「福岡女学院大学大学院紀要 発達教育学」第6号
2018 年 12 月
高原 和子・瀧 信子・矢野 咲子・小川 鮎子・小松 恵理子
Study on contents of the movement in the voluntary corrugated cardboard play
of the infant.
Kazuko TAKAHARA, Nobuko TAKI , Sakiko YANO ,
Ayuko OGAWA and Eriko KOMATSU
幼児の自発的なダンボール遊びにおける動きの内容
高原 和子・瀧 信子 *・矢野 咲子 *・小川 鮎子 **・小松 恵理子 ***
Study on contents of the movement in the voluntary corrugated cardboard play
of the infant.
Kazuko TAKAHARA, Nobuko TAKI, Sakiko YANO,
Ayuko OGAWA and Eriko KOMATSU
概 要
我々は,幼児の自主的で自由な運動遊びの十分な実施こそが幼児の多様な動きの獲得と体力・運動能力 の向上をもたらすと考えている。それには環境設定が重要と考え,幼児の多様な動きを引き出すための工夫 や手立ての一つとして,ダンボールを用いた環境設定の有用性の検討を試みた。先に,ダンボールを使用し た遊びの実践における動きの分析を試み,幼児期に必要な多様な動きが十分出現することを確認した。本研 究は,先行研究で得られた結果を基に,個別の観察をとおして動作出現の実態を確認し,遊び方による動作 の違いについて検討を試みた。その結果,良く遊ぶ幼児と遊びの少ない幼児とで動作の種類や出現率に違い があることが判り,動作の出現には「遊び方」が大きく影響することが示唆された。 キーワード:幼児,基本的動作,多様な動き,環境設定,ダンボール遊びはじめに
科学技術の発展により,我々は便利で豊かな生活を手 に入れた。しかし,その一方でからだを動かす機会を減 少させ,それが要因の一つとなり身体活動不足による生 活習慣病の発症を招いている。このような現代の社会環 境や生活様式の変化は,子どもにも深刻な影響を及ぼし ている。その結果として表れていることの一つが子ども の体力・運動能力の低下である。近年,ようやくその体 力・運動能力の低下傾向に歯止めがかかった。しかし, 体力・運動能力水準が高かった1985年頃に比べると依然 低い傾向にある。また,体力・運動能力が高い子どもと 低い子どもの格差や,運動する子どもとそうでない子ど もの二極化傾向1)は未だ解決できていない2)。さらに, 自分のからだをイメージ通りに動かせない,操作できな い子どもも増えている3)。 このような子どもの体力・運動能力の低下や,からだ の状況については,4∼6歳の幼児にも同様に認められ, 体力・運動能力の経年的な低下が問題視されている4)。 また,体力・運動能力を生み出す動作様式(基本的動作) そのものの発達が未熟な段階にとどまっていることも明 らかにされている5)。すなわち,子どもの体力・運動能 力の低下や,多様な動きの獲得不足等は,すでに幼児期 から始まっていることが分かり,幼児期からの対策の必 要性が示唆された。そこで,その対策として 2012年に 「幼児期運動指針」6)が出された。そこには,「幼児期に おいて,遊びを中心とする身体活動を十分行うことは, 多様な動きを身に付けるだけでなく,心肺機能や骨形成 にも寄与するなど,生涯にわたって健康を維持したり, 何事にも積極的に取り組む意欲を育んだりするなど,豊 かな人生を送るための基盤づくりとなる」とした幼児期 における運動遊びの意義が示されるとともに,幼児期の 運動の在り方が示された。そして,それらをより具体化 した「幼児期運動指針ガイドブック」7)が地域の教育委 員会を通じて幼稚園をはじめ,保育園等に配布され,各 保育施設における運動の取り組みを促すこととなった。 幼児期運動指針にも示されているように,幼児期は遊 びを中心とした身体活動を十分に行い,多様な動きを経 験することが重要である。それは,脳・神経系の著しい 発達がみられるこの時期に,様々な身体活動の刺激を与 えることで,神経回路の構築を促すことに拠る。よって, 幼児期は多様な動きの経験が必要となる。幼児期運動 指針では,「幼児期の運動の在り方」の中で「幼児期は, 生涯にわたって必要な多くの運動の基となる多様な動き を幅広く獲得する非常に大切な時期である」とし,動き の獲得として「動きの多様化」と「動きの洗練化」の二 * 福岡こども短期大学 ** 佐賀女子短期大学 *** 鹿児島女子短期大学つの方向性を示している6)。特に「動きの多様化」では, 幼児期に獲得しておきたい基本的な動きとして「体のバ ランスをとる動き」,「体を移動する動き」,「用具などを 操作する動き」を挙げ,「体を動かす遊びや生活経験な どを通して,易しい動きから難しい動きへ,一つの動き から類似した動きへと,多様な動きを獲得していく」こ とが示されている6)。また,「動きの洗練化」では,「適 切な運動経験を積むことによって,年齢とともに無駄な 動きや過剰な動きが減少して動きが滑らかになり,目的 に合った合理的な動きができるようになる」とも述べら れ,多様な動きを繰り返し実施することで「動きの洗練 化」も図られることが明記されている。そして,これら を実現するためには,保護者や,保育施設等の保育者を はじめ,幼児に関わる全ての人々が幼児期の運動の実現 へ向けて共有することの重要性も述べられており6),特 に保育施設等での役割が重要となることが察せられる。 近年,保護者からのニーズもあり,運動やスポーツを 一斉保育(設定保育)で実施したり,時間外で希望者を 募って専門家による運動・スポーツの指導をするなど, 意図的に運動や身体活動を取り入れている保育施設は多 い。しかし,その取り組みは運動種目に偏りがみられ, ある限られた運動経験にとどまることが多い。また,ど の程度幼児の体力・運動能力に影響しているのか,実態 を把握して取り組んでいるところは少ない。実際,定期 的に意図的な身体活動を取り入れている保育施設を調査 した先行研究では,行われていた取り組みが十分に幼児 の体力・運動能力に反映されていないことを確認した8)。 また,幼児の体力・運動能力と保育施設での保育実践と の関わりについて検討した先行研究では,身体活動を意 識した保育指導計画のもと実施された保育活動だけでな く,自由遊び時にも幼児の身体活動を促す工夫の必要性 が示唆された9,10)。 また,幼児が自発的にからだを動かして遊ぶことの体 力・運動能力への影響について調査した先行研究では, 自由選択型運動プログラムが幼児の体力・運動能力の改 善に有効に働きかけることが確認でき,幼児の自由遊び の過ごし方の工夫の必要性が示唆された11,12,13)。 これら先行研究から,我々は,幼児の自発的で自由な 運動遊びの十分な実施こそが幼児の多様な動きの獲得と 体力・運動能力の向上をもたらすと考えている。故に, 保育施設においては,幼児の自由遊び時間の確保と保育 者の十分な環境設定やその工夫が必要であると考えてい る。 そこで,自由遊びの環境設定の検討を目的として,身 近にある素材である「ダンボール」に着目し,ダンボー ルを使用した遊びの実践における基本的動作の出現分析 を試みた。その結果,幼児期に必要な基本的動作が十分 出現することが確認され,ダンボールを用いた環境設定 が,幼児の自発的な運動遊びを促し,多様な動きの経験 に有効に働きかけることが示唆された14,15)。 このように,環境設定の工夫により幼児は自発的に運 動遊びを展開することが確認され,それに伴い基本的動 作の十分な出現も確認されたが,そのような遊びの様子 を観察していると,幼児によって活動の様子が様々であ ることがわかる。遊びを次から次へ繰り出す者もいれば, 同じ遊びを何度も繰り返したり,一つの遊びをじっくり 遊び込む者など,遊び方には幼児一人ひとりの個性がみ られる。それはダンボール遊びにおいても同様であった。 これら遊び方の違いが動作の出現にどのように影響する のか,個人の動作出現に偏りはないのか,これらの課題 は全般的な遊びの動作分析では見えてこない。すべての 幼児の多様な動きの経験を確保するための基礎資料とし ても,遊び方の違いに着目した検討が必要であると考え る。 そこで本研究では,遊びの様子を個別に観察し,幼児 一人ひとりの動作を分析することで,ダンボール遊びに よる動作出現の実態を確認するとともに,遊び方による 動作の違いについて検討を試みた。 表1 保育施設と使用場所,対象幼児の遊びの特徴 Aこども園 Bこども園 C幼稚園 D保育所 女児①:仲間とよく遊ぶが,一人遊びも多い 保育室 ホール プレイルーム ホール ホール ホール E幼稚園 F保育所 女児④:動と静を繰り返しながら遊ぶ 女児②:いろいろな動と静の遊びを展開する 男児⑤:仲間との遊びが多い 女児⑤:いろいろな遊びを仲間に提案しながら遊ぶ 男児⑥:一人で遊ぶことが多い 女児⑥:他児とのかかわりも多く,ごっこ遊びなど盛んに行う 保育施設 使用場所 幼児と遊びの特徴 男児①:一人でイメージをもって活動的に遊ぶ 男児②:他児の遊ぶ様子をじっと見ていることが多い 男児③:いろいろな遊びに挑戦する 女児③:一つの遊びをずっと行うことが多い 男児④:一つの遊びを長く行ったり,繰り返したりする 表1 保育施設と使用場所,対象幼児の遊びの特徴
表
2 基本的な動作とその分類
(財団法人体育科学センター,1986) 個々の動作 カテゴリー 動作の内容 安定性 姿勢変化 平衡動作 移動動作 上下動作 水平動作 回避動作 荷重動作 操作動作 脱荷重動作 捕捉動作 攻撃的動作 たつ・立ちあがる かがむ・しゃがむ ねる・ねころぶ おきる・おきあがる つみかさなる・くむ のる のりまわす まわる ころがる さかだちする わたる あるきわたる ぶらさがる うく のぼる あがる・とびのる とびつく とびあがる はいのぼる・よじのぼる おり る とびおりる すべりおりる とびこす ギャロップする スキップ・ホップす る 2ステップ・ワルツする とぶ はしる・かける・かけっこす る おう・おいかける およぐ すべる はう ふむ あるく かわす かくれる くぐる・くぐりぬける もぐる にげる・にげまわる とまる はいる・はいりこむ おさえる・おさえつける おす・おしだす おぶう・おぶさる なげおとす おこす・ひっぱりおこす つきおとす こぐ うごかす はこぶ・はこびいれる ささえる あげる もつ・もちあげる かつぐ おろす・かかえておろす うかべる おりる もたれる もたれかかる ころがす ほ る ふる・ふりまわす まわす つむ・つみあげる わたす いれる・ なげいれる うける・うけとめる あてる・なげあてる・ ぶつける とめる つかむ・ つかまえる たたく つく わる うつ・うちあげる・ うちとばす なげる・ なげあげる くずす ける・けりとばす しばる・しばりつける ひく・ひっぱる たおす・おしたおす ふりおとす あたる・ぶつかる すもうをとる 表2 基本的な動作とその分類表
3 ダンボール遊びにおける動作の分類
うつ伏せで寝る 布団にして寝る うつ伏せで 敷いて座る 腕で回る サンドイッチ のように マットにして 上に乗る 中に入って クルクル ランニング マシーン安定性
姿勢変化・平衡動作 跳び越す またぐ 跳び越える 走ってきて 上に滑り込む 片足を乗せて ツーツー 体に巻く 下に置いて 中に入る 下に 潜り込む 挟む 下に入って 隠れる 仰向けで 小さくなり 丸くする 立てて隠れる 囲む 横にして 中に入る 箱の中で 寝る 立てて 中に入る モグラたたき 連結して トンネルに してくぐる トンネルに して中に入る 中に入って 隠れる 壁に沿って 囲いを作って 隠れる移動動作
上下動作 水平動作操作動作
回避動作 頭の上に かかえて 頭の上に かぶる かぶる2人で 兜のように かぶる かぶったまま 這う 上からかぶる 筒に入ってふたをする 体に巻いて 這う 洋服のように 脱ぐ ロボット 両手で 胸の前で回す 小さく たたむ 振り上げて振り下ろす 振り回す ついたてにして 押し合う 筒の中に人を入れ 投げ当てる 立てて 蹴る 押し倒そう とする 下に入って 蹴り上げる 2つ以上を 長く並べる 2つ以上付けて囲みをつくる 箱にして 並べる 荷重動作 脱荷重動作 捕捉動作 攻撃的動作複合動作
操作動作 と安定性 操作動作と移動動作 頭上に持ったまま クルクルその場回り 荷重動作 と上下動作 荷重動作と水平動作 中に入って 端を持って ジャンプ 手で持って 上に乗って 跳ぶ 両端を持って ピョンピョン 跳び 仰向けで 背中歩き 横転しながら 体に巻きつける いもむし うつ伏せで 手に持ち 進む ぞうきんがけ うつ伏せで 上に乗り 這って進む 上に座って 端を持って 膝で進む マントや羽 のようにして 歩く・走る 体の前に 持ち上げて 歩く・走る 持って 歩く・走る 持って 引っぱる かぶって 歩く・走る 頭上に高く 持ち上げて 歩く・走る 中に入って ゴソゴソ 歩く 中に入って 電車ごっこ 腰に巻いて 移動する 車の形にして 押す 一人を乗せて 押す 上に乗せて 引く そり遊び 筒状にして 人を入れ ぞうきんがけ (瀧信子,他,2017) 表3 ダンボール遊びにおける動作の分類終わったもの,完了されなかったものについては,デー タから除外した。 (4)観察記録内容 予め記録表を作成し,動作の出現ごとに記録した。記 録の内容は,動作出現時刻,遊び(動作)の具体的な内 容,動作の分類,ダンボールの形状と位置,仲間との関 わりである。また,動作の静止画像は,動作の分類・分 析の際の確認に用いた。 (5)動作の分類とその項目 動作は,石河ら16),および体育科学センター17)が示す 「基本的な動作とその分類」(表2)を参考にして先行研 究14,15)で得られた「ダンボール遊びにおける動作の分 類」(表3)に準じて分類した。分類項目(カテゴリー と動作の内容)は,①安定性の「姿勢変化・平衡動作」, ②移動動作の「上下動作」,「水平動作」,「回避動作」, ③操作動作の「荷重動作」,「脱荷重動作」,「捕捉動作」, 「攻撃的動作」,④複合動作の「操作動作と安定性」,「操 作動作と移動動作」である。 なお,本研究の実施にあっては,事前にそれぞれの園 の保育者と保護者に対し研究の趣旨を説明し,ビデオ撮 影の承諾と同意を得て実施した。また,その際,本研究 における収録映像は,研究のみに使用することも伝えた。
結 果
(1)遊びの様子と対象児の抽出 本研究では6か所の保育施設で観察されたダンボール 遊びのビデオ映像を基データとしたが,そのどの保育施 設の幼児も飽きることなく30分間絶え間なく遊び続けて いた。そのため,大多数が「良く遊んでいる幼児」であ り,「遊びの少ない幼児」は かであった。したがって, その かな中から,同じ遊びを繰り返し,一つの遊びを 長く行うなど比較的「遊びの少ない幼児」を抽出の条件 (常に映像に映っていること)に加えて,「良く遊んでい る幼児」と対比させるため同じ保育施設の中から選ぶ ことにした結果,「遊びの少ない幼児」は3名(男児②, 女児③,男児④)となった。方 法
(1)研究対象 保育所・幼稚園・こども園(6か所)の5歳児を対象 に,ダンボールを使用した遊びを実施した中から,特に 「良く遊んでいる幼児」と,同じ遊びを繰り返し,一つの 遊びを長く行うなど比較的「遊びの少ない幼児」とを抽 出し,本研究の対象とした(男児6名,女児6名)。ま た,この分析においては,ビデオ映像の観察であるため, 対象児の抽出にあたっては,ビデオ映像に常に映ってい ることを条件とした。保育施設と使用場所,対象幼児の 遊びの特徴を表1に示す。 (2)ダンボール遊びの実施方法(環境設定) 開いた状態のダンボール(横152cm ×縦56c m)を幼 児の人数分用意した上で,筆者それぞれが各園を訪問し 実施した。使用する場所については,広さは特に指定せ ず,参加する幼児の人数に応じて各園で使用可能な場所 とした(表1)。また,環境設定については,開いた状態 のダンボールをフロアーに立て,幼児の目にとまるよう に配置した。 遊びの時間は30分間で,遊びの内容に関しては,幼児 の自主性に任せた。ただし,事前に①30分間自由にダン ボールを使って遊ぶこと,②ダンボール以外の物は使わ ず,切ったり破ったりしないことの2点を幼児らに話し た。なお,保育者および研究者(筆者)らは,指導や援 助,声かけなどは行わず,安全管理と危険回避のみ行っ た。 実施および撮影は,2016年1月∼3月に行った。 (3)観察方法 ダンボールを使用して遊ぶ幼児の様子を30分間ビデオ に記録した。そのビデオ映像の中から対象の幼児を個別 に一定時間観察し,ダンボール遊びの中でみられた動作 を記録した。動作のカウントは,ビデオ映像を基に,あ る動作が出現した時点でビデオを停止し,その静止画像 を保存するとともにその動作の内容を記録した。ただし, ダンボールを使わない遊びや,失敗などで動作が途中で 安定性 複合動作 移動動作 操作動作 14.5 Aこども園 Bこども園 C幼稚園 D保育所 女児① 男児① 男児② 女児② 男児③ 女児③ 男児④ 女児④ 男児⑤ 女児⑤ カテゴリー 動作の内容 平 均 15.2 22.2 操作動作+安定性 操作動作+移動動作 E幼稚園 F保育所 女児⑥ 男児⑥ 16.0 10.5 24.7 28.4 14.3 8.7 0 0 姿勢変化・平衡動作 上下動作 水平動作 回避動作 荷重動作 脱荷重動作 捕捉動作 攻撃的動作 0 0 18.8 30.4 0 7.2 0 4.3 24.3 4.5 0 9.7 16.9 0.6 5.8 7.1 5.2 25.3 0 0.6 8.0 38.9 0 6.8 0.6 5.6 11.1 0 0 20.0 22.9 0 0 2.9 0 40.0 6.5 0 17.4 10.9 0 2.2 6.5 2.2 45.7 0 0 25.0 37.5 0 6.3 0 0 31.3 0 0 27.8 16.7 0 0 0 0 55.6 0 0 25.9 22.2 0 11.1 0 0 18.5 0 8.0 10.0 44.0 4.0 10.0 0 0 8.0 0 0 15.8 5.3 0 0 0 0 68.4 0.9 2.6 15.7 27.7 2.1 5.4 1.4 1.4 27.5 13.0 0 7.4 7.4 44.4 11.1 14.8 0 0 1.9 30.0 0 15.0 2.5 42.5 10.0 0 0 0 0 表4 ダンボール遊びによる動作の出現率(%)(2)動作の出現 幼児毎に,動作の記録表を基に分類ごとの出現数と 総出現数を集計した。その上で,総出現数に対する各分 類の出現数を百分率(%)で求めた(以下,出現率とす る)。その結果を表4に示す。 カテゴリー・動作の内容別の平均出現率では,安定性 の「姿勢変化・平衡動作」(平均15.2%)や,移動動作 の「回避動作」(平均15.7%),操作動作の「荷重動作」 (平均27.7%),複合動作の「操作動作と移動動作」(平 均27.5%)が多く出現した。 一方,移動動作の「上下動作」(平均0.9%)や「水 平動作」(平均2.6%),操作動作の「攻撃的動作」(平均 1.4%)や「脱荷重動作」(平均2.1%),複合動作の「操 作動作と安定性」(平均1.4%)の出現率は低かった。 (3)動作の個人間の比較 イメージをもって活動的に遊ぶ幼児(男児①)と自ら 積極的に遊ぼうとしない幼児(男児②)の遊びの始まり から終了まで(30分間)の動作出現総数は,男児①154 件,男児②162件であった。両者の出現率の比較では, 移動動作の「上下動作」(男児①4.5%>男児②0%)や, 操作動作の「荷重動作」(男児①16.9%<男児②38.9%), 「攻撃的動作」(男児①7.1%>男児②0.6%),複合動作の 「操作動作と移動動作」(男児①25.3%>男児②11.1%) などに違いが認められた。 また,遊びの多い幼児(女児②と男児③)と遊びの少 ない幼児(女児③と男児④)とで比較すると,女児では, 安定性の「姿勢変化・平衡動作」(女児②14.3%>女児 ③0%)と,操作動作の「荷重動作」(女児②22.9%<女 児③37.5%),複合動作の「操作動作と移動動作」(女児 ②40.0%>女児③31.3%)などに,男児では,安定性の 「姿勢変化・平衡動作」(男児③8.7%>男児④0%),移 動動作の「上下動作」(男児③6.5%>男児④0%),移動 動作の「回避動作」(男児③17.4<男児④27.8%),「荷重 動作」(男児③10.9%<男児④16.7%),複合動作の「操 作動作と移動動作」(男児③45.7%<男児④55.6%)など に違いが認められた。
考 察
我々は,幼児の多様な動きを引き出すための工夫や手 立ての一つとして,ダンボールを用いた環境設定の有用 性を証明することを目指している。そこで先行研究にお いて,ダンボールを使用した遊びが幼児の多様な動きの 経験に繋がる有効な運動プログラムであることを,遊び の中でみられる基本的動作の分析から導いた。本研究で は,先行研究で得た成果をさらに精察するために,ダン ボール遊びによる動作出現の実態を確認するとともに, 遊び方による動作の違いについて検討した。 これまでダンボールを用いた保育実践は,保育の現場 でも良く行われてきた。そして,保育実践におけるダン ボール遊びの有用性を論じた研究も行われている18,19)。 しかし,研究としてまとめられているものは少ない上に, そのほとんどは造形活動を引き出すもの20,21)や,遊びを とおした人間関係の構築を目的としているもの22)で,運 動や基本的動作の分析に主眼をおいた研究は見当たらな い。このことから,幼児期の多様な動きの経験に繋がる 保育実践の基礎資料としての本研究の意義は大きいと考 える。 (1)遊びの様子からみた環境設定の有用性 ダンボール遊びの実施園は6保育施設で,使用する 場所や,広さは特に指定せず,参加する幼児の人数に応 じた各園で使用可能な場所とした。その結果,A こども 園のみ保育室で,他はホールや,遊戯室などでの実施と なった。遊び方や,動作の出現に場所の広さの影響が懸 念されたが,本研究のダンボール遊びにおいては,実施 場所による遊び方および動作の出現に目立った違いはみ られず,空間的環境因子の動作出現への影響は少ないと 推察された。 また,6保育施設すべてにおいて,ダンボール遊び以カテゴリー・動作の内容と出現率
図1 ダンボール遊びによる動作の平均出現率(%) 安定性の 「姿勢変化・平衡動作」 15.2% 移動動作の 「上下動作」 0.9% 移動動作の 「水平動作」 2.6% 移動動作の 「回避動作」 15.7% 操作動作の 「荷重動作」 27.7% 操作動作の 「脱荷重動作」 2.1% 操作動作の 「捕捉動作」 5.4% 操作動作の 「攻撃的動作」 1.4% 複合動作の 「操作動作と安定性」 1.4% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 27.5% 図1 ダンボール遊びによる動作の平均出現率(%)外の遊びは,ほとんど見られなかった。これは,6保育 施設共通して,事前説明(ダンボールのみで遊ぶことな どを事前に説明)や,環境設定(人数分のダンボールを 幼児の目に触れるように立てた状態からスタートする) で実施したことによるものであったと考えられる。 それは遊びの様子からも示唆され,観察した6名の 幼児を含むすべての幼児において,現実と虚構の世界を 行ったり来たりしながら,からだ全体を使って遊びを繰 り出し,飽きることなく30分間遊び続けていた。中には, ときどき立ち止まって他児の遊ぶ姿を傍観的に見る幼 児もいたが,次の瞬間には仲間とイメージを共有して一 緒に楽しんだりしながら遊びを展開していた。これは高 橋23)や,吉田ら24)が述べているように,「5歳児は保育 者の援助なしで主体的に自主創造的に遊びを展開できる 年齢」であったことも考えられた。 これらのことから,5歳児におけるダンボールを用い た環境設定は,幼児の自発的な遊びを促すことにおいて 適切であり,有用であったことを示唆するものであった。 (2)動作の出現からみたダンボール遊びの特徴 動作の出現率から,先行研究でも確認された「ダン ボール」という素材の特徴が現れた動作が多く出現して いることが確認できた。(図1)カテゴリー・動作の内容 別平均出現率で特に多かったのは,操作動作の「荷重動 作」と複合動作の「操作動作と移動動作」であった。 操作動作の「荷重動作」は,手・足・からだを使っ て「持つ・担ぐ」「上げる」「運ぶ」「押す・引く」「投げ る」などである。特に,遊びのはじまりでは,手で持っ て抱えたり,頭にかぶってみたり,ダンボールを板状の まま立てたり寝かせたりして並べるなど,その素材を確 かめるかのように,ダンボールを一人で操作する行動が 見られた。よって,操作動作の「荷重動作」の出現率が 多くなった。この動作が引き出された背景には,人数分 のダンボールを用意したことで,幼児一人一つずつのダ ンボールを所持し自由に扱うことができたことと,ダン ボールが5歳児に操作しやすい大きさや重さであったこ とが示唆され,その結果,「持つ・担ぐ」「上げる」「運 ぶ」「投げる」などの動作が現れたものと推察される。 操作動作の「荷重動作」と同じように多かったのは, 複合動作の「操作動作と移動動作」である。これは様々 にダンボールを扱いながら移動(歩く・走る・転がる・ う・跳ぶ)する動作で,一通り遊んでダンボールの操 作に慣れてくると,その「操作」に「移動」が加わりこ の動作が現れていた。遊びはじめでは一人で行うことが 多く,ダンボールを持って引っぱる,ダンボールをから だに巻いて移動する(歩く・走る・転がる)などが見ら れた。そして,その様子を見た他の幼児が模倣して一緒 の動き(電車ごっこなど)を楽しんだり,引きずってい るダンボールに他児を乗せて遊ぶ(ソリ遊びなど)動作 に発展し,徐々に仲間とのかかわりが増えていった。こ の複合動作の「操作動作と移動動作」は,ダンボール遊 びの最も特徴的な動作であり,このような動きが現れた 背景には,ダンボールが扱いやすかったことに加えて, 少々のことでは破損しない素材であったことが推察され る。また,形状を「開いた状態のダンボール」にした ことで,開いたまま使うばかりでなく,「折る・たたむ」 「丸める」「立てる」「箱のようにする」など,思うように ダンボールが形を変えられたこともこれらの動きを引き 出すきっかけになったのではないかと考えられた。 次に目立つのは,移動動作の「回避動作」と安定性の 「姿勢変化・平衡動作」であった。 ダンボール遊びにみられた移動動作の「回避動作」は, ダンボールを筒にしたり,壁に立てかけたり,または床 に広げた状態にして「隠れる」「くぐる」「入る」といっ たダンボールが自立する性質を利用した遊び(動作)と して随所で見られた。対象の幼児にもこの動作はよく みられ,この動作のほとんどは一人でトンネルをつくり その中に入る,筒状に立てた中でじっとしているといっ た「隠れる」動作であった。そのうちに他児とともに組 み合わせて発展させる(家や秘密基地など)ことも多く あったが,仲間と楽しく遊んでいても,時々この一人の 空間を楽しむかのように「隠れる」遊びが出現した。子 どもは狭い空間を好む傾向にあることは一般によく知ら れていることである。このような現象を「胎内回帰願望」 として捉え,狭い空間が子どもに安心感を持たせるので はないかと考えられている。しかしそればかりとは限ら ない。今回,狭い空間でのワクワクする気持ちを楽しん でいる様子も見受けられた。「秘密基地」などはそれが 発展したケースである。非日常的な狭い空間でおこる安 心感と,自分(あるいは自分たち)だけの空間に居るこ とのワクワク,ドキドキ感を一緒に味わっているものと 考えられた。このように,幼児期の特徴的な遊びである 「隠れる」遊びが多く出現したため,移動動作の「回避 動作」が多く出現した。 安定性の姿勢変化・平衡動作は,「ねる」「座る」「立 つ」といった動作である。ダンボールを床に敷いて,そ の上にベッドに寝るように寝てみたり,正座や長座で 座ってみたり,様々な姿勢変化が見られた。特に「ベッ ドや布団に寝る」遊びは多く,中には,それから仲間と 重なり合う遊びに発展するケースも認められた。寝てい た幼児に他児が持っていたダンボールを布団のようにか け,おもしろがってその上に覆いかぶさり,それを見た 他の幼児が同じように重なっていき,そのうち崩れ落ち る,という遊びを何度も繰り返していた。これに限らず, 一つの遊びから,偶然や,あるいは何かをきっかけに新 しい遊びに発展する様子は,このダンボール遊びでは多 く発生していた。このことから,ダンボールという素材 は,幼児の想像性から創造性への刺激を喚起しやすく, 扱うことの楽しさ,おもしろさが伝わり,幼児一人ひと りに様々な動きを生み出すきっかけをつくることが示唆
された。 一方,移動動作の「上下動作」(のぼる・上がる・と びのる・とびこす)や,操作動作の「攻撃的動作」,「脱 荷重動作」,複合動作の「操作動作と安定性」,移動動作 の「水平動作」の出現率は低かった。特に,移動動作の 「上下動作」は,ダンボール遊びでは出にくい動作であっ た。その名が示すとおり「上下」運動を伴う動きである ことから,板状のダンボールという形状を利用して「の ぼる・上がる」という動作は出現しにくい。しかし,「と びこす」動作は誰かがやってみせると,それをまねし て動作が現れることもあった。例えば,床に立てたダン ボールの上を跳びながら跨ぐ「とびこす」動作が一部の 活発な幼児に見られ,それを見た他の幼児もまねをして 挑戦する姿が認められた。このように「遊びの発見」が 動作出現に大きく影響することが考えられた。ただし, 「とびこす」には,立てたダンボールの高さ(ダンボール の縦の長さ)を跳び越えるだけの運動の技能と能力を必 要とするため,失敗に終わるケースも多く,特に,女児 や不活発な男児にはほとんど出現しなかった。したがっ て,この動作を出現させるためには,誰もが「とびこす」 ことができるように,ダンボールの大きさを考慮する必 要があると考えられた。 また,今回,移動動作の「水平動作」( う・歩く・ 走る・追う・追いかける・跳ぶ ステップする)もほと んど出現しなかった。その理由としては,幼児は常にダ ンボールを保持する状態にあり,そのため必ず「操作動 作」が入り,「水平動作」のみが出現することはなかっ たためであると考えられた。ただし,一部の幼児(女児 ④と男児⑤)において他に比べて突出して出現していた。 それは,この幼児の保育施設(C 幼稚園)おいて,遊び のはじまりが最初の環境設定(ダンボールを立てて配置) をそのまま使った遊びからはじまったことに因る。ここ では,遊びの冒頭,立ててあるダンボールの間を縫って 歩くことからはじまり,やがてダンボールで複雑な迷路 をつくりはじめた。そして,それを機に,走ったり,追 いかけたりの鬼ごっこがはじまった(図2)。このことが, 移動動作の「水平動作」の出現率となって現れた。 以上のことから,動作の出現には,環境設定で用いる 道具・素材(今回は開いたダンボール)の形や、大きさ, 性質などが大きく影響することが考えられた。加えて, 幼児ならではの遊びの特徴や,「遊びの発見」,「遊び方」 も動作出現に深く関わってくることが示唆された。 (3)動作出現率にみる遊び方の特徴 動作出現率の数値からは,幼児一人ひとりの特徴が現 れている。それは遊び方に深く関わっていることが推測 され,前述の C 幼稚園でみられた「追いかけごっこ」も 図2 迷路を縫って走る(C幼稚園) 図2 迷路を縫って走る(C幼稚園) 図3 ダンボール遊びの様子 c.女児①:「家」に屋根をかける a.女児④:「迷路」から「家」へ b.男児⑤:「秘密基地」をつくる d.女児⑥:運んで組み立てて「お店屋さんごっこ」 e.男児⑥:箱状にして遊ぶ 図3 ダンボール遊びの様子
その一つであるが,他にも様々な特徴が出現率(表4) から見て取れる。 操作動作の「荷重動作」の出現率が高い幼児の場合, 遊びの特徴としては,「作り物」が多い傾向にあった(女 児①,女児④,男児⑤,女児⑥)。女児④と男児⑤は, 最初の環境設定をそのまま使ってダンボールの間を縫っ て走るなどの遊びからスタートしたが,そのうち,立て てあるダンボールを動かし,囲いをつくる,その上に他 のダンボールを屋根のようにかける,などの遊びに発 展していった。そして,その遊びが主流となっていった (図3-a,b)。女児①については,常に何かをつくり,そ のつくった物で他児を巻き込みながら遊んでいた(家, トンネル,お風呂など)(図3-c)。女児⑥については, 「お店屋さん」や「馬車をつくって馭者ごっこ」といった 何かに見立てて遊ぶ「ごっこ遊び」が多く出現し,その 遊びをするためにダンボールを組み立てることが多かっ た(図3-d)。このように,何かの遊びをするためにダン ボールを使った「作り物」が多くなった場合,操作動作 の「荷重動作」の出現率が高くなることが推測された。 男児⑥においては,複合動作の「操作動作と移動動作」 が全体の7割近くを占めている。この男児⑥は,はじめ からダンボールを箱状に組み立て,遊びの終わりまで, ずっとそのままの形状で遊び続けていた。その遊びの様 子は,箱状のダンボールを押す・引く,頭にかぶる・持 ち上げる,など使い方を変えながら移動していた。また, 箱の中に入ってゴソゴソ動く,カメのように背中に箱を 載せて四つん いで歩き,途中箱をかぶってじっと止ま る,などを一人で行っていた(図3-e)。よって,複合動 作の「操作動作と移動動作」が多くなったと考えられる。 同じような傾向は男児④にもあり,この両者に共通して いることは,その遊びは上下動の少ない比較的静的な動 きであった。 ダンボール遊びでは,前述のとおり,複合動作の「操 作動作と移動動作」が多く出現することが,その特徴と して挙げられるが,遊びの様子からみると,男児④や男 児⑥のように静的な遊びだけではなかった。その例とし て,女児②や男児③が挙げられる。この両者の遊びも全 体の約4割が複合動作の「操作動作と移動動作」である。 しかし,遊びの様子をみてみると,男児④や男児⑥とは 違い,ダイナミックな遊びが多い(後述)。このことか ら,同じ動作であっても,「遊び方」による動きの大きさ (動や静)に違いがあることが判った。 (4)遊びの様子の違いからみた動作出現への影響 ① イメージをもって遊ぶ幼児と積極的に遊ぼうとしな い幼児の事例 イメージをもって活動的に遊ぶ幼児(男児①)と自ら 積極的に遊ぼうとしない幼児(男児②)の動作出現率を 図4に示す。動作の出現総数は,男児①に比べ男児②の 方が上回っていた。しかし,動作の内容においては,男 児①では様々な動作が現れているのに対し,男児②では 動作の出現に偏りが認められる。 このことを遊びの様子で確認してみると,男児①は, 常に何かを発想しながらダンボールの形や,使い方を変 えながら遊んでいた。途中,その遊びに興味を示した他 児とかかわる場面もあったが,ほとんど一人で黙々とダ ンボールから想像される遊びを創造に変えながら,その 世界を楽しんでいるようであった。そのため,様々な遊 びが出現し,それが動作として現れたと考えられる。一 方,男児②は,傍観的で他の幼児の行動を見ていること が多く,その際に他児にとられたくないためか,常に自 分のダンボールを持ったり,抱えたり,また,その上に 座ったりする行動を繰り返していた。そのため,操作動 作の「荷重動作」や,安定性の「姿勢変化・平衡動作」 が多くなったと考えられる。 この両者の比較から,イメージを豊かに持つことは, 安定性の 「姿勢変化・平衡動作」 動作数:38 出現率:24.7% 移動動作の 「上下動作」 動作数:7 出現率:4.5% 移動動作の 「回避動作」 動作数:15 出現率:9.7% 操作動作の 「荷重動作」 動作数:26 出現率:16.9% 操作動作の 「脱荷重動作」 動作数:1 出現率 :0.6% 操作動作の 「捕捉動作」 動作数:9 出現率 :5.8% 操作動作の 「攻撃的動作」 動作数:11 出現率 :7.1% 複合動作の 「操作動作と安定性」 動作数:8 出現率 :5.2% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 動作数:39 出現率 :25.3% 安定性の 「姿勢変化・平衡動作」 動作数:46 出現率 :28.4% 移動動作の 「水平動作」 動作数:1 出現率0.6% 移動動作の 「回避動作」 動作数:13 出現率 :8.0% 操作動作の 「荷重動作」 動作数:63 出現率 :38.9% 操作動作の 「捕捉動作」 動作数:11 出現率 :6.8% 操作動作の 「攻撃的動作」 動作数:1 出現率 :0.6% 複合動作の 「操作動作と安定性」 動作数:9 出現率 :5.6% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 動作数:18 出現率 :11.1%
イメージをもって遊ぶ幼児
積極的に遊ぼうとしない幼児
図4 イメージをもって遊ぶ幼児(男児①)と積極的に遊ぼうとしない幼児(男児②)の出現した動作の数と出現率(%) 動作出現 総数:154件 動作出現 総数:162件 図4 イメージをもって遊ぶ幼児(男児①)と積極的に遊ぼうとしない幼児(男児②)の出現した動作の数と出現率(%)動きの出現を促し,様々な動きを展開することに繋がる ことが推察された。また,今回のケースでは,男児①に おいて,ダンボール遊びでは出現しにくい動作の一つで ある移動動作の「上下動作」が出現している。加えて, 複合動作の「操作動作と移動動作」の出現率も高い。こ れら「移動」を伴う動きは大きな動作に繋がりやすい。 このことは,イメージを持って良く遊ぶ,動くことがダ イナミックな身体活動のきっかけを生むことを期待させ るものであった。 ② 遊びの多い幼児と遊びの少ない幼児の事例 次に,遊びの多い幼児と遊びの少ない幼児について動 作出現との関係から検討する。遊びの多い幼児(女児② と男児③)と遊びの少ない幼児(女児③と男児④)の動 作出現率を図5に示す。 まず,両者の違いを遊び方からみてみると,遊びの多 い幼児は,様々な遊びを次から次に展開し,仲間と遊ぶ ことも多かった。一方,遊びの少ない幼児の方は,一つ の遊びを長く行うことが多く,比較的一人で遊んでいる ことが多い傾向にあった。 一つのことをじっくり遊び込むことは,探究心の深さ の現れであり,集中力をつける意味では有意義である。 それとは逆に,一つ一つの遊びが短く,次から次に遊び を展開する場合は,物事へのむら気があり,落ち着きの ない幼児にみられることが多い。子どもの思考力や集中 力は遊び方に現れやすいため,本研究の対象の幼児もそ れが反映された結果であることも考えられる。しかし, 本研究の動作分析のみで考察するには些か難がある。今 後,このことについては,動作分析以外の要因も含めて 検討する必要がある。 ともあれ,両者を動作の出現率と種類で比較してみる と,遊びの多い幼児に比べ,遊びの少ない幼児に出現し た動作の種類は少なかった。その遊びの少ない幼児の様 子をみてみると,女児③においては,「隠れる」遊びが 中心の移動動作の「回避動作」を含めると,約7割が移 動の少ない遊びであった。男児④においては,一つの遊 びを長く行う傾向があり,遊びの多様性も少なかった。 そのため出現した動作の種類は3種類にとどまった。一 方,遊びの多い幼児をみてみると,女児②においては, ダンボールの使い方を様々に変えながら,動きのある遊 びとその場での遊びとを交互に繰り出しており,安定性, 移動動作,操作動作が一様に出現していた。男児③に おいては,目立って活動的で,全身を使った遊びが多い 傾向がみられた。中でも,移動動作の「水平動作」と操 作動作の「脱荷重動作」をのぞく全ての動作が出現して おり,取り分け,移動動作の「上下動作」の出現は,本 研究においてほとんど出現しない動作であるだけに,興 味深い。そのときの遊びの様子をみてみると,立てた状 態のダンボールを跳び越える遊びを行っていた(図6)。 今回使用したダンボールを跳び越えるためには,それな りの運動の技能と体力を要することが考えられたが,そ れにチャレンジしようとするところに男児③の活動性の 安定性の 「姿勢変化・平衡動作」 8.7% 移動動作の「上下動作」 6.5% 移動動作の 「回避動作」 17.4% 操作動作の 「荷重動作」 10.9% 操作動作の 「捕捉動作」 2.2% 操作動作の 「攻撃的動作」 6.5% 複合動作の 「操作動作と安定性」 2.2% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 45.7% 男児③ 安定性の 「姿勢変化・平衡動作」 14.3% 移動動作の 「回避動作」 20.0% 操作動作の 「荷重動作」 22.9% 操作動作の 「攻撃的動作」 2.9% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 40.0% 女児② 移動動作の 「回避動作」 25.0% 操作動作の 「荷重動作」 37.5% 操作動作の 「捕捉動作」 6.3% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 31.3% 女児③ 移動動作の 「回避動作」 27.8% 操作動作の 「荷重動作」 16.7% 複合動作の 「操作動作と移動動作」 55.6% 男児④
遊びの多い幼児
遊びの少ない幼児
図5 遊びの多い幼児(女児②,男児③)と遊びの少ない幼児(女児③,男児④)の動作の出現率(%) 図5 遊びの多い幼児(女児②,男児③)と遊びの少ない幼児(女児③,男児④)の動作の出現率(%)高さが窺えた。同じような例が,前述の男児①にもみら れたことから,この動作は,活動的で身体能力の優れた 幼児にみられる動きであることが推察された。 様々な遊びを多く行う方が動作出現の種類も多くなる ことが判ったが,次に,その遊びの内容について考えて みる。 ダンボールを使った遊びにおける特徴的な動作である 複合動作の「操作動作と移動動作」は,どの幼児におい ても全体の動作出現率の多くを占めていた。このことか らも,複合動作の「操作動作と移動動作」が,ダンボー ル遊びの特徴的動作であることが確認できる。そこで, ダンボール遊びの特徴である複合動作の「操作動作と移 動動作」の遊びの様子から,動きや遊びの内容(遊び方) を検討する。 まず,遊びの少ない幼児の遊びの内容をみてみると, 女児③では,「からだに巻きつけて歩く」「持ち上げて 歩く」「片足を乗せてすべらせる」動きが,男児④では, 「持って歩く」「上に座り両手で床を押して進む」動きが 出現したが,遊びの種類は少なかった。加えて,遊びの 様子からは,上下動の少ない,比較的静的な遊びが多 かった。 一方,遊びの多い幼児の女児②では,「頭や背中に載 せて歩く」「からだに巻いて移動する」「引きずって歩く」 など持って移動する動作が数種類出現している他,後半 では,「ソリ遊び(他児をダンボールの上に乗せて,引っ ぱって遊ぶ)」を仲間とともに繰り返していた(図7-a)。 同じく男児③では,「抱える」「羽のように動かす」など 様々な持ち方で移動する動作の他,「ダンボールの上に 乗り,両端を持ってピョンピョン跳ぶ」などの「跳ぶ」 動作が頻繁に出現していた(図7-b)。このように,遊び の多い幼児においては,動作の種類が多いのみならず, 遊びが多彩であることも判った。 このことから,動作出現の割合でみたときは同じ傾向 のようにみえた場合でも,遊びが多い幼児とそうでない 幼児との間には,遊びの内容,つまり「遊び方」に違い がみられ,特に,活動性を表す動きの大きさに差異があ ることが判った。 今回のケースでは,遊びが多彩かどうか,多いか少な いかにおいて,出現した動作の種類の数だけでなく,活 動性の違いもみられた。本研究の事例だけで,「遊びが 多彩で多い,すなわち活動性が高い」と結論づけること は早急ではあるが,遊びが多彩で多いと動作出現も増え, その種類も多くなることは,今回の分析からおおよそ推 定された。油野は,活発な幼児と不活発な幼児を対象に, 自由遊び時の遊びの様子と動作分析を行った研究におい て,活発な幼児は遊具を次々に展開し,遊びを複雑化す る傾向にあること,動きの出現については,活発な幼児
図
6 遊び中でみられた移動動作の「上下動作」
図6 遊び中でみられた移動動作の「上下動作」 図7 遊びの多い幼児の遊びの様子 a.女児②の遊びの様子 <ソリ遊び> b.男児③の遊びの様子 <両端を持って跳んで進む> 図7 遊びの多い幼児の遊びの様子と不活発な幼児との間に差があり,不活発な幼児では動 きの出現に偏りがあったと報告している25)。活動性の高 さと遊びが多彩で多いこととの関係性を示したこの報告 は,本研究で示唆した「遊びが多彩で多いと活動性が高 い」ことを裏付けるものである。 さらに,活動性の高さは,幼児の体力・運動能力面へ の良好な影響が推察されるが,自由遊びの中での基本的 動作と体力・運動能力との関係を調査した研究では,基 本的動作の出現数と体力・運動能力には相関関係があ り,数多くの種類の動作を遊びの中で出現させる幼児ほ ど体力・運動能力が高いと報告されている26,27,28)。動作 出現と体力・運動能力との関連を示唆するこれらの報告 からも,遊びにおいて動作出現が多いことには大きな価 値があると考えられる。 これらを整理すると,遊びが多彩で多いと動作出現も 多くなり,そのことが多様な動作の獲得につながる。そ して,活動性が高まるとともに,基本的動作獲得を土台 として生み出される体力・運動能力も高まる,というプ ラスの循環が推考される。 以上,幼児の豊かで健やかな育ちを促すには,幼児が 様々な遊びを繰り広げ,遊びの内容が深まるような環境 設定の工夫と配慮の必要性の示唆をあらためて確認する ことができた。
まとめ
身近な素材を利用した環境設定について検討すること を目的とし,ダンボール遊びによる動作出現の実態を確 認するとともに,遊び方による動作の違いについて検討 した。その結果,以下のことが判った。 1)5歳児におけるダンボールを用いた環境設定は,幼 児の自発的な遊びを促すことにおいて適切,且つ有用 であることを再確認できた。 2)動作出現の分析では,操作動作の「荷重動作」,複 合動作の「操作動作と移動動作」,移動動作の「回避 動作」,安定性の「姿勢変化・平衡動作」が多く出現 しており,これらの動作がダンボール遊びの特徴とし て捉えられた。 3)動作出現には「遊び方」が大きく影響しており,同 じ動作であっても「遊び方」による動きの大きさに違 いがあることが判った。 4)「遊び方」には幼児の個性が現れるが,遊びが多く 豊かであると出現する動作も多く,その種類も多くな る傾向にあることが推察された。 本研究から,幼児期に必要な多様な動きを幅広く獲 得することを考える場合,様々な動作出現を促し,遊び の内容が深まるような環境設定の工夫の必要性が示唆さ れ,本研究のダンボールを用いた環境設定の有用性を確 認することができた。ただ,一方で,今回確認できたよ うに,幼児の自主性に任せた自由遊びの場合,それぞれ の遊び方には個性が生じ,幼児によっては,十分な基本 的動作の出現が出にくいことも判った。したがって,「出 にくい動作」を「出現する」ように手立てを講ずること が必要である。今後,自由遊びにおける環境設定を考え て行く場合,幼児の遊びが豊かになるようなアプローチ のしかたについても同時に考えていくことが重要である と考えられた。今後の課題
本研究は,例数も少なく事例的な検討に留まったた め,妥当性に乏しく,結論を導くには限界があった。し たがって,今後,例数を増やすとともに,動作の出現だ けでなく,その持続時間や,行動範囲なども考慮に加え, 様々なケース(遊び方など)を質的,量的な視点を基に 検討していきたい。参考・引用文献
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