植物中硝酸態窒素の原子吸光分析法
星 川 玄 児,札 野
緒 植物中硝酸憩室素の定盈法として,従来フェノールジスルフォン酸法(PDS法)をはじめ多くの方法が提案され ているが(ト5) ,いずれも精度不良,操作の煩雑さをどの点で問題がある.最近イオン電極による硝酸懇望素の定量法 も検討されているが(6∼11),その迅速性は高く評価されるが,−・般的方法として定着するにはさらに多くの検討が必 要である. 一・方山本らは,ネオクプロインー鋼(Ⅰ)キレート陽イオンが硝酸イオンとともにメチルイソブチルケトンに抽出さ れることを見いだし,硝酸イオンの新しい吸光光度定盤法(1℡),原子吸光分析法(18)を提唱した小 筆者らは方法の迅速 性,適用浪皮範囲の好適さから,さらには現在検討中の植物中各種成分の原子l吸光による系統的分析法に開運して, 上記2方法のうち,とくに後者について,本法の植物試料への適用の可否を検討したので報告する.. 実験および結果 1.試薬および装置 試黄ばすべて特級品を使用した. 硝酸カリウム標準溶液:1100Cで2時間乾燥した硝酸カリウム1小8046gを水に溶かして250mlとし,NO8−NlOOO ppm溶液を調製した.使用に際しては適当に水で希釈した.. 銀樹脂:陽イオン交換樹脂(Dowex50W−Ⅹ8,50∼100メッシュ,H塑)にその当量の125%の硝酸銀を少盈の水 に溶かして加え,よくかきまぜたのち水洗炉過したものを嗜所に保存した. 3・75×10 ̄8凡才ネオクプロインーMIBK溶液,2‘5×10−8〟硫酸銅溶液,5%硫酸ヒドロキシルアミン溶液,リン酸 緩衝溶液はすペて山本らの方法(18)に準じて作成した… 原子吸光分析装置:日立製207塾原子吸光分光光度計を使用した.バーナ・−は水冷式スリッ】、バ・−ナー・を用い,空 気−アセチレン炎を使用した一.光源には日立製Fe−Ni−Cu複合中空陰極ランプを使用した“ 2.標準操作 硫酸銅溶液5ml,硫酸ヒドロキシルアミン溶液2ml,硝酸カリウム標準溶液1mlおよびリン酸緩衝液5mlを100ml 三角■7ラスコにとり,水で全盈を25mlとする… ついで,ネオクプロインーMIBK溶液10mlを加え,1分間振り混 ぜたのち約20分間静辞する。有機相をWhatmanlpsの液相分離炉紙で分離するり 得られた有桟相を原子吸光にかけ,鋼の吸収%を測定し,間接的にNO8−Nを定盈する.鋼の測定条件は,波長3248A,ランプ電流値7mA,アセ
チレン流盈2L/min,空気流盈13L/minである… 試薬の添加盈は山本らの方法に従ったが,有機相の分離は,分離漏斗を使用しないでWhatmanlps折紙によっ た..両法を比較したところ差を認めをかったので,三角フラスコで抽出後上記折紙で分離する方法を採用して,操作 を迅速簡便化した. 検鼠線は試薬ブランクを差し引いて作成した..本法は硝酸イオ・ンが存在しない場合にも一・定盈の銅が抽出されるた め,試薬ブランクがかをり大きくをる.使用した原子吸光装置では,試薬ブランクを差し引いて,をお相当の測定可 能濃度抱囲を維持するには,バーナーの回乾が必要であった.すなわち,パーサー角度300ではNOさ−N25ppm,バー ナ・一角度900ではNO8−N50ppm(いずれも標準溶液の濃度)まで,有税相の鋼の吸収%とNO8−N濃度とは直線関係 を示した..さらに分析精度を考慮した結果,NO$−Nの測定濃度範囲をバーナ・・一角度300で5∼25ppm,バーナ・一角皮 900で20∼50ppmとした.分析精度はCVで約15%であった.3.妨薯イオンの除去の検討 植物中NO8−N の定量は−・般に試料:水=1:100の浸出披について行なわれる.この浸出液に本法を適用する場 合,ニ,三の妨磐が考えられるので(18),以下その除去法について検討した. (1)塩素イオ■ン 塩素イオンの共存は本法では正の誤差を与える(1$〉.植物試料には多い場合は数%(乾物)までの塩素イオ・ンが存 在するので,まず一腰的な硫酸銀による沈でん除去法を検討した.共存塩素1オン法度を0∼400ppmに変化させ, 硫酸銀を塩素イオン400ppmの当量よりヤヤ過剰に加え約1時間放置後,その炉液についてNO$−Nを走塁した.得 られた結果をTablelに示す…
Tablel.Removalof C卜by Ag2SO4 NO8−N(ppm) Cl−(ppm) %Absorption 10 // // 〝 〝 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3 4 0 3 4▲ nJ 9 ︻ヽ︶ 6 7 8 0 4 4 4 4 EJ 塩素イオーンの増加とともにNO8rNの吸収%は増大した.同時に行をった硫酸銀無添加のNO8…NlOppm溶液のl吸 収%が55、0であったことから,溶液中に残留する硫酸飯盛が多いほど吸収%が減少することがわかる.したがって, 種々の塩素イオン蕊を含み,残存する硫酸鉄墓がそのたびに変化する植物浸出液では,塩素イオン除去法としてこの 方法は不適当であったu PAUlとCARLSON(6)はイオン電極法で塩素イオンの除去に銀樹脂を利用しているい 銀樹脂を添加すれば,上記炉液 l‡りこ残存する銀星はほほ−・定に保たれると考えられるので,つづいて銀樹月旨による塩素イオン除去法を検討した.上 記の溶液50mlに試薬の項で述べた鋭樹月旨1mlを硫酸銀の代りに添加した。なお銀樹脂の交換容量は1.7me/mlであ った”得られた結果をTable2に示す. Table2.RemovalofCl.■by Ag+−reSin NO8−N(ppm) Cl ̄(ppm) %Absorption 0 3 6 5 9 2 2 L 2 L 5 5 尺J 5 5 10 ′′ /′ /′ 〝 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3 4 銀樹脂添加によってNO8−Nの吸収%の増加は抑制され,共存塩素イオン盈が変化しても吸収%は一・定位を示した. 同時に行なった銀樹月旨無添加のNO8−NlOppm溶液の吸収%は550であり,銀樹脂の添加は吸収%をやや低下させた. 銀樹脂1mlを水50mlと振り混ぜた時遊離する銀イオ・ンは0.4ppmであり,この程度の銀イオン盈は吸収%に影響な かった小 また樹脂の添加はAg型,H型ともに吸収%を低下させた.したがって上記の吸収%の低下は樹脂の添加 に基づくものであるが,同一・嵐の樹脂を検盈線作成の際に添加すれば,吸収%の低下による影響は防止できた. (2)亜硝酸イオン 亜硝酸イオンの共存も本法では正の誤差を与える(13).亜硝酸イオンの除去にはスルファミン酸による分解法があ るが,植物試料に本法を適用するにあたってもっとも簡便を方法として,MII.HAM らの方法(8)の可否を検討した. NO8−N,NO2,Nおよびスルファミン酸の混合液を1時間放碇後,その1mlについて標準操作法でNO3−Nを定温し た.得られた結果をTable3に示す. 亜硝酸イオン共存による正の誤差はスルファミン酸の添加によって抑制された..スルファミン酸の添加はNOる−N
Table3… RemovalofNO言bysulfamic acid
NO8−N NO訂−N
Sulf瓦mic %(ppm) (ppm) acid(Aク) Abso叩tioJl 10 〝 〝 /γ 0 0 0 0 2 2 0 0 1 カ 〃 0 6 8 nJ nO 9 6 5一4一 5 6 5 5 の吸収%をやゃ低下させたが,スルファミン酸を−・定濃度にすれば,亜硝酸イオンの有無にかかわらず吸収%は一・定 であった.したがって,同一・塵のスルファミン酸を検盈線作成の際に添加すれば,銀相月旨の場合と同様に吸収%の低 下による影響は防止できた. (3)各種カチオン l【U本ら(18)は各種カチオンの影響は検討していないが,銀イオンの影響が上記において認められたので,植物試料 浸出液中に存在の予想されるカチオーンについてその影響を検討した..多くのカチオンは浸出液中に存在する程度の放 では影響なかったが,鉄(ⅠⅠⅠ)およびアルミニウムイオンは硝酸イオンと等モル程度の存在でやや吸収%を低下させ た.吸光光度法で用いられている酒石酸によるマスキング法(12)によって両イオンの除去を検討した..等モルの鉄 (ⅠⅠⅠ)あるいはアルミニウムイオ■ンを含むNO8−NlOppm溶液1mlに50×10 ̄2M酒石酸1mlを加え.,標準操作法に よってNO3−Nを定鼓した.得られた結果をTable4に示す.
Table4… Maskingof Fe8+or Al3+bytarta工icacid NO8−N Co−?Ⅹistlng (ppm) 10nS TaIta工ic % acid Absorption 10 〝 ツ 〝 〝 〝 0 0 6 3 9 9 0 7ト 8 8 8 8 5 4 4 5 ■hJ 5
一陣脚一陣騨
一+ + + 鉄(ⅠⅠⅠ)あるいはアルミニウムイオン共存による負の誤差は酒石酸の添加によって抑制された..酒石酸の添加は NO8−Nの吸収%を増大させたが,酒石酸を一・定濃度にすれば,鉄(ⅠⅠⅠ)あるいはアルミニウムイオ■ンの有無にかか わらず吸収%は−・定であった… したがって,同一・盈の酒石酸を検藍線作成の際に添加すれば,この吸収%の増大の影 響は防止できたu (4)各種妨審除去剤添加時の披見線 すでに個々の妨審除去剤を添加した際,検盈線がそれぞれ直線になることを示したが,銀樹月旨,スルファミン酸お よび酒石酸のすべてを加えて,標準操作法で得られた検放線も,バ、−サ・一角度300ではNO8−N25ppm,バ・−ナ一角度 600ではNO8−N50ppmまで,有機相の鋼の吸収%とNO8−N濃度とは直線関係を示した. 4,.植物中NO8、−Nの定盈 (1)定見法 以上の実験の結果に基づいてつぎの定良法を提案した小 植物風乾試料05g,銀樹脂1mlおよび0・01凡才スルファミン酸溶液50mlを100ml共栓三角フラスコにとり,10分 間振り混ぜたのち,1時間静露する巾 静匠後束洋炉紙No.6で炉過する‖ 炉液1ml,2・5×10 ̄8凡才硫酸銅溶液5ml, 5%硫酸ヒドロキシルアミン溶液2ml,5×10−8〟酒石酸溶液1mlおよび0・25凡才リン酸緩衝液5mlを100ml共栓三 角フラスコにとり,水を加えて25mlとする.3い75×10−3MネオクプロインーMIBK溶液10mlを加え,1分間振り混ぜたのち約20分間静諾する.有機相をWhatmanlps折紙で分離して原子吸光にかける.原子吸光の測定条件は 標準操作と同一・である..検盈線は硝酸カリウム標準溶液についてNO8−NO∼25ppmあるいは0∼50ppmの範囲で, 仝操作をまったく同様にして求める.. (2)定盈結果
上寵の方法によって数種の地物試料中のNOる−Nを定放し,PDS法の結果と比較した.定盈値はいずれも5回の
平均値である.得られた結果をTable5に示す. Table5‖ DeterminationofNO8−NinplantsProposed method PDS method
NO8TN(ppm) CV(%) Recovery(%) NO8−N(ppm) CV(%) Rccovery(%) Lettuce 4486 4。1 99 4 Chinese Cabbage 5048 27 93.8 Tomato 4192 3小7 107J7 4697 8,3 114,.6 5009 2‖5 103‖8 4004 2,3 10」7.9 本法はPDS法に比較して操作が迅速であった。また,分析精度および回収率も良好であった.本法の適用鞄臥ま 乾物試料についてNO8−N500∼5000ppmであったが,浸出液の増産あるいは希釈によって適用純因の拡大は可儲と 思われる 要 約 ネオ・クプロイン鋼(Ⅰ)とのイオン対抽出による硝酸イオ・ンの原子吸光分析法(山本ら(1969))の植物試料への適 用の可否を検討しつぎの結果を得た. 1.共存する塩素,亜硝酸および鉄(ⅠⅠⅠ)・アルミニウム各イオーンの妨啓は,それぞれ銀樹脂,スルファミン酸 および酒石酸の添加によって防止できた.. 2.本法によって植物試料中硝酸態窒素500′・・一5000ppm(乾物中)の定蕊が可能であった. 3.数種の植物試料について,本法とPDS法との定恩給果を比較した.. 引 用 文 献 (1)戸苅哉次他霜:作物試験法,p…282,農業技術協 会(1960) (2)作物分析法委員会編:栄養診断のための栽培植 物分析測定法,p.231,養賢堂(1975) (3)JoHNSON,CnM、,ULRIGH,Ah:Anal。Cnem,22, 1526(1950) (4)WooLLEY,J=Tい,HICKS,G.P,HAGEMAN,RH.: 4㌢い釣odαe∽け,8,481(1960) (5)LowE,RいH小,HAMILTON,.一いL∴J4㌢・一飽od αe∽り15,359(1967) (6)PAUL,J.L,CARエSON,RM.:ibid。,16,766 (1968). (7)BAKER,A.S.,SMILTIま,R∴ よ玩d.,17,1284(1969) (8)MILHAM,PJ,AwAD,A.S.,PAULL,R.E.,BuLL, J.H。:A乃α砂5ち95,751(1970) (9)青木正孝:園芸試験場報告B,No.12,163(1972) (10)RAVEH,Al:ぶ0まJ励去\,116,388(1973). (11)SwEETSUR,A”W.M,WILSON,A,G.:Ana&5t, 100,485(1975) (12)山本男鹿,岡本信子,峠 咲二:日化,89,399 (1968) (13)山本勇麓,熊丸尚宏,林 康久,大谷 譲:分析 化学,18,359(1969).