ミドリゾウリムシにおける走触性発現の要因-香川大学学術情報リポジトリ

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香川生物(Kagawa Seibutsu)(20):49−53,1993.

ミドリゾウリムシにおける走触性発現の要因

平野忠義・岩月謙司

〒760 高松市幸町1−1 香川大学教育学部生物学教室

TheEeffectofIonicConditionforThigmotaxisinParameoium bursaria

TadayoshiHirano&KenjiIwatsuki,BiologicalLaboTatOrγ,FacultyqfEducation,

Åbgα∽α仇iuerg乙とγ,mゐαmα£s混作0,Jdpα花

は じ め に

ゾウリムシなどの原生動物は,繊毛を動かす ことにより通常1mm∼2mm/秒くらいの速さで らせんを描きながら水中を遊泳しているが(Iwa−

tsukiandNaitoh,1983,1988),遊泳中に脱脂

綿やワラなどの固形物に触れると,そのまま付 着し,静止してしまうことがある。また織毛を 巧みに動かすことにより,付着した固体の表面 をはうように移動することもある。このような, 物に付着する行動反応を,走触性(Thigmotaxis) と呼んでいる(JenningS,1906)。 走触性は,原生動物においては普遍的に見ら れる行動である(IwatsukiandNaitoh,1979). ゾウリムシ(PαrαmeCま払mCα㍑血f㍑m)やミドリゾ ウリムシ(PαrαmeCi比mわ㍑rSαr£α)が,どのよう なきっかけで遊泳を停止し,走触性を発現する のかはきわめて興味深いことである。また,ラ ッパムシやツリガネムシが自由遊泳行動をやめ て固着生活に移行する時,物体に付着して走触 性と似た行動を示した後に付着するほずである。 原生動物における走触性を理解することは,原 生動物の在り方や生命の在り方を理解する上で 重安なことであるが,Jennings(1906)以来は とんど研究が進んでいない。走触性の実験にお いては,光刺激や化学刺激のように.は容易に刺 激を与えられないということが走触性の実験が なされてこなかった要因であると考えられる。 何のために走触性を示すのか,物に付着して何 をしているのか,などに関してほ,いまだに想 像の域を出ない。 本実験では,走触性という行動を理解するた めに,まずはミドリゾウリムシにおける走触性 の発現と外溶液のイオン組成との関連について 調べた。ミドリゾウリムシ(Pαr・αmeCよ弘mわび′」 sαr五α;体内に数百個のクロレラを共生させてい る線色のゾウリムシ)において特に顕著に走触 性が見られるからである(IwatsukiandNaitoh,

1979,Shikoraetal.,1992)。■また,Iwatsuki

ら(1989,1991)ほ,ラッ′くムシの光刺激u反応 行動においてほ外液中に.存在するKClやCaC12 の絶対濃度よりも比(Ja値=Kl/Jで言平)が重 要で,その比が光刺激一反応性の大きさを決定 すると述べているからである。 そこで我々ほ,比や濃度を変えたいろいろな 組成の水溶液中でミドリゾウリムシを自由に.遊泳 させ,それぞれの溶液中でミドリゾウリムシが走 触性を発現するまでに要した時間を計測した。 その結果,走触性の発現にほ,カルシウムとカ リウムの比(Ja値)よりもイオンの絶対濃度が 重要であることがわかった。特に,カリウムの 濃度変化に対応して走触性の発現が大きく変化 した。このことから,走触性の発現と静止電位 とが深く関係しているものと考えられる。

材材 と方法

ミドリゾウリムシ(syngenl,mating typeⅢ;

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に泳くuことができる)。 左らせんを描いて−前進遊泳している個体数の 全個体数に対する割合を,2分毎に30分間計測 して走触性発現の度合いを表した。ガラス表面 に.接触して静止している個体およびガラス表面 を這うように移動している個体をもって走触性 を示している個体と見なし,計測を行った。さ まざまな実験溶液について,それぞれ5回ずつ シリ・−・ズで計測した。全ての実験は,21±30C で行われた。 結 果 Iwatsukiら(1989,1991)によると,光刺激− 反応性に.おいてほカリウムイオンとカルシウム

イオンの比,すなわちJa値(K・十仰が大

三輪五十二・茨城大学教授から好意的に提供さ れた)ほ,牧草(ティモシー)の浸出液中で培 養され,培養温度ほ21士10Cに.保たれた。12時 間明(約15001Ⅹ),12時間暗(501Ⅹ)の明暗サ イクルの光環境下で培養された。実験には,明 期に.なって1時間後から3時間後までの個体を 用いた。ミドリゾウリムシほ,すべて対数増殖 期のものを用いた。 培養容器からミドリゾウリムシを取り出し,そ れぞれの実験溶液で洗い,個体密度を100士10 個体/mlに.なるよう調整した。10分間その溶液 に適応させ,0.3mlをスライドグラス上に移し, 高さ0.45mm,直径17士1mmの水柱ができるよう に.カバ・−グラスを載せた(ミドリゾウリムシの 横幅ほ約40〝mなので,この水柱内の空間を自由 ⊥nT

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Fig.1.走触性発現の時間的変化.実験溶液中に存在するミドリゾウリムシ全個体数に対

する遊泳している個体数の割合の時間的変化(100%とは,全個体数が遊泳して いることを表し,0%ほ全個体が走触性を示している状態を表す).この割合で 走触性の発現状態を表した.外溶液中のCaC12濃度を−L定(1mM)にして,KCl の濃度を0.1mM∼10mMまで変化させた時の走触性発現の時間的変化.0:0.1

mMKCl,△:1mMKCl,□:10mMKCl.溶液ほすべてTris−HClbufferl

mMでpH7.2に調整した.図中の各々のシンボルについた縦線ほ,標準誤差を表 す.計測したゾウリムシ数ほそれぞれ35±4で,それぞれの実験溶液中で5回実 験を行った.図には,それらのうち典型的な実験結果を示した.いずれの場合も KClの濃度が増すに従い,早い時間経過で走触性が発現した. −50嶋

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きく影響を与えることが報告されている。そこ でCa2+やK+の比や濃度をいろいろ変え,そ・れ ぞれの溶液中でのミドリゾウリムシの走触性発 現の様子を観察した。 カルシウムの濃度を−・定(1mM)にしてカ リウムの濃度を高くすると,カルシウムとカリ ウムの比,すなわちJa値(K+//V石戸)ほ大き くなる。Fig.1に示したように・,カリウムの濃 度増大およびJa倍増大に伴い,早く走触性を発 現するようになった。−・方,カリウムの濃度を −・定(1mM)にしてカルシウム濃度を高くす ると,Ja値ほ次第に小さくなる。Fig.2に示し たように.,カルシウム濃度の増大(Ja値は減少) に伴い,早く走触性を示すようになった。Ja値 を−・定(Ja値=1)に保ちながらカリウムとカ ル、ンウムの濃度を変化させた場合ほ,Fig.3に 示すように,イオン濃度の増大と伴に,ミドリ ゾウリムシにおける走触性の発現は早くなった。 このように,ミドリゾウリムシにおける走触 性の発現は,Ja値の変化とほ無関係に,イオン 濃度が高くなるに従って早くなる傾向が見られ た。カルシウムイオソよりもカリウムイオンの 増大に対して,その傾向ほ顕著であった(Fig.1ゝ 考 察 走触性という反応行動を解析するために,外 液のカリウムとカルシウムの比や濃度を変えて その影響を調べてみた。こ.れまでの研究結果か ら,原竺動物膜にとってカリウムとカ′レシウム ほ重要な働きをしていることがわかってこいるか らである(Naitohand Eckert1972,Naitoh 1982,IwatsukiandKobayashi1991)。

こ、ⅩUヾ\.

0 5 ∽美男0∈恩エト 1・・・・_し・・・・し... J O lO 20 30 Tlme(min) Fig.2.走触性発現の時間的変化.全個体数に対する遊泳している個体数の割合の時間的 変化.外溶液中のKCl濃度を−L定(1mM)にして,CaC12の濃度を0.063mM∼ 4mMまで変化させた時の走触性の時間的変化.0:0.063mMCaC12,△:1 mMCaC12,□:4mMCaC12.溶液はすべてTris−HClbufferlmMでpH7.2 に調整した.図中の各々のシ∵/ボルについてほ縦線は,標準誤差を表す.計測し たゾウリムシ数はそれぞれ35±5で,それぞれの実験溶液中で5回実験を行った. 図には,それらのうち典型的な実験結果を示した.いずれの場合もCaC12の濃度 が増すに.従い,早い時間経過で走触性が発現した.

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9

0 5 S美男0∈曾エト  ̄、ロー \ . [] 」⊥ 0 ⊥__ 」 」__ 」 」_」._」 20 30 10 Tlme(m叫 Fig.3.走触性発現の時間的変化.全個体数に対する遊泳している個体数の割合の時間的 変化.外溶液中のJa値を一L定(Ja値=1)にして,KClとCaC12の濃度をそれぞ

れ0.5mM∼4mM,0.25mM∼16mMまで変化させたときの走触性の時間的変化.

0:0.5mMKCl+0.25CaC12,△:1mMKCl+1血MCaC12,□:4mMKCl+16

mMCaC12.溶液ほすべてTris−HClbufferlmMでpH7.2に調整した.図中の

各々のシンボルについた縦線は,標準誤差を表す.計測したゾウリムシ数ほそれ ぞれ35±4で,それぞれの実験溶液中で5回実験を行った.図示したグラフは, それらのうちの典型的な実験結果の例.いずれの場合もCaC12とKClの濃度が増 すに従い,早い時間経過で走触性が発現した. その結果,カリウムとカルシウムの比(Ja値) よりも絶対濃度が走触性の発現に影響を与えて いることがわかった(Fig.1∼Fig.3)。また, カルシウムの濃度変化(Fig.2)よりもカリウム の濃度変化(Fig.1)が大きな影響を与えていた。 この事実は,静止電位の脱分棲化が走触性の発 現を誘発していることを示唆する。 外溶液中のカリウムイオン濃度が高くなる(膜 電位はしだいに脱分極する)に伴いミドリゾウ リムシの遊泳速度ほ低下した(データ未発表)。 遊泳速度が低下すると,ミドリゾウリムシが固 体に衝突する時の衝撃は小さくなると考えられ る。実際の行動を観察した結果,固体に正面か ら激突した後に走触性を示す個体は希で,たい ていは斜めから,あるいは静かに.固体と接触し た時にミドリゾウリムシほ走触性を示すことが わかった。遊泳速度が1mm/秒以下になると, 前進するよりも螺旋運動が大きくなるので,固 体への衝突の衝撃ほ小さくなる。またらせんを 描いてゆっくり遊泳すると,斜めから固体へ衝 突する確率が高くなる上,衝突の衝撃ほ小さく なる。走触性の発現にほ,イオン濃度の他,衝 突の衝撃の大きさや衝突の角度なども関係して いる可儲性があると考えられる。 今後ほ,衝突の衝撃や角度と走触性との関連, カルシウムとカリウム以外のイオンと走触性と の関連,そして固体表面の違いによる走触性と の関連などを調べる予定である。 謝 辞 本実験を遂行するに.あたり,協力をしていた だいた津島敬代,橋本八代実の両女史に深く感 −52−

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謝の意を表します。 引 用 文 献 IwatsukiK′andY.Naitoh.1979.Thigmotaxis inj⊃α柑meCi混mわ㍑rSα′iα..Zool.Mag“88:528一. IwatsukiK.andY.Naitoh.1983.Behavioral responsein劫rameciumTnultimicronuleat− umtovisiblelight.Photochem。Photobiol.. 37:415−419. IwatsukiK,and YいNaitoh.1988.Behavioral

responsestolightinParameciumbursaria

in relation to its symbiotic green algae

仇goreggα.JいExp…Biol..134:43−60,. IwatsukiK.andP−SいSong.1989.The ratio

ofextracelluarCa2+toK+ions affects the photoresponsesinStentoTCOeruleus.Comp” Biochem.Physiol‖92:101−106..

IwatsukiK。andKいKobayashi.1991.Thela−

tencyofthephotophobicresponsinStentor

COeruleusdependsupon the ratio of extra−

cellularCa2+toK+ions。Comp.Biochem Physiol.100:711−714.

JenningsH.S.1906.βeたαUiorq/とんeエ0乙〃e′ OTgaTLisTnS。Columbia University Press, NewYork.

NaitohYりandRいEckert.1972.Electrophys− iologyofciliateprotozoa.InG.A.Kerkut (ed.),EズperimeJ血i花月なγSわZogγα花dβわー

Chemistry:Academic Press,New Yor・k, London.

Naitoh Y.1982.Prot,OZOa.In G.A.Shelton (ed.),且gecと「£cαg Co71血c£io7もα花dβeんαUわr in’Simple”1TWertebrates:ClarendonPress, 0Ⅹford. ShikoraJり,Z.BaranowskiandM..Zajaczkow− ska.1992.Two−StatemOdelo董Paramecium bursariathigmotaxis‖Experientia48:789N 792

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参照

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