DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.12
112 基礎心理学研究 第34巻 第1号
日本基礎心理学会 33回大会 特別企画講演
言葉を学ぶ脳
―分子と社会をつなぐ架け橋―
Brain that learns language:
A bridge between molecule and society
日 時: 2014年12月6日(土)13 : 00∼14 : 20 会 場: 首都大学東京南大沢キャンパス6号館110教室 講 演 者: 萩原裕子(首都大学東京人文科学研究科言語科学教室) 企画・司会: 石原正規(首都大学東京心理学教室) 企 画 趣 旨 2014 年 12 月 6 日,日本基礎心理学会第33 回大会にお ける特別企画として首都大学東京人文科学研究科言語科 学教室の萩原裕子氏にご講演頂いた。萩原氏との出会い は遡ること十数年,確か 2002年の夏であった。当時, 東京都立大学英文学教室に所属しておられた萩原氏は言 語理論に基づいた脳内言語処理機構の解明に向け,多 チャンネル脳波による検討を進めており,実験室に当時 としてはまだ珍しい128チャンネル脳波計が導入された のが想い出される。この実験的研究には,英文学教室の スタッフをはじめ,他専攻の研究者も参加し,言語学か ら脳科学へのアプローチが展開され,その研究成果に期 待が集まった。「脳とことばの関係」は古くて新しい研 究テーマである。特にノーム・チョムスキーによる「生 成文法理論」の登場は,言語機能・文法の定義といった 現代理論言語学の基礎を築き,それが取り扱うテーマの 潜在的な発展性は当該領域における研究を認知科学や脳 科学へと近づけたといえる(萩原,1998)。 言語機能に関する研究は近年,例えば生物言語学,ゲ ノム科学といった関連分野を巻き込みながら目覚ましい 発展を遂げている。言語の脳内メカニズム理解に向けた 研究は,ヒト言語の生物学的基盤を明らかにするのみな らず,母語の獲得,外国語習得・学習のプロセスの理解 にも役立つものと期待されている。例えば外国語習得に おける脳機能と年齢の関係について「何歳までに学べば よいか?」といった素朴な疑問を耳にすることがある。 このような臨界期に関する話題に関連して「蝸牛の神経 が加齢で衰え,ある年齢を超えると特定の音の周波数を 聞きとれなくなる」可能性が挙げられることがあるが, 外国語の習得と音の聴取の関係はあくまでも推測にすぎ ないという。これについて萩原氏は,大人になってから 学ぶメリット(例えば大人の高い認知能力による効率的 な学習)を挙げており,脳の発達という観点から,事象 関連脳電位や近赤外分光法などを用いて,子どもから大 人までを縦断的に扱った研究を進めている。 2014年9月,首都大学東京に「言語の脳遺伝学研究セ ンター」が設立され,萩原氏はセンター長に就任され た。このたび日本基礎心理学会33回大会において一般 公開された本講演は,言語習得プロセスの神経基盤に関 する最近の研究動向,脳機能計測に基づいた子どもの言 語習得に関する大規模コホート調査の成果をご紹介頂く とともに,今後,ゲノム科学が言語習得と脳の発達にど のような影響を及ぼすのかなど,言語・脳・遺伝子の統 合的研究についてもご紹介頂くことを企画の趣旨とし た。 参考文献 萩原裕子(1998).脳にいどむ言語学 岩波書店. (Hagiwara, H.) (首都大学東京心理学教室 石原正規)
The Japanese Journal of Psychonomic Science 2015, Vol. 34, No. 1, 112