ふく射のエネルギー収支に着目した教育教材としての
地球温暖化模擬実験装置の開発
熊 野 智 之
*Development of Educational Apparatus to Demonstrate the Global Warming in
Consideration of Radiative Energy Balance
Tomoyuki KUMANO
A novel apparatus simulating the global warming mechanism and attendant variations in the global mean temperature was developed. The apparatus was designed so that the surface temperature of a model Earth was determined solely by a suitably simulated radiative energy balance. In simple experiments using acrylic plates as a layer of greenhouse gases, the steady state temperature was found to decrease with increasing plate thickness beyond 1 mm. However, this demonstration didn’t provide an accurate simulation because the energy loss and heat capacity were affected by the thickness and the pressure effect of the gas layer couldn’t be simulated. An improved system was devised, incorporating supplies of gaseous CO2 and N2, and experiments were carried out using both high and low CO2 concentrations. The resulting temperature increases based on the greenhouse effect were 0.7 and 0.3 °C, respectively. These data showed that the extent of warming varied with the CO2 concentration, although the concentration was artificially high and the atmosphere in the model was not homogeneous. Various improvements, such as the use of a more powerful cooling system and the addition of a metered gas supply unit, allowed the apparatus to more accurately demonstrate temperature changes corresponding to gas composition.
Keywords: Global warming, Greenhouse effect, Environmental education, Thermal radiation heat transfer, Radiative energy balance, Experimental simulation
1.緒 論 IPCC の第 5 次報告によれば,「温暖化には疑う余地がな く,20 世紀半ば以降の温暖化の主な原因は人間活動の影響 である可能性が極めて高い」とされている1,2).また,近年 は地球温暖化の停滞現象(hiatus)が見られるものの,将来 には深刻なリスクがあり,適応および緩和に向けた様々な 取り組みが必要と説かれている.一方で,人為的なCO2濃 度の上昇による温暖化には懐疑論も多く,太陽活動の停滞 により寒冷化を予測する向きもある3,4).このように温暖化 問題には様々な見方がある中で,個々が温暖化の科学的な メカニズムを理解し,IPCC が指摘する将来リスクを可能性 の1 つとして正しく認識することが重要である.温暖化に 関する環境教育は中等教育機関において広く実施されてい るが,社会問題として扱われる側面が強く,そのメカニズ ムについてはFig. 1 のような簡略図で紹介される程度であ る.また,小中学生向けの温室効果模擬実験も幾つか報告 されているが,それらは導入教育としてCO2の温室効果を 示すことを目的としている 5).理工学系の高等教育機関で は,現状認識や将来予測に結びつくようなより高度な環境 教育が求められている. 温暖化は地球規模でのふく射輸送問題であるため,メカ ニズムを理解するためにはふく射伝熱の知識が必要となる. そこで,まず大学工学部および高等専門学校(高専)にお けるふく射伝熱の学習状況をシラバスから調査した.調査 は国立大学86 校および高専 57 校の 2017 年度シラバスを対 象に行い,授業内容に「ふく射」「放射」という記述がある 科目を抽出した6).その結果,約80%の大学・高専におい て,伝熱工学などふく射に関連した科目が開講されている (高専ではその1/4 が選択科目)ことが確認できた.ただ し,ふく射を扱った授業回数は半期15 回のうち 3 回未満で ある割合が94%(特に 1・2 回が 74%)であった.また, 学習内容についてもガスふく射まで扱ったものは殆ど見ら れなかった.大学によっては環境に関する研究・教育に特 化した部門を設け,地球温暖化のメカニズムに関しても専 門的な講義が行われている例もあるが,全国的には少数と 言える 7).したがって,大学や高専ではふく射伝熱に関す る学習時間は一般的に十分ではなく,学生が物理現象とし ての温暖化に関する理解を深める機会が乏しいことが懸念 される.この点は,著者が実際に高専の学生を対象に実施 した地球温暖化の理解度に関するアンケート結果からも裏 付けられている.世界的にも,大学において模擬実験を取 り入れた温暖化メカニズムに関する教育の実践例は,僅か しか報告されていない8). 本研究では,高等教育機関におけるふく射伝熱学習用教 材としての室内型温暖化模擬実験装置を開発する.特に, CO2濃度の変化がふく射のエネルギー収支に及ぼす影響を 正しく模擬することを目的とし,温暖化の将来予測に資す る実験手法について成立すべき相似則を含めて検討した. 原稿受付 2020 年 9 月 2 日 * 正会員 神戸市立工業高等専門学校機械工学科(〒 651-2194 兵庫県神戸市西区学園東町 8-3) 2.模擬実験装置のコンセプト IPCC の将来予測では,最も深刻なシナリオ(RCP8.5) の場合,2100 年時点で世界の平均気温は現在よりも 4 ℃程 度上昇し,引き続き上昇傾向にあるとされている1,2).一方 で,大気中のCO2濃度のみをパラメータとした場合,熱平 衡の観点から地表付近の温度が際限なく上昇することは考 えにくい.よって,2100 年以降も CO2濃度が上昇し続ける と,平均気温の推移はFig. 2 に示すような 3 つのパターン が考えられる.中等教育機関で学習するメカニズムでは, (a)の「右肩上がりに上昇し続ける」しか予測できない.(b) の「いずれ頭打ちになる」は,温室効果の上でCO2濃度が 飽和状態に到達することを意味する.ガス層におけるふく 射の吸収(Beer の法則)を考えれば妥当な推移と考えられ る.ただし,圧力効果による吸収スペクトル線の広がり方 が,頭打ちになるかどうかを左右する要素となる.圧力効 果とは,吸収スペクトル線の波長幅のうち分子同士の衝突 に起因する圧力幅がガス濃度の上昇によって広がる現象で ある.CO2の主要吸収帯である15m 付近では大気全体の 吸収率はすでに1 に近いが,この効果により濃度の増加に 伴って吸収されるふく射エネルギーは増加する.(c)は「あ る時点でピークに達しそれ以降は低下する」である.CO2 ガス層による短波長側(1.9,2.7,4.3 m 帯)でのふく射 の吸収は,地表が放射するふく射についてはエネルギー量 が小さいため通常考慮されない.しかし,地表に入射する 太陽光(5800 K の黒体ふく射)については, 5 m 以下の エネルギー流束が全体の99.5%(3 m 以下が 97.9%)を占 めるため,短波長側でのふく射の吸収は無視できない.し たがって,温室効果をもたらす15 m 帯でのふく射の吸収 が頭打ちになる以上にCO2ガス濃度が上昇した場合,入射 エネルギーが減り地表温度が低下する可能性がある.ただ し,CO2による短波長側での吸収は現状のCO2濃度で飽和 状態に近いと推定されるため,(b)のケース同様に吸収スペ クトル線の広がりがどの程度エネルギー収支に関与するか が問題となる. 地球温暖化は様々な要因が関連する複雑な現象である ため,全てを模擬することは困難である.そこで本研究で は,地表温度はふく射のエネルギー収支のみによって決ま ると仮定する.また,温室効果ガスとしてはCO2のみを対 象とする(CO2よりも温室効果が高いH2O については,自 然に循環している量に対し人為的に排出されている量は小 さいことや,大気中の滞留時間がCO2に比べて短いことか ら研究の初期段階では除外する).そして,ふく射のエネル ギー収支を再現し,CO2濃度の増加が収支に及ぼす影響を 正しく模擬することに重点を置く.エネルギー収支の再現 とは,特に温室効果ガスによるふく射の吸収や散乱が入射 側と放射側で正しい割合で起こること,つまり太陽および 地球からのふく射が通過する大気層の体積比が 1(半球 殻):2(全球殻)となるよう実験装置を設計することを意 味する.屋外実験では入射光のスペクトルおよび平行光束 を模擬する必要がなく簡単に行える利点がある.しかし, 天候や日照の影響が大きいことや,入射光が大気中のガス 分子による吸収を予め受けることから屋内実験とする. 以上より,本研究では,温暖化のメカニズムを理解する とともに将来的に(a)(b)(c)いずれの傾向になる可能性が高 いかを議論できるよう,温室効果の調整とふく射のエネル ギー収支の再現を可能にした室内型の模擬実験装置を開発 する. 3.温室効果ガス層を板材で模擬した実験装置 CO2ガス層をプラスチック板で模擬した実験装置の概要 をFig. 3 に示す.模擬地球は黒体塗料をコーティングした 厚み1 mm のアルミニウム板であり,アルミニウム角パイ プ内の中央に設置されている.角パイプ内面は,ふく射輸 送の1 次元性を確保するために鏡面(アルミニウム蒸着面) とした.温室効果ガス層に見立てたアクリル板は,ガス濃 度の違いを表現するために厚みを1,5,15 mm の 3 種類と し,エネルギー収支を再現するために黒体塗料面の両側に 設置した.500 W の白熱電球からのふく射を,角パイプ断 面と同じ方形のスリットを設けたアルミニウム板(スリッ ト板)を通して角パイプ内に導く.光量と平行度をある程 Fig. 2 Predicted global temperature changes based on scenario
RCP8.5 with reference to IPCC AR5
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Te mp er at ur e, ° C 2020 2100 (a) (b) (c) (RCP8.5) . A. D.
Fig. 1 A representative diagram to show mechanism of the
global warming (200years ago) CO2:280 ppm (The present) CO2:370 ppm Solar Radiation Heat The Earth Radiation Atmosphere Atmosphere The Earth Solar Radiation 7
-ふく射のエネルギー収支に着目した教育教材としての
地球温暖化模擬実験装置の開発
熊 野 智 之
*Development of Educational Apparatus to Demonstrate the Global Warming in
Consideration of Radiative Energy Balance
Tomoyuki KUMANO
A novel apparatus simulating the global warming mechanism and attendant variations in the global mean temperature was developed. The apparatus was designed so that the surface temperature of a model Earth was determined solely by a suitably simulated radiative energy balance. In simple experiments using acrylic plates as a layer of greenhouse gases, the steady state temperature was found to decrease with increasing plate thickness beyond 1 mm. However, this demonstration didn’t provide an accurate simulation because the energy loss and heat capacity were affected by the thickness and the pressure effect of the gas layer couldn’t be simulated. An improved system was devised, incorporating supplies of gaseous CO2 and N2, and experiments were carried out using both high and low CO2 concentrations. The resulting temperature increases based on the greenhouse effect were 0.7 and 0.3 °C, respectively. These data showed that the extent of warming varied with the CO2 concentration, although the concentration was artificially high and the atmosphere in the model was not homogeneous. Various improvements, such as the use of a more powerful cooling system and the addition of a metered gas supply unit, allowed the apparatus to more accurately demonstrate temperature changes corresponding to gas composition.
Keywords: Global warming, Greenhouse effect, Environmental education, Thermal radiation heat transfer, Radiative energy balance, Experimental simulation
1.緒 論 IPCC の第 5 次報告によれば,「温暖化には疑う余地がな く,20 世紀半ば以降の温暖化の主な原因は人間活動の影響 である可能性が極めて高い」とされている1,2).また,近年 は地球温暖化の停滞現象(hiatus)が見られるものの,将来 には深刻なリスクがあり,適応および緩和に向けた様々な 取り組みが必要と説かれている.一方で,人為的なCO2濃 度の上昇による温暖化には懐疑論も多く,太陽活動の停滞 により寒冷化を予測する向きもある3,4).このように温暖化 問題には様々な見方がある中で,個々が温暖化の科学的な メカニズムを理解し,IPCC が指摘する将来リスクを可能性 の1 つとして正しく認識することが重要である.温暖化に 関する環境教育は中等教育機関において広く実施されてい るが,社会問題として扱われる側面が強く,そのメカニズ ムについてはFig. 1 のような簡略図で紹介される程度であ る.また,小中学生向けの温室効果模擬実験も幾つか報告 されているが,それらは導入教育としてCO2の温室効果を 示すことを目的としている 5).理工学系の高等教育機関で は,現状認識や将来予測に結びつくようなより高度な環境 教育が求められている. 温暖化は地球規模でのふく射輸送問題であるため,メカ ニズムを理解するためにはふく射伝熱の知識が必要となる. そこで,まず大学工学部および高等専門学校(高専)にお けるふく射伝熱の学習状況をシラバスから調査した.調査 は国立大学86 校および高専 57 校の 2017 年度シラバスを対 象に行い,授業内容に「ふく射」「放射」という記述がある 科目を抽出した6).その結果,約80%の大学・高専におい て,伝熱工学などふく射に関連した科目が開講されている (高専ではその1/4 が選択科目)ことが確認できた.ただ し,ふく射を扱った授業回数は半期15 回のうち 3 回未満で ある割合が94%(特に 1・2 回が 74%)であった.また, 学習内容についてもガスふく射まで扱ったものは殆ど見ら れなかった.大学によっては環境に関する研究・教育に特 化した部門を設け,地球温暖化のメカニズムに関しても専 門的な講義が行われている例もあるが,全国的には少数と 言える 7).したがって,大学や高専ではふく射伝熱に関す る学習時間は一般的に十分ではなく,学生が物理現象とし ての温暖化に関する理解を深める機会が乏しいことが懸念 される.この点は,著者が実際に高専の学生を対象に実施 した地球温暖化の理解度に関するアンケート結果からも裏 付けられている.世界的にも,大学において模擬実験を取 り入れた温暖化メカニズムに関する教育の実践例は,僅か しか報告されていない8). 本研究では,高等教育機関におけるふく射伝熱学習用教 材としての室内型温暖化模擬実験装置を開発する.特に, CO2濃度の変化がふく射のエネルギー収支に及ぼす影響を 正しく模擬することを目的とし,温暖化の将来予測に資す る実験手法について成立すべき相似則を含めて検討した. 原稿受付 2020 年 9 月 2 日 * 正会員 神戸市立工業高等専門学校機械工学科(〒 651-2194 兵庫県神戸市西区学園東町 8-3) 2.模擬実験装置のコンセプト IPCC の将来予測では,最も深刻なシナリオ(RCP8.5) の場合,2100 年時点で世界の平均気温は現在よりも 4 ℃程 度上昇し,引き続き上昇傾向にあるとされている1,2).一方 で,大気中のCO2濃度のみをパラメータとした場合,熱平 衡の観点から地表付近の温度が際限なく上昇することは考 えにくい.よって,2100 年以降も CO2濃度が上昇し続ける と,平均気温の推移はFig. 2 に示すような 3 つのパターン が考えられる.中等教育機関で学習するメカニズムでは, (a)の「右肩上がりに上昇し続ける」しか予測できない.(b) の「いずれ頭打ちになる」は,温室効果の上でCO2濃度が 飽和状態に到達することを意味する.ガス層におけるふく 射の吸収(Beer の法則)を考えれば妥当な推移と考えられ る.ただし,圧力効果による吸収スペクトル線の広がり方 が,頭打ちになるかどうかを左右する要素となる.圧力効 果とは,吸収スペクトル線の波長幅のうち分子同士の衝突 に起因する圧力幅がガス濃度の上昇によって広がる現象で ある.CO2の主要吸収帯である15m 付近では大気全体の 吸収率はすでに1 に近いが,この効果により濃度の増加に 伴って吸収されるふく射エネルギーは増加する.(c)は「あ る時点でピークに達しそれ以降は低下する」である.CO2 ガス層による短波長側(1.9,2.7,4.3 m 帯)でのふく射 の吸収は,地表が放射するふく射についてはエネルギー量 が小さいため通常考慮されない.しかし,地表に入射する 太陽光(5800 K の黒体ふく射)については, 5 m 以下の エネルギー流束が全体の99.5%(3 m 以下が 97.9%)を占 めるため,短波長側でのふく射の吸収は無視できない.し たがって,温室効果をもたらす15 m 帯でのふく射の吸収 が頭打ちになる以上にCO2ガス濃度が上昇した場合,入射 エネルギーが減り地表温度が低下する可能性がある.ただ し,CO2による短波長側での吸収は現状のCO2濃度で飽和 状態に近いと推定されるため,(b)のケース同様に吸収スペ クトル線の広がりがどの程度エネルギー収支に関与するか が問題となる. 地球温暖化は様々な要因が関連する複雑な現象である ため,全てを模擬することは困難である.そこで本研究で は,地表温度はふく射のエネルギー収支のみによって決ま ると仮定する.また,温室効果ガスとしてはCO2のみを対 象とする(CO2よりも温室効果が高いH2O については,自 然に循環している量に対し人為的に排出されている量は小 さいことや,大気中の滞留時間がCO2に比べて短いことか ら研究の初期段階では除外する).そして,ふく射のエネル ギー収支を再現し,CO2濃度の増加が収支に及ぼす影響を 正しく模擬することに重点を置く.エネルギー収支の再現 とは,特に温室効果ガスによるふく射の吸収や散乱が入射 側と放射側で正しい割合で起こること,つまり太陽および 地球からのふく射が通過する大気層の体積比が 1(半球 殻):2(全球殻)となるよう実験装置を設計することを意 味する.屋外実験では入射光のスペクトルおよび平行光束 を模擬する必要がなく簡単に行える利点がある.しかし, 天候や日照の影響が大きいことや,入射光が大気中のガス 分子による吸収を予め受けることから屋内実験とする. 以上より,本研究では,温暖化のメカニズムを理解する とともに将来的に(a)(b)(c)いずれの傾向になる可能性が高 いかを議論できるよう,温室効果の調整とふく射のエネル ギー収支の再現を可能にした室内型の模擬実験装置を開発 する. 3.温室効果ガス層を板材で模擬した実験装置 CO2ガス層をプラスチック板で模擬した実験装置の概要 をFig. 3 に示す.模擬地球は黒体塗料をコーティングした 厚み1 mm のアルミニウム板であり,アルミニウム角パイ プ内の中央に設置されている.角パイプ内面は,ふく射輸 送の1 次元性を確保するために鏡面(アルミニウム蒸着面) とした.温室効果ガス層に見立てたアクリル板は,ガス濃 度の違いを表現するために厚みを1,5,15 mm の 3 種類と し,エネルギー収支を再現するために黒体塗料面の両側に 設置した.500 W の白熱電球からのふく射を,角パイプ断 面と同じ方形のスリットを設けたアルミニウム板(スリッ ト板)を通して角パイプ内に導く.光量と平行度をある程 Fig. 2 Predicted global temperature changes based on scenario
RCP8.5 with reference to IPCC AR5
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Te mp er at ur e, ° C 2020 2100 (a) (b) (c) (RCP8.5) . A. D.
Fig. 1 A representative diagram to show mechanism of the
global warming (200years ago) CO2:280 ppm (The present) CO2:370 ppm Solar Radiation Heat The Earth Radiation Atmosphere Atmosphere The Earth Solar Radiation 実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 259
度両立させるために,スリットと角パイプ端面との形態係 数がF=0.030 となるよう両者の距離を設計した.スリット 板の角パイプ側表面は水冷した黒体塗料面とし,スリット 板と反対側の角パイプ端面も同様の黒体面で塞いだ.これ は,模擬地球からのふく射の殆どを,宇宙空間を模した低 温黒体面に到達させるためである.模擬地球の温度は,光 源側の面に設置したK 型熱電対素線により,光源を点灯さ せた時点から30 分間 1 分ごとに測定した.ここで,測定誤 差を考慮して1 分間での温度変化が 0.1 ℃以内であれば定 常状態とみなすものとする.実験結果をFig. 4 に示す.ア クリル板がない場合を基準にすると,アクリル板の厚みが 1 mm の場合は,開始後すぐに顕著な温室効果が現れ,30 分後には定常状態に到達した.厚み5 mm の場合は約 12 分 後まで,厚み15 mm の場合には 30 分間常に板がない場合 に比べて温度が低い状態が続いた.また,両条件ともに, 30 分経過時点で定常状態に到達しなかった.これは,アク リル板の熱容量が大きいほど板の温度上昇に時間がかかり, 温室効果の時定数が大きくなるためである.板がない場合 に比べて温度が低い状態は,板に吸収された光源からのふ く射エネルギーが,板から模擬地球へのふく射エネルギー よりも大きいことを示している.厚み5 mm の場合におい て,30 分以降の温度推移を外挿すると,定常状態での温度 は1 mm の場合よりも低くなる.同様に,厚みが 15 mm の 場合には,定常状態での温度は5 mm の場合よりも低くな る.このことは,板厚が1 mm 以上の場合,厚みが増すと 温室効果の増加よりも模擬地球に入射されるふく射エネル ギーの低下の方が著しくなることを示している.したがっ て,場合によっては(c)の可能性が存在することが実験的 に示された.しかし,アクリル板はFig. 5 に示すように“大 気の窓”と呼ばれる波長帯域においてふく射を透過せず, 温室効果が強すぎる(1 mm でも飽和状態に近い)ことと, 板の厚みによって熱容量や熱損失が異なるため実験精度に 差が生じる点は注意すべきである.さらに,この方法では 実現象との相似則が見出せないことが本質的な問題である. 以上の結果から,プラスチック板ではなく,CO2ガスそ のものを用いる模擬実験装置を開発することにした. 4.CO2ガスを用いた模擬実験装置 4.1 構成および設計 実験装置の概要をFig. 6 (a)(b)に示す.装置は光源部,本 体部,測定部の3 部から構成される.光源部では,(1)太陽 光と類似したスペクトル分布,(2)平行光,(3)模擬地球の加 熱に十分な光量,の実現が求められる.光源には,ハロゲ ン光源装置(MRITEX,MHAB-150W)を用いた.Fig. 7 に, 回折格子型分光器を用いて測定したハロゲンランプのエネ ルギースペクトルを,ピーク値を基に規格化して示す.検 出器は熱型であるため出力の波長依存性はないが,絶対測 定のため図中に示すように空気中のH2O や CO2による吸収 が現れている.3m 以上のふく射エネルギーは,ランプの Fig. 4 Results obtained from an experimental simulation of
global warming using acrylic plates as greenhouse gas layers 20 30 40 50 60 70 80 0 5 10 15 20 25 30 Time, min Te mp er at ur e, ℃ 5mm
Thickness of Acrylic Plate: 1mm
15m m No Acrylic Plate
Fig. 3 A schematic diagram of an improved experimental setup using acrylic plates to simulate greenhouse gas layers 0 20 40 60 80 100 0 5 10 15 20 1mm 5mm 15mm Atmospheric window Thickness of Acrylic Plate Wavelength, m N or mal T ra nsmi tt an ce , %
Fig. 5 The spectral transmittance of the acrylic plates Blackbody Surface Acrylic Plate □35 75 Aluminum Mirror 10 4 10 TC Irradiation (Incandescent Light Bulb)
度両立させるために,スリットと角パイプ端面との形態係 数がF=0.030 となるよう両者の距離を設計した.スリット 板の角パイプ側表面は水冷した黒体塗料面とし,スリット 板と反対側の角パイプ端面も同様の黒体面で塞いだ.これ は,模擬地球からのふく射の殆どを,宇宙空間を模した低 温黒体面に到達させるためである.模擬地球の温度は,光 源側の面に設置したK 型熱電対素線により,光源を点灯さ せた時点から30 分間 1 分ごとに測定した.ここで,測定誤 差を考慮して1 分間での温度変化が 0.1 ℃以内であれば定 常状態とみなすものとする.実験結果をFig. 4 に示す.ア クリル板がない場合を基準にすると,アクリル板の厚みが 1 mm の場合は,開始後すぐに顕著な温室効果が現れ,30 分後には定常状態に到達した.厚み5 mm の場合は約 12 分 後まで,厚み15 mm の場合には 30 分間常に板がない場合 に比べて温度が低い状態が続いた.また,両条件ともに, 30 分経過時点で定常状態に到達しなかった.これは,アク リル板の熱容量が大きいほど板の温度上昇に時間がかかり, 温室効果の時定数が大きくなるためである.板がない場合 に比べて温度が低い状態は,板に吸収された光源からのふ く射エネルギーが,板から模擬地球へのふく射エネルギー よりも大きいことを示している.厚み5 mm の場合におい て,30 分以降の温度推移を外挿すると,定常状態での温度 は1 mm の場合よりも低くなる.同様に,厚みが 15 mm の 場合には,定常状態での温度は5 mm の場合よりも低くな る.このことは,板厚が1 mm 以上の場合,厚みが増すと 温室効果の増加よりも模擬地球に入射されるふく射エネル ギーの低下の方が著しくなることを示している.したがっ て,場合によっては(c)の可能性が存在することが実験的 に示された.しかし,アクリル板はFig. 5 に示すように“大 気の窓”と呼ばれる波長帯域においてふく射を透過せず, 温室効果が強すぎる(1 mm でも飽和状態に近い)ことと, 板の厚みによって熱容量や熱損失が異なるため実験精度に 差が生じる点は注意すべきである.さらに,この方法では 実現象との相似則が見出せないことが本質的な問題である. 以上の結果から,プラスチック板ではなく,CO2ガスそ のものを用いる模擬実験装置を開発することにした. 4.CO2ガスを用いた模擬実験装置 4.1 構成および設計 実験装置の概要をFig. 6 (a)(b)に示す.装置は光源部,本 体部,測定部の3 部から構成される.光源部では,(1)太陽 光と類似したスペクトル分布,(2)平行光,(3)模擬地球の加 熱に十分な光量,の実現が求められる.光源には,ハロゲ ン光源装置(MRITEX,MHAB-150W)を用いた.Fig. 7 に, 回折格子型分光器を用いて測定したハロゲンランプのエネ ルギースペクトルを,ピーク値を基に規格化して示す.検 出器は熱型であるため出力の波長依存性はないが,絶対測 定のため図中に示すように空気中のH2O や CO2による吸収 が現れている.3m 以上のふく射エネルギーは,ランプの Fig. 4 Results obtained from an experimental simulation of
global warming using acrylic plates as greenhouse gas layers 20 30 40 50 60 70 80 0 5 10 15 20 25 30 Time, min Te mp er at ur e, ℃ 5mm
Thickness of Acrylic Plate: 1mm
15m m No Acrylic Plate
Fig. 3 A schematic diagram of an improved experimental setup using acrylic plates to simulate greenhouse gas layers 0 20 40 60 80 100 0 5 10 15 20 1mm 5mm 15mm Atmospheric window Thickness of Acrylic Plate Wavelength, m N or mal T ra nsmi tt an ce , %
Fig. 5 The spectral transmittance of the acrylic plates Blackbody Surface Acrylic Plate □35 75 Aluminum Mirror 10 4 10 TC Irradiation (Incandescent Light Bulb)
Cooling Water Cooling Water
実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月)
は70%であり,6 m では 20%まで低下する.このように, 5 m 以上のふく射は吸収によって殆ど透過しない.ただし, 前述のように5800 K の黒体ふく射は 5 m までで 99.5%を 占めることと,ランプから放射される3 m 以上のふく射 は僅かであるため問題はないとみなす.レンズの利用は収 差の発生に繋がるが,実験装置全体のコンパクト化が可能 となる.ランプのフィラメントはコイル状であるため,第 1 焦点におけるフィラメントの位置によって擬似平行光全 体の光量および光束断面における分布が大きく変化する. このため,Fig. 6(b)中に示すようにランプの光軸方向位置 をボルトとばねにより微調整できる機構を設け,予めレン ズと同径で均一な光となるよう調整できるようにした.光 源部内は H2O や CO2の吸収による光量の低下を防ぐため N2で満たし,内壁やアパーチャー両面は温度上昇を抑制す るため水冷された黒体塗料面とした. 本体部には,模擬地球としてステンレス球殻(熱伝導性 を高めるためAu 層をコーティング)をチャンバー内に設 置する.球殻表面およびチャンバー内壁は黒体塗料面とす る.チャンバーは,液体温度を-30~95 ℃まで制御可能な 低温恒温水槽(東京理化器機,NCB-1210B)を用いて循環 冷却する.サファイアレンズで光源部と仕切られた本体部 および測定部内は,CO2‐N2混合ガスで満たす.H2O を除 去することは,ふく射の減衰を抑制するとともに内壁表面 での結露や凍結を防止するために重要である.模擬地球を 取り囲む壁面は,(i)大気層と宇宙空間との境界,(ii)地球か ら放射されるふく射が到達する宇宙の果て,の2 つの役割 を担う.(i)の観点からは,ふく射が透過するガス層の体積 比が入射時:放射時=1:2 となることが求められる.この ガス層を球殻状の空間(Fig. 6(a)中に緑色で示された領域) のみで実現するためには,層の厚み(d2とd1との差)を薄 くする必要がある.しかし,対流圏の厚み(約11 km)は 地球半径(約6400 km)に比べて非常に小さいため,忠実 に再現することは困難である.また,薄い場合には対流に よる伝熱が無視できない.(ii)の観点からは,球殻から放射 されるふく射の殆どがチャンバー内壁に到達することが求 められる.そのためには,d1<< d2であることが望ましい. よって,ガス層を球殻状のみで考えたのでは(i)と(ii)はトレ ードオフの関係にあり,両条件を満たすような寸法は存在 しない.このため,チャンバー部における大気層は球と円 筒を組み合わせた空間全体で模擬し,(i)を達成するために d1=30 mm,d2=70 mm,l=120 mm と決定した.この時,球 殻から放射されるふく射のうちレンズおよびアパーチャー を通過して光源部に到達する成分は幾何学上無視できる. よって, (i)と(ii)の両立が達成できている.球殻表面には, 光が照射される側(点A)とされない側(点 B)の 2 箇所 にK 型熱電対素線を設置し,測定部に設けたコネクターを 介して外部の補償導線に接続する.したがって,昼夜を固 定し,時間サイクルを取り除いた実験モデルである.測定 部にはCO2濃度計(testo,535 型)とブルドン管圧力計を 設置し,本体内部のガスの状態をモニターする.本体部と 測定部を結ぶ円筒状の孔は,その影響が無視できるよう, 直径3 mm(長さ 10 mm)と最小限の大きさにした.なお, 実験装置はFig. 6(b)に示すように実際には縦置きで使用す る.この際に本体部の CO2が重さにより下部に滞留せず, 拡散によりチャンバー内濃度がほぼ均一となることも配慮 して設計した.計測機器も含めた実験装置全体の大きさは, 出前授業などでの移動も想定し,1 つの台車に搭載可能な サイズに収まるように設計した. 4.2 実験結果および考察 本研究では,CO2濃度に応じた温室効果の違いが現れる かどうか,現象が定常状態に達するまでにどの程度の時間 を要するか,の2 点を検証することを目的とした実験を行 った.本体部の冷却には取り扱いの容易な水を用い,循環 冷却装置内部および冷却管内での凍結を防ぐため水温は 8 ℃に設定した.実験時間は 90 分授業を想定して 45 分間 とした.ハロゲンランプを点灯させた時点からの,点A, B における温度 TA,TBの経時変化をFig. 8 に示す.ハロゲ ンランプの出力は,Fig. 7 に示すスペクトルを安定して得 るために120 W に調整した.温度は 1 分間隔で測定し,1 分間での温度変化が0.1 ℃以内であれば定常状態とみなす ものとする.初期条件は,本体部および測定部内の気体は N2のみ,模擬地球の温度は10 ℃以下とする.CO2は開始 15 分後にガスカートリッジからの噴射によって一括供給 し,チャンバー内で自然拡散させる.CO2の供給量は噴射 時間により変更した.Fig. 8(a)は噴射時間が 1 秒,(b)は 3 秒の場合の結果である.(a)(b)ともに,光の照射によって TAは顕著に増加し,15 分後には 17~18 ℃程度で定常状態 に達している.15 分間の照射による温度上昇は(a)で 9.1 ℃, (b)で 7.5 ℃である.両者の差異は,光源の出力を調節つま みのアナログ目盛を目安に再現したため,精確な一致が困 難であり生じた. CO2を供給してから濃度の測定値が上昇 するまでには,いずれの条件においても2 分程度タイムラ
グが生じている.これは,Fig. 6(a)に示されるように CO2 を供給する位置と濃度を測定する位置が離れていることに Fig. 7 The spectral distribution of radiation emitted from a
halogen lamp 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.1 1 10 H2O CO2 H2O Wavelength, m N or mal iz ed R ad ia nt E ne rg y, a .u . Planck Distribution (5800K) 加え,本体部から測定部に繋がる流路が狭いためである. その後濃度は,途中で傾きが変化しているものの直線的に 一定の割合で増加していることから,装置内においてCO2 は均等に拡散していると言える.ただし,噴射時間が短い (a)においても,CO2供給後30 分経過した時点で濃度は 2400 ppm 付近にまで達し,定常になる兆しは見られない.これ は,CO2を高圧カートリッジから直接供給したため1 秒の 噴射でも供給量が多く,また自然拡散では時間がかかるこ とが原因である.実験装置の構成上,本体部内では測定部 内と反対にCO2濃度は供給直後をピークとしてその後低下 し続けていると考えられる.一方で,模擬地球の温度は, TAについては(a)(b)ともに CO2を供給した30 分後には定常 状態に達していた.CO2供給時点(実験開始15 分後)と供 給後30 分経過時点(開始 45 分後)での点 A における温度
差をΔTA とすると,(a)ではΔTA =+0.3 ℃,(b)ではΔTA
=+0.7 ℃であった.よって,濃度が比較的低い(a)の場合に も僅かではあるがCO2による温室効果が現れていることと, 濃度が高い(b)の場合にはより顕著に現れることが確認で きた.ここで,本体部の CO2濃度が低下し続ける中で TA が上昇している点については,次のように考察する.Fig. 8(a)(b)で示された測定部での CO2濃度の推移から,本体部 では測定部よりもはるかに高い濃度域で低下が生じている と考えられる.低下の割合(傾きの絶対値)も,測定部と 本体部内において空間の体積がほぼ同じ(Vmain / Vmeasure =1.02)であることから同程度と推測される.この低下分よ りも,CO2がない状態から非常に高濃度な状態への変化の 方が支配的であるため,供給後にその温室効果が時間をか けて現れたものと考えられる.このことは,(b)において, CO2を供給した数分後にTAが一時的に上昇し,その間CO2 濃度の増加における傾きも一時的に大きくなっていること からも裏付けられる.CO2を供給した直後は模擬地球の周 囲が最も高濃度になるため,供給量が大きい場合には温室 効果のピークとして現れる.この一時的な温度上昇はCO2 供給時点に対して+0.7 ℃であり,(b)の条件で得られるΔ TAの最大値と一致しているからである(ただし,このピー ク温度がTAの定常値と必ず一致するとは限らない).また, (a)においても僅かではあるが,CO2供給直後にTAが定常値 近くまで上昇するという同様の傾向が認められる.本体部 内のCO2濃度が低下しているにも関わらずTA がほぼ定常 状態とみなせるということは,ピーク後の濃度低下が温室 効果へ及ぼす変化は温度測定における誤差程度に僅かでし かないことを意味する.つまり,今回の実験条件ではCO2 濃度に対する温室効果の感度が低く,供給直後の極端な濃 度変化や(a)と(b)の違いなど CO2濃度の変化が非常に大き い場合にしか温室効果やその違いが現れないことが判明し た.大気中のCO2濃度は通常数百ppm であり,IPCC の最 も深刻なシナリオの場合でも2100 年時点で 1000 ppm 以下 と予想されている.したがって,本実験においてCO2濃度 が非現実的に高濃度であるにも関わらずΔTA が小さく温 室効果自体が分かりにくいことは,改善すべき課題と言え る.他方,TBについては,全体的に温度が上昇する傾向は 認められるものの,(a)(b)ともに僅かであり,誤差を考慮す れば確な温室効果は現れにくいと言える.これは,晴天時 の夜に対応する点B ではふく射冷却が支配的であり,かつ 熱伝導および球殻の熱容量によって熱が伝わり温度が上昇 するまでに時間がかかるためである. 4.3 今後の展開 CO2濃度を変えた際の温室効果の違いを詳しく調べるた めには,CO2濃度の変化に対するΔTAの感度をより高める 必要がある.また,ΔTAが大きくなることは,定常状態に おける判定精度の向上に繋がる.そのためには,冷却媒体 をエタノールに変更し,チャンバー温度を下げることが有 効である.大気がない場合の地表温度は,宇宙空間を‐ 270 ℃の黒体とみなした簡単なモデルでは‐18 ℃となる 9).実験装置では根本となるモデルが異なるが,これを 1 つの目安としてチャンバー温度および模擬地球の初期温度 を‐20 ℃にすることを検討する.同様に,模擬実験では実 際とは前提条件が異なるため,必ずしもCO2濃度自体を現 実的な範囲内に収める必要はない.しかし,Fig. 2 におけ る(b)や(c)のパターンが予想される場合,どの程度先の未来 に頭打ちやピークに達するのかを推定するため,また環境 Fig. 8 Data from experimental simulations of global warming
using the newly developed apparatus (a) Data for a CO2 supply time of 1 s 8 10 12 14 16 18 20 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 800 1600 2400 3200 4000 4800 Time, min Te mp er at ur e, ° C TB TA CO2 Concentration CO 2 C on ce nt ra ti on , p pm CO2 Input
(b) Data for a CO2 supply time of 3 s 8 10 12 14 16 18 20 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 800 1600 2400 3200 4000 4800 Time, min Te mp er at ur e, ° C TB TA CO2 Concentration CO 2 C on ce nt ra ti on , p pm CO2 Input
は70%であり,6 m では 20%まで低下する.このように, 5 m 以上のふく射は吸収によって殆ど透過しない.ただし, 前述のように5800 K の黒体ふく射は 5 m までで 99.5%を 占めることと,ランプから放射される3 m 以上のふく射 は僅かであるため問題はないとみなす.レンズの利用は収 差の発生に繋がるが,実験装置全体のコンパクト化が可能 となる.ランプのフィラメントはコイル状であるため,第 1 焦点におけるフィラメントの位置によって擬似平行光全 体の光量および光束断面における分布が大きく変化する. このため,Fig. 6(b)中に示すようにランプの光軸方向位置 をボルトとばねにより微調整できる機構を設け,予めレン ズと同径で均一な光となるよう調整できるようにした.光 源部内は H2O や CO2の吸収による光量の低下を防ぐため N2で満たし,内壁やアパーチャー両面は温度上昇を抑制す るため水冷された黒体塗料面とした. 本体部には,模擬地球としてステンレス球殻(熱伝導性 を高めるためAu 層をコーティング)をチャンバー内に設 置する.球殻表面およびチャンバー内壁は黒体塗料面とす る.チャンバーは,液体温度を-30~95 ℃まで制御可能な 低温恒温水槽(東京理化器機,NCB-1210B)を用いて循環 冷却する.サファイアレンズで光源部と仕切られた本体部 および測定部内は,CO2‐N2混合ガスで満たす.H2O を除 去することは,ふく射の減衰を抑制するとともに内壁表面 での結露や凍結を防止するために重要である.模擬地球を 取り囲む壁面は,(i)大気層と宇宙空間との境界,(ii)地球か ら放射されるふく射が到達する宇宙の果て,の2 つの役割 を担う.(i)の観点からは,ふく射が透過するガス層の体積 比が入射時:放射時=1:2 となることが求められる.この ガス層を球殻状の空間(Fig. 6(a)中に緑色で示された領域) のみで実現するためには,層の厚み(d2とd1との差)を薄 くする必要がある.しかし,対流圏の厚み(約11 km)は 地球半径(約6400 km)に比べて非常に小さいため,忠実 に再現することは困難である.また,薄い場合には対流に よる伝熱が無視できない.(ii)の観点からは,球殻から放射 されるふく射の殆どがチャンバー内壁に到達することが求 められる.そのためには,d1<< d2であることが望ましい. よって,ガス層を球殻状のみで考えたのでは(i)と(ii)はトレ ードオフの関係にあり,両条件を満たすような寸法は存在 しない.このため,チャンバー部における大気層は球と円 筒を組み合わせた空間全体で模擬し,(i)を達成するために d1=30 mm,d2=70 mm,l=120 mm と決定した.この時,球 殻から放射されるふく射のうちレンズおよびアパーチャー を通過して光源部に到達する成分は幾何学上無視できる. よって, (i)と(ii)の両立が達成できている.球殻表面には, 光が照射される側(点A)とされない側(点 B)の 2 箇所 にK 型熱電対素線を設置し,測定部に設けたコネクターを 介して外部の補償導線に接続する.したがって,昼夜を固 定し,時間サイクルを取り除いた実験モデルである.測定 部にはCO2濃度計(testo,535 型)とブルドン管圧力計を 設置し,本体内部のガスの状態をモニターする.本体部と 測定部を結ぶ円筒状の孔は,その影響が無視できるよう, 直径3 mm(長さ 10 mm)と最小限の大きさにした.なお, 実験装置はFig. 6(b)に示すように実際には縦置きで使用す る.この際に本体部の CO2が重さにより下部に滞留せず, 拡散によりチャンバー内濃度がほぼ均一となることも配慮 して設計した.計測機器も含めた実験装置全体の大きさは, 出前授業などでの移動も想定し,1 つの台車に搭載可能な サイズに収まるように設計した. 4.2 実験結果および考察 本研究では,CO2濃度に応じた温室効果の違いが現れる かどうか,現象が定常状態に達するまでにどの程度の時間 を要するか,の2 点を検証することを目的とした実験を行 った.本体部の冷却には取り扱いの容易な水を用い,循環 冷却装置内部および冷却管内での凍結を防ぐため水温は 8 ℃に設定した.実験時間は 90 分授業を想定して 45 分間 とした.ハロゲンランプを点灯させた時点からの,点A, B における温度 TA,TBの経時変化をFig. 8 に示す.ハロゲ ンランプの出力は,Fig. 7 に示すスペクトルを安定して得 るために120 W に調整した.温度は 1 分間隔で測定し,1 分間での温度変化が0.1 ℃以内であれば定常状態とみなす ものとする.初期条件は,本体部および測定部内の気体は N2のみ,模擬地球の温度は10 ℃以下とする.CO2は開始 15 分後にガスカートリッジからの噴射によって一括供給 し,チャンバー内で自然拡散させる.CO2の供給量は噴射 時間により変更した.Fig. 8(a)は噴射時間が 1 秒,(b)は 3 秒の場合の結果である.(a)(b)ともに,光の照射によって TAは顕著に増加し,15 分後には 17~18 ℃程度で定常状態 に達している.15 分間の照射による温度上昇は(a)で 9.1 ℃, (b)で 7.5 ℃である.両者の差異は,光源の出力を調節つま みのアナログ目盛を目安に再現したため,精確な一致が困 難であり生じた. CO2を供給してから濃度の測定値が上昇 するまでには,いずれの条件においても2 分程度タイムラ
グが生じている.これは,Fig. 6(a)に示されるように CO2 を供給する位置と濃度を測定する位置が離れていることに Fig. 7 The spectral distribution of radiation emitted from a
halogen lamp 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.1 1 10 H2O CO2 H2O Wavelength, m N or mal iz ed R ad ia nt E ne rg y, a .u . Planck Distribution (5800K) 加え,本体部から測定部に繋がる流路が狭いためである. その後濃度は,途中で傾きが変化しているものの直線的に 一定の割合で増加していることから,装置内においてCO2 は均等に拡散していると言える.ただし,噴射時間が短い (a)においても,CO2供給後30 分経過した時点で濃度は 2400 ppm 付近にまで達し,定常になる兆しは見られない.これ は,CO2を高圧カートリッジから直接供給したため1 秒の 噴射でも供給量が多く,また自然拡散では時間がかかるこ とが原因である.実験装置の構成上,本体部内では測定部 内と反対にCO2濃度は供給直後をピークとしてその後低下 し続けていると考えられる.一方で,模擬地球の温度は, TAについては(a)(b)ともに CO2を供給した30 分後には定常 状態に達していた.CO2供給時点(実験開始15 分後)と供 給後30 分経過時点(開始 45 分後)での点 A における温度
差をΔTA とすると,(a)ではΔTA =+0.3 ℃,(b)ではΔTA
=+0.7 ℃であった.よって,濃度が比較的低い(a)の場合に も僅かではあるがCO2による温室効果が現れていることと, 濃度が高い(b)の場合にはより顕著に現れることが確認で きた.ここで,本体部の CO2濃度が低下し続ける中で TA が上昇している点については,次のように考察する.Fig. 8(a)(b)で示された測定部での CO2濃度の推移から,本体部 では測定部よりもはるかに高い濃度域で低下が生じている と考えられる.低下の割合(傾きの絶対値)も,測定部と 本体部内において空間の体積がほぼ同じ(Vmain / Vmeasure =1.02)であることから同程度と推測される.この低下分よ りも,CO2がない状態から非常に高濃度な状態への変化の 方が支配的であるため,供給後にその温室効果が時間をか けて現れたものと考えられる.このことは,(b)において, CO2を供給した数分後にTAが一時的に上昇し,その間CO2 濃度の増加における傾きも一時的に大きくなっていること からも裏付けられる.CO2を供給した直後は模擬地球の周 囲が最も高濃度になるため,供給量が大きい場合には温室 効果のピークとして現れる.この一時的な温度上昇はCO2 供給時点に対して+0.7 ℃であり,(b)の条件で得られるΔ TAの最大値と一致しているからである(ただし,このピー ク温度がTAの定常値と必ず一致するとは限らない).また, (a)においても僅かではあるが,CO2供給直後にTAが定常値 近くまで上昇するという同様の傾向が認められる.本体部 内のCO2濃度が低下しているにも関わらずTA がほぼ定常 状態とみなせるということは,ピーク後の濃度低下が温室 効果へ及ぼす変化は温度測定における誤差程度に僅かでし かないことを意味する.つまり,今回の実験条件ではCO2 濃度に対する温室効果の感度が低く,供給直後の極端な濃 度変化や(a)と(b)の違いなど CO2濃度の変化が非常に大き い場合にしか温室効果やその違いが現れないことが判明し た.大気中のCO2濃度は通常数百ppm であり,IPCC の最 も深刻なシナリオの場合でも2100 年時点で 1000 ppm 以下 と予想されている.したがって,本実験においてCO2濃度 が非現実的に高濃度であるにも関わらずΔTA が小さく温 室効果自体が分かりにくいことは,改善すべき課題と言え る.他方,TBについては,全体的に温度が上昇する傾向は 認められるものの,(a)(b)ともに僅かであり,誤差を考慮す れば確な温室効果は現れにくいと言える.これは,晴天時 の夜に対応する点B ではふく射冷却が支配的であり,かつ 熱伝導および球殻の熱容量によって熱が伝わり温度が上昇 するまでに時間がかかるためである. 4.3 今後の展開 CO2濃度を変えた際の温室効果の違いを詳しく調べるた めには,CO2濃度の変化に対するΔTAの感度をより高める 必要がある.また,ΔTAが大きくなることは,定常状態に おける判定精度の向上に繋がる.そのためには,冷却媒体 をエタノールに変更し,チャンバー温度を下げることが有 効である.大気がない場合の地表温度は,宇宙空間を‐ 270 ℃の黒体とみなした簡単なモデルでは‐18 ℃となる 9).実験装置では根本となるモデルが異なるが,これを 1 つの目安としてチャンバー温度および模擬地球の初期温度 を‐20 ℃にすることを検討する.同様に,模擬実験では実 際とは前提条件が異なるため,必ずしもCO2濃度自体を現 実的な範囲内に収める必要はない.しかし,Fig. 2 におけ る(b)や(c)のパターンが予想される場合,どの程度先の未来 に頭打ちやピークに達するのかを推定するため,また環境 Fig. 8 Data from experimental simulations of global warming
using the newly developed apparatus (a) Data for a CO2 supply time of 1 s 8 10 12 14 16 18 20 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 800 1600 2400 3200 4000 4800 Time, min Te mp er at ur e, ° C TB TA CO2 Concentration CO 2 C on ce nt ra ti on , p pm CO2 Input
(b) Data for a CO2 supply time of 3 s 8 10 12 14 16 18 20 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0 800 1600 2400 3200 4000 4800 Time, min Te mp er at ur e, ° C TB TA CO2 Concentration CO 2 C on ce nt ra ti on , p pm CO2 Input 実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 263
教育として学生に現象をより身近に感じてもらうためには 現実的な範囲内に近いことが望ましい.そこで,CO2濃度 は2000 ppm 以下とし,かつ供給後 30 分間で CO2濃度も定 常状態に到達させることを目標に装置の改良に取り組む. 具体的には,濃度および圧力を調整したN2-CO2混合気で 置換するためのガス調整部を装置外部に設ける.ガス調整 部は,供給後における装置内の気体の状態を予め調査して 設定された条件の数だけ設置されたガス容器群によって構 成される.同じ濃度で圧力を変えた条件を用意することで, 圧力効果の検証が可能となる.このガス容器群から条件を 選択し,短時間での置換を可能にするため複数箇所から実 験装置に供給する.これらの改善を行っても2000 ppm 以 下の範囲で温室効果の違いが明確に見られない場合は,光 源装置をより出力の高いものに変更し,光量を増やすこと を検討する.また,より実際の現象を精確に模擬し,温室 効果を模擬地球全体としての温度で評価するために,模擬 地球を支える軸を回転させることで地球の自転を再現する ことが必要である. 地球温暖化を模擬するためには,今回注目したように光 源,大気層,模擬地球における放射/吸収スペクトルを再現 することが必要である.さらに,鉛直方向の大気の温度分 布が相似則の候補となる.具体的には,対流圏における気 温減率 =-dT / dz(z は高度)に対応する値が,実際の値 (約6.5 K/km)と一致すれば現象の前提が同等であるとみ なせる9).したがって,本模擬実験においても,模擬大気 層の鉛直方向の温度分布を測定し, を再現することが求 められる.しかし,大気層の厚みは模擬地球の直径に対し て極めて小さいことから,通常の実験系ではこの相似則を 成立させかつ太陽‐地球‐宇宙間のマクロなふく射輸送を 模擬することは困難である.一方,本実験系では,ガス層 の最大厚みである模擬地球表面からサファイアレンズ部ま での距離を対流圏と見立てることで部分的ではあるものの を再現できる可能性があり,それらを両立できるポテン シャルを有する.このように,圧力効果を含む大気層のス ペクトル特性ならびに鉛直方向温度分布の再現が相似則の 観点から重要であるため,大気層はCO2ガスを用いて模擬 し,CO2濃度についても現実的な範囲内に収める必要があ る.さらに,本模擬実験装置では,散乱性微粒子を浮遊さ せることでH2O を用いずに雲の影響を模擬する(散乱アル ベドを制御する)ことや,CO2が大気の主成分である金星 や火星と地球との違いを示すことも可能である.よって, 装置の改良を進めることで,模擬実験としての精度を高め つつ,ふく射伝熱における多角的な学習教材としての利用 が期待できる. 5.結 論 地球温暖化のメカニズムについての理解不足を補うた めの教材として,ふく射に関するエネルギー収支の再現に 主眼を置いた室内型模擬実験装置を開発した.模擬実験手 法としては,温室効果ガス層としてプラスチック板を用い るのではなく,直接CO2ガスを用いる方が有効であること が示された.後者の実験では,CO2濃度が非現実的に高く かつ違いも大きい条件での比較であったものの,CO2濃度 によって温室効果に差が現れることが確認できた.今後, 冷却をより低温で行うことやガス調整部を設けるなど装置 の改良を行うことで,質の高いデモンストレーションと将 来予測に繋がる実験が実現できる見込みが示された. 謝 辞 本研究は,JSPS 科研費 JP17K01059 の助成を受けたもの です. 参 考 文 献
1) The Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC), Fifth assessment report: https://www.ipcc.ch/assessment-report/ar5/ 2) Ministry of the Environment Government of Japan, Summary of
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Science of Global Warming (in Japanese), Hokkaido University
Press (2007), 11.
円柱表面速度境界層計測に特化した熱線流速計プローブの開発
剱 地 利 昭
*,本 村 真 治
**,山 田 誠
**,川 合 政 人
**Development of a Hot-Wire Anemometer Probe
Specializing in Measuring the Boundary Layer of a Circular Cylinder
Toshiaki KENCHI, Shinji HONMURA, Makoto YAMADA and Masahito KAWAI
The boundary layer and velocity shear layer that develop around a circular cylinder placed in a flow have a significant effect on lift and drag depending on whether it is laminar or turbulent. These shear layers are so thin that special measures are required for the experiment. In this study, a specially shaped probe was developed to measure the boundary layer using a hot-wire anemometer. An experiment was performed using with that probe at Re = 1.6×104. As a result, the velocity distribution and the velocity fluctuation distribution of the extremely thin boundary layer of 0.5 mm were measured. The frequency analysis showed that the separated laminar shear layer transitioned to turbulent flow near the boundary with the separated region.
Keywords: Circular cylinder, Hot wire anemometer, Boundary layer, Laminar-turbulent transition, Flow separation
1.緒 言 円柱まわりの流れに関する研究は古くから数多く行われ ている1),2).工学的にも流れの中に静止円柱,回転円柱や加 熱円柱などが置かれる状況は多く見られる.著者らは凹凸 を有する円柱の抗力低減と,その円柱が回転した場合の高 揚抗比を工学的に応用することを目指している.例えば, 塔や電柱など構造物の強風対策,船舶などでの回転円柱に よる操舵を想定している. ここでまずは従来の研究で明らかになっている円柱まわ りの流れについて説明する.円柱まわりの流れの様子はレ イノルズ数(Re=UD/ν,ここで U は主流の速度,D は円柱 の直径,ν は流体の動粘性係数である)を用いて整理される. 円柱後流の流れの様子に関しては数多く研究されており, 例えば松井1)はTable 1 のように分類し,次の事項を記して いる.レイノルズ数が非常に小さい場合は円柱表面の流れ は剥離せず円柱表面に沿って流れる.レイノルズ数が3 を 超えると円柱表面の境界層が剥離し,その層流せん断層は 再付着せず円柱背面で渦を巻き,円柱背面に付着した双子 渦を形成する.レイノルズ数が増加しRe < 300 程度の純カ ルマン渦列領域では,双子渦の強さと規模が大きくなり, 円柱背面に安定して付着することができず,左右交互に放 出されて後流にカルマン渦列を形成する.さらにレイノル ズ数が大きい亜臨界領域Ⅰでは層流剥離したせん断層内に 不安定性に起因する微小撹乱が発達し小さいせん断層渦が 発生(第1次の渦度集中)し渦列となる.両側からの渦列 が円柱背面から少し離れた位置で,交互にさらに大きな渦 を形成(第2次の渦度集中)し,千鳥状のカルマン渦列と
Table 1 Types of flow past a circular cylinder1)
Re < 3 ~ 5 No-vortex region 3 ~ 5 < Re < 60 ~ 70 Twin-vortex region 60 ~ 70 < Re < 150 ~ 300 Pure Karman-vortex region 150 ~ 300 < Re < 6 × 103 Sub-critical region I
6 × 103 < Re < 3.5 × 105 Sub-critical region II
Re ≈ 3.5 × 105 Critical region
3.5 × 105 < Re < 1.5 × 106 Super-critical region
Re ≈ 1.5 × 106 The second critical region
1.5 × 106 < Re Hypercritical region なる.亜臨界領域Ⅱでは,剥離した層流せん断層は渦列発 生前に乱流へ遷移する.この乱流せん断層内で渦度の集中 が起こり乱流せん断層渦が形成される.この渦が亜臨界領 域Ⅰと同様に第2次の渦度集中でカルマン渦列を形成する. 一方,レイノルズ数が3.5×105付近は臨界領域と呼ばれ抗力 が大幅に減少することが知られている.ここでは剥離した 層流せん断層から遷移した乱流せん断層が円柱表面に再付 着して剥離泡を形成する.再付着後の境界層は乱流境界層 であり層流境界層の剥離点(よどみ点から80 °程度)に比 べかなり下流側(よどみ点から140 °程度)で再び剥離す る.これにより後流の幅が小さくなるため抗力が大幅に減 少する.この臨界領域では剥離泡のでき方が不安定で片側 だけの時もあり,安定した後流の渦は確認されない.さら にレイノルズ数を上げた超臨界領域では剥離泡が安定して 形成されるため,再付着後に再剥離した乱流せん断層が後 流にて渦列を形成する.さらにレイノルズ数が高い1.5×106 付近では第2臨界領域と呼ばれ,この領域では境界層の様 子がこれまでとは異なる.よどみ点から発達する層流境界 層が剥離せずに乱流境界層に遷移するため,剥離泡が形成 されない.乱流境界層の剥離位置はよどみ点から115 °~ 120 °付近になる.この遷移過程では局所的に乱流楔が発 生しており剥離泡の生成・消滅は不連続になるため後流に 原稿受付 2020 年 3 月 31 日 * 正会員 函館工業高等専門学校(〒042-8501 北海道函館 市戸倉町14-1) ** 函館工業高等専門学校(〒042-8501 北海道函館市戸倉町 14-1)