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中学校養護教諭の語りからみえてきた問題行動を示す生徒への対応の現状と課題 : 精神疾患への早期介入に向けて (研究ノート)

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(1)人 間看護学研究. 9:99-105(2011). 99. 研 究 ノー ト. 中学 校 養 護 教 諭 の語 りか らみ えて きた 問題 行 動 を示 す生 徒 へ の対 応 の現 状 と課 題 一 精 神 疾 患 へ の早 期 介 入 に向 けて一. 甘佐. 京 子1)、 長 江 美 代 子2)、 土 田. 幸 子3)、 山 下 真 裕 子1). 1)滋賀 県 立大 学人 間看護 学部 2)日本赤 十 字豊 田看護 大学 3)三重 大学 医 学部 背景. 精 神 疾 患,な. か で も統 合 失 調 症 に つ い て は,精 神 病 未 治 療期間(以 後DUP:duration. of. un-. treated psychosis)が 長 い ほ ど 回復 ま で に 時 間 を 要 し,再 発 率 も高 い とい わ れ て い る。 そ こで, DUP を 少 しで も短 縮 し,早 期 に 医 療 に繋 げて い く こ と(早 期 介 入)が 重 要 で あ る。 統 合 失 調 症 の 前 駆 症 状(暴 力 ・攻 撃 性 ・強 迫 症 状 ・抑 うつ 等)は,好. 発年 齢 と され る10代 後 半 か ら20代 前 半 よ り,さ らに2∼4年. 前 に 出現 す る と言 わ れ て お り,日 本 で は中 学 生 の 時 期 にあ た る。 中 学 校 お いて,こ. う した前 駆 症 状 は し. ば しば 問題 行 動 と と らえ られ るが,早 期 の 医 療 的 介 入 が 必 要 で あ る。 目的. 精 神 疾 患 が 疑 わ れ る生 徒 に対 し,学 校 現 場 で は どの よ うな対 応 が な され て い るの か 。 そ の現 状 と,. 早 期介 入 に 向 け て の課 題 に つ い て検 討 す る。 方法 2)方. 1)研 究 参 加 者:A県 内 に お い て中 学 校 養 護 教 諭 の 経 験 の あ る女 性4名 。 法:面 接 は半 構 成面 接 と し 「生 徒 に見 られ る問 題 行 動」,「問 題 行 動 を呈 す る生 徒 に対 す る対 応 」, 「 養 護 教 諭 の役 割 」 お よ び,「 対 応 す る上 で 障 害 とな る もの 」 な ど につ いて イ ンタ ビゴ ーを 実 施 。. 3)分. 析 方 法:質. 結果. 養 護 教 諭 の語 りか ら抽 出 され た問 題 行動 に は,統 合 失 調 症 の前 駆 症 状 と共 通 す る,「 攻 撃 的 な態. 的記 述 的 分析 。. 度 ・暴 言 」 「過 度 の 自 己 ア ピー ル 」 「集 中 力 の無 さ」 「落 ち着 きの 無 さ」 や,よ. り病 的 な 「強 迫 的 行 動 」. やr● つ きの 変 化 」 「 不 可 解 な 行 動 」 が見 られ た 。 養 護 教 諭 は,そ れ が 病 的 な もの か,発 達 上 の 問 題 な の か,正 常 な域 で の 反 抗 な の か の判 断 に迷 って いた 。 また,独. 自で 対 応 す る場 合 と,担 任 を は じめ とす. る学校 内 で組 織 的 に 対 応 ・判 断 す る場 合 が あ った 。 対 応 す る上 で 問 題 にな る こ と と して は 「保 護 者 と の 関 係 」 が あ り,「 保 護 者 の 思 い ・考 え」 を 優 先 しな けれ ば な らなか つた 。 ま た,家 族 以 外 の 要nと して は,教 員 間 の連 携,中 で も 「担 任 教 員 との 関 係 」 「教 員 の理 解(知 識)の 無 さ」 や,組 織 内 で 「養 護 教 諭 に対 す る理 解 の 不 足 」 が あ った 。 結論. 学 校 現場 に お いて 問 題 行 動 は増 加 して お り,そ の 対 応 に は 養 護 教 諭 の み な らず 全 教 員 が 苦 慮 して. い る こ とが伺 え る。 精 神 疾 患 に対 す る偏 見 は根 深 い もの が あ り,保 護 者 ・教 員 と もに正 しい知 識 を 持 つ こ とが 必要 で あ る。 早 期 介 入 を 行 うた あ に は,養 護 教 諭 を 中 心 と して,問 題 行 動 を呈 す る生 徒 に対 応 す る シス テ ム を構 築 す る必 要 が あ る。 キ ー ワー ド 早 期 介 入,養. 1.緒. 護 教 諭,. 問 題 行 動,思. 春 期,精. 神疾患. treated psychosis)が 長 期 予 後 を 規 定 す る と され, DUP. 言. が長 い ほ ど回復 まで に 時 間 を要 し,再 発 率 も高 い と い わ 精 神 科 領 域 にお い て,精 神 疾 患 に対 す る早 期 発 見 ・早. れ て い る。 ま た,再 発 の 繰 り返 しは残 遺 性 の 症 状 を 発 展. 期 介 入 の重 要 性 が 指 摘 さ れ て い る。 な か で も統 合 失 調 症. さ せ,社 会 的 ・職 業 的機 能 を も低 下 さ せ る。 そ の 結 果,. で は,精 神 病 未 治 療 期 間(以 後DUP:duration. 長 期 の入 院 を余 儀 な く し,社 会 か らの 孤 立 状 況 を 生 み 出 す1)。DUPを 少 しで も短 縮 し,早 期 に 医 療 に繋 げて い く こ と(早 期 介 入)が,早 期 の 回 復 ・社 会 復 帰 を可 能 と し,. 2010年9月30日. 受 付 、2011年1月9日. 連 絡 先:甘. 京子. 佐. 滋 賀 県 立 大 学 人 間看 護 学 部 住. 所:彦. 根 市 八 坂 町2500. e-mail:amasa.k@nurse.usp.ac.jp. 受理. of un一. 患者 個 人 に と って も,社 会 全 体 に と って も重 要 で あ る2)。 イ ギ リス で は,2001年. に 医 療 改 革 が行 わ れ,精 神 保 健 政. 策 の な か で早 期 介 入 に 向 け た指 針 が示 さ れ た。 早 期 介 入.

(2) 1 0 0. 甘佐京子. の成果としては,医療コストの減少・自殺率の減少・復. 複数年経験した女性 4名。養護教諭歴は 2 0 年から 3 4 年. 学および復職率の向上・家族のサービス満足度の向上な どが報告されている 3)0. 0年以上である O であり,いずれも中学校勤務歴は 1 2)方法:研究参加者に面接調査を実施。面接は半構成. DUPの短縮化が叫ばれているが,発症から初回受診 は底療 に歪るまでに遼巡する家族は少なくない4) DUP. ,1"問題行動を呈 面接とし「生徒に見られる問題行動J する生徒に対する対応J , 1"養護教論の役割Jおよび,. とつながる造の期間であり,家族が患者の変化に気づい. 「対応する上で障害となるもの」などについてのイン. ても直ちに医療につなげるケースは稀である O これには,. 3分 2 5 秒 : 1 :8分 タピューを実施。インタビュ一時間は 3 3 2 秒 (mean土 SD)であった。面接内容は,回答者の許. 0. 患者岳身の病識の欠如・家族岳身の精神疾患への偏見, 前駆症状のあいまいさが関与していると考えられる。 統合失調症の前駆症状(暴力・攻撃性・強迫症状・抑. 1 好発年齢とされる 1 0代後半か うつ等)が現れるのは 5. 可を得て I Cレコーダーに録音した。 3)分析方法:現状を明らかにすることを昌的とした質 的記述的分析 7)0. 0代前半より,さらに 2 " " " ' 4年前といわれている O こ ら2. 4 )倫理的配慮:参加者に書面および口頭で研究の主旨. の時期は,思春期前期から中期で,日本では中学生にあ. を説明し,同意を得た。協力者のプライパシーの保護. たる。中学校おいて,. このような前駆症状はしばしば. および,部接の中で語られた内容から個人や施設が特. 「生徒の問題行動J としてとらえられている。思春期特 有の感情の揺れや問題行動 6)と類似する部分が多く,精. 定されることがないように配慮することを確約した。. 神疾患と判断することは困難である O こうした状況の中. て保管し,研究終了後にはすべて消去することも伝え. また,今回得られたデータは研究代表者が責任を持っ. で精神疾患が疑われる生徒に対し,学校現場ではどのよ. f こO. うな対応がなされているのか。学校で唯一医療的知識を. なお,本研究は,滋賀県立大学の研究に関する倫理委. 持つ養護教諭は,不登校生徒の保健室登校の受け入れに. 2 0 0 8 年 第9 4 号)。 員会の承認を受けた (. も関わり,問題行動を示す生徒との接触も少なくないと 推測される O そこで,養護教諭の関わりや介入の現状を 明らかにすることで,学校現場における早期介入のため の課題を見出すことができるのではないかと考えた。. v .結 果 結果より抽出されたカテゴリーを. n内に,サブカテ. ゴリーをI"J内に示した。. 百.目的. 1.養護教諭が認識した生徒の「問題行動 J( 図 1) 生徒たちの「問題行動 J としては, ~周囲に対する迷. 中学校に勤務経験のある養護教諭の語りから,精神疾. 惑行為となる行動Jl ~自弓に対して苦難となる行動Jl ~周. 患が疑われる生徒に対し学校現場ではどのような対応が. 囲に対するアピール的な行動』の 3つのカテゴリーが抽. なされているのか,対応を阻む要素は何なのか,それら. 出された。~周囲に対する迷惑行為となる行動』のサブ. を調査することで,早期介入に向けての課題を明らかに. カテゴリーとしては, 1"深夜の俳佃 J1"非行行動 J1"攻撃. することを本研究の目的とする。. 的な言動・行動」が存在した。「攻撃的な言動・行動 J としては,イライラした感情や集中力の低下から物にあ. 孤.用語の定義. たったり,教室を出たり入ったりを繰り返すというケー スがあった。また, ~自己に対して苦難となる行動』と しては, 1"リストカット・拒食J1"強迫行為」が,サブカ. 問題行動:思春期の内的葛藤により生じる問題行動お よび諸症状 6)と , そ れ に 重 畳 す る 統 合 失 調 症 の 前 駆 症. テゴリーとして抽出された。これらは,集中力の低下な. 状としてみられる諸症状(集中力の低下,疲れやすさ,. どよりも一層病的な行動であり,危機的な状況であると. 寡黙,強迫症状,不潔恐怖,不登校,抑うつ,自殺念慮. 等)5)。. 早期介入:早期発見・早期治療を行うための介入。 期発見することで未治療期掃を短縮し予後の安寧をはか る 2)。. とらえられていた。次に, ~周囲に対するアピール的な 行動』には, 1"過度の自己アピール J1"依存性の増長」 「安心感の確保Jの 3つのサブカテゴリーが存在した。 生徒は,保健室を安全な場,養護教諭を依存できる対象 ととらえ,自己をアピールしていた。しかし,自分が受 け入れられていないと判断した場合は,攻撃性を秘めた. I V . 研究方法. アピールをするように養護教諭は捉えていた。. 1)研究参加者 :A県内の中学校において現在養護教諭. 2 . 養護教諭の役割と介入(図 2). として勤務しているか,あるいは中学校の養護教諭を. 問題行動をもっ生徒に対する養護教諭の役割としては,.

(3) 101. 中学校養護教諭 の語 りか らみ えてきた問題行動 を示 す生徒 への対応 の現状 と課題. 1.生 徒 への 直接 的な介 入 1.周囲 に 対 す る迷 惑 行 動.    ① 保 健室 通学 の支 援. ①深夜の徘徊.    ②話 し相 手 、相談 相季. ②非行行動. 2.物 理 的な場 所 の確 保. ③ 攻 撃的 な言 動 ・ 行動. ①評 価され ない場 所 としての保健 室 3.他 の 教 員との連 絡 ・ 連携. 2.自 己 に対 す るな苦 難 となる行.    ①担 任 との 連携. 動 行動.    ②学 年 学 校単位 の 連携. ① リス トカッ ト・拒 食. ②強迫行為. 4.他 職 種 への 相談    ① スクー ルカウンセラー への 相談 5.保. 3.周 囲 に対 す るアピール 的行 動. 護 者 へ の 連 絡 、相 談. ①子 どもの状 況を伝 える. 行動. ② 保護者 の 相談 に乗 る. ① 過 度 の 自己 アピー ル. ②依存性の増長 ③安心感の確保. 図2養. 護 教 諭の 役割 と・介入. 図1養 護教 論が認識した生徒 の悶題行動 『生 徒 へ の 直 接 的 な介 入 』 『非 難 場 所 と して の 保 健 室 の 確 保 』 『他 の教 員 と の 連 絡 ・連 携 』 『他 職 種 へ の相 談 』 『保. 1.保 護 者 ⑦ 家 族関 係. 護 者 へ の連 絡 ・相 談 』 の5つ の カ テ ゴ リーが 抽 出 され た。 『生 徒 へ の 直 接 的 な 介 入 』 で は,「 保 健 室 登 校 の 支 援 」. ②親の知識不足. 「話 し相 手 ・相 談 相 手 」 の サ ブ カ テ ゴ リー が 存 在 した。. ③ 親 の思 い. 養 護 教 諭 は,一 般 科 目を 担 当 す る教 諭(以 下,一 般 教 諭 と略 す)と は異 な り,保 健 室 登 校 の 生 徒 を支 え た り,保 健 室 を訪 れ る生 徒 の対 応 に あ た って い た 。 ま た,『 物 理 的 な 非 難 場 所 の確 保 』 で は,生 徒 が評 価 され な い安 全 な. 2.他 の教 員 との連 携 ① 担 任 との 関 係. 場 所,ま た,教 室 に い る こ とが で きな い 生 徒 の 逃 げ場 所 と して,保 健 室 の場 づ く りを行 って い た 。 さ らに,『 他. ② 単 独 では動 けない. の 教 員 との連 絡 ・連 携 』 で は,「 担 任 と の連 携 作 り」 「学 年 ・学 校 単 位 で の 連 携 作 り」 な ど,生 徒 へ の 対 応 の 在 り 方 につ いて 一 般 教 諭 との 連 携 を 図 って い た。 『他 職 種 へ の 相 談 』 で は,「 ス ク ー ル ・カ ウ ンセ ラー へ の相 談 」 を 行 い,自 己 の判 断 の 確 認 や,専. ③連携の不足 ④教員の知識不足. 門家 の 知 識 を も と に した. 対 応 を検 討 して い た。 『保 護 者 へ の 連 絡 ・相 談 』 で は, 「子 ど もの 状 況 を伝 え る」 「保 護i者の 相 談 に乗 る」 等 の サ ブ カ テ ゴ リー が 存 在 し,担 任 と調 整 しな が ら も,時 に は 積 極 的 に家 族 と対 応 して い た。 3.養. 3.養 護 教諭 としての立 ち位置 ① 他教 員 の養 護教 諭 ・ 保健室 へ の 無理 解 ② 学校 現場 に おける養 護 教員 ・ 保健 室 の期 待」. 護 教 諭 の 介 入 を 阻 む も の(図3).   養 護 教 諭 は,生 徒 に対 して さ ま ざ まな 関 わ り ・役 割 を 果 た そ う と して い るが,そ. の行 為 を 阻 む 要 因 と して 以 下. 図3養 護教諭の介入を阻むもの.

(4) 1 0 2. のカテゴリーが抽出された。ひとつは『保護者』であり, 親の知識不足 JI 親の思い Jのサブカテゴ 「家族関係 JI リーが存在した。「家族関係」の内容では,親にむしろ 問題があると思われるケースでも,子どもである生徒が 親をかばったり,親に報告されることを拒んだりする場 合である。また, I 親の知識不足」では,保護者に精神 疾患の知識が無く,偏見から受診や学校からの介入を嫌 う場合である。「親の思い J は,知識不足と重なる部分 もあるが,親として子どもである生徒の異常性を認めた くない場合である O つづいて『他の教員との連携』では, I 担任との関係 J 「単独では動けない JI 教員聞の連携の不足 JI 教員の知 識不足」の 4つのサブカテゴリーが存在した。「担任と の関係」では,学校においてクラス担任の存在が大きく, 生徒に関することは担任を抜きにしては語れず,まずは 担任に話を通すこと,判断を委ねることが必要と感じて いる。この順番が狂う(担任を抜かす)と,問題の解決を より複雑にすることもあると感じながら,一方では他者 (担任等)が介在するため,生徒の状況が家族に十分伝わ らないことに疑念を抱いている。「単独では動けない J ということについても,早期介入の必要性を感じても養 護教諭が単独で動くことは難しく,むしろ一般教諭のサ ブ的な位置づけで動くことを余儀なくされている O そう した状況の中で「教員聞の連携の不足j が生じた。すな わち,養護教諭と一般教諭では生徒に対する対応、が異な り,それが生徒の混乱を招く場合があった。また, I 教 員の知識不足Jでは,一般教諭の精神疾患や精神的な問 題についての知識が十分でないことが,養護教諭の対応 を阻むこともある。養護教諭が必要な休息と判断しでも, 一般教諭は生徒の行為を「怠け Jや「甘え Jと判断する ことがあり,養護教諭はその対応の調整に苦患していた。 養護教諭としての立ち もう一つの対応を阻む要図は, r 位置』であり, I 一般教諭の保健室・養護教諭への無理 解JI 学校現場における養護教員・保健室への期待Jが サブカテゴリーとして存在した。「そこまでしてもらわ なくてもいい」というニュアンスが伝わってくる場合も あり,これらは,一般教諭が養護教諭に何を期待してい るかであり,養護教諭という専門職のアイデンティティ に関わる問題である。. V I .考 察 学校現場,特に小学校・中学校では生徒による暴力行 為の発生件数が調査を開始して以来,過去最高となって いるヘ不登校を含め生徒の「問題行動」と呼ばれる行 動が減少することは無い。そこで,一般教諭および養護 教諭はこのような問題行動を呈する生徒に日々対応する ことになる O 養護教諭は,教員の中では医療的な専門知. 甘佐京子. 識を持つものとして,生徒の「問題行動Jを単なる思春 期の反抗的態度としてだけではなく,病的なものとして 捉えうる。「目っき JI 奇異な動き JI 攻撃的な言動・行 動J等から病的なものを感じ取ったり,強迫行為や摂食 障害といった疾患の症状として捉えている場合も多い。 これらの状態は統合失調症の前駆症状と重なる部分があ る 。 しかしながら,養護教論が単独で介入することは稀で ある O 担任教論や管理者である校長等と連携し,教員と 生徒あるいは教員と保護者の聞を調整したり,一般教論 を支援したりすることが多いと考えられる。実際,担任 教諭は学級の生徒を把握すればよいが,養護教諭は全校 生徒を対象としなければならないことから,特定の生徒 にのみ介入することは難しい。統計的にも,不登校や暴 力行為における指導・栢談は主として担任教諭が行って おり,養護教諭が行う件数はその 1 / 1 0足らずである 8)0 教育現場においては,教員潤でいかに連携を図るかが, 平期介入には重要と考えられる。教員聞の連携を組む要 因のーっとして,教員の精神疾患に対する知識不足が挙 げられた。発達障害については,平成 1 5年より特別支援 教育体制推進事業が組まれ,さらに平成 2 0 年には発達障 害等支援・特Jj j l 支援教育統合推進事業が実施されるなど, 手厚い施策が展開されているヘまた,教員を対象とし た研修会や勉強会も多く,発達障害児の教育や対芯につ いては大きな関心がもたれている。一方,精神疾患はそ うした支援事業の対象にはならず,教員は手がかかる状 況にあっても特別な支援は受けられない。また,精神疾 患については,中学校の保健体育の教科書にもほとんど 触れられておらずベ教員自身の知識も十分ではないと 推測される O 精神疾患の前駆症状なのか,思、春期の感情 の揺れから来るものなのか,それとも発達障害圏内の反 応なのか。一つの生徒の言動・行動をどのように判断す るかで,その後の対応が大きく変わる O その判断が教員 間で巽なる場合,最終的に混乱をきたすのは生徒自身で ある。そのことを念頭に置き,より確かな知識を共有し ていくことが震要な課題である。 次に, I 保護者との関係 JI 保護者の思い・考え」を優 先することで,対応が困難となる場合もあった。精神疾 患に対する教員の知識が十分でないように,多くの保護 者もまた知識を持ち合わせていなし 1。さらに,社会に存 在する精神疾患に対するスティグマ,親として事実を否 定したい気持ちが生じることも特別なことではない。先 行研究でも,統合失調症の場合,発症してから受診に至 るまでの期聞は数カ月から数年と報告されている ω。そ れは,前駆症状の不確定さのみならず,最初に棺談する 機関が,医療施設ではなく児童相談所が多いことから, 精神疾患かもしれないという選択肢は家族にとっては, 後方に位聾すると考えられる O 中学生を対象にした精神.

(5) 103. 中学校 養護教諭の語 りか らみえて きた問題 行動 を示す生徒へ の対応 の現状 と課題. 疾 患 に対 す る認 識 調 査 で も,自. らの 年 齢 が 発 症 年 齢 に該. 当 す る統 合 失 調 症 や 強迫 性 障 害 にっ いて は病 名 す ら認 識 され て い な い現 状 で あ った10)。養 護 教 諭 や 一 般 教 諭 が 疾 患 の存 在 に気 が っ い た と して も,当 事 者 で あ る生 徒 や 保. して い く こ と が 重 要 で あ る 。. 謝. 辞. 護 者 の 認 識 が十 分 で な い と,迅 速 な 介 入 は困 難 で あ る。 ま た,養 護 教 諭 の介 入 を さ らに困 難 に して い るの は,担.   日 々 の激 務 の 中 で,本 研 究 に 参 加 協 力 して い ただ い た. 任 教 員 中 心 の組 織 の な か で,「 一 般 教 諭 の保 健 室 ・養 護.   本 研 究 は 科 学 研 究 費 補 助 金 を 受 け行 っ た(基 盤 研 究. 教 諭 へ の 無 理 解 」 「学 校 現 場 に お け る養 護 教 員 ・保 健 室 へ の期 待 」 の2点 が 考 え られ る。 養 護i教諭 は,教 員 資 格. (C)課. 養 護 教 諭 の み な さ ま に心 か ら感 謝 い た しま す。 題 番 号19592587)。. を持 った教 員 で あ りな が ら,そ の 役 割 は著 し く限 定 さ れ て い る。 教 員 と して の ア イ デ ン テ ィテ ィだ け で は な く, 専 門 職 と して何 を す べ きか,ど. う動 くべ きか,多. くの養. 護 教 諭 が 自 らの立 ち位 置 や専 門 性 に 自問 自答 して い る正2)。 教 員 と して の アイ デ ンテ ィテ ィが,専. 門職 と して の行 動. を規 制 して しま う こ と もあ る。 今 後,教 員 と専 門 職 の ア イ デ ンテ ィテ ィを統 合 した養 護教 員 が,生 徒 と一 般 教 諭, 生 徒 と保 護 者 の 連 携 の か な め と な る こ とが望 まれ る。 ま た,メ. ンタル ヘ ル ス教 育,疾 患 教 育 な ど も養 護 教 諭 が. 行 う こ とが 望 ま しい と考 え る。 オ ー ス トラ リアで は,学 校 精 神 保 健 増 進 プ ロ ジェ ク ト 「マ イ ン ドマ タ ー ズ(Mind Matters)」. が 創 設 さ れ て い る。 マ イ ン ドマ タ ー ズ は,. 中等 教 育(11歳 ∼17歳)に あ る生 徒 の こ こ ろの 健 康 増 進 ・ 予 防 ・早 期 介 入 を促 す た めの 国 家 的 プ ロ ジェ ク トで あ る。 11歳 か らそ の 発 達 段 階 に応 じた プ ロ グ ラ ムが 組 ま れ て お り,そ れ を 実 施 す る教 員 も研 修 を受 け十 分 な 知 識 の も と に 実 践 して い る13)。齋 藤i6)は著 書 の 中 で,教 員 養 成 課 程 の必 修 科 目 と して 児 童 青 年 精 神 医 学 を学 ぶ 必 要 性 を訴 え 図4  介 入 に 向 け た 課 題. て い る。 そ の 知 識 が 早 期 介 入 につ な が り,当 事 者 で あ る 生 徒 を よ り早 く専 門 家 に橋 渡 しで き るか らで あ る。 こ う した役 割 を まず 養 護 教 諭 が 担 って い く こ とが 期 待 さ れ て い る。 ま た 生 徒 ・一 般 教 諭 ・保 護 者 に も精 神 疾 患 の啓 発 活 動 を 実 施 す る こ とが 必 要 で あ る。. VII.結. 論. 文 1)松. 献 本 和 紀:イ. ギ リス に お け る早 期 介 入   国 の政 策 に.  . 採 用 さ れ 普 及 す る サ ー ビ ス,こ.  . 33-39,日. 2)原. こ ろ の 科 学,133号,. 本 評 論 社,2007.. 田 修 一 郎,青. 木 省 三:前. 駆 期の周辺 の問題  引 き.   問題 行 動 を 示 す 生 徒 に は,医 療 に つ い て は門 外 漢 で あ る一 般 教 諭,な か で も担 任 に 多 くの判 断 が 委 ね られ る。.     こ も り を 中 心 に,水  . 神 科 臨 床 リ ュ ミエ ー ル5統. 担 任 と して の 責 任 か ら問 題 を抱 え込 む一 般 教 諭 と,担 任 との 関 係 に よ って は必 要 な介 入 さ え も躊 躇 し担 任 に対 応.  . 早 期 介 入,44-51,中. を委 ね る養 護i教諭 が 存 在 した。 「精 神 疾 患 へ の 無 理 解 」.  . は精 神 疾 患 に対 す る基 本 的 な知 識 や情 報 の 欠 如 に よ る も.     ン学 会2008資. 料 集,105,2008.. の で あ り,教 職 員 に対 して 精 神 保 健 教 育 を 行 う こ と が必. 4)甘. た な 家 族 支 援 に 向 けて 一精 神 分 裂 病 患. 要 で あ る。 こ こで,介 入 に向 け た課 題 を 図4に 示 す 。 教.  . 者 の 家 族 の 訴 え を 通 し て 一,滋. 員 が専 門 的 な 知 識 を持 ち,養 護 教 諭 ・一 般 教 諭 が 自 らの.  . 大 学 部 学 術 雑 誌,第5号,53-59,2001.. 役 割 を 明 確 に した上 で 連 携 を保 ち,生 徒 に対 応 して い く こ とが早 期 介 入 にっ なが る と考 え られ る。 さ らに,早 期. 5)広. 介 入 を よ り確 実 にす る に は,当 事 者 に な る可 能 性 の あ る 生 徒 や 保 護 者 に対 して も,精 神 疾 患 の正 しい知 識 を啓 発. 3)西. 田 淳,石. 野 雅 文 編 集,専. 山 書 店,2009.. 倉 習 子:ワ. 期 介 入 の 取 り組 み,日. 佐 京 子:新. 沢 郁 子:第1章. ー ク シ ョ ッ プ1-2英. 賀県立大学 看護短期. 学 童 期 と 思 春 期 の 統 合 失 調 症,. 中 根 晃,牛.  . の 精 神 医 学,第1版,452-458,金. 島 定 信,村. 藤 万 比 古:第18章. 国 の早. 本 精 神 障 害 者 リハ ビ リ テ ー シ ョ.  . 6)齋. 門 医 の た め の精. 合失調 症 の早期診 断 と. 瀬 嘉 代 子 編 集,子. 供 と思 春 期. 剛 出 版,2008.. 中学生 の こ ころの ケア 児 童精.

(6) 1 0 4. 甘佐京子. 神科医から学校への提言,不登校の見童・思春期精 神医学, 2 2 5 2 3 8,金剛出版, 2 0 0 6 . 7)グレッグ美鈴:質的記述的研究,グレッグ美鈴,麻 原ぎよみl横山美江編集,よ くzわかる質的研究の進 め方・まとめ方, 5 4 . . . : 7 1,‘医歯薬出版株式会社, ν. 2 0 0 7 . 0年度「児童生徒 8 )文部科学省ホームページ:平成 2 の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」に ついて, h t t p : / / w w w . m e x t . g o . j p / b _ m e n u / t o u k e i. / c h o u s a 0 1 / s h i d o u / 1 2 6 7 6 4 6 . h t m 0 1 0 / 2 0 1 1,第 9編学校保健, 3 7 9 9)国民衛生の動向 2 0 1 0 . 3 81,財団法人厚生統計協会, 2 1 0 ) 甘佐京子,比嘉勇人,田中知佳,長江美代子,牧野. 耕次,松本行弘:中学生を対象とした「こころの病 , 気」に対する意識調査,人間看護学研究,第 7号. p 7 3 " " " ' 7 9,2 0 0 9 . 1 1 )甘佐京子,土七嘉勇人,..:牧野耕次,松本行弘:急性期 における統合失調症患者家族アセスメントツールの , 2 3 3 4,2 0 0 6 . 考案,人問看護研究,第 4号 1 2 )杉村直美:養護教諭という職-学校内における位置 と専門性の検討,名古屋大学大学院教育発達科学 1巻 , 1 号 , 7 5 8 6,2 0 0 4 . 研究科紀要,第 5 1 3 ) 白井有美,崎川典子,岡田直大,針間博彦:マイン ドマターズの概要とスクールマターズ, こころの科 o 1 4 3, 1 1 9 1 2 6,2 0 0 9 . 学 , N.

(7) 105. 中学校養護教諭 の語 りか らみえて きた問題 行動 を示す生徒 への対応 の現状 と課題. (Summary) Current situations and problems in dealing with student who shows problem behavior show by junior high school nurse-teacher's talk -For the early Intervention. KYOKO. AMASA,. 1)MIYOKO. 1) University. NAGAE of. 2) Japanese. Red. 3) Mie. Key. Words. Early. Intervention,. Shiga. 2), SACHIKO Prefecture. Cross. University. School. in the psychological. nurse,. TUTIDA3),. School. Toyota. College. Faculty. problem. of. of. act,. MAYUKO. Human of. illness -. Nursing. Nursing. Medicine. adolescence,. mental. illness. YAMASITA.

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参照

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