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医師の診断論理

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Academic year: 2021

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225 人 工 知 能  29 巻 3 号(2014 年 5 月) 編集委員会の後,四川料理の会食が恒例となっている.花椒と唐辛子の効果か,さまざまなアイディアが飛び出してくる 催しとして定着した.一通り楽しんだ後,ホテルに戻ると,ちょうど NHK で,Dr. G という番組が放映されていた.この番組, 医学部の間でも話題になっている.総合診療科の医師が登場,症例を提示しつつ,出演している研修医三人が専門家のガイ ダンスで診断に至るという産婆法的な推理番組と言ってよい.この番組のお陰か,「総合診療医」になりたいという医学生 が増えている.現在,「専門医」を養成していくことが医療の趨勢で,Generalist と Specialist どちらを要請すべきかという のは,古くて新しい医学教育の問題だが,EBM(Evidence-Based Medicine)の登場と創薬の加速化によって,専門性の充 実のほうがより重要視されてきた.そういう意味で,この番組は一石を投じている. さて,筆者はこの番組を見て,とても違和感を感じている.筆者自身は医学部の学生の頃,エキスパートシステム,医師 の診断論理に興味をもった.それから,25 年ほど,研究として人工知能,業務としては医師という二足のわらじをはいてき たが,この違和感は何だろうと,四川料理のスパイスで暖まった頭で番組の後,考えてみた. 違和感というのを「つぶやき」として並べてみると,「こんな簡単に進まないよ」,「他の人に聞いたら」,「それが答え ?」,「で, どうするの」といった感じであろうか.よく考えてみると,それぞれ,人工知能の研究とも関わるだろうと気がついたので, それについて記しておきたい. こんな簡単に進まないよ,というのは,診断の過程というのが,ここまで短いというのは考えにくいという点である.医師は, 疾患の発展,診断・治療を時間の流れとして捉えている.そのうえで,診断は試行錯誤を繰り返しながら進められていく. もちろん,疑われた疾患によっては緊急の治療が必要なため,見切り発車的に治療をしなければならない.完全に診断しな ければ治療できないという態度に徹すると,完全に診断ができたときは手遅れということもあり得る.このような時間的な 感覚を磨くというところが,医師になる過程で重要である.「仮説推論に時間的な cost と benefit を組み合わせて,動的に意 思決定を継続していく」ということだろうか.このような時間の伸び縮みを考えながら,推論するというのは,目の前に提 示された症例の観察所見が矛盾だらけであった場合に,とても重要である.そのままデータにルールを当てはめると,答え は返ってこない.しかし,時間という軸を与えることで,その矛盾がほどけていく.わかりにくい方は目の前に出されたス パゲティをイメージされるとよい.フォークでつまんで上にあげると,麺はほどける,そういう感じに近い.案外ほどけに くにそうに見えても,ある方向から力を加えると,そうでもない.医師の診断の過程には,探偵・刑事のような感覚があるが, そこで重要なものは「時間」という軸である.Dr. G をよく見ると,症例を提示している医師は明らかにこの時間軸という意 識をもって症例を提示しようとしているが,番組の時間的な制約から,それが十分伝わっていない.何か,推理・刑事事件 のドラマのように見えてしまう. 他の人に聞いたら,というのは,自分が経験したことのない症例については,同僚・先輩の医師に聞いてみることで情報 を収集するという意味である.これは診断困難例で時間的余裕がない場合に特に有効であるが,先ほどのスパゲティの例か らいえば,自分でほどけなかった場合,他の人に手伝ってもらうというふうに捉えてもらってもよい.同一診療科の医師が 複数いる病院などで行われる症例カンファレンスは,こういう効果を狙ったものである.数人の医師が自らの診療経験をも とに,対象症例について,主治医と診断・治療の過程を議論し,治療を進めていく.主治医と違う第三者的な観点が,診療 の客観性をもたらす.これはおわかりのように,エージェントで議論されてきている内容に近い. それが答え ?,どうするの,というのは,提示に使われている症例がとてもマニアックでしかも診断「成功」例であるこ とに対する違和感である.総合診療医は基本的な病態の理解によって診断に至る重要性を説明してはいるが,最終的に正答 を導くというクイズ形式になっているため,医師が行っている「深い」推論がうまく伝わっていない.深い推論が必ずしも 正答を導くわけではないことを経験的に知っている医師にとっては,その推論が失敗したときにどうすべきかということを 考えることが要求されている.こういう感覚は失敗からの学習で磨かれるところがあるので,こういう失敗は起こさないで ここまでストレートに診断に至るのかな,何かのクイズ番組で,Watson 君が研修医に勝ってしまうかも,と思って見てしまう. さて,キーワード的にまとめてみると,仮説推論,時間推論,マルチエージェント,深い推論・オントロジー,失敗から の学習というところが医師の診断過程に重要だということになるだろうか.こう並べてみると,筆者が大学を卒業した 25 年前に比べて,研究が着実に進んできて,案外,医師に近い推論を行えるエキスパートシステムの構築に近づいてきている ように思う. もう一度,自分の原点に返って,研究を進める時期がやってきたようである.

医師の診断論理

津本 周作

(島根大学)

巻頭言

参照

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