Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
咬合調整時に,患者はどのような体位や頭位をとればよ
ろしいでしょうか。
Author(s)
櫻井, 薫
Journal
歯科学報, 118(2): 129-131
URL
http://hdl.handle.net/10130/4514
Right
Description
129 歯科学報 Vol.118,No.2(2018)
臨床のヒント
Q&A 62
有床義歯補綴系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は咬合 調整に関する質問です。Question
咬合調整時に,患者はどのような体位や頭位をとればよろしいでしょうか。Answer
はじめに 咬合調整の目的は,天然歯あるいは人工歯の早期 接触や咬頭干渉となる部位を選択的に削合し,均等 な咬合接触と調和のとれた咬合関係を確保して,咬 合力を複数の歯に均等に分散することにある。患者 にとっては,安静時に咬合接触がなく,また機能時 の咬合状態,すなわち咀嚼時,嚥下時,発音時に咬 頭干渉がないことが望ましい。したがって,そのた めの咬合調整時の体位と頭位,さらに患者に行わせ る運動についても解説する。 体位は 診療時は多くの場合に水平位で行っているが,こ れは歯科医療従事者が行動しやすいからであって, 患者にとっては生理的な位置ではない。水平位で閉 口すると下顎頭は後下方に偏位し,中心咬合位とは 異なる1) 。また体位を後方に45度以上傾斜させた場 合と垂直座位とを比べた場合の下顎位に差を認め た。このことから,咬合調整時は,体位は垂直が好 ましいが,もしも背板を傾斜しなければならないよ うな場合には45度未満までの傾斜で行うことが適切 であると考える。 頭位は Frankfort 平面に水平にした頭位よりも頭を前傾 させると,咬合接触は中心咬合位より前方に出現 し,後傾させると後方での咬合接触が増加すること も報告されている2) 。したがって,中心咬合位での 咬合調整は,Frankfort 平面に水平にした自然な頭 位が好ましい。咀嚼を想定すれば Frankfort 平面を 水平にした頭位よりも前傾した位置であるが,それ は前方運動時や側方運動時を想定した咬合調整とな る。 偏心位での咬合調整は はたして側方運動時の咬合調整は,患者に歯ぎし り様運動させるので良いのだろうか?図1左に患者 に歯ぎしり様の運動をさせたときを示し,右に患者 に頭部を右に傾斜させてタッピング運動をさせたと きの咬合接触部位を示すが,ほとんど同じであるこ とがわかる。図2左に咬合紙を焼き海苔だと思って 噛んでもらっときの咬合接触状態を,頭部を右に回 旋したときの咬合接触状態(頭部を右に回旋させる と,右側の側頭筋,咬筋,顎二腹筋の活動が増大す るのに対して,左側の活動が抑制され減少する。そ の結果,下顎が右側に移動する)を示すが,右の図 では大臼歯部の接触がない。また歯ぎしり様運動と ― 45 ―130 歯科学報 Vol.118,No.2(2018) 図1 左:歯ぎしりをさせた場合 右:頭部を右に傾斜させた場合 図2 左:焼きのりを咀嚼するイメージで 右:頭部を右に回旋 咀嚼様運動では咬合接触状態が異なる。我々はどの ような時を想定して咬合調整すればよいのであろう 咬合調整に影響するその他の因子 か。私は通常は咀嚼を想定した運動を行わせて咬合 ① 開閉口速度 調整を行っている。 下顎の開閉速さが遅い場合には,咬合接触の前後 ― 46 ―
131 歯科学報 Vol.118,No.2(2018) 的なばらつきの範囲が大きくなる傾向にある。開閉 速さが遅いと,筋の緊張が弱く,重力の作用を受け やすいためと考えられる。そのため,1秒間に0.9 -1.6回の開閉速さが推奨される3) 。 ② 開口量 開口量が大きくなると咬合接触の前後的なばらつ きの範囲が大きくなる傾向にある。大きく開口する と下顎はより後方に位置し,閉口時にもその状態が 持続して咬合接触に影響すると考えられる。開口量 は2mm が推奨される3) 。 ③ 咬合紙の条件 ヒトの厚さの認知は20 μ とされているので,可能 であればそれ以下の薄いものが良い。また38 μ の咬 合紙を用いた実験で,片側にのみ咬合紙を入れると 対側でかつ前方に偏位する4) 。したがって,どのよ うな場合でも咬合紙は両側に入れなければならない。 おわりに 咬合調整時の患者の体位は垂直坐位に,頭位は Frankfort 平面に水平にした状態で中心咬合位の調 整を行う。そして偏心運動時の調整は機能時を想定 して行うことを勧める。「咬合紙を焼き海苔や野菜 だと思って噛んでください」などと言うと患者はう まく偏心運動を行ってくれる。それもできない場合 には,咬合紙を両側に置き,頭位を中心咬合位から 側方に徐々に傾斜してもらって行うとよい。 文 献 1)西巻 仁,小出 馨,植木 誠,浅沼直樹,齋藤隆哉: 歯科治療時の体位による下顎位の変化に関する臨床研究. 日本補綴歯科学会雑誌,46⑴:64-72,2002. 2)林 甫:下顎の小開閉運動時の各種姿勢と開閉条件とが 前後的な歯牙接触位に及ぼす影響に関する研究.歯科学 報,80⑴:1-31,1980. 3)櫻 井 薫:顎 運 動 路 描 記 装 置 の Stylus の 設 定 位 置 が Tapping area に及ぼす影響に関する基礎的研究.歯科学 報,81⑽:1495-1526,1981. 4)原 雄大,前田照太,井上 宏:咬合紙の介在がタッピ ングポイントに及ぼす影響.日本補綴歯科学会雑誌,38 ⑵:335-339,1994. Answer:櫻井 薫 東京歯科大学老年歯科補綴学講座 ― 47 ―