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日本感性工学会論文誌

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(1)

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1.

研究の背景と目的 大きな駅や商業施設,街などの大規模な空間において, 案内地図や看板を読み取り,目的地を探し,ルートを探して 移動するという行動はごく一般的である.しかし,地図を読 むことが苦手な人,方向感覚が悪い人,道に迷いやすい人な どにとっては,不慣れな場所で案内地図を頼りに移動するこ とは,しばしば困難である. 道に迷いやすい人は地理的な空間認知方法として目的地ま で目印をつないでいくルートマップを形成しやすく,目的地 周辺全体を現すサーヴェイマップは形成しにくい[

1

2

]. また,「方向音痴」を自覚している人は,実際に道に迷った 経験が多く,その要素として方向定位,経路移動,方位理解 と地図の利用の苦手さには高い相関がある[

3

]. 迷いやすい場所としては,駅や広い建物,商店街などが 多いという[

4

].これらの大規模で複雑な構造の空間におい て利用者に提供される地図や案内図のほとんどはサーヴェイ マップであることから,道に迷いやすい人には移動が困難に なることが予測されるが,同時に新垣らは道に迷いやすい人 でも適切な情報があれば目的地に移動できるとしている[

5

]. これまで,道案内図や道案内情報の要素と分かりやすさ については,案内図の位置や方向[

6

],ランドマークの地図 上配置による効果[

7

],地図情報や環境情報だけでなく, 他者からもらう情報も含めたナビゲーションへの影響[

8

] などの研究があるが,どのような地図表現がわかりやすい のかという点に関しては十分な研究がないことが指摘され ている[

9

]. 浮田らは地図のデザイン表現について「正確さ」が地図の 「信頼性」につながり,「美しさ」と共に重要な点であると 述べ,点記号・面記号の表現手法について解説している[

10

] が,実際に利用されている案内地図にはより多様なデザイン 要素・表現が存在する. 本研究の目的は,同じ場所の地図情報であっても具体的 なデザイン要素と表現方法の違いによって,地図を利用し た移動が容易になったり困難になったりするのではないか という仮説に基づき,道に迷いやすい人を中心に,地図の 利用者ができるだけ円滑に大規模空間を移動できるような 平面地図のデザイン・表現方法について考察することで ある. 本研究では,道に迷いやすいと自覚する幅広い年齢層の人 を主な対象として,既存の様々な表現の工夫を凝らした多種 類の地図を用いて実空間の移動実験を行い,どのような場面 で地図のどの情報を読み取り,移動しているのか,現場で 行動観察を行い,(

1

)デザインの違いによって移動の容易さ が変化するのか,(

2

)道に迷いやすい人でも分かりやすい 地図のデザイン要素や特徴があるのか,の

2

点を地図表現と デザインの視点から考察する. Received: 2017.01.13 / Accepted: 2017.04.05

原 著 論 文

大規模空間における案内地図のデザインとわかりやすさに関する研究

̶ 道に迷いやすい人に使いやすい既存の地図のデザイン要素分析 ̶

池田 千登勢

東洋大学

Research on Map Designs and Accessibility in Large Spaces

– Analysis of Design Elements of Existing Maps which is

Easy to Navigate for Direction-challenged Users –

Chitose IKEDA

Toyo University, 48-1 Oka, Asaka-shi, Saitama 351-8510, Japan

Abstract : The purpose of this study is to find effective design elements to make maps easy to use for people with poor directional ability. We conducted comparative experiments using 12 types of existing maps. 58 subjects tried to find their ways using several maps in large spaces such as shopping malls and stations with rather complex structures. After observing their behaviors, we conducted interviews to clarify supportive design elements of maps to find ways. As a result, we found some effective design elements such as vivid color tones, the right angle of bird’s-eye-view, the right degree of deformation of illustrations, readable design from upside down position when maps are rotated, for example. We also found two important requirements of map design; (1) landmarks on maps should be easily collated with real landmarks, (2) relations between different stories of the building should be clearly described.

(2)

2.

調 査 方 法

2.1

 仮説の設定 移動実験を計画するにあたり,まず,道に迷いやすく, 地図の読み取りが苦手だと自己認識している人

5

人(

A

グルー プ),地図の読み取りが得意で道に迷いにくいと認識してい る人

5

人(

B

グループ),いずれも

30

代∼

60

代の男女に個別 のプレインタビューを行い,地図の利用状況,移動の様子, どのような地図が分かりやすいかを調査した.その結果, 道に迷いやすい人は全員が「移動時は地図を手に持ち道が 正 し い か 確 認 す る た め に 頻 繁 に 見 る 」 と 答 え て い る. 一方,道に迷いにくい人は全員が「事前に調べて位置を覚 えたら地図は不要」「地図を持っていても見ないで移動する 時間が長い」と答えている.また,道に迷いやすい人が 苦手な地図としてあげたのがインターネットで提供される 平面的な地図(例:図

1

)であり,わかりやすい地図はイラ スト入りの絵地図(例:図

2

)や立体的にリアルに表現され ている地図,出発地から目的地までの道順と目印が書いて ある地図(ルートマップ),文章で順を追って目印と曲がる 方向を説明した道案内(文章によるルートマップ)である. 一方,道に迷いにくい人は,どんな地図でも理解できる自信 を示していたが,「正確な平面地図」(北が上で距離や建物の 形,位置関係などが正確に表現されている真上から見た地図) であり,インターネットで提供される平面的な地図,一般的な 道路地図等が使いやすいという意見であった. 道に迷いやすい人が図

1

のような一般的な平面地図を利用 することが難しい理由については,主に「自分がどこにいる のか現在地が探せない」,「地図の向きを正しく合わせられな い」,「実際の場所と地図を一致させられない」という

3

つの 理由が挙げられた.このことは,日垣も指摘している[

11

]. この原因は,「実際の場所で見えている風景」と,「地図上 のグラフィック表現」がかけはなれていることから,目印と なる建物などをうまく見つけられないことが原因ではないか と推察した.迷いやすい人は全員が「進行方向が上の地図」, 「現在地が書いてある看板地図」が分かりやすいと感じている. 以上の結果から,リアルな表現要素を含む地図は実際の 場所と地図を照合しやすく,道に迷いやすい人の理解を助け る効果があるのではないかと考えた.そこでこれらの要素を 含む既存の地図と,含まない地図を利用して実際に移動実験 を行い,被験者にとってわかりやすい地図のデザインとその 理由を調査した.表現要素としては,実際に地図に利用され ることがある以下の

5

つの要素に着目した.

a

)リアルな表現のイラスト地図

b

)目印(ランドマーク)の写真が使われた地図

c

)目印をピクトグラム・目立つ色・絵等で表示した地図

d

)俯瞰して立体的に描かれた地図

e

)見ている方向が上に固定されている地図

2.2

 移動実験調査の概要 大規模空間では,パンフレット,

Web

上で公開されている地図, 携帯情報端末の地図など多種の場所案内情報が存在する. 本研究では,

1

:地図の各表現要素を比較しやすいこと,

2

:誰もが特別な機器や操作無しに利用できること,

3

:高齢者 でも使い慣れた形式であること,という

3

つの条件を考慮し, 各実験場所の主体が開発し,

1

:現地で無料配布される紙に 印刷された持ち歩ける地図,

2

:現地に設置された固定看板 地図の二種類に絞り,表現の分かりやすさを調査した. 調査は被験者の言動の観察と記録,実験後の個別インタ ビューによる聞き取りによって行った.地図上のどの情報を 取得し,移動を行ったか,移動が困難な場面についてはその 原因について確認し,それぞれの地図表現の問題点や利点な どについて被験者の発言内容を記録した.

2.3

 被験者の属性

18

歳∼

69

歳の健常の男女

30

人に実験に協力していただい た(表

1

).被験者の選定方法は

18

歳∼

22

歳の健常の学生

180

名と

30

歳∼

70

歳の健常の成人

30

名に竹内の方向感覚質 問紙簡易版

SDQ-s

12

]を行い,自己認識として「道に迷い やすい人」を

18

人選び,「道に迷いにくい人」「どちらとも 言えない人」を各

6

名選び,各実験に協力していただいた. 図1 道に迷いやすい人が苦手だとした地図の例 図2 道に迷いやすい人がわかりやすいとした地図の例

(3)

方向感覚に関する性差については,男性は道順を方角や距 離で説明し,女性はランドマークで説明する傾向があると いう報告があるが[

13

],空間認知能力には差がないとする 報告もある[

14

1: pp.58-84

].初期調査では性別に関わらず 道に迷いやすい人は絵地図を好み,道に迷いにくい人は距 離や方位が正確な地図を好むなどの共通の特徴が見出され たことから,本研究では性差は考慮せず「道に迷いやすい 人」として扱うことにした.また,本研究の実験は実空間 の移動であり,全被験者に完全に同じ環境条件を作ること はできないため,時間効率については計測や判定をせず, 地図のデザイン要素の比較に焦点を絞って調査した.高齢者 は地図と現地を照合するのに若年層より時間を要するという 報告もあるが[

15

],今回は考慮しない.ただし,視力の衰え による可読性の影響は予測し,道に迷いやすいグループでは 高齢者を三分の一選定した. 実験の際には文字を読む時に使用している眼鏡等を(必要 な人は遠近両方の眼鏡)を使用するものとし,当日現場で

10

ポイントの明朝体の文字が無理なく読めることを確認した.

2.4

 移動実験を行う大規模空間の選定 大規模で複雑な空間で,ランドマークがあり,複数の表現 方法の地図が無料で提供されている場所を実験サイトとして 選定した.地図の特徴は次の通りである(表

2

).実験に使用 した地図の一部を図

3

∼図

12

に示す[注][図註]. 実験サイトの選定方法は,プレインタビューで道に迷いや すい人から分かりにくい場所として示されたターミナル駅, デパート,住宅街,遊園地,大学のキャンパスなどの施設や 空間を実際に訪れ,現場の空間配置と提供されている地図の 種類を確認し,実際に地図を見ながら移動し特徴を確認して 選んだ.不規則な地理的配置の特徴を持ち,おおむね平面的 な構造の場所として「東京ディズニーシー」,不規則な配置 で多層構造の「六本木ヒルズ」,不規則な配置で地形に アップダウンのある「東京工業大学大岡山キャンパス」, 多層構造かつ規則性のある直角を基本にした配置の「東京駅 改札内」,多層構造かつ規則性のない「渋谷駅改札内外」の

5

箇所を実験サイトとした.移動実験をする際に交通などの 面で安全であることにも配慮した. 表1 被験者の構成 年齢(歳) 18∼33 41∼55 65∼69 計 道に迷いやすい 5 7 6 18 道に迷いにくい 4 0 2 6 どちらでもない 1 1 4 6 合計(人) 10 8 12 30 表2 実験に用いた地図の特徴と被験者数 被験者数 (道に迷い やすい人) 地図の種類 特徴的表現 調査日 東京ディズ ニーシー 10人(6人) ディフォルメ絵地図*高めの角度の俯瞰・現実よりも鮮や かな色彩・全体図 2006/12/4 リアル絵地図* 低めの角度の俯瞰・リアルな色彩と 描写・記号の色覚障害対応・全体図 2006/12/4 六本木ヒルズ 16人(8人) 施設設置看板(図3) 現在地表示・全体図,進行方向が上,エリア別色分け 2006/12/11 フロアガイド(図4) 詳細平面図,店までの距離表示,写真付きの配置図 2006/12/11 ユニバーサルマップ (図5) レベル別全体表示 エレベーター・車椅子経路表示, 空白エリアがある 2006/12/11 東工大大岡山 キャンパス 12人(7人) 白黒平面地図(図6) 建物記号参照式 モノクロ 2007/2/13 カラーイラストマッ プ(図7) 周辺環境を含め構内を手描きの カラーイラスト化 2007/2/13 東京駅構内 9人(6人) 構内設置看板(図8) 現在地表示・その階のみ表示進行方向が上になっている 2006/12/8 配布平面地図(図9) 店舗等の詳細情報・色分け階層ごとに地図がある 2006/12/8 JR斜視立体図(図10)多階層同時表示・引き出し線の多用,下階表示に工夫 2006/12/8 渋谷駅構内外 12人(8人) 構内設置看板(図11) 現在地表示・多階層同画面・階層移 動部を垂直線で表現 2006/12/15 JR斜視立体図(図12) 多階層同時表示・引き出し線の多用 2006/12/15 延べ 58人    (35人) 合計12種類   *地図画像の本稿への掲載が所有団体より不許可/他は許可を得て掲載している 図3 六本木ヒルズ設置看板 図4 六本木ヒルズフロアガイド

(4)

図5 六本木ヒルズユニバーサルマップ

図6 東工大白黒平面地図

図7 東工大カラーイラストマップ

図8 東京駅構内設置看板

(5)

2.5

 移動ルート設定 それぞれの実験サイトで著者および実験協力スタッフが事 前に予備調査を行い,各サイトで提供される地図表現の様々 な特徴的要素を検証できるよう配慮し移動ルートを設定した (例:表

3

).複数の被験者が同時に同じコースを辿ることが ないように実験を行った. 移動予備実験を行い,被験者に過度な負担をかけないた め,実験後のインタビューも含めて

2

時間以内で終了するよ うに計画し,移動にかかる時間がおおむね

1

時間∼

1

時間半 程度になり,複数の地図を同程度使用して移動するように,

6

箇所∼

8

箇所の通過ポイントを調整した. 複数の種類の地図は,ルートを分割して順番に異なる地図 を利用して移動してもらった.ルートのどの段階でどの地図 を利用するかは地図の数だけ順番のパターンを作り,被験者 全体としてできるだけ特定の地図への慣れの影響が出ないよ うにした.

2.6

 移動実験の記録 調査は各被験者に一人の観察者が付き同行しながら会話の 録音とメモによる記録を行った.①現在地点を地図上で確認, ②目的地を地図上で確認,③目的地へのルートを地図上で 決定,④地図と実際の風景を照合,⑤進む方向を定めて移動 図10 東京駅 JR配布斜視立体図 図11 渋谷駅 構内設置看板 図12 渋谷駅 JR配布斜視立体図 表3 実験サイトのコース事例(六本木ヒルズ) A 正順ルートA1逆順ルートA2 スタート 1 メトロハット 2F ママン前 看板地図 2 メトロハット B1F 総合インフォメーション 3 けやき坂通り 1F 総合インフォメーション UD地図 4 ヒルサイド B2F 親子休憩室 5 メトロハット 1F 多目的トイレ 一般地図 6 ウェストウォーク 4F 青山ブックセンター 7 ウェストウォーク 2F アジト ヒアリング 8 ノースタワー B1F 舟和 B 正順ルートB1逆順ルートB2 スタート 1 メトロハット 2F ママン前 一般地図 2 ヒルサイド 1F ミュージアムコーン 3 ウェストウォーク 2F アドーア 看板地図 4 けやき坂通り 1F 総合インフォ 5 ヒルサイド B2F アリーナカフェ UD地図 6 ウェストウォーク 2F 介護用シート設置トイレ 7 メトロハット 1F 多目的トイレ ヒアリング 8 ノースタワー B1F 舟和 C 正順ルートC1逆順ルートC2 スタート 1 メトロハット 2F ママン前 UD地図 2 ウェストウォーク 1F 都営渋谷駅行きバス 3 ヒルサイド B2F 親子休憩室 一般地図 4 けやき坂通り 1F けやき坂テラスATM 5 ウェストウォーク 2F プラステ 看板地図 6 ヒルサイド B2F アリーナカフェ 7 メトロハット 2F ママン ヒアリング 8 ノースタワー B1F 舟和

(6)

を開始,という手順で行動を促すが,地図の読み方や目印, 正しい方向等は教えずについていく.被験者が移動に迷っ たりルートを間違えたりした場合,地図のどこを見て判断 したか等被験者に現在の状況や考えていることを発話して もらった.

2.7

 実験後の個別インタビュー 利用した各地図の使いやすさの比較,良い点・悪い点を 自由に述べてもらう.また,移動に困難があった場面につい て,その理由や地図上の表現の問題点,誤解した点,不明確 だった点などを具体的に確認し,発言内容を記録した.

3.

調 査 結 果

12

種類の各地図について,実験後のインタビューの記録 から「地図のデザイン表現」に起因した「わかりやすい点」 と「わかりにくい点」を抽出し,被験者による主な発言を 表

4

にまとめた.それぞれのデザイン表現要素としてラベリ ングを行い,地図に求められるデザイン要素を以下の

18

項目 に分類した.表

4

( )内は「道に迷いやすい被験者」の数で ある. (

1

)見える現実風景と地図上の情報を照合できる (

2

)道が建物等と区別され通路がわかる (

3

)必要な情報は隠されない (

4

)上下の階層間の関係がわかる (

5

)地図を逆さにしてもわかる (

6

)アイコンの意味がわかる (

7

)目的地を検索しやすい (

8

)必要十分な情報量 (

9

)全体像が理解できる (

10

)情報が整理されている (

11

)アイコンが目立つ (

12

)色が見分けやすい (

13

)文字が読みやすい (

14

)色わけの意味がわかる (

15

)地図を記憶しやすい (

16

)心理的に好ましいイメージ (

17

)適切な大きさ (

18

)距離感がわかる 被験者の行動と発言より,(

1

)∼(

6

)に不備があると目的地 に移動できないことがあり,(

7

)∼(

15

)に不備があると移動 に迷い,戸惑うことが確認された.

3.1

 わかりにくい地図とその理由

JR

配布の斜視立体図(図

10

,図

12

)は移動実験に参加した 被験者

21

人全員が「 わかりにくい」と指摘した.この地図 が,多階層を

1

枚の図で表現しているせいで階層間のつな がりやどの階層を示しているか分からず混乱した,という 発言が全員から聞かれた.特に「

1

階の床に一部穴を開けて 地階の施設を見せる表現」,「階層間をつなぐ階段の表現」 が理解できず,色分けの意味も理解されず,異なる色の間 に壁があるのかないのかなども読み取れなかった.また, 「細い引き出し線を出して名称を文字で示す表現」は特に 高齢者が見にくさを指摘した(図

13

).また,「進む方向に 合わせて地図を回すと何も読み取れなくなる」という点は, 道に迷いやすい人だけでなく,迷いにくい

6

人からも指摘 された. 次に

16

名中

15

名がわかりにくいとした地図は六本木ヒル ズのユニバーサルマップ(図

5

)である.これは傾斜のある 土地を物理的なレベル別に表現し,車椅子での移動経路が探 せるように工夫されたデザインの地図であるが,レベルに よって図に現れる施設が異なるため,情報としては正確で も,隣にある施設が地図上では空白になっていたりする. このため,異なる階層間の照合が難しく,目的地に移動する 際に現在地を見失い,迷う現象が迷いやすい

8

人全員と迷い にくい

5

人に観察された(図

14

). 図13 東京駅斜視立体図の地階の表現 図14 レベル別UDマップ(森タワーが空白地帯)

(7)

六本木ヒルズのフロアガイドは

5

つのエリアが地図上で 色分けされ,サインや地図全体に共通の情報要素となっている. しかしエリア分けの意味がわからず,現場には境界もないた め,自分がどこのエリアにいるのかわからない様子が迷いや すい

8

人に観察された.各店舗の番号は通し番号ではなく, 起点からの距離を示すという工夫がされているが(図

3

,図

4

),

16

人全員意味が解らずむしろ混乱した.また,全体図について は「どこが通路でどこが施設内なのかがわかりにくい」という 指摘が迷いにくい

6

人を含む

14

人から聞かれた.同様の指摘 は東京駅の斜視立体図・ディズニーのリアル絵地図について も,年齢や迷いやすさに関わらず参加者全員から指摘された. 理由としては,道を示す部分の色が場所によって何色も使わ れていたり,同じような明度・色相の色が道と施設に使われて 入り組んでいたりすることなどが事後のインタビューで指摘 された.この他,わかりにくいという指摘があった点は, 似ているアイコン(多目的トイレと親子休憩所など),地図上と 表4 実験後のインタビュー結果 各地図に対する具体的評価コメントとデザイン表現要素分類 実験サイト 地図の種類 実験後評価  デザイン表現の良い点 1∼17の番号は評価されたデザイン要素 実験後評価  デザイン表現の悪い点 1∼17の番号は不備があったデザイン要素 B:道に迷いやすい人 G:道に迷いにくい人 N:どちらとも言えない人 東京ディズ ニーシー  10人 (6人)* *( )は迷い やすい人 ディフォルメ 絵地図 数字の色で施設のカテゴリーがわかる(B)14 ぱっと見やすい色彩になっている(B)12 楽しい雰囲気(B)16 文字が小さい(B)13 茶と緑の色の判別が難しい(B)12 店の入口がわからない場所がある(B)8 地図はカタカナで店の看板は英語で混乱(B)110 番号ではなく直接場所名を書いて欲しい(B)7 山の中など,どこが通れるのかわからない(B)2 リアル絵地図 場所の位置関係がよくわかる(B)9 大人っぽい素敵な色彩(B)16 エリア別なので名前から探すのが大変(G)7 アイコンが目立たずトイレが見つけにくい(G)11 建物で道が隠れてしまい,混乱する(B)3 色が淡くてランドマークを見つけにくい(B)12 地図を回し逆さになると読み取れない(B)5 イラストが壁なのか門なのかわからず間違えて無駄足を踏んだ(B)2 六本木ヒルズ 16人 (8人) 設置看板 現在地と向きが自動的にわかる(B)1 大きくて見やすい(G)1317 情報が少なくて見やすい(B)8 一部しか表示されず,遠くのエリアに行かれない(B)8 店名など詳細情報がわからず現在地が不明(B)1 アイコンと実物のイメージが一致しない(B)61 看板は持ち歩けず経路を覚えられな(B)15 フロアガイド 色分けでエリアがわかり易い(G)14 場所のリストの分け方がわかり易い(G)10 50音順検索ができてよい(GB)7 アイコンの色分けが目立ってわかりやすい(G)12 店の名前がわかるので位置が確認できる(B)1 色分けの意味が伝わらない(B)14 全体図の建物の位置関係がわかりにくい(B)9 現在地がわかりにくい(G)1 エスカレーターのつながりがわかりにくい(G)4 数字の意味は聞かれてもわからないので無意味(BGN)610 定点からの距離を店番号にすると知ったが距離感覚はわからないし検索しにくい(BNG)718 ユニバーサル マップ UDトイレの詳細情報がわかる(B)8 全体の構造がわかりやすい(G)9 階層の繋がりが実際の場所でわからない(B)4 白の部分が意味不明で迷う(B)914 店名がないので現在地が把握できない(BGN)1 エリアの区別がないのでわかりにくい(BG)10 どのレベルを見たら良いかわからない(NG)9 道路と建物が同じ表現で屋外がわからない(B)2 休憩所などのアイコンが似ているものが多く区別がつきにくい(G)6 一見分かりやすそうだが歩いてみるとわかりにくく何ページにも渡って見なければならない(B)49 東工大大岡山 キャンパス  12人 (7人) 白黒平面地図 サイズが使いやすい(G)17 建物名が一覧になっていて探しやすい(GN)7 建物の位置関係が把握しやすい(GN)9 地区を分けてあるのでわかり易い(N)10 全体像がわかった(B)9 色がないので全体のイメージがつかみにくい(G)19 建物の入口がわからない(GN)8 植え込みや芝生がどこなのかわからない(N)2 建物のリストが多くて探すのが大変(BN)7 距離感がつかめない(B)18 歩いていて目印がなくわかりづらい(B)1 紛らわしい建物番号記号を勘違いした(B)7 高低差がわからないので混乱する(B)4 ランドマーク的な場所が書いていないのでわかりにくい(G)8 カラー イラストマッ プ イラストがたくさんあり楽しい(GN)16 景色をイメージしながら移動できる(G)1 全体像をすぐに把握できる(G)9 楽しくて行動したい気持ちになる(G)16 絵でわかるので実際の風景と照合しやすい(BG)1 地図に慣れると楽しみながら歩ける(N)16 植物や建物の様子がわかり易い(N)1 立体的な絵は目印になった(B)1 大きすぎて持ちにくい(G)17 高低差が感じられない(B)4 余計な情報があって必要な建物を探しにくい(G)8 建物の入口表示がなくてわかりにくい(N)8 イラストに惑わされて間違えることがある(G)10 ルートを示す点線が邪魔(N)3 立体的な建物の絵の裏に隠れてしまう道路がある(G)3 建物の区別がつきにくい.屋根の色分けなど提案(N)2 白黒地図に比べて最初は見にくいと感じた(N)10 細い道が省略されていると良くない(B)38 引き出し線の方向がいい加減だと混乱する(B)10 イラストのイメージが強いので実物と違うと不安になる(G)110 東京駅構内 9人 (6人) 構内設置看板 現在地がわかりやすい(BG)1 行くべき方向がすぐにわかる(BG)1 シンプルでわかりやすい(B)810 簡略化され縦横に整列されていて良い(G)10 他の階層に行くときには情報がない(B)4 お店など詳しい情報がない(B)8 行きたい場所が書いていない(B)8 色分けの意味がわかりにくい,特に通路(BG)214 改札口がわかりにくい(G)1 色の凡例が小さくて気づかない(G)1014 駅配布平面地 図 直接その場所に書いてあるのでわかりやすい(B)1 お店の名前があるので現在地を確認しやすい(B)1 見慣れた一般的な地図だから使いやすい(B) 色分けがわかりやすい(B)14 通路幅で中央通路がわかる(B)1 頭に残り,覚えやすい(B)15 さっぱりしているが知りたい情報は十分(B)8 どこに行って何をしようかと考える楽しみがある(N)16 地図上に自分の現在地と向きが合わせられない(B)1 文字が細かい,情報多くてアイコンが目立たない(B)1113 階段の先が他の階層でどこに繋がるのかわからない(B)4 地下と地上の関係がわからない(BG)4 アイコンが目立たない(B)11 全体の構造がわからない(G)9 フロアの階層構造がわからない(G)4 ごちゃごちゃしている(N)10 JR配布 斜視立体図 アイコンが目立つ(B)11 いいところがない(BGN) 文字と引き出し線の書き方が見にくい(B)10 他の階との関係,上下の関係がわからない(B)4 ホーム付近の階層がわかりにくい(B)24 看板情報と照合しにくい(B)1 どこが通路かわかりにくい(B)2 色分けの意味がわからない(G)14 意味不明なアイコンがある(オレンジ色)(G)14 ごちゃごちゃしていて美しくない(G)10 地図を回して逆さまにすると意味不明になる(BG)5 ごちゃごちゃしていてわかりにくい(G)10 渋谷駅構内外 12人 (7人) 構内設置看板 階層の全体像がわかり易い(B)49 情報が絞られていて余計な情報が無くて良い(B)8 現在地がわかりやすい(B)1 階層を移動するときの最短距離がわかる(B)418 いいところがない(N) 文字が大きい(B)13 すっきりしている(B)10 多層階を繋ぐ線の意味がわかりにくい(B)4 周辺情報が省略されていてわかりにくい(B)8 階段の繋がり方がイメージできない(BG)4 上下移動が全て垂直線なので階段なのかEVなのか不明(B)4 実際の現場と地図のイメージや距離感が違って混乱(B)118 色分けの意味がわからない(GN)14 垂直線の意味がなかなかわからなかった(G)4 現在地はわかるが,向きがわからない(G)1 JR配布 斜視立体図 アイコンが大きく見やすい(B)11 場所とアイコンが近くにあり見つけやすい(B)11 上下の関係がひと目で見られる(B)4 いいところがない(BGN) 無駄なことが書いていない(B)8 構内とデパートが緑で境界がわからない(B)14 デパートの入口が全くわからない(B)8 どこのフロアなのかわからない(B)2 現場とのギャップがありすぎて混乱(B)1 色と地図の関係がわからない(B)14 全体のつながりがわからない(B)9 引き出し線が見えなくなっている(B)3 道幅など基準がない(B)210 煩雑でわかりにくい(B)10 多層がかぶさって見えない場所がある(B)3 アイコンがごちゃごちゃして見にくい(G)11 どこが歩けるのか通路がわからない(N)2 自分がどの階層にいるのかわからなくなる(N)4 色の境界線がなんなのかわからない(N)14 ホームがちぎれている表現はわからない(N)43 周囲の情報がないのでわかりにくい(B)8 上下の関係が見えるが,実際には全然わからない(B)4

(8)

現場の言語が違うもの(地図ではカタカナ,現場は英語など), 地図上のアイコンと現場のピクトグラムが異なる(ディズニーシー のトイレや救護室等),何なのか意味がわからないアイコン (

JR

平面図の銀の鈴)意味のわからない色分け(

JR

斜視立体図,

JR

看板),似た色同士の色分け(

JR

平面図)などである. 一方,よりリアルな色彩で目線に近い低い俯瞰図で描かれ たリアル絵地図は,道が隠れて見えず,道と壁などの色彩も 似通っているためルートの設定が困難だったと全員から指摘 された.また,歩くときに進行方向が上になるようにあわせ て地図を回す人は,俯瞰と逆方向から歩く時に立体的にリア ルに表現されたランドマークを判別しにくくなり,何度も 地図をひっくり返して確かめるという状況が観察された.

3.2

 わかりやすい地図とその理由 東工大のイラストマップ(図

7

)は,街路樹など建物以外の ものも含め,様々なランドマークが分かりやすくイラストで 表現されていて,現場のランドマークと照らし合わせること が容易であると

10

人から指摘された.特に白黒平面図(図

6

) では現在地を見つけて地図の向きを現場に合わせることがな かなかできなかった道に迷いやすい

4

人が,イラストマップ を使うと迷わず移動することができた.「地図のイラストの リアルさがちょうどよい」との指摘もあった. ディズニーシーの絵地図

2

種類では,基本的に同じ情報が 描かれているにもかかわらず,

10

人全員が鮮やかな色彩の ディフォルメ絵地図の方が理解しやすいと指摘した.ランド マークがシンプルにディフォルメされくっきり見やすく表現され ており,角度が高めの俯瞰図であることから,建物等で隠れる 道路が少ないこと,絵地図上の色分けが鮮やかでエリア別の 目的地リストから検索しやすかったこと,進行方向に合わせ て地図を逆さまにしても判別できることなどが指摘された. 東京駅の看板地図(図

8

)はシンプルなデザインで現在地 がはっきり示されており,常に向きが進行方向を正面にして 設置されている.同じ階層の中で目的地を探す限りでは分か りやすく,平面地図(図

9

)・斜視立体図(図

10

)のどちらで もほとんど目的地に移動できなかった被験者が

1

人いたが, 看板地図を用いた際には正しい移動が可能だった.

3.3

 写真や特徴的なピクトグラムが使われた地図 今回,写真やランドマークを示す目立つピクトグラムは道 に迷いやすい人が現在地と地図を照合する行為を助けるので はないかと予想していた.六本木ヒルズのフロアガイド(図

4

) の全体配置図では中心部の代表的な

6

つのビルの写真が地図 の周囲にあり,現場の様子と照らし合わせることができる デザインである(図

16

).また,エリア全体の中で目立つ

9

つのビルについては,下から見上げた形の立体的な表現の ピクトグラムとしても表現されている(図

16

,図

17

). しかし,今回の移動実験では写真を見てビルと照らし合わ せた人は道の迷いやすさに関わらず皆無であった.そこで 実験後に改めて現場でビルと写真を対応させてもらったが, 写真のビルは小さくてスケールがわかりにくく,見える角度 も異なるため,ぱっと見ただけでは写真が現場の建物と同じ だとは思えない,と

16

人全員から指摘された.また,建物の ピクトグラムについてもデザイン的にディフォルメされすぎ ていて色彩もなく(図

17

),現実に目の前にあるビルと同じも のとして移動の参考にしている人も皆無であった.事後イン タビューでも全員がこのアイコンはシンボルとして理解を助 けるものではないと指摘した.一方,東工大のイラストマップ に示されている「百年記念館」(図

18

)や「講堂」(図

15

)等の 建物を表すイラストは全員が実物と容易に照合できていた. 図15 イラストが現場と照合しやすい 図16 六本木ヒルズ 建物の写真とピクトグラム 図17 記号的アイコン 図18 実物に近いイラスト

(9)

3.4

 多階層をつなぐ表現 地図を読む際に,特に道に迷いやすい人では例外なく他の 階層とのつながり部分がなかなか理解できない様子が観察さ れた(東京駅,渋谷駅,六本木ヒルズ).また,道に迷いに くい人でも階層間の移動をする際には方向を誤ったり目的地 を見失ったりする様子が観察された. 今回使用した地図では,多階層をつなぐ表現には多くの デザイン的な工夫が見られる.渋谷駅構内看板(図

11

)・ 六本木ヒルズノースタワーの施設内看板(図

3

)・六本木ヒル ズユニバーサルマップの全体構造図(図

5

)などは,ある レベルを斜めから見た平面やパース平面で表し,同様に表現 した他の階層を何枚か垂直方向に重ね,上下を移動するポイ ント(階段など)を垂直な線でつないだ表現を用いている. 予備実験ではこれらの表現は効果的だと予想していたが, これらの表現が階層間の移動の際に分かりやすいという意見 はなく,迷いにくいグループの人でも,上下移動部分をつな ぐ垂直線の意味とつながりが分かりにくいという指摘があ り,中には「真上から見たわかりやすい平面地図が階層別に 独立してあり,どこがどこの真上なのかが全体としてわかれ ば,線でつなぐ必要はない」という意見もあった. また,

JR

斜視立体図では床を一部切り取って階段が見える ような表現にしているが(図

10

),切り取られた床の存在が不 自然であるし,階段を降りた(昇った)結果,どこに行き着くの かがわからないとの指摘があり,被験者全員が分かりにくい と指摘した.しかし,同じ形式の斜視図でも,渋谷駅(図

12

) は東京駅よりは目的地が見つけやすい様子が観察された. この地図は,多層階の表現方法は同じだが,記入されている 情報量が渋谷駅の方が少なく,

1

枚の地図に表現される階層 も少ない(東京駅

8

階層,渋谷駅

3

階層). 高齢者全員が東京駅の斜視立体図の文字が読みにくいと指 摘したが,他の年齢層の被験者からも同様の指摘を受けた. 本研究の実験からはその他の年齢層と比較して特に異なる 行動やニーズは観察されなかった.

4.

まとめと考察 本研究の目的である(

1

)地図のデザイン要素の違いによっ て移動の容易さが変化するのか,(

2

)道に迷いやすい人でも 分かりやすい地図のデザイン要素や特徴があるのか,の

2

点 について結論をまとめる. (

1

)については,異なるデザイン表現の地図を利用して 移動する実験を通し,道に迷いやすい人も迷いにくい人も, 地図のデザインによって目的地への移動のしやすさは変化 し,デザインによっては移動が困難になることが確認でき た.道に迷いやすく地図を読むのが苦手な人でも,デザイン 表現によっては理解しやく,目的地への移動が円滑になるこ とも確認できた. (

2

)については,実験後のインタビューで被験者から地図 のデザイン表現要素について述べられたコメントからも確認 できる通り(表

5

),道に迷いやすい人には特に「見える現実 の風景と地図上の情報を照合できること」,「上下の階層間の 関係がわかること」が重視されていることがわかった. しかし,具体的なデザイン表現については,同じ表現手法 でも色調や俯瞰角度,リアルさの度合い,表記される情報の 煩雑さなどによって分かりやすさに大きな差が出た. ランドマーク:目印を示すアイコン,写真,イラスト等は, 使い方や表現内容によっては現実の風景と地図情報を照合す る効果がなく,イラストによる表現もリアル過ぎたり,イメー ジ重視でコントラストの低い色彩であったりするとむしろわ かりにくくなる.形状も色彩も適度にディフォルメされた イラストの方が容易に理解されることがわかった. 俯瞰図:「俯瞰した立体図は現実の風景に近いのでわかり やすい」と予想していたが,実際には単に立体的に表現すれ ばよいのではなく,認識しやすい表現にするには,道が構造 物で隠れない俯瞰角度であるか,かえって煩雑にならない か,ランドマークが実物と一致しやすい表現になっているか, 逆さまにしても読めるか,色彩のコントラスト(道と建物な ど)は適切かなど,注意しなければならない点が多い. 階層構造:現状の地図で最も不満が多かったのが上下の 階層構造を理解しにくいことであった.特に迷いやすい人で は階層間を移動する際に目的地を見失いやすい.この理由は 階を移動する際に階段やエスカレーターを利用した場合, 別の階に着いた時点で位置や向きが変わっているという変化 が把握できないからではないかと推察する.多階層の表現に ついては問題が多く,今回使用した地図ではわかりやすいと 指摘された表現方法はなかった.各階層のつながり(階段や エレベーター,エスカレーターなど)をどのように表現する かは重要な課題であり,新しい表現を試みる必要があると 考える. 表5 地図のデザイン表現要素に関するコメントの回数 デザイン要素 道に迷いやすい人 ふつう 道に迷いにくい人 評価 不満 小計 評価 不満 小計 評価 不満 小計 合計 (1)見える現実風景と地図上の 情報を照合できる 10 9 19 2 1 3 1 6 7 29 (2)道が建物等と区別され 通路がわかる   8 8   3 3 3 1 4 15 (3)必要な情報は隠されない   3 3   2 2 2 1 3 8 (4)上下の階層間の関係がわかる 3 13 16   1 1 1 5 6 23 (5)地図を逆さにしてもわかる   2 2     0   1 1 3 (6)アイコンの意味がわかる   2 2     0   2 2 4 (7)目的地を検索しやすい 2 3 5   1 1 1 1 2 8 (8)必要十分な情報量 7 8 15   2 2 2 3 5 22 (9)全体像が理解できる 4 4 8   1 1 1 3 4 13 (10)情報が整理されている 2 7 9 1 2 3 2 7 9 21 (11)アイコンが目立つ 3 2 5     0   2 2 7 (12)色が見分けやすい 1 2 3     0     0 3 (13)文字が読みやすい 1 2 3     0     0 3 (14)色わけの意味がわかる 2 5 7   2 2 2 4 6 15 (15)地図を記憶しやすい 1 1 2 2   2     0 4 (16)心理的に好ましいイメージ 4   4 1   1 1   1 6 (17)適切な大きさ      0     0   1 1 1 (18)距離感がわかる 1 2 3     0     0 3

(10)

看板地図:進行方向が上になっていれば,現在地の確認が 容易で地図の方向をあわせる必要がないなど,方向感覚の悪 い人,地図を読むのが苦手な人には利点が多いことがわかっ た.ただし,周辺のことしかわからない,持ち歩けないので 移動しているうちに忘れる,次に迷った場所に看板地図が設 置されているとは限らない,などの現状から,看板地図のみ で移動するのは難しいが,看板の数が十分あり,現地のサイ ン表示とも連動している場所(東京駅)では効果が高かった. 限定したエリア内での移動であれば看板地図は迷いやすい人 にとっては非常に有効な地図となり得る. 回転時の可読性:道に迷いやすい人はもちろん,迷いにく い人でも地図を回して現実に見ている風景とできるだけ一致 させた方が効率的に移動できるという報告がある[

14

2: pp.105-110

].本研究においても,迷いにくい人が移動時に 地図を回している様子が観察された.イラストや俯瞰図の手 法を用いる場合であっても,できる限り逆さにしてもランド マークが読み取れるデザイン表現が望ましい.

5.

今 後 の 課 題 ランドマークが目立つ表現になっていると地図を理解しや すいこと,イラスト表現が地図の理解に効果を発揮すること などは今回の実験からも示唆されたが,デザイン表現にはい くつもの要素がからんでおり,たとえば「ディフォルメの程度」 という概念ひとつを考えてみても非常にあいまいである. 今後はデザインのポイントを絞り,ある特定のエリアにつ いてあるデザイン要素だけを変化させ他の条件を一定にした ような地図を複数作成し,異なる階層間の移動に関しては 新しいデザイン表現方法による地図のデザイン試作を行い, 移動実験を通して効果を検証していきたいと考える. 謝 辞 本研究は学術振興会科学研究費補助金(研究代表者:池田 千登勢,課題番号

18800051

)によって行われた. 注 本論文に使用されている地図の画像は関係する団体より許 可を得て掲載している.許可が得られなかった画像について は下記の公式ウェブサイトに掲載されている.ただし,最新 情報となるため,実験当時とは細部の情報等が異なる. 東京ディズニーリゾート公式サイト 「リゾートガイド ディズニーシーアトラクション

&

エン ターテインメントマップ」(イラストマップ

2016

年)

http://www.tokyodisneyresort.jp/pdf/tds_wholemap.pdf

図註 本論文に使用されている地図の画像の出典情報 図1 Yahoo Japan(ZENRIN)地図(2006年アクセス) 図2 甘春堂嵯峨野店 web・店舗にて配布(2006年) 図3 六本木ヒルズ設置看板(2006年12月撮影) 図4 六本木ヒルズ日本語フロアガイド(2006年12月版) 図5 六本木ヒルズユニバーサルガイド(2006年4月版) 図6 東京工業大学大岡山キャンパスweb地図(2006年) 図7 東京工業大学大岡山キャンパスMAP(イラストマップ) キャンパス内で配布(2006年) 図8 東京駅案内図 構内設置看板(2006年12月撮影) 図9 JR東京駅案内図 駅構内で配布(2006年)

図10 From Station 駅構内&駅周辺 東京駅 駅構内で配布 (2006年7月)

図11 渋谷駅案内図 構内設置看板(2006年撮影)

図12 From Station 駅構内&駅周辺 渋谷駅 駅構内で配布 (2006年7月)

図13 From Station 駅構内&駅周辺 東京駅 駅構内で配布 (2006年7月) 図14 六本木ヒルズユニバーサルガイド(2006年4月版) 図15 東京工業大学大岡山キャンパスMAP(イラストマップ) キャンパス内で配布(2006年) 図16 六本木ヒルズ日本語フロアガイド(2006年12月版) 図17 六本木ヒルズ日本語フロアガイド(2006年12月版) 図18 東京工業大学大岡山キャンパスMAP(イラストマップ) キャンパス内で配布(2006年) 実験に使用した東京ディズニーシーの地図

2

点について は,本稿への図版の掲載は許可されていないが,それぞれの 出典は以下の通りである.

表2 ディフォルメ絵地図:Discover TOKYO Disney RESORT INFORMATINO & MAP AUTUMN-WINTER 2005

表2 リアル絵地図:東京ディズニーシー・ガイドマップ  5 YEARS(五周年)2006年11∼12月版 参 考 文 献 [1]福田由紀:会話過程への視覚的イメージの視点による影響 に関する時系列的な検討,法政大学文学部紀要,48, pp.187-202,2002. [2]浅村亮彦:方向感覚と空間推論時における視点との関連, 小樽商科大学紀要論文,商学討究,49,pp.215-238,1998. [3]増井幸恵:「自らの空間認知能力が悪いと感じる」意識の 測定,関西学院大学人文論究,47(1),pp.164-182,1997. [4]増井幸恵:方向音痴意識の構造 状況・状態側面からの分 析,東海女子大学紀要,17,pp.235-246,1997. [5]新 垣 紀 子, 野 島 久 雄: 方 向 オ ン チ の 科 学, 講 談 社, pp.172-186,2001. [6]渕上美喜,岡田明,山下久仁子:案内図の位置・方向が空 間イメージの形成過程に及ぼす影響,生活科学研究誌,2, pp.107-116,2003. [7]田村和弘:より効果的な歩行者道案内システムの実現に向 けて,電子情報通信学会技術研究報告ヒューマンコミュ ニケーション基礎,104(581),pp.59-64,2005.

(11)

[8]藤井憲作,東正造,荒川賢一:経路・案内情報がナビゲー ションに及ぼす影響,電子情報通信学会論文誌 A,J87-A(1), pp.40-49,2004. [9]村越真,森安大輔:情報源と表現方法による道案内の違い, 電子情報通信学会論文誌 A,187-A(1),pp.50-58,2004. [10]浮田典良,森三紀:地図表現ガイドブック,ナカニシヤ出 版,pp.3-14,2001. [11]日垣隆:方向音痴の研究,ワック株式会社,pp.206-244, 2007. [12]竹内謙彰:方向感覚と方位評定, 人格特性及び知的能力と の関連教育心理学研究,40(1),pp.47-53,1992. [13] Doreen Kimura:女の能力,男の能力 ―性差について科学 者が答える,新曜社,pp.53-60,2001. [14]村越真:方向オンチの謎がわかる本,集英社,1: pp.58-84, 2: pp.105-110,2003. [15]引田有人,石川徹:現地と地図の対応能力に見る都市に お け る 高 齢 者 の 生 活 行 動, 都 市 計 画 論 文 集,46(2), pp.125-131,2011. 池田 千登勢(正会員) 東洋大学ライフデザイン学部准教授.ロンド ン大学経営学修士(MBA).1987年千葉大学 工学部工業意匠学科卒業後,(株)NECデザ インセンターに勤務(1987-2006)し,情報 機器のプロダクトデザイン,海外宣伝戦略, ユニバーサルデザイン製品開発などを担当した.現在は空間認 知能力と地図表現,福祉事業所の授産品開発マネジメント手法 などを研究テーマとしている.

図 5  六本木ヒルズユニバーサルマップ
図 2  甘春堂嵯峨野店   web ・店舗にて配布( 2006 年) 図 3  六本木ヒルズ設置看板( 2006 年 12 月撮影) 図 4  六本木ヒルズ日本語フロアガイド( 2006 年 12 月版)図5 六本木ヒルズユニバーサルガイド(2006年4月版)図6 東京工業大学大岡山キャンパスweb地図(2006年)図7 東京工業大学大岡山キャンパスMAP (イラストマップ)キャンパス内で配布(2006年)図8 東京駅案内図 構内設置看板(2006年12月撮影)図9 JR東京駅案内図 駅構内で配布(200

参照

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