残留した食物が、気管内に流 入する。 こうした動きは外からではわかりにくいので、VFや VEといった画像診断で確認するとよい。嚥下で誤嚥す る場合も、残留したものが流入する場合も、喉頭蓋の動き が不十分なために起こるので、頭部を前屈させて相対的 に喉頭が拳上して喉頭蓋の動きがよくなるくように促す。 また、誤嚥を防ぐには息を止めて嚥下する方法、嚥下 を繰り返す複数回嚥下、トロミ水やゼリーなどで流し込 む交互嚥下などの方法がある17)。
3. 食べるための PEG
3.1 経鼻チューブからの離脱
経腸栄養が長期にわたる場合は、経鼻チューブから経 皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy, PEG)を行って胃瘻から栄養投与すること がガイドラインで推奨されている18)。これは、必要なエネル ギーの確保のために経腸栄養を継続する場合、経鼻チュー ブでは鼻咽腔の刺激による粘膜損傷、チューブの自己(事 故)抜去、胃食道逆流による誤嚥、さらに誤嚥性肺炎がお こりやすいというデメリットを回避するためである19)。 一方、経鼻チューブによる経腸栄養の段階で嚥下リハ ビリテーションが開始されると、チューブによる咽頭の刺 激がリハビリの妨げになり、効果が得にくい場合がある。 また、経口摂取が増えても必要なエネルギーや水分量を 十分摂取できない場合は経腸栄養の併用が必要となる。 こうした経腸栄養と経口摂取の併用の時期には、経鼻 チューブからの離脱がのぞましい。球麻痺の患者などで 意思の疎通がよく不穏がない場合は、間欠的口腔カテー テル栄養法(intermittent oral catheterization, IOC) によって必要な時だけ経口的に胃管を使用することがで きる20)。しかし、高次脳機能障害のある患者では意思の 疎通が難しく、必要量の経腸栄養剤を入れる間安静が 保たれないことがあるので、PEG胃瘻を造設して経口訓 練を行うと効果的である。こうした PEGは鼻咽腔の チューブ刺激がなく、嚥下リハビリをスムーズに進める強 い味方となる。著者は経口摂取に先駆けた PEGを「食 べるための PEG」と考え、単なる経腸栄養の投与方法と してではなく、食べる楽しみを安全かつできるだけ早く 獲得するための手段として推奨している21)。3.2 水・電解質異常について
脳卒中患者は、嚥下機能が低下して水を飲みにくい、 トイレに行くのが億劫、という理由で飲水量が少なくな りがちである。とくに高齢の患者では口渇の感度が低く、 ノドの渇きを感じにくいという理由から、経口摂取できる 場合でも水分摂取が不足しがちである。脱水になると痰 が粘調になって肺炎になりやすく、また血液も濃縮して 脳梗塞や深部静脈血栓症などの誘因になるので注意が 必要である22)。 経口摂取開始前後に PEGを行い全量経口摂取がで きるようになると、PEGの管理の煩雑さから、患者・家族、 あるいは介護スタッフから「早く胃瘻カテーテルを抜去し てほしい」と希望されることが多い。しかし、胃瘻抜去後 に体調不良や下痢などで水分の経口摂取が不足すると、参考文献
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輸液投与が必要となる。全量食事を経口摂取できるよう になっても、水分摂取量・水分出納をきちんと把握し、 不足分を胃瘻から容易に補充することができる。PEGを 使用しなくなって半年位は抜去せずに観察することがの ぞましい。