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特集 2 光脳機能イメージング 近赤外分光法 (NIRS) 信号の意味 東海大学医療技術短期大学看護学科 灰田宗孝 NIRS 開発の歴史近赤外分光法 (NIRS:Near Infra Red Spectroscopy) は 波長 700 2,500nmの光が 他の波長領域の光と比べ生体への透過性が高

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Academic year: 2021

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NIRS開発の歴史

 近赤外分光法(NIRS:Near Infra Red Spectro­ scopy)は、波長700〜2,500nmの光が、他の波長 領域の光と比べ生体への透過性が高いという特徴 を生かした手法である。これより長い波長領域は 水の吸収帯に近づくため、生体への透過性が低下 し、熱作用が強くなる。また、波長の短い可視光 はわれわれの視界を司る波長であり、生体への光 の透過性は低い。そのためわれわれには生体はよ く見えることとなる。  NIRSを用いて生体内の諸物質の情報を得よう との試みは、かなり古くから行われていた。近赤 外光は1800年、イギリスの音楽家Herschelによ って、プリズムで分光された太陽光の中に、「見 えない熱線」として発見されたが、その測定はむ ずかしく、1962年アメリカ農務省のK. Norrisが 重回帰分析を用いた穀物の近赤外スペクトルから の水分定量の可能性を報告し、NIRSを用いた分 析機器が開発されたのが始まりである。近赤外光 の歴史については尾崎らの報告に詳しいが1、2) その後、近赤外光の応用は農産物の非破壊検査法 として発展してきた。  一方、NIRSの源流となった生体分光計測の歴 史は1933 年、当時英国Cambridge Universityの Physiological Laboratoryに所属していたアメリカ 人研究者のGlenn A. Millikanが多波長分光法の基 本的概念を明らかにし、1977年にはNIRSによる 人間の脳の酸素飽和度の計測がスタートした。 1991年、われわれは日立メディコとともに、国 際脳循環代謝学会にラット脳のヘモグロビン酸素 化状態を画像化した近赤外光CT像を発表した3) 1993年には、複数の研究機関からNIRSによる脳 活動計測の可能性が示された。しかし、成人の頭 部の断層像を近赤外光により得ることには困難を きわめた。このような経緯のなか、1995 年、日 立の研究グループはNIRSによる世界初の脳活動 の多点同時計測に成功し、無侵襲の状態で人間の 脳の活動を動画像計測できることを示した。この 脳機能イメージング技術が、現在の日立の「光ト ポグラフィ」へと発展している4)

NIRS画像の原理

 NIRS画像は、近赤外光を用いて脳内のヘモグ ロビンの変化を多点で測定することで画像化する 方法である。CTのような断層像を得るものでは ない。基本的には、図1に示すようにヘモグロビ ンの酸素化状態によりヘモグロビンの吸光係数の 波長依存性が異なることを用いている。つまり、 異なった波長、たとえば640nmと830nmの近赤 外光を用いることにより、脳内の酸素化ヘモグロ ビン(oxy­Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxy­ Hb)、そしてその和である全ヘモグロビン(total­ Hb)量を連立方程式を解くことで求める装置であ る。この場合、散乱による影響を、“散乱係数が使 用した波長の範囲で変化しない”との仮定をおい て求めることが多い。散乱がない場合、通常の分 光装置では強度 I0で入射した光が生体を通過し、 検出強度Iで検出されたとき、Beer Lambertの法 則による式①により吸収係数μが求められる。  μL=−log(I/I0)………①  ここでいうLは実際に光が進んだ距離(光路長) である。しかし、この法則は希釈溶液でしか成り 立たないとされ、さらに脳の光機能計測の場合、

近赤外分光法(NIRS)信号の意味

灰田宗孝

東海大学医療技術短期大学 看護学科

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●特集2● 光脳機能イメージング は「マルチファイバアダプタシステム」とよび、 光トポグラフィの名称は使用していない。  浜松ホトニクスの製品は酸素モニタとして、日 立メディコ、島津の装置は機能検査オキシメータ として医療機械としての承認を得ている。3社の 手法を総称するには「光脳機能測定」やNIRSとい った名称が無難なようである。また上記3社とは 別に、ベンチャー企業が新しい方式を用いた低価 格の製品を開発したので、それも紹介する。

NIRSの特長

 NIRSを生体に応用する場合、光路長の測定の できる時間分解法や位相変調法による装置を用い れば、光路長を含めた絶対値を測定できる。その 場合は、脳血管障害の診断や手術などによる治療 結果の判定に応用可能と思われるが、それらの報 告はまだ少ない。一方、脳機能測定にNIRSを応 用する場合は、必ずしも絶対値が求まらなくても 脳のどの部位が活性化したかを測定することは可 生体は強い散乱体であるために、入射した光が生 体内で散乱し、実際に光が進んだ距離、つまり光 路長が特殊な工夫をしないと求まらない。そのた め、現在使われている装置はμLの積の形で提示 するものが多い。このことから、定量性がないと いわれ、単位にmol/Lをつけての表示はできず、 mol/L・cmといった光路長を含んだ表示をして いる。一般に吸収 μが大きくなると光路長Lは短 くなるので、積μLで表示すると変化量は少なく なり、コントラストが減少する。しかし現在の実 用機をみると、実用上は問題ない程度のコントラ ストは得られている。  表1に、現在光脳機能測定装置を提供している 代表的国内企業の製品を示す。光トポグラフィと いう名称は日立メディコが最初に提唱したことか ら、日立メディコの製品のみこの名称を用いてい る。日立メディコは他社がこの名称を使用するこ とを容認しているが、島津製作所は「近赤外イメ ー ジ ン グ 装 置 」、 あ る い は「fNIRS(functional Near Infrared Spectroscopy)」、浜松ホトニクス

図1 吸収係数と波長の関係 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 600 波長(nm) 700 800 900 1,000 1,100 脱酸素化ヘモグロビン 酸素化ヘモグロビン 吸収係数 表1 光脳機能測定装置を提供しているメーカおよび製品 製品名 メーカ 特長 マルチファイバアダプタシステム C9866 浜松ホトニクス 10 チャンネル 3 波長 ETG-4000 日立メディコ 最大 52 チャンネル ETG-7100 日立メディコ 最大 120 チャンネル OMN-3000 島津製作所 最大 120 チャンネル

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一般正常人を対照とした研究には向かないなどの 欠点がある。またfMRIやPET、SPECTは測定 時の体位に制約があり、自由な姿勢での測定はで きない。  一方、まだあまり普及はしていないが、NIRSに よる測定には以下に示すような大きな特長がある。 ①被験者の体の位置や向きに制約を課さない。 ②fMRIのような大きな音といった障害がない。 ③近赤外光というまったく生体に無害な光を使う ことなどから、安全性が高く、正常人や小児・乳 幼児にくり返し測定することが可能。 ④操作に臨床放射線技師、臨床検査技師といった 資格を必要としない。 ⑤比較的安価である。 ⑥操作しやすい。  欠点としては以下がある。 ①得られた結果の解釈がまだ完全には確立されて いない。 ②定量性がないとの批判がある。 ③空間分解能が低い。 ④脳内のヘモグロビン変化を検出しているので、 神経活動の早い変化を検出することができない。 ⑤老人や脳血管障害など、脳の動脈硬化がある対 象では結果の解釈に注意を要する。

NIRSによる脳機能測定

 通常、脳はある仕事を遂行すると代謝が亢進す 能である。今回の特集の目的はNIRSの実際的応 用に焦点を当てていることから、脳機能測定など に用いられている装置を中心に説明する。  現在、脳機能測定に用いられている方法を表2 に示す。脳機能測定の方法には大別すると脳の神 経活動そのものを測定する脳波(EEG:Electro encephalography)、脳磁図(MEG:Magneto en­ cephalography)と神経活動に伴う脳血流の変化を 測定する陽電子放出断層撮影法(PET:Positron emission tomography)、単一光子放出断層撮影法 (SPECT:Single photon emission tomography)、近 赤外光分光法(NIRS:Near infra­red light spectro­ meter)、 機能的核磁気共鳴断層法(f­MRI:Func­ tional Magnetic Resonance Imaging)とに大別さ れる。  神経活動を測定する方法は、直接的である利点 はあるが、信号強度が小さい欠点がある。さらに、 EEGは空間分解能が低いこと、MEGは非常に高 価であること、また操作がむずかしいことなどか ら、あまり普及していない。後者の神経活動に伴 う脳血流の測定による方法は、神経活動を直接測 定するのではなく、間接的ではあるが信号変化が 大きく検出しやすいことから、広く用いられてい る方法である。特にf­MRIは、その高い空間分解 能と臨床機器を流用することで測定できることな どから、脳機能研究では広く用いられている。  PETは高価であることと、SPECTは特殊な工 夫を要すること、放射性物質を取り扱うことから、 SPECT 脳血流 中 低い 中 EEG 神経活動 低い 高い 安価 MEG 神経活動 高い 高い 高価 NIRS 脳血流 低い 高い 安価 f-MRI 脳血流 高い 中 中

PET:Positron emission tomography、SPECT:Single photon emission tomography、 EEG:Electro encephalography(脳波)、MEG:Magneto encephalography(脳磁図)、 NIRS:Near infra-red light spectrometer(近赤外法)、f-MRI:Functional MRI

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●特集2● 光脳機能イメージング の理由を以下に述べる。  通常の測定で行われるように、頭皮に光源と検 出ファイバを3cm程度の間隔で設置して測定し た場合、光源のファイバから出た光は、頭皮(頭髪) →(筋肉)→頭蓋骨→髄液→脳→髄液→頭蓋骨→ (筋肉)→頭皮(頭髪)と種々の部位を散乱しなが ら通過してくる(図2)。特に頭皮や頭蓋骨板間に は血液が存在するので、得られた信号にはこれら の脳以外の血液の吸収も含まれている。そこで、 前述のタスク前とタスク中の信号の差をとること は、タスクによって変化した部分のみを抽出する こととなる。つまり、タスクにより変化するのは 通常の測定では脳のみであることから、脳以外の 部分の吸収の影響を除去できることとなる。もし このような差をとらないと、測定して得られた信 号は上述のすべての部位の信号を加味したものと なり、得られた信号の解釈がむずかしくなる。こ のことは、たとえ絶対値を測定できる装置を用い ても同様である。測定値に脳以外の組織のヘモグ ロビンの信号が混入している状況には変わりがな いからである。  差のとり方には、大きく分けて2つの方法があ り、それがブロックデザインと事象関連法(event related design)である(図3)。ブロックデザイン はタスクの平均値とコントロールの平均値をそれ ぞれ求め、両者の差を信号とする方法で、タスク をコントロールしやすい場合に用いる。たとえば 場合として単純計算をさせる、字を書かせる、被 験者に指示をしたり音を聞かせたりするもので、 る。たとえば代謝が10%亢進したとき、脳血流 はそれに伴い40%位増加するといわれている。 脳血流を測定して脳機能を測定する方法は、すべ てこの大きな脳血流の増加を利用して測定しよう とするもので、NIRSによる脳機能測定も、その 原理に基づいている(神経活動と脳血流との関係 はここでは誌面の関係から省略する)。脳血流を 用いた脳機能測定は、脳血流の増加する範囲が脳 の神経活動の亢進した部位より広いという特徴が あり、結果として得られた活性部位は広くなる。 このことと光計測装置の低い空間分解能とを合わ せると、光で計測した脳活動部位はかなり広いも のとなる。したがってピンポイントの活動部位の 議論には適さない。

光脳計測での注意事項

 光を用いた装置では光路長の測定をしていない 装置が多く、ヘモグロビンの絶対値が求まらない ことはすでに述べた。しかし、このような欠点を 有する近赤外光法でも、絶対値を必用としない応 用法を考えれば、十分に使用に耐え得る。それが 脳機能測定への応用である。実際には以下の工夫 のもとに脳機能測定を行うのが通常である。たと えば、あるタスクをかける前の状態を記録してお き、タスクをかけたときの値から引き算すること で、変化しない部分の情報を除外するようにする。 このような処理は、近赤外光法により脳機能を測 定する場合には常に留意しておく必要があり、そ 図2 光脳計測方法 (日立メディコ ホームページより)

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より脳に引き起こされた変化のみを抽出すること が可能であり、また必ず行わなければならない操 作でもある。光脳機能測定において得られた信号 の意味づけに関しては拙著を参照してほしい5) 結果のみを概説すると、NIRSによって得られた 信号は以下の特徴を有するといえる。 ①主として毛細血管内のヘモグロビンの情報であ り、太い動静脈内のヘモグロビンの情報は吸収が 強すぎて見えていない。 ②脳血流の増加は血管床の増加、もしくは毛細血 管レベルでの血流速度の増加によりなされる。 ③total­Hbの増加は血管床の増加のみを反映し、 血流速度の変化には関係しない。 ④oxy­Hbの増加は血管床の増加と速度の増加を 反映する。 ⑤deoxy­Hbの低下は血流速度の増加を反映する。 などが挙げられる。  以上、NIRS発展の歴史と光脳機能測定の原理 について概説した。参考になれば幸いである。 ある一定時間タスクをかけ続けることが可能な場 合に適する。この方法はデータ処理をしやすい利 点があり、よく用いられる。しかし被験者による 予測がみられ、タスク開始のタイミングより早く 脳からの信号が現れることがある。タスク開始と 脳の反応とのタイミングを検討するには向かない が、脳のどの部分が活性化したかという、活性化 部位の局在を調べる場合には問題がない。  一方、ある図形が出たらボタンを押す、または ある音が聞こえたらボタンを押すなど、いつ必要 な事象が現れるか被験者にわからない状態での測 定を行うようなタスクには、event related design が適している。この場合は、事象よりも前の数秒 から数十秒の平均値をコントロールとし、事象の 後に現れる信号から差し引く。データ処理は多少 煩雑となるが、かなり高度なタスクをかけること ができ、脳の高次機能の測定に向く。  いずれにしても、このように必要とする信号と コントロールとの差をとることにより、タスクに  参 考 文 献 1) 尾崎幸洋(編): 近赤外分光法. 学会出版センター, 東京, 1996 2) 尾崎幸洋ほか: 分光研究 53(1): 43, 2004

3) Shinohara Y et al: Hemoglobin oxygen­saturation image of rat brain using near infrared light. J Cereb Blood Flow and Metabolism 11(supple 2): S459, 1991

4) 日立メディコ: http://www. hitachi.co.jp/products/ot/about/ history. html 5) 灰田宗孝: 脳機能計測における光トポグラフィ信号の 意味. Medix 36: 17­21, 2002 6) 灰田宗孝: NIRS(信号変化の原理と臨床応用). 脳循環代 謝 17(1): 1­10, 2005

参照

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