フォトニック結晶共振器解析への
FDTD
の応用と
GPGPU
による
高速化
谷山
秀昭
†,††a)下川辺隆史
†††青木
尊之
†††納富
雅也
†,††FDTD Simulation of Photonic Crystal Cavities and Their Acceleration Using
GPGPU
Hideaki TANIYAMA
†,††a), Takashi SHIMOKAWABE
†††, Takayuki AOKI
†††,
and Masaya NOTOMI
†,††あらまし フォトニック結晶共振器の微小領域における電磁波の長時間蓄積という特長を活かした応用が試み られている.また微細構造作製技術の進展とともに,電磁波の蓄積だけでなく,蓄積された電磁波と機械振動と の相互作用などいわゆるオプトメカニカル系へとフォトニック結晶の応用範囲は広がっている.従来,電磁波が 係る物理現象の理解とその解析には,Maxwell 方程式の数値計算法として FDTD 法が多く用いられてきたが, 適用範囲の拡大に伴いFDTD 法も改良が行われ応用範囲を広げてきた.本論文では FDTD 法の応用としてオ プトメカニカル系への適用例について紹介する.またFDTD の計算には大量のメモリアクセスが発生し,応用 範囲を拡大するに際して問題となっていた.しかし計算時間についてもGPU を用いることで高速化が達成され た.本論文ではフォトニック結晶の解析を対象にして,GPU の利用による高速化の試みについても報告する. キーワード フォトニック結晶,共振器,Q 値,FDTD 法,GPU
1.
ま え が き
フォトニック結晶とは,一般に光の波長と同程度の 誘電体の周期構造のように屈折率の周期的な分布を もつ新しいナノフォトニクス構造である.この構造 においては,電磁波が存在できないいわゆる光のバ ンドギャップを作ることができる.この特性を利用す ることにより,極微小域における光の伝播特性やそれ に伴う物質との相互作用を人工的に制御できること から大きな注目を集めるようになっている.このよう な微小領域における電磁波の解析によく用いられる のがFinite-Difference Time-Domain (FDTD)法で †日本電信電話株式会社 NTTナノフォトニクスセンタ,厚木市 NTT Nanophotonics Center, NTT Corporation, 3–1 Morinosato-Wakamiya, Atsugi-shi, 243–0198 Japan ††日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所,厚木市NTT Basic Research Laboratories, NTT Corporation, 3–1 Morinosato-Wakamiya, Atsugi-shi, 243–0198 Japan †††東京工業大学学術国際情報センター,東京都
Global Scientific Information and Computing Center, Tokyo Institute of Technology, 2–12–1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo, 152–8550 Japan a) E-mail: [email protected] ある[1].現在ではMaxwell方程式の数値的な解法で あるFDTD法は[1],光学微細構造における電磁波の 解析から素子構造の設計において重要なツールになっ ている.更に近年の微細構造作成技術の進展ととも に,FDTD法が対象とする物理現象の範囲は拡大し ている. 本報告では拡大するFDTD法の応用の例として, 最近注目されている光と機械振動との相互作用を利用 したオプトメカニカル系へと適用した結果を示す.こ のようにFDTD法が適用される領域は拡大している が,FDTD法による計算には大容量のメモリと計算 時間を必要とし,計算機的に負荷の重い計算であるこ とから更なる利用の拡大に対する足枷となっている. これまで適用できるサイズ等の制限を緩和し,かつ計 算を高速化するための手法として,クラスタ計算機 を用いた並列化が行われてきた.それに対し,近年は
Graphics Processing Unit (GPU)の並列性とメモリ
アクセスの高速性を利用したFDTD計算の高速化が
新たに試みられている.本報告ではフォトニック結晶
の解析においてGPUによる高速化を試みた結果につ
2.
オプトメカニカル相互作用
2. 1 共振器中の電磁波により誘起される輻射圧 電磁波とメカニカルな構造及びその運動との相互作 用現象は,電磁波による機械振動の制御や機械振動に よる電磁波特性の制御への応用が見込まれることから, 近年特に注目されている.その相互作用の基になって いるのが電磁波による輻射圧である[2]∼[4].ここで はまず初めに,電磁波の輻射圧の計算法を説明し,そ の後その計算法を実際にフォトニック結晶共振器構造 に適用した結果を示す. 体積V に働く電磁波の輻射圧の強さは次の式で表 される. Fα= v β ∂Tαβ ∂xβ dV 式中のTαβはエネルギー・運動量テンソルと呼ばれ, 次の式で表される量である. Tαβ= εEαEβ+ μHαHβ−1 2[εEαEβ+ μHαHβ] ここでE及びH はそれぞれ電場と磁場,xは座標, 添字のα (β)はベクトルの各成分を表す.上の体積 積分はガウスの発散定理により誘電体表面でのエネル ギー・運動量テンソルの面に垂直な成分の面積積分で 表せる.実際の計算においては,計算時間を考慮して 体積積分ではなく面積積分で評価を行う. 例として共振器構造を有する二層のフォトニック結晶 スラブ間に働く輻射圧を計算する.図1は共振器構造を 図 1 二層スラブフォトニック結晶共振器 Fig. 1 Bilayer photonic crystal slab cavity.示している.全体は二層のスラブ構造からなっており, 上下に間隔dだけ離れて置かれている.それぞれのスラ ブは同じ5点欠陥のフォトニック結晶共振器からなる. 格子定数は420 nm,穴の半径は115.5 nm,スラブの 厚さは105 nmで材質はSiを仮定した.ここで考えて いる構造の場合,単一のスラブの共鳴波長が1300 nm 程度であり,Q値は200,000程度となっている. 二層スラブ共振器においては各スラブの共鳴モード の結合の仕方の違いにより,対称と反対称のモードが 現れる[2].また共鳴波長はdの変化に伴って大きく変 化することが分かっている.これはスラブ間の輻射圧 による相互作用の強さに起因している.実際にスラブ 間に働く輻射圧のスラブ間隔d依存性をFDTDで計 算した結果が図2及び図3である.図2は対称モード の場合であり,輻射圧の方向は引力となる.また図3 は反対称モードの場合の輻射圧を示す.この場合はス ラブ間に働く力は斥力となる.一方,こうして得られ た輻射圧の方向と強さはエネルギー保存則からも理解 できる.共振器に蓄積されたエネルギーをU = hνと して求める.ここでνは二層スラブ構造の共振周波数 を表す.スラブ間に働く力は,dを変化させた場合の エネルギーの変化に比例すると考えられるから,次の 式で表されることになる. F = −∂U ∂d 図 2 二層スラブ共振器の対称モードに誘起される輻射圧. EMTは FDTD から得られた値,U = hν は共振 周波数から求めたエネルギーを表す
Fig. 2 Radiation force induced by symmetric mode of bilayer photonic crystal slab cavity. EMT is the results of FDTD calculation andU = hν is the energy calculated from resonant fre-quency.
図 3 二層スラブ共振器の反対称モードに誘起される輻射 圧.EMT は FDTD から得られた値,U = hν は
共振周波数から求めたエネルギーを表す.○は反跳 力を考慮した場合の結果を表す
Fig. 3 Radiation force induced by antisymmetric mode of bilayer photonic crystal slab cavity. The open circles are EMT results including the effect of the field momentum term.
図中のEMTはFDTDの結果,∂U/∂dはエネルギー 保存則から見積もった値を表している.確かに対称 モードの場合は,これらの二つの計算法で得られた輻 射圧はほぼ一致した.しかしながら反対称モードの場 合は二つの計算による結果に不一致が見られる.この 原因は,共振器からの電磁波の放射による反跳力と考 えられる.反対称モードの場合,Q値は50,000程度 であり反跳力が無視できないと考えられる.実際,共 振器中の電磁場の運動量P はFDTDで計算でき,そ の時間変化に比例する反跳力F = dP/dyを考慮した 場合の結果を○で示した.図から分かるように二つの 計算法によって得られた結果は良く一致している. 2. 2 動的波長変換 こ れ ま で 述 べ た よ う に ,静 的 な 特 性 に 関 し て は Maxwell方程式に基づく,通常用いられているFDTD の範囲でも必要なデータが得られることがわかった. しかし共振器の動的な変化に応じて,電磁波がどのよ うに応答するかを詳細に知るには静的な解析だけでは 分からないことが多い.次に,共振器のスラブ間隔を 動的に変化させることを考える.なお運動する誘電体 による電磁場の時間変化を正確に扱うため,Maxwell 方程式を修正したMinkowski方程式[5]を用いて計算 する. ∇ × E = − ∂B ∂t 図 4 共振器間隔の動的制御.共振器に共振モードの電磁 波が蓄積された状態でスラブ間隔を広げる Fig. 4 Separating the distance of two slab cavities.
図 5 オプトメカニカル相互作用による動的波長変換.ス ラブ間隔の動的変化がない場合とある場合の変化後 のスペクトルを示す
Fig. 5 Wavelength spectra with and without dy-namic tuning, which are obtained by Fourier conversion of data after the tuning.
∇ × H = − ∂D ∂t ここでD及びBは誘電体の速度をvとして,次のよ うに表されている. D = εE + (εμ − 1)v ×H c B = εH + (εμ − 1)E ×v c 上式を用いて,図4に図示したように共振器に電磁 波が溜まった状態を初期状態(d = 0)とし,スラブ 間隔をd = 0のままにした場合,及びd = 60 nmと d = 120 nmになるまで動的に広げた場合を解析す る[6].なおスラブ間隔を広げる操作は共振器に電磁波 が溜まっている間に完了する必要がある.本解析では スラブが停止した状態から緩やかに加速及び減速し, 動きが2 ps程度で終了するように操作を行った.この 場合,輻射圧に逆らって電磁場に対して仕事をするこ とになり電磁場に蓄えられたエネルギーが増える.つ まり図5に示されたように,電磁波の波長は短波長化 することになる.今回考えた共振器の場合,その波長 変化は図2に示した静止状態の対応する共鳴モードの
波長間隔と一致している.スペクトルで見ても,初期 の波長成分のほとんどが新たな波長に移っており,波 長変換の効率は十分高いことが分かる.これはまた機 械エネルギーから電磁波エネルギーへのエネルギー変 換が実現されていると考えることもできる.なお今回 の解析ではvは光速と比較して十分小さく,相対論的 な効果は確認できなかった.
3. GPU
による
FDTD
の高速化
3. 1 ノード間インターネットワーキング 前章の例で示したように,FDTD法は対象とする物 理現象に応じて様々な拡張を行うことによりその適用 範囲が広がっている.しかし,FDTD法に基づいた計 算プログラムを実行するためには,非常に大規模のメ モリと長時間の計算が必要となり,単一の計算機だけ を考えている限り,現実的には適用できる系のサイズ及 び複雑度が制限されている.この問題に対処するため, 一般的には計算領域を複数の領域に分割し,複数の計算 機で並列に計算を行うやり方が行われる.そうすれば, それぞれの計算ノードで扱う領域に必要なメモリが少 なくなり大規模計算が可能となる.我々は,全解析領域 を一次元方向に分割し(図6),各領域を別の計算機に 割当てる方法を採用した.各領域の境界では界面にお ける電場と磁場の値を共有する必要がある.そのため計 算ノード間では電場及び磁場の計算が終わるごとに境 界の平面内のデータを転送する必要がある.一般にこの データ転送は速度の遅いネットワークを通じて行われ るため,転送量が多くなると全計算時間に影響がある. ノード間のデータ転送の影響を評価するため,異 なるノード間接続を有するクラスタにおいて分割数 と計算時間の関係を調べた.図 7 にその結果を示 図 6 並列計算のための解析領域の分割 Fig. 6 Division of computational region for a parallelcomputation. す.計算はこれまでと同様,フォトニック結晶スラ ブ共振器に対して,3次元FDTD法を用いてその共 振モードを計算した.比較を行ったのはInfiniBand (QDR)とGigabit Ethernetで,全計算時間の逆数を プロットしてある.これは計算スピードに相当する. 図7からわかるように,計算に用いたグリッド数は, (X, Y, Z) = (200, 300, 325)でZ方向の325グリッド を分割して各ノードに割り当てた.並列化にはMPI を用いている.ノード数が少ない間はどちらの接続法 でもノード数に比例してスピードが上昇している.こ の条件では,各ノード内の計算負荷が大きく,データ 転送の影響はみえてないと考えられる.しかしノード 数が10を超えてくると,インターコネクションの方 法による効率の違いが明瞭に見て取れる. Ethernetによる接続の場合,ノード数が20を超え ると急激に速度が低下している.これに対し Infini-Bandで接続した場合は,20を超えてもまだデータ転 送の影響が見えてきておらず,ほぼノード数に比例す る並列化効率が達成されている.ここまで分割すると 各ノードの受けもつZ方向のグリッド数は20を切っ ており,このうちステップごとにZ方向両端の2グ リッド分のデータ転送を行っている. 次に我々は,スーパーコンピュータに搭載される など近年ますます注目を集めているGeneral-Purpose Graphics Processing Unit (GPGPU)をアクセラレー
タとして用いることにより,FDTD計算の高速化を
行うことを検討した[7]∼[9].FDTD法では,電磁場 の時間積分計算において大量のメモリアクセスが発生
図 7 FDTD法における計算ノード間の接続法と並列計 算効率
Fig. 7 Interconnection and performance of parallel computing in FDTD calculation.
する.通常のCPUによる計算の場合,そのメモリア クセスの遅さが高速化の妨げとなっている.それに対 し,GPUはCPUと比較してメモリに高速にアクセス できるのが特長である.しかしGPUを利用する場合 でも,一部の計算をCPUで行うとなるとGPUから CPUに大量のデータを転送しなければならなくなる. このCPU-GPU間のデータ転送はあまり速くないの で,結果的に計算時間よりも転送時間の方が長くなっ てしまうことがある.このデータ転送の回数を減らし, 可能な限りGPU内で計算を行うようにコーディング することで,GPU本来の高いメモリバンド幅と複数 プロセッサによる高い演算性能を引き出せる.実際の 計算手順としては, (1) 最初に入力ファイルから読み込んだデータを 元に,CPU側で誘電率分布などのモデリングを行う. (2) 必要データのみを各GPUに転送する. (3) GPUで電場及び磁場に対する時間ステップ の計算を行う. (4) 時間ステップ計算終了ごとに隣のノードとの 境界の平面のデータのみをGPUからCPUに転送 する. (5) CPUは境界を共有する隣接計算ノードとデー タ転送を行う. (6) 隣接ノードから転送されてきたデータをCPU からGPUに転送する. 最初にGPU化の効果を見るため並列化は行わず, CPUのみを使用した場合とGPUを利用した場合で 計算時間を比較した.結果を図 8に示す.評価に用
いたCPUはIntel Xeon/W3580 (3.33 GHz),GPU
はNVIDIA Tesla C1060とNVIDIA GeForce GTX
480で比較した.計算時間は使用メモリに比例している.
例えば500 MBの場合では,CPUが2429 (sec),GPU
では135 (sec)となり約18倍の高速化が達成された.
次にノード間転送の影響を調べるため,CPUと
GPUで計算ノード数依存性を測定した結果を図 9
に示す.評価に使用したCPUはIntel Xeon/E5606,
GPUはNVIDIA GeFORCE GTX 580,ノード間接 続はInfiniBand (QDR)を使用した.なおプログラミ ング環境としてCUDAを用い,計算は全て倍精度で 行った.図 9に示されたように,ノード数が少ない 場合はCPUだけの計算と比較して,GPUを利用す ることで20倍程度の高速化が達成できている.しか しノード数が増えるに従って,CPUでは図7でも示 したようにノード数に比例して高速化が進むのに対 図 8 GPUと CPU での FDTD 計算時間の比較 Fig. 8 Elapsed time of FDTD calculation by CPU
and GPU.
図 9 CPU及び GPU 計算時の並列計算効率 (InfiniBand)
Fig. 9 Performance of parallel computing for CPU and GPU computation.
し,GPUの場合は高速化の倍率が低下している.こ れは,GPUの計算がCPUと比較して格段に早いた め,CPUの場合には目立たなかったノード間のデー タ転送が見えてきたことによる.
4.
エネルギー計算
共振器の光の閉じ込め部分の体積を表すパラメータ として Veff = ε(r)|E(r)|2 max[ε(r)|E(r)|2]d 3 r で表されるモード体積がある.また光の蓄積時間を表 す重要なパラメータとして Q = ω0τで定義されるQ値がある.ここでω0及びτは共振器 の共鳴角周波数及び共振器に閉じ込められる電磁波エ ネルギーの寿命である.この値は共振器に蓄積された 電磁波エネルギー u =1 2 V(ε(r)|E(r)| 2 + μ(r)|H(r)|2)d3r の時間変化をモニターすることで得られる.なおV は 全解析領域を示す.これらの値の計算にはどちらも体 積積分が必要であり,特に高いQ値を精度良く計算 するためには極めて多数回のエネルギー計算が必要に なる.この計算をCPUで行うためには,GPUから CPUへの大量のデータ転送が毎回必要になり,GPU での計算時間に比べて転送時間が長くなってしまう. 図 10 は 全 て の 計 算 をCPU で 行った 場 合 と , Maxwell方程式の時間ステップ計算をGPUで行っ た後,CPUにデータを転送してエネルギー計算を行っ たときの計算時間の比較である.計算は全部で200,000 時間ステップ行い,その間定期的にエネルギー計算を 行った.図10からわかるように,エネルギー計算の 回数が少ないうちは,GPUによる高速化効率が10倍 程度あるのに対し,エネルギー計算の回数が増加する につれて高速化効率は1.4倍程度まで落ちている.ど ちらの場合も,エネルギー計算に要する時間は同じで あるから,データ転送が計算効率低下の原因であるこ とが分かる.この結果から計算時間の高速化のために は,GPU-CPU間のデータ転送を極力少なくするた め,エネルギー計算までGPUで行う必要があること が分かる. 次に更なる高速化のためにエネルギー計算までを 図 10 エネルギー計算の回数と計算時間 Fig. 10 Elapsed time and energy calculation.
GPUで行うことを目指す.計算過程において実際に エネルギー計算で必要なのは,同一グリッド要素に閉 じた乗算と,ノードのエネルギーの配列の総和であ り計算自体は単純である.しかしCUDAにおいて総 和計算を効率的に行うためには効率低下の原因とな るウォープ・ダイバージェントを少なくする必要があ る[10], [11].またメモリアクセスの効率化のため,バ ンクコンフリクトを防ぐようにコーディングすること が重要である.これに関しHarrisは並列リダクショ ンにおいてウォープ・ダイバージェントを少なくし, バンクコンフリクトを防ぐための最適化の方法を幾つ か示している[12].今回はHarrisが提案した,スレッ ド番号を工夫することでウォープ内の分岐をなくし, 更に遠いデータ同士を先に足すなどメモリアクセスの 順序を変更するとともに,ループの最適化を行う方法 (kernel6)を採用した.FDTD計算内における手順と しては,まずGPUにおいて各グリッドにおける電場 と磁場のエネルギーを計算して配列に保存した.その 後,エネルギー総和の評価を行った. 計算は5ノードを使用し,エネルギー計算は各時間 ステップごとに毎回行った.図 11中に記したCPU は全てCPUのみで計算した場合,GPU+CPUは時 間ステップの計算を行った後CPUへデータ転送しエ ネルギー計算を行った場合,GPUは全てGPUで計 算した場合,without Reductionで示したのはエネル ギー計算を行わなかった場合である.図11に示され ているように,エネルギー計算までGPUで行った場 合の計算時間は1/10以下に短縮でき,エネルギー計 算を行わなかった場合と比較すると計算時間は3割弱 の増加に収まった.このようにデータ転送を極力なく 図 11 エネルギー計算と計算時間
Fig. 11 Calculation of field energy and total elapsed time.
し,全ての計算をGPUで行うことにより圧倒的な高 速化効率を得た.またQ値の評価法については,更に 計算時間を短縮する方法も報告されており[13],これ らを使用することでこれまで非現実的と考えられてい た,三次元構造でのコンピュータによる構造最適化が 期待できるようになった.
5.
む す び
フォトニックナノ構造の作製技術が進歩し,応用範 囲がますます拡大している.それに伴いその解析技術 としてのFDTD法も重要性を増している.本論文で はオプトメカニカル系への応用を目指したFDTD法 の改良を行い,実際に適用した例を通じてその有効性 を示した.またより広い範囲にFDTD法を適用する 際に問題となるメモリアクセス速度の制限から生じる 計算時間を短縮するため,フォトニック結晶に用いら れるFDTD計算において,GPUを利用した高速化を 実現した. 文 献[1] A. Taflove and S.C. Hagness, Computational Electronics: The Finite-Difference Time-Domain Method, 2nd ed., Artech House, Norwood, 2000. [2] H. Taniyama, M. Notomi, E. Kuramochi, T.
Yamamoto, Y. Yoshikawa, Y. Torii, and T. Kuga, “Strong radiation force induced in two-dimensional photonic crystal slab cavities,” Phys. Rev., B73, 165129, 2008.
[3] T. Yamamoto, M. Notomi, H. Taniyama, E. Kuramochi, Y. Yoshikawa, Y. Torii, and T. Kuga, “Design of a high-Q air-slot cavity based on a width-modulated line-defect in a photonic crystal slab,” Opt. Express, vol.16, 13809, 2008.
[4] Y.G. Roh, T. Tanabe, A. Shinya, H. Taniyama, E. Kuramochi, S. Matsuo, T. Sato, and M. Notomi, “Strong optomechanical interaction in a bilayer pho-tonic crystal,” Phys. Rev., B81, 121101(R), 2010. [5] A. Sommerfeld, Electrodynamics, Academic, New
York, 1964.
[6] M. Notomi, H. Taniyama, S. Mitsugi, and E. Kuramochi, “Optomechanical wavelength and energy conversion in high-Q double-layer cavities of photonic crystal slabs,” Phys. Rev. Lett., vol.97, 23903, 2006. [7] H. Taniyama, T. Shimokawabe, T. Aoki, and M. Notomi, “GPGPU acceleration of the finite-difference time-domain program,” Progress in Electromagnetics Research Symposium, PIERS 2011, 1A9-K-14, March 20-23, Marrakesh, Morocco, 2011. [8] 谷山秀昭,下川辺隆史,青木尊之,納富雅也,“GPGPU による 3D-FDTD 計算の高速化プログラミング,” 2011年 秋季第 72 回応用物理学会学術講演会,31a-ZR-3, 2011. [9] 谷山秀昭,下川辺隆史,青木尊之,納富雅也,“フォトニッ ク結晶共振器の解析—FDTD 法とその GPU による高速 化,”信学技報,EST2013-7, May 2013.
[10] NVIDIA/CUDA in action, https://developer.nvidia. com/cuda-action-research-apps/
[11] 青木尊之,額田 彰,はじめての CUDA プログラミング, 工学社,2009.
[12] M. Harris, “Optimizing Parallel Reduction in CUDA,” http://developer.download.nvidia.com/ compute/cuda/1 1/Website/
Data-Parallel Algorithms.html#reduction
[13] M. Fushimi, H. Taniyama, E. Kuramochi, M. Notomi, and T. Tanabe, “Fast calculation of the quality factor for twodimensional photonic crystal slab nanocavi-ties,” Opt. Express, vol.22, 23349, 2014.
(平成 26 年 10 月 10 日受付,12 月 15 日再受付, 27年 4 月 10 日公開) 谷山 秀昭 1986大阪府立大学・工卒.1988 同大大 学院数理工学専攻博士課程前期了.同年日 本電信電話(株)入社,1999 アリゾナ州 立大客員研究員,1996 大阪大学博士,現 在,数値計算,量子エレクトロニクス,ナ ノフォトニクス分野の研究に従事.日本物 理学会,応用物理学会,American Physical Society 各会員.
下川辺隆史 2005東京工業大学理学部物理学科卒. 2007同大大学院理工学研究科基礎物理学 専攻修士課程了.2012 同大学院総合理工 学研究科創造エネルギー専攻了.博士(理 学).同大学学術国際情報センター特任助 教を経て,2013 より同センター助教.格 子法に基づいた大規模物理計算の研究に従事.日本計算工学会, 情報処理学会,日本応用数理学会,IEEE,ACM 等各会員. 青木 尊之 1983東京工業大学・理学部・応用物理学 科卒.1985 同大大学院総合理工学研究科 エネルギー科学専攻修士課程了.1986 富 士通研究所(株)を経て,東京工業大学大 学院総合理工学研究科助手,1997 より同 大原子炉工学研究所助教授,2001 より同 大学術国際情報センター教授.この間,1992∼1993 コーネル 大学・マックスプランク研究所客員研究員.大規模数値流体 計算,ハイパフォーマンス・コンピューティング,GPU コン ピューティングの研究に従事.日本機械学会,日本流体力学会, 日本計算工学会,情報処理学会等各会員.
納富 雅也 1986東京大学・工卒.1988 同大大学院 物理工学専攻修士課程了.同年日本電信電 話(株)入社.1999 より NTT 物性科学 基礎研究所.2001 より特別研究員,2010 より上席特別研究員.現在フォトニックナ ノ構造研究グループリーダ.2012 よりナノ フォトニクスセンタ長を兼務.この間,1996∼1997 リンシェ ピング大学(スウェーデン)客員研究員.2010 より東京工業 大学理学部物性物理学専攻客員教授を兼任.人工ナノ構造によ る物質の光学物性制御及びナノフォトニクスデバイスの研究に 従事.工学博士(東京大学).日本応用物理学会,IEEE(フェ ロー),OSA,APS 各会員.