色彩語を含む共感覚表現に見られる日英語の文化的
相違 : 共感覚現象の意味・日本語オノマトペの状
況中心性
著者
吉村 耕治
雑誌名
研究論集
巻
86
ページ
19-37
発行年
2007-09
URL
http://doi.org/10.18956/00006222
色 彩 語 を含 む 共 感 覚 表 現 に見 られ る
日英 語 の文 化 的相 違
共 感 覚 現 象 の意 味 ・日本 語 オ ノ マ トペ の状 況 中 心 性
吉
村
耕
治
要 旨 現 代 の 色 彩 用 語 の 中 に は 、 周 辺 の 色 彩 を 無 視 した 目立 ち す ぎ る 色 を 意 味 す る 「騒 色 」(loud colors)や 「や わ らか い 赤 」(soft red)の よ うに 、 日本 語 と英語 で よ く似 た 感 覚 表 現 よ り構 成 さ れ て い る共 感 覚 表 現 が あ る。 と ころ が 、 味 覚 が 共 感 覚 で 視 覚 が 原 感 覚 の表 現 「渋 い 色 」 は 、 英 語 で は 聴 覚 が 共 感 覚 の"a quiet color"と 表 現 され る。 「渋 い 色 」 の 「渋 い 」 は 、 「落 ち 着 い た 、 地 味 な 」 の 意 で あ るが 、 複 雑 な色 相 か ら く る灰 色 み を 帯 び た 「渋 い 色 」 を美 しい と感 じて きた伝 統 が 日本 に あ った こ とを 考 慮 す る と、 この 日英語 の 表 現 上 の違 いは 、 謙 虚 さ に 関す る 日本語 と英 語 の 文 化 の差 を 反 映 して い る と考 え られ る 。 『広 辞 苑 』(第5版 、 岩 波 書 店 、1998)は 、共 感 覚 の 代 表 的 事 例 で あ る 「色 聴 」(colored hearing)を 、 「あ る音 を 聞 く とそれ に伴 って一 定 の 色 が 見 え る現 象 」(p.ll49)と 定 義 して い る が 、 この 説 明に は 問 題 が あ る。 共 感 覚 の 現 象 は単 独 で現 れ る もの で は な く、 一 連 の ま と ま りを 持 って 生 じる現 象 で あ る こ とが 言 及 され て い な い 。 キ-ワ-ド:共 感 覚 表 現 、 文 化 的 相 違 、 日英 語 の 比 較 、 色 聴 、 オ ノマ トペ 1.は じ め に 現 代 の 色 彩 用 語 の 中 に は 、 「騒 音 」 を も じ っ た 色 彩 表 現 で 周 辺 の 色 彩 を 無 視 し た 目立 ち す ぎ る 色 を 表 す 「騒 色 」(loud colors:聴 覚 が 共 感 覚 で 視 覚 が 原 感 覚 の 共 感 覚 表 現)1)や 、 触 覚 と 視 覚 が 融 合 した 「暖 色 」(warm colors)・ 「寒 色 」(cold colors)・ 「や わ らか い 赤 」(soft red)が あ る 。 こ れ ら の 共 感 覚 表 現 の 構 成 要 素 は 、 日本 語 と 英 語 で よ く似 た 感 覚 表 現 が 用 い ら れ て い る 。 と こ ろ が 、 日英 語 で 構 成 要 素 が 異 な る 共 感 覚 表 現 も あ る 。 例 え ば 、 味 覚 と 視 覚 が 融 合 した 共 感 覚 表 現 「渋 い 色 」 は 、 英 語 で は 聴 覚 が 共 感 覚 の"aquiet color"に 相 当 す る 。 こ の 「渋 い 色 」 の 「渋 い 」 は 、 「落 ち 着 い た 、 地 味 な 」 の 意 で あ る が 、 単 純 な 色 に 少 し の 黒 を 加 え て 作 っ た 「くす ん だ 色 」 とは 区 別 して 、 赤 、 黄 、 緑 、 青 、 紫 な ど の多 様 な色 相 か ら くる灰 色 み を 帯 び た 色 彩
を 表 す 「
渋 い 色 」 の微 妙 な複 合 的 色 彩 を 美 しい と感 じて きた 伝 統 が 日本 に あ った こ とを 考 慮 す
る と、 こ の よ うな 日本 語 と英 語 の感 覚 表 現 上 の相 違 に は 、 言 語 の背 後 に あ る 日本 語 と英 語 の文
化 的 相 違 が 潜 ん で い る と考 え られ る。 つ ま り、聴 覚表 現 の"quiet"(静
か な)で は 表 現 で き な
い 、 身 体 的 ・精 神 的 な痛 み を 伴 う暗 示 的 な意 味 が 、 舌 で 直 接 感 じる味 覚 表 現 の 「
渋 い 」 を 用 い
て 、 凝 縮 した 形 で 表 現 され て い る と考 え られ る。 日本 語 に は 「出 る杭[あ
るい は 、 釘]は 打 た
れ る」 「
脳 あ る鷹 は爪 を 隠 す 」 の よ うに、 目立 た な い 存 在 を奥 ゆ か しい 振 る舞 い と考 え る精 神
の諺 や 、 「
け んか 両 成 敗 」 の よ うに 封 建 時 代 に 法制 化 され た条 項 に 基 づ く諺 が 厳 存 す る。 謙 虚
さが 美 徳 と して 尊 ば れ て い る 日本 の伝 統 的 文 化 の 中 で 、 「
渋 い 色 」 に は 控 え 目な複 合 的 色 彩 の
美 意 識 が 内包 され て い る2)。2000年 ご ろか ら ヨー ロ ッパ で も注 目され て い る 日本 の若 者 の ポ ッ
プ ・カ ル チ ャ ー(popular culture)を 象 徴 す る 「かわ い い 」 に 対 立 す る語 と して 、 「渋 い 」 は
日本 の大 人 社 会 の 重 要 な 一 側 面 を 反 映 す る語 と して 現 存 して い る3)。言 語 表 現 の 背後 に あ る文
化 を 考 察 す る と、"a quiet
color"の"quiet"に
は 「
す る」 言 語 の特 徴 、 「
渋 い 色 」 の 「
渋 い 」
に は 状 況 を 重 ん じる 「な る」 言 語 の特 徴 が 見 られ る こ とを 指 摘 す る。
さ らに 、 視 覚 が 共 感 覚 で 聴 覚 が 原 感 覚 の 「
黄 色 い 声 」 は 、 英 語 で は"a shrill[squeaky]
voice"と
い う聴 覚表 現 で 表 され る 。 共 感 覚 色 彩 表 現 の 「
黄 色 い声 」 が 、 女 性 や 子 供 の か ん 高
い 声 を 表 して い る こ とは 間 違 い ない 。 こ の表 現 は 、 中 国 文 化 の影 響 を 受 け て い る よ うで 、 絶 対
音 感 の存 在 を 認 め る視 点 か ら判 断 す る と、 お そ ら く七 音 階 の 「ラ」 の音 に 相 当 す る と考 え られ
て い る。 以 前 は 「
赤 い 声 」 「白 い声 」 「
青 い 声 」 な ど も存 在 して い た よ うで あ る。 現 代 日本 語 に
は 「
青 息 吐 息 」 とい う語 句 が あ るが 、 英 語 で は"be in
great
distress"や"have a
hard
time"と
表 現 され 、 色 彩 語 の青 色 に 相 当 す る語 句 は 用 い られ ない 。 冬 に 気 温 が 低 い た め に 吐 く息 が 白 く
見 え る現 象 は 「白息(し
らい き)」 と呼 ばれ る よ うに、 「
青 息 」 も視 覚 表 現 の一 つ で 、 弱 って 元
気 の ない 時 に 出す た め 息 を 意 味 し、 「
青 息 」 の 「
青 」 は青 の原 義 の 「
漠 」 に近 い 「ぼや け た青 」
を 表 して い る 。 「
黄 色 い 声 」 に つ い て は一 種 類 の考 え で結 論 とす る こ とは 不 可 能 で あ るが 、 雛
の よ うな黄 色 い 動 物 の声 な ど、 諸 説 紛 々 の中 に も妥 当 な考 え が 見 られ る こ とを 提 示 した い 。
共 感 覚 表 現 とは 、 「お い しい音 」 「
軽 い 味 わ い 」 「な め らか な音[味]」
「(耳で 味 わ う多 様 な風
景 の意 の)音 風 景 」 の よ うに 主 に 一 つ の感 覚 を 表 して い た 言 葉 の意 味 が 変 化 して 、 別 の感 覚 を
も形 容 す る よ うに な った 比 喩 的 表 現 で あ る。 一 般 的 に 「
あ る感 覚 領 域 を 表 わ す 語 が 別 の感 覚 領
域 に 転 用 され る比 喩 的 な用 法 」(松 浪 有 ・他 編 、1983:771)と
考 え られ て い るが 、 す べ て の
五 感 に用 い られ るsweet(甘
い)の
よ うに 「あ る感 覚 領 域 に 固 有 の表 現 」 とは判 定 しに くい 語
句 も存 在 す る。 共 感 覚 表 現 は 、 ギ リシ ャ語 ・ラ テ ン語 な ど の古 典 語 に も見 られ るが 、19世 紀 の
ロマ ン主 義 や 象 徴 主 義 の時 代 か ら増 加 して お り、五感(視 覚 ・聴覚 ・嗅覚 ・味覚 ・触覚)の 中
で は 遠 感 覚 で あ る視 覚 と聴 覚 が 融 合 した 共 感 覚 表 現 が 最 も頻 度 が 高 い 。 「
凍 え る よ うな ブル ー」
を 意 味 す る"arctic blue"(1926年 の 初 出;「 北 極 の ブ ル ー 」 の 意)の よ うに 、20世 紀 以 降 に 一 層 増 え て い る 表 現 で あ る 。 カ ク テ ル の 貴 婦 人 と 呼 ば れ る 「ホ ワイ ト ・レ デ ィ(white lady)」 を 形 容 す る 「清 楚 な 味 わ い 」(視 覚+味 覚)の よ うに 微 妙 な 色 彩 の 飲 み 物 や 、 美 し く盛 り付 け ら れ た 四 季 の 料 理 な ど を 描 写 す る 際 に 、 共 感 覚 表 現 は か な り の 頻 度 で 用 い ら れ て い る4)。 日本 色 彩 学 会 編 『新 編 色 彩 科 学 ハ ン ド ブ ッ ク 』(第2版)(1998:375)で は 共 感 覚(syn esthesia)は 、 感 覚 の 様 相(sensory modality)を 超 え て 「あ る 感 覚 が 別 の 感 覚 を と も な う こ と 」 と 定 義 さ れ て い る 。 そ の5年 後 に 出 版 さ れ た 同 学 会 編 『色 彩 用 語 事 典 』(2003:138)で は 「1つ の 刺 激 か ら 異 な る 感 覚 が 同 時 に 顕 著 に 共 通 に 生 ず る も の 」 と定 義 され 、 「同 時 に 顕 著 に 共 通 に 」 と い う語 句 が 付 加 さ れ て い る 。 こ の 三 つ の 語 句 の 付 加 に よ っ て 、 共 感 覚 の 現 象 は 色 彩 連 想(color association)と 密 接 に 関 連 し て い る が 、 単 な る 感 情 次 元 で の 連 合 で は な く 、 感 覚 次 元 で の 結 合 で あ る こ と が 明 確 に 示 さ れ て い る と 判 断 で き る 。 と こ ろ が 、 共 感 覚 の 事 例 を 一 次 資 料 の 文 献 に 基 づ い て 調 査 す る と 、 こ れ ら の 定 義 に は 含 ま れ て い な い が 、 重 要 な 別 の 要 素 が 存 在 して い る こ と に 気 づ く。 そ れ は 、 共 感 覚 は 決 して 単 独 で 現 れ る 現 象 で は な く、 一 連 の ま と ま りを 持 っ て 生 じて い る と い う こ と で あ る 。 つ ま り、 一 つ の 刺 激 に 対 す る 影 響 に つ い て は 個 人 的 な 相 違(誤 差)が 生 じや す い が 、 一 連 の ま と ま り の あ る 刺 激 に 対 して は 、 あ る 程 度 ま で 共 通 の 影 響(反 応)が 見 ら れ る と い う事 実 で あ る 。 本 稿 は 、 現 代 の 色 名 や 色 彩 語 を 含 む 共 感 覚 表 現 に 見 ら れ る 日本 語 と 英 語 の 文 化 的 な 相 違 を 明 ら か に す る こ と を 主 要 な 目標 に して い る 。 こ の 考 察 に よ っ て 、 共 感 覚 と 呼 ば れ る 現 象 の 背 後 に 隠 れ て い る 確 か な 事 象 と 、 日本 語 の 感 覚 表 現 の オ ノ マ トペ の 根 本 的 な 特 性 に つ い て 指 摘 す る こ と も 目標 に して い る 。 音 を 聞 く と 色 が 目に 思 い 浮 か ぶ 現 象 は 、 共 感 覚 の 最 も 顕 著 な 種 類 で 、 色 聴(colored hearing;フ ラ ン ス 語 で はaudition coloree)と 呼 ば れ る 。 新 村 出(編)(1998)
『広 辞 苑 』(第5版)で は 色 聴 を 、 「あ る 音 を 聞 く とそ れ に 伴 っ て 一 定 の 色 が 見 え る 現 象 」(p. ll49)と 定 義 して い る が 、 そ の 問 題 点 に つ い て も 指 摘 し、 修 正 版 の 定 義 を 提 示 した い5)。
2.色
彩 用 語 を含 む 共 感 覚 表 現 の 多 様 性-色 階 の 実 例 とそ の 多 様 性
共 感 覚 表 現 で あ るか ど うか は 、 意 味 で 判 定 しなけ れ ば な ら ない が 、 表 現 形 態 のみ で 判 断 した
た め に 共 感 覚 表 現 と取 り違 え た 例 が 、 現 在 で も散 見 され る。 こ の誤 りは 、 共 感 覚 表 現 の判 定 基
準 の理 解 の困 難 さを 反 映 して い る。 言 語 学 と文 学 とい うよ うな論 考 の分 野 に よ って も、 形 式 重
視 か 意 味 重 視 か 、 多 少 の相 違 が 見 られ る ので 、 そ れ ぞ れ の論 考 の研 究 分 野 に 注 意 す る必 要 が あ
る。 例 え ば 、2006年10月 発 行 の表 現 学 会 誌 『
表 現 研 究 』 掲 載 の論 文 は 、 ナ リ活 用 の形 容 動 詞 の
「
冷 静 」 まで も共 感 覚 表 現 の例 に 入 れ る とい う間 違 い を 犯 して い る6)。「
冷 静 」 と い う熟 語 は 、
感 情 に 左 右 され ない で 、 物 事 に 動 じない とい う意 で あ る こ とは 明 白で 、 「
冷 静 に判 断す る」 「
冷
静 な 態 度 」 の よ うに 使 用 さ れ る の で 、 感 情 表 現 と し て 転 用 さ れ て い る 語 句 で あ る 。 「冷 静 」 の 表 現 構 造 は 、 「形 容 詞+名 詞 」 で は な く、 「形 容 詞+形 容 詞 」 か 「副 詞+副 詞 」 と 判 断 し な け れ ば な ら な い 。 「冷 」 が 「静 」 を 修 飾 し て い る と は 判 定 で き な い 。 原 子 爆 弾 の 意 の 「ピ カ ドン 」 は 、 視 覚 表 現 と 聴 覚 表 現 が 融 合 した 表 現 で あ る た め 、 一 見 、 表 現 構 造 が 共 感 覚 表 現 と 同 じ よ う に 感 じ ら れ る 。 だ が 、 「ピ カ ド ン 」 は 「形 容 詞+名 詞 」 の 構 造 で は な く、 「ピ カ and ドン 」 の 意 で 、 同 じ品 詞 が 連 続 して い る 構 造 に な っ て い る と 判 断 す べ き で あ る 。 さ ら に 、 「さ び た 声 」 は 確 か に 比 喩 表 現 で あ る 。 だ が 、 「さ び た 」 は 視 覚 を 通 して 感 じ ら れ る 現 象 で あ る が 、 色 彩 語 や 、 明 暗 の 表 現 、 透 明 度 の 表 現 、 形 の 表 現 、 動 き の 表 現 、 空 間 の 認 識 の 表 現 、 さ ら に 、 視 覚 に 訴 え る オ ノ マ トペ と も 判 断 で き な い し、 さ ら に 、 大 小 や 、 上 下 、 前 後 、 高 低 、 深 浅 、 奥 行 き の あ る 、 な ど の 空 間(dimension)の 表 現 と も判 定 で き な い 。 そ の た め 、 「さ び た 」 は 視 覚 表 現 と は 認 め ら れ な い(cf.吉 村 耕 治 編 著 、2004:19-24)し 、 「さ び た 声 」 も 共 感 覚 表 現 と は 認 め ら れ な い 。 共 感 覚 表 現 の 判 定 に 意 味 は 不 可 欠 で あ る 。 飯 島 英 一(2004:77)は 、 「紫 色 が 匂 う」 「香 を き く」 な ど の 表 現 は 、 日本 人 の 「個 別 的 ・即 物 的 な 対 応 姿 勢 」 を 反 映 し て お り、 「人 類 の 特 性 と い う よ り、 日 本 人 特 有 の 修 辞 法 」(p.77) で 「欧 語 に は 余 り見 ら れ ま い 」(p.77)と 述 べ て い る 。 し か し 、Stephen Ullmannは1959年 に The Principles of Semanticsで 、 共 感 覚 の 現 象 の 汎 時 論 的 可 能 性 を 指 摘 して い る 。 共 感 覚 表 現 は 「形 容 詞+名 詞 」 構 造 で 判 断 さ れ る 場 合 が 一 般 的 で あ る が 、 実 際 に は 「形 容 詞 +名 詞 」 以 外 の 共 感 覚 表 現 も か な り多 く見 ら れ る 。 日本 の 染 色 家 、 志 村 ふ くみ(1998)の 著 作 の 題 名 「色 を 奏 で る 」 で は 、 視 覚 が 目的 語 で 聴 覚 が 動 詞 と して 表 現 さ れ て い る が 、 こ の 題 名 は 視 覚 が 原 感 覚 で 、聴 覚 が 共 感 覚 と判 断 さ れ る 。 そ し て 、 「音 楽 は 色 彩 豊 か 」(辻 埜 孝 之 編 、2000: 26)で は 、 聴 覚 が 主 語 で 視 覚 が 述 部 の 一 要 素 と して 用 い ら れ て い る が 、 聴 覚 が 原 感 覚 で 、 視 覚 が 共 感 覚 と 判 断 で き る 。 「目 で 聞 く音 」(日 本 音 響 学 会 編 、1996:74)で は 、 視 覚 器 官 の 目が 副 詞 句 の 一 要 素 で 、 聴 覚 表 現 が 動 詞 と 名 詞 で 表 現 さ れ て お り、 視 覚 が 共 感 覚 に な っ た 共 感 覚 表 現 と 判 断 で き る 。 こ の よ うに 共 感 覚 表 現 の 表 現 形 態 は 多 様 で あ る 。 色 彩 と味 覚 の 関 係 に つ い て は 、 日本 色 彩 学 会(編)『 色 彩 科 学 事 典 』(1991:233)は 、 赤 色 や 桃 色 を 見 る と 主 に 甘 み を 感 じや す く、 黄 ・黄 緑 は 酸 味 、 灰 色 ・黒 は 苦 味 、 や や 白 は 塩 味 、 薄 い ベ ー ジ ュは 旨 味 、 茶 色 は 渋 味 を 感 じや す い と 説 明 して い る 。 こ れ ら の 共 感 覚 は 、 赤 色 、 桃 色 、 黄 、 黄 緑 、 灰 色 、 黒 、 白 、 ベ ー ジ ュ の 一 般 的 な 事 物 と の 連 想 に 基 づ い て 生 じて い る と 判 断 で き る7)。 共 感 覚 は 、 人 間 の 本 性 に 根 ざ し た 現 象 で 、 異 常 な 現 象 で は な い 。
色 彩 と 音 の 関 係 に つ い て は 、Visual Music: Synaesthesia in Art and Music since 1900(2005)や John HarrisonのSynaesthesia: The Strangest Thing(『 共 感 覚-も っ と も奇 妙 な 知 覚 世 界 』)な
ど に よ っ て 、 英 国 の 物 理 ・天 文 学 者Isaac Newton(1642-1727)はOpticks(『 光 学 』)(第4 版1730)の7色 に 音 程 を あ て は め て い る こ と 、18世 紀 の 初 頭 に は 、 鍵 盤 を 打 つ と 音 と と も に 虹
の 七 色 が ス ク リ ー ン に 投 影 さ れ る 色 光 ピ ア ノ が 考 案 さ れ て い る こ と 、 そ して 、 ロ シ ア の 表 現 派 画 家 のVasilii Kandinskii(1866-1944)は 、 画 面 に 動 き の 効 果 を 出 す た め に 、 色 彩 の リ ズ ム (rhythm)と 調 和(harmony)と を 音 楽 的 に 計 量 し、 「フ ル ー ト(flute)は 明 る い 青 、 フ ァ ン フ ァ ー レ(fanfare)は 赤 、 ホ ル ン(horn)は 紫 」 と 述 べ て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る8)。 こ の 最 後 の 指 摘 は 、 トラ ン ペ ッ ト(trumpet)の 音 を 聴 く と赤 い 色 が 見 え る と い う指 摘 と も つ な が っ て い る9)。 さ ら に 、 ロ シ ア の 作 曲 家 で ピ ア ノ 演 奏 家 のAleksandr Nikolaevich Skryabin
(1872-1915)は 、 音 と 色 彩 の 結 合 を 試 み て お り、 演 奏 と 同 時 に 画 面 に 色 彩 を 映 す 「色 光 ピ ア ノ 」(color organ)を 、 彼 の 最 後 の 作 品 『プ ロ メ テ ウ ス 』(1910)に お い て 使 用 して い る こ と も 指 摘 さ れ て い る 。 色 彩 と 音 の 結 び つ き を 芸 術 的 に 利 用 す る 取 り組 み も 行 わ れ て き た 。 ま た 、ll 才 以 下 で は25∼30%が 色 聴 を 感 じ、 成 人 で は10∼15%が 色 聴 を 感 じ る と い う指 摘 が 見 ら れ 、 そ れ と は 逆 に 、 色 を 見 た 時 に 音 を 感 じ る 人 の 割 合 は 少 な い と 指 摘 さ れ て い る 。 ま た 、 音 色 を 表 す こ と ば に は 、 「明 る い 」 「や や 明 る い 」 「や や 暗 い 」 「暗 い 」 「キ ラ キ ラ し た 」 「澄 ん だ 」 「華 や か な 」 と い う視 覚 に 関 係 し た 語 句 が 用 い られ 、 色 彩 と 音 の 結 び つ き の 多 く の 事 例 は 、 「感 情 次 元 で の 連 合 で あ る が 、 時 と し て 感 覚 次 元 で の 結 合 が 認 め られ る 」(日 本 色 彩 学 会 編 、1991:20)と 指 摘 さ れ て い る10)。 そ し て 、 一 般 的 に 高 い 音 調 は 明 色(あ る 色 に 白 が 加 わ っ て で き る 色)に な り、 低 い 音 調 は 暗 色(あ る 色 に 黒 が 加 わ っ て で き る 色)に 傾 斜 す る 。 こ の よ うに 色 彩 と 音 の 高 低 の 間 に は 深 い 関 連 が 存 在 す る と い う考 え 方 が 一 般 的 で あ る 。 び っ く り デ ー タ 情 報 部 編 『色 の 不 思 議 が 面 白 い ほ ど わ か る 本 』(2005:106-108)で は 、 色 聴 に つ い て 、7音 階 とb(半 音 下 げ)・#(半 音 上 げ)の 記 号 を 用 い 、 音 と色 の 呼 応 に つ い て 、 1.「 ド」 は 「赤 」、 「レb」 は 「紫 」、 「レ」 は 「す み れ 色 」、 「ミb」 は 「青 」、 「ミ」 は 「黄 金 色 」、 「フ ァ」 は 「ピ ン ク」、 「フ ァ#」 は 「青 緑 」、 「ソb」 は 「緑 が か った 青 」、 「ソ」 は 「明 る い 空 色 」、 「ラ」 は 「澄 ん だ 黄 色 」、 「シb」 は 「橙色 」、 「シ」 は 「銅 色 」 と 述 べ て い る 。1オ ク タ ー ブ 高 く な る と 、 白 を 混 ぜ て い く よ う な 感 覚 で 、1オ ク タ ー ブ 高 い 「ド」 は 「ピ ン ク 色 に 近 い 色 」、 逆 に 、1オ ク タ ー ブ 低 く な る と 、 黒 を 混 ぜ て い く よ うな 感 覚 で 、1オ ク タ ー ブ 低 い 「ド」 は 「赤 み が か っ た 茶 色 」 と 指 摘 さ れ て い る 。 聴 覚 と 視 覚 の 関 係 は 一 部 分 だ け の 対 応 で は な く、 聴 覚 と 視 覚 が お 互 い に 一 連 の ま と ま り ご と に 関 係 して い る 。 と こ ろ が 、 近 藤 恒 夫(1969:125)は 、 近 藤 氏 自 身 が 各 種 の 色 階 を 考 案 し、 色 階 を 和 声 学 的 に 飲 食 店 な ど の 建 物 内 の 配 色 に 利 用 し て い る 。 一 例 を 挙 げ る と 、 ドは 「赤 」 で 、 『色 の 不 思 議 が 面 白 い ほ ど わ か る 本 』 と 同 じで あ る が 、 ド#が 「黄 赤 」、 レ が 「黄 」(レ#が 「黄 緑 」)、 ミが 「緑 」、 フ ァ が 「青 緑 」、 ソ が 「青 」、 ラ が 「青 紫 」(ラ#が 「紫 」)、 シ が 「赤 紫 」 で 、1オ ク タ ー ブ 高 い ドは 、 再 び 「赤 」 と して い る 。 色 の 濃 淡 は 利 用 して い な い 。 こ の 色 階 は 近 藤 恒 夫 氏 自 身 が 室 内 の 配 色 な ど に 利 用 す る た め に 考 案 さ れ た も の で 、 一 種 類 だ け で は な く、 各 種 の 色 階 を 考 案 さ れ て い る こ と を 、 ご 本 人 と の 数 回 の 面 談 で 教 え て い た だ い た 。
さ ら に 、 林 継 暁(2002:2,171-3)は 、 言 語 と 色 彩 と音 楽 は 密 接 な 関 係 が あ り、 音 楽 の ラ は オ ー ケ ス トラ が 本 番 前 に 音 合 わ せ を 行 う音 で 、 ラ の 音 の 高 さ が 英 語 圏 の 人 に は 一 番 聞 き 取 りや す い 音 で 、 英 語 の 発 音 は 「ラ を 中 心 に 半 音 階 上 下 の 間 で 発 声 す る 」 の が 良 い と 指 摘 す る 。 そ し て 、 ドが 「赤 」 で 、 レが 「橙」、 ミが 「黄 」、 フ ァ が 「緑 」、 ソ が 「青 」、 ラ が 「藍 」(青 紫 と 同 じ色)、 シ が 「紫 」 と 述 べ て い る 。1オ ク タ ー ブ 高 い ドは 、 赤 色 の 濃 さ が 半 分 に な り、1 オ ク タ ー ブ 高 い 他 の 音 階 の 音 も 、 同 様 に 色 の 濃 さ が 半 分 に な る と 考 え 、 音 と 色 が 無 限 に 近 い グ ラ デ ー シ ョ ン の よ うに 存 在 す る と 述 べ て い る 。 そ して 、 長 三 和 音 の ド ・ ミ ・ ソが 、 絵 の 具 の 三 原 色 の 赤 ・黄 ・青 に な る と 考 え て い る 。 と こ ろ が 、 こ の 指 摘 は 、 当 然 の こ と を 述 べ て い る だ け で あ る 。 林 継 暁(2002:2,171-3)は 、 「ド レ ミ フ ァ ソ ラ シ 」 の7音 階 を 、 光 の 要 素 で あ る 「赤橙 黄 緑 青 藍 紫 」 と い う虹 の 七 色 に 対 応 さ せ て い る だ け で あ る 。 林 継 暁(2002:2,171-3) と 同 様 に 、近 藤 恒 夫(1969:125)も 、橙 を 黄 赤 と表 現 し 、音 を 半 音 上 げ る 記 号 の シ ャ ー プ(#) と 半 音 下 げ る 記 号 の フ ラ ッ ト(b)を 用 い 、 音 階 の 分 類 を 二 つ 増 や し細 分 化 して い る だ け で 、 赤橙 黄 緑 青 藍 紫 の 七 色 の 順 番 は ま っ た く 同 じ で あ る 。 こ の 二 つ の 説 は と も に 、Newtonが 音 と 色 の 間 に 感 じた 直 感 を 、 現 実 世 界 に 応 用 した 論 考 で あ る に 過 ぎ な い 。 林 継 暁(2002:2,171-3)と 近 藤 恒 夫(1969:125)の 指 摘 は 、 ラ の 音 は 青 紫(藍)を 表 す と い う考 え が 通 説 と 食 い 違 っ て い る こ と か ら も 、 色 彩 と 音 楽 を 理 論 的 に 関 係 付 け て い る だ け で 、 身 体 的 感 覚 を 通 して 実 際 に 感 じた 現 象 に は 基 づ い て い な い と 判 断 で き る 。 近 藤 恒 夫 氏 は 、 色 彩 学 者 で ギ タ ー リ ス トで も あ る が 、 室 内 の 色 彩 設 計 に 色 階 を 応 用 さ れ て い る だ け で 、 色 階 に 見 ら れ る 色 彩 と 音 楽 の 結 び つ き 方 に つ い て は 、 仕 事 の 性 質 上 、 十 分 な 注 意 を 払 っ て い な い 。 大 切 な こ と は 、 色 彩 と音 楽 の 間 に は 深 い 繋 が りが あ る こ と 、 そ し て 、 色 の 濃 淡(gradation)を 考 え る と 、 色 階 に は 微 妙 な 差 異 が 認 め ら れ る と は 言 え 、 色 彩 に は 「色 相 環 」 が 存 在 す る こ と か ら も 、 音 と 色 の 間 に は か な り の 高 い 共 通 性 が 認 め ら れ る と い う こ と で あ る 。 そ れ で は 、 日 本 語 の 共 感 覚 表 現 の 「黄 色 い 声 」 に つ い て 考 え て み る と 、 『色 の 不 思 議 が 面 白 い ほ ど わ か る 本 』(2005:106-107)は 、 ラ の 音 が 「澄 ん だ 黄 色 」 を 表 す と考 え て お り、 「黄 色 」 が お そ ら く七 音 階 の 中 の 「ラ 」 の 音 に 相 当 す る と い う通 説 に も 一 致 して い る 。 通 説 と い う の は 1931年 の カ ー ル ・ジ ー ツ(Kari Ziets)の 説 に 基 づ い て い る 。 Zietsは 音 階 に よ る 色 聴 を 、 ドが 赤 、 レが ス ミ レ色 、 ミが 黄 金 色 、 フ ァが ピ ン ク、 ソが 空 色 、 ラ が 黄 色 、 シ が 銅 色 で 、 オ ク タ ー ブ の 異 な る 音 階 も 色 調 は 同 じで 、そ れ ぞ れ の 音 に フ ラ ッ ト(b)が 付 く と 暖 色 を 、シ ャ ー プ(#) が 付 く と寒 色 を 連 想 さ せ る 傾 向 が あ る と 考 え て い る 。 つ ま り、 『色 の 不 思 議 が 面 白 い ほ ど わ か る 本 』(2005:106-107)は 色 聴 所 有 者 を 集 め て 実 験 した 結 果 と し て 紹 介 し て い る が 、Kari Zietsの 説 を 基 本 に し て い る こ と が 分 か る 。 Zietsは 高 音 と 低 音 を 響 か せ な が ら1秒 間color cards(色 票)を 被 験 者 に 見 せ る こ と に よ っ て 、 音 の 高 低 と 色 の 見 え と の 関 係 を 実 験 し て い る 。 低 い 音 が 響 く と 、 実 際 の カ ー ドの 色 よ り も 赤 や 青 が 加 わ っ た よ うに 感 じ、 高 い 音 が 響 く と 、 黄
色 み が か っ た よ うに 感 じ る と い う。 一 般 的 に 緩 や か な 音 楽 は 青 を 連 想 さ せ 、 テ ン ポ の 速 い 音 楽 は 赤 、 高 音 は 明 る い 色 、 低 音 は 濃 い 色 を 連 想 さ せ る と 言 わ れ る 。 音 楽 と 色 彩 の 深 い 関 連 性 を 認 め る と 、 お そ ら く 「黄 色 い 声 」 は 七 音 階 の 「ラ 」 の 音 で あ ろ う。 共 感 覚 表 現 の 「黄 色 い 声 」 は 、 慣 用 表 現 で 間 接 的 な 表 現 で あ る 。 英 語 の"a shrill[squeaky] voice"と い う聴 覚 表 現 は 、 「甲 高 い 声 、 金 切 り声 」 を 意 味 す る説 明 的 な 表 現 で 、 直 接 的 な 表 現 で あ る 。 こ の 日 英 語 の 表 現 上 の 差 は 極 め て 大 き い 。 「黄 色 い 声 」 は 、 鶏 の 雛 を 連 想 さ せ る 換 喩 的 表 現 と 考 え る こ と も で き る 。 一 種 の 控 え 目表 現 で あ り、 主 観 的 ・省 略 型 言 語 の 表 現 で あ る 。 そ れ に 対 して 、 英 語 の"a shrill[squeaky]voice"は 客 観 的 ・分 析 型 言 語 の 表 現 に な っ て い る 。 日本 語 の 「黄 色 い 声 」 は 、 日本 の 控 え め な 「察 し の 文 化 」 を 反 映 す る 表 現 に な っ て い る 。 色 彩 語 を 含 む 日本 語 と 英 語 の 共 感 覚 表 現 に は 、 触 覚 と 視 覚 と が 結 合 した 表 現 の 「や わ ら か い
黄 み の 赤 」(soft yellowish red)・ 「や わ らか い 黄 赤 」(soft orange)・ 「や わ ら か い 黄 緑 」(soft yellow green)・ 「や わ ら か い 青 み の 緑 」(soft bluish green)・ 「や わ ら か い 青 緑 」(soft blue green)が あ る。 そ し て 、 「や わ ら か い 黄 」 は"soft yellow"、 「や わ ら か い 青 」 は"soft blue"、
「や わ ら か い 紫 」 は"soft purple"、 「や わ ら か い 緑 み の 青 」 は"soft greenish blue"と 呼 ば れ る 。 こ れ ら の 共 感 覚 表 現 で は 日英 語 の 表 現 上 の 共 通 性 が 非 常 に 高 い 。 オ レ ン ジ 、 赤 、 黄 、 黒 は 、 「暖 色 」(warm colors)と 呼 ば れ 、 青 や 、 水 色 、 白 、 濃 い 青 、 青 紫 、 青 緑 は 、 「寒 色 」(cold colors)と 呼 ば れ る。 色 相 が 同 一 で も 、 彩 度 の 高 い 純 色 ほ ど 、 寒 暖 の 差 が 明 確 に な り、 明 度 に 関 して は 明 色 の ほ うが 涼 し く、 暗 色 の ほ うが 暖 か く感 じ ら れ る11)。 そ の 他 に 、 色 に は 軽 重 感 も あ る 。 経 験 上 、 黄 、 青 、 ク リ ー ム 色 、 薄 緑 、 ピ ン ク、 白 の よ う な 明 る い 色 は 軽 く感 じ、 そ れ に 対 し、 黒 、 赤 、 暗 灰 色 、 濃 紺 の よ う な 暗 い 色 は 重 く感 じ る 。 こ れ ら の 場 合 、 色 感 覚 は 単 独 に 成 立 して い る の で は な く、 触 覚 と 深 く結 び つ い て い る 。 さ ら に 、 視 覚 表 現 の 色 彩 が 味 覚 と深 く結 び つ く こ と も あ る 。 赤 、橙 、 オ レ ン ジ 色 、 黄 色 の 色 光 に は 、 「人 間 の 食 欲 を 増 幅 さ せ る 効 果 」 と 「消 化 作 用 を 促 す 効 果 」(cf.野 村 順 一 、1988:96-97)が あ る と 報 告 さ れ て い る 。 こ れ ら の 感 覚 は 、 人 類 共 通 の も の と 考 え ら れ て い る 。 さ ら に 、 ス ト ロ ボ の 光 の よ う に 影 が で き る 光 は 「か た い 光 」(hard lights)と 呼 ば れ 、 太 陽 光 に 近 い キ セ ノ ン ラ ン プ の 光 の よ うに 影 が 生 じ な い 光 は 「や わ ら か い 光 」(soft lights)と 呼 ば れ る 。 そ して 、 「か た い 色 」(hard colors)と 「や わ らか い 色 、 落 ち 着 い た 色 」(soft colors)も あ る 。 『ジ ー ニ ア ス 英 和 大 辞 典 』(大 修 館 書 店)や 『ラ ン ダ ム ハ ウ ス 英 和 大 辞 典 』(第2版 、 小 学 館)な ど のhardの 項 に は 、「コ ン ト ラ ス トの 強 い[は っ き り した]、 鮮 明 な 、 ど ぎ つ い 、(音 ・ 色 な ど が)不 快 な 」 と い う意 が 与 え ら れ 、"a hard color"(ど ぎ つ い 色)や"a hard, bright light"(ぎ ら ぎ ら し た 明 る い 光)と い う例 文 が 収 録 さ れ て い る 。 そ し て 、 softの 項 に は 、 「(色 ・ 光 な ど が)落 ち 着 い た 、 目に 優 しい 、 穏 や か な 、 柔 ら か い 、 くす ん だ 、 地 味 な 」 の 意 が 与 え ら れ 、"soft pink"(優 し い ピ ン ク)と い う例 文 が 収 録 され て い る 。 これ ら の 表 現 の 要 素 は 、 日
本 語 と 英 語 で 共 通 して い る 。 つ ま り、 汎 時 的 な 傾 向 が 見 ら れ る 。 日英 語 で 共 通 性 の 高 い 共 感 覚 表 現 が 生 ま れ る 要 因 は 、 身 体 的 な 感 覚 表 現 に 見 ら れ る 効 果 の 類 似 性 に あ る 。 例 え ば 、 「色 、 香 り、 味 わ い 、 どれ を と っ て も鮮 や か 」(成 美 堂 出 版 編 、1999:23) と い う よ う な 感 覚 表 現 の 頻 度 は 高 い 。 お 米 の 広 告 文 の 「あ じ よ し、 つ や よ し、 か お り よ し」 で は 、 味 覚 の 「味 」、 視 覚 の 「艶 」、 嗅 覚 の 「香 」 が 用 い ら れ て お り、 五 感 が 総 合 的 に 働 い て い る こ と が 示 さ れ て い る 。 自 然 現 象 の 知 覚 で は 五 感 が 複 合 的 に 働 く の が 一 般 的 で あ る 。 五 感 の 表 現 が 融 合 して い る 表 現 に は 、 共 感 覚 表 現 と 判 断 で き る も の が 見 ら れ る 。 例 え ば 、 2.粉 雪 の 舞 う頃 … … 桜 の 枝 を い た だ い て 帰 り、 炊 き 出 して み た ら 匂 う よ うに 美 しい 桜 色 が 染 ま っ た 。 染 場 中 な に か 心 ま で ほ ん の りす る よ う な 桜 の 匂 い が み ち て い た 。 私 は そ の と き 、 色 が 匂 う と い う こ と を 実 感 と して 味 わ っ た 。(志 村 ふ くみ 、1998:18) 3.九 月 の 台 風 の 頃 、 … … そ の 桜 か ら 出 た 色 は 匂 い 立 つ こ と が な か っ た 。 色 は ほ と ん ど 変 わ ら ず ベ ー ジ ュが か っ た ピ ン クだ っ た が 、 色 に 艶 が な か っ た 。(志 村 ふ くみ 、1998:19) 4.静 か で 品 格 の あ る 「甕 の ぞ き 」 と 呼 ば れ る 色 が あ ら わ れ る の は こ の 時 期(藍 の 晩 年)で あ る 。(志 村 ふ くみ 、1998:41) 5.日 本 人 の 色 彩 感 の 原 点 は 、 ま さ に(狩 野)深 幽 の 「新 三 十 六 歌 仙 図 」 に 秘 め ら れ て い ま した 。 そ れ は 匂 うば か り の パ ス テ ル トー ン で した 。(野 村 順 一 、1988:50) 6.紫 も 渋 い 赤 み の あ る 色 か ら 淡 い 鴇 色 ま で 、 一 条 一 条 手 さ ぐ りで す す む 。 一 色 入 れ る た び に 織 の 中 か ら 、 音 色 が き こ え て 来 る 。(志 村 ふ くみ 、1994:62) と い う表 現 が あ る 。 志 村 ふ くみ(1998:18-19)は 、人 間 の 五 感 は ど こか で 繋 が っ て い る こ と、 植 物 に は 周 期 が あ っ て 、 花 の 咲 く前 や 穂 の 出 る 前 の 色 に 精 気 が あ る こ と を 指 摘 して い る 。 そ し て 、 『一 色 一 生 』(1994:63)で は 、 色 の 一 つ ひ と つ が 純 一 に 自 分 の 色 を 奏 で て い て 、 音 階 と 同 様 に 色 階 と い う も の が あ り、 古 来 、 日本 人 は 微 妙 な 色諧 の 判 別 を な し得 た と 考 え て い る 。
3.「 絶 対 音 感 」 教 育 に見 られ る 「共 感 覚 」 の 利 用-共 感 覚 現 象 の 意 味
他 の音 と比 べ る こ と な く、 聞 こえ る音 の高 さが 分 か る音 感 は 、 絶 対 音 感 と呼 ば れ て い る。 そ
の絶 対 音 感 を 身 に 付 け させ る教 育 プ ログ ラ ムで は 、 音 名 を 意 識 させ ない た め に 、 音 名 に 代 わ る
呼 び 名 と して 色(色 旗)が 用 い られ て い る。 これ は 、 単 に 音 階 上 の音 の高 低 関 係 に 基 づ く 「
聞
き比 べ 」 を 避 け るた め に 行 わ れ て い るだ け で 、 音 と色 の結 び つ きに は 何 の意 味 も ない 。 だ が 、
生 じて い る現 象 自体 は 、 共 感 覚 の現 象 で あ る。 こ の よ うな現 象 面(表 面 上)の 共 感 覚 は 、 絶 対
音 感 プ ログ ラ ムだ け で は な く、 他 の分 野 に お い て も確 認 す る こ とが で き る。
絶 対 音 感 プ ログ ラ ムで 身 に 付 け られ て い る和 音 の数 は 、 少 ない 場 合 に は 白鍵 が9個 、 黒 鍵 が
5個 、 合 計14個 で あ る。 多 い 場 合 に は 白鍵 が9個 、 黒 鍵 が15個 、 合 計24個 で あ る。 こ こで は 、
14個 、 あ る い は24個 の 一 連 の 音 と 色 彩 と が 呼 応 して い る 。 共 感 覚 は 単 独 で は 生 じて い な い 。 最 相 葉 月(2002:40)に よ る と 、 シ ン セ サ イ ザ ー の 元 祖 と 呼 ば れ る オ ン ド ・マ ン トノ(電 気 古 楽 器)奏 者 の 原 田 節 氏 は 、 調 べ に よ る 個 性 に 色 彩 を 感 じ て い る よ う で 、 7.「 そ れ ぞ れ の 調(べ)が 、 固 有 の 色 彩 と と も に イ メ ー ジ され る ん で す 。 ち ょ う ど 水 墨 画 の 濃 淡 ぐ ら い の イ メ ー ジ で し ょ うか 。 ハ 長 調 は ニ ュ ー ト ラ ル で 、 シ ャ ー プ や フ ラ ッ トが な い ほ うが 透 明 感 が あ る よ うに 感 じ ま す 。 フ ラ ッ トが 五 つ ぐ ら い つ く と、 グ レ ー が だ ん だ ん 濃 く な る と い うイ メ ー ジ が あ る ん で す 。」(最 相 葉 月 、2002:40) と 表 現 して い る 。 そ して 、 原 田 氏 に ピ ア ノ で ハ 長 調 と ト長 調 の 和 音 を 弾 い て も ら う と 、 移 調 し た 瞬 間 に 「光 が 一 気 に 差 し込 ん だ よ うに 音 の 響 き に 明 る さ が 増 す 」 と い う経 験 を 述 べ て い る 。 ま た 、 コ ン ピ ュ ー タ 音 楽 の 作 曲 家 、 菜 孝 之 氏 の 場 合 は 、1960年 ご ろ に ヤ マ ハ 音 楽 教 室 で 採 用 さ れ て い た 色 音 符 が 浮 か ん で 、 条 件 反 射 的 に 「ドは 赤 、 レは 黄 、 ミは 緑 、 フ ァは オ レ ン ジ 、 ソは 空 色 、 ラ は 紫 、 シ は 白 」(最 相 葉 月 、2002:41)と 目 に 浮 か ぶ と い う。 これ は 、 ヤ マ ハ 音 楽 教 室 で 音 を 色 分 け した 楽 譜 や 鍵 盤 で 練 習 して い た こ と に 拠 る と 述 べ ら れ て い る 。 つ ま り、 色 と 音 の 結 び つ き は 、 必 然 的 な も の で は な く、 個 人 の 生 活 経 験 に 起 因 して い る も の で あ る 。 絶 対 音 感 の 教 育 に 用 い ら れ る 色 の 旗 は 、 自 由 に 決 め ら れ て い る 。 和 音 の 一 例 を 示 す と、 「ド ミ ソ=赤 、 ド フ ァ ラ=黄 、 シ レ ソ=青 、 ラ ドフ ァ=黒 、 レ ソ シ=緑 、 ミ ソ ド=橙(オ レ ン ジ)、 フ ァ ラ ド=紫 、 ソ シ レ=ピ ン ク、 ソ ド ミ=茶 、 ソ シ レ フ ァ=黄 緑 、 シ レ フ ァ ソ=肌 色 、 レ フ ァ ソ シ=藤 色 、 フ ァ ソ シ レ=灰 色 」12)で あ る 。 色 旗 の 数 は13本 で 、 そ れ 以 外 の 音 に は 、 白 旗 が 用 い ら れ て い る 。 共 感 覚 の 現 象 に は 個 人 差 が あ る 。 しか し、 必 ず 一 連 の ま と ま りを 持 っ て お り、 共 感 覚 は ま と ま り ご と の 呼 応 が 確 認 で き る 現 象 で あ る 。
4.感
覚 表 現 の 日英 語 の 相 違-動 詞 で 鳴 く英 語 と副 詞 で 鳴 く 日本 語 の オ ノ マ トペ
感 覚 表 現 とは 人 間 が 身 体 的 に 有 して い る五 官(目
・耳 ・鼻 ・舌 ・皮 膚)を 働 か せ 、 五 感 を 通
して 感 じた こ とを 言 語 化 した 表 現 で あ る。 また 、 す べ て の感 覚 を 総 合 した 能 力 で あ る 「
勘 」 と
い う第 六 感 も存 在 し、 皮 膚 感 覚 で あ る触 覚 に は 、 冷 覚 と温 覚 の温 度 感 覚 、 圧 覚 、 痛 覚 な ど も含
まれ て い る。 五 感 は 、 そ れ ぞ れ 別 の独 立 した 感 覚 で あ るが 、 同時 に 、 身 体 的 感 覚 と して の類 似
性 も見 られ る。 例 え ば 、 聴 覚 自体 は 、 空 気 の振 動 に よ って 鼓 膜 が 揺 り動 か され る とい う点 で 触
覚 的 感 覚 で あ る。 嗅 覚 は 鼻 の皮 膚 感 覚 、 味 覚 は 舌 の皮 膚 感 覚 と も考 え られ る。 従 って 、 嗅 覚 と
味 覚 も触 覚 的 性 質 を 内包 して い る。 五 感 の 内で は 触 覚 が 最 も基 本 的 な感 覚 で あ る と考 え られ る
が 、 近 代 以 降 、 視 覚 優 位 の時 代 が 続 い て い る。 そ こで 、 現 代 は 芸 術 の分 野 も含 め て 、 さ ま ざ ま
の分 野 で 、 視 覚 に 限 らず 、 五 感 の解 放 が 志 向 され て い る時 代 で もあ る。
オ ノ マ トペ に は 感 覚 表 現 だ け で は な く感 情 表 現 も含 まれ て い る ので 、 感 情 表 現 を 除 い た オ ノ
マ トペ の 日本 語 と 英 語 の 根 本 的 な 相 違 に つ い て 考 え て お き た い 。 オ ノ マ トペ を 意 味 す る 英 語 は "onomatopoeia"で 、 フ ラ ン ス 語 は"onomatopee"、 そ の 原 義 は ギ リ シ ャ語 の"onoma`a name' +Poiein`to make'"「 命 名 す る 」 と 考 え ら れ 、 広 義 の 解 釈 で は 擬 声 語 、 擬 音 語 、 擬 態 語 を 含 め て 「オ ノ マ トペ 」 と 見 な さ れ て い る 。 感 覚 表 現 の 中 に は 、 「し く し く(泣 く)」 の よ うに 人 間 の 声 や 動 物 の 鳴 き 声 を 模 倣 し て 言 語 音 で 表 現 し た 擬 声 語(voice onomatopoeia)や 、 「(具材 を 弱 火 で)コ ト コ ト(煮 詰 め る)」 の よ う に 自然 界 に 存 在 す る 事 物 の 音 を 模 写 し て 造 られ た 擬 音 語 (sound onomatopoeia)が 含 ま れ る 。 そ し て 、 「ひ りひ り(痛 む)」 「に こ に こ(顔)」 「(調理 法 の 説 明 で)し ん な り と(柔 ら か く な る)」 「(星が)き ら き ら(耀 く)」 の よ うに 、 実 際 の 音 で は な い が 、 痛 み の 感 覚 や 、 動 作 、 事 物 の 状 態 を 言 語 音 で 象 徴 的 に 表 した 表 現 が あ る 。 そ の 擬 態 語(mimesis)の 中 に も 感 覚 表 現 と判 断 で き る 語 句 が 存 在 す る 。 しか し、 擬 態 語 の 中 に は 「い ら い ら(し て い る)」 「ど き ど き(す る)」 「わ くわ く(す る)」 の よ うに 人 間 や 動 物 の 感 情 ・心 理 状 態 を 表 す 語 句 、 つ ま り、 感 情 語 も 存 在 す る の で 、 す べ て の 擬 態 語 を 感 覚 表 現 と 考 え る こ と は で き な い 。 擬 声 語 と擬 音 語 が 、 狭 義 の 解 釈 の オ ノ マ トペ と 考 え ら れ て い る 。 だ が 、 「声 」 も 「音 」 の 一 種 で あ る た め 、 擬 音 語 の 中 に 擬 声 語 が 含 め ら れ る 場 合 が 多 い 。 そ こ で 、 オ ノ マ トペ の核 と な る 表 現 は 、 一 般 的 に は 擬 音 語 と 擬 態 語 と 考 え ら れ て い る 。 日本 語 の 犬 の 鳴 き 声 「ワ ン ワ ン 」 に 相 当 す る 英 語 は"bowwow"で 、"bowwow"だ け で "bark"の 意 で 動 詞 と し て 用 い ら れ る 。 だ が 、 日 本 語 の 動 詞 形 は 「ワ ン ワ ン ほ え る」 と表 現 さ れ 、 「ワ ン ワ ン」 は 副 詞 で あ る 。 犬 が ワ ン ワ ン鳴 く場 合 に は 、 英 語 で は"(Dogs)bowwow" と 表 現 し、 怒 っ て う な る 場 合 は"growl"、 遠 吠 え す る 場 合 は"howl"、 ウ ー と 歯 を む い て う な る 場 合 に は"snarl"、 ぐず る よ うに ク ン ク ン 鳴 く場 合 に は"whimper"、 悲 しそ うに ク ン ク ン 鳴 く場 合 に は"whine"、 低 い 声 で ウ ー と う な る 場 合 に は"woof"、 子 犬 が キ ャ ン キ ャ ン ほ え た て る 場 合 に は"yap"、 怒 っ て キ ャ ン キ ャ ン 鳴 く場 合 に は"yelp"、 子 犬 が 甲 高 い 声 で キ ャ ン キ ャ ン ほ え る 場 合 に は"yap"と い う動 詞 が 使 わ れ る 。 英 語 で は 動 詞 表 現 で あ る 。
Andrew C. Changは 、 日本 語 の オ ノ マ トペ の 特 徴 と し て 、"their vast number, extremely subtle nuances and high context"(そ の 数 の 膨 大 さ 、 ニ ュ ア ン ス が 極 め て 微 妙 な こ と 、 文 脈 依 存 度 の 高 さ)を 挙 げ て い る 。 そ して 、 オ ノ マ トペ の 果 た して い る 機 能 に つ い て は 、
8.The role of this sound symbolism is a very important one because Japanese has a very limited number of verbs. One role of mimeses and onomatopoeia, then, is to fill in the gap and provide a means for concise expression when a sufficiently descriptive verb does not exist. They make the language vivid. They conjur up imagery instantly in the mind of the native speaker, thus producing a synaesthetic effect.
(こ の 音 象 徴 〔擬 声 語 ・擬 音 語 ・擬 態 語 〕 の 役 割 は 、 日本 語 の 動 詞 の 数 が 非 常 に 乏 しい の で 、 大 変 重 要 で あ る 。 そ こ で 、 擬 態 語 と オ ノ マ トペ 〔擬 声 語 をvoice onomatopoeia、
擬 音 語 をsound onomatopoeiaと 呼 ぶ 〕 の 役 割 の 一 つ は 、 十 分 に 記 述 的 に 表 現 す る 動 詞 が な い 場 合 に 、 そ の ギ ャ ッ プ を 埋 め て 〔記 述 的 な 役 割 を 担 っ て 〕 簡 潔 に 表 現 す る こ と が で き る よ うに す る こ と で あ る 。 そ れ ら 〔擬 態 語 と オ ノ マ トペ 〕 を 用 い る こ と に よ っ て 、 生 き 生 き した 表 現 に な る 。 母 語 話 者 の 心 に 、 即 座 に イ メ ー ジ を 呼 び 起 こ さ せ る こ と が で き 、 従 っ て 、 共 感 覚 的 な 効 果 を 作 り 出 して い る 。)(「 共 感 覚 的 効 果 」 と指 摘 す る 。) 9.Japanese is uniquely rich in this type of expression, which is frequently used in daily
con-versation, magazines and newspapers, especially for headlines, because of its brevity and power to project vivid imagery. (日 本 語 に は こ の 種 の 表 現 〔オ ノ マ トペ 〕 が 、 比 類 な く 〔他 の 言 語 に 比 べ て 〕 豊 か で 、 日常 会 話 や 、 新 聞 や 雑 誌 、 特 に 見 出 しで 、 よ く用 い ら れ て い る 。 そ れ は 、 簡 潔 さ と 、 生 き 生 き と した イ メ ー ジ を 与 え る 力 が 備 わ っ て い る た め で あ る 。) と 述 べ て い る13)。 欧 米 語 の オ ノ マ トペ は 単 に 音 声 表 象 と し て 用 い ら れ て い る の に 対 し て 、 日 本 語 の オ ノ マ トペ 、 特 に 擬 音 語 は 「音 響 の 世 界 で 跳 躍 的 連 想 力 の 翼 を 伸 ば す も の 」(p.iii)で あ る と 指 摘 さ れ て い る 。 そ れ で は 、 な ぜ 、 日本 語 で は 動 詞 が 限 ら れ て い る の で あ ろ うか 。 赤 ん 坊 の 泣 き 声 の 「お ぎ ゃ あ 」 に 相 当 す る 英 語 の擬 声 語 は 、 英 語 に は 見 ら れ な い 。 英 語 で は "cry"と い う動 詞 に よ っ て 表 さ れ る 。 同 様 に 、 日本 語 の 「ゴ ク ン と 飲 む 」 に 相 当 す る 動 詞 に は "gulp"が あ る が 、 副 詞 の 「ゴ ク ン と 」 に 相 当 す る 英 語 は 見 ら れ な い 。 「ゴ ク ン 」 の 他 に 、 「ご っ く ん 」 「ご く ご く」 「ご く り」 「ご く っ」 も あ り、 日本 語 で は 新 し い オ ノ マ トペ を 実 に 容 易 に 造 る こ と が で き る 。 「飲 み 込 む 、 ぐ っ と 飲 む 」(swallow)は 行 為 を 表 し て い る が 、 副 詞 の 「ゴ ク ン と 」 は 状 況 を 表 して い る 。 日本 語 で は オ ノ マ トペ の 副 詞 が 付 く こ と に よ っ て 、 状 況 の 表 現 に な っ て い る 。 だ が 、 英 語 で は 行 為 と して 表 現 さ れ て い る 。 代 表 的 な 用 例 を 以 下 に 示 す 。 10.「 ご ぽ ご ぽ 音 が す る 」"gurgle, burble" ll.「(熊 が)ウ ー と う な る 」 ``(Bears)growl." 12.「(コ ウ モ リが)チ ッチ ッ と 鳴 く」``(Bats)chip(-chip)." 13.「(小 鳥 が)ピ ー ピ ー さ え ず る 」"(Little birds)warble."
14.「(猫 が)ニ ャ ー オ と 鳴 く」"(Cats)mew[miaow, miaul, caterwaul, purr]." 15.「(雌 牛 が)モ ー と 鳴 く」"(Cows)moo(low)." 16.「(蝉 が)チ ッチ ッ と 鳴 く」``(Cicadas)chir."(カ エ ル に はcroakを 用 い る 。) 17.「(コ ウ ロ ギ が)チ リ ッチ リ ッ と 鳴 く」``(Crickets)chirp[chirr]." 18.「(カ ラ ス が)カ ア カ ア 鳴 く」``(Crows)caw."(ア ヒ ル に はquackを 用 い る 。) 19.「(カ ッ コ ウ が)カ ッ コ ウ 、 カ ッ コ ウ と 鳴 く」 ``(Cuckoos)cuckoo."14) 日本 語 の オ ノ マ トペ は 副 詞 で あ る が 、 英 語 で は 動 詞 で 表 現 さ れ て い る 。 こ の 日英 語 の 相 違 は 、 「彼 女 は 怒 っ て 目 を ぎ ら ぎ ら さ せ て い た 」 は"She glared angrily."で 、 「ジ ッ と 見 る 」 は
"stare"
、 「チ ラ ッ と 見 る 」 は"glance"と い う動 詞 で 表 現 す る の と 同 様 で あ る 。 「軽 く トン トン と た た く こ と 」 は 、"a soft tap"と 表 現 さ れ る 。 こ の よ うに 英 語 の 動 詞"tap"は 、 品 詞 転 化 が 生 じ、 名 詞 と して 用 い ら れ て い る が 、 日本 語 の 「トン トン と 」 は 常 に 副 詞 と して 用 い ら れ て い る 。 英 語 で は 無 理 に 飲 み 込 む 場 合 に は 、 句 動 詞 の"swallow down"と か"get down"と 表 現 さ れ 、 副 詞 のdownが 用 い ら れ る 。 英 語 で は 異 な る 動 詞 が 用 い ら れ 、 副 詞 は 同 じdownを 用 い て い る 。 そ れ に 対 して 、 日本 語 で は 副 詞 の オ ノ マ トペ が 変 化 す る こ と に よ っ て 微 妙 な 意 味 の 差 が 表 現 さ れ て い る 。 日本 語 の 副 詞 表 現 と 英 語 の 動 詞 表 現 と い う対 応 は 、 顕 著 で あ る 。 日本 語 で は 「む し ゃ む し ゃ 食 う」 と 副 詞 の オ ノ マ トペ を 用 い る が 、 英 語 で は"champ"と い う動 詞 で 表 現 す る 。 日本 語 の 「む し ゃ む し ゃ 」 は 、 聴 覚 だ け で は な く、 視 覚 も 関 与 して い る と 考 え ら れ る 。 こ の よ うに オ ノ マ トペ は 、 一 つ の 感 覚 だ け で は な く、 複 数 の 感 覚 に 関 与 す る こ と に よ っ て 、 素 朴 で 微 妙 な 意 味 を 伝 え る こ と が 可 能 に な っ て い る 。 楳 垣 実(1961:247-56)は 、 日本 人 は 副 詞 の オ ノ マ トペ を 用 い て 泣 くが 、 英 語 国 民 の 人 は 動 詞 を 用 い て 泣 く こ と を 指 摘 し 、 「ワ ー ワ ー 泣 く」 は"cry"、 「メ ソ メ ソ泣 く」 は"weep"、
「ク ス ン ク ス ン 泣 く」 は"sob"、 「オ イ オ イ 泣 く」 は"blubber"、 「シ ク シ ク 泣 く」 は"whim-per"、 「ワ ン ワ ン泣 く」 は 「遠 ぼ え す る 、 泣 き わ め く」 の 意 も あ る"howl"、 「ヒ ー ヒ ー 泣 く」 は"pule"、 「オ ギ ャ ー と泣 く」 は"mewl"を 用 い る こ と を 指 摘 して い る 。 声 を あ げ て 泣 く場 合 に は 、"wail"が 用 い ら れ る 。 英 語 で は 動 詞 を 使 っ て 笑 う の に 対 し て 、 日本 語 は 副 詞 の 感 覚 表 現 を 用 い て 笑 う と 指 摘 し て い る 。 「ハ ハ ハ と笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は 英 語 で は"laugh"、 「ニ コ ニ コ 笑 う」(視 覚 の 副 詞)は"smile" 、 「ク ツ ク ツ笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は"chuckle"、 「ワ ッ バ ッ ハ と 笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は``haw-haw"、 「イ ヒ ヒ と 笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は``giggle" (snicker, laugh disrespectfullyと も)、 「ニ タ ニ タ笑 う」(視 覚 の 副 詞)は"snigger"、 「オ ホ ホ と 笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は"simper"、 「ニ ヤ リ と笑 う」(視 覚 の 副 詞)は"grin"、 「ク ス ク ス 笑 う」(聴 覚 の 副 詞)は"titter"や"chuckle, giggle, snigger"と い う動 詞 や 、 感 情 を 表 わ す 副 詞 と と も に"laugh nervously"と 表 現 され る。 や は り英 語 で は 動 詞 で 表 現 され て い る。 日本 語 で は な ぜ オ ノ マ トペ が 多 用 さ れ る の で あ ろ う か 。 そ の 理 由 に つ い て は 、 『日英 対 照: 擬 声 語(オ ノ マ トペ)辞 典 』(1980)で は 、 オ ノ マ トペ の 使 用 は 、 「日本 人 の 自 然 現 象 に 対 す る 感 覚 的 繊 細 さ 、 ひ い て は 自 然 に 敵 対 す る と い う よ りは 、 自 然 に 親 しみ 、 そ れ と 合 一 し よ う と す る 日本 人 の 精 神 構 造 と深 い と こ ろ で 結 び つ い て い る よ うに 、 編 者 は 感 得 して い る 。」(p.v)と 指 摘 して い る 。 確 か に 日本 語 に は 俳 句 の 季 語 の よ うに 自 然 や 季 節 感 を 大 切 に す る 精 神 が 見 ら れ る 。 そ れ で は 、 な ぜ 日本 語 で は 自 然 や 季 節 感 が 重 視 さ れ る の で あ ろ うか 。 季 節 感 よ り も 、 も っ と 深 層 の 根 本 的 な 文 化 的 要 素 が 存 在 す る と 考 え ら れ る 。 飯 島 英 一(2004:10-59)は 日本 語 文 化 の 「素 朴 さ 」、 つ ま り、 「無 邪 気 で 素 朴 な 日本 語 」 の 特 徴 を 反 映 す る と 考 え て い る 。 こ の 指 摘 は 、 即 物 的 ・即 自 的 な 発 想 の 例 と い う考 え と 「抽 象 名
詞 の発 育 不 全 」(p.10)か
ら導 き出 され た 結 論 で あ る。 そ れ で は、 日本語 に は な ぜ 即物 的 ・即
自的 な発 想 の オ ノ マ トペ が よ く用 い られ る ので あ ろ うか 。 日本 語 に は 「
素 朴 さ」 とい う特 徴 よ
りも、 も っ と深 層 に あ る根 本 的 な文 化 的 要 素 が 存 在 して い る と考 え られ る。
そ の文 化 とは 、 自然 とい う状 況 や 、 人 と人 の間 の関 係(つ
ま り、 そ れ ぞ れ の立 場 や 状 況)を
重 視 す る精 神 に あ る。 つ ま り、 状 況 中 心 性 に あ る。 また 、 日本 語 の美 しさは 敬 語 に あ る と考 え
られ る。2007年2月
に は 敬 語 を 大 切 に す る とい う考 え に 基 づ い て 、 尊 敬 語 ・謙 譲 語 ・丁 寧 語 と
い う三 分 類 の敬 語 か ら、 尊 敬 語(「 い ら っ し ゃ る、 な さ る」 の よ うに 相 手 側 や 第 三 者 を 立 て て
述 べ る敬 語)・ 謙 譲 語1(「
伺 う、 拝 見 す る」 の よ うに 敬 意 の 「向か う先 」 の人 物 を 立 て て 述 べ
る敬 語)・ 謙 譲 語2(「
参 る、 申す 」 の よ うに 自分 側 の 行 為 ・物 事 を 丁 重 に述 べ る敬 語)・ 丁 寧
語(「 で す 、 ます 」 の よ うに 丁 寧 に 述 べ る敬 語)・ 美 化 語(「 お 酒 、 お 料 理 」 の よ うに物 事 を 美
化 して 述 べ る敬 語)と い う五 分 類 の敬 語 に 改 め られ て い る。 敬 語 に は お 互 い を 敬 う気 持 や 人 と
人 の間 の状 況(関 係)が 反 映 され て い る。 敬 語 を 尊 重 す る精 神 の核 に 、 状 況 中 心 性 が あ る。
阿 刀 田稔 子 ・星 野 和 子(1993:i)は
、擬 態 語 は 「日本 人 の 感 性 の 所 産 」 で あ り、 「事 態 を 把
握 す る姿 勢 や 、 機 能 に 見 られ る多 様 な変 容 な どか ら 日本 語 の発 想 の本 質 を 端 的 に 示 して い る言
語 現 象 で あ る こ と」 が 窺 わ れ る と適 切 に 述 べ て い るが 、 そ の核 心 を 衝 い て い ない 。
日本 語 と英 語 の オ ノ マ トペ の品 詞 の相 違 に は 、 フ ォー カ ス の相 違 が 見 られ る。 つ ま り、 異 な
る動 詞 を 用 い る英 語 は 人(話
し手)に 主 体 が あ る のに 対 し、 副 詞 を 用 い る 日本 語 は 状 況 に 主 体
が あ る。 日本 語 が 副 詞 の オ ノ マ トペ を 用 い る とい うこ とは 、 日本 語 が 「
動 詞 中 心 の言 語 」 で あ
り、 状 況 中 心 の言 語 で あ る こ とを 反 映 して い る。 そ れ に 対 して 、 英 語 で は 擬 音 語 や 擬 態 語 の意
味 要 素 を 含 む 動 詞 を 用 い て 表 現 す る。 そ の事 実 は 、 英 語 は 動 詞 中 心 とい うよ りは 「
名 詞 中 心 の
言 語 」 で あ り、 行 為 者 中 心 の言 語 で あ る こ とを 反 映 して い る。
5.お わ り に 色 彩 の 調 和 ・不 調 和 な ど の 色 彩 感 覚 に は100%の 確 実 性 は 見 ら れ な い が 、 普 遍 的 な 傾 向 の 色 彩 感 覚 が 存 在 す る 。 色 彩 と 音 、 色 彩 と 味 、 色 彩 と 匂 い の 間 に は 、 深 い 関 連 が あ る こ と は 間 違 い な い15)。 「色 聴 」 の 他 に 、 「色 階 」 「色 味 」 「色 匂 」 と い う表 現 も 造 られ て い る16)。 例 え ば 、 フ ラ ン ス の 印 象 派 の 代 表 的 な 画 家Claude Monet(1840-1926)は 、 点 描 と い う手 法 で 色 彩 の 微 妙 な 階 調 の 妙 を 表 現 して お り、 ス イ ス の 画 家Johannes Itten(1888-1967)は12色 相 環 を 基 に 明 暗 の 階 調 も12段 階 に 分 類 し、3色 や4色 の 響 き に よ る 色 彩 和 音 法 を 考 え て い る 。Ittenは 『色 彩 論 』 で 「わ れ わ れ 〔画 家 〕 は 、 音 楽 家 が12の 音 階 を 聞 き わ け る よ うに 、12の 色 調 を 正 確 に 見 分 け な け れ ば な ら な い 」(p.30)と 述 べ 、7つ の 色 彩 対 比(色 相 ・明 度 ・寒 暖 ・補 色 ・明 暗 ・同 時 ・彩 度 ・面 積)と12色 環 に 基 づ く二 色 調 和(dyads)・ 三 色 調 和(triads)・ 四 色 調 和(tetrads)・ 白 と黒 を 加 え た 五 色 調 和(pentads)と
六 色 調 和(hexads)な
ど の配 色 を考 え て
い る。 芸 術 家 た ち の感 性 で は 、 視 覚 と他 の五 感 と の呼 応 は 自然 現 象 の一 部 の よ うで あ る。
日本 語 と英 語 の間 で 構 成 要 素 の共 通 性 が 高 い 共 感 覚 表 現 は 、 表 現 上 の汎 時 的 傾 向を 示 して い
る。 構 成 要 素 が 異 な って い る場 合 に は 、 英 語 や 日本 語 の背 景 に あ る独 特 の文 化 を 反 映 して い る
と考 え られ る 。 「
渋 い 色 」 に は 、 複 合 的 で微 妙 な 色 彩 を 好 む 日本 の伝 統 的 な美 意 識 が反 映 して
い る。 英 語 に は 日本 語 の 「
渋 い 色 」 の よ うに 、 味 が 渋 い こ とを 表 すastringentとcolorと
を 結
合 させ た 表 現 は ない 。 「
渋 い色 」 を表 す 英 語 の共 感 覚 表 現"a quiet
color"に は 、 説 得 力 のあ る
表 現 を 重 視 す る英 語 の論 理 性 が 反 映 して い る。 「
渋 い色 」 に は察 しの文 化 が反 映 して い る。
日本 語 に 見 られ る オ ノ マ トペ の多 様 さは 、 日本 人 の五 感 の感 性 の豊 か さを 反 映 して お り、 日
本 語 の特 徴 の一 つ で あ る。 そ の オ ノ マ トペ に よ る表 現 の豊 か さは 、 日本 語 の神 髄 で あ る 「
凝 縮
され た 表 現 の妙 」 と密 接 に 関 連 して お り、 日本 語 の 「
素 朴 さ」 とい うよ りは 、 切 り詰 め る とい
う 日本 語 の本 質 的 性 質 を 反 映 して い る表 現 で あ る。 そ の表 現 の豊 か さは 、 日本 語 の状 況 中 心 表
現 を 好 む 傾 向 を反 映 して い る と解 す べ きで あ る。 これ に 対 して 、 英 語 の擬 音 語 の 動 詞 は 、 「
誰
が 」 とい う行 為 者 中 心 の表 現 を 好 む 傾 向を 反 映 して い る。 副 詞 は 、 陳 述 副 詞 、 程 度 副 詞 、 状 態
副 詞 に 分 け る こ とが で き るが 、 日本 語 の オ ノ マ トペ は 、 明 らか に 状 態 副 詞 で あ る。
最 後 に 、 新 村 出(編)(1998)『
広 辞 苑 』(第5版)の
色 聴 の定 義 は 、 共 感 覚 が 単 独 で 現 れ る
現 象 で は な く、 一 連 の ま とま りを持 って 生 じる現 象 で あ る こ とを 考 慮 す る と、 「あ る音 を 聞 く
とそ れ に伴 って 一 定 の色 が 見 え る現 象 」(p.ll49)で
は な く、 「あ る一 連 の 音 を 聞 く とそ れ に
伴 って(あ
る程 度 共 通 性 のあ る)一 定 の色 が 見 え る現 象 」 と定 義 す る ほ うが適 切 で あ ろ う17)。
John HarrisonのSynaesthesia: The Strangest
Thing(『 共 感 覚-も
っ と も奇 妙 な知 覚 世 界 』)や
Patricia
Lynne DaffyのBlue Cats
and Chartreuse
Kittens(『 青 い ネ コ と淡 黄 緑 色 の子 ね こ』)な
どに は 確 か に 「
奇 妙 な知 覚 世 界 」 や 「
不 思 議 な世 界 」 とい う強 烈 な 印象 の表 現 が 用 い られ て い
るが 、 単 な る感 情 次 元 で の連 合 と判 断 で き る事 例 も含 まれ て お り、 そ の表 現 が 示 す ほ ど の特 異
性 は 示 され て い ない 。 聴 覚 刺 激 に よ って 視 覚 が 生 じる色 聴 の 『
広 辞 苑 』 の定 義 は 、 広 く利 用 さ
れ て い る定 義 で あ るが 、 個 人 差 の存 在 を 表 す こ とが で き、 なお か つ 、 共 感 覚 は 単 な る感 情 次 元
で の連 合 で は な く、 感 覚 次 元 で の結 合 で あ る こ とが 明確 に 示 され る必 要 が あ る。
註
1)日 本 で は1970年 ご ろ か ら京 都 市 や鹿 児 島 県 に 景 観 条 令 が 設 け られ 、 公 共 の色 彩 を考 え る 会 が1981年 春 に 都 バ ス の黄 と赤 の配 色 に対 す る 改善 運 動 の 会 と して 発 足 してい る。 騒 色 の追 放 が 公共 の 色 彩 で は 当 初 か らの 重 要 な主 張 で、1970年 代 か ら 「さわ が しい 」 の意 の 「騒 」 が 用 い られ て い る が 、1950年 代 に は 「街 の燥 音 ・燥 色 」 とい うよ うに 「燥 」 とい う文 字 が 用 い られ て いた(cf.日 本 色 彩 学 会 編 、1991:167)。 心 理 学 で は、 共 感 覚 は 「モ ダ ール 問 現 象 」(intermodal phenomenon:〔 異 な っ た 感 覚 問 に 共 通 す る〕 通 様 相 性 の 現 象)と 考 え られ て い る。 2)2007年 現 在 の 日本 で は、 諺 の表 現 を も じ った 「出 過 ぎた 杭[釘]は 打 た れ な い 」 と言 って激 励 され る だ け で は な く、 直 接 的 な表 現 で 「出 る杭 とな れ 」 と激 励 され た り、 兵 庫 県 の 「西 播 磨 出 る杭 プ ロ ジ ェ ク ト」 の よ うに 、 地 域 や 会 社 で 出 る杭(頑 張 る人 た ち)を 発 掘 し、 積 極 的 に応 援 し伸 ば そ う とす る企 画(取 り組 み)が 進 め られ る よ うに な っ て い る 。 な お 、 「鳴 く蝉 よ りも鳴 か ぬ 蛍 が 身 を 焦 が す 」 とい う諺 は 、 言 葉 で 言 う者 よ りも言 葉 に しな い 者 の ほ うが 思 い が 切 実 で あ る と い う意 で 、謙 遜 を 美 徳 とす る 日本 文 化 の 一 面 を 反 映 して い る。
3)2005年 は 「か わ い い 者 た ち の 年(the year of the adorable)」 と指 摘 され て い る。 小 さ くて 美 しい こ と を 表 して い た 「か わ い い」 とい う言 葉 は 、 今 で は 子 供 た ちだ け では な く、 パ ンダ や ペ ンギ ンの よ うな 動 物 、 小 型 車 、 大 人 の行 動 、 聴 覚 的 要 素(声 な ど)に 対 して も用 い られ て い る 。2006年1月3日 の The.New York Timesで は 、 か わ い い(cute)と 感 じる要 素 と して 、"extreme youth, vulnerability, harmlessness and need"(極 端 な若 さ 〔幼 さ〕、 傷 つ きや す さ、 無 害 さ、 困 窮 した 状 態)と い う4つ の 性 質 を 挙 げ てい る。 そ の他 に 、 弱 弱 し さ、 無 邪 気 さ、 心 を 和 ませ る も の、 とい う要 素 も見 られ る。 人 間 が 赤 ん坊 の 世 話 を す る とい う人 間 の本 能 と 「か わ い い 」 の 感 情 とが 結 び つ い て お り、 「か わ い い 」 に は 赤 ん 坊 の よ うに 弱 弱 しい もの に 対 す る優 し さが 反 映 して い る。 4)例 え ば 、 「お い しい色 」 「お い しい 香 り」 「美 しい 色 合 い と深 み の あ る味 」 な どが 用 い られ て い る 。 英 語 のsweetや 日本 語 の 「甘 い 」 と 同様 に、 日本 語 の味 覚表 現 の 「お い しい 」 も、 視 覚 ・聴 覚 ・嗅 覚 表 現 と と もに 用 い る こ とが で きる の で 、 共 通 感 覚(sensus communis)の 要 素 が 強 い と判 断 で き る。 な お 、 「旨味 」 は 日本 語 の 造 語 で 、 英 語 に も採 用 され て い る。cocktailの 原 義 は 「雄 鶏 の 尻 尾 」 の 意 で 、 whisky, whiskey(ラ イ麦 な どに麦 芽 や 酵 母 を 加 え 発酵 させ 蒸 留 して作 る ア ル コ ール 分 の多 い 洋 酒) や 、brandy(特 に 白ぶ ど う酒 を蒸 留 して作 った 洋 酒)、 gin(17世 紀 に オ ラ ン ダで トウモ ロ コ シ と大 麦 、 ライ 麦 な ど の穀 物 を 原 料 に 蒸 留 した 無 色 透 明 な洋 酒)、vodka(ロ シア 原 産 の ア ル コ ール 分40∼60%の 酒)な ど の蒸 留 酒 を基 本 に して リキ ュ ール 類 、 シ ロ ップ、 果 汁 、 炭 酸 飲 料 、香 料 、 氷 片 な どを 加 え 、 混 ぜ て調 合 した 混 成 酒 を意 味 す る 。 混 合 に よ って 生 じ る飲 食 物 の微 妙 な色 の表 現 に 、共 感 覚 表 現 は 適 して い る。 しか し、 多 くの 聴 衆 に 語 りか け る必 要 の あ る劇 や 、 演 説 、 説 教 に は 適 して い な い 。 5)イ ン タ ー ネ ッ トで 検 索 す る と 現 在 で も 、 共 感 覚 の 定 義 に は 、 フ リー 百 科 事 典 『ウ ィキ ペ デ ィ ア (Wikipedia)』 の 「あ る刺 激 に 対 して通 常 の感 覚 だ け で な く異 な る種 類 の 感 覚 を も生 じ させ る一 部 の 人 に み られ る特 殊 な現 象 」 の よ うに 、共 感 覚 を 「特 殊 な現 象 」 と考 え る説 が散 見 され る。 そ して 、 そ の 特 殊 性 を 理 解 させ るた め に 、 数 字 の7を 青 色 、 音 階 の ミの音 を緑 色 、 ハ ンバ ー グの形 を 苦 い 味 と感 じ る、 とい う特 異 な用 例 が用 い られ て い る。 と ころ が 、 共 感 覚 は、 現 在 で は普 通 の 人(共 感 覚 者 で な い 人)も 十 分 に 理 解 で き る表 現 で 説 明 して い る辞 典 も編 纂 され て い る。 6)趙 青(Zhao, Quing)(2006:27)。 7)日 本 色 彩 学 会 編(1991:233)で は 、食 品 の 味 は 、 色 相 の 濃 淡 を 含 め て 、見 た め の 色 彩 の影 響 を 受 け て お り、 緑 色 の ミカ ン よ りも黄 赤 の ミカ ンの ほ うが 甘 く見 え、 茶 色 が か っ た レモ ンは酸 味 を 強 く感 じ
る こ と を 指 摘 して い る 。 8)具 体 的 な 例 と して 、 「文 字 を 見 る と 匂 い が す る 、 キ ー キ ー と い う音 を 聞 く と悪 寒 が 走 る 、 高 い と こ ろ か ら 見 下 ろ す と 不 愉 快 な 感 覚 を 下 股 に 経 験 す る 」 と い う 自 然 な 現 象 が 挙 げ られ て い る 。 そ し て 、 耳 へ の 刺 激 に よ っ て 音 が 聞 こ え る だ け で は な く、 色 や 光 が 目に 浮 か ぶ と い う現 象 の よ う に 、 刺 激 と な る 感 覚 を 一 次 感 覚 、 そ れ と 異 な る 別 の 感 覚 を 二 次 感 覚 と す る と 、 二 次 感 覚 は 視 覚 で あ る こ と が 多 く、 視 覚 が 一 次 感 覚 の 場 合 は ま れ で あ る と 指 摘 さ れ て い る 。Cf.日 本 色 彩 学 会 編(2003:138)。 9)「 弦 楽 器 の 音 色 」 の 「音 色 」 と は 、 そ れ ぞ れ の 音 が 持 っ て い る す べ て の 個 性 を 統 合 した も の 、 つ ま り、 「音 の 全 人 格 」 と 考 え ら れ て い る(cf.日 本 音 響 学 会 編 、1996:48)。 10)Cf.日 本 色 彩 学 会 編(1991:20)。
ll)日 本 語 の 「濃 い 赤 」 は 、"deep red"、 「濃 い 色 の 」 は"deep-colored"と 言 わ れ る 。"deep"と い う dimension(空 間 表 現 、 奥 行 き の 感 覚)+色 彩 語 と い う構 造 に な っ て い る 。 12)江 口 寿 子(1991:87)。 13)メ デ ィ ア の 言 語 に も五 感 を 通 して 感 じ た こ と を 言 語 化 し た 感 覚 表 現 が 用 い ら れ て い る 。 例 え ば 、 「自 慢 の 直 球 が ビ ュ ン ビ ュ ン走 る 」 「ピ ク リ と も動 か な い 阿 部 の ミ ッ ト」 な ど 。 日 本 語 で は 「ビ ュ ン ビ ュ ン 」 と い う副 詞 が 用 い ら れ る が 、 英 語 で は"zing"や"zip"と い う動 詞 が 用 い られ る 。 14)Cf.藤 田 孝 ・秋 保 慎 一(編)(1984:620-23)。 「英 語 の 動 物(鳥 ・虫)の 鳴 き 声 一 覧 」 が 、 動 物 の 名 前 の 頭 文 字 の 順 に 、81例 が 収 録 さ れ て い る 。
15)Cf.野 村 順 一(1988:74)。 野 村 順 一(1988:74)は 、 色 彩(colors)と 感 情(emotional reactions) の 深 い 関 係 に つ い て 言 及 し、 自殺 者 の 数 、 従 業 員 の 欠 勤 率 、 室 内 の 温 度 感 に 色 彩 が 影 響 し て お り、 心
理 的 温 度 差 は 摂 氏3度 で あ る と 述 べ て い る 。
16)藤 田 孝 ・秋 保 慎 一(編)(1984:i)は オ ノ マ トペ が 「日本 語 の ア ル フ ァで あ り、 オ メ ガ で あ る の で は な い か 」 と 述 べ て い る 。 ま た 、 五 味 太 郎(監 修 ・制 作)(1989:3)は 、 擬 態 語 は 「言 葉 の 素 」 の よ うな も の で 、"After all, onomatopoeic expressions are not really language;they are, in a sense, raw language."(そ も そ も 擬 態 語 は 言 語 で は な く、 「言 葉 の 素 」 み た い な も の)と 言 及 し て い る 。 17)音 刺 激 に よ っ て 色 覚 を 伴 う現 象 で あ る 色 聴 は 、 子 供 に は 共 有 さ れ て お り 、 た ぶ ん 原 始 人 に は 広 く存 在 し た と 考 え ら れ て い る 。「香 階 」 に 関 して は1855年 にS.ピ ー ス が 、 ド=ロ 一 ズ 、 レ=す み れ 、 ミ=ア カ シ ア 、 フ ァ=月 下 香 、 ソ=オ レ ン ジ フ ラ ワ ー 、 ラ=刈 りた て の 牧 草 、 シ=ニ ガ ヨ モ ギ 、 ド=樟 脳 、 レ=ア ー モ ン ド、 ミ=オ レ ン ジ 、 フ ァ=黄 水 仙 、 ソ=ラ イ ラ ッ ク、 ラ=ト ン カ豆 、 シ=ミ ン ト、 ド= ジ ャ ス ミ ン 、 レ=ベ ル ガ モ ッ ト、 ミ=レ モ ン の 一 種(Cedrat)、 フ ァ=ア ン バ ー 、 ソ=マ グ ノ リ ア 、 ラ=ラ ベ ン ダ ー 、 シ=ペ パ ー ミ ン ト、 と 考 え て い る 。Cf.中 村 祥 二(1989:259-64)。