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<症例報告>一過性の代謝性アシドーシスを呈したメッケル憩室による絞扼性イレウスの乳児例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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緒  言  メッケル憩室は,1809 年に Meckel によっ て報告された卵黄管遺残による真性憩室であ る。症候性メッケル憩室の腹部症状には,憩室 からの出血,絞扼性イレウスによる血便や腹 痛などがある1)。小児急性腹症の代表的疾患の 一つであるが,さまざまな症状を呈するため, 確定診断までに難渋することが多い。Active observation は Jones らが多彩な症状を呈し診 断確定が困難な小児急性虫垂炎疑い症例に対し て提唱した診断法であり,入院管理として絶食, 補液を行い,バイタルサイン,身体所見の確認 を 2 − 3 時間ごとに繰り返す手法である2)。今 回我々は,代謝性アシドーシスを契機に入院し た児に対し,active observation に準じた十分 な経過観察を実施し早期診断に至ったメッケル 憩室による絞扼性イレウスの症例を経験したた め報告する。 【患児】生後 1 ヶ月 8 日,女児。 【家族歴】特記すべき家族歴なし。 【出生歴】在胎 37 週 4 日に経腟分娩にて出生。 出生体重 2,614 g,Apgar 9/10。 【現病歴】第 1 病日,夕から哺乳後の嘔吐が見 られるようになった。嘔吐は改善せず,次第に 呻吟も認められたため,第 2 病日の午前 1 時 に小児救急医療センターを受診した。診察時 には顔色不良で,末梢冷感があり,頻脈を認 めた。末梢血血液ガス分析で pH 6.66,pCO2

一過性の代謝性アシドーシスを呈したメッケル憩室による

絞扼性イレウスの乳児例

原 間 大 輔

1)

,矢ヶ崎 英 晃

1)

,河 野 洋 介

1)

,篠 原 珠 緒

1)

大 山 哲 男

1)

,大 矢 知 昇

2)

,杉 田 完 爾

1) 1)山梨大学医学部小児科 2)山梨県立中央病院小児外科 要 旨:患児は生後 1 ヶ月,女児。嘔吐,顔色不良を主訴に小児救急医療センターを受診し,静脈 血血液ガス分析で高度の代謝性アシドーシスを認めたため当院に搬送された。入院時,代謝性アシ ドーシスは呼吸性に代償されていた。腹部症状は明らかではなく,他疾患を含めた鑑別を要するた め active observation に準じ入院経過観察とした。入院 8 時間後,著明な腹部膨満と胃管からの胆 汁吸引を認めたため腹部疾患を疑い緊急で造影 CT 検査を施行した。小腸の拡張と whirl sign を認 め,絞扼性イレウスの診断で緊急開腹術を行った。術中所見は,回腸末端からメッケル憩室基部ま での範囲の腸管壊死を認め,メッケル憩室による腸管絞扼と診断した。小児の急性腹症では,発症 初期には典型的な症状を示さず,診断に苦慮することがある。Active observation は急性虫垂炎の みならず,小児急性腹症の診断に有用である可能性が示唆された。

キーワード メッケル憩室,絞扼性イレウス,Metabolic acidosis,Active observation

症例報告

1) 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 2) 〒 400-8506 山梨県甲府市富士見 1 丁目 1 番 1 号 受付:2017 年 5 月 10 日 受理:2017 年 5 月 14 日

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60.4 mmHg,pO2 92 mmHg,BE – 30 mEq/L,

HCO3– 6.8 mEq/L,Lac 5.82 mmol/L と高度の 代謝性アシドーシスを認めたため,当院に搬送 され入院した。 【 入 院 時 身 体 所 見 】 体 温 37.4˚C, 血 圧 92/64 mmHg,脈拍 196 回 / 分,呼吸数 36 回 / 分,SpO2 100%(室内気)。強い啼泣,顔色不良, 末梢冷汗を認めた。呼吸音清,心音整,心雑音 を聴取せず。腹部は平坦軟で,腸雑音は減弱し ていた。来院までの吐物はミルク様であり,下 痢,血便を認めなかった。 【入院時検査所見】 血液検査,動脈血血液ガス分析(表 1)では, pH 7.473,pO2 137 mmHg,pCO2 16.9 mmHg,

HCO3– 12.2 mEq/L,BE – 10.9 mEq/L であった。 心臓超音波,トロポニン T 迅速検査に異常を認 めなかった。胸腹部単純 X 線写真では,左側 腹部に拡張した小腸ガス像を認めた。  以上の病歴,身体所見,検査結果から,代謝 性疾患,心疾患,急性腹症などを鑑別に挙げた が,いずれにおいても典型的な所見はなく,入 院,禁乳とし active observation に準じた経過 観察を行うこととした。 【入院後経過】 入院時:動脈血血液ガス分析では,救急センター 受診時に認めた代謝性アシドーシスは呼吸性に 表 1.血液検査,血液ガス分析

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代償され残存し,顔色不良を認めた。嘔吐は一 時消退していたため,補液で経過を観察した。 入院 2 時間後:活気不良と乏尿が続いたが,嘔 吐を認めず,経過観察を継続した。 入院 5 時間後:静脈血血液ガス分析を再度行 い,pH 7.455,pCO2 31.7 mmHg,HCO3– 22.0 mEq/L,BE – 0.8 mEq/L と,代謝性アシドー シスの改善が見られた。活気不良,乏尿は続い たが,嘔吐は認めず,頻脈も改善していたため, 輸液,禁乳での経過観察を継続した。 入 院 8 時 間 後:38˚C の 発 熱 を 認 め, 腹 部 膨 満が進行した。血液検査を再検したところ, CRP,LDH は短時間に急激な上昇を認め,再 び代謝性アシドーシスを呈した。腹部膨満に対 し経鼻胃管を挿入したところ,胆汁性の胃内容 を多量に吸引した。胸腹部単純 X 線写真(図 1) では,腹部全体を占める拡張した小腸像と,結 腸ガスの消失が見られた。急速に進行する腹部 症状に対し,腹部超音波検査を試みたが,腸管 ガスが多量にあり評価困難であった。腹部造影 CT 検査では,右下腹部正中寄りに腸管壁の造 影不良域と whirl sign を認め(図 2 a,b),絞 扼性イレウスと診断として緊急開腹術を行っ た。開腹時,血性腹水を認め,小腸の一部が壊 死に陥っていた(図 3a)。検索すると回腸末端 からその口側 25 cm の範囲に腸管壊死があり, 壊死部の末端に全長 20 mm,径 5 mm のメッ ケル憩室を認めた。壊死部回腸の切除と口側回 腸と終末回腸の端々吻合を行い手術を終了した 図 2. 腹部造影 CT 冠状断(a),水平断(b):右下腹部正中寄りに腸管壁の造影不良域と whirl sign を認めた. 図 1. 胸腹部単純 X 線写真:小腸拡張像が 著明で,結腸ガスは消失していた.

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(図 3b)。 メッケル憩室先端に繊維性の構造物 が付着していたが,臍部との接合は認めず,メッ ケル憩室自体が腸管に巻きつき絞扼性イレウス を引き起こしたと推測した。術後一過性の炎症 所見の増悪が見られたが,保存的に軽快した。 術後 7 日から経口哺乳を開始し,術後 20 日に 経過良好で退院した。病理所見では,腸管壁に 出血性壊死を認め,口側断端近傍のメッケル憩 室の粘膜は全体が小腸粘膜であり,異所性胃粘 膜は確認できなかった。 考  察  メッケル憩室は剖検例の 2%に認め,症候性 メッケル憩室は 2 歳未満に発症することが多 く,とくに新生児期の発症は小児期全体の 6.9 ∼ 18.9%と報告されている3)。新生児期・乳児 期早期のメッケル憩室に由来する症状としては 腹痛,嘔吐,血便が多く,病態として腸重積や 回腸絞扼によるイレウスが挙げられる4,5)。一 方で,年長児は憩室炎やメッケル憩室内の異所 性胃粘膜潰瘍による消化管出血の割合が高くな る。症候性メッケル憩室の症例で,寛解増悪を 繰り返した腹痛の報告6)や,イレウスに至る 以前から腹痛を繰り返していた報告7)もあり, 反復性腹痛の鑑別診断にあげられる8)。   メ ッ ケ ル 憩 室 に 起 因 し た イ レ ウ ス の 原 因 は Rutherford らが検討している9)。①卵黄臍 管遺残による索状物を起因とする軸捻転,② 憩 室 を 先 進 部 と し た 腸 重 積, ③ メ ッ ケ ル 憩 室に付着する胎生期卵黄動脈の遺残物である mesodiverticular band による腸管絞扼,④憩 室炎による癒着,⑤ヘルニア嚢内への憩室の嵌 頓 (Littere’s hernia)の 5 つに分類され,なか でも mesodiverticular band による絞扼の頻度 が高い。術前にこれら詳細を診断することは困 難で,大部分は術中診断に委ねられる。自験例 は Rutherford らの分類には当てはまらず,メッ ケル憩室が腸管に巻き付く形で絞扼性イレウス を引き起こしたと推測された。  一般的な小児の急性腹症では,年齢により自 覚症状の訴えがはっきりしなく他覚所見から判 断せざるを得ないことが多い。特に新生児・乳 児期早期ではその臨床所見の把握が困難なこと がある。症状としては腹部膨満・発熱・嘔吐(胆 汁性)などが挙げられるが,発症早期から典型 的な複数の症状を呈することは少ない。小児急 性腹症のなかでも,絞扼性イレウスに関して は,腸管の通過障害に加え血流障害が同時に存 在するため,急速な症状の進行とともにショッ クや多臓器不全を引き起す可能性がある。成人 の絞扼性イレウスの死亡率が 7.4%であるのに 図 3. (a)術中所見:変色した壊死回腸を認めた(矢印).(b)切除した壊死回腸.全長 20 mm, 径 5 mm のメッケル憩室を認めた(矢印).

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対し,小児は 15.8%と約 2 倍となっており,早 期の迅速な診断が非常に重要な疾患であると 言える10)。疋田らは生化学検査で腸管壊死の 目安として pH 7.37 以下,BE – 6 mEq/L 以下, CPK 500 IU/L 以 上,LDH 1,500 IU/L 以 上 の いずれかを有する症例では腸管壊死の可能性が 高いとしている11)。  画像診断,とくに絞扼性イレウスの注意すべ き CT 所見は,腸管壁の肥厚や腸管壁の造影不 良域の存在,拡張した腸管と虚脱した腸管の混 在,腸間膜の浮腫像,腸管の捻転による周囲の 腸管,腸間膜や血管構造が渦巻き状に描出さ れる whirl sign,閉塞している部分の腸管が鳥 のくちばし状に見える beak sign,腹水の貯留 などが挙げられる10,12)。小高らは,小児急性腹 症の診断に対する MDCT(multi-detector CT) の有用性を検討しているが,索状物や軽度の血 流障害を呈する絞扼を検出することは限界があ り,急性腹症全体として約 30%,絞扼性イレ ウスとして 25%に誤診があったことを報告す るとともに,診断に際しては CT 所見のみでは なく,あくまで臨床所見と合わせて総合的に判 断する必要を言及している13)。  自験例では,嘔吐と重度の代謝性アシドーシ スを認め当院に救急搬送されたが,来院時には 嘔吐は消退し,腹部所見に乏しく,補液により 一時的な代謝性アシドーシスの改善を認めた。 そのため,早期から消化器疾患であることを強 く疑うことはできなかったが,先に示したよう に新生児・乳児期早期の小児急性腹症では典型 的な複数の症状を呈することが必ずしもないこ とは常に念頭に置く必要を再認識した。Jones らは確定診断に至らない小児急性虫垂炎に対し て,active observation として絶食,補液を行 いながら,バイタルサイン,身体所見を医師が 2 − 3 時間ごとに確認し,必要に応じて血液検 査,超音波検査などを追加し確定診断につなげ る手法を提唱し,active observation により不 要な虫垂摘出が行われた割合が 20 ∼ 30%前後 から数%まで低下したことで診断精度の向上に 寄与したことを示した2)。自験例でも,入院後 は active observation に準じて短時間間隔で繰 り返し全身状態のアセスメントおよびそれに基 づく臨床検査を加えた。絞扼性イレウスは短時 間で進行する病態であり14),本症例では腸管 壊死のため回腸切除を避けることができなかっ たが,一方で,active observation に準じた経 過観察より,腸管穿孔や広範囲の腸管壊死を避 けることができた。 結  語  繰り返す嘔吐を主訴に受診し,血液検査で代 謝性アシドーシスを来していたが,症状と検 査所見の一時的な改善により診断に苦慮した, メッケル憩室による絞扼性イレウスの症例を経 験した。小児の急性腹症は診断に苦慮すること が多く,急激な経過をたどる症例も存在する。 active observation は 急 性 虫 垂 炎 の み な ら ず, 小児急性腹症の早期診断や治療方針の決定に有 用である可能性が示唆された。 引用文献

1) Yahchouchy EK, Marano AF, Etienne JC, Finger-hut AL: Meckel’s diverticulum. J Am Coll Surg, 192(5): 658–662, 2001.

2) Jones PF: Suspected acute appendicitis: trends in management over 30 years. Br J Surg, 88(12): 1570–1577, 2001.

3) Benson CD: Surgical implications of Meckel’s diverticulum. In: Ravitch MM, Welch KJ, Ben-son CD eds. Pediatric surgery, 3rd ed. Year Book Medical Publishers, Chicago: 955–960, 1979. 4) Martínez biarge M, García-alix A, Luisa del hoyo

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5) Sy ED, Shan YS, Tsai HM, Lin CH: Meckel’s di-verticulum associated with ileal volvulus in a neo-nate. Pediatr Surg Int. 18(5-6): 529–531, 2002. 6) 山田慎一,照井エレナ,松嵜理:右下腹部痛を 繰り返して診断に苦慮した,太いmesodiverticu-lar bandによる腹痛の1例.日小外会誌,47(5): 833–838, 2011. 7) 田中麻紀子,小出一真,山下哲郎,小野滋,谷 口史洋,塩飽保博,ほか:臍腸管遺残に起因し

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た成人のイレウスの1例.日消外会誌,40(4): 462–466, 2007. 8) 高野邦夫,蓮田憲夫,沼野史典,大矢知昇,鈴 木健之:小児外来必携 お子さまの病気を専門 医がわかりやすく説明します(II) 反復性腹 痛 10歳の男の子ですが,頻回にお腹を痛がり ます.小児外科,49(1): 40–42, 2017.

9) Rutherford RB, Akers DR: Meckel’s diverticu-lum. A review of 148 pediatric patients, with spe-cial reference to the pattern of bleeding and to mesodiverticular vascular bands. Surgery, 59(4): 618–626, 1966. 10) 淺部浩史,岡陽一郎,甲斐裕樹:緊急手術を必 要とした小児絞扼性イレウスの検討.日腹部救 急医会誌,27: 819–822, 2007. 11) 疋田茂樹,掛川暉夫,溝手博義:術後イレウス の手術とそのタイミング.消外,14: 1647–1656, 1991. 12) 黒田達夫,藤野明浩:危険な急性腹症を見逃さ ない.小児外科,46(4): 365–367, 2014. 13) 小高明雄,井上成一朗,別宮好文,長田久人, 石田秀行,ほか:小児急性腹症の診断に対す るMDCTの有用性と限界について.日臨外会 誌,75(8): 2079–2085, 2014. 14) 篠原珠緒,尾花和子,大矢知昇,鈴木健之,古屋 一茂:腸間膜裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウス の一年長児例.小児外科,45(7): 790–793, 2013.

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